2020年明治安田生命J1リーグ第5節 ヴィッセル神戸vs清水エスパルス レビュー【ともにいこう、いつまでもだぜ!】

 

1.はじめに

 あまりの完敗に試合終了後はメンタルざっくり刈られました。でも飲んで寝たら翌朝には回復。睡眠超大事ですね。

 回復したので試合を客観的に眺めてメモ書きしたら次行きましょう、のいつものスタンスです。

 以下観察記録とお気持ち表明。どうぞよろしく。

2.スターティングメンバーと配置

 

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清水エスパルスのシステムは1-4-2-1-3。

 システムはこれまでと同様。ついにエウシーニョがスタメン復帰。

(ムイ=ティーラシン、エウソン=エウシーニョ

 ヴィッセル神戸のシステムは1-4-3-3。

 こっちもイニエスタがスタメンに。スター選手との対戦は怖いながらも楽しみです。

 

3.多彩な神戸のビルドアップ

 清水の守備は下図が基本の形。

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  ティーラシンがサイドを限定しながらCBへ。後藤がアンカーを見て、WGは相手のSBへのコースを消します。

 この清水の守備に対して、開始しばらくの神戸はまずアンカー監視役の後藤をはがしにきます。

 例えば後藤の周辺でボールを動かしてサンペールをフリーにしたり、サンペールが後藤を引きつけてからターンで外して中央でドフリーになったり。サンペール凄い(素朴な感想)。

 ただ、我らがごっちゃんだってとても献身的かつ守備上手な選手。なのでこれだけではさすがに崩しきれない。

  そこで神戸は、10分くらいするとサンペールが下がって3バックビルドアップを開始。

 

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 清水のWGは相手のSBを見ているので神戸のCBはフリーになりやすい。そしてフリーのCBからサイドの奥へ対角線のロングフィード

 神戸はこのCBからWGへのフィードは盛んに繰り出していて、これは狙いの一つだったんだなと思います。

 ロングフィードからSB裏に走り込む攻撃はチャンスに結びついていたのですが、一本調子では清水の対応も慣れてきます。

  で、20分くらいするとサンペールが再びアンカーに位置に上がって、今度はGKの飯倉がCBの間に入ります。

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 こうなるとCBをフリーにするとロングフィードだけでなく、中のサンペールやイニエスタ通される可能性があるので後藤やWGが止めにいかなければなりません。

 じっくり観たのは前半だけですが、神戸はこんな感じで後ろの形を変えながらビルドアップしていました。

 変化しながらといっても神戸は「はい、数的優位だから3バックですよ」とか「位置的優位ですよ」とか厳密に決めて動いているわけじゃないと思うんです。あくまでも清水の守備を揺さぶって挙動を見ながら穴を作ろうとしていたと思うんですね。結果、こんな動きになったと。

 清水も一つ一つには何とか対応していたけど、チクチクとあちこちを突かれると段々とどこかに漏れが出てしまう。漏れが出たら向こうは個々の能力は高いのでドリブルで突破したり、ビシッとパスを通したり。

   後ろの組み立てを見るだけでも素直に神戸強いなと思いました。

4.防衛線を突破しろ!

  今度は清水のビルドアップと神戸の守備。神戸は清水のCBが少し運んだ辺り、ちょうど竹内や中村が引いて受けようとしたところに強くプレスをかけていました。

 イニエスタはかなり積極的にプレスにきていて、しかも他の選手にも「上がれ、上がれ」と指示していました。その上がれのタイミングはやっぱり清水のCBが持ち出したり、ボランチやSBがボールを引き出そうとする辺り。つまり神戸は下の図のような防衛線を張っていたと考えてもいいかもしれません。

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 でも前半を思い出してください。清水は何度もチャンスは作り出していましたよね。どんな時にチャンスになっていたかを見るとだいたいボランチの竹内か中村がこの防衛線を越えて持った時なんです。

  ビルドアップのスタート、つまりCBからの保持で相手のファーストディフェンスを外したり、素早いポジトラなど、何らかの方法でボランチの選手とボールを防衛線の向こうに送ることができた時には清水もチャンスを作れていたんですね。

 完敗してしまうと全てが悪いと思ってしまいます。だけどビルドアップのスタートの部分を改善すれば後はそこまで悪くない。全然やれるはず(と僕は思うの)です。

5.最後に【お気持ち表明】

 ガンバ戦ではできたことがこの試合ではできなかった。確かに。でも考えてみればある程度は仕方ない。相手の問題。

 監督の経歴からついマリノスだけを意識しがちですが、神戸も似たような系統のサッカーをしている。よくわからないけど無理に言うならポジショナルプレーみたいなやつです(ただしこの言葉はあまり使いたくない)。

 違うタイプのチームへなら対抗できることが、同じ土俵に上がると完成度や選手の質の違いであらが目立ってしまう。そういうことなんじゃないかと思うわけです。

 でもそんな神戸だって、金の力だけじゃんとか、スターがいても勝てないじゃんとか言われながらもコツコツ取り組んできたから今あの完成度を出せるのだと思うのです。

 だから僕らも負けようが、これじゃ駄目だと言われようが積み上げ続けるしかないんです。

 そして何より選手達は必死でこのサッカーに取り組んでいます。例えば竹内キャプテン。どちらかといえばゆったりボールを持ってボールを散らすタイプだった彼が速いテンポでパスを出しながら味方のサポートのために何度も動き出しを繰り返している。

 わかりやすい例として彼を挙げましたが、他のどの選手だって同じように変わっています。そんな風に選手達が必死にエスパルスのサッカーに取り組んで、自分を成長させて、試合でそれを表現してくれているのを見ると僕は胸がギュッとなるんです。

 監督がチームに植え付けていることはしっかりピッチ上に、選手のプレーに表れています。

 今取り組んでいるサッカーが最先端なのか、それを信じればエスパルスが強くなる未来が待っているのか、はたまた何が正解で何が不正解か。僕にはさっぱりわかりません。それでもエスパルスのサッカーを見ているのは楽しいし、もっと知りたいという気持ちが湧いてきます。だから監督や選手達が必死にこのサッカーを作り上げていく限り、僕もそれについていきたいと思います。

 僕にできることは、ただピッチに表れたものから彼らが何をしようとしているのかを思い描くこと。そんなわけでこれからも必死でそれを見る努力をしていきたいと思う所存でございます。

 

以上、お気持ち表明終わり。

また次の試合もお楽しみに。

 

 

2020年明治安田生命J1リーグ第4節 清水エスパルスvsガンバ大阪 レビュー【中盤にできたスペース】

 

1.はじめに

  追いつき、追い越せの勢いでしたが試合終了直前の失点。またもや勝ち点獲得ならず。1-2での敗戦でした。内容は良かっただけにせめて勝ち点1が欲しかったです。残念。

 とはいえ、試合はまた続いていきます。いつも通りに内容を振り返り次への期待を高めましょう。今回はエスパルスらしさをみせてくれたボール保持局面を中心に見ていきます。

 2.スターティングメンバーと配置

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清水エスパルスのシステムは1-4-2-1-3。

 これまでボランチ起用されていた岡崎が右のサイドバックへ。そしてボランチにはオンザボールでの技術に強みがある中村慶太。中村は開幕戦以来のスタメン入りです。

  3トップは前節から総入れ替え。現状はこの3人がメインのセットと考えて良さそうです。

ガンバ大阪のシステムは1-4-4-2。

 3バックをメインに採用していたG大阪でしたが、この試合は1-4-4-2システム。4バックの清水のDFラインに嚙み合わせて前線からしっかり人を捕まえていく意図がうかがわれます。

 3.清水のボール保持局面

(1)フリーになる清水のボランチコンビ

 G大阪のプレスは清水のCBが後ろから運び出した辺りがスイッチ。スイッチが入るとFWに加えて中盤の選手(特に右の小野瀬とボランチの井手口)も積極的に前に出てプレスをかけてきます。

 つまりプレスが始まるとG大阪の中盤は少なくとも1枚は前に出ている状態です。

 さらにG大阪の守備を見ると、ボールと逆側のFWは守備に積極的に関わらない(奪ってカウンターのためか?)、またSBが清水のWGにピン止めされている。そんな特徴が見られました。

 これらの特徴が清水の中盤がスペースを得ていた理由に繋がっていたと考えます。下に図示します。

 例えばサイドにボールが出た時。

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 まず小野瀬が前へ。その時、SBの高尾はカルリーニョスにピン止めされているので前に出られません。サイドのカバーにはボランチの矢島と井手口がぐいっとスライド。

この状態から竹内を経由して中央へ。これで中村がフリーでボールを持つことができています。

 次に中村が下がって受けた時。

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 中村がCBの間に下がると井手口が前に出てきます。この時、やはり大阪の中盤は3センター状態。しかもSBがWGでピン止めされているのでミドルゾーンのサイドにぽっかりスペースができます。ここから左に出して、竹内と奥井、カルリーニョスのユニットで崩すのが多く見られたパターンでした。

 さらに井手口がいた場所にトップ下から鈴木が降りてくれば中央からの攻撃も可能です。

 清水に中盤で持たれ続けると、G大阪は次第に小野瀬のプレス少し控えてサイドのスペースを埋めてくるようになります。すると清水は奥井が高い位置の内側(いわゆるハーフスペースというやつ)に入っていきます。

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 こうなると今度は中盤左脇のスペースで竹内がフリー。

 こんな感じでG大阪の守備の特徴を見ながらボランチの中村や竹内をフリーにすることができていました。

 かみ合わせから見た場合は、この辺りが清水のボール保持を可能にさせた要因ではないかと思われます。

(2)DFラインのギャップ狙い

 清水は竹内と中村が中盤でボールを持つと最終ラインの裏にスルーパスを出すプレーを狙っていました。このプレーが多く見られたのも上に書いた仕組みと無縁ではありません。

 ます、清水のボランチに対してプレスが効いていないのでG大阪のDFは前を気にしなければなりません。そのため裏への警戒が薄くなり清水の3トップが裏を狙いやすくなっていたと思われます。

 次にWGによるピン止め。清水のWGが幅を取りG大阪のDFラインを横に引き延ばすことでCB-SB間にスペースを作っていました。特に人への意識が強い傾向があったG大阪の守備は各ディフェンダーの間にスペースができやすくなっています。

 9分に右SB岡崎がサイドの裏に飛び出してクロスを上げたプレー。岡崎が飛び出したスペースは金子が内側に入って藤春を引き付けできたスペースです。WGで相手のSBをコントロールしてスペースを作る意味ではこのビックチャンスも同様の仕組みと考えていいでしょう。

(3)アタッキングサードでの崩しはまだまだ?

 相手のファーストディフェンスを外して中盤でフリーになるまではほぼ完ぺき。しかも中村や竹内がフリーになった時は相手の中盤が崩れている状態でした。しかしそこからアタッキングサードでの動き出しが遅く相手に守備をセットする時間を与えていたように見えました。

 これがボールを持っても最後を崩しきれない原因になっていたのではないかと思われます。

 後半、選手交代によりCFだった後藤がトップ下に回ると、前線のボールの動きがスムーズになりました。決して鈴木の動きが悪かったと言いたいのではありません(むしろ圧巻のプレーぶりでした)。大切なのはチーム全体での連動です。

 個人の決定力の前に、アタッキングサードでの動きはもう少し高められるのではないかと思います。

4.失点場面について軽く

 1失点目について。2つほど。

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 このゴールの直前、清水は前からプレスに行っていて後ろは相手の前線と清水のDFが同数。つまり一人かわされればゴール前で数的不利の危険な状態でした。にも関わらず岡崎とソッコがあっさりとかわされました。このような場面で少なくとも誰かが相手を遅らせることができないとおそらく失点は減らないでしょう。

 さらにこのゴールは、FWがサイドに流れて清水のCBを動かす、そのスペースに小野瀬が入ってきてシュートを打つという繰り返しG大阪が見せていた形です。小野瀬がスペースに入ってくるのはある程度予測できたはず。

 この時、DFラインのカバーに入るべきボランチの中村と竹内の反応を見るとボールが運ばれ始めてようやく後ろに反応しています。戻りが遅い。実際には、急いで戻っても間に合わなかったと思います。それでも仲間が食い止めるのを信じて中盤の選手は岡崎が外された時点で素早く後ろへ戻るべきだったと思います。

 仕方ない失点もあります。それでも最大限の抵抗はして欲しい。そして何より相手が狙っていた形でまんまと失点するのはやっぱり悔しいですね。

5.最後に

 最後に愚痴のようなことをかいてしまいましたが、結果を抜きにすればパフォーマンスには満足です。

 選手が揃えばここまでの質は出せるよ、の基準は確認できました。その質は少なくともJ1で戦う最低ラインには乗っていると思います。それを証明するためにも一つ一つ勝負にこだわって結果を早く出して欲しいです。

 

2020年明治安田生命J1リーグ第3節 セレッソ大阪vs清水エスパルス レビュー【やらなかったのか、やれなかったのか】

1.はじめに

 0-2。また勝てませんでした。くやしいですっ!!しかし、悔しいながらも週2回エスパルスで感情を揺さぶられるのは幸せなことかも知れないですね。

 それはそれとして、内容を見るとこれまでの敗戦とは違うものを感じた試合でした。なにか煮え切らないというか、消極的というか。

 たぶんそれは相手に対策をしたからなのだと思われますが、それが何かは考えてみてもよくわかりません。

 わからないものを知ったかぶるのも頭が悪そうなので、今回のレビューは観察して見えたものをだけ素直に記録していきます。

 なお文調がいつもと違うのは、試合が迫って文章を整える時間がないからです。気にしないでください。いつも整ってないとか言うのは傷つくので心の中に留めてください。

 

2.スターティングメンバーと配置

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清水のシステムは1-4-2-1-3。

 システムはこれまで同様。しかしメンバーは大幅に変えてきました。ターンオーバーか、はたまたやりたいことに合わせたメンバーか。

C大阪のシステムは1-4-4-2。

 FWに都倉。札幌時代は散々やられている印象。SH柿谷は清武と交互に起用されているっぽい。左SHの坂元はドリブルが凄い(と日向坂46の影山さんが言っていた)。

 

3.清水の非保持局面

 まず非保持局面(守備局面)の様子から。

 ほぼ4-4-2(ティーラシンと鈴木が横並び)で守備。2トップはどちらもあまり前に出ず相手ボランチを背中で消すポジション取り。

 そしてDFラインは高めにプッシュアップするので、ミドルゾーンにコンパクトなブロックができている状態。

 CBが持ち運ぶとSHのドゥトラや西澤が前に出てプレス。C大阪がSBを使ってサイドを前進する時も清水はSHが下げて対応するのでSHの上下動が多い。前節名古屋戦ではSH(カルリー、金子)をあまり下げなかったので、これはチームの約束事なのか。もしくは単に個のキャラクターの違いか。

4.C大阪の保持

 C大阪ボランチは清水の2トップに消されてもDFラインに下がって受けに行かない。ポジション維持。

 SHの坂元は状況に応じてサイドに開いたり、中に入ったり。坂元には何度かチャンスを作られていたが六平の頑張りでくい止めることができていた。

 左SHの柿谷は基本的にハーフスペースにポジション。柿谷に縦パスが入った時はボランチの岡崎がスライド、またはSB金井が前に出て対応している。岡崎は常に柿谷を見れるポジションを取っていてかなり警戒しているようだった。

 柿谷単独は止めていたが、柿谷に当ててワンタッチで落とす→柿谷に食いついてできたスペースに流れる、みたいなプレーでチャンスを作られている。しかしブロックをコンパクトにしていたおかげかギリギリ対応できていた。

 柿谷とコンビで崩すため左SBは高い位置にくる。なので柿谷のところで奪うと丸谷の裏にスペースがあるような。

 

5.清水の保持局面

 清水同様、C大阪もあまり高い位置からこない。なので清水のボランチはDFラインに下がらず、相手の2トップ周辺でプレーすることが多かった。

 しかし、CBがあまり持ち運ばないので、相手の2トップを動かせず竹内と岡崎が窮屈そう。

 アタッキングサードにボールが入った時は、3トップとトップ下に加えてもう一人くらいで攻めている。

 SBは片方は上がらず中盤辺りにステイ。これがスペースへの飛び出しや繰り返しのフリーランが少なく、一人一人のボールを持つ時間が長く感じた原因かも。その代わり前の選手が個で打開するプレーが見られる。特に鈴木は中央で持ってもボールを失わずに運べていた。 

6.後半の観察

 清水は前半に比べるとややCBにプレスをかけるようになっている。ボールを持った時にSBが上がっていくようになっている。SBが絡むとボールが回る。

 C大阪は保持した時に少し攻め急いているように見える。ポジションが整う前にボールを前に出すため奪われた時に中盤のプレスがかからない。そのためか清水がカウンターでチャンスを作れていた。ロティーナが試合後コメントで不満を表したのはここではないだろうか。

 70分の失点は左サイド(C大阪から見て)奥に流れた清武を見るため竹内がサイドバックの位置まで引っ張られ、竹内のいたスペースに丸橋が入ってパスを出された。その直前には逆側ハーフスペースで同じようにSHのフリーランに岡崎がついて行ったスペースを使われている。C大阪の狙った形かもしれない。

7.やらなかったのか、やれなかったのか

 以上が観察記録です。これでレビューは終わりなので疲れたらこの後は読まずに閉じてください。

 

 で、以下はおまけ。清水レビュワー仲間のspulse39(@spulse39)さんが下のようなツイートをされていたので僕のアンサーを書いてみます。

   ピッチで見えたことと、監督や選手のコメントからの想像です。

www.s-pulse.co.jp  まずハーフタイムコメントで”クリーンシート”という言葉を出しているように失点を抑えたい目的はあったと思われます。実際、守備のやり方を見てもそれは間違いはなさそう。

 そしてここは特に作り話ですが、ブロックを作り、柿谷のところで潰してSB丸橋の裏を突こうとしていたのではないかと思います。柿谷のところは強く当たっていたし、ドゥトラティーラシンが右サイドのスペースを突く動きが見られたからです。

 また後半カルリーニョスを右WGに入れたのはそのスペースから右足でのクロスを上げてテセに合わせようとしたと考えると交代策の辻褄も合います。

 ということはある程度、狙った形がありそれを実行していたと考えられます。しかしクラモフスキー監督のコメントには明らかに不満が表れていますし、選手コメントも同様です。

 じゃあ、その不満は何か。たぶんそれは選手コメントにある”テンポ”、監督コメントの”ボールを簡単に失うな”という部分ではないか思います。やはりボールを持った時はボールを握ってテンポよく回すことで相手を動かしたかったのではないでしょうか。それが相手の望むスローなテンポを崩すことにも繋がるので。

 まとめるとこうです。失点を抑えるために守備での狙いはあったが、それを意識しすぎてボールを持った時に消極的になってしまった。後半、積極的に自分達のプレーを出そうとしたが今度は守備が緩くなりそれまでケアしていた場所を使われ失点してしまった。

 攻守どちらかの意識が強すぎて試合のコントロールができなかったのかもしれませんね。その挙句、せっかく強く意識して消していた場所をガラ空きにして失点してしまったとしたら、まあ監督はブチ切れるでしょうね。

 お題としたspulse39さんのツイートには、対策はあったが消極的になりすぎた。前半の出来自体は良いものではなかった。と答えを出しておきます。

 

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www.dropbox.com

  ここまで書いてきましたが、始めにも言ったようによくはわかりません。皆さん色んな意見があると思うのでよろしければぜひ聞かせてください。

 そんなこんなでまた試合はやってきますね。試合を思いっきり楽しんで、その後は振り返ってたくさん話し合いましょう。

 

2020年明治安田生命J1リーグ第2節 清水エスパルスvs名古屋グランパス【バランスのラインでの駆け引き】

 

1.はじめに

 長い長い中断期間が終わり、僕らの日常にやっとエスパルスの試合が戻ってきました。まずはそのことをみなさんと一緒に喜びたいと思います。

 さて、待ちに待った再開初戦です。試合序盤はペースを握り見事先制点を奪ったものの、その後は押し返され1-2の敗戦となってしまいました。

 敗戦ももちろんですが、ボールを握って相手を押し込むエスパルスのスタイルを出し切れなかったことに悔しさが湧いてきます。

 それではいったいボールを握れなくなってしまった要因はどこにあったのでしょうか。今回のレビューではそこを中心に考察したいと思います。

 

2.スターティングメンバーと配置

 

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・清水のシステムは、1-4-2-1-3。

 GKに梅田、トップ下に鈴木と思い切った若手起用。また右サイドバック金井の起用もちょっとしたサプライズでした。

・名古屋のシステムは1-4-4-1-1。

 CFに山崎が予想されていましたが、前線は開幕戦と同じ選手起用となっていました。他のスタメンもCHが米本→シミッチとなった以外は開幕戦と同じです。

3.清水のボール保持局面

(1)序盤の清水のボール保持

 試合の序盤、名古屋のプレスは次のように行われていました。

・2トップは清水のCBに高い位置からプレス。

・2トップ脇に運ばれたらSHが前に出る。

・右SB成瀬はカルリーニョスをマーク。

  竹内を下げて3枚でビルドアップスタートする清水。SHマテウスが前に出てSB成瀬がカルリーニョスを監視しているので下の図のような現象が見られます。

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 SB奥井へのマークがあいまいになり、そこから中央のスペースへ。前からのプレスを外されると名古屋の守備は自陣にブロックを作るので中央でのプレスが弱くなります。そのスペースを使い、ボランチ岡崎やトップ下から降りてくる鈴木がボールを運び前へボールを入れていきます。

 序盤に名古屋のプレスをかいくぐりボールを持てたのはSBから中央のルートができてフリーのスペースでボールを運べていたことが要因だと思われます。

(2)なぜボールを握れなくなったのか。

 ボールを握り、またプレスや素早い攻守の切り替えも機能して幸先よく先制点を奪った清水でした。しかし前半途中から徐々に相手のプレスにはまりボールを持てない時間が増えてきます。

 これは名古屋のプレスに変化が出たのが原因だと思われます。

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 序盤にボールを持てていたSB奥井や中央に入る岡崎、鈴木に対して名古屋はボランチの選手を前に出してプレスをかけるようになります。名古屋はこのままサイドに押し出すようにプレスをかけるため清水の保持はボールサイドで窮屈な状態となり、序盤に比べてボールが繋がらないことが多くなってきました。

 DFラインにプレスをかけられた時の出口。清水の場合はSBのポジション取りでそれを確保しています。しかしその出口を塞ぐようにプレスをかけられた時にどう回避するかはちょっとした課題になるのではないしょうか。

(3)プレスに対する解決策

 名古屋のプレスが強まった後の清水のビルドアップに注目します。どんな解決策を狙っていたのかです。

 まず一つ目が相手のプレスの奥のスペースです。後半開始早々にGK梅田が無人のスペースにパスを出して相手ボールになるプレーがありました。パスミスにも見えますが、相手がプレスにきた時に早いタイミングでその奥のスペースに出すパスはその後も見られた(ような気がする)ので意識されていたのではないかと思います。ただ少し慌てていたためかパスがずれることが多かったのはもったいないプレーでした。

 もう一つは右サイドへの展開です。名古屋はサイドを変えられるとスライドしながら自陣に引いていき442でブロックを作ります。そのため左で動かしてから右へ展開すると前からのプレスの圧力が弱まる傾向があります。

 見直すとこの形でのチャンスは何度か作れていたのでもう少し徹底しても良かったのかなと思えました(右利きが多いのでどうしてもサイドが偏ってしまうのでしょうか?)。

4.清水の非保持局面

 守備の局面についても触れておきます。

(1)ボランチ周辺の攻防

 名古屋のビルドアップはボランチが少しサイドにずれて、CB、SBとともに作るサイドでの三角形がスタートです。そこでボールを回しながらサイドに張っているSH(相馬、マテウス)にボールを入れて個の打開力でゴールを狙っていきます。

 名古屋のサイドでのボール回しの中でも前へ展開するのはボランチの選手の役目。なので名古屋が後ろで持った時は、ボールを左右に動かしながらまずボランチをフリーにしようとしてきます。

 

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 清水の守備は基本的に後藤がCBへ、鈴木がボランチを消す縦関係。相手ボランチのマークが外れた時にはボランチの竹内や岡崎が前に出たり、WGが絞ってボランチがフリーになるのを警戒しています。

 つまり名古屋のビルドアップスタート時に行われていたのはボランチをフリーにしたい名古屋と、それを塞ぎたい清水の攻防です。

 この攻防のバランスを崩しにきたのがトップ下阿部の動きでした。前半途中から阿部はトップ下の位置から低い位置まで降りてきてサイドでのボール回しに顔を出すようになります。清水が阿部を気にすればボランチの選手のマークが外れ、ボランチを消すと阿部がフリーになる。

 この辺りから清水のファーストディフェンスがはまらなくなり、名古屋にボールを持たれ始めました。

(2)サイドでの1vs2

 名古屋はボランチが消されていれば、SBが組み立ての補助をするため低い位置にいなければなりませんが、ボランチがフリーになれば後ろを任せて前に出ていくことができます。

 これによりSHとSBでサイドの高い位置でに2vs1の数的優位を作る。試合後に名古屋の選手がコメントしていたように彼らの狙いだったのでしょう。

 しかし試合を観察していると清水がファーストディフェンスを外されサイドで1vs2を作られてもWG(金子、カルリーニョス)が下がって守った時はしっかりと守れています。

 つまり守備だけを考えれば名古屋の攻撃に対する答えは簡単です。WGを下げて守備をさせればいいのです。しかしWGを常に下げてしまっては彼らの得点力を無駄にしてしまいます。

 そこのバランスは難しいなと感じました。ただしまずやるべきはより前からのプレスを高めることだと思います。少なくともまだ改善の余地はあるでしょう。

 

5.最後に

 リアルタイムで見た時は、試合序盤以外は上手くいっていないなと感じましたが、落ち着いて見直すと試合を通してできていたことも数多くありました。強がりでなく普通に前向きに捉えたいと思います。

 サッカーは対戦ゲームなので自分達のやりたいことがあったとしても、どうしても相手とのやり取りに影響されてしまいます。そこで自分達のやりたいことのバランスを少し変えてどう対応するのかが問題になってきます。 

 名古屋が中盤のバランスを少し崩しても前に出てプレスにきたのも同様だと思います。そこに関しては名古屋は強かったなと素直に思いました。

 しかしそれも大切な要素ですが、我らがエスパルスにはまだまだ自身で高められるとこるが大いにあると思います。

 相手のプレスに恐れず見えているスペースを信じること、ボールの動きに応じて絶え間なくポジションを取り直してプレスの網を常に高い位置に張ること。よりバランスのラインを自分達側に寄せるようなプレーです。

 ようやく再開したと思えば、もうすぐ次の試合がやってきます。試合を重ねて僕らは強くなっていく。そんなことを期待しながらこのチームの伸びしろを楽しんでいこうと思っています。

 

 

 

 

 

 

2020/6/13 トレーニングマッチ 清水エスパルスvs藤枝MYFC

 配信開始しばらくは映像が少し見づらかったため主に1本目の後半を観ての考察になります。

 完璧とまでは言いませんが、チームとしての狙いはしっかり表現できていた試合だったと思います。特にビルドアップに関してはかなりスムーズでした。

 そこで今回は主にボール保持の局面で狙いの見えたところを中心に書いてみます。

 

1.出場選手と配置

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 図は1本目、後半開始時のメンバーです。

清水エスパルスは4-2-1-3

藤枝MYFCは3-5-2

 のシステムです。

 

2.システムから読み取れること

 システムが全てではありませんが、配置からある程度想像できることもあります。そこでまずシステムのかみ合わせから読み取れそうなことを考えます。

 清水がボールを持った時は岡崎マコが少し下がってDFラインの近く、SBがやや絞って内側という動きでした。この時の両チームの配置をかみ合わせると下の図のようになります。

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 このかみ合わせから起こりやすそうなことは、

 

1)岡崎が間にいるので藤枝の2トップは真ん中を空けずらいよね。

2)藤枝の中盤は3枚なのでピッチの横幅をカバーしきれないよね(サイドにスペースができそう)。

3)清水のトップ下中村が浮いているよね。

 

 こんなところでしょうか。

 上の3つの特徴を頭に入れて最終的にどうゴール前を崩すかを見ていきます。

 

3.ビルドアップの過程で見られたこと。

1)CBが2トップ脇から運ぶ。 

 ビルドアップのスタートでは、岡崎が藤枝の2トップを中央に引き付け、立田がその2トップの脇から運ぶプレーがよく見られました。

 藤枝はボールホルダーに対して高い位置から積極的にプレスをかけてきます。ボールを運ぶ立田にFWがプレスに行けない時は中盤から積極的に1枚前に出してプレスをかけていました。この状態だと藤枝の中盤は実質2枚になっています(下図)。

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 CBが相手の中盤の選手を引き付けると、SBの奥井はサイドの高い位置でボールを受けることができます。ここからスペースのある中央に入れてもいいし、カルリーニョスとでサイドの2vs1を作ることもできます。

 後ろで相手を動かして中盤に良い状態で渡す狙いが感じられました。

 ただ時折プレスに捕まりピンチを招くこともありました。公式戦に向けては更にプレーの精度を高めたり、時にはリスクを回避する判断も必要になってくるでしょう。

2)中盤の脇から脇へのサイドチェンジ。

 相手の中盤を横スライドさせスペースを作りだすのもよく見られたプレーでした。

 例えば以下のようなプレー。

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  左SBの奥井が藤枝の3センターの脇でボールを持つと、藤枝の中盤は全体的に奥井の方にスライドします。相手がスライドしてきたら中央の竹内に回してワンタッチで逆サイドにサイドチェンジです。

 奥井が中盤の脇でボールを受けること、竹内の早いタイミングでのボールの散らしは狙っていたプレーだと思われます。

  左右に振ることで中央が空くので、これまでの試合に比べても縦パスが入る回数が多かったと思います。

 

4.中盤で作ったスペースをアタッキングゾーンに繋げる。

 相手の3センターを動かすのは、運動量豊富で献身的な藤枝の中盤でもカバーできない状態を作るためです。

 藤枝は中盤を3枚でカバーできずスペースができてしまった時は、ボールホルダーを潰すためにDFラインから中盤まで積極的に前に出してきます。

 そこでよく見られたのが下の図のような場面です。

 

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 ライン間で受けようとするカルリーニョスに右CBが前に出てくるので、その裏にスペースができます。そこにかみ合わせで浮いている中村が流れて飛び出す形です。

 これで最終ラインの裏を取ることができました。

 これは1つの例ですが、大切なのはビルドアップのスタートで作ったずれを最終ラインの裏まで繋げるプレーです。そのようなプレーはこの他にも見ることができました。

 スペースを作る、使う、それを次のエリアに繋げる。そんな視点も今年のエスパルスを見る上での楽しみになるのではないしょうか。

 

5.ユニットでの崩し。

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 通常、ウィングには独力での突破力が求められます。しかし清水のWGのプレーを見ると突破を第一選択肢にしているように見えません。

 この試合でもカルリーニョスは縦でなく内側を向いてボールを受ける場面が多いようでした。

 基本的には上図のような配置でユニットを作り、ボールを動かしながらライン裏へのランニングやワイドから内側へのカットインで最終ライン周辺にスペースを作り、作ったスペースでフィニッシュに直接絡むのがWGに求める役目なのではないかと思います。

(ただし、逆サイドにアイソレーションを作ってボールが渡ったときは縦突破からクロスを狙っていたよう)

 

6.守備について少し。

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 藤枝のビルドアップではIH、図で言うと15番の選手が後ろに下がって清水の守備に対してぼんやりとした位置を取っていました。

 竹内が15番を捕まえに前に出て行くと、今度は9番のFWが竹内がいたスペースに降りてきます。

 この降りてくる動きをどう捕まえるかがあいまいで、ブロック内で起点を作られるプレーが少し気になりました。

 またカウンターを受けSBの裏を取られた時。

 ボールサイドのCBとボランチがクロスやカットインを塞ぐようにサイドに寄せていきますが、この時、中盤にはボランチ1枚です。そのボランチが相手の中盤の飛び出しに釣られDFラインに吸収されてしまうのでマイナスのクロスを上げられるとフリーで撃たれてしまいます(下図)。

 

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 同じ形でのピンチが何度も見られたので要修正でしょう。

 

6.最後に。

 多少気になるところはありましたが、全体的にはポジティブでリーグ戦再開が非常に楽しみになる一戦でした。

 

 

 

 


 

2012年ナビスコカップ決勝 清水エスパルスvs鹿島アントラーズ レビュー

1.スタメンと配置

ナビスコスタメン

 清水はキャプテンの杉山浩太が欠場。中盤を村松、河井、八反田で構成した4-3-3のシステムです。

 鹿島は4-4-2。本来CBの昌子を左SBに配してきました。清水の得点源である大前への対策だと思われます。

 

2.清水のビルドアップ

 清水が保持した時は下の図のような動きを見せていました。

ビルドアップ

  • WGが内側のレーンにポジショニング
  • ボールサイドのIHが第2レイヤーに降りてくる(レイヤーについては下の解説を参照)。
  • SBがワイドの高い位置へ
  • CBが左右に広がり配球

 このポジショニングにより、サイドに三角形を作りスムーズなパス交換を行うのが目的の一つだと思われます。清水のボールの前進はサイドのレーンが中心になっていました。

 またポジション移動によって、人に強くついてくる鹿島の守備ブロックにスペースを作ります。上図で言えば、河井に小笠原がついてくることでその後ろのスペースで高木がフリーに。高木に西がついてくるとサイドの高い位置にスペースができてキジェがそこを突きます。

 攻撃のスタートは左サイドから行われることが多かったです。そこから相手を左に寄せて右にサイドチェンジ。右SB吉田が高い位置まで運びクロスのパターンも多く見られた攻撃でした。

 これらのビルドアップを行うため、左のIHに相手の守備の間で受けて複数のパスを選択できる河井、トップ下の位置に入りCFとWGを 繋ぐ八反田、2トップ裏に立ってFWをサイドの守備に参加させずネガトラが起きたら中央をガードする村松という起用になっているのがわかります。

 

3.清水のゴールを狙う形

 WGが内側、いわゆるハーフスペースにポジションを取るのは相手のマークをぼんやりさせて捕まりづらい状態を作るためだと思われます。WGはワイドに張るのではなく、中、外とひんぱんにポジション移動しています。相手や味方の位置を見て浮くように、そして少なくともどちらかは必ず中に入ってゴールを目指せるポジションを取っています。

 CFは相手のCBを引き連れてゴール前にスペースを作るのが仕事のようです。このスペースにWGが浮いた位置、相手の死角から斜めに入ってきてシュートを撃つのが清水のゴールを狙う主な形です。

 

4.鹿島のプランを考える。

 前半はWGを抑えて守りを重視し、後半に勝負に出るのが鹿島のプランだったと推測します。

 前半、攻勢に出た清水に対して、鹿島は割り切ってリトリート。大前、高木へはSBが徹底マーク。空いてしまうサイドのスペースはSHが下がって埋めています。

 鹿島の狙い通り、昌子のマンマークで大前はブロック内でボールを受けられなくなり、徐々に低い位置に下がってボールを受けようとし始めます。大前が低い位置に下がってしまうとゴール前でのチャンスとともにカウンターでの脅威も減ってきます。特に後半の半ばを過ぎるとその傾向は顕著になっていました。

 鹿島は70分に本田→増田、83分に昌子→新井場の交代を行い、73分と延長に入った93分にいずれも柴崎が得点を挙げています。

 ファーストプランでは清水は鹿島と互角もしくはそれ以上の戦いぶりでした。しかし90分の時間で見ると次第にギアを上げてきた鹿島に対して、逆に清水は攻め手を失っていった印象です。うがった見方をすれば試合開始からフルスロットルできた清水を前半はいなして、後半ギアを上げて仕留めた鹿島の策にはまった形だったかもしれません。

 

5.最後に

 勢いのある前半に1点でも取れていれば清水にも十分勝機のあった試合だと思います。しかし、それをさせなかった鹿島の戦い方が見事だったというしかありません。

 選手交代が機能した鹿島に比べれば、選手を代えても停滞感のあった清水。選手層を考えれば勢いで押し切る以外に手は無かったのかもしれません。

 勝つことはできませんでしたが、それでも前半に見せた清水のサッカーは非常に魅力的でした。評価が大きく分かれたチームでしたが、僕はこのチームに思い入れがあったのでその魅力を再確認できとても嬉しく思います。

  タイトルを取れていればと残念な気持ちもありますが、今思えばこれもこのチームの運命でありこの時点でのクラブの実力だったのでしょうね。 

 

sendaisiro.hatenablog.com

1999年Jサントリーチャンピオンシップ第2戦 清水エスパルスvsジュビロ磐田

 先日BSにて放送された1999年のチャンピオンシップ を戦術面に注目して振り返りたいと思います。

 20年以上の時を越えても心に響く熱い試合ですが、戦術面やお互いチームとしてのやりとりもかなり面白いものでした。

 

 

1.スタメンと基本システム

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 エスパルスは3-5-2。沢登がトップ下と見るのが一般的かもしれません。しかし中盤はアンカーにサントスを置いた3センターと見た方が解釈しやすいと思います。

 2トップはヤスキヨコンビだったんですね(←記憶があいまい)。アレックス、市川の両ウイングバック沢登は強く印象に残っています。

 ジュビロは4-4-1-1。ゴン中山、藤田、服部。実はジュビロにも好きな選手多かったんです。そこは静岡人なので。三浦文丈や山西もいますね。懐かしい。

 

2.ボールを支配して攻め込むエスパルス

 エスパルスがボールを持った時の噛み合わせが下の図。

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 エスパルスはアレックス、市川の両WBが高い位置を取りジュビロのSBを押し下げます。ジュビロのSBが押し下げられることでSHとの間にスペースができていました(図の赤いエリア)。

 エスパルスのIH(伊東、沢登)がそのスペースでフリーになりやすい状態です。特にアレックスのいる左サイドは、藤田と安藤の間が空いて、伊東テルがボールを受けやすくなっていました。

 直接アレックスに出して右SB安藤と1vs1、またはアレックスが内側のスペースへのカットイン。または伊東とのコンビネーションで打開など。多くの時間で左サイドが起点になっていました。

 ジュビロの守備がアレックスサイドに寄せてきたら、サントスや沢登が中継役になって市川へのサイドチェンジ、そして市川からの正確なクロス。ピッチを幅広く使いジュビロの守備に的を絞らせません。

 ゴール前は2トップ+アレックスか沢登。2トップは久保山がやや引き気味ですが、お互い割と自由に動いてボールに絡んできます。

 2トップが動いてできたスペースにはアレックスがサイドから侵入。沢登は右ハーフスペースを主エリアとしながらバランスを見ながら中盤と前線を繋いでいました。

  開始から左右両サイド、中央とボールを支配して、まずペースを握ったのはエスパルスでした

 

3.エスパルスの非保持局面

 試合開始してしばらくは後ろから長いボールを入れることが多いジュビロでした。裏を狙う中山、ライン間で受ける福西、アレックスの裏を狙う藤田。前線に絡むのは主にこの3人でした。

 加えて、右SB安藤を使ってサイド攻撃を仕掛けたいのですが、安藤にボールが出るとエスパルスは伊東がサイドまで出て対応。そしてサントス、沢登が中央のスペースを消すようにスライドします。

 

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 サイドを塞がれ、長いボールは3バックとアンカーのサントスに止められ、中々チャンスを作り出せない前半のジュビロでした。

 

4.前半途中からのジュビロの修正

  前半途中からのジュビロの変化を表したのが下の図。

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 ジュビロは、まず中山と福西がそれぞれ戸田とアンカーのサントスを明確にマークするようになりました。

 そしてSHの藤田と奥はCBが前を向いて持っている時には、無理に前プレスをかけずに中盤をケアする位置をとります。その代わりコントロールが乱れた時など、彼らが不安定な状態で持った時は一気にプレスをかけています。

 中央の戸田や中盤の選手に持たれるよりも、西澤、斉藤に持たせたて状況を見ながらプレスをかけるよう整理したようです。

 これでエスパルスも自由にボールを動かせなくなりロングボールが増えてきます。

 そして前半の34分。西澤のコントロールが乱れたところに中山がプレス。奪って中へ入れたボールを服部がミドルシュートを決めてジュビロが先制しました。

 

5.アレックス退場からの盤面変化

 ジュビロが先制した直後にアレックスに報復行為でレッドカード。しかしその前に受けていたファールで得たFKをキャプテン沢登が決めて同点に追いつきます。沢登のFKは今見ても鳥肌が立ちますね。

 

  さて、一人少ないエスパルス。戸田を左SBに回してシステムを4-3-2に。前のバランスは変えずに後ろを1枚減らして対応しました。

 

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 DFラインが少なくなった影響はサイドの守備の人数不足として表れます。上の図のように戸田が藤田を見ると、サイドを上下動する安藤を伊東が一人で見なければなりません。

 さらにジュビロは奥が中央に入り、ボランチの三浦も前に上がって攻撃に絡むようになります。伊東は一人でサイドの安藤と中を上がってくる三浦に対応する状態になり、さずがの伊東もオーバータスクに。それにより安藤の攻撃参加が目立ってきます。

 この流れは後半まで続き、しばらくエスパルスが押し込まれることになります。

 

6.選手交代、そして延長Vゴール

 ジュビロに試合を優勢に進められながらも、エスパルスの突破口になっていたのが右サイド。後半チャンスを作り出していたのは、サイドに流れる2トップの一枚と高い位置に上がった右SBの市川が絡んだ時でした。

 エスパルスの選手交代はまず68分に安永に代えてファビーニョファビーニョが右サイドに流れて中央で久保山がゴールを狙う形を作ります。

 そして後半終了間際86分、CB西澤に代えて大榎。CBの一角にサントスを回し、大榎がアンカーの位置に入ります。勝ち越し点を狙うため、後ろからしっかり保持して確実にボールを前に届ける狙いでしょう。

 最後は延長戦に入った96分。久保山に代えて長谷川健太。チャンスを作っていた右サイドを長谷川で打開して、中央にファビーニョを回します。

 下は99分。ファビーニョの得点場面。

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 右サイドを長谷川が突破。CB前田とSB山西が対応してクリアしましたが、再びボールはエスパルスへ。ボールは大榎に渡り、大榎からファビーニョへのスルーパス。直前のプレーで前田が右サイドに、沢登の斜めのランニングで鈴木と両CBが左右に引っ張られファビーニョの前にはスペースがぽっかり空いていました。このパスをファビーニョがゴール左にシュートを決め、エスパルスが延長Vゴールで勝利しました。

 

7.最後に

 第1戦の結果と合わせ、この後PK戦に突入しました。リアルタイムで見ているかのように思わず手に汗を握り、頭を抱えてしまいました(笑)。

 観る前は、もっと個々の能力を前面に出した戦い方なのかなと勝手に想像していましたが、ボールを前進させる仕組みや守備でのスペースの埋め方、戦術的なやりとりなど、かなり組織的でした。過去の試合を観るのはとても勉強になります。

  そしてなにより、このような歴史の積み重ねの上に今のエスパルスがあるんだと実感できました。我慢の日々が続きますが、久々にエスパルスを感じられる有難い放送でした。