2020年明治安田生命J1リーグ第15節 サンフレッチェ広島vs清水エスパルス レビュー【やろうとしてることはわかるけど...】

 

 

1.スタメンと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3

 前節から3人の入れ替え。後藤がトップ下に、西澤が左のウイングに入っています。そしてリーグ初出場となる宮本が右のサイドバックに起用されました。

・広島のシステムは1-3-4-2-1

 広島は前節のスタメンから6人が変更です。

2.清水の攻撃局面について 

 広島の基本システムは3-4-2-1。3-4-2-1システムのチームは非保持にシャドーを下げて5-4-1システムになるのがよく見られるパターンです。しかし広島はシャドーを下げずエゼキエウと浅野がやや前目の内側にポジションを取っていました(下図)。奪ったら前3枚でカウンターに移行したい意志の表れでしょう。

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 図に手書きでラインを引いてみましたが、この守備で空きやすいスペースはシャドーの後ろ。中盤の両脇です(赤く囲った場所)。

 清水がボールを持った時はこのスペースを利用したい意図がはっきりと読み取れます。

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 各選手の立ち位置は一例ですが、清水は相手の守備に対しておおむね上図のような配置を取っています。

 広島があまり積極的なプレスを行わない、その上ワントップなので清水のセンターバックは比較的2人でボールを持てる状況です。

 そこからサイドに逃げ場を作りつつ中央の竹内に入れたら、竹内はシャドーとボランチの間を通して中盤の脇に刺すようなパスを多用しています。

  中盤の脇にボールが入ったら5バックから1枚前に出て潰しにくる広島の守備。清水の選手は前に出てくる広島のディフェンダーの裏を必ず誰かが狙っていきます。

 清水の前進はほぼこの一連の動きで行われていました。明らかに狙っていたものだと思われます。

 ちなみにFootball LABのデータをお借りしたのが下の図です。

www.football-lab.jp

 

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 これは前半のプレーエリアです。やはり中盤の脇でのプレーが多くなっています。 清水はこの動きを愚直といっていいくらい丁寧に繰り返していました。

 しかしそれは少し丁寧すぎたような気もします。少し視野を広げればゴールに直結しそうなスペースがあってもボールが出ない場面もありました。

 これは私の感想ですが、直線的にいけるところは思い切って前に向かっても良いような気がします。結局は決めるか決めないかが勝敗なので、どんな戦術でもベクトルは常にゴールに向かうべきだと思います。

3.ネガティブトランジションの局面(攻から守への切り換え局面)

 上記したように清水のボール保持では広島の中盤脇がポイントになっていました。そこを突破できればチャンスになりますが、逆にミスが出るとカウンターを浴びることになります。

 特に右サイドではヘナトがサイドの攻撃に絡んでいくのでボールを奪われた時に中央ガードの強度が下がります。それでもあえてサイドにボランチを出すということは人数をかけることで奪われた時、そのままそこで即時奪回に向かう、もしくは最低限攻撃を遅らせる設計なのだと思います。

 しかしそれが上手くいっていたかは微妙なところです。そのままカウンターに移行されてしまう場面もかなりありました。狙いはわかれど実際はやり切れないのは攻撃局面と同様でした。

4.前半の1失点目ついて

 守備全体を考察する時間がないので1失点目に対する感想です。

 まず清水が右サイドの高い位置でボールを失います。そこにドゥトラや後藤が即プレスをかけて後ろに戻させたのはgood。その後中央にボールを入れられますがカルリーニョスが即座に戻って右サイドを切るようにプレス。前の浅野にパスが出たら西澤が内側からサイドに寄せるように追っていきます。そしてボールはワイドの茶島へ。ここまでは相手人数の少ないサイドに持っていき帰陣の時間を作ったという意味でOKだったと思います。

 そして気になったのはその次。茶島がカットインしてきた時の竹内の動きです。竹内はカットインに対してプレスに出ずに自分のスペースを空けないようその場にとどまるポジショニングをしています。

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 ここも私の感想ですが、この時竹内は前に出るポジションを取った方が結果的には良かったのではないかと思います。上の図の矢印の動きです。

 私は白で引いたラインのような壁を作るのが本来の清水の守備のやり方だと思っています。

 最近の清水の守備を見ると自陣で横にボールを動かされると相手をフリーにしてしまう場面が目立ちます。この場面でも自陣まではサイドに追いやる守備をしていたのに肝心のゴール前で中への侵入を許したのはもったいないなと勝手に感じていました。 

 割り切って引いてスペースを埋めるならそれもひとつのやり方なのですが...。いずれにしてもどうスペースを消すかがあいまいになっていたように思えます。

5.まとめに

 プレーを一つ一つ見れば、やろうとしていることはわかります。しかしそれがゴールを奪う、ゴールを守るに強く繋がっているかというとまだ弱さを感じます。

 選手起用を見れば監督は目の前の勝ち星より何かを探りながら求めているようにも感じますがそれが何かは明確にはわかりません。

 中々結果の出ないチームの現状。それに何を感じるかはその人次第。どうであっても自由です。とりあえず自分にできるのは試合を観て、少しでも読み取り記録していくこと。その努力だけは続けていきたいと思います(試合内容と関係ないお気持ちオチ)。

 

 



  

 

 

 

2020年明治安田生命J1リーグ第14節 柏レイソルvs清水エスパルスレビュー【プランとプランの戦い】

 

1.スタメンと配置

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清水エスパルスのシステムは1-4-2-3-1

 左ウイングは久々に西澤がベンチスタートでドゥトラがスタメン。センターバックは川崎戦欠場したヴァウドが復帰です。

柏レイソルのシステムは1-3-5-2

  注目のオルンガは欠場。システムは基本の1-3-5-2から保持した時は1-3-4-2-1のワントップツーシャドーに、非保持時は北爪を前に出した1-4-4-2っぽく可変しているように見えました

2.エスパルスの守備局面について

 柏の保持時は中盤の戸嶋が前に出て前線がワントップツーシャドーのような配置。

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 清水の守備は終始ライン間でボールを受けるシャドーの戸嶋と江坂を捕まえるのに苦労しているようでした。

 清水の守備を眺めているとトップ下の中村が柏のアンカー大谷をかなり意識しているようで、大谷の移動に中村が動かされやすい傾向が見られます。そのためヒシャルジソンがフリーになると竹内が前に出てきて、両シャドーをヘナトが一人で見ている状態になっていました(下図)。

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 柏は清水のボランチが動いたタイミングでシャドーに縦パスを狙っています。特に古賀から戸嶋へのボールが多くそこを通されるとヘナトがスライド。ヘナトが戸嶋にスライドして中央が空くとそこに江坂が入ってフリー。このパターンは繰り返されていてちょっと危険な形でした(下図)。

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 その形を防ごうとサイドバック(奥井、金井)が絞ってシャドーに対応すると、今度は高い位置を取った柏のサイドバックが大外でフリーになります。

 清水の守備は相手ボランチの辺りを抑えてボールを奪おうとする意識があるように見えます。しかし、逆にボランチの動きでスペースを作られボールを運ばれています。それがここ数試合の守備のはまらなさの要因になっているのではないかと思います。

3.清水の攻撃局面について

 ボールを後ろから保持していきたい清水に対して柏は前向きに強いプレスをかけ続けてそのままカウンターに移行することを狙っているようでした。

 2トップが積極的にプレスをかけてサイドに誘導。

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 ボールサイドをマンマークで塞いで出口を無くします。そしてサイドの狭い場所に追い詰めたらボールホルダーに強くプレス。奪ってカウンターに移行します。

 またボールを逆サイドに展開されたら根性のスライド。

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 同様にサイドに追い詰めて奪いにいきます。
 このレイソルの守備によりサイドで詰まりなかなか前進できない清水。攻守ともに柏に上手くはめられてしまった前半でした。


4.後半の流れ

 後半になると清水がボールを持てるようになってきます。要因の一つとして清水がボールを左右に振るようになったこと、それに対して柏がスライドしきれなくなったことが挙げられると思います。

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 柏はスライドしてマンマークにいけなくなると右ウイングバックの北爪を下げて1-5-3-2でセットします。これでタイトなマンマークから解放された清水はボールを後ろでボールを動かしながら柏陣内まで前進できるようになってきました。

 セットする相手に対してはポジションの移動で相手の守備基準をあいまいにする普段の攻撃が効果を発揮します。より動きで相手をかく乱できる後藤と西澤の投入で攻撃が活性させたのは理に適った交代策だったと思います。

5.まとめ

 清水のサッカーはまずボールを保持することが前提になっています。それを実現するために柏の運動量と強い球際を前面に出したマンマーク気味の守備にどう対抗するかが一つのポイントになっていたと思います。

 それに対する答えが柏の強いプレスに1対1の強さで対応できるドゥトラと中村の起用だったのかもしれません。

 柏の守備は中盤3枚の負荷が高そうで、前半のプレスの形をフルタイム維持するのは難しかったと思います(ほぼブラックなタスクをやり通した戸嶋は凄かったけど)。 前半を2点リードで折り返せたことは柏にとっては願ったりかなったりのの展開だったでしょう。逆に考えればそこを乗り切れていれば清水にも勝機はあったかもしれません。

 智将ネルシーニョのチームだけあってプランが明確に浮き出た試合だったと思います。清水の方は監督のプランをやりきるにはまだ個々のプレーも組織力ももう少し成長させる必要がありそうです。

2020年明治安田生命J1リーグ第13節川崎フロンターレvs清水エスパルス 【相手のプレッシャーをどこまで許容するのか】

 

1.はじめに 

 0-5の完敗でした。大分戦から調子を上げてきた流れもここ3試合の敗戦で途絶えてしまった感もあります。しかも前節から1週間日程が空いたエスパルスに対して川崎フロンターレは中2日。疲労の蓄積という言い訳のきかない敗戦は、首位チームとの実力差をまざまざと思い知らされる結果となってしまいました。

 私もあまりの完敗に試合終了後は落ち込んだりもしましたが、翌日になればそんな感情をなぜ上手くいかなかったのかを知りたい興味が上回ります。そして結局いつも通りに懲りずに見直しをしながらこうしてせこせこと文章を書いています。

 確かに点差だけでなく内容にも差を感じるものがありました。しかしその「差」とは一体なんでしょう。試合を見直すとできていることやできていないこと両方が存在しているような気がします。そこで今回は試合内容の観察からその「差」について自分の考えをまとめてみたいと思います。

2.スタメンと配置

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清水エスパルスのシステムは1-4-2-1-3
 連続出場していた後藤、ヴァウド、ソッコに代えてそれぞれのポジションに中村、岡崎、奥井が起用されました。人数は3人ですが久々に主要メンバーの入れ替えが行われたことになります。
川崎フロンターレのシステムは1-4-3-3
 こちらは前節から8人の入れ替え。大幅入れ替えがあっても誰が出ても遜色のない強力なメンバーです。
 システムを見れば中盤の構成は噛み合う形。両チームともボールを保持していくスタイルなので後ろでの保持時に生じるずれを上手く利用できるかが注目されます。

3.ファーストディフェンスのはまらなさについて

 清水の守備で気になったのがセンターバックの保持に対して全く制限が掛かっていなかったことです。センターバックが余裕でボールを持てるため、裏を狙う前線に楽にボールが通り何度もゴール前まで攻め込まれていました。
 これを見て清水の前線の運動量が足りなかった、もしくは守備の組織ができていないと考えるのは普通です。しかしあまりにも同じ形からのピンチにさらされると(私のPCの故障で同じ場面がリピートされてるかと思った)なにか戦術上のエラーが発生している可能性も否めません。
 そこで清水の守備の挙動を観察するとまず川崎の中盤3枚にボールが入るのを警戒しているようにも見えます。
 トップ下中村は川崎のアンカー守田を監視するようなポジション取り。ボランチの竹内、ヘナトも横浜FC戦のような中盤から飛び出してのプレスは見せません。
 アンカー監視役の中村の守備が緩慢に見えますが、中盤から降りてくる選手にボールが入った時には割と強くプレスをかけています。
  これらの動きから清水のプランは、試合の入りはミドルゾーンでセットしてテンポを少し抑えていこうだったと想像することもできます。
 このセンターバックフリーからの裏取られまくり問題は前半ずっと続いたように感じますが、飲水タイム後にはいくぶん改善されています。修正点はカルリーニョスと中村でセンタバックに制限を入れるようになったことだと思うのですが、それでも全体で前からプレスに行くことはほぼありません。逆に451に近いくらい割り切って後ろを埋める動きも見られます。
 これらの動きからやはり積極的なプレスでなくセットして守るのがプランだったと推測されます。飲水タイム前のちぐはぐさは中盤への縦パスを警戒しようとする意識が強すぎてファーストディフェンスが引き過ぎたことからきたエラーではないかというのが私の想像です。

4.ポジションは取れていても...

 清水のサッカーを語るうえで「しっかりポジションを取る」はひとつのキーワードになっています。ではこの試合の清水はどうだったか。私はそれなりに全体のポジションは取れていたと思っています。
 川崎の守備は4-3-3のシステムから清水の配球の起点となる立田のところへ宮代や旗手が積極的に前に出てきます。そのため前に出てくる宮代や旗手の後ろは比較的スペースのできやすい場所でした。

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 清水の選手は旗手の後ろのスペースにポジションを取れていましたし(奥井や西澤など)、やや詰まりながらもボールはそこに出ています。そしてゴール前のチャンスに結びつくのもここを起点とした攻撃でした。このことから相手のシステム上、空きやすい場所は認識できていたと言えるでしょう。
 またリアルタイムでは中村が下がってくる動きが気になりましたが、見直すと中村が下がっても他の選手が前に上がっていく動きが見られます。結果的には全体のポジションバランスは崩れていないように見えました。むしろ中村のダイナミックな動きはポジションローテーションのスイッチになっているようにも感じられます。
 ではポジションを取れていたから良かったかと考えるとやっぱり少し物足りなさが残ります。
 そこで、そもそもなぜポジションをしっかり取る必要があるかを考えます。それは相手の守備を動かすことでスペースを創出し、ピッチ各所に複数の攻撃ルートを作るためだと思います。
 相手の守備を動かすためにはボールホルダーが相手の守備者を引き付けなければなりません。引き付けるとは言い換えれば相手のプレッシャーを受けることです。つまりポジションをしっかり取るサッカーをやるためには各選手が相手のプレッシャーをギリギリまで受け入れることが前提となっています。
 清水のボールの動かし方を見るとこのプレッシャーの受け入れ方が少し足りないように感じます。守備者がボールホルダーに食いつく前にボールを離してしまうと守備者はそのまま次の受け手の方にスライドしてプレスをかけることができてしまいます。
 良い所にボールを運んで行ってもアタッキングサードに入ったところで詰まるような攻撃はここに原因があるのではないかと思います。

5.まとめに

 冒頭に述べた両チームの「差」は、相手のプレッシャーをどこまで許容するかの差ではないかというのが私の感想です。
 プレッシャーを受けることが前提になっていればボールを受け方や体の向き、またボールホルダーだけでなく周囲の受け手の選手のポジショニングもそれを意識したものになってくると思われます。
 単純な足元の技術を見れば、個々によって多少の差はあるかも知れませんがプロである以上清水の選手も一定のレベルはあるはずです。しかし自分達のゲームモデルに対する意識がどれだけ染みついているかを比べると川崎フロンターレのとはまだ差があったような気がします。
 これはビルドアップについてだけでなく安易なゴール前の失点の原因も同様に考えることができます。いつでもどこでもプレッシャーに対して準備できているかです。
 川崎サポのレビュワーであるせこさん(@seko_gunners)がレビュー内で清水の選手のプレーについて「ボールを奪った後、低い位置のビルドアップにおいてとにかくボールを離したい。でもクリアはしたくないというジレンマ」と表現されていました。
 これはとても言い得て妙だと思います。清水の選手はスタイルを遂行したい意識はあっても、それが当たり前のように染み付いているかを考えるとまだ足りなそうです。
 ピッチレベルでは川崎のプレッシャーはこちらが想像するよりも強かったのでしょう。しかし上に書いたようにプレッシャーを受けることでクラモフスキー監督のサッカーは成りたちます(と私は考えている)。なので”ボールを離したい”という心理を乗り越えることが次の壁なのではないかと思います。
 おそらくそのためには自分達のサッカーを信じ、チャレンジするしかありません。そしてその先それらが日常になった時に壁を乗り越えられるはず。そう期待してこれからも続く試合を追っていこうと思っています。
 
 

2020年明治安田生命J1リーグ第12節 清水エスパルスvs横浜FC レビュー【横浜FCのビルドアップに対する清水エスパルスの守備】】

 中2日の厳しい日程。フィジカルコンディション低下の影響が表れたような試合内容でした。特に守備に関してはプレスがかからず簡単に前進を許し3失点してしまいます。実際に疲労の影響は間違いなくあったでしょう。しかしこの試合内容を運動量の不足だけに押し付けるのは少し単純過ぎに感じます。

 ではこの試合での意図や狙いは何なのか。それは今の自分の考察力ではわかりかねます。なので今回はあまり考察を入れず守備について現象面だけを見ていきたいと思います。

 サッカーは複雑なので書いたものが全てではありません。それはわかった上で単純化して一部だけ浮き出したものと考えてください。

 それではまず両チームのスタメン紹介。

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【すこし前置き】

 まず本題に入る前に4-4-2ブロックを組んだ時にスペースのできやすいところを確認しておきます。下図の赤くマークしたエリア。

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 各選手の間はどうしてもスペースができやすくなります。中でも始めに使われやすいのが2トップの脇。ビルドアップのスタート地点になることの多い場所です。442の配置のままだとフォワードの横はピッチの横幅を2人でカバーしなければなりません。それは物理上不可能なので、守備側がここへのプレスをどうするかは注目すべきポイントです。

【前半開始から40分ころまで】

 さて本題。横浜FCの保持に対してやや引いて4-4-2のブロックをセットする清水。一方、横浜FCは4-4-2の配置から下の図のように変化してビルドアップを開始します。

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 これは4-4-2のチームが保持する時の定番の可変です。

 これを清水の4-4-2ブロックとかみ合わせると横浜FCの各選手が清水の4‐4-2ブロックのちょうど間。先に書いた4-4-2のスペースができやすい場所に横浜FCの選手がポジションしている状態です。簡単に言えば清水は横浜FCにこの配置通りにボールを運ばれてシュートに結びつけられていました。

 横浜FCは2トップ脇にボランチの佐藤が動いてボールを持つのがスタート。清水はそこに対して竹内が前に出てプレスをかけていました。

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 しかしボランチの位置から2トップ脇へは距離がある、加えて周囲の選手の連動がないためこのプレスが上手くかかりません。逆に竹内が動いてできたスペースにボールを通され楽に相手に前進を許していました。

 この現象は前半ずっと全く同じ仕組みで何度も繰り返されています。

 ただ選手はこれはまずいなと感じていたはずで、竹内をステイさせて西澤が前に出たり、どうしたらいいかを探り探りしている様子が見てとれます。しかし西澤が出てもサイドが空いてサイドバックにパスを通されます。後は同様なボールの運ばれ方です。

 25分に飲水タイムがあったので何か修正があるだろうと思っていましたが、再開後はまた竹内の単独プレスに戻っていました。そして当然同じように竹内が出た後ろのスペースを使われます。

 これが前半40分手前まで続きます。フィジカル的に動けなかったにしてもカルリーニョスも後藤も守備をさぼる選手ではありません。動かないのは何らか理由があったのだろうと思います。ちょっとそれがわからず疑問に思う時間帯でした。

【40分手前から前半終了まで】

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 40分手前辺りの時間になると、清水は最前線からのプレスを敢行するようになりました。私の確認では38分のプレスから変化したように感じます。

 ゴールキーパーが持ったところからプレスに行き、後ろも連動して全てのパスコースを塞ぐように前に出てきます。

 金子のゴールもこのプレスの形から生まれています。ゴールキーパーカルリーニョスがプレスに行くと上に図示したように周囲のパスコースを全て塞ぐように連動して前に出てきます。プレスを受けた南から松浦へパスが出て、それをヘナトがカット。右サイドで相手のマークを外した金子へ展開して金子がゴールを決めます。狙いを持ったプレッシングからのゴールでした。

 ちなみにこの時の金子の動きに注目します。ヨンアピンにぴったり付かずにマーカーを監視しながら裏も狙える位置。ヨンアピンから少しずれたポジションを取っています。彼は守備をしながらも相手から浮くようなポジションを取るのが非常に上手く味方がボールを奪ったら即座にカウンターに移行することができます。この能力はチーム随一です。本題とはずれましたが、ここまで金子の評価がいまいちのようなのでちょっとした宣伝です(笑)。

【後半から終了まで】

 ちぐはぐだった前半から修正されプレッシングとセットした守備を使い分けるようになりました。

 セットした際の一番の変化はカルリーニョスと後藤が相手のディフェンダーに対して制限を入れるようになったことです。

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  図のように周囲が相手をマークしたり背中でパスコースを消すことで、竹内が前に出て行っても容易にパスで逃げられることがなくなります。これで前半のようにスルスルとボールを運ばれることはなくなりました。本来の清水の守備に戻った形です。

 これでもやはり動ききれずにプレスをかわされてしまうことがありました。しかしこの形を作った上なら「体力が持たずにプレスがかからなかった」も納得はいきます。

【最後に】

 納得はいきます、と書きましたが前半の守備が悪いと言うつもりはありません。とにかく走らなければ駄目だとも言えません。

 あくまで良し悪しでなく、こちらの守備のやり方と相手の保持からの前進について「こうなっていたよ」という観察記録を自分の見える範囲で書いてみました。もし見直しをする奇特な方がいらしゃればちょっとした道しるべにしていただければ幸いです。

 

 

2020年明治安田生命J1リーグ第11節 清水エスパルスvs横浜Fマリノス レビュー【ガチンコのぶつかり合い】】

 

1.はじめに

 昨年のJ1リーグ王者横浜Fマリノスとの対戦。お互いが目指すサッカーの共通性からどうしても特別な感情を抱いてしまうチームです。おそらく多くのエスパルスサポーターにとっても楽しみな試合だったと思います。

 試合内容もそれを裏切らない素晴らしいものでした。両チームのゴールを奪う意志のぶつかり合い。結果は3-4の敗戦でしたが心に熱いものが残る試合でした。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3

 週2試合の鬼の連戦真っ只中。複数人のスタメン入れ替えも予想されましたが、ふたを開ければ変更は右サイドバックの奥井のみ。今、最も安定感のあるメンバーとシステムでガチンコ勝負に出た模様。おなじみの構成なのでそのほかは特に言うこと無しです。

横浜FMのシステムは1-4-2-1-3

 システムは清水と全く同じ。しかし単独でも打開できる両ウイングの選手などポジションごとの特徴は少し清水と異なっています。

 メンバーは新加入のジュニオールサントスはじめ、前節から6人が変更されています。それでも昨年リーグMVPの仲川など出てきたメンバーはいずれも強力です。

3.清水の保持局面について

 ハイプレス、ハイラインの横浜FM守備。相手陣内の狭いエリアに押し込んで積極的なプレスをかけてボールを奪いにきます。

 清水側はこれをどう押し返してプレーエリアを広げるか。そしてどこのスペースを使うのか。やり取りとしてはこの構図になります。

 その辺りを書きたいのですが、上手く文章がまとまりません。なので横浜FMの守備の特徴と清水の対応を箇条書きに羅列します。

・ハイライン

 横浜FMはDFラインをかなり高く上げてきます。清水はそこを突くためいつも以上にラインの裏を狙う動きを見せていました。特に金子がこの動きを繰り返しています。裏のスペースを使って直接ゴールを狙う、同時に相手に裏を警戒させてラインを押し下げる役目も担っていました。

・ハイプレス

 清水の後ろでの保持に対して前線が積極的に前に出て奪いにきます。当然ウイングの選手も前に出てくるため、サイドバックとの間の距離が開いて中盤(特にボランチ脇)にスペースができやすいように見えました。

 脇のスペースの使い方は、右は金子がワイドに張れば奥井がインナーラップで侵入。相手が奥井にも対応したらヘナトが3人目の動きで絡んでいきます。左は西澤の引いて受ける動き。それにソッコ、竹内、後藤を加えた菱形を作りボールを動かしていきます。

 どちらかと言えば右サイドの方がチャンスに繋がっていた気がします。それは金子の裏狙いでよりスペースが広がりやすかったのが原因ではないかと思われます。

・後藤の動きにボランチがついていく。

 トップ下の後藤は後ろに引いたりサイドに移動したりとかなり大きく動いていました。ここにはボランチの喜田か和田がついていきます。この空いたスペースに竹内やヘナトが入る動きを見せていました。竹内はこれまでの試合で見せていた裏への飛び出しより間のスペースに入ってラストパスを出すプレーすることが多いように見えました。

・ディフェンスラインは全体がボールサイドにスライドする。

 サイドにボールが入った時はセンターバックの選手もスライドしてボールに寄せてきます。そのためサイドチェンジをすると逆サイドの清水のウイングが浮きやすくなっていました。

 見えたのはざっとこんなところです。

 これを頭に入れて清水の1点目と2点目を掘り下げます。

(1点目)

スローインの流れからなので典型例としては挙づらい場面ですが、上に書いた特徴は表れています。

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(清水から見て)右サイドからのスローイン。DFラインは右にスライドするのでこの時点で西澤が左ワイドで浮いています。後藤がDFライン上に動き、そこに和田がついています。なので中央のスペースを見るのは喜田のみ。喜田の横でカルリーニョスが受けると竹内はフリー。ここから西澤にラストパスが出て西澤のシュートが決まります。

 ほぼマリノスの守備の特徴からできやすいスペースを経由して生まれたゴールといっていいと思います。

(2点目)

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 後ろでの保持で(清水から見て)左サイドから動かしてきたことで右サイドの金子が浮いています。金子にフィードが通ると奥井が内側へ。これでより金子はフリーに。金子からセンターバックの裏へ低くて速いクロスが入りチアゴオウンゴールを誘発しました。こちらも上に書いた特徴が重なると思います。

4.清水の非保持局面について

 スタッツを見ると横浜FMは左右、中央とまんべんなくエリアを使えていますが、その中でも右サイド(清水から見て)の攻防に注目しました。そこにクラモフスキー監督の強い意志が表れていたように感じたからです。正直言えばそこしか見てないからというのもあるのですが...。

 まず清水のファーストディフェンスがこれまでの試合と比較して少し変化しているようでした。その変化とは金子のプレスが高い位置、しかも内寄りに行われていたことです。

 ちなみにこれまでは下の図のような形。

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 センターフォワードがサイドを限定。トップ下がアンカーの位置の選手をマーク。ウイングはサイドへのパスコースを消します。

 相手のパスコースを塞いだら内側に誘導しジリジリ圧力をかけて挟み込む。またはパスコースを限定し間に出される縦パスをカット。内側高めでボールを奪いカウンターに転じる。これが基本形です。

 しかし横浜FMは選手のポジション取りや移動で清水が一番塞ぎたい中央にスペースを作ってきます。(下図)

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 和田の動きで後藤を動かすのがスタート。それに応じたセンターバックの動きで清水の1列目を外します。 パスの受け手となる選手は中盤でポジションをローテーションしてフリーに。中央を塞いでいた後藤の守備が外れているので左右、中央と複数方向へのパスコースができてしまいます。たぶんこんな仕組みです。

 これを踏まえて考えます。まず大切なのは形ではなく目的です。清水の守備の目的はなるべく内側の高い位置で奪ってカウンターに移行すること。

 その目的に沿えば後藤が動かされやすい時、金子がサイドでなく内側に向かってプレスをかけるのが自然です。

 また横浜FMは組み立てで広い視野を得るため中央にワンクッション入れてきます。そこを狙い打ちする意図もあったのでしょう(ちなみにヘナトも前への圧力がいつもより強い気がする)。まあこれは完全な想像ですが。

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 とはいえ金子の守備がはまっていたかと言えば微妙でした。そして金子のところでかわされると右サイドの高い位置で1対2の数的不利を作られてしまいます。

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 この数的不利にはヘナトがスライドしてフォロー。しかしマリノスはさらにマルコスがサイドに出てきてサイドを3人の関係性で崩してきます。

 相手が3人でくるならここで金子も下がって同数にと言いたくなる場面ですが、金子は積極的に下がってきません。ちょっとこれはリスキーです。たとえ下がった時でも金子は常に前に出られるポジションを取り直しています。どんな意図があったのか。

 おそらく清水はこの数的不利をある程度受け入れているというのが僕の推測です。その理由はヘナトとヴァウドがいる右サイドは清水の守備のストロングポイントであること。もうひとつは中央の後藤がヘナトが空けたスペースを埋めるため下がってくる動きを見せているからです。

 要は最低限後ろで食い止める仕組みを作って常にカウンターの槍を相手に突き付けていたのだと思います。相手のラインの裏を突いてゴールを狙うのは保持した局面だけではありません。どの局面、どのエリアでもゴールに繋がるプレーをする。ここにピータークラモフスキーの信念が表れていた、というのが僕の妄想も加えた解釈です。

5.最後に

 奪われても奪い返し、昨年の王者と80分過ぎまで互角に渡り合った清水。しかし83分、85分と点を奪われてしまいます。最後に1点返しましたが結局押し切られてしまいました。

 戦術的な意図も含まれますが(特に初手のCF後藤、カルリーニョス右WGは理解できる)、主には負荷が掛かってフィジカルの低下したポジション順に交代を行った清水。片や交代選手がギアを上げる役割を果たした横浜FM。残念ですがスタメン以降の差は大きかったなと感じました。

 志向の似ている両チームですがエスパルスの方がよりグループでの意識が強いように感じました。その意味でも交代出場の選手は個での打開だけでなくグループでの共通理解がより必要になってくるのでしょう。

 それでもマリノスに対してエスパルスのサッカーを表現してガチンコで80分以上を渡り合ったのはポジティブです。とはいえやっぱり負けるのは悔しいですね。次こそはもっとアグレッシブなサッカーで圧倒して勝ちたい気持ちです。マリノスのホームで「ピーターの率いるエスパルスは凄いぞ」と思わせるサッカーを見せつけて勝利したい。そんな願いを持って次の対戦を楽しみにしたいと思います。

2020年明治安田生命J1リーグ第10節 ベガルタ仙台vs清水エスパルス レビュー【現実と理想のバランス】

 

1.はじめに

 仙台とのアウェイでの対戦。0-0の引き分けでした。アウェイで勝ち点1は悪い結果ではありません。しかしチャンスは作れていたのでやっぱり決めて勝ちたかったですね。

 そんなことを思いながら試合を見直していると、何となくですがボールを運べた理由や決めきれない理由がうっすら浮かんできました。

 今回、時間もないので(過密日程!)そこについてだけさらっと書いていきます。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3

 明確な理由はわかりませんがエウシーニョが欠場(負傷っぽい)。代わって右SBに金井が入りました。それ以外は前節と同じスタメンです。

・仙台のシステムは1-4-2-3-1

 メンバーは前節と同じ。開幕から7節まではアンカーを置いた433システムを採用していたようですが、ここ3試合はダブルボランチの4231システムを採用しているようです。

3.狙いはサイドハーフの後ろのスペース

 試合後インタビューで立田が「金井選手が入ってあそこがフリーになると言われてて...」とコメントしていました。

 前半、立田から金井へスーパーフィードが出た右サイド中盤あたりのスペースです。まずはこの金井がいた場所がフリーになりやすかった理由に注目します。

 

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 仙台のファーストディフェンスから。まずトップの長沢と関口は中央へのパスコースを塞ぎます。そしてサイドハーフはサイドへ出すパスコースを切りながら内側に誘導するようにプレスをかけています。上の図の丸く囲んだ場所に囲い込むようなイメージです。仙台はこの丸のエリアにボールが入ったらボランチも前に出て強くプレスをかけてきています。

 具体例としては、5:10のプレー。

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 ウイングの位置から下がってきた西澤がボールを受け、入れ替わるように前に向かった竹内にパスを出そうとした場面。

 西澤がプレスの内側で受けたので仙台の選手は強く寄せてきます。そして竹内に出そうとしたパスを浜崎がカット。そのまま金井の裏にいる西村へパスを出します。この場面のように内側で奪って直線的にカウンターに移行するのが仙台の狙いの一つのようでした。

 ここでポイントになるのが仙台のサイドハーフの動きです。仙台のサイドハーフは斜めに前に出てプレスに出てくる。そして清水のウイングが前で張っているのでサイドバックの蜂須賀は前に出てこれない。そうなると必然的にサイドハーフの後ろにはスペースができやすくなります。これが金井がフリーになる理由です。

 ただ問題はそのスペースにどうやってボールを送るか。相手はサイドへのパスを切りながらプレスにくるのでそのまま出してもカットされてしまいます。

 立田が出したようなセンターバックから対角線に送るフィードは一つの方法です。隣にいるサイドバックへのコースを切られているなら逆サイドのサイドバックに出してしまえばいい。

 金井にボールが入れば仙台のサイドバック蜂須賀に対して金井と金子で2対1の数的優位。蜂須賀が前に出て金井にプレスすれば金子が裏を狙い、金子をケアすれば金井はフリー。この試合の金子はいつも以上に裏を狙う動きを見せていました。この一連の動きはおそらく事前に仕込まれていたプレーだったと思われます。

 もう一つ清水が見せていたのが内側に相手を引き付けてからサイドに出すパス。例えばヴァウドが持ち運んてパスを前に入れたり、また前線から降りた選手に一度入れてワンタッチでサイドに出すのも同様です。こちらは上に書いた西澤のプレーように時々仙台に捕まってしまっていましたが...。

 いずれにせよ仙台のプレスしたい場所の外側にボールを持っていくのが清水の狙いだったと思われます。ある程度その狙いは遂行できていたといっていいでしょう。ある程度ですけど。

4.仙台のゴール前の守り方

 それなりにボールは運べていた清水。しかしそこから先、ゴール前では仙台に止められてゴールが決まりません。次はこのゴール前で上手くシュートに持ってい行けなかった理由を考えてみましょう。

 ファーストディフェンスを外されボールを中盤に運ばれると自陣に撤退してブロックを作るのも仙台の守備の特徴です。

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 その際4バックは横に広がらないようにゴール前に並び、大外はサイドハーフが下がって対応。空いた中盤のラインにはトップ下の関口が入って埋めます。これが撤退したときの形です。この仙台の守り方が清水にとってはちょっと相性が悪いのです。

 なぜなら清水がシュートに持っていく時の形のほとんどがサイドからハーフスペースの周辺にスペースを作ってそこから速いクロス。ハーフスペースに突撃しようにも相手のサイドバックに埋められています。それではとサイドからクロスを上げてもニアサイドはやっぱりサイドバックに埋められて、そしてゴール前やマイナスの位置もしっかり対応されている状態です。

 今の清水の攻撃だとこれを崩す手段は個人のパワーが爆発するしかありません(ヘナトのスーパーミドルとか)。ゴール前を埋められた時にはもうひと工夫動きがないと厳しそうです。

5.最後に

 まず仙台について。ここでは守備についてだけ書きましたが保持した時も前からはめようとする清水のプレスを外して綺麗に中央で椎橋や関口をフリーにしています。その詳しい仕組みまでは読み取れませんでしたが攻守、切り替え共いずれの局面も整理されていて好チームだと思いました。

 そして清水です。ここ4試合負けなしが続いています。安定感は出てきました。しかしそれと引き換えに崩し切るために必要なアクションは減っているようにも見えます。おそらく監督は今の状態を見ながら現実と理想のバランスを取っているのだろうというのが僕の推測です。

 メンバーも今は固定されていますがこれが完成形ではないでしょう。ここからプラスを加えるためにどんなアクションを取るのか、またメンバーがどう変わるのか。そんなところにも個人的には注目してこの後の試合を追っていきたいと思います。

 

2020年明治安田生命J1リーグ第9節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌 レビュー

 

1.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3
 3試合連続で同じスタメンでした。適正を探る期間は終わり現状のベストセットでチームを作り上げていく段階に移行しているようです。

・札幌のシステムは1-3-4-2-1

 システムが読み取りづらかったのですがスタートの基本システムは一応この表記にしておきます。守備の局面では清水のシステムに合わせて1-3-1-4-2のようになっていました。

2.清水の攻撃の局面について

 下が札幌の守備局面時の配置。

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 札幌はマンツーマンの守備で配置も清水のシステムに噛み合わせています。特に後ろにいくほどマンマーク色が強く、カルリーニョスには宮澤が、後藤には深井とはっきりしたマークがついていました。一方、前線の選手は後ろまでついていくことはせず、相手がある程度移動した場合は後ろの選手にマークを受け渡しています。

 ボールと逆側のWBは対面の相手に付かないで、マークが浮いている中盤の選手を捕まえたりDFラインを埋める動きをしていました。なので清水が同サイドでボールを動かしている時は逆サイドのSBが浮いている状態になっています。

 清水のビルドアップはCB2人にGKを加えた3人でスタート。これまでの試合ではボランチの選手がDFラインに降りることが多かったので、ここはちょっとした変化でした。

 GK入れての数的優位で少し余裕をもらったCBが相手の2トップ脇に運ぶプレーが起点。相手がマンツーマン守備なので完全なフリーはできませんが、CBの運びで引きつけることで中盤に多少の余裕は作れます。

 この余裕を使って少ないタッチでボールを動かしていきます。そして前線がマーカーを引き連れて中盤に引いてくる動きと、札幌のマークの受け渡しがぼやけるタイミングが重なったら、ボランチやSBの選手が裏のスペースに飛び出してライン際からマイナスのクロスを上げています。

 またトップ下の後藤が動いて受けることで中央にスペースができます。ここにボランチの選手が入っていくのも何度か見られた動きでした。これもマンツマーマンと受け渡しの守備の特徴を利用した攻撃です。

 先に書いたビルドアップのスタートでボランチを降ろさないのも、ボランチにDFラインの裏やゴール前への飛び出しをさせるためとも考えられます。

 これらの動きは左サイドで行われることが多かったのですが、右サイドでも基本は同じです。ただ右サイドのSBがエウシーニョなのでマークを外して縦より、内側を使う攻撃が目立ちました。

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 例えばサイドチェンジが行われた上のような場面では、エウシーニョに対してはチャナティップが戻るか高嶺が前に出ていきます。しかし両方とも距離が離れている状態です。このプレスの遅れを利用してエウシーニョが中のスペースに入っていきます。

 この試合ではエウシーニョが最多のシュートを撃っていますが、このように彼にプレスがかかりづらかったことも理由ではないかと思います。

 何度かチャンスを作ってもシュートが決まらないかった清水。それは札幌のDFがゴール前ではカルリーニョスと後藤を必ずマークして捕まえていたからだと思われます。札幌はゴール前ではしっかりマークしてシュートを食い止める。そこからロングカウンターに持っていく狙いがあったのだろうと思われます。奪った後にボールを運んでいける選手は揃っています。

 前半終了間際に金子が撃ったシュートが札幌DFの手に当たりPK獲得。金子が決めて先制します。PKに繋がる金子のシュートは右のライン際からソッコが挙げたクロスをマークを外した金子が中央のスペースで撃ったものです。ボールが逆サイドにある時にマークを外してシュートを撃つスペースに入っていくプレー。これが金子が右のWGで主力として起用されている理由の1つだと思います。

3.清水の守備局面について

 札幌が保持した時は深井がCBの位置に下がって後ろは4バックになります。WBのルーカス、菅は前に上がるのでシステム表記すると1-4-1-5のようになります。

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  後ろで深井、宮澤。荒野がポジションをローテーションするように動いてファーストディフェンスを動かします。そしてカルリーニョスと後藤の脇から侵入。そこから運んだ選手が前に出て行く動きと後ろに降りてくる動きなど周囲の選手の入れ替わりを組み合わせながらボールを前進させていきます(上図)。

 清水に中のスペースを消された時は、中盤を飛ばした前進。

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 鈴木がポストに降りてきて駒井がハーフスペースから裏へ。駒井のハーフスペース突撃を警戒してソッコが中に絞れば大外のルーカスフェルナンデスを使ってワイドから仕掛けてきます。前半は特にこのルーカスフェルナンデスのワイドからの攻撃が目立っていました。

 ハーフタイムのペトロビッチ監督のコメントを読むと前半の攻撃には満足していなかったようです。その不満とは、もう少し中、外と多彩に仕掛けたかったのがワイド一本になってしまっていたところかなと推測します。

 清水はワイドからの攻撃に対してもルーカスフェルナンデスにはソッコが対応しつつ、西澤も戻って内側のスペースを埋めて上手く対応できていたのではないかと思います。

4.後半の流れ

(1)後半開始から田中の退場まで

 札幌は後半の頭から進藤と深井に代えてドウグラスオリヴェイラと田中への選手交代。鈴木とドウグラスオリベイラが2トップ、チャナティップがトップ下、駒井が3バックの右。1-3-4-1-2に並びが変わります。

 2トップにしたのはサイドからクロスは上げられていたのでゴール前で高さを1枚増やすためと、ダイレクトなボールに対して裏抜けだけになっていたので前でボールを収める選手が欲しかったからではないかと推測します。また前半はチャナティップがヘナトに消されていたからかあまり目立ちませんでした。ここをもう少し自由にしたかったのも理由かもしれません。

 さらにもう一つ注目の変化が駒井が右のCBに入ったことです。駒井はサイドに開かずに少し内側からボールを持ち運ぶプレーを見せていました。

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ドウグラスオリヴェイラ選手の背番号は33の間違いです)

 この運びで駒井が西澤を引き付ければルーカスへのコースがより開きやすくなるし、ルーカスと駒井が右サイドで動かせばその内側を荒野が上がっていきます。この後半の駒井の持ち運びは清水にとって面倒くさい動きだと感じました。
 中、外と少し良さげな動きが見えて、FKから同点ゴールも決めた札幌。しかし後半早い時間に入ったばかりの田中が2枚目のイエローカードを貰い退場となってしまいました。

 この退場の場面を表したのが下図です。

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 駒井とルーカスのコンビで左サイドを上がってクロスを上げたところから。クロスをエウシーニョが拾ってカルリーニョスに縦パス。カルリーニョスがターンしようとしたところを田中が倒してしまいました。

 図を見てわかるようにカルリーニョスがターンに成功したらGKと1vs1になる状態です。周囲の状況を見ても札幌DF3人に対して清水は4人。もし荒野を入れても4vs4の同数です。これは1-4-1-5の札幌がさらに4から1枚前に上げる攻めと、WGをなるべく下げないで守る清水の守備の噛み合わせにより起きる現象です。札幌の戦術上、切り替え時に同数か数的不利になってしまうので4-1-5のアンカー位置に入ることの多かった田中に負担が大きくかかっていたとも言えます。

(2)退場後から終了まで

 田中の退場後、ルーカスに代えて白井、高嶺に代えてキムミンテが入ります。田中の退場後はマンツーマンを止めて(一人少ないから当たり前なんだけど)ボールを失ったら撤退し4-4-1の守備ブロックを敷いて守ります。

 札幌が撤退4-4-1になったことで清水の後ろでの保持に余裕が出てきます。その代わりにマンツーを利用してのスペース作りができなくなってやや攻めあぐねる時間が続く清水でした。

 清水の勝ち越し点は85分。4‐4‐1ブロックを組んでも人への意識が強いのが札幌守備の傾向。

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 上図は2点目の少し前。右サイドから中央の中村にボールが渡った場面。札幌の並びはDFラインが右から白井、キムミンテ、宮澤、菅。中盤は右から鈴木、荒野、駒井、チャナティップ(この場面では駒井とチャナが入れ替わっている)。

 清水はここから中村がソッコのパスを出すと同時に西澤が左サイド奥にランニング。西澤がフリーだったので、後藤をマークしていたキムミンテがマークを離して後藤に付いていきます。

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 キムミンテが西澤についたので後藤は完全にフリー。そして荒野はヘナトを見ています。後藤をドフリーにするのはまずいので、自陣前に戻ろうとしていたチャナティップがその流れで後藤についていきます。

 西澤がワイドにキムミンテを引き付けたことでDFラインにギャップができて後藤がお約束のハーフスペースから裏狙いのラン。チャナティップが後藤についていくので中央にスペース。そこを埋めるために荒野が下がってきます。ヘナトがシュートを撃ったのはその荒野の左脇のスペース。本来そこを埋める駒井ですが、彼はカルリーニョスに引っ張られてDFラインまで下がっています。

 屁理屈うんぬんの前にヘナトのゴラッソなんですが、状況としてはこんな感じです。4-4-1撤退で自陣のスペース埋めていた札幌ですが、左サイドの組み立てに対して人につく守備、そこから右へのサイドチェンジで中盤脇のスペースが空いたこの形は前半と同じと解釈もできます。

5.最後に

 試合終了間際にはカルリーニョスのダメ押しゴールが決まり、3-1で清水の勝利でした。 

 初勝利の大分戦以降、後半になっても崩れることなく試合を通して安定を見せているのはよい傾向です。

 開幕からしばらくは自分達の形を表現するだけで手一杯感がありました。しかしここ数試合は相手の特徴にもしっかり対応しながらのプレーできています。さらにカルリーニョスやヘナトなど個々の強みも出せるようになってきました。ようやくJ1で勝てるチームまでレベルが上がってきたように感じました。直近3試合負け無しはその証明だと思います。