2021年明治安田生命第9節ヴィッセル神戸vs清水エスパルス"保持、非保持局面と失点場面についての簡単なメモ”

試合結果

ヴィッセル神戸1-1清水エスパルス

得点

74’エウシーニョ(清水)

88’古橋享梧(神戸)

ノエビアスタジアム神戸/屋内/気温19.1度)

スタメンと配置

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選手交代

清水 75’竹内(河井)、75’金子(中村)、75’後藤(鈴木唯)、88’ヴァウド(奥井)、90+1’福森(原)

神戸 60’初瀬(藤本)、60’増山(中坂)、82’櫻内(山川)

 

清水保持局面

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・清水の保持時は中村が降りて宮本がアンカーの3センターのような配置。

・宮本は基本2トップ裏にポジション。味方の保持に合わせて絶えずポジション修正していた。2トップを引き付けたり、2トップがプレスに動けばフリーになってボールを受ける位置に動いたり。宮本やその他選手も細かいポジション修正はスムーズになっていた。

・神戸は2トップとSHがかなり積極的なプレスをかけてくる。また内側低めで受ける中村にはCHの郷家も出てくる。そこでプレス時の神戸は山口蛍が中盤1枚で他は前後分断気味になることが多かった。

・清水は後ろでボールを動かして神戸を前に引き付けて裏のスペース狙っている。または中盤にできるスペースで中山や鈴木唯人が受けている。

・降りてきた中村が受けて右に決め打ち気味にサイドチェンジが何度か。中盤逆サイドにフリースペースができやすいのは事前にスカウティングしていたか。

・基本的には上記のように相手陣内にフリースペースを作って早めの攻撃が多かった。清水の現在地を考えると現実的かつ効果的な手法だったのではないだろうか。

清水非保持局面

・相手の後ろでの保持に対してまず中央への縦パスを消すのはこれまで同様。やみくもにプレスにいかず2トップのどちらかが後ろのスペースを消し、もう1枚がサイドを限定しに行くのが基本の動き。

・SHは前を気にしながらサイドへもいける中間ポジション。相手SBにボールが出たら縦を消すポジションに入り強くプレスをかけていく。

・CHにボールが入らない神戸は山口蛍がCBの左脇に降りてきていた。山口が降りると左SHの井上がCHの位置に入ってくる。

・清水は神戸の上のような可変の動きにも山口から中へのコースをまず消す。限定したらプレスに出て奪う。神戸は清水のファーストディフェンスを迷わす動きをあまりしてこなかった。したがって清水は比較的高い位置からプレスにいくことができていた。

失点場面について

 どう修正するべきだったのかはわからないが、個人的に気になったところを記していく。

 まずこの時間帯、神戸はロングボールを多く入れてきている。特に左SB奥井と神戸の右SH増山がミスマッチでそこにボールが入っていた。

 ロングボールが入り、それを起点にサイドからクロスを入れられている。そのためか宮本、竹内は少し後ろを埋める意識が強く感じられる。CHの埋める意識が強いと1列目と2列目の間が空きそこをフリーで使われやすくなる。ここまでが下地として考えたこの時の状況。

 失点場面のスタートは清水のカウンターが終わり相手キーパーが山口にパスを出したところ。この時プレスにいったサンタナの後ろで山口がボールを受けている。少なくとも前半は2トップ裏のCHにボールが入ることは無かった。チアゴは後ろに向かって前にきてくれとジェスチャーしている(少し前の場面でも後藤が後ろに向かって前にきてとジェスチャーしていた)。ここも中盤選手の後ろを埋める意識が影響したのではないだろうか。

 ライン間からライン上に降りてきた古橋に山口が縦パス。ここに竹内が対応しているが少し間を空けて縦パスを警戒するような動き。ただ横方向への制限は効いておらず古橋は2列目の前を右(清水の左サイド側)に横断。ラインの前で横断されると縦軸がずれやすい。宮本の脇から増山に縦パスを出された。ここでも2列目前がわりとフリーなのが気になるところだ。

 そこからクロス。クロスがファーに流れたが折り返されシュート。これが決まって神戸が同点に追いついた。

あとわずかの残り時間。神戸は攻勢を強め、清水は守り切れば勝利。そして神戸は長いボールでの陣地回復を狙ってくる。そこで清水の中盤が前を制限する意識が薄れた可能性は考えられる。

同点後、奥井→ヴァウドの交代。そして原を左SBに回す。これは中央の強度を高めるだけでなく奥井と増山のミスマッチを解消しロングボールによる後退を防ぐ狙いがあったのではないだろうか。

 以上が私の見解だ。では実際、どんな対応をすべきだったのか。それはわからないし、簡単にCHが前に出ろと言ってもピッチ内には複雑な状況があるだろう。しかし同じような状況になったとき何らかの修正が見られることを期待したい。それが見られるならこの試合の勝点1も前向きなものと言えるかもしれない。

 

 

2021年明治安田生命J1リーグ第6節柏レイソルvs清水エスパルス 観戦メモ

試合結果

柏レイソル1-2清水エスパルス

得点

4’鈴木義宜(清水)

28’チアゴサンタナ(清水)

66’神谷優太(柏)

三協フロンテア柏スタジアム/雨/気温19.5度)

スタメンと配置

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左利きは三丸

選手交代

清水 34’奥井(ヴァウド)、70’中山(金子)、70’後藤(カルリーニョス)、85’河井(宮本)、85’チアゴサンタナ(ディサロ)

柏 46’染谷(上島)、46’神谷(椎橋)、59’鵜木(イッペイシノヅカ)、80’高橋(三丸)、80’仲間(サヴィオ

 

 まず柏の保持。CBが持つと左SB三丸はサイドの高い位置。右SB古賀はあまり高い位置を取らない。そして左のCB脇にCHが降りることが多い(主に椎橋)。

 左SHサヴィオは内側にポジション取り、クリスティアーノは張ったり入ったり。2トップは細谷が前に張り、イッペイシノヅカは降りたり左サイドに流れたりと間に顔を出す動きをしていた。

 柏のCBは持ち運んで前をうかがうことはあまりしない。右SBの古賀や脇に降りる椎橋からボールの前進を狙うことが多かった。

 清水のファーストディフェンスは相手CBが後方中央で持つ時は積極的にプレスにいっていない。2トップは中央からの縦パスやアンカーの位置にいるヒシャルジソンを消すポジションを取っている。

 ボールが古賀に入ると左SH金子が積極的にプレスに出ていく。右SH西澤は三丸が上がるとそれに合わせて低い位置まで下がっている。なので2トップと西澤の間は空きがち。そこを椎橋に運ばれた時は河井が前に出てスペースを埋めている。清水の守備基準を大雑把に表すと下の図のようだ。

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 先に述べたように柏のCBは基本持ち運びをしていない。またCHがブロック内の間で受けて中央でゲームを作る動きはしない。柏の特徴はサイドからの攻撃。サイドの高い位置で右はクリスティアーノの右足、左は三丸の左足を生かしたいようだった。

 上に書いた清水のファーストディフェンスは柏のビルドアップのスタートを目詰まりさせるような挙動だ。ボールを持つ時間が長い柏だったが、両SBと脇に降りる椎橋を塞がれ上手く前にボールが入る場面は少なかった。

  柏のチャンスに繋がるのは後ろから長いボールを入れ、落としをシノヅカが受けて間を使われた時だった。清水の両SHはSBをケア、CHの1枚河井が椎橋を見るので少し中盤が空き気味。

 清水のCBは基本ゴール前から動かないのがこれまで観た試合での特徴だ。しかしこの試合の鈴木はサイドへのスライド、前への追撃とかなりゴール前から動いている。おそらく上でかいたようなシノヅカの動きをケアするため与えられていたタスクではないかと思う。

 この試合の清水は相手の保持の形に合わせて人基準度合いが強いを守備をしている。それぞれに役割が明確に与えられているような動きだった。これはこれまで見せてきた守備のやり方とはだいぶ様子が違っていた。 

 次に清水が保持した時。後ろで持つと早めに前に入れていく動きが多かった。2トップへのくさびや、中盤の選手へも相手の2列目を越えるようなダイレクトなボールを入れている。SBは中に入ってビルドアップのサポートをせず基本はサイドを上下動。ここからも後ろでの保持は意識していないのがわかる。

 前へダイレクト、もしくはサイドからの前進。これらは柏の前線の激しいプレスからのショートカウンターを外す意図があったのではないだろうか。推測。

 この試合での気づき。表面に見える型だけを見ていてはロティーナのサッカーを理解できない。ロティーナはまず相手の強みを消して試合を有利に持っていく。そしてそれに対応するためのプランを練り、適した選手を起用する。試合の状況自体を作り出している。この試合、これまでと違いワイドアタッカーを置かない4-4-2で挑んだのはそのような意図からではないだろうか。

 言いたいことは概ね以上。でもせっかくだから後半の様子も書いておく。

 後半開始と同時に柏は選手交代。椎橋に代えて神谷、上島に代えて染谷。システムは4-1-4-1のような。

 神谷は右サイドにボールがある時、下のように金子を古賀とはさむような位置を取っていた。(言い換えると金子と竹内のライン上)

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  神谷はこのライン上やラインから下がって受ける。また大南が持った時はラインから上がって大南をフリーにしたり。神谷のポジショニングで竹内、金子のラインが影響されて少しフリーができてきた。後半はこの神谷を中心にボールを運ぶことができている。また後半はDFラインに中盤が降りずCBだけでボールを動かす。後半入った染谷はボールを動かせる選手に見えた。よって左サイドも前半に比べスムーズになってきている。

 66分、古賀から細谷。細谷のラストパスを神谷が決め柏が1点を返す。しかし後は清水が選手交代を絡めて反撃を断ち切り2-1で試合を終わらせた。

 

2021年明治安田生命J1リーグ第4節 清水エスパルスvsサガン鳥栖 レビュー”相手の前進を許容しているエリアから清水の狙いを考える”

試合結果

清水エスパルス0-0サガン鳥栖

得点

なし

IAIスタジアム日本平/晴/気温19度)

スタメンと配置

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エドゥアルド、中野が左利き

選手交代

清水 64’竹内(ヘナトアウグスト)、64’後藤(鈴木唯)、72’中村(河井)、72’ディサロ(チアゴサンタナ)、西澤(カルリーニョス

鳥栖 62’本田(林)、89’酒井(山下)、89’大畑(小屋松)

 

 主題は清水の守備だが前提として鳥栖の保持をざっくりと。

 鳥栖の保持時はおおむね下図のような配置を取っている。

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 左サイドの移動が特徴的。これで後ろから丁寧に繋いでいく。相手陣内では2トップとIHで中央、ハーフスペースを攻撃。相手DFが中央を締めたら空いたサイドのスペースをWBが上がり攻略していく。

 この攻め手に対し4バックで横幅をケアするのは難しい。そこで清水はこの試合今期初めて3バックを採用することになった。

 さて本題。鳥栖の保持に対する清水の守備だ。清水は鳥栖のCBの真ん中にはほぼプレスにいっていない。しかし2トップの1人は縦パスを切り、もう1人がアンカーの選手を抑える動きを見せている。鳥栖はGK朴がCB間に入ったり、アンカー松岡が降りたりするが清水の動きは変わらない。

 左右のCB、ソッコまたはエドゥアルドにボールが出たらプレスのスイッチ。IHの鈴木唯人や河井が内側を切りながらプレスにいく。

 右CBのソッコは右利き、左CBのエドゥアルドは左利き。なので清水のIHが内側からプレスにくればサイドにはボールを流しやすい。しかし単純なサイド攻撃なら3バックで中央とハーフスペースを埋め、サイドはWBで対応できる。ここからわかるのは清水はサイドからの前進はある程度許容し準備していることだ。

 鳥栖は当然、中へのルートを作っていきたい。しかし中へのコースは清水のIHが蓋をしている。鳥栖としては清水のIHを動かしたい。

 そこで鳥栖の動きを表したのが下図だ。

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 まずWBが前に上がらず低い位置を取ってくる。WBが低い位置でボールを受けて清水のIHを動かそうとしていたようだ。例えば中野が低い位置まで降りてボールを受ければ鈴木唯人がスライドを強いられるからだ。

 さらに鳥栖はアンカー横に降りてくる仙頭のポジショニングで鈴木の守備を動かしてパスコースを作る。

 これで徐々に仙頭から小屋松のルートが開くようになり、鳥栖がボールを前進できるようになってきた。

  ここでヘナトの振る舞いに目を移す。普通に考えればあらかじめヘナトが鈴木の後ろのスペースにスライドしておけば小屋松はフリーにならない。しかしヘナトの動きを見ると、彼はあまりスライドしていない。なぜだろうか。この理由を推測する。

 私の推測はヘナトをCBの前に固定したかったからだ。仮にヘナトがスライドした場合を下の図に示した。

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 もしヘナトがスライドしても小松屋にかわされた場合、もしくはWB中野を経由して中央を狙われた場合が問題だ。2列目のラインがブレイクされ、かつCBの前にスペースができる。そして3バックに対して4枚で攻め込まれてしまう。

 次はヘナトがCBの前にステイした場合。

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 CBの前に1列ラインを作っているので直接相手の侵入にさらされない。カルリーニョスが松岡への横パスを切ってさえいれば、小屋松にはフリーなパスコースがない。しかも前に多少のスペースがあるので、小屋松は前に運んで2トップへのパスを選択しやすくなる。清水側からみればプレーを誘導している状態だ。

 ここでようやくヘナトがプレスにいく。止められればOK。パスを通されてもプレーが制限されていれば最悪3対3でも対応できる。

 ここでも清水は小屋松にボールが入った時にフリーで運ばれるのを多少は許容していると言える。

 こちらが意図した許容は相手のプレーを誘導しているということ。誘導することでこちらの狙った場所で食い止める。つまり許容は相手のプレーの限定に繋がっているとも考えられる。

 この試合で言いたいことはここまで。だが以下、点を獲る狙いにも簡単に触れておく。

 先ほどの場面図をもう一度登場させる。

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 さきほどと同じ図だが表しているのは、ヘナトがCBの前に壁を作って相手からボールを奪ったところだ。

 この時、図に丸印で表したようにサンタナが前で浮いている。そして鳥栖のCBはビルドアップのために左右に開いている。これでカウンターを撃つのは狙いの1つだったのではないかと思う。

 次に後ろで保持した時も。鳥栖は 清水が後ろで保持するとヘナトを2トップの1枚で抑えながらサイドに誘導するようにプレスにくる。

 そしてHV(立田や鈴木)をサイドに追い込むとそこからの全てのパスコースを消すように強くプレスをかけてくる。鳥栖はサイドの高い位置を奪いどころに設定しているようだ。

 ここから清水の狙いで見えたものが2つ。

 1つは鈴木唯人が相手を引きつけたスペースを使う。

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 よく見られたのが唯人にHV中野がついてできるスペースにサンタナカルリーニョスが流れるプレー(上図)。その他には唯人がサイドに開いてコースを開かせ内側を通すプレーも見られた。

 左サイドでも河井は下がるより裏を狙っていた。これらからHVから裏のスペースへの狙いは強くあったと思われる。

 2つ目は唯人を使った逆サイドへの展開。

 前半2:50辺りにカルリーニョスへのくさび。レイオフで唯人が受けて逆サイドへの展開が代表的だ。

 鳥栖はサイドに全体で寄せてくる。これを回避すると逆サイドはフリーになっていることが多い。

 しかし鳥栖はすぐに立田からFWへのフィードをケアするようになる。それでも清水は前のスペースを狙い脇から脇へのパスを繰り返している。結果、ただ前に蹴るだけの形になる。開始しばらくは清水も意図した前進を見せていたものの多くの時間は鳥栖にボールを渡すことになってしまった。

 後半の清水の変化で見えたのはサイドレーンへの守備。鳥栖のWBが持ったら清水ははっきりとWBを前に出すようになった。これでIHが内側から動かなくなり中へのパスコースを消すことができていた。

 ここから少しプレスゾーンを高くしてショートカウンターに繋げるようになる。後半の頭に勝負を仕掛ける感もあったが逆に前半抑えていた後ろのスペースを使われることもあった。

 失点は避けたい清水は再び守備に比重を置くようになる。その後前目の選手交代で1点を狙う意図を見せるがあまりはまらず。試合はそのままスコアレスドローで終了した。

 失点を避ける意識が強かった清水だが、強く意図したものは遂行できていたと思う。ひいき目だがあらかじめ用意したお互いのプランは互角と言ってよいかもしれない。

 しかし試合中に相手を見ながらのやりとりは鳥栖の方が大きく上回っているように感じた。一方、清水は後半の入りに明確な修正を見せたがそれ以外は少し愚直すぎた印象だ。

 鳥栖相手にアウェイでドローは満足といっていい結果かもしれない。守備的と言われるかもしれないが狙いのやり取りは濃厚な楽しさを感じた。しかし次回は勝点1を3に伸ばしたい。そのために監督のプランだけでなく試合中のやりとりでも互角に戦う試合が見られることを期待したい。

2021年明治安田生命J1リーグ第3節 セレッソ大阪vs清水エスパルス レビュー ”第2節までに見られた清水の特徴からセレッソ大阪戦を考察する“ 

試合結果

セレッソ大阪2-1清水エスパルス 

得点

5'中山克広(清水)

22'西尾隆矢(C大阪

84'清武弘嗣C大阪

 (ヤンマースタジアム長居、晴、9.2度)

スタメンと配置

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 清水の攻守の特徴に沿いながらこの試合について考える。

 まずは攻撃の局面から。中でも清水の得点を狙う形からみていく。

 ここまでの試合、清水のチャンスは左サイドが起点になることが多いと感じる。よく見られるのが下に表した形。

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 左ワイドにカルリーニョス。広がった相手のSB- CB間のスペースを片山が狙う。ゴール前にチアゴサンタナ。ファーに後藤と中山が入っていく。

 ここから狙うは主に以下の3つ。

1)片山にパスを出してポケットからクロス

2)片山に相手の中盤がついたらそのスペースにカルリーニョスがカットインしてシュート。(動画はちょっと違うけど左ワイドで持ったらハーフスペース突撃とそれにより空いたスペースを使うところを見てください。)

 3)インスイングのクロスをファーに入れて後藤や中山がゴールを狙う。

 ポジションや役割が入れ替わることはあるが、これに近い動きは頻繁に見せる。また上記の形を作るための左サイドへのボールの運び方も相手に合わせて変化する。

 開幕から2試合は中村慶太をIHの位置でプレーさせカルリーニョス、片山と三角形を作り崩しながら左サイドを前進していた。

 C大阪戦ではここが少し変化。中村に代わり河井を起用。ビルドアップの時に河井を CBの左に降ろしてプレーさせている。

 後ろ3枚の清水。そして左は組み立ての起点になれる河井。河井がボールを持って前をのぞくとC大阪はSHの坂元を前に出してプレスにくる。坂元が前に出るのでC大阪の右SB松田はカルリーニョスと片山を気にする状態。これで松田を狙い打つように長いボールを左奥に送ってサイドの起点を作っていた。

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 このビルドアップから何度かチャンスが生まれている。

 またC大阪のCBは割とボールサイドにスライドしてくるが、逆サイドのSBやSHはあまり絞ってこない。そのため右サイドから後藤や中山がゴール間に入ってくると浮きやすくなっていた。例えば開始直後の中山、また10分の後藤の決定機。これらの場面で彼らはほぼフリーでシュートを撃てている。

 しかし前半の半ば頃から坂元がやや後ろやサイドのスペースを気にするようになる。さらにそれまでDFラインにとどまる意識が見えた松田がサイドに早めに出てくるようになった。これでC大阪の守備対応が明確になったように感じる。よって清水は徐々に左サイドで良い状態でボールが持てなくなってしまった。

 一方、右サイドに目をうつす。右サイドのざっくりした役割はSHの中山は幅取り役、IHの後藤はセカンドストライカー。なので後ろの組み立てはCBのヴァウドとSB原で行いたい。しかしヴァウドがオープンな状態でボールを持てないため相手の守備を動かせない。ときおり後藤が降りてボールを受けるものの右の組み立ては原が大きなウェイトを担う状態になっている。

 原はポジションを中や外に動いて中山へのコースを作ろうとしていたが、清武は原のポジションに動かされず基本はサイドをケア。原は単独で打開するタイプでないため相手に対応されるとよい状態で中山にボールを届ける場面は少なくなってしまった。

 次に守備の局面を見ていく。

 システムでいうと4-4-2と4-5-1の中間のよう。しかしシステム表記に無理に当てはめるのはあまり意味がないと思える。ラインを作ってブロックを固めるより、ボールと味方の位置を見ながらポジションを取っているように見えるからだ。具体的にみていく。

 まず相手が後方で持つ時はサンタナと後藤でプレスに行く。ただし奪いにいくよりサイドを限定するようなプレスだ。

 そしてFWの脇に運ばれたらサンタナがサイドを限定したまま後藤が少し斜めに下がる。これで斜めに中へ入れるコースを消す。(下図)

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 次に左に運ばれた時。先ほどと同様にサンタナが下がる時もあるが、河井やカルリーニョスが出る時が多い。その時の動きを下図に示す。

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 例えばカルリーニョスが前に出たら河井と竹内はスライド。カルリーニョスはサイドを切りながら前に出るが、それでも通されたら河井がさらにサイドにスライドする。そしてカルリーニョスは河井のいたスペースに入る。こうして常に中を埋めながらサイドで奪う。

 その際、逆側のスペースが気になる場合は後藤が下がって中盤ラインを形成する。これで見た目は4-5-1。

 当然必ずこの通りに動くわけではなく、ボールと味方の位置によってプレスとスペースを埋める選手は変化する。

 この試合でも相手が縦パスを入れるコースを消せており、セットした時はほぼ崩されることはなかった。

 しかし少し気になることが2つ。あくまで気になる程度。

 1つはサイドチェンジをされた時。しかもこちらの2列目を越えるように斜めに深くサイドチェンジされた時だ。 

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 上図のようなボールを入れられると、右サイドで前向きな守備から、左側にスライドしながら後ろに下がる守備に変化する。つまり身体の向きと動きの方向を逆に変えなければならない。しかも移動距離が長いため即座にポジションを取れない。

 C大阪はサイドチェンジから清水がセットしきる前にサイドから真横にパスを入れていた。

 守備をセットできないと個々の守備対応の強さに左右される。C大阪のチャンスはこのパターンが多かったように見えた。

 もう一つ気にになったのが相手のボールを奪っても、再びすぐ奪われてしまった時だ。切り替えの切り替え。これは福岡戦で特に目についた。攻撃に転じる際にIHが前に上がっていくためどうしてもアンカーの竹内の周辺にスペースができてしまう。福岡は意図的にそこを狙っていた節も感じられた。ここを狙われた時にどう修正するかは注目だ。

  選手をあまり前に上げず後ろで作り直すのか。または中盤にボールをガードしながらキープできる選手を起用するのか。セレッソ戦では中村の代わりに河井を起用し保持時に低い位置に置いたのはここも関係しているのだろうか。そこはわからない。今後の起用を見ながらまた考察を進めていきたい。

2020年明治安田生命J1リーグ第34節 ガンバ大阪vs清水エスパルス レビュー【未来に繋げる勝利に】

 

1.はじめに

 一時は全日程の開催も危ぶまれた今年のリーグ戦もついにラスト。大変だった1年もここまできたかと感慨深いものがあります。

 さて最終戦の相手はガンバ大阪。33節消化時点で2位につける強敵です。

 かたや前節最下位に転落してしまった清水。しかし他チームの結果次第ではまだ順位を上げる可能性が残されています。今シーズンは降格無しとはいえ一つでも順位を上げて終えたいのは当然のところです。

 そんな気持ちがあらわれたように試合開始から激しいプレスとスピーディーな攻撃で互角の戦いを繰り広げる清水。

 前半をスコアレスで折り返すと後半セットプレーの流れから先制。そして追加点を奪いそのままG大阪の反撃を抑えて2-0でタイムアップ。2020年のラストゲームは平岡体制初のクリーンシートで見事勝利。苦しかったシーズンでしたが最後を有終の美で飾ることができました。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-4-2

 エウシーニョ以外の外国人枠選手がベンチ外。先日引退表明した吉本がセンターバック、ルーキーの川本が2トップの一角に入りました。そして清水の誇る天才河井陽介ボランチのポジションで起用されています。

G大阪のシステムは1-4-4-2

 清水と同システムでマッチアップする形。前節のスタメンから変更したのは塚本、福田、キムヨングォンの3人。ベンチ含めてホームで対戦した時と比べ全体的に若いメンバーになっているのが印象的です。

3.相手に持たせてのカウンター

 前回対戦では清水がボールを持って攻め込むも決めきれず、逆にG大阪の決定力に沈み1-2の敗戦。

 しかし今回はG大阪がボールを持って清水が守る前回とは逆の試合展開となりました。

 G大阪はパトリックへのロングボールをあまり使わず後ろから繋いできましたが、そこがこの試合のポイントの一つだったと思われます。

 対して清水は守備から入ってカウンターに勝機を見出すプランだったよう。

 その清水の守備を見ると中央を消しながら高い位置からプレス。これがこの日のG大阪にはかなり効果を発揮していました。というのもG大阪の強みは両ゴール前。相手ゴール前では脈絡がなくてもゴールを決めてしまうしセットして守れば攻められているように見えても守り切ってしまう強度があります。

 なので守る時はなるべく自分達のゴールから遠ざける、点を獲るためにはなるべくG大阪にセットさせないことは対策として考えられる手段です。

 清水のやり方を具体的に見ていきましょう。G大阪は中盤でボールを受けるボランチが攻撃の起点。清水の守備はまずここを抑えることを意識していたようです。

 G大阪がボールを持つと、後藤がG大阪ボランチを抑えた上で川本を馬車馬のように走らせてセンターバックのプレーを制限。これでセンターバックからボランチへの中央ルートを遮断しつつ、センターバックから逆サイドへの展開を防ぎます。

 G大阪ボランチは中央でボールを受けることができないと、少し脇にずれてボールを受けようとします。清水はそこにも中のコースを消しながらプレスをかけサイドに誘導。結果、G大阪の前進は下図の赤矢印のようなボランチサイドバックサイドハーフのコースに限定されていくことになります。

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 おそらく相手をサイドの狭いエリアに誘導してサイドハーフに入ったところを囲い込むのが清水の守備の狙い。

 奪った後は切り替えの意識を強く素早いカウンターです。ボールを奪うと川本か後藤がセンターバック脇のスペースに流れ、逆サイドのサイドハーフがゴール前に入ってくる形を見せます。

 試合のスタッツを見れば支配率、シュート数、ゴール前への侵入回数などG大阪が上回っていますが、内容はそこまでG大阪が支配したわけではなかったと思います。

 理由はまずそもそもプランとして清水は相手にある程度持たせることを意識していたこと。そしてG大阪の攻撃は清水の守備に限定されやや強引で清水は対応可能のものが多かったように感じます。

 枠内シュートは清水が上回っているのを見ても相手にとって危険なプレーでは清水も引けを取っていなかったと思います。

4.動いてスペースを作っての速い攻撃

 次に清水が保持した場面も見ていきましょう。システムが同じなのでマッチアップする相手はお互いはっきりしています。そこを上手く剥がせるかが保持した時のポイントとなっていたような気がします。

 まず後ろでボールを持った時は清水の方がボールを左右に動かせていたように見えます。また2トップが引いたりサイドのスペースへ流れて、2トップが空けた中央のスペースにサイドハーフが入ってくるポジションの移動でマッチアップをずらします。

 ボールを左右に動かし相手の守備を広げることと、ポジションの移動でマークをぼやかすこと。これでスペースができたら素早く使って前にボールを運ぶ。基本はこんな攻め手である程度ボールを相手陣内まで運べていたと思います。また中央でボランチの河井がクッションになれたのもサイドハーフの負担を減らす意味で大きい効果があったと思われます。

 ただG大阪は撤退してからの守備が強く中々最後を崩せません。それでもサイドの奥までボールを運べたことはショートカウンターのリスクを減らす効果はありました。準備されていない状態でカウンターを受ける機会はそれほどなく、最後は立田と吉本が対応できる状態を作れていたと思います。

5.後半強度を維持して逃げ切る

 激しいプレスと動いてスペースを作っての速い攻め。フィジカルの消耗が激しそうな試合展開。加えてG大阪の個の強さを考えても各ポジションの強度の低下は命とりとなりそうです。

 後半の入って49分、コーナーキックの流れから川本が決めて先制すると61分に河井に代えて六平。その後64分に金子のゴールを決めると71分に吉本に代えて西村(吉本は急遽の出場にも関わらず本当に素晴らしいプレーを見せてくれました。感動)。リードを奪うと選手交代で強度の低下を防ぎ逃げ切りを図っていきます。

 G大阪も矢島、渡邉千真の交代から5人の交代枠をフルに使って反撃を試みますが、清水は強度と集中力を保ちゴールを割らせません。そして清水がそのまま逃げ切り2-0で試合は終了しました。

6.最後に

 後ろから組み立てて前進する意思の強かったG大阪。それに清水の得意な中央を消しながらのプレスが上手くはまった試合でした。

 しかしただプランがはまっただけではG大阪に勝利することはできなかったでしょう。急遽出場が決まった吉本、川本を筆頭に他の選手も皆、局面での勝負に負けず自分達のプランをチーム一丸となってやり切ってくれました。

 これは平岡監督就任以来変わらない見解ですが、やっていることはシンプル。しかしそれを上手く相手に嚙み合わせ、さらに選手にやり切らせること。そこが平岡監督の強みだと思います。

 コロナ禍の影響で全てのチームが苦しんだ今年のリーグ戦。その中で新しいスタイルの構築を目指した清水エスパルスにとってはさらに苦しいシーズンとなりました。

 だからこそ最終戦、まさに今持てるものを全て発揮して勝利してくれたことを大変嬉しく思います。

   この1年に意味はあったのか。この勝利がエスパルスの未来に繋がるのか。それを決めるのはこれから次第。私はそれは必ずなされるはずだと信じています。

 

 

2020年明治安田生命J1リーグ第32節 鹿島アントラーズvs清水エスパルス レビュー【相手の土俵】

 ここ数年すっかり苦手化している鹿島アントラーズとの対戦。振り返れば2015年3月の勝利以来一度も勝っていないらしい。

 とはいえ平岡監督が就任してから上昇気流に乗りつつある清水エスパルス。ここで悪い流れを断ち切って久々の勝利が期待された。

 しかし開始早々の2失点。それを最後まで跳ね返せず0-2の敗戦だった。決して圧倒された内容ではなかった。しかし試合巧者鹿島に要所を締められずるずるとペースを握られてしまった格好だ。

 

 スターティングメンバーと配置は下図の通り。 

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・清水のシステムは1-4-4-2

 ディフェンスラインは前節と変わらずだが中盤から前は大幅のメンバー変更。注目はユース所属で2種登録の成岡。クラモフスキー体制では主に中盤中央に配置されることが多かったが、この試合では右SHでの起用となっている。

・鹿島のシステムは1-4-4-2

 メンバーは前節と変更無し。保持した時はSHが中央に絞りFW同様に振る舞う1-4-2-2-2のようになるのが特徴。

 

鹿島が保持した時は

・前線ポスト役への長いボール

・サイドでシンプルに動かして前へ

 

 主にこの2パターンが多いように見えた。

 ポストへのボールは収まれば良し、五分五分になっても内側に絞っているSHと前に押し上げるCHで即座にプレスをかける位置を取っている。鹿島の動きはトランジションが中央付近で起きた時に優位になるようあらかじめ設定しているようにも感じる。

 サイドからの前進の際にはまずCBが運んで清水の前線を動かす、または後ろを3枚(GKを入れる、CHを降ろす)にして横に動かしながら清水のSHを引き付ける。高い位置の中央付近から塞ぎたい清水の守備を前や内にずらして速いタイミングでサイドを動かしていく。

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 これら2つのパターンはどちらも清水の守備の網(高め、内寄り)を回避するような動かし方。

 しかも鹿島はSHが中央に絞って中へのパスコースを作っている。そしてCBはそれをのぞきながらボールを横に動す。早めにプレスをかけたい意識の清水の守備はそれに反応してより中盤の背後やサイドにスペースを作ってしまっていた。

 ボールをゴール近くに運んだ鹿島は2トップ+SHのコンビネーション。特徴は必ずボールに寄せにいく守備者の背後を突く動きが組み合わされているところ。

 中で詰まったらシンプルにサイドに開いてクロス。この辺はヤンヨンソン時代の清水の攻撃とイメージが重なるものがあった。

 

清水が保持した時は

・SBとSHが絡みサイドからの前進

・SB、SHだけだと詰まるのでヘナトがサイドに回っての打開(右サイド)

・鈴木が降りてきて起点になる

 

こんなところかな。

 鹿島はサイドに押し込めるようなプレス。プレスをかけ始めたらボールホルダーのパスコースを消す。持ち場を捨てても一気に押し込んでくるのが特徴。

 清水はサイドのパスコースを消される。ボールが通ってもボールサイドに寄せてくる鹿島の守備者にすぐ捕まってしまう。エウシーニョを中心にボールを運ぼうとしてもSHや2トップにボールが入った時に奪われることが多くなっていた。

 鹿島はプレスを回避されたらまず中央を消しながら下がって4-4-2を組む。清水もヘナトの飛び出しやエウシーニョのカットインからチャンスを作っていたがこの442ブロックを崩しきることができなかった。

 清水はサイドで詰まると鈴木やSHの選手が下がって受けるなどポジションを動いてボールを繋いでいこうとする。鈴木が降りることで宮本と共にボールを動かせる場面も出ていた。しかしヘナトの飛び出しも同じだが動いたことでネガトラが発生した時にスペースができてしまう場面が散見していた。

 

 これまでの試合を観てきて、清水は持っていない時にどう上手くやるかを中心に試合を組み立てているような気がする。ボールを保持している時はSHがどれだけ上手くボールの中継地点になれるかにかかっていて、他にそれほど手立てがあるわけではない。言わば現時点ではトランジション勝負のチームだ。

 しかしトランジション合戦の観点で見ると鹿島の方が上手く設計されているように見える。鹿島にプレスを回避された上、ボールを持たされてしまった清水は相手の土俵での勝負してしまった格好だ。これは個々の頑張りだけではどうしようもない部分だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年明治安田生命J1リーグ第31節 清水エスパルスvs川崎フロンターレ レビュー【やるべきことに集中する強さ】

1.はじめに

 今シーズンの優勝を決めた川崎フロンターレとの対戦。アウェイでは手も足も出ないといった敗戦でしたが今回はホーム。チャンピオンチームに敬意を表しながらも清水の選手達の心中は燃えるものがあったことでしょう。

 試合が始まれば、力強いプレスと奪って鋭いカウンター。まさにその気持ちがピッチに表れたような内容でした。

 結果は終始リードを奪いながらも最後に追いつかれ2-2の引き分け。悔しい気持ちは残りますが、川崎相手に一歩も引かない戦いぶりは心に響くものがありました。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-4-2

 現状のベストと言える布陣。サイドハーフの金子と西澤のポジションが左右入れ替わっているのがちょっとした変更点です。

・川崎のシステムは1-4-3-3

 すでに優勝を決めた川崎ですがほぼ主力といえるメンバー構成で挑んできました。なお前半の早い時間に左サイドバックの登里が負傷により旗手と交代しています。

3.中盤に網を張ってのカウンターの狙い

 清水の先制点は前半の11分。川崎が中央に入れた縦パスをヘナトが奪ってカウンター。竹内がヒールで落としたボールをカルリーニョスがゴールにねじ込みます。

 この中央で奪ってカウンターはまさに清水が狙っていた形だったと思われます。

 清水の守備を図示するとおおむね下のようになっています。

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 川崎のセンターバックにはある程度持たせた上で、

 

・2トップ(カル、後藤)はアンカーへのコースを消す。

サイドハーフ(金子、西澤)は身体を内側に向けながらもサイドへのパスコースを切るポジションを取っている。

・2トップの脇に降りてくる選手へはボランチが前に出てプレスをかける。

 

 つまりちょっと引き込んで中盤の高めの位置(図で丸く囲った辺り)に網を張る。こぼれたボールはヘナトが回収です。

  さらにボランチの選手が前に出た時は2トップの1枚が中盤に下がって中のスペースを埋めています。この動きからも中のスペースを消すことはかなり意識されていたよう思えます。

 これでボールを奪えばひっくり返して相手のセンタバックの脇と中央を使ってカウンターを撃てる状態になっています(下の図)。

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 川崎の保持は田中が下がってきたり、家長もふらっとスペースを求めて動いてきたりと割とポジションを動かしてボールを引き出す傾向がありました。しかもビルドアップが詰まるとその傾向はより強くなるようでした。

 先制の場面では家長が降りきて守田が少し前に上がっていたためボールを奪われた時に中央のガードが上手く効いていません。 

 少し中で強引に繋ごうとする川崎とそこを上手く消している清水の守備。それが清水にとっては上手く噛み合って守備で主導権を握れている。そんな前半の流れでした。

4.サイドを攻められるとちょっと弱い

 守備の局面では中央を上手く塞げていた清水。しかしサイドを起点に攻められると少し弱さを見せていました。サイドを攻められるとサイドハーフの守備の位置が下がって、それにつれてブロック全体も自陣に押し込まれてしまいます。

 またサイドバックをサイドに引き出され出た時にできるセンターバックとの間のスペース。ここに走り込まれてしまうとあまり上手く守れていません。

 下は川崎の1点目の直前を図にしたもの。

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 サイドで持った田中にエウシーニョが対応。エウシーニョが開いてできたスペースに三笘が入ってきて、それをヘナトがカバーしています。

 そしてヘナトが動いたスペース(図の丸く囲った場所)を使って守田→田中→ダミアン→田中とほぼワンタッチで繋いで田中のゴール。

 この得点のようにサイドを起点にしてサイドバックセンターバックの間のスペースを使う攻撃はこれまでの試合でもやられている形です。

 この試合でもサイドを重点的に攻められていたらもしかしたらもう少し苦戦していたかもしれません。

5.後半の選手交代について

 後半に入ると川崎はサイドからの攻撃を増やしてきました。そのため清水のサイドハーフは高い位置をキープできずブロック全体もやや下がりがちになっていきます。

 清水の交代はまず金子に代えて鈴木唯人。サイドの運動量を取り戻すこと、前への推進力を強めるための納得の交代。

 66分には負傷のカルリーニョスに代わってティーラシン。

 そして83分に竹内、ヘナトに代えて西村と宮本。この試合での清水のボランチは最前線へのプレスからディフェンスラインのギャップ埋めまで上下にかなりの運動量を求められていました。そして中で奪ってカウンター狙いの清水にとってボランチの守備強度の低下は命とりです。それでも絶対的といっていい竹内、ヘナト。そこを代えるのはかなりの勝負手でした。

 89分に川崎山根に決められ2-2の同点。リードを守り切れず失点してしまいましたがあくまでそれは結果論。中盤の強度維持を若手二人に託した平岡監督の交代策はしびれるものがありました。

6.最後に

 少し冷静に見れば、中央の守備は固いがサイドを攻められるとやや不安定。そして主な攻め手はカウンターとこれまで通りの特徴が見られた試合です。

 優勝を決めた川崎は相手に合わせるよりも中盤の構成力を生かした自分達のやり方を通したかったはず。それが功を奏したと言えるかもしれません。

 それでもここまでのリーグ戦において絶対的な強さを誇った川崎をぎりぎりまで追い詰めるのは簡単なことではないでしょう。

 できることに集中してそれをやり切る強度。それが自分達の強みとして確実に身に付いてきている証だろうと思います。