マッチレポート【2022年明治安田生命J1リーグ第3節 横浜Fマリノスvs清水エスパルス】

 今回はざっくりと。あまり見直していないので、おかしなところがあれば指摘してください。

 まずはスタメンとシステム。

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 エスパルスは4-4-2。マリノスは4-2-3-1。メンバーとシステムを把握したら、まず前半におけるそれぞれの攻守の局面の振る舞いを見ていきましょう。

まずはエスパルスの攻撃。マリノス側からみれば守備の局面です。

 エスパルスセンターバックボランチが補助して後ろではボールを保持する意思を見せます。そして中盤に降りてくる唯人、またはサイドにボールを入れて前進を狙います。これはいつもの試合通り。

 これに対してマリノスは高い位置からサイドに押し込むようなプレスをかけていました。

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 エスパルスはこれを回避できずに狭いエリアでのプレーを強いられています。常にプレッシャーをかけられて、プレーは不正確になるし、次のプレーも相手に読まれやすい状態です。

 逆にマリノスとしては狭い場所を守ればいいので、思い切ってプレスにいけるし、相手のプレーも読みやすい。

 開始3分にショートカウンターを食らった場面はその典型例です。白崎は無理めに唯人へのパスを狙っているし、マリノスボランチ藤田は白崎がパスを出す前に、唯人へのパスコースを予測してスライドしています。

 2失点目もこれと同様。結果的にパスを引っかけられたのは立田ですが、すでにチームとして余裕のない状態を作られていました。

次に、エスパルスの守備。マリノス側からみれば攻撃の局面です。

 前半通して、エスパルスの守備はボランチの周辺にフリースペースを作られています。白崎、竹内の2人だけでここをカバーしている状態でボールを奪うことができません。中盤でボールを奪えないと得意のカウンターも発動できず相手に押し込まれてしまいます。

 そこを前線の守備から見ていきましょう。2トップの唯人とコロリは、それほどガンガンとプレスにいっていなくて、はじめは相手のボランチへのパスコースを塞いでいます。それでもマリノスボランチはフリーになっています。

 何でかなと見てみるとマリノスは、センターバックが運んでエスパルスフォワードを釣り出したり、一度サイドバックを経由して前に出てきたフォワードの裏にボールを入れています。

 2トップを越えると、中盤では藤田、小池のボランチにトップ下の吉尾も加わり、エスパルスのダブルボランチを翻弄します。

 例えば、小池が竹内を引きつけて藤田へのパスコースを作ったり。↓

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 藤田がサイドに流れて白崎を引きつけて、中央にスペースを作ったり。↓  

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 このように人に食いつく守備を利用されエスパルスボランチは動かされます。ボランチが動いたら、サイドハーフが絞ってカバーしたいのですが、特に中山はサイドに開いたままで絞る動きをあまり見せません。おそらく奪った後のカウンターに備えていたのだと思います。しかし白崎と竹内の2人で数的不利な中盤を全てカバーしている状態はかなり厳しいです。

 またエスパルスが前からはめ込んでいこうとすると、右センターバックの岩田がズバッと縦パスを入れてくるのも難儀なところでした。

  そんな感じで、中盤フリーで前に向かってこられたら、当然ディフェンスラインはゴールを守るため真ん中を締めます。するとサイドの高い位置に張っているウイングを使って突破を狙われます(特に宮市サイドで仕掛けられていた)。

  このように中盤で奪えない。奪っても低い位置なので前線は孤立する。そのため得意のカウンターが繰り出せない。攻守、また切り替えの局面と全ての局面で相手に上回れてしまう前半の流れでした。

後半についても振り返ってみます。

 前半いまいちで後半に修正するのは、前2試合と同じ(ジュビロ戦もビルドアップは上手くいっていなかった)。

 またその交代策も、まずは2トップの片方とサイドハーフを入れ替えていくのはこれまでの試合と同じでした。

 今のエスパルスは唯人にいかに前向きにスペースを与えるかが重要なチームです。2トップの片方に裏を狙わせて相手のディフェンスを押し下げスペースを作るか、コロリに収めて唯人が前向く時間を作ってあげるか。前半の相手の状態を見ながら使い分けるといったところでしょう。

 今回は後半にコロリに代えて岸本を前に入れて裏を狙わせていきました。 そして後ろで持った時は長いボールも使うようになっていて、後ろではめられることを回避しているように見えました。

 さらに守備でも修正したと思われたポイントがいくつか。まず1つが岸本のプレスバック。2トップ裏のフリーに対して、こちらのボランチが出るのではなく、岸本の根性のプレスバックで対応しています。

 また守備の時に中山が少し絞るようになったり、ボランチ脇に原が前に出て潰したりと、ボランチの負担を減らす修正も行われていたようにも見えます。 

 少しこれで持ち直しましたが、形勢逆転とまではいかず。前半のスコアのまま試合終了しました。

軽く所感

 前半を見ていると僕なんかは「スペース埋めろよ」と思ってしまうのですが平岡監督は違いました。構えてスペースを埋めるのではなく、より動いてより前向きに捕まえさせる修正でした。それはとても平岡監督らしいし、しかも実際に多少でも立て直すのは凄いなと思いました。 

 今のエスパルスは、マリノスのようにフリーを作って、そこを起点にボールを前進させる仕組みは見られません。意図的にスペースを作らない以上、どこにスペースができるかは相手に依存する傾向はあると思います。そうなると監督の状況分析やそれをもとにした修正が勝敗の鍵を握りそうです。

 もちろん今期一番大切なのは、勝負にこだわりアグレッシブな姿勢を見せること。それを対戦相手に応じてどんなプレーで見せてくれるか、楽しみに見ていきたいと思います。

 

 

マッチレポート【2022年明治安田生命J1リーグ第2節 ジュビロ磐田vs清水エスパルス】

試合結果

【得点】

磐田 1- 2清水

【得点者】

9’ 鈴木唯人(清水)

23' 鈴木雄斗(磐田)

67' 中山克広(清水)

スターティングメンバーとフォーメーション

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(清水)フォーメーション:1-4-4-2

選手交代:51’中山(山原)、51’滝(コロリ)、82’髙橋(神谷)、84’栗原(滝)


(磐田)フォーメーション:1-3-4-2-1

選手交代:60’大津(大森)、70’ジャーメイン良(金子)、70’ファビアンゴンザレス(杉本)、81’小川(遠藤)

 

清水の非保持局面(磐田の保持局面)

プレスをかける清水と保持して前進を狙う磐田

 磐田が保持した時は下図のようなポジション取り。この4-3-3のようなポジション取りを生かしてボール保持を強く意識した攻撃を展開していく。

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 対する清水は4-4-2の守備組織。札幌戦ではプレスが上手くはまらなかった清水。しかしこの試合では相手を見ながら前向きで制限をかけることができていた。始めはアンカーポジションの選手(主に山本康)を2トップの背中で抑える。ボールが動いたら勢いよく詰めていく。またアンカーポジションが浮いたら白崎が前に出てチェックしていた。

 そしてSHは基本相手のSBを見る。相手がCBを広げてSBを高く上げたら、SHとSBが縦にスライドして前向きにプレスする状態を作っていた。

 一方、保持する磐田にはWB鈴木雄をフリーにする仕組みが見える。

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 右CBの伊藤が神谷を引き付けて鈴木雄へのコースを作る。同時に金子が片山に意識させるように裏へのランニング。また左ボランチの白崎が前に出るので清水の左にはスペースができやすい。GKから浮かしてサイドに付けるパスにもWBを起点にする意図を感じる。

 鈴木雄斗がワイドで持ったら、降りてくる杉本やアンカーポジションの山本が横でサポート。加えて裏に走る金子で複数の選択肢を作りシュートに繋げる。鈴木雄斗を起点にするこの攻撃は繰り返し見られるものだった。

 左は遠藤が中継役になりながら、松本と大森が入れ替わったり、松本がハーフスペースを抜けていって大森がカットインする動きが見られた。しかしこちらは原が大森を抑えることで決定的な場面は作らせていない。

磐田のネガトラ問題

 試合を通して清水のプレスを受けても前進はできていた磐田。しかし奪われた後、ネガトラ局面では組織的な問題を抱えているようだ。

 磐田はボールの前進と共に松本、伊藤がサイドの高い位置を取る。そのため奪われた時、後ろが2CBとアンカーの山本だけになることが多い。しかも山本がビルドアップサポートのためにサイドに寄ると、DFライン前のフィルターがさらに薄くなる。磐田は遠藤を動かしてプレス回避の役目をさせたり、ライン間でプレーさせたそうだが、そうなると山本康裕の周辺が薄くなるのが悩ましげ。

 清水は前向きに奪う状態を作り、その矢印をそのままカウンターに繋げる。そして相手の守備が整う前に攻撃を完遂させたい。ボールを奪うと2トップ+SHが一斉にあがっていく。この上がり方は整理されていて、中央とその左右、3レーンを並走するように、さらにSBがSHの位置を見ながら大外もしくは内側のスペースに入っていく。

 磐田は奪われた後に守備組織を整えたいが、この速いカウンターにさらされて時間をもらえない。この試合に限らず志向していた清水の攻撃が磐田が抱えるネガトラ時の弱みにちょうど重なっていたと言えそう。

 開始から立て続けにカウンターを受けていた磐田。しかし10分過ぎくらいから後ろの形を変化させる。SB化していた伊藤がDFラインに入り後ろを3枚のビルドアップに。さらに山本が降りて金子と遠藤がアンカーポジションとライン間を入れ替えたりと清水のプレスを揺さぶっていく。

 これで清水は、はまっていたファーストディフェンスがずれてSHの守備がぼやける。SHの守備がぼやけるとボールを前に運ばれる。

 ボールを運ばれて後ろのスペースを気にしてしまうと前向きの矢印が無くなりカウンターに繋がりづらくなる。

 始めはバタついた磐田だったが前半の半ばからは、ボールを握って清水のブロックを押し下げるようになっていった。そこから前半終了までは磐田の時間だったと思う。

清水の保持局面(磐田の非保持局面)

 清水の保持は2CBが両ハーフレーンくらいに広がり、そこに竹内が少し降りてフォローする形。長いボールはあまり出さずに後ろから保持する意識は見せている。

 磐田の守備組織は5-4-1。まず杉本がサイドを限定。横に広がるCBにはSHが出てきてプレスを掛けている。

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 この時、磐田のSHのプレスは正面を消して縦パスを塞ぐようなかけ方だ。CBからサイドに誘導して、そこをWBの縦スライドで詰める狙いのようだった。

 もしボールを運ばれたら磐田は5-4-1でセット。清水はハーフスペースで受けようとする唯人やSHに縦パスを入れたそうだが、無理にねじ込むようなパスが多い。それをカットされて磐田にボールを渡してしまう流れだった。

 前半の清水は保持から崩せた場面はほとんどない。特に気になったのは右サイド。清水のボールの循環はほとんど右サイドで、CB鈴木から原に出したとこでプレスをかけられ詰まっている。前半の半ば過ぎからは特にこれが顕著。磐田に流れを作られた大きな要因になっていたと思う。

後半の流れ

プレッシャーを回避するための修正

 清水は後半にまずCBの左右を入れ替える。監督コメントにもあるように”ビルドアップのところで相手にプレッシャーを掛けられていた”部分への対策だろう。

 後半、まず目についたのが中距離のパスだ。SHをワイドに出して、CB→SHのような飛ばすパスを出している。詰まり気味だった右サイドにフィードが正確な立田を置いたのはSBを飛ばすようなパスを出させる意図だろうか。

 また磐田が前からきた時は、ボランチがCBの間に入る動きも見えて、杉本によるサイド限定を回避して左右への展開を可能にしていた。

 前半は右に限定されていたボールの循環だったが、後半は左からビルドアップする場面が明らかに増えている。プレッシャーが軽減してボールを運んでパスコースを作れる鈴木義宜の特徴が生きてきたのも理由だと思う。

 さらに左から右ワイドの山原へのサイドチェンジが何度か。相手を広げて開いたスペースに飛び込んでいく攻撃を繰り出していった。

 飛ばしのパスを使ってプレスを回避。磐田にセットされたらサイドチェンジで横に引き伸ばす。中長距離のパスで広い展開を作ることで清水も保持から前進する場面を作れるようになっていた。

お互いの選手交代策から終了まで

 まず動いたのは清水。51分にコロリ、山原を下げて中山、滝を入れる。当初の意図は、ワイドを使って前進できる状況を作れていたので、中山に裏を狙わせて彼の打開力からフィニッシュに繋げたかったのだと思う。コロリはやや足を気にしていたところと、無理にねじ込まなくてもボールが前進するようになったので、前を向いて仕掛けられる滝にしたのか。

 磐田は63分、大森に代えて大津。磐田の左サイドでは松本のフリーランから大森がカットインして仕掛ける状況はつくれていた。そこでワイドを万能型からよりフィニッシュに向かえる選手に代えたのだろう。

 清水はこの磐田の交代と同時辺りに、神谷を前に出して中山を左SH、滝を右SHに回す。

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 ここは試合後の監督コメント通り。疲れで神谷の動きが落ちたので、中山を左SHにして常に起点になっていた鈴木雄斗をケアさせる。

 結果的にこの交代が決勝点に結びつく。鈴木義宜がカットしてダイレクトで中央の神谷にパスを出すとカウンター発動。神谷が右の唯人に出して前を向く時間を作ると、再び神谷、そして左の中山と渡って、最後は中山がカットインからゴールを決めた。  

 この得点も清水のカウンターパターン通り。中央を神谷、唯人と中山がその左右を並走。左SB片山がインナーラップしてきて中山のシュートコースを創出していた。

 後半、磐田は山本康裕がサイドに寄る時は、松本や遠藤が下がってカバーしているようにも見えた(見えただけかも)。この場面でも遠藤が中央にはいたが、どうしても守備の強度は高くない。結局、清水の狙い通りのカウンターから2失点を喫してしまった。

 磐田は70分に杉本と金子に代えて、ファビアンゴンザレスとジャーメイン良。前への推進力を出して得点を狙う。しかし、山本義道、ファビアンゴンザレスと続けざまに退場者が出てはさすが厳しい。

 相手の退場によりスペースを得た清水。2人の数的優位から幾度と決定機を作るが、GK三浦が最後の砦となり磐田も得点を許さない。最後は完全な清水優勢の流れだったが、そのままスコアは動かず2-1で清水の勝利となった。

 

 

 

 

マッチレポート【2022年明治安田生命J1リーグ第1節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌】

試合結果

【得点】

清水 1-1 札幌

【得点者】

15' ルーカス・フェルナンデス(札幌)

68' 鈴木唯人(清水)

スターティングメンバーとフォーメーション

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(清水)フォーメーション:1-4-4-2

選手交代:46’コロリ(中山)、64’髙橋(神谷)、64滝(山原)、84’岸本(原)84’宮本(竹内)


(札幌)フォーメーション:1-3-4-2-1

選手交代:62’菅(シャビエル)、75’荒野(駒井)、75’深井(宮澤)、87’トゥチッチ(小柏)、87’青木(金子)

 

清水の非保持局面(札幌の保持局面)

 清水は4-4-2の守備組織。試合開始から積極的なプレスをかけていったが、上手くはまらない。札幌おなじみの可変からのポゼッションでプレスが空転。多くの時間で苦しい状況を作られていた。

 札幌のビルドアップスタートは、例えば下図のようなポジション取りだ

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 ボランチ1枚が最終ラインに降りて、宮澤と真ん中にGK菅野。清水はこの後ろ3枚を2トップで追い切れず脇でフリーな選手(図だと高嶺と宮澤)を作られる。そして右SHの中山が高嶺にいくのか、福森を見るのかがあいまいになり、そこからの展開を許している。

 清水のプレスの問題点をもう一つ。2トップは始めは背中でアンカーポジションの選手を消しているが、ボールを追いかけるうちにアンカーポジションへのコースを空けてしまう。そのため2トップ脇の選手にプレスしても中央経由でそれを回避されている。

 このようにファーストディフェンスがはまらず1列目を越えられる。そこに浮いた選手ができる。浮いた選手をボランチが動いてカバーする。ボランチが動くので、2列目のラインが崩れる。そしてライン間は間伸びし、シャドーの小柏やシャビエルに使われる。

 また高嶺や福森がフリーなので逆サイドにクリーンに展開され、右WB金子が絡んでのチャンスを多く作られていた。

 清水は開始しばらくするとプレスの開始を相手のアンカーポジション辺りまで下げるようになる。ライン間を使われるのが気になったのだろう。

 すると札幌は前へ長いボールを入れて清水のラインを下げる。さらに後方の保持からサイドチェンジやSHの守備のずれを利用してサイドを攻略する。札幌優勢の流れは前半を通して続いた。

 札幌はボールを前進させるとWBから決定機を作っていく。札幌のWBは逆足で、カットインや逆サイドから入ったボールをシュートさせるのが狙いのよう。

 右サイドでは金子が運んで、その後方をSBのような位置取りをする田中がフォローする関係。左サイドはルーカスフェルナンデスが小柏の突破や福森のフィードと上手く絡みながら組み立てていく関係になっていた。

 中でも多く決定機を作るのは右サイドの金子を使った攻撃で、金子が縦に運んでカットインしてシュートやクロスが1つの形。

 清水はそれを警戒して金子には片山、山原の2枚で対応する。山原が金子に付くのでその後ろで田中がフリー。ここに戻して田中がフリーでクロスを入れるのも多く見られたパターンだ。

 この時、清水のDFラインはゴール前に3枚で札幌の1トップ2シャドーを見ている。なので逆サイドから入ってくるルーカスフェルナンデスが浮くことが多い。

 6分(ルーカスフェルナンデスのシュート)、15分(失点場面)、また20分にガブシャビがヘディングシュートした場面でも逆サイドでルーカスフェルナンデスが浮いている。

 他にもこれらに近い形は頻発していたので、札幌が狙った攻撃だったのだろう。

 清水の保持局面(札幌の非保持局面)

 札幌の守備はボールサイドの相手をマンツーマンで捕まえる。捕まえたら相手が移動してもそのまま付いていき常に前向きに撃退するやり方だ。

 下図は清水がビルドアップスタートする時によく見られた配置とその時の札幌の守備基準。

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 ここから清水は下がってくる唯人やハーフスペースにポジションする選手への縦パスを入れていく。しかし割と素直な縦パスのため札幌のマンツー対応でボールを失うことが多かった。

 前半、清水のビルドアップは上手くいったとは言えないが、それでも動きの特徴から狙っていたものは推測できる。

 1つはハーフスペース裏の攻略だ。右サイドで中山と原が内と外を使い分けながらハーフスペースの裏に抜ける動き、また68分の唯人のゴールのようにダイレクトにFWが流れて裏を狙う。これらはチーム戦術として仕込んだ動きだろう。

 もう1つは生じたスペースを素早く使うプレーだ。昨年からこの傾向は強いが、これは相手の対応より先にスペースを攻略したいからだと思う。

 清水のビルドアップは最後尾ではゆっくりボールを動かすが、中盤以降で前を向くと、前線に複数人が飛び出して一気にスピードアップする。

  またボールの前進と共に両SBが前線中央に侵入していく。これは相手のDFの対応にバグを起こす効果を狙っているのかもしれない。実際にスペースに飛び込んでいくSBの動きで札幌のマークがずれる時が度々あった。

 とはいえ前半に作る決定機は少なかった。しかし、後半は修正が入りその狙いがチャンスに繋がるようになっていく。

後半の流れ

コロリ投入の効果

 清水は後半頭から中山に代えてコロリ。コロリをFWに、神谷を右SHに回す。

 背負って収められるコロリが入り、マンツーマン対応されてもマイボールにできるポイントができた。

 札幌は前向きに追撃する守備は強いが、下がりながらの守備時にはマークの基準があいまいになり脆さを感じる。コロリが収めて、それをスイッチに後ろから人が飛び出し前向きにボールを繋げていくと、札幌の守備は人を掴み切れず後追いのような対応になっていた。

 清水は後半、コロリへの縦パスだけでなくダイレクトに裏を狙うボールも増やしている。またボールが前進すると両SBに加えてボランチの白崎も前に上がっていく。こうしたプレーは札幌に背走させるような守備を強いていた。

オープンな展開になった後半

 前半は丁寧に後ろで相手を剥がしながら前進を図っていた札幌だが、後半は中央に縦パスを差し込んだり、ドリブルを仕掛けたりとダイレクトに前に向かうプレーが増えている。

 一つの理由としては清水のファーストディフェンスが改善しビルドアップが窮屈になったからと考えられる。後半入ったコロリは必ず背後を確認しながらタイミングよくプレスに出ていく。この限定で周囲もプレスをかけやすくなり簡単に1列目を越えられることが減っていた。後の理由はよくわからない。

 札幌は65分にシャビエルに代えて菅。菅が左WBに入り、ルーカスフェルナンデスを右WB、金子をシャドーに回す。どうせオープンになるなら前に推進力を出そうということかもしれない。(これもわからないけど)

 いずれにしても清水とすればオープンな方が前向きで速い攻撃がしやすくなる。そうなると必然的に札幌は背走しながら守備をする機会が増える。しかし返す刀で清水もゴール前まで攻められる機会も作られる。

 それでも清水が追いつくためには望む展開になったと言える。ここがチャンスと平岡監督が交代策を打つ(実際に地元放送局の実況がこの時間帯で監督が「ここだよ」と声をかけていると伝えていた)。

 64分、より直接ゴールに向かえる滝と髙橋を投入。両サイドハーフを入れ替える。

 68分唯人のゴールは原と2人の関係から作ったゴラッソだ。しかし、この交代がゴールに向かえという強力なメッセージになっていたはず。またダイレクトにハーフスペースを攻めるのは清水が狙っていた形でもある。

 清水が追いついた後も後半の構図は変わらず。終盤まで刺しつ刺されつの展開が続く。攻守とも清水の特徴を生かせそうな展開だったがお互いに決め手を欠き、1-1のまま試合終了した。

 

 

 

2022年2月1日の練習試合 ジュビロ磐田vs清水エスパルス1本目30分の感想

 2月1日に行われた磐田との練習試合がジュビロ磐田YouTubeで配信された。

 シーズン前の公開練習試合なのでここで見えることが全てではないだろう。しかし試合には少なからずチームのやりたいことが表れるはずだ。そこで試合自体の流れより攻守にどんな特徴が見られるか、各々選手のプレーはどうなのかに注視したいと思う。

 

 まずは1本目のメンバー。清水のフォーメーションは1-4-4-2。磐田は1-3-4-2-1のよう。

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清水、後ろで保持した時にボランチを降ろさない。序盤は1-4-3-3の配置で保持している(アンカー宮本、左IH竹内、右IH唯人)。

WGは明確にはサイドに張っていない。完全に絞っているわけではないが、やや内で受けようとすることが多い。

磐田の非保持は1-5-4-1。前からはプレスにこない。ミドルゾーンに入ったらボールに寄せてくる守備。

ゆえに清水のCBは割とフリーで持てる。清水はSBを高く上げずに後方のビルドアップに参加する。

磐田は1トップ周辺に運ばれたら中盤が前に出てきてプレス。SBに出たらシャドーがスライドしてプレスにくる。磐田のシャドーは始め絞って縦パスを消すポジション取り。守備の狙いとしては中を消してサイドに出させてはめ込みたいようだ。

3:00、ヴァウドが運んで大津と遠藤引き付けて右SB岸本を空ける。そこから相手を縦ずれさせた。まずはこの動きでずらせるといいかもしれない。

 

磐田の保持は右のCB伊藤がサイドライン際を上がりSBのような動きをする。大井、袴田のCB2枚と上原で後方保持。右サイドは伊藤、鈴木、山田がローテーションするようにポジション移動。この3枚のポジション取りでボールを動かしたそうだ。この時、左シャドーの大津は大外に張っていた。

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清水は2トップ脇で受ける磐田の選手に対してはボランチが出ていく。磐田はポジション移動で清水のボランチの空けた位置に人が入ってくる。これで2列目を越えられる場面が何度か。ただしプレスバック、周囲のスライドでの寄せで素早く対応できているのでそこまで問題にはなっていない。

442でしっかりスライドすること、中盤でボールに対してしっかり寄せることは昨年から継続して意識されているようだ。

 

序盤以降、清水の保持は1-4-3-3でなく、1-4-4-2でSHが内側に絞る形の保持になっている。竹内はIHになるよりボランチの位置の方がボールに絡めるのでやりやすそう。ボランチが1トップ周辺で受ける、また前から列を降りて受けてはたいて回していく。時間が進むにつれ降りて受ける動きが多くなる。

2列目にボランチ2枚いる方が相手を絞らせてSBにスペースを与えることができる。SBがフリーになりこの形の方がボールの循環はよかった。

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相手の中盤が4枚、そして1トップ周辺には中盤の選手が積極的に出ていく特徴も加味して、あえて442での保持に変えたのか。そうだとすれば相手の動きを見ながら修正することができていることで前向きな要素だと思う。

23:30、ヴァウド、宮本、右の裏で神谷(19分から滝と左右を入れ替えていた)と動かしてクロス。ここもヴァウドが引き付けて縦ずれさせた。やはりこれも意図的に狙った動きなのだろうか。

 

CKの守備はゾーン。ニアポストとストーンを置いて、4-3でゾーンを組む形。神谷がショートコーナー対応兼カウンター要因。唯人が前列の中央にいる。20分の磐田のコーナーでははじいたボールを神谷が運んで中央を上がっていく唯人にパス(通らなかったけど)。ここは狙い通りだったと思う。

 

磐田は右サイドを可変するためか、非カウンターで右サイドを突かれることが多い(本当にその理由かはわからん)。1本目の終盤には清水が左サイドからのカウンター。そして右から中央に入ってきた神谷がフィニッシュを狙った。

神谷はライン間でトップ下に近い役割をしてもらうのがよさげに見える。右に回って中央に侵入している時間の方がボールに絡めている。

 

基本的にサイド裏を狙っての速い攻撃とポジトラ時に生じているスペースを素早く使う攻撃がチャンスに繋がっている。これは昨年のラスト4試合と同じ特徴だ。それにプラスアルファするための433保持だったのかもしれない。ただし433ではそこまで中盤がボールに絡めていない。そうなると必然的にボールの循環は外回りになり、保持でSBがいかに起点になれるがが大事そう。

その点で右SBに入った岸本は適した選手だと思う。保持時の周囲を見ながらのポジション取りが的確で、ボールも前に運べる。守備でもヴァウドがスライドした内側を素早くカバーしたり、カウンター時にただ戻るだけでなく中盤に絞って相手の起点を潰すプレーを見せていた。原と高いレベルでのポジション争いができそうだ。

 

コロリの前線での守備は誘導の仕方、周りを見てのポジション取り等、上手いなと感じた。やはり442で如何に守れるかにかかっていると思うのでFW起用でもいいかもしれない。他の選手との絡みにはなるが。

 

昨年のラスト4試合で見せた良い面は継続できていた。後はこれからそれに上積みする部分をどうバランスよくプラスできるか。

 

2本目以降は違う姿を見せるかもしれないが、とりあえず1本目だけ。

マッチレポート【2021年明治安田生命J1リーグ第38節 清水エスパルスvsセレッソ大阪】

試合結果

【得点】

清水 2-1 C大阪

【得点者】

35' オウンゴールC大阪

45+2' 鈴木義宜(清水)

51’ 西澤健太(清水)

両チームのメンバーとフォーメーション

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(清水)フォーメーション:1-4-4-2

選手交代:71’山原(後藤)、80’中山(西澤)、80’ディサロ(鈴木唯)、87’立田(チアゴサンタナ)87’宮本(松岡)


C大阪)フォーメーション:1-4-4-2

選手交代:71’中島(藤田)、71’豊川(加藤)、87’松田力(大久保)

試合の概要

 2021年シーズンもついに最終戦。未だ残留の決まらぬ清水だが、引き分け以上で自力残留、敗戦でも得失点差次第で残留可能とライバルチームの中ではかなり有利な状況だ。とはいえ敗戦の場合、その得失点差は安全圏とは言えない。ゲームプランとしてはまずはいかに失点しないかが重要になるだろう。

 清水は前節浦和戦と同様、高い位置でのプレスは抑えミドルゾーンで構える守備から入っていった。ボールの保持はC大阪に譲ったが、中盤でボールを奪えば積極的に前へ飛び出しショートカウンターからゴールに迫っていく。

 試合開始から狙いを遂行できていた清水だが、先制したのはC大阪コーナーキックから大久保が撃ったシュートが清水の選手に当たりオウンゴールになってしまう。引き分け以上は死守したい清水にとって痛い失点となった。

 しかし、それでもペースを乱すことなくプレーを続ける清水。先制後にC大阪がやや引いたこともありボール保持からもチャンスを作っていった。そして前半アディショナルタイム、西澤のフリーキックを鈴木義宜が決めて同点に追いつく。

 さらに後半に入り6分。西澤がカットインから左足でコントロールショットを撃つと、これが決まり逆転に成功。

 その後はC大阪も攻勢を強め、一進一退の攻防が続いたが清水も粘り強く戦い2-1のまま試合は終了。

 これで清水の残留が決定。苦しいシーズンだったが最後は3連勝。来シーズンJ1で戦う権利を自らの手で掴み取った。

 清水の非保持時の振る舞い(C大阪の保持)

 C大阪の保持局面は、後ろでは巧みにボールを運べているが、中盤から前線にかけては少し苦労していた印象だ。試合を通して保持率は高かったが、決定機はそれほど多くない。

 保持時の配置はかなり意識されているようで、配置とそれぞれの役割はおおむね下の図のようになっていたと思う。

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 ここから例えば清武が自陣まで下がると奧埜がライン間に上がったり、松田が後ろに下がれば坂元が幅を取って奥埜が前に上がったりと人は動いても全体のバランスはほぼ崩さないのが特徴だ。

 後方の保持では無理にボールを前に出すことはなく、相手のプレスの動きを見ながらポジションを取ってボールを動かしている。前が詰まれば後ろに戻して何度もやり直し、まずは相手の2トップを越える。そしてそこにフリーの選手を作ってボールを入れていた。

 そこから左のハーフスペースに降りてくる清武が受け、サイドに展開してクロスという攻撃パターンが多い。

 対する清水の守備組織は1-4-4-2。最前線からのプレスは抑えているが完全にリトリートはせずミドルゾーンにコンパクトなブロックを構えている。まずは内側のスペースを埋めて2列目にボールが入ったら強く奪いにいく動きだった。

 特にCHの松岡、竹内の2人で連動してアタックする意識が強くここでボールを遮断できている。

 C大阪に崩される場面は少なかったが、序盤に少し気になったのが右SH西澤とCH松岡の間。松岡と竹内が強く連動する反面、SHとの結びつきが弱い場面が見られる。

 そのため前半途中までは下図のように右のハーフスペースから斜めに左のハーフスペースに動かされることで清武がフリーになる場面が散見していた。

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 清水が明確に内側を消していたので、そこからの展開をサイドに限定できていたが、やはり清武をフリーにするとボールを前に運ばれる。

 時間が進むと共に松岡が清武を見るようにしっかりスライドするようになっていた。

 C大阪の後ろから前線へボールを届ける役を担っているのは、おそらく中盤に降りてくる清武や大久保。そのため中盤のスペースを消されると彼らがより低い位置に下がりボールを受けるようになっている。

 しかしC大阪は元々後ろでの保持には問題がないので、清武や大久保がブロックの外でボールを持つだけではビルドアップに大きな変化が起きない。33分に降りた清武を飛ばして奧埜に入れたプレーが見られたが、このように強く寄せてくる清水の中盤の特徴を利用する仕組みを作れれば良かったかもしれない(ここから奧埜、清武、加藤と繋がりCKのきっかけとなったシュートを撃たれている)。

 前半を通して清水は後ろでは持たれるものの、ミドルゾーン以降の前進は食い止めることができていた。そしてボールの回収からカウンターに移行し相手ゴール前に迫る場面を作っていた。

清水のポジティブトランジション局面の振る舞い(C大阪のネガトラ対応)

 清水のチャンスの多くは中盤で奪ってカウンターから生まれていた。

 C大阪はボールを奪われた後、即時奪回よりゴール前を固めることを優先しているようだった。ボールを奪われるとC大阪のDFラインはまずゴール前を固めるように撤退している。

 対する清水のカウンターの形は以下のように行われることが多い。

 まず前線のサンタナに当てたり、唯人のドリブルなどで中央高い位置にボールを運び、相手のDFラインをリトリート&中央収縮させる。それによりサイドにスペースができるのでそこにSHやSBが飛び出してボールを展開する。

 C大阪はサイドのスペースへはSBがスライドして対応するが、残りのDF陣とCHの1枚は中央にステイする。

 この動きより清水はサイドからのクロスまではもっていけている。しかしゴール前は相手に固められている状態。ただしDFラインが中央に絞り気味なのでファーにクロスを上げて逆サイドのSHが外から中に飛び込み合わせればシュートに繋がる可能性が高い

 おそらく清水は事前にこれを狙っていたと思われる。似たような展開からクロスをファーに上げ逆サイドのSHがシュートを狙うことが多かった。

清水の保持局面の振る舞い

まず狙うはダイレクトにサイドの奥

 C大阪も清水と同様に積極的なプレスはかけず1-4-4-2の守備組織で構えて守っていた。そのため清水もある程度は後ろでボールを持てる。しかし清水はあまりボールの保持にはこだわっていないようだった。

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 上に後ろでボールを持った時のざっくりとした動きを表した。まずCBとCH1枚が後方でボールを左右に動かす。そして相手がスライドでずれると同時にダイレクトにサイド奥のスペースを狙うのがよく見られる攻撃だった。

 内側にポジションを取る選手はいるが間を使うことにもこだわっていないよう。CBが持つとSHはまずハーフスペースから裏を狙って飛び出す動きを見せる。

 これが通ればチャンスになるし、回収されてもサイドの奥なので直接カウンターを受けることはない。やや確実性の低い攻撃ではあるが、回収されてもセットして守備をやり直せばいいと割り切っているようにも感じた。

狙い目となるスペース

 C大阪が先制した後、ややラインを下げたこともあり、清水もボールを持つ時間を作り始めていた(31-45分の清水の保持率は50.6%)。

 CHも中央でボールを持てていたが、持っている場所はやはり守備ブロックの外側。そのCHを経由してサイドを変えて大外のレーンに運ぶルートをよく見せていた。

 C大阪はサイドからの攻撃に対しては、カウンターからクロスを上げられた時と同じ対応だ。必ずCBとCH1枚はゴール前に確保した上でサイドの選手がスライドしていく。そうなると中央と大外の間にギャップが広がるがそこはもう1枚のCHがカバーする。

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 ただしカバーに入るCHが1枚なのでやはりハーフスペースに広がるギャップは狙い目だったと思う。

 例えば前半45分、内側レーンでボールを持った原がギャップから裏に抜けた唯人にパスを出した場面。原が内側レーンで持つことでカバー役のCHが引きつけられるので裏へ抜ける唯人がフリーになりCBがスライドして対応せざるを得なくなる。

 試合全般で唯人はボールを受けるためハーフスペースの低い位置に降りてくることが多かったが、C大阪が構えてスペースを消していたので間で受けても効果的なプレーはできていない。C大阪の守備構造から考えれば、低い位置でなく前目にポジション取りをしてCB-SB間への攻撃に関与した方が良かったのではないかと思える。

後半について

逆転ゴールの場面

 後半の入り、C大阪は割と早めに長いボールを入れてきた。守備でもややボールを追いかけがちで、この時間帯は少しだけオープンな展開になっていたと思う。オープンになればスペースが生まれる。そのスペースを唯人に使わせるのは清水が望む状況だ。

 逆転の場面だが、まず左から右への大きな展開でC大阪の守備組織が広がった。そのため右サイドの西澤からのパスを唯人が中間ポジションで受けた時に周囲にフリースペースが生じている。

 唯人はサンタナとパス交換して仕掛け、裏に抜けたサンタナにスルーパス。これが通ってサンタナが速いクロスを入れた。この場面、唯人は前目で受けてCB-SB間のギャップに仕掛けた。やはりこの位置でプレーに関与した方がチャンスになりやすいと思った。

 サンタナのクロスを相手DFが弾き、そのボールを右のぺナ角あたりで西澤が拾う。下がその時の両者の並びだ。

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 西澤がボールを拾った後のC大阪の守備対応を見ると、やはりサイドの清武と丸橋は西澤の方に寄っているが、CH2枚プラス他のDF陣はゴール前を固め、スライドしてこない。そのため清武を外すと内側にスペースができている。

 西澤の駆け引きとシュート自体はスーパーだったが、C大阪の守備組織の特徴によって西澤が清武との1対1を制すればシュートに持っていける状態であったと思う。

試合終了まで

 清水がリードするとゲームプランは明確になった。失点のリスクを抑えるため清水のプレスラインはやや下がり、C大阪がまたボールを保持する流れになっていった。

 71分にC大阪は藤田に代わり中島が入る。清水の中盤はボールに強くいける反面、複数人でボールにスライドし過ぎる、さらに若干矢印の逆を取られやすい傾向がある。

 清武が2列目ラインの手前でさばき相手を引きつけると、それによって空いたライン間にパス交換しながら中島が侵入している。この役割が整理されC大阪が清水のライン間でボールを動かせるようになっていた。

 さらに坂元がサイドで受けて仕掛ける場面も増えていく。 70分以降はC大阪が攻勢を強めている。

 清水の選手交代は71分に後藤から山原。さらに80分に西澤→中山、鈴木唯人→ディサロ。清水の守備はいかにプレスバックやスライドを献身的にこなせるかが重要そうだ。それゆえ特に運動量の多いSHと唯人を順番に交代するのは納得だ。

  残り時間はわずか。後はとにかく守りきるのがミッションだ。87分にはサンタナを下げて立田を投入。前にかかるC大阪の攻撃を受けてFWを削って3バックで対抗。さらに松岡→宮本で中央を固める。

 最後までC大阪の追加点を許さず2-1で清水が勝利した。

 

マッチレポート【2021年明治安田生命J1リーグ第37節 浦和レッズvs清水エスパルス】

試合結果

【得点】

浦和 0-1 清水

【得点者】

90+3’ 中村(清水)

両チームのメンバーとフォーメーション

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(浦和)

フォーメーション:1-4-2-3-1(1-4-3-3?)

選手交代:46’小泉(田中)、71’汰木(大久保)、78’西(山中)、86’興梠(平野)

(清水)

フォーメーション:1-4-4-2

選手交代:18’ヴァウド(井林)、46’中山(後藤)、78’中村(西澤)、90+3’ディサロ(サンタナ)、90+3’山原(鈴木唯)

 

試合の概要

 第36節終了時点で16位の清水。降格ラインの17位徳島との勝点差は3。最低でも引き分け、敗戦は絶対に避けたい状況である。

 この試合で平岡監督就任から3試合目となる。前の2試合はかなり積極的なプレスをかけていく守備を見せていた清水。しかしこの浦和戦ではプレスを抑え構えて守る時間が多かった。

 前後半通して浦和がボールを保持し、清水が粘り強い守備からカウンターを狙う構図が続く。浦和はポジションチェンジを交えて清水の守備を揺さぶるが、清水も落ち着いた対応で決定的な場面は作らせない。

 後半に入ってもじりじりした展開が試合終盤まで続く。しかしお互い勝点1を分け合うかと思われた試合終了直前、途中出場で入った2人が試合を動かす。山原が仕掛けて出したパスを中村慶太が受け右足を一閃。埼スタの時間が一瞬止まり、ボールは美しい軌道を描きゴールに吸い込まれていった。試合終了ぎりぎりで勝ち越した清水。そのままわずかな残り時間も守りきり1-0で勝利。

 徳島も勝利したため残留決定はおあずけとなったが、最終戦に向けての有利な条件を自らの手で引き寄せた。

清水の非保持(浦和の保持)

基本的な両者の振る舞い

 序盤の浦和はCH平野がCB間に降りて後ろ3枚でビルドアップスタートしていた。また江坂と関根も中盤に下がってボールを受ける。システム表記すると下図のような3‐5‐2の配置になっていた。

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 浦和はレーンに均等に人を配置し、相手の守備を揺さぶりながらスペースを作りボールを前進させていく。

 対する清水の守備組織は4-4-2。前線からのプレスは抑え、2トップはCBからの縦パスを塞ぐように中央レーンを埋めて左右に大きく動かない。

 SHは少し内側に絞った立ち位置を取りつつ相手のSBを気にしている。ただしバックパスに対しては全体で押し上げるようにプレスに出て行く。清水の守備は、できれば前に出てプレスしたいがまずはスペースを空けないことを優先しているようだ。

2トップ脇を起点に攻める浦和

 清水の2トップに対して浦和は3バックでのビルドアップ。そして清水のSHは浦和のSBを気にしてプレスに出てこない。なので浦和の左右のCBは比較的ボールを持てている。

 また浦和のSBが高い位置を取ると清水のSHが下がり気味になる。そのため清水の2トップ脇ではフリーの選手ができやすい状態になっていた。

 清水の守備の基準では2トップ脇はCHの松岡、竹内が前に出ていく役割のようだ。開始しばらくは浦和の前進を抑えていたが、後ろで左右にボールを動かされるとスライドを強いられCHが前に出て行けない。そのため徐々に2トップの脇で伊藤がフリーになる場面を作られ始める。

 また左のCBショルツはボールの持ち運びが非常に上手い。運ぶことで西澤を動かし、逆を獲るようにハーフスペースや大外にボールを振っている。

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 清水の守備は内側を締める意識やボールへ寄せる意識が強い。そのため2トップ脇にボールが入ると、大外のSBがフリーになりやすくなる。そしてフリーのSBが2列目ラインを越えるとハーフレーンに絞ったWGはチャンネルを抜けて裏を狙う。これでDFライン下げて開いたライン間に横パスを入れてゴールに迫っていく。

 しかし清水もプレスバックが早く浦和は決定的な場面を作るまでは崩しきれない。浦和は江坂や関根が中盤に下がってビルドアップするので、フィニッシュの局面でゴール前がやや薄く少し迫力不足になっていたようにも感じる。

 このような流れが続く前半途中までだった。しかし飲水タイムを契機にお互いの振る舞いが変化し、試合の流れもまた変化する。

飲水タイム後の変化

 前半飲水タイム後、浦和は平野を後ろに降ろさず2CB+右SB酒井でビルドアップスタートするようになった。清水が前からこないので平野を1列前に上げて配球させたかったのかもしれない。

 一方、清水は飲水タイム後、明らかに積極的なプレスをかけ始めた。これはプレスに行こうと決めていたのか、相手の配置の変化を見てか。どちらかはわからない。いずれにせよ酒井に対して左SHの後藤を前に出せば、そのまま相手の保持の形に噛み合うため清水はプレスをかけやすくなっていた。後藤が酒井にいくのをスイッチに全体が連動してプレスする。飲水タイムが明けてしばらくは清水が浦和の前進を阻害してショートカウンターの形を何度も見せるようになる。

保持する浦和とそれを阻害する清水の駆け引き

 飲水タイム後しばらく高いエリアからプレスをかけることで清水がペースを握り返した。対する浦和は長いボールでプレスを回避しつつ、また配置を変化させる。

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 清水が前からきたので再び平野を降ろして後ろ3枚に。そしてSBを内側に絞らせてWGを大外に張らせるようになった。

 平野がDFラインに下がり後ろでのボール保持に余裕が出た。またSBのポジションが変化し清水の守備基準がずれる。そのためか浦和がプレスをかわしてボールを持てるようになってきた。

 プレスがかからないのでスペースを消すため清水は再びセットして守るようになっていく。

 浦和はWGの突破とサイドチェンジを多用して清水の守備のコンパクトさを崩そうとしているようだった。左右にスライドさせることでレーンが広がりスペースを使える場面が何度か見られる。

 このように浦和は清水の守備を見ながら揺さぶるように変化を見せる。清水もそれに合わせてプレスをかけたりスペースを消したりしている。この駆け引きは後半も続いていく。試合を通して浦和がボールを保持する時間が多かったが、清水も粘り強く対応できていたと思う。

清水の保持について

SBをフリーにする仕組みとその後の攻撃

 清水が保持した時は使えそうなスペースを速めに狙うのが基本的な志向のようだ。

 浦和の守備組織は1-4-4-2。ファーストディフェンスはCBに積極的にプレスするよりCHを消す意識が強いように感じる。1列目でサイドを限定して2列目ラインをうかがわれた時に強く寄せて奪おうとする守備のようだ。

  その浦和の守備に対して清水はSBをフリーにして起点にする仕組みを作っている。清水はCBがやや広がり後ろではボール保持の意思を見せる。そしてCH松岡は相手2トップの間、竹内は関根と田中の間、つまり相手2トップの右脇にポジションを取っていた。

 清水のCHが相手2人を意識させるポジションを取った状態でCBが持ち運ぶと浦和の右サイドがずれて片山がフリーになる。

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 またここから右にサイドチェンジすると右SBの原がフリーでボールを持てる。

 SBが持つとSHが相手のSB裏に走り、そこにダイレクトにボールを入れる、もしくは中のコースが空けば前に張るサンタナへの斜めのパス。清水はSBを起点にするこの形までは作れていた。

 問題はその先だ。こちらが速めにスペースを狙えば相手も速めにスペースを閉じる。それを崩すにはこちらがより速くプレーする、もしくはボール周辺に人が寄せて数的優位での選択を増やすかだ。

 速くプレーするのは限界があるので、ボール周辺に人を集めたい。しかし人を動かしすぎると攻守のバランスが崩れる。失点は絶対避けたい清水は守備でリスクを犯したくないはずだ。そこで鈴木唯人をピッチ各所に動かしてボール循環の中継地点にさせる。他の選手はバランスを崩さない。 やや強引な攻めにも見えた清水だが平岡監督の意図はこのようなところだと推測する。

チャンスはポジティブトランジションから

 上に書いたように唯人が広範囲に動いてボールを受けていた。しかし全体としてスペースメイクの仕組みが少ないため保持からボールをアタッキングエリアまで運べることは少なかった。

 とは言え清水がボールを運べている場面もある。清水がチャンスを作るのはほとんどがポジトラからだ。ポジトラが起きた瞬間は相手の守備組織にスペースが生まれている。そのスペースを唯人が運んでいくことでゴール前までボールを運ぶことができていた。

  ボールを奪った瞬間に唯人を見るのは意識つけられているよう。そして唯人もボールを受けたら躊躇なくゴールに向かい運んでいく。

 出来ることが限られている中で割り切って他の局面をやり過ごし、ポジトラ時に唯人の強みを使って勝負することが一番利益と損失のバランスがよいと判断したのだと思う。

後半と得点場面について

選手交代について

 後半の頭から両チーム選手交代を行う。清水は後藤→中山。右SH西澤が左に回り、中山が右SHに入った。清水の前半の主な前進ルートはSBから裏狙いのSHへ出すボール。しかし浦和が裏にスペースを空けず後藤の飛び出しが生きなかったので打開力のある中山に代えたのではないか。 中山がボールを持って、SBの原が内外とスペースに飛び出すことで少し右サイドが活性化した。

 浦和は田中に代えて小泉。小泉がトップ下(右シャドーと言った方がいいか)に入り、関根が右WGに回る。 浦和は小泉がトップ下に入り役割が整理されたように感じる。江坂が0トップ気味に動くのは変わらないが小泉が真ん中で受けて前にボールを出せるので、江坂が前線にいる場面が増えている。 また伊藤敦樹がアタッキングエリアまで上がるようになり清水はこれを捕まえづらそうだった。 後半も浦和が保持し、清水が粘り強く守る構図が続いていく。

清水の勝ち越し場面について

 清水は78分に西澤に代わり中村慶太。そしてアディショナルタイムサンタナ、鈴木唯人に変わりディサロと山原が入った。

 権田のゴールキックから攻撃が始まる。その時の各選手の位置関係は下の図の通り。

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 浦和の中盤には小泉1人。もう1枚のCH伊藤はDFラインのカバーに入っている。残り時間わずかであったため、清水が直接ゴール前に入れてくると考えDFラインの守備を厚くしたのかもしれない(これ以前のゴールキックでは普通に中盤2枚になっていた)。

 さらに前4枚が少し前寄り。結果的に縦に間延びして中盤にスペースが広がっている。 そのスペースにディサロが降りて受けるとほぼフリー。ディサロが中山に渡して前に走ると伊藤はそのままついていきDFラインを埋める。これでDFラインの前がまたフリースペースになり中山、中村慶太、山原とボールが繋がった。

 山原が左サイドで仕掛けそれに小泉が対応。これで中村のマークが外れて中村がシュートを決めた。

 このゴールに絡んだのは全員交代で入った選手。失点は絶対に回避しつつワンチャンスを狙った平岡采配が見事に決まった試合だった。

 

 

2020年東京オリンピック 男子サッカー決勝 スペインvsブラジル レビュー ”どの局面で強みを発揮するのか”

試合結果

【得点】

ブラジル 2-1 スペイン

【得点者】

45+2’ クーニャ(ブラジル)

61’ オヤサバル(スペイン)

108’ マルコム(ブラジル)

両チームのメンバーとフォーメーション

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(ブラジル)

フォーメーション:1-4-4-2

交代選手:112’ メニーノ(アントニー)、106’ ヘイニエル(クラウジーニョ)、91’ マルコム(クーニャ)、114’ パウリーニョ(リシャルリソン)

(スペイン)

フォーメーション:1-4-3-3

交代選手:46’ソレール(メリノ)、46’ブライアン・ヒル(アセンシオ)、91’バジェホ(オスカル・ヒル)、91’ミランダ(ククレジャ)、112’モンカヨラ(スビメンディ)、104’ラファ・ミル(オヤルサバル)

試合の概要

 東京五輪男子サッカー決勝はブラジルとスペイン。甲乙つけ難い実力者同士の対戦となりました。

 開始後しばらくは一進一退の攻防でしたが、徐々にブラジルが中盤の切り替えで優位に立ちペースを握りはじめました。36分にはPK(これは枠を外して得点ならず)を得るなどブラジルが攻勢を強めます。そして前半のアディショナルタイムにクーニャのゴールでブラジルが先制。ブラジル1点リードで前半が終了しました。

 後半に入るとスペインは最前線からプレスの圧を強めます。相手に蹴らせてロングボールを回収。そこからスペインは保持の時間を延ばしていきます。

 61分、スペインが右サイドからファーへクロスを入れると走り込んだオヤサバルが左足でダイレクトボレー。これが決まりスペインが1-1の同点に追いつきました。

 ここから両者ともに勝ち越しを狙い前がかりな展開になりますが、90分では決着がつかず延長戦に突入します。

 延長後半までスコアは動かずでしたが、均衡が破れたのは108分。スペインが得たコーナーキックをブラジルが大きくクリア。これをブラジルが拾いカウンターからゴールを決め、ついにブラジルが勝ち越します。

 その後、スペインも反撃しましたがゴールを割ることができずタイムアップ。

 120分にわたる熱い戦いは、ブラジルが2-1でスペインを振り切り、リオ大会に続き2度目の金メダル獲得しました。

 それでは以下、お互いの好守の振る舞いをもう少し掘り下げます。

保持をしたいスペインとその特徴を消すブラジルの守備対応

 お互いの望む展開を想像すれば保持からスペースを作り前進したいスペインと、局面にこだわらず前線の打開力を生かしたいブラジルといったところでしょうか。

 ブラジルはどの局面になっても高レベルで対応可能なチーム。そこでまずはスペインのやりたいこと、つまり保持を阻害することから始まります。

 スペイン4-3-3での保持に対してブラジルの守備組織は4-4-2。

 中央の守備は、スぺインの中盤経由の前進を防ぐためアンカーとインサイドハーフへ入るボールを強く消しています。

 スペインのセンターバックが持ち運べばフォワードが寄せてサイドを限定。そしてアンカーをもう1枚のフォワードとボランチでマークを受け渡しながら消しています。

 ブラジルのサイドハーフはやや内側に絞ったポジション取り。ボランチと挟んでライン間へのパスコースを切っています。

 サイドの守備は、スペインのサイドバックにボールが出たらサイドハーフがスライド。サイドバックが上がればそのままついていきマンマーク気味の対応。特に右サイドハーフアントニーはディフェンスラインの高さまで下がっていたためブラジルの非保持は多くの時間で5-3-2の形になっていました。

 スペインからすればサイドはマンマークで消され、中はコースを切られています。さらに5バック気味のブラジルの守備はディフェンスラインにギャップができづらい。そのためスペインがライン間で受けてもディフェンスラインから躊躇なく前に出て追撃することができます。

 序盤はゴールに迫る場面も作っていたスペインですが、ブラジルが前から限定を強めていくと前進に苦労し始めます。

 スペースが無いためスペインはインサイドハーフのぺドリ、メリノが降りてきてブラジルの中盤を引きつけ動かそうとします。しかし逆にブラジルのサイドハーフボランチで挟み込む対応で強く寄せられ、そこでカットされる場面が増えていきます。

 このインサイドハーフへ入れるボールに対するブラジルの寄せはかなり激しく、ここで奪取しての素早いカウンターがブラジルの大きな狙いとなっていたようでした。

 前半の半ば以降はブラジルのボランチを中心とした守備の強度がスペインの保持を上回りブラジルがペースを握る要因になっていたように感じました。

相手を惑わす可変システム(ブラジルの保持局面)

 自分達が保持すれば相手の保持時間は減る。ということでブラジルも持てる時は後ろからしっかり保持をします。しかしスペインほどスペースメイクにこだわらず、前線の選手が良い状態で仕掛けることを意図しているように見えました。

 ブラジルの保持時は下のような配置。

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 左サイドのクラウジーニョは中に入って間で受けて保持に絡み、右のアントニー(左利き)はワイドに張って仕掛け役。

 左サイドバックのアラーナはサイドを上下動。右のダニアウベスはインサイドのレーンを上がっていきます。

 この配置から後ろで動かしてミドルゾーンまで進んだら個の打開力を生かしてダイレクトに前に出ていきます。

 右はサイドバックサイドハーフの関係に10番リシャルジソンが絡みます。サイドでキープしたらサイドの裏やハーフスペースを抜けてマイナスクロス。サイドのレーンを中心にした攻撃です。

 左は内側に入ってくるサイドハーフのクラウジーニョが浮いてポイントになります。

 スペインはペドリを前に出した4-4-2のような守備組織で、ブラジルの右サイドバックが上がると右のアセンシオはそれに連れてやや下がり気味になっています。

 アセンシオが下がるので脇でボールを受けるボランチギマランイス)にはインサイドハーフのメリノが対応。しかし保持するギマランイスのプレス耐性が高いため、前に出てくるメリノのプレスをかわすと裏のスペースでクラウジーニョやリヒャルリソンが浮いています。

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 スペインはこの右のハーフスペースで浮くクラウジーニョと大外のアラーナ、さらにハーフスペースを裏に抜けるリシャルリソンの動きをどう捕まえるかあいまいでサイドで数的不利を作られることが増えていきます。

 前半の失点も同様な右サイドの関係で数回守備を動かされてブラジルにフリーキックを与えます。ゴール前でのクリアが中途半端になり高く上がったボールをクーニャに拾われシュートを決められました。

後半以降の流れ(トランジションを巡る攻防)

  後半はスペインはより高い位置からプレスをかけています。2度ほどプレスを回避されてピンチを招きましたが、それでもさらに圧を強めた結果、ブラジルのセンターバックに不確実な長いボールを蹴り出させての回収に成功します。

 スペインがボールを持った時に起点になったのは左インサイドハーフのペドリ。スペインは左サイドバックのククレジャを高い位置に上げてブラジル守備を完全に5-3-2状態にすると、ペドリがククレジャがいた左サイドに降りてきてボールを受けています。

 そしてブラジルの中盤3枚を動かすように左から右へとサイドチェンジで揺さぶります。ブラジルのボランチを前に引き寄せ、さらに左右に大きく振るとブラジルの中盤のスライドはあいまいに。

 ブラジルは後ろで持ったら長いボールを蹴らされ、非保持では中盤が動かされたことでトランジションで強みになっていたボランチが上手くボールに関われなくなってきます。また、開いたライン間でボールを受けると割と早いタイミングで追撃傾向の強いブラジルのディフェンスラインの裏を狙っていきます。

 トランジションを避けられないならそれを受け入れて、起こる状態をこちらでコントロールしよう。スペインからはそんな意図もうかがわれます。これで後半のペースはややスペインへと傾きます。

 61分の同点ゴールは、左センターバックのエリックガルシアから。3枚になったブラジル中盤の左脇を抜くようにワイドの高めのブライアンヒルへ展開。そこにブラジルのサイドバックが出てくるとすかさずソレールがその裏に飛び出しファーのオヤサバルにクロス。これもおおむね後半のスペインの狙い通りのゴールです。

 同点後はお互いにより前がかりな早い展開に。オープンな攻撃になったことで最終ラインでの1対1も何度が発生しています。特にブラジルの左サイド、アラーナの突破とそれを抑えるオスカルヒルの1対1は勝負所になっていて、90分の終わりまでオスカルヒルの守備の頑張りがブラジルの速攻を食い止めていたと言えます。

まとめの感想

 延長戦もお互いにチャンスを作る差し合いのような展開になりましたが、最終的には個人での打開力で上回るブラジルが押し切りました。

 ここまでの試合を見てもどちらかというとスローな展開を望むスペインでしたが、ブラジルに対してダイレクトな展開でも負けずにガチンコを挑む姿に彼らの対応力を見せつけられました。

 やはりここまで登り詰めるチームは4局面すべてにおいて高いレベルにあると感じます。

 その中でも、勝負のあやとなったのはトランジション勝負と個人での打開力。実力差はほぼ互角であったと思います。その中で強引にでも自分の得意な局面に持ち込んだブラジルが最後のゴールをつかんだ形になったのではないかと思います。