2019年明治安田生命J1リーグ第17節 サガン鳥栖vs清水エスパルス

1.始めに

 篠田監督就任して初の敗戦。前半こそ先制されても追い上げる勢いを見せた清水だったが、期待された後半は1点も加えることが出来ずに試合終了。なぜ清水はこれまでのような勢いのある攻撃ができなかったのだろうか。

 今回はまず鳥栖の守備の狙いに注目してみたい。そして清水はそれにどのように対応していたのか、お互いにどんなやり取りが行われていたかについて書いていきたいと思う。

 

2.スターティングメンバーと基本システム

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 清水のシステムは4-2-3-1(もしくは4-4-1-1)。システム、スタメン共に前節同様。左SHの西澤はこれで2試合連続のスタメン。監督からの評価が高まっていることが窺われる。

 鳥栖のシステムは4-4-2。システムはこれまでと変わりがないが、スタメンはトーレス、クエンカ、原と前節から3人が変更されている。ここ3試合は勝ち星から遠ざかってはいるが、監督交代してからは上位からも勝ち星を奪い、個々の能力も高いチーム。順位こそまだ下位だが決して油断のならない相手であるのは間違いないだろう。

 

3.消された清水の強み(鳥栖の守備を見る)

 清水の攻撃での特徴は何か。僕は相手SBを動かしそこをシンプルに狙うというのが篠田監督が就任してからの清水の攻撃の特徴だと考えている。さらにその攻撃の起点となるのがCHの竹内。しかしこの試合では鳥栖の守備によってこれら清水の強みとなる部分は消されてしまっていた。

 鳥栖の2トップは清水のCBが後ろで持つと、竹内とヘナトへのコース上に立ち中央へのパスコースを塞ぐポジションを取っていた。

 そこから、まず鳥栖の右サイドの守備を見る。

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 中へのパスコースを遮断されると二見はサイドに開いて2トップ脇にボールを運んでいく。そこへ金崎が中を消しながらプレス。そして上の図のように中盤以降の選手が中央とハーフスペースで受けようとする清水の選手へのパスコースを遮断するようにスライドしていく。

 これで前へ長いボールを蹴らせて回収。また二見からサイドの松原へ出せば、

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SHの安がサイドへスライド。その際、SB小林はDFラインから動かない。

 松原から竹内へ中へのパスはトーレスが塞ぎ、サイドからのクロスには中に人数を固めて跳ね返す。またSBが動かないので西澤が使いたいスペースも開かない。

 次に右サイド。

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クエンカがエウシーニョへ、原が金子へと早めに人を捕まえるような守備。開いたSB-SH間はCHがカバー。

 こちらは中外と動いて決定的な仕事をするエウシーニョをフリーにしたくない、またクエンカを後ろに下げたくないという意図からはっきりと人をマークしていたのではないかと推測する。

 鳥栖はこのように中央で竹内にボールを持たせず、また左右で動き方は違うが清水が攻撃で使いたい場所、つまりSBのいるスペースを使わせなかった。

 前半20分頃まではやや左サイドの守備がやや不安定だったが(少し人に噛みつき過ぎだったか?)、それ以降は上手く清水の攻撃を押さえていたと思う。

 

4.クロス対応

 鳥栖の攻撃と清水の守備についても軽く見ていく。

 鳥栖の前進は主には左から行われているようだった。クエンカがハーフスペース、サイドの大外の同じ高さまでSB原を上げ、その下にCHの原川。この左サイドの三角形でサイドを崩していた。

 ボールを前進させると鳥栖は左サイドの原から、また左から右へサイドチェンジして外に張っている安がDFラインの横から速いクロスを何度も上げていた。

 清水はこの試合4失点しているが、その内の2点は右からのクロス(もう2点はフリーキックから)。

 おそらく清水DF陣のクロス対応の弱さを狙っていたものだと思われる。

 

5.試合を締める鳥栖 vs システム変更での打開を狙う清水

 後半開始早々に清水は金子に代えて中村。ここではシステムの変更はなし。

 次の選手交代は鳥栖。53分に右SH安に代えて高橋。高橋がCHに入り、福田をSHに回す。CHができる選手を並べることで右サイドの守備のスライドが一層スムーズになった。守備面を考えての交代だと思う。

 清水は66分に竹内に代えて六平。同時にシステムを4-1-4-1に変更する。後半途中での4-1-4-1への変更からハイプレスをかけてやや停滞気味の試合をオープンにすること、起点となる竹内が抑えられていたので中央の位置からボールを前に運べる六平の投入の意図か。

 しかしこれまで何度も奇跡的な逆転劇のきっかけとなった4-1-4-1もこの試合では上手く噛み合わない。

 というのも鳥栖は前が詰まれば躊躇なく豊田に向かってロングボール。またボールを持つとピッチいっぱいに選手が広がるためプレスに行く距離が長くなり結果的に清水の守備も大きく広がってしまう。

 

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 この状態だと清水の守備の短所が目立ってくる。数的不利でも前にプレスに行き、IHが出たスペースからアンカーのヘナト脇を使われる。

 攻撃でも鳥栖が低い位置にコンパクトなブロックを作るためシステムのずれを利用できなかった。

 システム変更は空回りかと思われたが、篠田監督の判断は早かった。4-1-4-1がはまらないと見るや74分に北川に代えて滝。システムをヘナトを3バックの中央に入れた3-4-3に。中央を塞がれるなら松原、エウシーニョをWBとして外からボールを動かし、3トップで相手のDFラインに襲い掛かる。

 しかし、滝の惜しいシュートなどチャンスも作ったがスコアは動かず試合は終了。2-4で悔しい敗戦となった。

 

6.最後に
 鳥栖がこれまで見せてきた清水エスパルスの特徴を上手く押さえた試合と言って良いだろう。明確な特徴がある以上必ず対応される。まさに新たな課題を突き付けられた形だ。

 しかし、この試合中でも采配によってその課題をクリアしようとする姿を見ることができた。敗戦という残念な結果ではあったが、相手がこちらの強みを消す、それにこちらも対応して上回ろうとする。チーム同士のやり取りは楽しい試合だった。

 チーム成長していく過程では必ず課題を乗り越えなければならない。僕は、壁に当たったことを悲観するよりも課題をどう乗り越えていくかを楽しみにチームを追っていきたいと思う。