1999年Jサントリーチャンピオンシップ第2戦 清水エスパルスvsジュビロ磐田

 先日BSにて放送された1999年のチャンピオンシップ を戦術面に注目して振り返りたいと思います。

 20年以上の時を越えても心に響く熱い試合ですが、戦術面やお互いチームとしてのやりとりもかなり面白いものでした。

 

 

1.スタメンと基本システム

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 エスパルスは3-5-2。沢登がトップ下と見るのが一般的かもしれません。しかし中盤はアンカーにサントスを置いた3センターと見た方が解釈しやすいと思います。

 2トップはヤスキヨコンビだったんですね(←記憶があいまい)。アレックス、市川の両ウイングバック沢登は強く印象に残っています。

 ジュビロは4-4-1-1。ゴン中山、藤田、服部。実はジュビロにも好きな選手多かったんです。そこは静岡人なので。三浦文丈や山西もいますね。懐かしい。

 

2.ボールを支配して攻め込むエスパルス

 エスパルスがボールを持った時の噛み合わせが下の図。

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 エスパルスはアレックス、市川の両WBが高い位置を取りジュビロのSBを押し下げます。ジュビロのSBが押し下げられることでSHとの間にスペースができていました(図の赤いエリア)。

 エスパルスのIH(伊東、沢登)がそのスペースでフリーになりやすい状態です。特にアレックスのいる左サイドは、藤田と安藤の間が空いて、伊東テルがボールを受けやすくなっていました。

 直接アレックスに出して右SB安藤と1vs1、またはアレックスが内側のスペースへのカットイン。または伊東とのコンビネーションで打開など。多くの時間で左サイドが起点になっていました。

 ジュビロの守備がアレックスサイドに寄せてきたら、サントスや沢登が中継役になって市川へのサイドチェンジ、そして市川からの正確なクロス。ピッチを幅広く使いジュビロの守備に的を絞らせません。

 ゴール前は2トップ+アレックスか沢登。2トップは久保山がやや引き気味ですが、お互い割と自由に動いてボールに絡んできます。

 2トップが動いてできたスペースにはアレックスがサイドから侵入。沢登は右ハーフスペースを主エリアとしながらバランスを見ながら中盤と前線を繋いでいました。

  開始から左右両サイド、中央とボールを支配して、まずペースを握ったのはエスパルスでした

 

3.エスパルスの非保持局面

 試合開始してしばらくは後ろから長いボールを入れることが多いジュビロでした。裏を狙う中山、ライン間で受ける福西、アレックスの裏を狙う藤田。前線に絡むのは主にこの3人でした。

 加えて、右SB安藤を使ってサイド攻撃を仕掛けたいのですが、安藤にボールが出るとエスパルスは伊東がサイドまで出て対応。そしてサントス、沢登が中央のスペースを消すようにスライドします。

 

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 サイドを塞がれ、長いボールは3バックとアンカーのサントスに止められ、中々チャンスを作り出せない前半のジュビロでした。

 

4.前半途中からのジュビロの修正

  前半途中からのジュビロの変化を表したのが下の図。

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 ジュビロは、まず中山と福西がそれぞれ戸田とアンカーのサントスを明確にマークするようになりました。

 そしてSHの藤田と奥はCBが前を向いて持っている時には、無理に前プレスをかけずに中盤をケアする位置をとります。その代わりコントロールが乱れた時など、彼らが不安定な状態で持った時は一気にプレスをかけています。

 中央の戸田や中盤の選手に持たれるよりも、西澤、斉藤に持たせたて状況を見ながらプレスをかけるよう整理したようです。

 これでエスパルスも自由にボールを動かせなくなりロングボールが増えてきます。

 そして前半の34分。西澤のコントロールが乱れたところに中山がプレス。奪って中へ入れたボールを服部がミドルシュートを決めてジュビロが先制しました。

 

5.アレックス退場からの盤面変化

 ジュビロが先制した直後にアレックスに報復行為でレッドカード。しかしその前に受けていたファールで得たFKをキャプテン沢登が決めて同点に追いつきます。沢登のFKは今見ても鳥肌が立ちますね。

 

  さて、一人少ないエスパルス。戸田を左SBに回してシステムを4-3-2に。前のバランスは変えずに後ろを1枚減らして対応しました。

 

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 DFラインが少なくなった影響はサイドの守備の人数不足として表れます。上の図のように戸田が藤田を見ると、サイドを上下動する安藤を伊東が一人で見なければなりません。

 さらにジュビロは奥が中央に入り、ボランチの三浦も前に上がって攻撃に絡むようになります。伊東は一人でサイドの安藤と中を上がってくる三浦に対応する状態になり、さずがの伊東もオーバータスクに。それにより安藤の攻撃参加が目立ってきます。

 この流れは後半まで続き、しばらくエスパルスが押し込まれることになります。

 

6.選手交代、そして延長Vゴール

 ジュビロに試合を優勢に進められながらも、エスパルスの突破口になっていたのが右サイド。後半チャンスを作り出していたのは、サイドに流れる2トップの一枚と高い位置に上がった右SBの市川が絡んだ時でした。

 エスパルスの選手交代はまず68分に安永に代えてファビーニョファビーニョが右サイドに流れて中央で久保山がゴールを狙う形を作ります。

 そして後半終了間際86分、CB西澤に代えて大榎。CBの一角にサントスを回し、大榎がアンカーの位置に入ります。勝ち越し点を狙うため、後ろからしっかり保持して確実にボールを前に届ける狙いでしょう。

 最後は延長戦に入った96分。久保山に代えて長谷川健太。チャンスを作っていた右サイドを長谷川で打開して、中央にファビーニョを回します。

 下は99分。ファビーニョの得点場面。

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 右サイドを長谷川が突破。CB前田とSB山西が対応してクリアしましたが、再びボールはエスパルスへ。ボールは大榎に渡り、大榎からファビーニョへのスルーパス。直前のプレーで前田が右サイドに、沢登の斜めのランニングで鈴木と両CBが左右に引っ張られファビーニョの前にはスペースがぽっかり空いていました。このパスをファビーニョがゴール左にシュートを決め、エスパルスが延長Vゴールで勝利しました。

 

7.最後に

 第1戦の結果と合わせ、この後PK戦に突入しました。リアルタイムで見ているかのように思わず手に汗を握り、頭を抱えてしまいました(笑)。

 観る前は、もっと個々の能力を前面に出した戦い方なのかなと勝手に想像していましたが、ボールを前進させる仕組みや守備でのスペースの埋め方、戦術的なやりとりなど、かなり組織的でした。過去の試合を観るのはとても勉強になります。

  そしてなにより、このような歴史の積み重ねの上に今のエスパルスがあるんだと実感できました。我慢の日々が続きますが、久々にエスパルスを感じられる有難い放送でした。