2020年明治安田生命J1リーグ第2節 清水エスパルスvs名古屋グランパス【バランスのラインでの駆け引き】

 

1.はじめに

 長い長い中断期間が終わり、僕らの日常にやっとエスパルスの試合が戻ってきました。まずはそのことをみなさんと一緒に喜びたいと思います。

 さて、待ちに待った再開初戦です。試合序盤はペースを握り見事先制点を奪ったものの、その後は押し返され1-2の敗戦となってしまいました。

 敗戦ももちろんですが、ボールを握って相手を押し込むエスパルスのスタイルを出し切れなかったことに悔しさが湧いてきます。

 それではいったいボールを握れなくなってしまった要因はどこにあったのでしょうか。今回のレビューではそこを中心に考察したいと思います。

 

2.スターティングメンバーと配置

 

f:id:hirota-i:20200707214216p:plain

・清水のシステムは、1-4-2-1-3。

 GKに梅田、トップ下に鈴木と思い切った若手起用。また右サイドバック金井の起用もちょっとしたサプライズでした。

・名古屋のシステムは1-4-4-1-1。

 CFに山崎が予想されていましたが、前線は開幕戦と同じ選手起用となっていました。他のスタメンもCHが米本→シミッチとなった以外は開幕戦と同じです。

3.清水のボール保持局面

(1)序盤の清水のボール保持

 試合の序盤、名古屋のプレスは次のように行われていました。

・2トップは清水のCBに高い位置からプレス。

・2トップ脇に運ばれたらSHが前に出る。

・右SB成瀬はカルリーニョスをマーク。

  竹内を下げて3枚でビルドアップスタートする清水。SHマテウスが前に出てSB成瀬がカルリーニョスを監視しているので下の図のような現象が見られます。

f:id:hirota-i:20200707220625p:plain

 

 SB奥井へのマークがあいまいになり、そこから中央のスペースへ。前からのプレスを外されると名古屋の守備は自陣にブロックを作るので中央でのプレスが弱くなります。そのスペースを使い、ボランチ岡崎やトップ下から降りてくる鈴木がボールを運び前へボールを入れていきます。

 序盤に名古屋のプレスをかいくぐりボールを持てたのはSBから中央のルートができてフリーのスペースでボールを運べていたことが要因だと思われます。

(2)なぜボールを握れなくなったのか。

 ボールを握り、またプレスや素早い攻守の切り替えも機能して幸先よく先制点を奪った清水でした。しかし前半途中から徐々に相手のプレスにはまりボールを持てない時間が増えてきます。

 これは名古屋のプレスに変化が出たのが原因だと思われます。

f:id:hirota-i:20200707230220p:plain

 序盤にボールを持てていたSB奥井や中央に入る岡崎、鈴木に対して名古屋はボランチの選手を前に出してプレスをかけるようになります。名古屋はこのままサイドに押し出すようにプレスをかけるため清水の保持はボールサイドで窮屈な状態となり、序盤に比べてボールが繋がらないことが多くなってきました。

 DFラインにプレスをかけられた時の出口。清水の場合はSBのポジション取りでそれを確保しています。しかしその出口を塞ぐようにプレスをかけられた時にどう回避するかはちょっとした課題になるのではないしょうか。

(3)プレスに対する解決策

 名古屋のプレスが強まった後の清水のビルドアップに注目します。どんな解決策を狙っていたのかです。

 まず一つ目が相手のプレスの奥のスペースです。後半開始早々にGK梅田が無人のスペースにパスを出して相手ボールになるプレーがありました。パスミスにも見えますが、相手がプレスにきた時に早いタイミングでその奥のスペースに出すパスはその後も見られた(ような気がする)ので意識されていたのではないかと思います。ただ少し慌てていたためかパスがずれることが多かったのはもったいないプレーでした。

 もう一つは右サイドへの展開です。名古屋はサイドを変えられるとスライドしながら自陣に引いていき442でブロックを作ります。そのため左で動かしてから右へ展開すると前からのプレスの圧力が弱まる傾向があります。

 見直すとこの形でのチャンスは何度か作れていたのでもう少し徹底しても良かったのかなと思えました(右利きが多いのでどうしてもサイドが偏ってしまうのでしょうか?)。

4.清水の非保持局面

 守備の局面についても触れておきます。

(1)ボランチ周辺の攻防

 名古屋のビルドアップはボランチが少しサイドにずれて、CB、SBとともに作るサイドでの三角形がスタートです。そこでボールを回しながらサイドに張っているSH(相馬、マテウス)にボールを入れて個の打開力でゴールを狙っていきます。

 名古屋のサイドでのボール回しの中でも前へ展開するのはボランチの選手の役目。なので名古屋が後ろで持った時は、ボールを左右に動かしながらまずボランチをフリーにしようとしてきます。

 

f:id:hirota-i:20200707232346p:plain

 清水の守備は基本的に後藤がCBへ、鈴木がボランチを消す縦関係。相手ボランチのマークが外れた時にはボランチの竹内や岡崎が前に出たり、WGが絞ってボランチがフリーになるのを警戒しています。

 つまり名古屋のビルドアップスタート時に行われていたのはボランチをフリーにしたい名古屋と、それを塞ぎたい清水の攻防です。

 この攻防のバランスを崩しにきたのがトップ下阿部の動きでした。前半途中から阿部はトップ下の位置から低い位置まで降りてきてサイドでのボール回しに顔を出すようになります。清水が阿部を気にすればボランチの選手のマークが外れ、ボランチを消すと阿部がフリーになる。

 この辺りから清水のファーストディフェンスがはまらなくなり、名古屋にボールを持たれ始めました。

(2)サイドでの1vs2

 名古屋はボランチが消されていれば、SBが組み立ての補助をするため低い位置にいなければなりませんが、ボランチがフリーになれば後ろを任せて前に出ていくことができます。

 これによりSHとSBでサイドの高い位置でに2vs1の数的優位を作る。試合後に名古屋の選手がコメントしていたように彼らの狙いだったのでしょう。

 しかし試合を観察していると清水がファーストディフェンスを外されサイドで1vs2を作られてもWG(金子、カルリーニョス)が下がって守った時はしっかりと守れています。

 つまり守備だけを考えれば名古屋の攻撃に対する答えは簡単です。WGを下げて守備をさせればいいのです。しかしWGを常に下げてしまっては彼らの得点力を無駄にしてしまいます。

 そこのバランスは難しいなと感じました。ただしまずやるべきはより前からのプレスを高めることだと思います。少なくともまだ改善の余地はあるでしょう。

 

5.最後に

 リアルタイムで見た時は、試合序盤以外は上手くいっていないなと感じましたが、落ち着いて見直すと試合を通してできていたことも数多くありました。強がりでなく普通に前向きに捉えたいと思います。

 サッカーは対戦ゲームなので自分達のやりたいことがあったとしても、どうしても相手とのやり取りに影響されてしまいます。そこで自分達のやりたいことのバランスを少し変えてどう対応するのかが問題になってきます。 

 名古屋が中盤のバランスを少し崩しても前に出てプレスにきたのも同様だと思います。そこに関しては名古屋は強かったなと素直に思いました。

 しかしそれも大切な要素ですが、我らがエスパルスにはまだまだ自身で高められるとこるが大いにあると思います。

 相手のプレスに恐れず見えているスペースを信じること、ボールの動きに応じて絶え間なくポジションを取り直してプレスの網を常に高い位置に張ること。よりバランスのラインを自分達側に寄せるようなプレーです。

 ようやく再開したと思えば、もうすぐ次の試合がやってきます。試合を重ねて僕らは強くなっていく。そんなことを期待しながらこのチームの伸びしろを楽しんでいこうと思っています。