2020年明治安田生命J1リーグ第13節川崎フロンターレvs清水エスパルス 【相手のプレッシャーをどこまで許容するのか】

 

1.はじめに 

 0-5の完敗でした。大分戦から調子を上げてきた流れもここ3試合の敗戦で途絶えてしまった感もあります。しかも前節から1週間日程が空いたエスパルスに対して川崎フロンターレは中2日。疲労の蓄積という言い訳のきかない敗戦は、首位チームとの実力差をまざまざと思い知らされる結果となってしまいました。

 私もあまりの完敗に試合終了後は落ち込んだりもしましたが、翌日になればそんな感情をなぜ上手くいかなかったのかを知りたい興味が上回ります。そして結局いつも通りに懲りずに見直しをしながらこうしてせこせこと文章を書いています。

 確かに点差だけでなく内容にも差を感じるものがありました。しかしその「差」とは一体なんでしょう。試合を見直すとできていることやできていないこと両方が存在しているような気がします。そこで今回は試合内容の観察からその「差」について自分の考えをまとめてみたいと思います。

2.スタメンと配置

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清水エスパルスのシステムは1-4-2-1-3
 連続出場していた後藤、ヴァウド、ソッコに代えてそれぞれのポジションに中村、岡崎、奥井が起用されました。人数は3人ですが久々に主要メンバーの入れ替えが行われたことになります。
川崎フロンターレのシステムは1-4-3-3
 こちらは前節から8人の入れ替え。大幅入れ替えがあっても誰が出ても遜色のない強力なメンバーです。
 システムを見れば中盤の構成は噛み合う形。両チームともボールを保持していくスタイルなので後ろでの保持時に生じるずれを上手く利用できるかが注目されます。

3.ファーストディフェンスのはまらなさについて

 清水の守備で気になったのがセンターバックの保持に対して全く制限が掛かっていなかったことです。センターバックが余裕でボールを持てるため、裏を狙う前線に楽にボールが通り何度もゴール前まで攻め込まれていました。
 これを見て清水の前線の運動量が足りなかった、もしくは守備の組織ができていないと考えるのは普通です。しかしあまりにも同じ形からのピンチにさらされると(私のPCの故障で同じ場面がリピートされてるかと思った)なにか戦術上のエラーが発生している可能性も否めません。
 そこで清水の守備の挙動を観察するとまず川崎の中盤3枚にボールが入るのを警戒しているようにも見えます。
 トップ下中村は川崎のアンカー守田を監視するようなポジション取り。ボランチの竹内、ヘナトも横浜FC戦のような中盤から飛び出してのプレスは見せません。
 アンカー監視役の中村の守備が緩慢に見えますが、中盤から降りてくる選手にボールが入った時には割と強くプレスをかけています。
  これらの動きから清水のプランは、試合の入りはミドルゾーンでセットしてテンポを少し抑えていこうだったと想像することもできます。
 このセンターバックフリーからの裏取られまくり問題は前半ずっと続いたように感じますが、飲水タイム後にはいくぶん改善されています。修正点はカルリーニョスと中村でセンタバックに制限を入れるようになったことだと思うのですが、それでも全体で前からプレスに行くことはほぼありません。逆に451に近いくらい割り切って後ろを埋める動きも見られます。
 これらの動きからやはり積極的なプレスでなくセットして守るのがプランだったと推測されます。飲水タイム前のちぐはぐさは中盤への縦パスを警戒しようとする意識が強すぎてファーストディフェンスが引き過ぎたことからきたエラーではないかというのが私の想像です。

4.ポジションは取れていても...

 清水のサッカーを語るうえで「しっかりポジションを取る」はひとつのキーワードになっています。ではこの試合の清水はどうだったか。私はそれなりに全体のポジションは取れていたと思っています。
 川崎の守備は4-3-3のシステムから清水の配球の起点となる立田のところへ宮代や旗手が積極的に前に出てきます。そのため前に出てくる宮代や旗手の後ろは比較的スペースのできやすい場所でした。

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 清水の選手は旗手の後ろのスペースにポジションを取れていましたし(奥井や西澤など)、やや詰まりながらもボールはそこに出ています。そしてゴール前のチャンスに結びつくのもここを起点とした攻撃でした。このことから相手のシステム上、空きやすい場所は認識できていたと言えるでしょう。
 またリアルタイムでは中村が下がってくる動きが気になりましたが、見直すと中村が下がっても他の選手が前に上がっていく動きが見られます。結果的には全体のポジションバランスは崩れていないように見えました。むしろ中村のダイナミックな動きはポジションローテーションのスイッチになっているようにも感じられます。
 ではポジションを取れていたから良かったかと考えるとやっぱり少し物足りなさが残ります。
 そこで、そもそもなぜポジションをしっかり取る必要があるかを考えます。それは相手の守備を動かすことでスペースを創出し、ピッチ各所に複数の攻撃ルートを作るためだと思います。
 相手の守備を動かすためにはボールホルダーが相手の守備者を引き付けなければなりません。引き付けるとは言い換えれば相手のプレッシャーを受けることです。つまりポジションをしっかり取るサッカーをやるためには各選手が相手のプレッシャーをギリギリまで受け入れることが前提となっています。
 清水のボールの動かし方を見るとこのプレッシャーの受け入れ方が少し足りないように感じます。守備者がボールホルダーに食いつく前にボールを離してしまうと守備者はそのまま次の受け手の方にスライドしてプレスをかけることができてしまいます。
 良い所にボールを運んで行ってもアタッキングサードに入ったところで詰まるような攻撃はここに原因があるのではないかと思います。

5.まとめに

 冒頭に述べた両チームの「差」は、相手のプレッシャーをどこまで許容するかの差ではないかというのが私の感想です。
 プレッシャーを受けることが前提になっていればボールを受け方や体の向き、またボールホルダーだけでなく周囲の受け手の選手のポジショニングもそれを意識したものになってくると思われます。
 単純な足元の技術を見れば、個々によって多少の差はあるかも知れませんがプロである以上清水の選手も一定のレベルはあるはずです。しかし自分達のゲームモデルに対する意識がどれだけ染みついているかを比べると川崎フロンターレのとはまだ差があったような気がします。
 これはビルドアップについてだけでなく安易なゴール前の失点の原因も同様に考えることができます。いつでもどこでもプレッシャーに対して準備できているかです。
 川崎サポのレビュワーであるせこさん(@seko_gunners)がレビュー内で清水の選手のプレーについて「ボールを奪った後、低い位置のビルドアップにおいてとにかくボールを離したい。でもクリアはしたくないというジレンマ」と表現されていました。
 これはとても言い得て妙だと思います。清水の選手はスタイルを遂行したい意識はあっても、それが当たり前のように染み付いているかを考えるとまだ足りなそうです。
 ピッチレベルでは川崎のプレッシャーはこちらが想像するよりも強かったのでしょう。しかし上に書いたようにプレッシャーを受けることでクラモフスキー監督のサッカーは成りたちます(と私は考えている)。なので”ボールを離したい”という心理を乗り越えることが次の壁なのではないかと思います。
 おそらくそのためには自分達のサッカーを信じ、チャレンジするしかありません。そしてその先それらが日常になった時に壁を乗り越えられるはず。そう期待してこれからも続く試合を追っていこうと思っています。