2021年明治安田生命J1リーグ第30節 清水エスパルスvsヴィッセル神戸 ”主に清水の前半の守備とその修正について”

・スターティングメンバーとシステム

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 清水のシステムは1-4-4-2。前節からの変更は藤本→コロリのみ。神戸からレンタル加入の藤本は契約上の規約で出場できず。代わりに鈴木唯人が2トップの一角に回り、前節メンバー外だったコロリが左SHに入った。仙台戦で9試合ぶりの勝利を収めた清水。今季初の連勝を目指す。

 神戸のシステムは1-4-2-3-1。中盤の主力だった山口蛍が負傷のため欠場中。前節の札幌戦では中盤には大崎が起用され1-0の勝利。今節もその札幌戦と同様のスタメンを組んできた。夏に大迫、武藤と大型補強を行った神戸。順位は29節消化時点で4位とその補強に見合った実力を見せている。

・前半飲水タイム辺りまでの清水の守備を見る。

 前半開始からしばらく神戸がボールを保持し、清水陣内に攻め込む流れが続く。

 神戸の保持は大崎がCBの左側に降りて後ろ3枚でスタートすることが多かった。サンペールは2トップの裏でアンカーのように振る舞い、イニエスタは左内側のやや低い位置に下がりボールを引き出す。CFの大迫は左右に流れたり、引いてきたりと大きく動きプレス回避のターゲットになる。神戸の基本的な配置を図にすると下のようだ。

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 イニエスタがプラス1となり、大崎、初瀬(ときおり中坂も)で行う神戸の左サイドのビルドアップに清水は苦戦する。

 清水の守備は2トップの1枚がアンカーのポジションにいるサンペールを消し、もう1枚がCBに出ていく。 

 SHはまず縦パスを消すようやや絞ったポジショニングからサイドに出たらそのままスライド。

 清水は内側を消してサイドに誘導したいが上手くプレスがかからない。フェルマーレンの左脇に降りてくる大崎がオープンになり縦やサイドに蹴り分けるパス、またスペースへの運ぶドリブルで前進されていた。

 この大崎のポジション取りを見ると、清水の2トップがCBに行く動きを見ながら位置取りを決めているようだ。例えば唯人の視界から離れるようにポジションを移動しボールが来たら西澤を引き付けてパスを出す。大崎がオープンになると唯人、西澤もそれを気にし始めたがどちらがいくのかあいまいになり後追いのプレスになっていた。

 さらに大崎はパスを出したら前に出ていき三角形の頂点を移動させるようにポジションチェンジする。

 清水は中への縦パスを塞ぎたいが、縦を切っても一度サイドの初瀬に出してから内側へ入れられる。この横パスで中のイニエスタがフリーになる。そしてイニエスタが引き付けてフリーを作ったり、前を塞がれれば逆サイドへのサイドチェンジ。このサイドチェンジから武藤と酒井に打開されるのを警戒しコロリと片山は絞り切れず清水の守備ブロックはかなり左右に引き伸ばされていた。

 ブロックが横に伸ばされると塞ぎたい中央もサイド経由で攻略される。清水は開始から25分の飲水タイム辺りまでこの悪循環を修正できずペースを神戸に握られ続ける。

・神戸の先制点を見る

 この流れを頭に入れ神戸の先制点を見る。

 大崎が2トップの脇を運んでいき、清水のブロックを内側に寄せる。これで左サイドに引いてきていたイニエスタ、さらに大外の初瀬がフリー。

 大崎からイニエスタにパスが出て西澤がプレスにいくが間に合わずサイドの初瀬にパスが出る。

 西澤がサイドに動いたことで再び中の大崎の周辺にスペース。初瀬から大崎に横パスが出るがこれを切れずにフリーで大崎がボールを受ける。大崎から内向きに侵入してきた初瀬にワンツーでパスが出て、初瀬は松岡に正対してドリブル。これで松岡がピン止め。松岡がピン止めされるとSB-CB間のカバーにいけず、そこに流れていた大迫がフリーになった。

 大迫にパスが出て、大迫は中へ速いクロス。逆サイドからヴァウドと井林の間に入ってきた武藤がヘディングでゴールを決めた。

 また失点の決定要因ではないがこの時、清水の中盤ラインはやはりかなり間延びしている。本来ならボールサイドにスライドして横をコンパクトにしたいがホナウドは中央付近にポジション。左サイドのコロリがサイドに開いたままなのでホナウドは中央を空けるわけにはいかなかったのだろう。これも神戸のサイドチェンジと武藤や酒井への警戒が影響した可能性は十分考えられる。

 この失点は大崎に2トップ脇を運ばれたことから始まっている。ファーストディフェンスがはまらず相手を限定できない。限定が緩く選択肢を持たれるため、こちらの動きをコントロールされる。そしてポジション移動する相手に動かされスペースを作られ攻略された。以上のようにこの失点は前半に見られた典型的な流れから生まれたものだったと言える。

・清水の修正について考える

 飲水タイム明け、まず唯人がCBにいく際も常に首を振り必ず大崎をチェックする動きが見られる。そして大崎の運ぶドリブルや自分の裏で浮いている選手にプレスバックでプレッシャーをかけるようになった。

 またそれまである程度持たせていた菊池流帆にもコロリが出ていくようになる。そして中央のフェルマーレンにも強く限定をかける。そこから左にボールが出ても限定が明確なので西澤も前に出ていきやすい。

 DFラインにフリースペースができにくくなったためか、この辺りから大崎がDFラインに降りなくなった。大崎が降りなくなると初瀬が下がってCBの横でサポート。しかし大崎に比べれば初瀬の方がプレスはかけやすい。

 こうしてファーストディフェンスがプレスを強めて限定を明確にすると神戸もクリーンに前進できなくなる。この辺りから清水が中盤でボールを奪う場面が見られるようになってきた。

・清水の保持局面と簡単に試合の流れを

 清水の保持局面を見る。

 清水はCHが1枚降りて後ろ3枚。SBを上げてSHはやや内側。そしてFWの唯人が中盤の中央に引いて受ける。これが基本的なポジション取りとなることが多かった。

 神戸の守備はCHのサンペールをイニエスタと同じ高さまで出して、1-4-3-3に近い布陣で守備を行なってきた。

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 後ろ3-1でビルドアップする清水に対し、神戸の守備基準は大迫が中央のCB、アンカーの松岡をイニエスタ、ヴァウドに中坂、脇に降りるホナウドへは武藤が出てくる。そして井林やホナウドからハーフレーンへ出される縦パスのコースをサンペールが埋める立ち位置だ。

 神戸は前からかなり積極的にプレスをかけてくる。そのため中盤(大崎周辺)やSBの裏に広いスペースができやすい。 

 しかし清水がそのスペースにボールを入れると神戸は持ち場を捨てても激しく追撃。原の仕掛けから幾度か初瀬の裏を取るがそれ以外はあまり上手くボールを運べていない(原の仕掛けは相手の守備を考えるとチームとしての指示だったかのかなとか)。

 前半の30分辺りから神戸のプレスの勢いがやや下がってくる。この理由は明確にはわからないが、そこから清水がボールを持てるようになってきた

 特に井林とホナウドでボールを落ち着かせられるようになったのが大きいそうだ。武藤を引き付けて片山をサイドでフリーにしたり、大迫や前に出てくる中坂を動かして内側への縦パスを入れる場面が見えてきた。

 神戸はボールサイドに寄る傾向が強いため、一度内側に入れるとサイドのレーンがフリーになりやすい。特に右サイドの中坂、初瀬のラインが顕著でSB原とSH西澤が内外を使い分けながら大外にスペースを作りクロスでチャンスを作っていった。

 後半に入っても前半途中から修正した流れは変わらず。

 神戸は84分に選手交代と共にシステムを3バックに変更。非保持時には1-5-4-1にし逃げ切り体制に入った。

 神戸はサイドバックを動かされてスペースを利用されていたので後ろ5枚にしてそこを消す。理にかなった采配だ。

 これでやることが明確になった神戸。86分に清水が前から奪いに行ったところを後ろで動かし前線の大迫へ。大迫からサイドに開いて折り返しを前に出てきた大崎がシュート。不運にもシュートが松岡に当たったため不規則な軌道になりゴールが決まってしまった。

 その後、清水は埋められたサイドを打開するため西澤に代えて滝。得点を狙っていくもスコアはそのまま動かず。2-0で試合は終了した。

・感想

 受け手がフリースペースに入ってそこにボールホルダーがパスを出す。ボールホルダーが相手を引きつけ意図した場所にフリースペースを作り受け手に使わせる。意識としてはそれが相互に行われるとスムーズにボールが前進していきそうだ。

 神戸にはそれを理解し個人で実行できる選手が揃っていると感じた。フェルマーレン、大崎、サンペール、イニエスタなど。ボールを持てば常に相手を牽制し、持っていない時も相手の動きを見ながら味方と繋がるようにポジションを修正している。

 清水の選手もそういったプレーへの意識は感じられるがまだ強いプレッシャーの中ではそれを発揮できない場面が見受けられる。

 相手のプレッシャーを受けているのか、相手を引きつけてスペースを広げているのか。そこを自然と意識できた時、よりチームの足取りは進んでいくのではないだろうか。

 

試合結果

清水エスパルス0-2ヴィッセル神戸

IAIスタジアム日本平/晴れ/気温24℃)

得点

9'武藤嘉紀

38'大崎玲央