2020年東京オリンピック 男子サッカー準々決勝 スペインvsコートジボワール レビュー ”確実性と結果の関係は”

試合結果

【得点】

スペイン 5-2 コートジボワール

【得点者】

10’ エリック・バイリー(コートジボワール

30’ ダニ・オルモ(スペイン)

90+1’ マックス・グラデル(コートジボワール
90+3’ ラファ・ミル(スペイン)
98’ ミケル・オヤルサバル(スペイン)
117’ ラファ・ミル(スペイン)
120+1’ ラファ・ミル(スペイン)

両チームのメンバーとフォーメーション

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(スペイン)

フォーメーション:1-4-3-3

交代選手:10’ヘスス・バリェホ(オスカル・ミンゲサ)、67’ブライアン・ヒル(マルコ・アセンシオ)、90+2’ラファ・ミル(ミケル・メリノ)、102’カルロス・ソレル(ペドリ・ゴンサレス)、105’マルク・ククレリャ(フアン・ミランダ)、105’ホン・モンカヨラ(マルティン・スビメンディ)


コートジボワール

フォーメーション:1-4-4-2

交代選手:62’アマド・ディアロ(シェイック・ティミテ)、90’アブドゥル・ケイタ(クリスチャン・コウアメ)、114’コッフィ・クアオ(エブエ・クアシ)

試合の概要

 東京オリンピック男子サッカー準々決勝。予選Cグループ1位(1勝2分)のスペインとDグループ2位(1勝2分)コートジボワールの対戦です。

 ボールを保持してスペースを作り相手陣内に攻め入りたいスペインとボールを持ったら素早くゴールに迫りたいコートジボワール。両者の思惑は噛み合う構図となり試合を通じてスペインがボールを保持する流れとなりました。

 相手陣内に迫る機会もスペインが多く作ります。しかし90分の中で常に先手を取ったのはコートジボワールでした。試合開始早々、前半10分にコーナーキックから先制ゴール。その後、追いつかれるも後半の45分過ぎに勝ち越しゴールを奪います。このまま試合終了と思われましたが、その2分後、タイムアップ直前にスペインが意地の同点ゴール。勝負の行方は延長戦に持ち込まれました。

  延長戦に入ってもお互いの構図は変わらずでしたが試合を動かしたのはスペイン。延長前半にハンドによるPKを決めて勝ち越します。その後も粘り強く試合を進めるコートジボアール。しかし延長後半に入り時計の針が進むにつれ、いよいよ前に出ざるを得ない状況になってきます。するとスペインはそれをいなし、相手守備組織のすきを着実に突いて2得点。5-2でスペインが勝利し準決勝に駒を進めました。

相手をよく見て淡々とくり返す(スペインの保持局面について)

 4-3-3の配置を大きく変えずにビルドアップをスタートするスペイン。ウィングはサイドに張り、中盤はコートジボアールの4-4のブロックのちょうど間にポジションする形です。

 対するコートジボアールの守備はサイドハーフをやや絞り気味にした4-4-2(4-4-1-1)。まずは縦パスを入れられるのを警戒しているようで、奪いにいくよりスペースを消して構える守備でした。センターバックの保持にも前からいかず持ち運ばれたら2トップの1枚が制限、もう1枚がアンカーを抑えます。

 コートジボアールのファーストディフェンスが縦並びになるのでスペインのセンターバック1枚はフリーになりやすくなります。そこで相手2トップ脇からボールを持ち運びコートジボアールの中盤をけん制するのがスペインのビルドアップスタートになっていました。

 コートジボワールの守備の特徴の一つは、ボランチの選手がスペインのインサイドハーフを強く意識していたことです。ここからも内側でパスを繋がれるのを嫌っているのがわかります。しかしこれは逆にボランチがスペインのインサイドハーフに動かされることに繋がります。

 序盤はサイドから前進を狙っていたスペインでしたが、少し時間が進むとインサイドハーフが降りたり開いたりと相手のボランチを動かし縦パスのコースを作り始めます。

 ただしくさびのパスに対しては後ろからタイトにマークがついてくるので中央から直接崩す場面はあまりありませんでした。

 そこでスペインはくさびを入れてブロックを収縮させると、戻して(レイオフ)サイドに展開。横に揺さぶってから大外やハーフスペースを深く侵入して低く速いクロスが多くのチャンスシーンになっていました。

 例えば右サイドバックミランダが内側に入っていき大外のダニオルモをフリーにする。そしてミランダはSB-CB間へランニング。ダニ・オルモが内向きでボールを受け、裏に抜けるミランダにパス。ミランダがハーフスペースを深くえぐってクロス。ウイングとサイドバックの関係が逆になる時もありましたが、このパターンはよく見られた攻撃です。

 またスペインの前線で主に深さをとるのはセンターフォワードでなくウイングでした。場面により内側に入りボールを引き出す動きも見せますが、まずはワイドに張って相手のディフェンスラインの裏を狙う動きを見せています。

 ただし右ウイングのアセンシオ、左ウイングのダニオルモともに逆足のウイングなのでボールを受けると縦でなく、内側を向いてインスイングでファー側へのクロス、または内にいる味方との連携でゴールに向かっていきます。

 スペインの1点目は右サイドから。大外でアセンシオがボールを持つと、内側でサポートしていたメリノへパス。同時に逆サイドのダニオルモが相手サイドバックの裏を取り、ファー側のぺナ角に向かって入ってきます。メリノはそこへインスイングのクロス。コートジボアールサイドバック、シンゴがこれを処理しようとしましたがこぼれてそれをダニオルモが押し込みました。

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 中、外とボールを動かす。ハーフスペースをえぐって速いクロス、もしくは少し内側に持ち出してファーにインスイングのクロス。そして前線は誰かが引いて同時に他の選手が裏を狙う。スペインはある意味、ボールの前進からこの攻撃を淡々と繰り返していて、その内の一つがようやく得点として結びついた形でした。

サイドからの素早い攻撃で前線の力を生かす(コートジボアールの保持局面)

 コートジボワールは長いボールをダイレクトに前へ、また後ろで保持した時はサイドからが主な前進のルートでした。

 前進のルートで多かったのは左サイド。センターバックボランチを経由して左サイドへ。サイドをサイドハーフが運んで大外をサイドバックが上がっていきます。さらにその内側、ハーフスペースをボランチのケシエが上がってサポート。このようにサイドを3人で崩すのが一つの形でした。

 スペインの守備組織は4-5-1。しかしセットすることはほぼなく、ボールサイドの2列目も前に出てかなり積極的に高い位置からプレスをかけています。まずは1列目が中を切って外側へ押し出すようなプレス。そのままサイドにボールを押し出したら高い位置から奪いにいきます。

 サイドにスライドしながら強くボールに寄せていくため、サイドバックが突破されるとそのままアタッキングサードまで運ばれやすい傾向はありました。サイド深く運ばれたらセンターバックはスライドしないでギャップはインサイドハーフが下がって埋めています。中央のゴール前はセンターバック2枚とアンカーの3枚を確保して対応しているようでした。

 コートジボワールはサイドを運ぶとシンプルにクロス。クロスに対しては2トップと逆サイドのサイドハーフの3枚が入っていきます。

 アタッキングサードに運んだら基本的にはあまり手数はかけず、クロスやペナ角辺りからのシュートを狙うのがコートジボワールのフィニッシュパターンでした。

 コートジボワールの1点目はコーナーキックから。スペインのコーナー守備はニアポストに人を置かない配置で、そのためかコートジボアールのニアへのおとりのランにキーパーが若干振られ気味だったのが気になりました。

 2点目はスローインの流れから。一度スペインが拾ってエリク・ガルシアが出したパスをカットしてのショートカウンターボランチの選手(たぶん⑫クアシ・エブエ)がカットして左サイドのグラデルへ。グラデルがペナ角辺りから思い切って打ったシュートが決まりました。奪って素早く前へ、そして崩しきる前にミドルレンジのシュートはコートジボアールが何度も狙っていた形でした。

終盤の展開とまとめの感想

 最終スコアは5-2と差がつきましたが、コートジボアールはおおむね彼らが想定したように試合を進めていたと思います。もしアディショナルタイムがもう少し短かったら結果は逆に転がったかもしれません。

 一方、スペインもボールを保持して、試合を安定させる彼らの展開を作ることができていました。しかし、こと得点を奪うことに関しては作るチャンスの数に比べて少しパワー不足の感があります。そこが苦戦の要因となっていたようにも思います。

 スペインは67分にブライアンヒル、90+2分にラファミルへ交代で左利き左ウイング+高さと強さのあるストライカーで前への推進力を出して同点から逆転に繋げます。

 そして延長に入り勝ち越したスペインはその後にさらなる選手交代。システムも4-2-3-1に変更します。これで守備を安定させると前にきたコートジボワールの守備のすきを突き2点を加え試合を終わらせました。

 少しオープンにしてよりゴールに向かうか、それともクローズ気味にして安定させるか。流れの中でこの匙加減はスペインの勝敗の鍵を握りそうだと感じました。

 この試合は、ある側面から見ればギリギリで追いつきなんとか勝ち越したスペインが薄氷の勝利。別の側面から見れば、開始早々の失点にもテンポを大きく変えず論理的ともいえるプレーを正確に選択、実行し続けたスペインが確率論通りに結果を収れんさせたともいえそうです。