マッチレポート【2025年明治安田生命J1リーグ 第25節 サンフレッチェ広島vs清水エスパルス】

 8月6日に行われた天皇杯広島戦では0-3の大敗。中3日で再びサンフレッチェ広島との対戦です。

 同じチームとの連戦で天皇杯からどうリカバリーするかが一つの注目のポイントでしょう。

 それではさっそく両チームのメンバーは下の通り。

 天皇杯では4-2-3-1システムでしたが、この試合は3-4-2-1システムを採用。

 メンバーはこれまでファーストセットだった北川選手、乾選手がベンチに。代わりに新加入の髙橋利樹選手がトップに、左ウィングバック起用が多かったカピシャーバ選手がシャドーの位置で起用されました。

 またウイングバックには山原選手、高木践選手とサイドバックタイプの選手を起用。これらは多くの方が指摘するように、特に非保持でマッチアップを嚙み合わせ対面の相手に負けない強度を重視していたように思います。

 さらにボランチにルーキーの嶋本選手を起用するなど、天皇杯から変化を見せた清水エスパルス。試合の前半は、清水が天皇杯とは打って変わりアグレッシブなプレーを見せてペースを握ります。

前半(主に清水視点)について

清水の非保持(守備の局面)で見えたこと

 清水は開始から前への意識が高く、非保持でもかなり積極的なプレスをかけていきました。

 特にトップで起用された髙橋選手のプレスが効果的。髙橋選手は前に強くプレスに出るだけでなく、ボールの動きに合わせたプレスバックも献身的に行ない広島のボールの出しどころを潰していきます。

 広島はこうした清水の出足の鋭さにかなり窮屈さを感じていたよう。後方保持でパスがずれたり、パスコースを作れずやや慌てて前に出したりといった不安定さが見られました。

 そうして広島のボールがアバウトになったところに、相手より出足鋭くアプローチしてボールを回収。守から攻への切り替え(ポジティブトランジション、通称ポジトラ)が起きれば勢いよく後ろから人が前へと飛び出して広島陣内へと攻め込こんでいきます。

清水の保持(攻撃局面)と髙橋選手起用の効果

 またボール保持でも髙橋選手の起用は効いていました。髙橋選手は北川選手よりロングボールでの競り合いで特徴を出せる選手のようで、広島のセンターバックに対しても引けを取らずに競り合えていました。

 前半、清水はボール保持率で広島を上回っていましたが、後ろからクリーンにボールを運び出せていたかというとそうでもなくて、特にこれまでと変わらないように見えました。

 清水の前進は基本的にマテウスブエノ選手が後ろに降りて、個人の技能で剥がして中盤にボールを届けるか、サイドを起点にシャドーなど人がグルグル動いて最終的にサイドの裏に飛び出すような攻撃がメインです。

 ショートパスやドリブルを多用するので、成功すればテンポ良くエンタメ性の高い魅力的な攻撃になりますが、相手を動かすプレーが希薄なのでパスがリスキーだし、相手より自分達がグルグル動くので奪われた時のポジション取りが不安定になります。

 結果的に攻から守の切り替え(ネガティブトランジション、通称ネガトラ)時にいて欲しい場所に人がおらず、一気にゴールまで運ばれやすいという状態にもなりがちです。

 しかし、髙橋選手が最前線にいると後ろからロングボールを出せば競り合いで少なくとも五分のボールにしてくれます。そこで非保持時と同様にこぼれたボールに素早くアプローチすればマイボールにすることができます。そうなればそのまま押し上げて後ろの陣形を崩すことなく広島陣内に攻め入ることが可能です。

 と、ここまでいいことだらけの前半ですが、髙橋選手がボールを受ける時に中盤まで引いてきたりサイドに流れたりといった動きをするのは北川選手と同様で(これはチームのやり方としてそうしないとボールが動かない)、アタッキングサード(広島のゴール近く)まで行った時に、ゴール前に人がいない問題が発生するのもやっぱり同じでした。

 それでもシュートの機会を作れていたのは、ボールアウトからのコーナーキックだったり、ファールを受けてのフリーキックだったりと相手陣内でのセットプレーを獲得できたのが大きいかなと思います。

清水保持時の盤面について

 ここで少し清水の保持時の盤面に触れると、


 こんな感じでマテウスブエノ選手を降ろして後ろ4枚。右シャドーの松崎選手が繋ぎ役で降りてきて代りに右ウイングバックの高木選手がインサイドの最前線に上がっています。

 清水はチームの志向として個人が局面でどう勝つかを重視しているので、非保持では対面を捕まえやすいようにマッチアップを噛み合わせる。逆に保持ではずらして捕まりにくくするのが一番やりやすいのかなと思います。

 この盤面でいうと、やはり高木選手のところが捕まりづらいので飛び出しから何度かチャンスを作っていました。さらにこのずれたところに右センターバックの蓮川選手がガシガシ前に侵入してくるので、サイドの高い位置でファールをもらったり、コーナーに繋げたりといった場面を作れていました。

お互いのプランと少し広島について

 こうした前半のプレーに繋がったのは、戦術的な工夫ももちろんありますが、前提として清水が試合開始からフルスロットルで前へのアプローチを行えていたことが要因だと思います。試合後の秋葉監督コメントで主にメンタルの部分に触れているのは大げさではないでしょう。

 ただし前半、少し気になったのは清水はマラソンでスタートからダッシュするようなアグレッシブさを見せていたので、どう90分をプランニングするかというところです。

 それでいうと広島の前半の非保持は、意外とハイプレスはかけてきませんでした。もちろん前に制限はかけてきますがある程度ボールが動くと5-4-1のブロックをセットしていたように見えます。

 もしかしたら広島は前半は少し抑え気味に入っていたのかもしれません。そうだとしたら逆にフルスロットルで入った清水的には良い方に噛み合ったことになります。

 広島は非保持でブエノ選手に川辺選手をマンツーマン気味につけていましたが、全体的にはそこまで積極的なプレスではないので清水のセンターバックの選手は比較的ボール保持に余裕がありました。

 おそらくそれも清水のボール保持率が高かった理由の一因だと思います。

 と、こんな感じで前半は過ぎて清水がペースを握るもののスコアは動かず後半に向かうことになります。

後半について

ペースを握りかえす広島の修正

 後半、広島は右ウイングバックを新井選手から中野選手に交代。さらに加藤選手に代えて東選手をイン。左ウイングバックだった中村草太選手をシャドーにして東選手が左ウイングバックに入ります。これでウインバックが両サイドとも選手が代わった形になりました。

 後半、広島が巻き返すわけですが、要因は試合後のスキッペ監督のコメント通りと受け取って良いのではないでしょうか。つまり広島もプレスの圧力を強めたことと全体的に裏へ向かう意識を高めたことかなと。

 例えばですが、後半入ってすぐの46分過ぎ。清水のロングボールを弾くと東選手からパスを受けたシャドーの中村草太選手がドリブル開始。

 この時、前の3枚に加えて左右両ウイングバックボランチの川辺選手も前線へ向かっています。中村選手は中央に運んでいき、清水のディフェンスを中央に引き付けると右ワイドの中野選手へ開く。そして中村選手の折り返しを後ろから入ってきた川辺選手がシュート。この一連のプレーはロンクカウンターのセオリー通り。

 前半の広島は、ボールが前に入った時にトップとシャドーの3枚という状態が多いように見えました。ジャーメイン選手や木下選手が踏ん張って時間を作っていましたが、そこからの選択肢が少ないですし、清水もその間に全体が帰陣することができます。

 46分のようにウイングバックも前に出れば、相手のディフェンスを中央に収縮させてから開くことでサイドにフリーの起点を作れます。また清水のウィングバックの位置が高いのでその裏を狙えると。

 広島はこのサイドに展開してクロスでゴールを狙うところに強みがあるチームなのではと感じました。

 さらに右ウイングバックに入った中野選手は高さと馬力があって、清水の左ウイングバック山原選手に優位を作っているように見えました。

 前節まで右サイドでの起用が多かった山原選手ですが、どちらかというと左サイドの方がボール保持時に脅威を発揮できるような気がします。

 逆足でボールを持つと自然と相手に対峙する形になる(正対状態)。これで相手を止められるので、独力での縦突破も内側の味方に出すこともできます。

 実際に前半、清水の左サイドは山原選手とインサイドのカピシャーバ選手が共に独力でも仕掛けていましたが、後半に中野選手とガチンコになると山原選手のところが特に非保持でしんどくなってきます。

 広島は非保持でも前半より圧を強めてきます。例えば前半は何度か後ろからボールを持ち運んでいた蓮川選手をフリーにすることがなくなって、ボールを外回しに限定。

 アバウトに中に入れたボールには清水と同様のプレッシャーをかけてくるので、前半ほど間で受けれる場面はなくなっていたはずです。

 ガチの球際勝負になると、広島もかなり強いので流れは広島に少し傾いてくる。こんな感じになっていたかなと思います。

勝負を仕掛ける清水の交代策

 清水はここでおそらく予定していた選手交代。57分に山原選手と松崎選手に代えて、北川選手と乾選手をピッチに送り出します。

 高橋選手をトップに残して、北川選手と乾選手はシャドーに。カピシャーバ選手を左ウィングバックに回します。

 相手も強度を出してきたので、同じ土俵のままでは消耗の激しいこちらが次第に劣勢になってしまいます。そこで間でターンやドリブルなどでかわせる乾選手とゴールを奪える北川選手をセットで投入したのではないかなと。

 さらにフィジカルのあるカピシャーバ選手を左に回して中野選手とマッチアップさせる。個人的には納得感のある采配です。

 ただしこれで清水が相手ゴールに迫れるようになったかというと微妙でした。乾選手が入ればダイレクトに後ろから髙橋選手に出すよりも、パスを繋いで中盤の乾選手にボールを届けようとするプレーが増えてきます。

 しかし後半、広島が前からのプレスの圧力を強めてきたので、例えば61分のように後ろで繋いだところを引っ掛けられてカウンターを受けるリスクも高まっています。

 しかも選手の関係性で連携を作る清水は、多少プレッシャーを受けていても乾選手にボールを集めます。広島もライン間で乾選手にターンされるのが一番危険なのでそこを重点的にケアしてきます。そうなるといくら乾選手の技術が高くてもロストが増えるのは当然です。

 また最前線の髙橋選手もさすがに後半、運動量が落ちて前後左右に広く動いてボールを引き出し、広島のセンターバックと競り合い勝ち続けるのは不可能になってきます。

 髙橋選手の疲労は、非保持プレスにも影響してこの時間には前半ほどのプレスはかけられていません(体力には限界があるので当たり前ですが)。そうなると少し構えて守ることになるので、広島の後方保持に余裕ができて、より全体を押し上げた状態で後ろからのフィードが出せると。このあたりから広島は切り替えだけでなく、後ろのボール保持からもチャンスを作れるようになっていました。

70分の交代から終了まで

 そこで清水は疲労の影響が見える髙橋選手とカピシャーバ選手に代えて、吉田選手と中原選手。広島も木下選手に代えて前田選手がインします。

 カピシャーバ選手と吉田選手を代えた時点で最低限引き分けは担保しようという狙いだったようにも思えますが、真意はわかりません。ただとりあえずこの交代後も基本的な構図が変わってなかったと思います。

 お互いにチャンスは作っていましたが、試合のベースとしては広島が押し込むという構造になっていたと思います。

 それでも清水は前半同様、ボールを持てばアグレッシブに左右のセンターバックも前に押し出して広島ゴールに向かいます。しかし前進方法は前半と違い、ショートパスをい使った地上戦。

 左右のセンターバックが前に出た状態で地上戦のパスをカットされれば、そのままその裏を使ったカウンターを受けやすい。この時間帯に広島の右シャドー前田選手が4回(僕の計測が正しければ)、ゴール前でチャンスを作っていますがその全てが清水のボールロストからブルネッティ選手の裏を突かれています。そして内、3回に乾選手が絡んでいるという再現性。

 これは乾選手の調子の良し悪しの問題でなく、相手の狙いとこちらの構造。そして多少リスキーでもその時の状態に関わらずパスを入れてその選手の技能で打開するというチームの志向によって起こる事象です。

 それでも最後に交代で入った北爪選手の決定機など清水も何度か広島ゴールに迫ります。結局、試合はスコアレスのまま終了しましたが、試合内容としては最初から最後まで熱い充実したものだったと思います。

最後に

 スタートから強度を出して、非保持と切り替えでペースを握る。最低限無失点をキープして、後半に流れを見ながら得点に直結するセットを投入し勝ち越しを狙う。僕の想像ではこれが秋葉監督のプランです。だとすれば特に前半は狙い通り試合を進めることができていました。

 そしてこれを実行した選手は素晴らしく、だからこそ監督も試合後にあれだけ熱いコメントを残したのでしょう。

 今回のプランは、プレスをいなして後ろから組み立ててくるよりも、どちらかというとガチンコで正面からぶつかってくる広島だから機能した面もあると思います。

 それでもこれまでの形とは別のセットを機能させたこの試合は、今後の選択肢が広げる意義のあるものになったはずです。

 あとは後半のように、お互いの構造的に「それはリスキー過ぎるよ」というプレーを当たり前にするのはちょっと修正が必要かなとは思います。まあ、これはこのチームのアイデンティティに関わるところでもありますし、修正どうこうの問題ではないかもしれませんが。

 とりあえずこんなところでこの試合のレビューは終わりです。また頑張れれば他の試合も書いてみたいと思います。それでは。