第1節 vs 鹿島アントラーズ「サイドハーフの守備」

清水 3-1 鹿島

得点
40分 大前(清水)
69分 遠藤(鹿島)
74分 本田(清水)
90+1分 大前(清水)

 鹿島というチームは組織力の整ったチームというイメージだったがこの試合に関しては驚くくらいに中盤の守備は緩かった。3-1という結果は内容を正当に表した結果だろう。

 清水の攻撃とそれに対する鹿島の守備を見る。
 サイドを使ってのビルドアップが清水の主な攻撃ルートである。しかし右と左では方法が異なっていた。
 まずCBからボランチへボールを出しボランチが攻撃の起点となる。鹿島は442の守備。ワントップ高崎とトップ下土居は高い位置やサイドまでは無理にプレスを掛けず、清水のボランチ、八反田、本田にボールが入ったらプレスに行っていた。中央の縦ラインを抑えるのが目的であったと思われる。
 それに対し清水は左サイドハーフの竹内を絞らせて、その2枚に対し数的優位を作りプレスを交わしていた。そして鹿島の2の横のスペースでボランチの1枚がフリーでボールを持つことから攻撃がスタートする。
  この時、左サイドハーフ竹内が絞っているので、左からの攻撃は犬飼をオーバーラップさせる攻撃が主になる。右サイドバック三浦に比べ犬飼は高い位置まで駆け上がりクロスを上げるシーンを何度か見せている。しかし犬飼はドリブルで相手を抜いていくタイプではないので彼が上がるのはフリーに近い状況で上がれる場面のみに限られる。
 左とは逆に右は人数を掛けた組み立てが見られる。ボールを回しながら相手を引きつけ、最終的に村田が突破できる状況を作るのが目的だ。村田は相手のマークが少しでも外れればスピードで振り切る事が出来る。
 まず、ボランチが右サイドにボールを持ち出し、鹿島の右サイドハーフ金崎とサイドバック山本に対し、村田、三浦、ボランチ(主に八反田)で3対2の状況を作る。これを利用して清水は右サイドを崩していた。
 この攻撃に対し鹿島の守備の特徴と問題点が見えてくる。鹿島の守備は人に付く意識が強い。例えば清水のボランチ八反田が右サイドにボールを持ち出すと八反田に対応している柴崎がサイドに来て対応していた。この時もう1枚のボランチ梅鉢は元紀を捕まえている。彼らは自分の持ち場を離れても捕まえた相手に付いていった。しかし、サイドハーフの金崎はボールを前に運ばれると積極的にプレスバックしない。そのため柴崎がヘルプに来ても清水の誰かは浮きやすくなりボールを回されてしまっていた。
 さらに清水はFWの駿を真ん中で張らせず、サイドに流れてのポストプレーをさせていた。鹿島のセンターバックサイドバックボランチの間で受ける形だ。鹿島の選手はそこにもしっかり付いていく。しかしポジションを守る動きが整理されていないようで間で受ける選手がいると複数でチェックに行ってしまっていた。その瞬間村田に裏をとられる場面が多発する。並のスピードの選手なら山本もボールが出てから対応すれば間にあったかも知れない。しかし村田にとっては僅かなマークのズレはフリーに近い状況だっただろう。
 ここから村田がクロスなり内側への切り込みが清水の主なチャンスを生み出すパターンであった。
 これらの動きは鹿島のサイドだけでなく中央にも大問題を引き起こす。ボランチの柴崎がサイドにつり出されているので中央はワンボランチ状態である。梅鉢はトップ下の元紀を見ているのだが元紀がDFラインのギャップにランすると一緒にDFラインに吸収されてしまう。すると中盤では完全フリーで本田や左の竹内が待ち構えることになる。
 何故こうなるか。まず金崎の守備範囲が狭いので柴崎が頻繁にサイドに出なければならない。さらに逆サイドのサイドハーフ、カイオが内側に絞る守備をしないため空いた中央スペースのカバーが無い。カイオはサイドを上がってくる竹内、犬飼に付いていく縦ラインの守備はしていたがサイドハーフとしてボランチのカバーをする動きはほとんどしていなかった。それは逆の金崎も同じである。ボランチが動かされ易い上にカバーも無ければ中央が空くのは当然である。本来なら柴崎は自分が動かず指示を出して周りを動かすべきである。金崎、カイオにはカウンターの起点として前を狙うという仕事があったのかも知れない。しかしトップ下の土居も下がる訳でもないのでサイドハーフが2枚とも前に張るのは無理がある。守備が緩いと言われても仕方ないだろう。これだけスペースを簡単に作らせては清水の攻撃陣を抑えるのは厳しい。
 
 では一方清水の守備はどうだっただろうか。少なくとも後ろのスペースを空けないという意識は見られた。ボランチの1枚は必ずDFラインの前、いわゆるバイタルをフリーにはさせない、DFライン間にギャップを作らない、ギャップができたら中盤はそこを埋めるようフォローするということは徹底して落とし込んでいるようだ。
これだけでも昨年の守備とは大きな前進である。局面勝負メインのチームが多いJリーグでは極端な破綻は起きないだろう。
 しかし組織的なディフェンスかというと疑問だ。左サイドの竹内はゾーンディフェンスを理解しているような動きを見せている。彼はかなり守備に気を使っていた。一方、右の村田も確かに守備はしている。運動量もある。彼の時間当たりの走行距離は竹内より長い。問題はどこを守るか。村田は鹿島のサイドハーフ同様サイドラインを守っているが内側を守るという意識は薄いようだ。前半の23分から27分の間、清水から見て左1回、右2回サイドの深い位置を狙われている。右では最終的に竹内がクリアしている。左では村田のポジショニングが曖昧でサイドバック山本に深く切り込まれている。
 清水の失点の場面にもサイドハーフの守備の甘さを見ることが出来る。竹内に代わったデュークは内側に絞る必要があったのだが、彼はサイドバック西の動きに釣られ外側に押し下げられてしまっている。そして逆サイドの村田も相手がサイドに張っているのに釣られて開いたポジションをとっている。この時重要なのは保持者の柴崎に誰かが当たると共に中盤のラインの横幅を圧縮し門を閉じる事である。この場面に限らず一見清水はゾーンディフェンスの形が出来ているように見える場面があるが大切な横幅圧縮が無いのを見ると大まかな守備の約束と個人の守備センスで成り立っていたのではないかと推測される。
 
 もう1つ守備が大崩れしなかった要因としては2トップの守備にある。鹿島が2トップの脇をハチや本田に自由に使われたのに比べ、駿と元紀は横幅を目いっぱいカバーしていた。これにより清水のサイドハーフはブロックから前に出る必要が無く、中盤のブロックが縦に崩れることは無かった。しかしこの守備を前提にすると果たしてFWの体力が持つのかという疑問が1つ。もう1つ、奪って攻め返した時クロスに対して駿が中央にいないという問題も発生していた。なのでこの守備は諸刃の刃であるとも言えるだろう。
 
 攻撃に関しても論理的に崩しているかというと疑問が残る。上に書いたようにサイドに寄せて中央にフリーを作っていたがそこを有効利用はできていない。例えば前半36分。典型的な形で中央にスペースを作り本田と竹内がフリーだったがギャップに囮として走り込んだ元紀の方を使い攻撃は失敗している。その他にも前半20分のプレーなど中央にスペースを作れる事が出来ているが利用していない場面が見られる(この時は村田がクロスを上げプレーは成功はしている)。これはサイドの方が有効と判断してわざと中央を使わなかったのか、サイドを人海戦術で崩そうとしている内に偶然に中央を空けさせる事が出来ているのかは判断できない。この他にも良い動きで相手を動かしているが出来たスペースを有効利用せず狭いエリアを強引に攻めるプレーが見られた。

 この試合は相手のまずさにも助けられ、快勝をおさめた。しかし、このままではいずれ行き詰まるだろう。失点場面のように1枚ずつ守備を剥がされた時、スペースを埋めて村田を抑えられた時。そうなって手も足も出ずに敗れても僕は失望することは無い。むしろ問題点をあぶりだされた時どう対応していくのかそれをみてみたい。