大榎エスパルスの攻撃について

 パスで相手を崩すためには以下の2つの方法が考えられます。
1.守備者に2つ以上の選択肢を与え相手を迷わす、相手の選択の逆を取る。相手を騙す方法。これを曲線的な崩しといいます。
 
2.わかっていても相手が取れないスペースにパスを出す方法。これを直線的な崩しといいます。
  (詳しくは再びこちら footballhack 崩し論0)
 これを踏まえ、1stステージ17節FC東京戦を取り上げます。FC東京エスパルス、それぞれの攻撃の組み立てを見ます。

前半9分FC東京。
 
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ボールホルダーはFC東京サイドバック太田。守備者は水谷。考えられる太田の選択肢は①のスペースにドリブルまたは②の梶山にパス。その2つを水谷は1人で見ている。
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 太田は梶山へパス。ボールを受けた梶山の選択肢は①の太田に再びパス、もしくは②のスペースに下りてくる東にパス。水谷はその2つを1人で見ている。
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 梶山は太田にパス。ボールホルダーの太田には2人ついているが、ヤコビッチは黒丸で囲った武藤、東を1人で見ている。
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裏に抜ける武藤、ポストの東の二択。ヤコは東に付くが太田はサイドの武藤へパス。

 ここで示したFC東京のパスは二つの選択肢からエスパルスの守備者の動きを見ながら相手の選択とは逆にパスを出しています。これは片方のパスコースに出すぞと騙して違う方にパスを出す騙す方法の例です。(FC東京が常にこういうパス回しを意識しているというよりエスパルスの守備が良くないといった方がいいかも...)

次は上の例の少し前。前半7分。エスパルスの攻撃。
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降りてきた竹内に犬飼からパス。プレッシャーは無く、スペースは十分にある。犬飼は余裕を持ってパスを出している
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竹内はサイドのヤコにパス。まだプレッシャーは無く、スペースもある。竹内も余裕を持ってパスを出している
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東がヤコにプレスにきたのでヤコは水谷に出す。奥で金子はフリー。
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水谷は梶山に強く当たられる前にターンして金子にパス
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金子は2人のプレッシャーが来ているのでワンタッチで元紀にパス。
 
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元紀からウタカにダイレクトでスルーパス。シュートは決まらなかったが攻撃は成功している。

もう1つエスパルスの攻撃。58分から。
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福村からヤコへパス。スペースは十分、プレッシャーもない。
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ヤコはノープレッシャーなのでゆっくりパスコース探す。
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ヤコの選択肢は梶山を背負う水谷かサイドで空いている枝村。プレッシャーがかかったところで縦の水谷を選択しへパス。
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水谷は後ろからプレッシャーがかかっているのでワンタッチで枝村へ。水谷は出した後リターンを受けるためターンして前を向く。この時ターンしなければ枝村からは奥の元紀へのコースが空いていた。
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枝村は東のプレッシャーを受けパスコースがないので少し下がり左サイドにいる金子にパス。
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金子は2人のプレッシャー受け苦しい体勢で元紀にワンタッチでパス。
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元紀トラップと同時にプレッシャー受けはじく。
 
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金子の位置でカットされる。
 
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この後ゴール前まで運ばれ失点。

 この2つの場面、エスパルスのパスは空いたスペースでフリーの選手、またはマークが付いていてもボールを受けることのできる選手に出しています。
 これはわかっていても相手が取れない場所へのパスと言えます。つまり直線的な崩しです。
 ここでは2例示しましたがエスパルスのパス回しは基本的には、このように空いているスペースに入る、もしくは人が付いていても受けることのできる状態と思われる選手へのパスを繋いでいくのを特徴としています。
上のエスパルスのパス回しの画像の説明で青と赤の色をつけてみました。青はスペースに関する説明、赤はプレースピードに関する説明です。
 このようなパスを繋ぐ場合、ボールが前進するにつれて相手の守備の密度が高まりスペースが狭くなっていきます。
そして狭くなるスペースでボールを繋ぐためにスピードと正確なパス技術が必要となり難度が高くなっていきます。
 相手がスペースをカバーする前にパスを通すためには早く前方へプレースピードをあげながら繋がなければなりません。
または選手の距離を縮めた方がプレーの難度をカバーすることができます。

 直線的な崩しを多用して攻撃するデメリットはボールが前進するに従い難度が高くなり成功率が低くなることです。
メリットは成功するとスピード、技術、アイデアが盛り込まれた観客を魅了するような攻撃をすることができることです。
大榎監督が楽しいサッカーと言うのはこのメリットの部分の事だと思います。
大榎監督の理想とするサッカーがなかなか表現できないのは、元々成功率の低い攻撃方法で選手の質やアイデアに依存する割合が高いからです。

大榎エスパルス考察3でエスパルスのパスの特徴となるデータを示しました。
J1リーグの平均と比較して
支配率がやや低い。
ショートパスがやや多い。
ミドルゾーンでのパス成功率が低い。
前方へのパスが多い。
攻撃回数、被攻撃回数が共に多い。
これらの特徴は上で説明したようにエスパルスが直線的なパスを多用するから表れる現象と言えるのではないでしょうか。

FC東京戦は支配率54.8%、1回の攻撃にかけるパス数4.45回とデータ上は他の試合に比べボールを繋げていた試合です。
しかし基本的なパスの傾向は他の試合と変わっていません。

大榎監督求めるサッカーはしっかりとピッチ、データに表れています。

(後でもうちょっと整えます)