ヴァンフォーレ甲府戦レビュー

甲府 2-2 清水
 
得点
52分 白崎(清水)
56分 北川(清水)
66分 橋爪(甲府)
76分 保坂(甲府)
 
 
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・密集を作っての攻撃について
 
 甲府は5-4-1の守備。清水は同サイドに人を集め数的優位を作り、これを攻略しようとします。いわゆる密集戦術。数的優位と言っても、ただ人が多いだけでは意味がありません。何をするためにそこに人を配置するか。それがあって人の多さが優位に繋がります。この試合を見ていてエスパルスにとってのそれが何となくわかったような気がします。やっている事の意味がわかると面白さは深まります。
 
 エスパルスは相手の守備を見ながらそれを上回るように攻撃を仕掛けていきます。2点リードしていた後半途中まではエスパルスが主導権を握っていたといっていいでしょう。
 
 まず序盤。甲府はあまり前に出てプレスはかけず5-4-1のブロックを作って守っていました。ファーストディフェンスはハーフウェイラインの少し前、清水のボランチの位置から。
 清水は基本的に
 
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 このように人を配置。ブロック内にはCF北川、トップ下白崎、両SH2人、それをサポートするようにSB1人。相手のサイドの箱に対し5人の数的優位を作っています。
 ファーストディフェンスがバレー1枚の甲府に対し清水は竹内、本田の2枚。ということで清水のダブルボランチはバレーの脇で比較的フリーでボールを持つことが出来ていました。甲府としてはそこを潰しにいくより清水の受け手が複数入り込んでいるブロック内を塞ごうという狙いであったと思います。
 5-4でブロック内を固めたい甲府ですが、ボランチの竹内はパス出しが非常に上手い選手でプレッシャーが弱い状態では守備者の逆を取りブロック内にパスを通してしまいます。エスパルスは受け手も技術が高いうえに、数的不利の甲府の守備が的を絞りきれないためドリブルやショートパスを利用して何度かシュートまで持ち込みます。ちなみに序盤の攻撃ではあまり裏狙いはしていませんでした。
 
 甲府はこの攻撃を防ぐためボール保持者を早めにケアしようとする動きを見せます。エスパルスボランチがボールを持つと中盤の4から1枚前に出してプレスに行きます。甲府が前のパスコースを消すと、エスパルスは今度はブロックのサイドにいるSBを利用します。中を使えなければ1度サイドに入れてから。そして、やはりショートパス攻撃。
 
 甲府はブロックの間もサイドも守らなくてはいけないという事で清水の密集に合わせ逆サイドを捨て、ボールサイドに寄せてきます。こうなるとエスパルスはサイドの裏のスペースを使い出します。
 エスパルスボランチの1枚もサイドに寄せ、甲府のSHとSBを引き出し、その裏にCFやトップ下、また逆サイドのSHを走らせます。またはボランチが裏抜け。そこに起点からダイレクトにボールを入れるようになります。サイドの裏に通ったら空いた中央に折り返しシュート。前半39分、澤田が右の裏に抜けクロスから福村のシュートは最もその狙いが表れた場面です。
 相手の守備より人を多く配置しどこかにフリーになる状態を作り、相手の守備を見ながらボールを前進させます。そうして相手をコントロールしながら本当に自分達が使いたい場所を空けていきます。清水は中央をより空けるため序盤は餌を蒔いていたのかなとも考えたりします。
  後半に入ってから奪った清水の2点はCKとカウンターと密集とは違うとこから生まれていますが、密集による数的優位が相手の守備を動かし主導権を握っていた要因だったと言って良いと思います。相手を対応に追わせて反撃をほぼさせなかったのですから。しかしそれも後半途中まで...。

 
甲府。反撃の狼煙。

 甲府は失点後見事にペースを奪い返し最終的に同点にまで持ち込みます。そのきっかけを知るため前半の甲府の攻撃を見てみます。
 
 甲府のビルドアップのスタートは後ろの3枚でした。そこからのボールを繋ぐ場合のパスの出し所はボランチかWB。エスパルスはそこを前3枚(北川、白崎、ボールサイドのSH)で塞いでいました。前からのプレスでなくコースを塞ぐような守備。
 
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 前半の甲府は1度中を経由して、WBを利用した攻撃を仕掛けたいようでしたが、エスパルスに中へのパスコースを完全に塞がれていたため、彼らの選択はブロックを越えての裏もしくはサイドのWBに長いボールを出すくらいでした。それは単発の攻撃で的を絞りやすいためエスパルスのDFは問題なく甲府の攻撃を抑えることができていました。時折ボランチがDFラインに近づいてフォローの動きを見せますが、パスコースを塞がれていては人が多くても優位に繋がらないという状態です。
 
 後ろからのビルドアップは厳しい甲府。もう1つの可能性は密集を作り攻撃するエスパルスが空けているスペースを突くことです。つまり奪ってからのカウンターです。エスパルスとしても最も気にしなくてはならない攻撃から守備への切り替え局面です。
 しかしエスパルスは切り替えの意識が非常に早く、攻撃での数的優位を守備での数的優位に繋げます。相手のボールホルダーへの距離の近さを生かし、すかさず縦と中のコースを塞ぎなからボールを奪いにいきます。もし後ろに下げればその間に守備組織を整えており、セットした攻撃に逆戻りです。
 時折プレスをかわされ前にボールを出されても甲府のカウンター要因は概ねバレーと伊東の2人。エスパルスはCB2人とボランチの1人は後ろに残っているのでこの仕組みでは甲府はカウンターも機能しないという前半でした。

 この流れに変化が出たのは2失点後の60分辺りから。2点ビハインドの甲府は攻めの姿勢を出さざるおえなくなります。
 甲府はビルドアップ時に右CBの土屋がサイドに広がり右SBのような位置取りをするようになります。
 これにより右WBを前に押しだします。さらに時折組み立てにも参加して低めの位置取りだった右シャドーの下田を前目のワイド気味に配置してサイドで数的優位を作ります。エスパルスは数的優位を作られサイドでボール保持された上、高い位置取りのシャドーとWBに守備ブロックを押し下げられます。
 
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 甲府マルキーニョスパラナ代え保坂を投入。保坂は右サイドとCBの間に降りてビルドアップに参加します。エスパルス甲府の右サイドに押し込まれているので、ここへのマークが曖昧になりビルドアップのスタートを制限出来なくなってきます。
 甲府は右サイドを突破する場所でなく保持して相手守備を引き付ける場所に設定します(右WBを松橋から福田に変えているのもそのせいかな)。一度サイドに入れ数的優位を利用しパスを繋ぎ、エスパルスの守備を寄せて中央、そして逆サイドのWB、シャドーに突破させ中にクロスの形を作ります。
 マークが曖昧になっている保坂は後方の組み立てでパスを出した後、フリーのまま前に上がっていき中央に厚みを出します。
 甲府の奪った2点はこの形からで、後半途中からは甲府の戦術変更が成功していたと言えます。
 さらに攻撃で前に押し出したい甲府は守備でも前半に比べてエスパルスのボール保持者に早めにプレスをかけるようになり、シャドーの下田もあまり後ろに下げずカウンター要因として前目に残すようになります(前半エスパルスの右からの攻めが多かったのは下田が後ろのスペースまでケアしていたことも原因)。
 ボール保持からも切り替えからも攻撃姿勢を打ち出した甲府が試合終了まで押し気味に進めます。
 エスパルスはテセ、村田を投入するも、まるで前半の甲府のように攻撃が単発になり決定的な場面は作れず同点のまま試合は終了します。
 60分あたりまでは、エスパルスペース、それ以降は甲府ペース、主導権がはっきりしたゲームでその原因もお互いの戦術的なものによる興味深い試合でした。
 
・後書き
 前節の山形戦では懐疑的な感想を書いてしましましたが、受け入れて見てみればなかなか面白い試合でした。
 こちらの攻撃に対して相手が対応し、それを打ち破るようにこちらがまた仕掛けるという攻防は見ごたえがありました。
 一方、チームとして良いところを見せたうえ2点リードを奪いながらも、同点にされてしまうというもったいない試合でした。こちらが仕掛けている時は強みを見せますが、相手の変化への対応や受けるということが非常に弱いチームだなと感じました。それはこの試合に限らず1年通して変わりませんでした。
 密集については極端な戦術ですが、そのメリットがデメリットを上回るのなら悪くはないと思います。果たしてその収支はプラスなのかマイナスなのかこの3試合ではわかりません。密集というキーワードに惑わされず、何のために数的優位を作るのかを考えれば問題があっても解決に向かっていけるのではないかと思います。
 2失点はそのデメリットというより相手の変化に対する基本的な守備対応の問題の方が大きいような気がします。スタイルの追求は大切ですが土台となる基本的なセオリーを身につけるのも大切です。小林新監督の元でそのようなものを積み重ねていくことを期待したいと思います。