大榎監督のサッカーについてもう一度考えてみました。

こんにちは。
 
 自分なりに大榎監督のサッカーを総括してみたいと思います。この1年間しつこく書いてきたので、そのまとめです。
 大榎さんが何故上手くいかなかったのか、戦術的な問題についての記事はよく見られます。結果への分析です。僕はエスパルス関連の記事を読むのは好きなのでそういった記事はたくさん読ませてもらっています。
 でも、もっとスタートの部分、「そもそも大榎さんってどんなサッカーしてたの?」ということについてはいまいち納得できるものがありません。というか自分自身それを上手く説明する自信がありません。
 それでも大榎監督が、やろうとしたことを自分なりに整理して言葉で説明してみようと思います。それが今回の主旨です。
 
 とりあえず書き始めてみますが、まず僕は文章を書くのが下手くそで、いつも何を言いたいのかわからない。そこで整理するためにキーワードにわけて説明していきます。

1.ポゼッションサッカー
2.局面打開
3.数的優位を利用した同サイド攻撃
4.プレスディフェンス

の4つです。ではいきます。
 
 まず1つ目。大榎さんはショートパスをつなぐポゼッションサッカーを目指していると考える人が多いのではないでしょうか。しかし「大榎監督の目指していたサッカー」=「ポゼッションサッカー」ではないと思うのです。
 ポゼッションを表す数字といえば支配率。そこで大榎監督が指揮した試合の支配率に注目します。(データはすべてFootballLabから)
 大榎監督が指揮した試合は2014年18節から2015年2ndステージ5節まで39試合。
この39試合で算出した平均支配率は47.6%です。これは2015年のJ1支配率ランキングで比較すると12位の数字です。支配率では平均以下の結果になっています。
 でも、これだけではポゼッションの狙いはあったけど出来なかっただけでしょ。なぜならチームが弱いから、と思う方もいるでしょう。では次。
 次は勝った試合に限定して見ていきます。勝てた試合ではある程度、狙いが実行されたのではないかと考えました。
 大榎監督が指揮した39試合の内、勝利を収めたのは8試合。その8試合の平均支配率が44.8%。逆に下がってしまってますね。2015年のJ1ランキングだと甲府と同率で17位の数字になってしまいます。これら勝利した8試合の中には主導権を握って勝った2014年C大阪戦、2015年鹿島戦、2015年F川崎戦も含まれていますが(いずれも大榎監督のベストゲーム候補ですよね)すべて支配率は50パーセントを切っています。39試合中、50%を超えた試合は14試合ありますが勝った試合は1試合のみです(2014年19節徳島戦)。これは支配率が勝敗に影響していないことを示しているのではないでしょうか。
 確かに大榎監督は、「ボールを保持している限り相手に攻められることは無い」というようなニュアンスのコメントは残しています。
 しかしそれは一般論としての発言で、彼のサッカーはポゼッションすることを第一の目的とはしていないと言うのが僕の考えです。じゃあ彼の言う“繋ぐ”は何なの?というのが次のキーワードです。

2.局面打開

 大榎監督のサッカーは基本的に局面打開の考えに基づいているのではないかと思います。
 下は就任会見でのコメントの一部です。
 

 その中で前監督がやっていたちょっと、どちらかと言えばオランダのような、ワイドに張ってボールを回す中で攻撃をして行くというというのは、ちょっと日本人には無理があるのかなというのはすごく感じていました。
 なぜかというとサイドで受けた時に孤立する場面。その人が勝負するだけしか選択肢がない状態が多くて、そこにロッベンがいれば良いですよ(笑)クリスティアーノ・ロナウドがいれば良いですよ(笑)
 突破できますけどなかなか日本人はそうではないので……やっぱりそこでもう少し数的有利が作れることとか、もう少し選手がそのスペースを上手く使う。出し入れをするといいますか、モビリティのあるものを求めて行かないとなかなかチャンスは作れないのかなと。だからどうしてもサイドから行ってそこからのクロスとか、サイドの攻撃だけが多くなって、別にサイドの攻撃は大事な要素ですが、サイドもあって真ん中もある。やっぱりその辺のバランスを取れるような攻撃はして行きたいと思っています。。(7月31日就任会見)

 前任者のゴトビ監督のワイドを使ったサッカーに疑問を呈しています。どんなサッカーにもプラスとマイナスはあるのでどちらが良いかにはふれません。注目は考え方についてです。

 ワイドに張らせ、守備組織を引き離し相手の守備の薄いところを突いていくという考えのゴトビ監督。それに対し大榎監督はワイドでの局面勝負の話をしています。
 この2人の考え方の差は何なのでしょう。僕はこの2人のサッカーを見てきて、こう解釈しています。
 まず全体を見て必要な細部を組み合わせていくようなチーム作りをするゴトビ監督。一方、細部を積み重ねていくことで最終的に全体が出来上がっていくと考える大榎監督。
 細部とは局面のこと。つまり、大榎監督は目の前の局面打開を重ねていった結果がゴールという考え方なのではないでしょうか。細部を積み重ねて全体にたどり着くためには、局面勝負で勝ち続けていかなければなりません。そのため一つ一つが勝負プレーになり、直接相手の急所となるところを突破してボールを前進させていくようなボールの前進の仕方になります。
 大榎監督のボールを繋ぐというのは局面を打開するための手段なのです。このような考え方のもとで、実際にどんな攻撃や守備をしていたのか。それが次のキーワードになります。

3.数的優位を利用した同サイド攻撃
 大榎監督のサッカーの攻撃の特徴を言葉で表すと「数的優位を利用した同サイド攻撃」になります。
 この記事を書くにあたり、Sの極みのインタビューを中心に彼のコメントを再び読み返しました。その中で大榎監督はサポートの動き、味方のボールホルダーをサポートするために数的優位を作るということをたびたび強調しています。
 ここでは以前、調べたデータ(下の表1)をもとに話を進めます。2015年のファーストステージでの数字です。エスパルスの全パス数の内、ショートパスが占める比率と前方向へ出したパスの比率、2つの数値に注目しました。
 
・全パスの内、ショートパスの比率は55.1%とJ1の18チーム中7位。
 
・全パスの内、前方向へ出したパスの比率は40.8%とJ1の18チーム中6位。
 
 前方向へのパスとショートパスが他のチームと比較して多めの割合を占めています。大榎エスパルスは短い距離のパスを前方に出す傾向があると言えます。この結果は次のように説明できます。
 
「大榎監督は直接相手の急所を突くような局面の打開を優先します。局面を打開するためにボールサイドに人を集め数的優位を作ります。人が近づくためパスの距離は短くなるわけです。」
 
 よりフリーなスペースを使い確実なパスを回してビルドアップするやり方で無く、直接相手のブロック間を通すような攻撃をするので前方へのパスが多くなります。
相手が待ち構えるブロックの間を通すようなパスを使うので、確実性は下がり、支配率は低くなります。
 これを実際の試合にあてはめてみます。ブロック間にピンポイントでパスを通しながらビルドアップしていくので、相手がスペースを空けてくれた場合は驚くほど見事な攻撃を見せてくれます。エスパルスが快勝した試合は全て相手のボランチがこちらのパス回しに振られバイタルを空けてしまっています。
 逆に相手がブロックを固めスペースを消している場合は打つ手が無く攻撃がどん詰まり、密集している裏を突かれカウンターを受けやすくなります。
 これが、攻撃力に特徴のある上位チームに快勝したと思いきや、下位チームになすすべ無く敗れる理由です。
 ここまで攻撃の特徴を見てきました。この局面打開を中心とした考えは守備の特徴にも繋がっています。それが次のキーワードです。 

4.プレスディフェンス
 
 大榎監督の守備の特徴はマンマーク気味のプレスディフェンスです。
 これも目の前のボールを奪って守備の問題を解決するという局面打開の考えに繋がっています。彼は特に高い位置からのプレスを好んでいました。
 大榎エスパルスが試合で主導権を握るためにはまずこのハイプレスがはまることが条件でした。それを証明するのがシステム変更の多さです。
 大榎監督は中盤の形をダブルボランチ+トップ下1枚、またはアンカー+トップ下2枚など度々変化させています。また3バックを採用したのが19試合、4バックが20試合とほぼ同数。FWの枚数も1トップ、2トップ両方採用しています。システムに関してはかなり柔軟に使い分けています(使いこなしていたかは別ですが)。
 これは相手の攻撃の形に噛み合わせて、より相手を捕まえやすくするためで、逆に相手のシステム変更などでミスマッチを作られると守備が崩壊する現象が、たびたびみられました。
 このハイプレスが決まった代表的な試合が2014年の27節セレッソ大阪戦、2015年の1stステージ1節鹿島アントラーズ戦です。これらの試合ではハイプレスからショートカウンターが決まり得点を決めています。
 後方からパスを繋いでビルドアップするチーム、ボランチに起点になるゲームメーカーがいるなどボールの循環がはっきりしているチームに対してはプレスの掛けどころが明快なため噛み合わせやすいのです。
 また、2015年の1stステージ川崎F戦から数試合はミスマッチのずれを運動量でカバーするというやり方を見せます。
 川崎戦では、まずディフェンスラインを高く設定して守備をするエリアの面積を縮小します。2トップ2シャドー、さらにウイングバックも高い位置に押し上げ前の人数を増やします。移動距離を短くして、前線人数の密度を増やすことにより、ミスマッチを運動量でカバーすることを可能にしています。川崎戦では相手の中央と右のセンターバックボランチの1枚の3人をフォワードの元紀とトップ下の水谷という2人で捕まえています。
 しかし、いずれにしてもゾーンで守るという方法論がなく、どこかに人の少なくなるエリアができてしまうという欠点が発生します。川崎戦でやった3-5-2システムは大榎エスパルスの理想形とも言われましたが、後ろからプレスを越えるような長いボールを入れられたり、カウンターに弱いという欠点があり、結局メインのシステムにはなりませんでした。
 相手が自分達の形で押し込んでくるチームには噛み合わせで守備が機能することはありました。しかし、正面からの相手を捕まえる守備で相手をはめ込むことは出来ても、セットしての守備が機能しないというのは致命的でした。
 
【大榎監督のサッカーとは何なのか】
 ここまで書いてきたことから、大榎監督のサッカーを言葉で表すと

・数的優位を利用した同サイド攻撃
マンマーク意識の強いハイプレス

というのが僕の結論です。
 これらの攻守の特徴が上手く回っている時は、相手を上回るような見事なサッカーが出来ていました。反面、この他の形(ブロックを作って守ったり、横幅を使った展開の大きな攻撃だったり)は殆んど機能することはありませんでした。
この数的優位や技術に頼った攻撃、追い掛け回すような守備と言うのは大榎監督に限らず日本のサッカーの特徴とも言えるのですが、その中でも大榎監督はこの特徴に特化していました。
 相手に対して自分達を変化させるのでなく、自分達の特徴を押し出して相手を上回りたいというのが彼の理想だったと思います。そのためお互い自分のサッカーで打ち合えるような相手には良い勝負をしても、そうでない相手には打つ手が無いという傾向になりがちでした。相手を支配するようなサッカーを理想としているのに、相手の条件に結果が大きく左右されてしまうような受け身なサッカーをしていた矛盾。これは使える武器があまりにも少なかったのが原因だったのだと思います。
 
 最後に。大榎監督は過去強かった頃の静岡の幻影に捉われ、その頃のサッカーを追い求めていたと言われていますが、それは違うはずです。
 20年前、30年前の静岡のサッカーにハイプレスや数的優位を作ってショートパスを繋ぐという特徴はなかったと思いますから。
 大榎さんは彼なりに、未来に向けての清水エスパルスのサッカーを作っていこうとしていたのでしょう。
  その形が正しかったのか、間違っていたのか。間違いでないにしても、やり方が違ったのではないか。そんな思いは無きにしもあらずですが、それについて言うのはやめておきます。始めにも書いたように詳しい人がちゃんとやってくれてますから。そっちを見て満足します。
 
 これで言いたいことは全部言ったので終わりです。また何か言いたくなるかもしれませんが、それはその時で。それでは、また。
 
 
表.1
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