明治安田生命J2リーグ第16節 水戸ホーリーホックvs清水エスパルス レビュー

今回からリーグとスポンサー様に敬意を表してタイトルはちゃんとスポンサー名を入れて表記致します(いまさら...)。
 
【得点者】 -
 
前節を大量得点、そして無失点と完勝で飾った清水エスパルス。今節もと行きたいところですが特徴を見るにそうは簡単にいかなそうな相手、水戸ホーリーホック。前線の高さ生かしたロングボールと前からのプレス。これまでこのような戦い方の相手には苦労していた清水ですが、そろそろチームの成長を見たいところです。なお水戸にはかつて清水エスパルスのキャプテンを勤めた兵動が在籍。2010年シーズン終了後の大量移籍の記憶に少し胸がチクリとしつつも、やはりエスパルスで共に戦った選手との対戦は楽しみではあります。
 
試合開始時の配置
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清水は故障の角田に代わり犬飼が先発。後は前節と同様のメンバー。水戸はロメロフランクが欠場で右SHに白井。注目の2トップはターゲットマン三島と10番船谷。兵動は予想された通りボランチで先発出場です。DFの宋は代表で離脱中とのこと。

・清水のボール保持からの攻撃と水戸の守備

システムはお互い4-4-2のマッチアップ。清水は風の影響を強く意識していたようで前半風下を選んだエンドの選択にもそれが表れています。試合内容も風でボールが落ち着かないことを嫌ってかなり慎重な試合運びでした。
水戸はマッチアップで噛み合わせたまま、後方からのビルドアップを阻止するように高い位置からプレスを掛けてきました。それに対して攻撃側がボールを運ぶには、配置を動かしミスマッチを作り浮いた場所を利用して運んでいくか、対面の相手を外して前に運んでいくか。今の清水のやり方は攻撃から守備への切り替わり時を重視するためか、あまりポジションを崩して攻撃を仕掛けるということはしてきません。後方で横パスを繋ぎながら前が空いたらボランチ、またはサイドバックからあまり細かくパスを繋がず、サイドの前方や相手の裏に直接ボールを出す場面が目立ちました。この様な攻撃では相手の守備陣は崩れていないのでよーいドンの走り合いか、競り合い。それだけでは清水の選手の特徴を考えるとあまり有効な攻撃方法ではありません。
 
それでもリスクをかけずに攻撃をするというのは始めから戦略としてあったようで、そのための準備も見られました。僕に見えたのは2つ。まずはFWが1枚下がって相手のボランチの近くで受ける形。これでボランチを浮かせてそこから展開します。

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18分50秒から。テセが降りてきて、ボランチ2枚とCB1枚を引き付けます。これで河井、元紀、白崎がフリー。水戸は攻撃の時、SBの片側を上げていたので切り替え時にボランチを中央に寄せるとよくこのような場面が見られました。

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河井に落としそこからDFラインのギャップに走る元紀にパスが出ます。これは通りませんでしたが相手を動かして出来たスペースを使った攻撃でした。
しかしこのギャップ、スペースの認識が選手によりまちまちでこのような攻撃に中々繋がりません。逆にボランチがボールを持ってもFWが下がっているため前に1枚足りない状態。揃っている相手DFに数的不利なまま正面から突っ込む淡白な攻撃を繰り返すという場面も多く見られました。このFWが降りる動きはボールが入らないので苦し紛れに降りてきた可能性もあり、仕組まれた動きかは正直ちょっとわからないです。

もう1つの攻撃パターンはDFラインの外側。SHの白崎が中に入ることで相手のSBを絞らせ、FWがサイドからのボールをDFラインの逆側の大外で受ける形。
 
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FWがこの位置で受けることが多かったこと、サイドからクロスをあげる時まずそこが第一選択肢になっていたことから、こちらは狙っていたのは間違いないと思います。この形からは前半だけでも4分50秒のテセのシュート、13分の元紀が受けて竹内のミドル、19分も白崎からテセなど何度かチャンスを作り出しています。
 
基本的にはこのように中をあまり使わず相手のブロックの外を攻めていました。では水戸の守備ブロック内にはスキが無かったかというとそうでもありません。水戸は清水のボールホルダーに常にプレッシャーを掛けて保持の時間を奪いにきていました。そのためマッチアップしているマークがずれた場合すかさず近くの選手がずれてプレスを掛けにきます。そのとき水戸の守備に穴ができます。また上のFWが降りてくる時の画像でもわかるように水戸のネガトラ時のサイド。ここも空きがち。何分か忘れましたが右サイドから裏を狙う元紀にパスが出るが届かないという場面がありました。その時、元紀は「サイドに振ってよ」というような指の動きで味方に注文を出しています。同じような水戸の守備の動きからサイドが空いていたからです。清水の狙いとしてリスクを抑えて前にというのは理解できますが、リスクを抑えて自分達の狙いを遂行するのと、ただ前に急ぐのは意味が違います。選手によってそこの意識の差があったようです。全体的にもう少し落ち着いて相手が空けてくれたスペースを使っていっても良かったかなというのが僕の感想です。
 
 ・水戸の攻撃と清水の守備
 
水戸のボールの運び方は、SBからSHのようにサイドからサイド、または三島に後方から長いボールを入れて、ボランチの兵動やSHが拾い、船谷に預けて高い位置でキープ、ラストパスという形でした。水戸としては守備同様、自陣のゴール前からボールを遠ざけたいという意図が感じられます。これに対し清水は低い位置にブロックを引いて対抗します。ファーストディフェンスがハーフウェイラインよりやや低いくらい。これは風でボールの軌道が不安定で読みづらいというのも関係しているのではないかと思います。ラインが低くなると前線との距離が間延びしがちですが、この試合での中盤、FWは少なくとも後半60分くらいまではプレスバックの意識が強くコンパクトでラインの間はほぼ使われていません。
 
後ろのスペースに対する意識が特によくわかるのが、スライドした時のギャップを埋める動き。水戸は長いボールを使った上、サイドの裏を狙うことが多く、そこにSHが走りこんだり、三島がサイドに流れポスト、その裏で船谷が受けて逆サイドから入ってくるSHにあわせるような攻撃を仕掛けていました。その時の清水の守備。
 
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ギャップができると必ずボランチが下がってそこを埋めます。さらに中盤ラインのギャップに水戸の選手が入ると
 
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このようにFWが下がって中盤の危険なスペースを埋めます。また徳島戦や東京ヴェルディ戦でややあいまいだった1列目と2列目の間。
 
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ここも必ずFWが下がってケア。このように前線の守備意識は高く、低い位置ながらブロックはコンパクトな状態でした。確かに正解を言えばもう少しラインを上げた方がいいと思います。しかしラインを低くせざる負えなかった理由はある程度理解できます。気象条件と相手の高さがある中で一番危険な後ろのスペースを使われたくなかったのでしょう。
 
・後半の流れ。
 
おそらくこの試合を見ていたエスパルスファンの皆さんはこの前半の流れは理解していたと思います。そして前半は耐えて後半盛り返すのだろうと想像したはずです。しかし流れは変わらずまるで何もしなかったかのようにスコアレスドローで試合終了を向かえます。この試合のイメージの悪さは後半の戦い方にあるのだと思います。何故後半盛り返せず終わってしまったのでしょうか。
 
前半はブロックの位置が低いことで自陣でプレーされることが多かったのですが、これは清水側も想定内である程度コントロールできていたことだと思います。後半開始直後もその流れのまま。逆に水戸が前からのプレスを緩めブロックを固めてきたようにも見えました。しかし60分過ぎ辺りから清水に守備の乱れが見え始めます。58分に水戸は右SHの白井に代えトップに宮本を投入し、トップの船谷を右SHに配置替え。これで前線のターゲットが2つ。水戸も攻めているようで攻めあぐねていたので前により高さを出したのではないかと思われます。清水が苦しんだのはこの高さ2枚だけでなく右SHに入った船谷。まず中盤でのキープ力が上がりました。そして右サイドから内側を向いてゲームメイク。外から中、さらに逆サイドのような攻撃が増えたためスライドとギャップ埋めの動きで守備意識の高かった中盤が後ろのラインを埋める場面が増えます。さらに後半は攻め返すという作戦だったのでしょう。前線の攻撃意識は逆に強く後ろへの戻りが遅くなってきます。その結果が、
 
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このように中盤が後ろに吸収され5バック、その上前が戻っていないという状態(この場面では右SH村田も開いて絞りきれてないですね)。ここからボールを奪っても中盤がいないため前にボールを出し、FWが追いつけなければ回収されまた相手の攻撃のターンという繰り返し。相手も前半ほどプレスをかけてこないので清水がボールを持つ場面もありましたが攻めきれず試合終了という流れでした。
 
・この試合の評価は?
 
前節大勝した後だったので期待された試合。それを裏切る形で「あれはやっぱりまぐれだったのか。」という声が多いのも仕方ありません。では僕の評価はどうか(お前のあてのならない評価なんて意味ない?まあちょっと聞いて)というと最低限の合格ラインというところです。最低限とはどこかというとそれは無失点に抑えたというところです。

これは気づいたので無理にねじ込みますが、この失点をしないという強い意識はCKの守備にもよく表れていて、

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この形。通常、清水はゴールポストの前とニアゾーンに選手を置いて後はマンツーマンというCKの守備。それがこの試合はポスト、ニアゾーンに加えゴール正面に白崎をゾーンの守備者として配置しています。さらにカウンター用に前に取り置いておくはずの村田をペナルティエリア内まで下がらせて自陣を10人で守っていました。これはほぼCKからのカウンターは捨てているのと同じで最大限の失点への警戒ぶりです。

このことからこの試合の優先順位はおそらくまず失点をしないということだったと思われます。この守備に対する意識はこの試合だけでなく群馬戦から続いているものです。スライドとその時出来るギャップを埋めること、1列目と2列目の間のスペースへの警戒は群馬戦でも意識されていました。結果は8-0と0-0。大きく違いますがまず第一にやろうとした事と出来た事は同じなのではないかと思います。さらにそこからラインを適正な高さに保つことや攻撃に移行することなど第二、第三の優先順位の物は今回は相手のやり方や気象条件、ピッチ状態などで出来なかったということでしょう。2失点を喫して敗れた東京ヴェルディ戦から1週間。そこから3バックの人海守備など方法論を変える事無く、低いブロックながらよくすかさず守備を再構築したなと思います。ただこの守備が理想的な守備でこの先もこれで行っていいとは思いません。ただ今はまず自分たちは守ることは出来るんだという方法を持つことが大切だと思います。

開幕前に予想したよりは色々と上手くいっていません。それは仕方ない。それが今の実力と認めましょう。それならゆっくりでもいいから確実に前に進んで行く。それが確認できたという意味では前向きな試合だったと思います。