明治安田生命Jリーグ第21節 ファジアーノ岡山vs清水エスパルス レビュー

 
【得点者】
67分 鄭大世(清水)
71分 豊川雄太(岡山)
76分 伊藤大介(岡山)
85分 白崎凌兵(清水)
 
 
・試合開始から30分過ぎまで
前半途中までは完全に岡山のゲーム。攻守において岡山がペースを掴みます。
 
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 3-6-1か3-5-2か。岡山のスタートのシステムは2トップ3センターの3-5-2と見たほうが近いような気がします。清水はシステムのかみ合わせから浮いているSBを使いボールを前進させて行こうとします。前節までのようにボランチをDFラインに落すということをせずにビルドアップを試みていたことからそれがうかがわれます。清水のSBにボールが出るとチェックに来るのが左右のインサイドハーフ伊藤と渡辺。清水の意図としてはこの動きを利用して3センターを広げてボールを運んでいこうというものだったと思います。
 
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岡山の3センターを1枚前に剥がして薄くなった中盤の間を通して前線に。SBが攻撃の起点にならなくてはいけない清水ですが中盤から出てくる岡山のファーストディフェンスに苦しみSBからの展開が上手くいきません。さらに岡山はこの清水のサイドからの攻撃に対策していて中盤が中を切りながら激しくプレスにいくのはもちろん、清水の保持したボールがサイドを進むとFWが中へのコースを切るようにポジションしていました。
 
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これで清水はサイドで詰まって戻すかカットされるか。左サイドからの攻撃が多かった清水のボールを中盤右の渡辺がカットしてカウンターという場面はよく見られました。ビルドアップのスタートを止められた清水は中々前線までボールを運べないという前半途中まででした。
次に岡山の攻撃とそれに対する清水の守備。岡山は中盤3枚も後方での組み立てに参加。中盤が1枚DFラインに降りて4枚でのビルドアップ。通常2トップ+サイドハーフの3枚でファーストディフェンスを行う清水はまずここで数的不利。注目は4枚の内のサイドの選手の位置。

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ここでは左CB竹田がサイドの低い位置。
 
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こちらは中盤の渡辺が降りて矢島がサイドの低い位置に。
 
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ここからサイドに渡るとSHの枝村がプレスに。これでSHを2列目の守備から引き離して、

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清水のボランチの脇、中盤とDFラインの間に。枝村がサイドの高い位置まで出た時の清水の守備は通常は中盤3枚は中央を締めて、SBの川口がSHのスペースを埋めるのですが岡山のWBがサイドの高い位置、さらに赤嶺がCBとSBの間の位置に降りてくるため川口が前に出られません。岡山はこの広がったサイドのスペースに入る赤嶺にボールを入れそこから押谷が裏抜け、逆の大外の加地がオーバーラップなどの攻撃を繰り返します。

・清水の修正。

攻守ともにミスマッチに対応できず上手くいかない清水でしたが徐々に修正。まず守備から。清水は30分過ぎあたりからファーストディフェンスのラインを少し下げて後ろとの距離をコンパクトにし始めます。相手の後方ではやや自由にボールを持たせることになりますがそこから前線へのパスは通させないというやり方に変えます。これで間に入る相手を挟みこめるようになります。この高さなら守れるというブロックの位置は共有されているよう。
 
次に攻撃。終了間際40分過ぎた頃でしょうか、清水は竹内を相手の2トップ脇に落とすようになります。竹内が下がることで不足する中盤には石毛や両SHが入ってきます。清水は無理にボールを前に運ぶより、2列目に出しては下げてをサイド、中央、逆サイドと場所を変えながらテンポよくパスを繋ぎだします。これがおそらく監督コメントで言っていたCBとボランチで中を刻むということ。左右に動かされた上、前後にもついていかなくてはならないため岡山の3センターは横幅をカバー出来なくなりサイドの高い位置までプレスに行けなくなります。清水はSB含め後ろで自由にボールが持てるようになり、これでようやく前線までボールが入るようになります。この時間帯になると左サイドの松原にボールが入った時、加地が対応する場面が見られ始めます。これは3センターで横幅をカバー出来なくなったために出てきた動きだと思われます。

後半、そして両チームの選手交代の効果。

清水は前半終了間際からのよい流れを継続。 岡山のファーストディフェンスを無効化するくらいに後方でボールを動かします。さらに石毛、枝村、白崎がポジションの役割を分担しながら中央に入ってきて3センターをDFラインの前に釘付けにします。後ろに余裕が出ると当初の予定通りCBでボールを動かし、河井、竹内のボランチも崩しに加わります。特に竹内はこの時間帯、まさに清水のゲームメーカーと言っていいプレーを披露。相手を振り回すようにボールを動かし、味方が空いたスペースに入るとピンポイントでボールを入れます。そしてSBを上げて岡山のDFラインを押し込みつつ薄く伸ばし広げます。

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ポイントは白く囲った場所。中盤が中央に寄っているためDFラインのサイドは中盤のフィルター無しでWBが1枚。さらに左右のCBとWBの間の前。ここは守備者がいないスペース。

この状態で65分石毛に代えて村田。村田でこの1枚でさらされているWBをぶち破ります。

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ここから突破、そしてクロスでテセがヘッドでねじ込みます。

この後、逆転されますが同点に追いつく2点目。

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ここは河井がCBとWBの前のスペースに侵入してクロス。白崎が押し込みます。

一方、岡山の打った手はどうでしょう。

岡山は清水が前半の途中から無理に前からはめ込みにこなくなったため、後半は中盤をDFラインに落とさず3枚のCBでビルドアップをスタートすることを度々試みていました。その分、中盤を崩しの局面に参加させます。岡山は64分に押谷に代わって豊川をピッチに送りだすとその形が明確に。システムが1トップ2シャドーのダブルボランチ、3-6-1のような形に変化します。
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システムの噛み合わせだけで全てを語ることはできませんが、システムによって起こりやすい現象は出てくるものだと思います。岡山のダブルボランチが清水の2トップとボランチの間にポジションすると3CBと1トップ2シャドーが丁度清水の4-4ブロックの間に位置する形になります。


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岡山の同点弾の直前。赤嶺、豊川、伊藤が丁度清水のブロックの間にいます。システム上は3つのパスコースが空いている形に。ここでは1度後ろに戻して、

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左CB竹田が村田と枝村の間にボールを運んで中央の間に位置する伊藤へ。

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伊藤から豊川に渡って同点ゴール。システム上出来たパスラインで前に運び、1トップ2シャドーで厚みをだした2列目、3列目の間を使ってゴール。まさに岡山の交代策の狙い通りでした。岡山の2点目はサイドの豊川からCBとボランチの間に位置した伊藤にパスが出てのもの。シャドーからシャドーへ。やはり交代策があってこその得点。清水の守備を見れば個々の対応で全く問題がないわけではありませんが、オープンになっていた時間帯でシステムのズレを突かれていたことを考えれば相手の攻撃が清水の守備を上回ったと言っていいのではないでしょうか。とはいえ清水としてはどこかで止めなければいけなかったのですが。

試合はお互い2点ずつを取り合い同点のまま終了。
試合の仕組みとして僕に見えたものは以上です。岡山はチームの組織力も選手個々の能力ともにレベルが高くこれまでの対戦相手の中でも地力のあるチームだなという印象を受けました。
清水も2失点はしたものの攻撃では相手を追い詰めその力は充分見せてくれました。また逆転されても残り少ない時間で追いつくという今までにない勝負強さを見せてくれました。
僕がそれ以上に今回感心したのはハーフタイムを待たず前半途中にピッチ上の選手達の判断で攻守ともに修正を入れていたこと。
順位の並ぶ直接対決ということを考えれば引き分けという結果は満足というわけにはいきません。しかし内容を見ればお互いチーム戦術のやり取り、清水側としてはチームとしての力強い成長を見れたことなど非常に満足の出来る試合でした。