2014年J1リーグ第10節 清水エスパルス vs 鹿島アントラーズ レビュー

2014年4月29日第10節鹿島アントラーズとのアウェイでの対戦です。
 
 
【得点】
  5分 オウンゴール(鹿島)
57分 ノヴァコビッチ(清水)
79分 ルイス アルベルト(鹿島)
 
ハイライト動画はこちら
 
まずメンバーとスタッツ(清水エスパルス公式より)
 
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スタメンの配置。
 
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駿が怪我で離脱。この試合ではトップ下にタイスケが起用されていました。
 
まず清水の守備を見てみましょう。

清水はセットしたディフェンスの時には4-4-1-1の形。両ワイドの元紀、河井は鹿島のサイドへのパスコースを切るようにポジション。鹿島のサイドバックに引っ張られて下がるようなことはせず高い位置をキープします。トップ下の1は中盤寄りに守備。ボランチとトップ下で中央守備に厚みを出し、奪ってからのカウンターが狙い。この形は駿が出場していた時も同じでした。
 
鹿島は小笠原、柴崎のボランチが中心になって組み立て。後方からのビルドアップの時、ボランチが1列下がってサイドバックを高い位置に上げます。清水は鹿島の組み立ての中心の1枚小笠原をタイスケでマンマーク。柴崎に対してはこちらのボランチが前に出て奪いにいくような守備で対応します。小笠原にマンマークをつけたのは、攻撃のキーマンを潰すというのが1つ。もう1つは後ろから中盤を越していくような正確なロングフィードを防ぎたかったからというのも理由であったと思います。
 
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実際、清水は小笠原、柴崎からの配球は押さえられていてボランチ経由で中央を繋がれてゴール前まで運ばれる場面はほぼありませんでした。清水の守備の狙いは当っていたように思います。

開始直後の鹿島の攻撃と清水の守備の弱点 
 
守備の狙いとしては悪くない清水でしたが、前半途中まで優勢に試合を進めたのは鹿島でした。清水は試合開始後、何度か決定機を作られます。決定機を作られた場面に清水の守備の弱点を見て取れました。気づいたのは3つ。

~中盤の守備力不足~

4-5-1の守備と考えると5枚のうち河井、竹内、元紀は高さ不足。3人ともスペースを埋めることは上手いけどボールを奪うのは得意ではありません。六平も攻撃に特徴を持つタイプ。跳ね返りのボールや後ろからの長いボールを拾われてサイドに展開される場面が見られました。しかも当時の清水はディレイして待ち受けるより前に奪いにいく守り方のようでした。チームで相手を制限できている時は問題ありませんが1対1になるとこの中盤守備力はちょっと問題になっているようでした。

~サイドを突破された時~

清水のワイドは外側を切って中央に誘導するような守備をしていました。ワイドが低い位置に下がらないのでどうしてもサイドの守備は人数不足になります。サイドを突破された時はボランチがヘルプに行くのですがやはりここでもボランチの守備力が問題となります。
~ヤコのポジショニング~

開始早々はこれが結構大きな問題でした。清水はファーストディフェンスのノヴァからボールを自分達の右サイド(鹿島から見ると植田側を切って昌子に持たせる)に誘導していました。左サイドバックの吉田を守備に奔走させたくなかったからだと思います。右サイドバックはヤコなので守備は強いはずです。しかし開始早々幾度とチャンスを作ったのは左サイドハーフのカイオでした。

ここは具体的な例で。
 
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ノヴァが植田にプレス。植田は苦し紛れに前にフィード。

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ヤコは何でもないボールだったのにカイオにマークを外されて突破されます。

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コーナーキックからオウンゴールでの失点。鹿島にとってはラッキーな先制点でした。このゴールの前にも何度もピンチがありました。中盤でセカンドを拾われたり、後ろから直接ロングボールなどでしたが、いずれもカイオを経由してのピンチ。つまりヤコが対応していた右サイドでした。

この後ヤコもカイオを止めることに集中します。正面で待ち構えれば強いヤコ。さすがに簡単には突破させません。カイオはヤコの対人を嫌って内側に絞ってもらおうとし始めますがサイドを攻められるよりその方が清水には好都合でした。徐々にペースは清水に傾いていきます。
 
清水の攻撃と鹿島の守備を見てみましょう。

清水も鹿島同様ボランチの竹内をディフェンスラインに落としてビルドアップをスタート。竹内が下がるとトップ下のタイスケは中盤の低い位置、ボランチの六平と並ぶ位置まで引いてきます。これでキャラ、平岡、竹内の3枚で鹿島のダヴィ、土居のファーストディフェンスを交わし、その裏に六平、タイスケと2つのパスコースを作る形になります。そして元紀を内側に絞らせ、左サイドバックの吉田を高い位置、完全に左ワイドアタッカー化させます。河井は右に張り、ノヴァはポストを受けるためバイタル辺り。4-3-3に近い形。

鹿島はほぼマンマークの守備でした。スライドをしてスペースをカバーする動きはあまり見られません。自分が見る相手を責任持って撃退するような考えのようでした。タイスケは清水がボールを保持している時も小笠原の周辺をうろちょろしていたので小笠原はタイスケをマーカーとして認識。タイスケが中盤低めまで下がると小笠原も付いていき高い位置に引っ張りだされていました。六平に対してはボールが入れば柴崎が前に出てプレス。しかしボランチ2人とも前に出てしまうとバイタルをノヴァ、元紀に使われてしまうので柴崎はバイタル周辺も気になりややポジショニングが曖昧でした。

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清水がボール保持している時の両チームの噛み合わせです。オレンジの丸が空きやすい場所。先ほど書いたように柴崎は六平とバイタルを気にするので六平の周辺。右サイドバックの西が元紀を捕まえに来るためその裏。ヤコがあまり上がらないためカイオは高め、小笠原がタイスケを見ているためサイドのカバーに出てこない、その結果、河井に簡単にボールが入りやすい状況が生まれていました。

次にサイドの高い位置までボールを運んだ時。吉田は高い位置まで侵入しても単純なクロスというのはあまりありませんでした。自らシュート、またはパスを出してゴール前に入って行きます。右の河井も縦の突破でなく内側に入っていってラストパスを狙っていました。両者とも下の図のオレンジのスペース、いわゆるハーフゾーンを狙う動きがよく見られます。

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Football LABのデータ。クロスのCP(チャンスビルディングポイント)を見ると、サイドにいることが多い河井、元紀やサイドバックの吉田の数値があまり高くありません(交代出場の俊幸、村田が上位)。以前見た大宮戦では元紀、河井の両ワイドがクロスのCPが高いというデータが出ています。おそらくここが駿が離脱以降の変化で、シュートまで持っていく時に高さに頼らない方法を取っていたのだと思います。

清水の攻撃を具体的に見てみます。
 
~ノヴァのポスト~
 
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後ろからノヴァに楔。タイスケがバイタルに入っていき柴崎がそこを抑えにいくので六平が空いています。この時、元紀に西が付いていっているのでその裏に広大なスペース。
 
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フリーの六平に落としてダイレクトで左サイドへ。
 
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吉田はクロスではなくこの試合の傾向通り、中に切れ込んでいってシュート。決まりませんでしたが惜しい場面でした。
 
~サイドでのビルドアップ~
 
ディフェンスラインで左右に動かし相手の守備を揺さぶってからサイドに出します。サイドハーフサイドバックボランチの三角形でのパス交換でサイドを攻略していきます。左サイドで六平から縦に元紀、鹿島のサイドバックを引き付けてもう一度六平に落とす。その間に吉田がサイドを上がり六平から前のスペースへというような形。
右は河井が割と簡単に相手と1対1になれていましたが、それでも河井にボールが入った時に竹内が内側を上がったり後半にはヤコビッチも攻撃参加を見せサイドのパス交換で相手守備を崩す攻撃は見られました。特にサイドで縦に入った時、隣のレーンを他の選手が追い越していく動きが見られます。鹿島はサイドの崩しに対して中央からボランチがフォローに出てきます。清水がサイドを崩して中央を見た時には中が空いているという状態です。

当時の清水界隈ではこの外外経由のビルドアップは繋ぐサッカーと認識しない傾向がありました。しかし、サイドで繋ぐことで相手の守備に穴を作りそこを的確についていく見事な崩しをしています。
 
~カウンター~
 
僕がこの試合一番好きな場面。中央で奪ってサイドからのカウンター。前半16分です。
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2列目の3列目の間に出されますがタイスケが小笠原をマーク、竹内、六平のボランチと高いラインをキープしているセンターバックではさみ込んで中央に対応。この時の右ワイドの河井のポジションがこの位置。ボールと逆サイドのサイドハーフは守備の時、やや内側に絞りつつもやや高め、相手のサイドバック裏を狙えるポジションを取ります。

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キャラがカットして元紀にパスを出します。この時、逆サイドの河井はすでに鹿島のサイドバック裏狙っているはず。

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この通り。ここから逆サイドの裏に振るのがチームのお約束。 
 
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完全にサイドバックの裏を取って河井がフリー。中央に向かうノヴァもほぼフリー。超決定機を作り出します。
 
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ノヴァにクロスの選択もありましたが河井はゴール左の上を狙ってシュート。しかし大きくふかす河井さん。 

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ノヴァ、激おこww  
 
相手のボール保持に対しての守備の形が、切り替えからカウンターの形に繋がっています。
 
当時の試合を見ているとプレーが非常にスピーディーに感じる事ができます。これは単純なスピード(走力、パススピード)だけではありません。各々の選手が今どうプレーするかが明確なので判断が速く、攻撃がノッキングすることがないためそういう印象を受けたのだと思います。
 
後半、村松に代えて俊幸が入ります。

攻守の仕組みについて僕が想像したことをここまで書いてきたので、ここからは試合の流れに沿って書いていきます。

試合開始直後のバタバタしたところを鹿島に攻められコーナーから失点した清水。その後は落ち着いてペースを握り返します。しかし得点は奪えず前半は1点ビハインドのまま終了します。早めに追いつきたい清水は51分、ゴトビ監督曰く「ワイルドカード」の高木俊幸村松に代えてピッチに送り出します。

タイスケは守備はもちろん攻撃時も小笠原をピン止めして動きを制限するという仕事をしていました。しかし自身がボールを持った時に何かを出来ていたかというとあまり仕事は出来ませんでした。清水はタイスケから俊幸に代えることで守備からより攻撃の方へ比重を傾けます。

この交代は早々に結果をもたらします。56分。トシが左サイドに流れながら後ろからのパスを受けると柴崎がトシを押さえにいきます。吉田が西を引っ張っているためトシを見る守備者がいないためです。

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トシから中央の元紀にパス。
 
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中央でボールを受けた元紀がサイドの方に小笠原を引き付けながらボールを運ぶ。

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左サイドでもう一度トシとパス交換。鹿島はマークの受け渡しをあまりしないのでボランチは2枚とも中央から剥がされバイタルは無人

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クロスに対してはニアのハーフゾーン(吉田)とゴール前(ノヴァ)、バイタル(回り込んで河井)と三ヵ所に入る形が多い清水。トシは柴崎をかわすとノヴァに絶妙なクロス。

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ノヴァがディフェンダーの前に上手く身体を入れインサイドでシュート。これが決まり同点です。

同点後は一進一退の攻防に
 
追いついかれたことで鹿島も攻撃に比重をかけてきました。タイスケから解放された小笠原、柴崎の両ボランチがボールを持って前に出てきます。これによって鹿島はボールを前に運ぶルートが増えましたが、それは諸刃の刃でもありました。

ボランチが前に出ることでボールを奪われた時には鹿島のバイタルエリアにスペースが発生するようになってきました。パスの得意な小笠原や柴崎がボールを持つことで鹿島は清水のブロックの間に入る前線に縦パスを入れるような攻撃が増えてきます。清水にとっては中央はボールの狩り所。通ればチャンス、引っ掛けられればカウンターを食らうような危険なプレーが増えてきました。どちらかといえば決定的な場面が多かったのは清水の方だったように見えました。

鹿島は68分、河井をケアするため少し下がり始めて相手に与える危険度が減ってきたカイオに代えて突破よりラストパスを出すプレーが多い野沢を投入。

清水も77分、河井に代え、もう1枚のジョーカー村田と交代カードを切ります。
 
鹿島、再びコーナーキックから勝ち越し

その直後78分。コーナーキックを得た鹿島はまたも選手交代。左サイドハーフ遠藤に代えてルイスアルベルト。コーナーキックを一旦はじき返した清水ですがそれを拾われルイスアルベルトが豪快にゴールに蹴りこみ鹿島の勝ち越しゴールが決まります。
 
このコーナーキック、背の低いトシがルイスアルベルトをマークするというミスマッチが発生しています。
 
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ルイスアルベルトと交代した遠藤はその前のコーナーの時、ショートコーナーを受けたりこぼれ球を拾う位置、ボックスの外ややコーナーよりにポジションを取っていました。トシはそのショートに対応したりカウンターに移行するため、やはりボックスの外、遠藤を見る形でした。

そしてその遠藤がルイスアルベルトと交代。コーナーを蹴る直前の交代だったため、トシはそのままルイスアルベルトについてボックス内の守備に当たります。結局トシはルイスアルベルトを完全に離してしまいゴールを決められます。コーナーを蹴る直前に交代でボックス内に守備の混乱を生み出した鹿島のトニーニョセレーゾ監督。ここは彼の作戦勝ちでした。

残り時間もわずか、清水は竹内に代えて本田。サイドへのレーザービームで村田を活かす交代。鹿島も最後の選手交代。ダヴィに代えて青木で守りを固めます。スコアはそのまま動かず試合終了。2-1でホーム鹿島アントラーズの勝利でした。

まとめの感想

駿が怪我で離脱してどんな内容だったのだろうと思いこの試合を見直しました。前半に村松で相手を抑え、後半早々にトシを入れて得点を狙うというトップ下を使い分ける采配でしたがどちらの選手が入った時も組織はしっかり機能していました。贔屓目かも知れませんが流れの中での内容は鹿島を上回っていたと思います。ただそこを使い分けなければならなかったということはトップ下の適任者がいなかったということの裏返し。流れの中のプレーでは上手くやり繰りしましたが最後のセットプレーが象徴的。攻撃のカードのトシが高さ含め守備の弱点となったところをやられてしまいまた。

結果は負けでしたが、試合は非常に面白かったです。綺麗に相手の裏を取りスピードに乗ってなだれ込みゴールまで一気に持っていく。過去の試合なのに「いけー、うわ惜しい!」とワクワクしたり。まああくまで僕の好みですけど。

楽しかったので長いエントリになってしまいました。ここまでお読み頂き有難うございました。