明治安田生命J2リーグ第41節 清水エスパルスvsファジアーノ岡山 レビュー

 
 
【得点】
 
16分 オウンゴール(清水)
34分 鄭大世(清水)
65分 豊川雄太(岡山)
 
 
イメージ 6清水エスパルス公式より)
 
 
1.前半~基本的な攻守の流れ
 
 
1.) 岡山の守備と清水の攻撃
 
清水はセンターハーフの竹内をDFラインに降ろしていつも通りのビルドアップのスタート。岡山は5-2-3の守備。システムの噛み合わせは下の図。
 
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 ポイントとなるのは2枚の中盤の脇をどう使うか、どう防ぐか。

 岡山は清水の攻撃に対して、前半、後半と守備のやり方を変化させながら対応します。

 開始直後はDFラインには強くプレスをかけず、背中で清水のボランチと左サイドを消すような守備でした。
 
 
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 トップの赤嶺が中央のコースに立ち、右シャドーの押谷が松原を、左の伊藤は中寄りにポジションして河井を見るような形。
 
 清水のビルドアップの強みとなる場所を塞ぎそこからの前進を阻みます。それに対し清水は中央と左をおとりにして、相手のブロックを左側に寄せます。そして竹内、角田の持ち上がりから右に張る弦太へ。そこからクロスがというのが1つの選択肢。もう1つの選択肢が左右のセンターバックを動かしてスペースを作る攻撃。
 
 例えば試合開始から5分の攻撃。
 
 
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 清水の左側に寄せて、角田が持ち上がり右にフィード。角田の上がりに矢島が前にプレスに来たため中盤は関戸1人。

 
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 角田から弦太へ。逆サイドに守備が寄っているため岡山の左側はDFラインの前が無人状態。元紀が中盤の脇、片山の前で受けることで片山をDFラインから前に動かします。狙うはその裏。

 
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枝村が飛び出し裏を取ります。

 清水はこの左右のCBを動かすパターンを幾つか持っています。前半は岡山の中盤脇にフリーのスペースが生まれやすかったためそこを使って度々チャンスを作り出していました。

 前半暫く過ぎると、岡山は清水のDFからのフィードが危険と判断したようです。ファーストディフェンスの3枚が早めにDFラインへプレスを掛けるようになりました。それに連動して河井にはセンターハーフ(矢島、関戸)の1枚、サイドバックにはウイングバックが前に出て対応する形を採ります。

 これにより、後方から自由にフィードされる場面は減りました。しかしファーストディフェンスの位置が高くなったものの後ろが追いつかず、ライン間にスペースが生まれます。

 16分、竹内が自陣左サイドのプレスを抜け出すと余裕を持って右サイドの弦太にサイドチェンジ。弦太は完全にフリー。弦太からのクロスに対してはテセがファー、白崎が中央に入ってくる形が多い。ここでもセオリー通りファーに入ったテセに向けてクロスを入れます。テセの折り返しを岩政が処理を誤りオウンゴールで清水が先制します。

 その後も岡山は前に奪いにいくか、後ろのスペースを消すかの曖昧さを修正しきれずにいました。開始直後のマークから解放された左の松原や中央の河井もボールを持てるようになり、左や中からの攻撃も見られるようになります。

 34分。今度は右サイドの弦太からテセに長いボールが入ります。テセが納めて左サイドを上がった白崎へ。白崎は切り返してゴール前で構えるテセにドンピシャのクロス。テセは圧巻のヘディングでそのボールをゴールに叩き込みます。

 相手に守備の的を絞らせず、清水が前半の内に2点のリードを奪うことに成功しました。

2.) 清水の守備と岡山の攻撃。

 岡山の攻撃として見られたのが
 
 
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1.後方からロングパスを入れての赤嶺のポストプレー
2.2トップ脇からブロック内への楔、そこから前線3枚のコンビネーション。
3.同じく2トップ脇から逆サイドのWBへのサイドチェンジでサイドのフリースペースを使う。

の3つのパターン。2トップ脇で矢島に持たれるのが少し気になる清水の守備でしたが楔を入れられた後は上手く押さえられていたように見えました。

 ということで前半岡山の攻撃で多かったのが、3のサイドチェンジからウィングバックが運んでクロスやコーナーを奪ってのセットプレー。このサイドチェンジからの攻撃は効果的でした。ゴール前まで何度か運べていたというのが理由の1つ。
 もう1つの理由がサイドチェンジで守備のポジション修正を強いて清水を守備で走らせることが出来ていたからです。清水の2トップの左側(清水から見て)で矢島がボールを持つことが多く、そこから右サイドへボールを出されていました。これにより右サイドハーフの枝村の運動量は通常より多くなっていました。

 さらに岡山は16分の失点後に変化を見せます。まず左右のシャドウ、伊藤と押谷のポジションをチェンジ。そして後方でのビルドアップに伊藤が下がって参加するようになります。右の低い位置で伊藤と矢島を近づけ、さらに関戸が絡んで中盤を使います。これにより前半半ばから終了にかけては岡山もボールを保持出来るようになってくるという流れでした。
 
 
2.後半~岡山がペースを握った理由。
 
 
1.) 岡山の守備の変化。

 後半になると岡山のファーストディフェンスははっきりとした変化を見せます。赤嶺は後ろへのコースを切る守備から角田や犬飼に対して奪いにいくように、押谷は清水のCB、SB両方見るように走り回ります。守備での移動距離を上げて後方を自由にしないよう高い位置でプレスをかけるようになりました。そして、ラインを上げてブロック間を縮めます。チームとして高い位置で奪いきるというように守備の狙いを明確にしてきました。

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後方での保持にしっかりプレスをかけて限定。

 
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ボールが出たところを一気に奪いにいきます。

 これで清水がすぐにボールを回せなくなったわけではありません。しかし、基本的にはボールを持ってなんぼの選手が多い清水。前半にそれなりの自由を謳歌していたため、その変化に少し戸惑ったように見えました。前半に比べて狭くなったスペースを狙ったパスや、直接前のスペースへ急ぐプレーが見え始めます。

2.) 岡山の攻撃での変化。

 前半は一発を狙うような攻撃の多かった岡山ですが、後半は清水の守備を横に広げるように後ろで左右に振ってじっくり空けたスペースを使うような攻撃を見せます。更に前半あまり見られなかった同サイドでのビルドアップ。ウィングバックを駆け上がらせるだけでなく組み立てに参加させながらじっくり保持してボールを前進させていきます。清水は前でボールを奪いづらくなった上にスペースを使われ始めたため、ややブロックを下げてそれに対応します(もしくは意図せず単に押し込まれたか)。

 63分、押谷に代わり豊川が入ります。攻撃の時は伊藤が下がって組み立てに参加していたので元々3-5-2気味だったのですが、これではっきりと2トップのような形になりました。

 その約1分後。

(岡山の)右でのビルドアップ。WB澤口、センターハーフ矢島、それにCBの篠原の3人で清水の守備を剥がしにかかります。WBが下がり目で受けるのとセンターハーフが外側に出るというのが前半との違い。

 
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 澤口から一度中央の伊藤に当てて澤口は中に矢島がサイドに。この動きで矢島に選択肢の判断とそれを実行する時間、スペースを作り出します。

 
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 ここからサイドの裏というのはここまでよく見たプレー。しかし、この時、矢島のラストパスを出す能力と豊川の得点能力は同じ絵を描きます。角田と前に引き出した松原の死角。

 矢島のパスを豊川が合わせて岡山が1点を返します。

 この得点。まず誉めるべきは矢島と豊川の個人能力。しかし、清水側から見ると問題がありありです。まず2トップ脇で澤口に、次にセンターハーフ(河井、竹内)の前で伊藤に簡単にボールを受けて捌かれています。そしてその負担がサイドハーフに。後半、動きが落ちてくる時間に受けに回ると中盤の奪取力の低さが表れてしまいます。このような弱点を見せるのはこの試合だけでなくよく見られる現象です。的確に弱点を突かれての失点でした。

3.)清水の交代策~判断の難しさ。

 自動昇格圏内を目指す清水、プレーオフ圏内を確定させたい岡山。両方チームともどうしても欲しい勝点3。1点ビハインドの岡山は得点を奪いにいくしかなく前に人数をかけてきます。攻撃でかける人数はそのまま前へのプレスの濃度となり、岡山が清水陣内でプレーする回数が増えてきます。河井、竹内のセンターハーフ前が危うくなっていたのは清水の選手もわかっていたでしょう。FW、特にテセが下がって中盤の前を埋めるようになります。これにより清水は全員が自陣で守備をするような形に。

 ここでベンチが動きます。元紀に代えて金子。まずファーストディフェンスで明確に相手を制限したい、全体が下がっているのでカウンターで前に行ける選手。両方満たす金子をチョイスというところでしょうか。好守ともにもう少し押し返したいという監督の意図が感じられます。

 金子が入り岡山は中を通す攻撃が減り、逆に金子を経由して繋いでゴール前まで運ぶ場面も出てきました。すると岡山はセンターハーフがサイドに流れるプレーを多く見せるようになります。中央よりサイドにチャンスを見出したのでしょう。この辺りで清水にまたもや問題が発生してきます。70分過ぎから右サイドハーフ枝村の疲労が目立ち始めます。前半はサイドチェンジに、後半はサイドでのビルドアップに対応するためスライドと上下動を繰り返していた枝村。足が止まりだすのは仕方がないことです。

 ここで難しい判断を迫られます。強度の弱っている中央か、疲労の目立つサイドか。小林監督の判断は80分に枝村に代えて村田。サイドの運動量と奪ってからのカウンターで押し返す狙い。守備のカードを入れて残り時間守備だけで守りきるというのは難しいという判断だったのでしょう。3センターのようなシステム変更も混乱を生む出すリスクと考えたのだと思います。

 村田を入れて少しでもボールを自陣から遠ざける選択をしましたが、この時間帯、中盤でボールを奪取出来なくなっており、カウンターに移行する場面が作り出せませんでした。相手にボールが渡ると一度低い位置に引いてブロックを固めるためボールを奪っても相手のプレスにあって不確実なボールを蹴らされます。

 89分にようやく逃げ切りのカード本田を投入。岡山はサイドに高さのある選手を入れて同点一歩手前まで追い詰めますが、ギリギリで清水が踏ん張り試合は終了。2-1で清水エスパルス、薄氷の勝利でした。
 
 
3.雑感 
 
  清水エスパルスの現時点での強さと弱さを見ることが出来た試合でした。各選手の能力とチーム戦術による攻撃は間違いなくJ2屈指の破壊力でしょう。しかし、組織としての守備は整備されているもの個々のボール奪取力は高いとは言えません。中盤の選手は皆、守備をさぼる選手ではありませんが奪い切る力は見劣りします。特に動きが落ちてポジショニングでカバー出来なくなるとそれは顕著になります。後半、岡山に押されたのは昇格争いのプレッシャーというメンタル面よりそちらの理由が大きかったのではないかと思います。

 それでも岡山の強力な攻撃力による最後の猛攻を凌ぎきったのは大きな意味があったと思います。得点する、失点を防ぐという一番大切なゴール前の弱さはこのチームの課題でした。それを克服しての8連勝。

 昇格が決まった今思い返せばこの岡山戦の試合終了間際が最大のピンチでした。J1へ繋がる道に立ち塞がる高い壁。それを乗り越えたことで清水エスパルスがJ1昇格するに値するチームだと確信出来た試合でした。