マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第33節 清水エスパルスvs徳島ヴォルティス】

 前々節、町田との天王山を劇的な勝利を飾った清水。続く秋田戦は痛恨のドローでしたが、この徳島戦で勝点3を得れば自動昇格圏内に浮上です。

 かたや一時は降格圏に沈み、苦しい戦いが続く徳島。前々節の山口戦後にラバイン監督との契約解除を決断し、吉田達磨監督が就任しました。そして前節の金沢戦は1-0で勝利。この勢いのまま勝利を重ね降格の足音を消し去りたいところでしょう。

 お互い立ち位置は違いますが、この一戦が重要な試合となることは間違いありません。今回も事象に沿って観察してみたいと思います。

メンバーとフォーメーション

 フォーメーションは両チームとも4-2-3-1。

前半

徳島のボール保持と清水のプレス

 開始直後、清水が勢いよく前に出てチャンスを作りますが、徐々に徳島が保持からペースを握り始めます。

 徳島は2CBと白井(ときおり永木)の3枚でビルドアップスタート。対する清水はこの3枚を2トップで見る形です。しかし清水の2トップがここを上手く監視できません。清水の前線は前からはめ込む意思は見せますが、徳島の引き付ける動きとフリーになるポジショニングで容易に前進を許してしまいます。

 徳島がフリーで前進するとそこを起点に今度は中盤ラインの前で数的優位に。この数的優位を使ってまたボールを前進させます。

 例えば持ち運ぶ森昴大に白崎が出れば柿谷が空き、中山が出ていけばケサダが空きます。
 徳島はこうして順に清水の守備をずらして前進。そこから一度ワイドに振って、右は浜下のカットイン、左はケサダのクロスや内側に入った西谷が絡みゴールを狙います。

 しかし清水陣内では清水DF陣の強さもあって決定機までは至りません。徳島がボール保持で支配するも最後は決め手を欠く。前半しばらくはそんな流れになっていました。

清水の保持と徳島の非保持

 前半の開始から徳島が保持で主導権を握りましたが、清水も保持する時間は作っています(前半30分までの保持率は約46%)。

 清水の保持は2CBとボランチ、さらにトップ下の神谷がボランチの高さに降りて5枚でビルドアップスタート。

 対する徳島は2トップがプレスを抑えて真ん中を埋めつつ、ミドルゾーンに4-4-2のブロックを形成。徳島の中央を消しながらのコンパクトな4-4-2のブロックの前に清水はボールを差し込むスペースを見つけられません。

 するといつものパターンで清水の選手はボールを欲しがり段々と低い位置に降りてきます。

 相手の1列目のラインより低い位置に4、5人いる状態が常になり、後ろでボールを動かせても相手の守備ラインは越えられません。

 中盤が後ろに下がるので前後が分断。無理やり縦パスを通しても相手の守備に対応されます。この状態が飲水タイム前まで続きます。

前半飲水タイムからの修正

 清水非保持の問題は、2トップで相手のビルドアップ3枚を監視できないことが始まりです。

 飲水タイム後の清水は前線のプレスに右SHの中山を参加させ、CBが空いたら中山を前に出し嚙み合わせる形に変えてきました。また2トップの裏で徳島のボランチがフリーになった時は、清水もボランチを素早く出して塞いでいます。

 これで徳島のビルドアップに制限がかかります。徳島はSBの位置を下げたりプレスの変化に対応しているようでしたが、詰まった時は無理せず前に長めのボールを出しています。

 清水が前に出ていくので後ろは同数になりがちですがロングボールの競り合いは清水が優位。清水はボールを回収すると徳島が守備をセットする前に素早く相手ゴールへ向かいます。これで少しオープンな状況になって清水も徳島陣内に攻め込む時間を作ります。清水が展開を五分五分に戻したところで前半が終了しました。

後半の流れ

後半の入り

(後半開始後すぐにカルリーニョスが負傷によりコロリと交代)

 清水は前半飲水タイム後の流れを受けて、より前への圧力を強めてきたように見えました。

 例えば徳島保持の48分。ビルドアップのサポートに永木が少し降りるとすかさずホナウドがプレス。そして中盤に降りてきた柿谷には鈴木義宜が高い位置まで出てきて追撃。徳島のビルドアップを詰まらせています。

 徳島も右SBの石尾を前に出して長いボールのターゲットにしたり、保持から前進の姿勢も見せますがゴール前までは迫り切れず。

 清水はセカンドボールの回収から速攻、またコロリと山原を中心に左サイドを崩すプレーで攻め入る場面を作ります。

 特に55分は清水最大のチャンスでした。コロリのSB-CB間へのランでCB内田を動かすと、内田が動いたスペースを山原が突いてゴール前まで侵入します。決定機と思われましたが山原の折り返しをGKスアレスがキャッチ。ここは清水が完全に崩したように見えますが、徳島も的確なカバーリングでゴール前にはしっかり人を確保していました。

 この時間帯は清水が攻勢を強めましたが、徳島も守備組織を崩しません。前半の飲水タイム後から均衡状態が続きます。

徳島の選手交代とシステム変更

 流れを変えたのは61分の徳島選手交代から。浜下、柿谷代えて西野、杉本がピッチに入ります。同時にシステムを3-4-2-1に変更。このシステム変更によって清水のプレス基準があいまいになって、再び徳島が保持できるようになっていきます。

 徳島が保持時間を伸ばすとオープンな状況が消えて清水はボールを持っても前進できなくなります。相手のワントップに対してボランチや神谷も降りてきてしまうので、後ろ荷重とそれによる前線不足が顕著に。

 61分、ホナウドの不用意なターンをカットされ背後を突かれたように、無理やりに前を狙ってカウンターを受ける場面が散見し始めます。

 そこで清水も64分に選手交代。山原と中山に代えて吉田と北爪。システムを3-4-2-1にしてミラーゲームの形にしました。

 システムを嚙み合わせて前からはめ込みたい清水ですが、逆にこの交代で流れはさらに徳島へと傾きます。

 清水保持では、3バックに加えてそれまでと変わらず中盤が降りてくるので前線はさらに薄くなります。65分清水のビルドアップでは、ボールサイドではめ込まれ左サイドの吉田が前に出したボールを簡単にカットされました。 

 また清水非保持の局面では、前線3枚がCBにいくもボランチが相手のシャドーを気にするため1列目と2列目の間が乖離。そのスペースを移動する徳島の中盤に清水のボランチが動かされてたびたび中央にスペースを作ってしまいます

 流れを掴んだ徳島は75分飲水タイム後に再び選手交代。森海渡とケサダに代えて、トップにフィジカルで対抗できる渡、シャドーにライン間からゴールへ向える棚橋を投入します。
 清水もサンタナに代えて北川航也、神谷に代えて宮本。ここはフレッシュな選手に代えて攻守の強度を上げつつ、ワンチャンスを狙います。

 おそらく秋葉監督も非保持での前線と中盤の乖離は気になったはず。交代後には前線の裏のスペースに早めにボランチが出てくるようになっています。
 しかし清水のボランチが前に出ることでシャドーの棚橋がたびたびフリーになります。さらに右CB石尾のサイドに開く動きや、白井の降りてくる動きで前線のプレスもぼやけ気味に。棚橋への縦パスが入りやすくなり、間から運ばれ決定的なシュート放たれます。
 徳島の決定機をなんとか防いだ清水も右サイドの北爪から強引に仕掛けますが、ボールを運ばれると徳島は5-4-1でセット。ゴール前を塞いで清水の猛攻をしのぎます。 結局、お互いに最後はしのいでそのままスコアレスでタイムアップ。
 多少組織を崩してもオープンにして個の力の差を生かしたい清水。粘り強く組織を維持して対応した徳島。スコアは動きませんでしたが、お互いの攻防は見応えのある試合だったと思います。
 
 
 

観戦メモ【2023年明治安田生命J2リーグ第31節 清水エスパルスvs町田ゼルビアの前半】

 前半は町田が固い守備をベースに流れを掴む。ボールを持てばサイドを中心とした縦に速い攻撃で清水ゴールに迫った。

 清水は最後尾では保持しようとするも上手く前進できず回収される→再び町田のターンへの流れとなっていた。

 

 試合開始直後の清水の後方保持。ホナウドがアンカー、シラが右脇、乾が左脇に降りる中盤3枚気味。
 町田の非保持はまず2トップがアンカーを挟む位置から。清水のCBが動かすとプレススタートし、SBにパスが出るとSHが早めにプレスをかけてくる。左脇降りて受ける乾にはボランチの松井が前に出て自由を奪う。

3:08

 上記の形でエリキが原のところではめてスローイン。その後、エリキのスローインを町田SB鈴木がファーにクロス。ファーで山原、鈴木宜と松井が競り合いこぼれたボールを髙橋がゴールを決めた。クロスが上がった時点でCB高橋と鈴木の間に町田の選手2人走っていて、ファーで競った時にはその手前で3人浮いていた。ロングスローを意識していたためかマークがあいまいになっていた。

7:20

 清水保持。ホナウドが右に降りて後ろ3枚でスタート。町田はエリキが怪我でピッチ外のため441。1トップに対し3枚は後ろに重たすぎる。ホナウドが持ったところで左SH高橋がプレス。ホナウドが縦に運んで乾に横パスも町田のブロックもそのまま下がったので結局1列目を越えず。町田の守備組織も動いていない。

 その後、白崎が右に降りて後ろ3枚。白崎は左SHの高橋を揺さぶるように中外をうかがう。白崎が降りた方が相手の1列目とSHを動かせる。

 ホナウドが下がって後ろ3枚になると白崎がアンカー位置に入る。右脇で相手を動かせる選手がいなくなり、乾のいる左からの攻撃が主となる。前半、中山がボールに触れる機会はかなり少なかった。

8:40

 空中戦で弾いたボールを山原拾ってドリブル。中を動かせずにカットされるならサイドを無理にでも剥がした方が良さそう。

13:35

 清水保持、GKから。原を高い位置に上げて左SB奥山にぶつける。そして権田からロングフィード。しかし奥山競り勝って原の裏のスペースでエリキが拾う。そこにホナウドがスライドして対応もさらに裏に髙橋大悟走ってパスが出された。ここはCB高橋のクリアで事なきを得るが、ホナウドが中央からスライドしたため中央には広大なスペースができている。

17:55

 町田のロングフィードのデザインは藤尾が右サイド少し降りた位置でターゲット。山原に藤尾をぶつけつつ、エリキも右に寄って、髙橋、平河で対応に出てきた清水DFラインの裏を狙う形か。

 藤尾を狙って逸れたボールを裏でエリキ。山原が対応した裏を平河が突くと鈴木宜が右にスライドしてくる。これで中央はCB1枚剥がした状態。

 町田はSHに縦突破できる速い選手を置いて、ボールを持ったら相手のSBと勝負させるようにサイドの裏を狙う。藤尾が右サイドでターゲットのなるのも含めて、サイドを中心に縦に速く攻める。突破できなくてもクリアされたボールをロングスロー。これが基本的な攻撃の形のよう。

22:10

町田2点目。宇野のサイドチェンジから平河。平河サイドを突破してクロスを上手く前で合わせられた。徹底的にサイド突破からクロス狙いだなと。

26:10

 乾が降りて松井が付いていく。松井が動いたスペースにカルリーニョスが入って縦パスを受ける。町田右SB鈴木が追撃してこぼれたが、カルリーニョスがそのまま拾って中央を剥がして右サイドに展開。

 右で白崎、乾と繋いで白崎は前へ。左SB奥山が内側に絞って、ワイドの原はエリキが下がって見ている。白崎が宇野の背後に回り込みむと、宇野が気にして少し右に動く。乾がその瞬間、宇野の左脇を通して奥山とエリキの間を割るようなスルーパス。原には通らなかったけど見事なコンビネーションだった。

 相手を押し込み、個人の戦術眼が発揮できる状況になると清水の攻撃は脅威。

30:32

 後方から原の裏を狙ったエリキ目掛けてロングフィード。開いたSB-CB間に平河がラン。そこを白崎がカバー。エリキが中を上がった宇野にパスした時に中央の守備者はホナウド一人。ここは中山が内側に絞ってカバーした方が良さそう。2列目にスペースができてほぼフリーで平河への縦パスの落としをエリキがシュート。

31:38

 清水GKからビルドアップ。清水ペナエリア近くまで乾が降りて鈴木からのパスを受ける。町田、右SH平河が乾にスライドしたが乾がターンで剥がす。そして中に運んで逆サイドの前線にパスしたが距離が遠くスライドした左SB奥山にカットされた。

 乾の受ける位置が低いため、剥がしても前との距離が開いてしまう。ミドルレンジのパスで出し所が読みやすいためスライドされてロストする場面が目立つ。

36分

エリキ負傷でバスケスバイロンと交代。

37:13

 左スローインから。1度後ろに戻して高橋から原へのパス。原はSH平河より高い位置でパスを受けたため相手陣内まで運べた。ここまでSBの位置が低くSHに対応されていたが、このくらいの高さで受けたい。

37:28

原が運んだ後、白崎への横パスをカットされる。そこにホナウドが寄せてくるが交わさると中央ががら空きに。乾が後ろからバイロン倒してチャンス潰しでイエロー。ボールにどんどん出ていくのがチームのコンセプトなのはわかるけど、状況的にはホナウドは中央に留まってバイロンの前進を遅らせた方が良さそう。遅らせて味方の帰陣を待てば乾のイエローもなかったはず。中央にスペースが生まれた理由は13:35とほぼ同じ。

39:30

 乾がSH-CHの間で受けて倒される。SH-CHの間、つまりライン上。受けて失敗すれば挟まれるけど、成功すればターンで置き去りにできるポジション。

42:29

 カルリーニョス内側に降りて松井が寄せる。その後ろ、わずかに出来たコースに乾が顔を出して鈴木からの縦パス。チャンミンギュ後ろから追撃。ファールでFKに。乾から山原に出し、山原のクロスを高橋祐がヘッド。弾いたところをカルリーニョスがゴールを決めた。

前半まとめ

 中央を締めつつ、乾も松井が強く監視したため清水はそのままでは前進コースがなかった。清水のCBはあまり動かせないのでボランチが下がって後ろ3枚になる。さらに乾は町田のコンパクトなブロックと松井のプレッシャーを嫌ってかなり低い位置で受けようとする。また中を使えない時に、サイドを使いたいけどSBの位置も低い。相手のSHより高い位置を取りたいが、CBの横にポジションして逃げ場所になろうとしたのかもしれない。

 自分がフリーで受けやすそうな場所に移動して受けてもいいが、もう少し前で留まり相手を止めたり、二択を作って迷わせるような動きがないとスライド対応されるだけ。降りてくることで、距離が開く&周囲に味方がいなくロングボールも対応されやすくなる。縦パスやロングフィードはほぼ対応されてそのまま町田のターンへの繰り返しだった。

 一方、町田は内側を締めたコンパクトな守備と乾を強く消してブロックの外に追い出した。

 ボール保持でもサイドを徹底的に使うダイレクトな攻撃で結果的に2得点。1失点はしたものの、狙いはほぼ遂行できたのではなかろうか。

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第17節 藤枝MYFCvs徳島ヴォルティス】

 注目しているチーム同士の対戦だったのでウォッチしてみました。とはいえ両チームに関してそれほど詳しくないので変なところがあったら教えてください。

メンバーと基本フォーメーション

 藤枝は3421、徳島は352の基本フォーメーションです。

藤枝の攻撃

 藤枝保持時の配置はおおむね下図のようになっていました。

 まずWBがワイドの高い位置を取り、1トップ2シャドーとともに5レーンを取る。

 ボランチの1枚がサイドや前線に出ていって、ビルドアップや崩しの局面でプラス1を作る。

 そして左右のCBが2トップ脇から持ち運んでいくのがスタートです。

 対する徳島の守備は5-3-2、またはボールを運ばれたら柿谷が下がって5-3-1-1。

 開始後、徳島は藤枝のボランチ2枚を中盤3枚で見るので、運んでくるCBを誰が見るかがあいまいに。そのため藤枝にボールを運ばれチャンスを作られます。

 藤枝は前線までボールを運んだら、WBが前向きでサイドで仕掛ける、またはIH(岩淵、徳永)とのコンビでポケットを取って速いクロスを上げていきます。

 相手が裏に対応したら、押し下がったDFラインの間を通すような横パスを中央に入れる。間に入れたら前線3枚でのコンビネーションを使ってシュートを狙う。こんなパターンを見せていました。

 前半、少し進むと徳島は守備を修正。2トップが背中でボランチを消して脇を運ぶCBへIHが、ボランチには白井がスライドする形を作ります。

 これで徳島の守備の制限が効くようになりました。それでも徳島はそこまで前から奪いに行かず基本は藤枝がボールを持つ流れでした。

 藤枝は後ろから運ぶと、5レーンに顔を出す前線へのボールを狙いますが、徳島も内側のレーンは塞いで何とか対応はできていています。

 時折、藤枝はサイドを突破してチャンスを作りますが、徳島のWBも対応し決定的な場面までは作らせない。こんな流れになっていたと思います。

徳島の攻撃

 徳島の保持はCB3枚にGKが加わり、後ろで動かすのがスタート。ここに藤枝は最前線からマンツーマンでかみ合わせてプレスをかけていきます。

 本来、後ろで動かし引き込んで背後のスペースを使いたい徳島ですが、藤枝がマンツーマンでくるため背後にフリーの選手が生まれません。

 ただし最前線からマンツーマンということは、後ろは同数になっているということで。

 そこで徳島は後ろで持つと、早めに前に長いボールを入れていきました。

 後ろも藤枝はマンツーマンで捕まえていますが、同数なので抜け出してしまえばそのまま背後を取れる状態です。29分の柿谷のシュートは対応していた小笠原の背後に抜けだしたもの。24分西野のシュートもフリーキックからダイレクトに出して裏に抜けたものでした。

藤枝の先制点 

 徳島にもチャンスはありましたが、プレスから前に出させて回収、そしてボール保持への流れは藤枝の望む構図だったと思います。

 そして前半39分、藤枝の先制ゴールが生まれます。直前の状況が下の図。

 この時、ボランチの横山が右の前に上がって前線でプラス1。これで徳島DF5枚に対して藤枝の前線6枚です。同時に岩渕が左側のハーフスペースに移動していて、これで藤枝左サイド大外で榎本をフリーにします。

 2トップ裏の平尾が中央アンデルソンを見ると、徳島が中を締める。そこで平尾はキックの軌道を変えて横山へパス。横山がレイオフで小笠原に落として逆側ハーフスペースの岩淵へ。

 岩淵がスルーしてボールはフリーの榎本へ。榎本は少しカットインして右足でファーに突き刺しました。

 強みであるワイドをフリーにするポジション取り、後ろから相手の重心をずらすキックを用いた個人戦術、そして榎本選手のシュート。すべてが見事な藤枝の先制ゴールでした。

後半

 徳島は森海渡、玄に代えて棚橋と坪井がイン。試合後の監督コメントにもあるように高い位置からプレスをかけてきます。

 2トップ、特に棚橋がCBまで積極的に出ていって、やり方としては中を切ってサイドに寄せるようなプレスでした。そして左右のCBにはIHが出てきています。

 これで藤枝のキックの方向を限定して中に縦パスを刺し込んだところを、中盤が狙い撃ちしてカットする。こんな守備になっていたように見えます。

 徳島がボールを奪えるようになると、切り替え局面がミドルゾーンで起きるようになる。切り替えの局面では藤枝も完全に人を掴めずに、徳島がボールを持てるようになると。

 藤枝はミドルゾーンでボールを持たれると、早めに5-4-1で撤退。すると徳島がワイドを使って藤枝ゴールに迫れる流れになりました。

 また徳島はビルドアップで白井が後ろに落ちて、藤枝のマンツーをずらしてボールを前進させるようになります。

 これらの修正が効いて徳島がペースを掴みましたが、またもやゴールを決めたのは藤枝。

 58分、藤枝のビルドアップにIHの坪井が出て行き、そこをひっくり返された形です。

 徳永のスルーで岩淵にパスが通り、岩淵はワイドの久保に展開。徳島が慌てて戻りましたが、守備がばらけてゴール前にはスペースができています。久保は得意のDFラインの前を横切るような低いクロスで折り返し、スペースで岩淵が受けて2点目を決めました。

 89分の藤枝の3点目も同じく。徳島は79分に櫻井を入れてダブルボランチの3-4-2-1にシステム変更。失点場面は前3枚と左WB西谷も前にプレスに出たところをダブルボランチの裏にボールを入れられる。背走しながら後ろ同数で対応したところに後方から入ってきた横山がフリーになってシュートを決めました。

最後に

 前半は完全に藤枝の流れ。後半は修正した徳島がやや主導権を握る流れでしたが、リスクを負って前に出たところを逆手に取られ失点という結果だったと思います。

 藤枝はボール保持、崩し、また守備局面でのハイプレスが強みのようです。ただ少し押し込まれてセット守備になった時に弱みを見せるかなという感じはします。

 徳島は前半押されてしまいましたが、後半は上手く修正したと思います。ただ修正で得たメリットと引き換えに生まれたデメリットで失点してしまった形でした。

 後半に限れば決定機の数はそれほど変わりありませんでしたが、最後のフィニッシュ局面は藤枝が上回ったといえるのかもしれません。

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第17節 FC町田ゼルビアvs清水エスパルス】

試合の感想

 強度の高い緊迫感あふれる試合でした。惜しくもエスパルスは負けてしまいましたが選手は精一杯のプレーをしてくれたと思います。

 この両チーム、監督が求めているものは共通したものを感じます。「やるべきプレーを妥協せずにやり抜く」ような意味合いです。ですが強いて言えば“どうやり抜くか"の部分に関しては少し差があったような気がします。

 私が感じたどうやり抜くかの”どう”とは、つまりチームのプレー原則です。サッカーでは選手個々の判断やアイデアが大切ですが、その判断の元になるのはチームとしての原則だと思います。

 町田はこの状況ではこうプレーするという原則が具体的かつ明確で、試合を通してそれがぶれずに実行されていました。

 おそらくですが秋葉監督もそれは認識したのでしょう。だからこそ試合後に責任は全て自分にあるという意味合いのコメントが出てきたのだろうと思います。

 リアルタイムではこのコメントに少し疑問を感じましたが、再び試合を見直せば監督は試合内容を客観的に分析し受け止めていたんだなと思うことができました。

 以上、感想はこのあたりで。それでは試合を具体的に振り返ってみたいと思います。

メンバーと基本フォーメーション

前半序盤の流れ

・清水がボールを持ち、町田が堅守で応戦する構図でした。両者の特徴を考えれば想定された流れといっていいでしょう。

・清水の保持は4-4-1+フリーマンの乾のようなシステム。やや内側に人を寄せて、まず中にボールを差し込む。そして町田の守備ブロックが収縮したら外にできたスペースを使っていきます。

・清水はセンターバックからDFラインの背後に直接ボールを入れたり、中山がハーフスペースから裏を狙っていきます。おそらく町田のDFラインを押し下げ守備ブロックを縦に広げたかったのだと思います。

・町田は時折ライン間のスペースが開く時があって、清水のボランチが2トップ裏でボールを持って前を向ける時があります。

・清水のボランチが2トップ裏で持つと町田はボランチが前に出てきます。ボランチが動くとブロック内にスペースが生まれます。清水はわずかのスペースがあればボールを差し込み個人技でチャンスを作っていきます。

・町田はボランチが前に出たら必ず左右の選手が絞ってカバー。ブロック内にボールを通されても対応できる状態を作ります。ボールにいく選手とその周囲の選手のポジショニング。この原則が忠実に実行されています。

4:05町田が中央セフンへのボールに絞って対応。それで生まれたサイドのスペースに流れた乾がフリー。乾からボックス内のスペースに入ってきた白崎へ。白崎のシュートは外れましたがこの試合最初の決定機でした。町田としては白崎と競って倒れた稲葉のスペースを使われた形で組織で崩されたわけではありません。しかし中からスペースのあるサイドへ。そして前のスペースに人が入ってゴールに向かう清水の狙いが表れた場面だったと思います。

・町田の守備は4-4-2。縦横ともコンパクトなブロックを形成しています。

・2トップは1枚がCBへ、もう1枚はボランチを抑えます。内側を消してサイドへ誘導する。そしてサイドで奪うのが目的だと思います。サイドに誘導するとデュークも中盤サイドまでプレスバックする動きを見せていました。

・サイドへのボールへは割と早いタイミングでSHが出てきて全体をボールサイドにスライドさせます。その際、ボールに出ていったSHの隣のボランチ選手は必ず斜め後ろのポジションを取っています。

・またSBがスライドして開いてもCBはそこまでスライドしていきません。CBはまずゴール前を固めて、SBとの間はボランチの選手が降りてカバーに入るのが約束事のようでした。

・先ほど書いたように清水は時折ブロック内にボールを差し込みますが、町田の忠実なスライドとカバーで明確なチャンスはそれほど作れていません。

・清水としては「思うように前進できないな」という感覚だったのでしょう。徐々に乾がボランチの位置まで下がったり、ボランチがDFラインまで下がったりと降りてボールをもらおうとしています。

・後ろに降りると前の人数は減ります。前の人数が少ないとボールが入ってもコンビネーションを使えずに町田の守備に捕まります。前半20分過ぎ辺りからはボールを持っても攻撃は停滞しているなと感じました。

・逆に町田は守備でぺースを握り始めます。清水にサイドを使われれば普通はサイドが気になりそうですが、必ず中央に絞って最後はやらせません。ここは原則が徹底されていると感じた部分です。

前半の中盤から前半終了まで

・清水の前進が上手くいかなくなると町田がボールを回収する機会を増やします。ボールを回収すれば保持する機会が増えてくる。これはサッカーの原理です。

・清水は基本は対面の相手を強く捕まえる守備をしています。

・町田は清水の2トップに対して後ろ3枚で数的優位の関係を作り、そこから清水のSHやSBをずらす。そしてずれてできたDFラインのギャップを狙っているように見えます。

22:55のシーンが典型的な形。後ろは翁長が残って3対2の数的優位。清水は中山がSBの翁長へ、岸本がSHへプレスに出ていきます。この状態でエリキが岸本の裏を突くと高橋と1対1になる。このエリキの打開力と清水CBの守備力は五分五分の勝負。この形が町田の狙っていた形だったと思います。

30分の得点シーンも左SB翁長が2トップ脇でフリー。この時、清水のDFラインと町田の前線は同数です。吉田と高橋は対面の相手を捕まえに出ているので鈴木はエリキと1対1。

・それを見た翁長は逆サイドのCB鈴木の脇へロングフィードを出しています。鈴木がエリキに抜け出されそうになり、左SB吉田はマークを外しカバーへ向かう。マークが外れた平河がこぼれ球を拾ってゴールを決めます。この後ろからずらし、最後1対1になる仕組みは22分とほぼ同じです。

41:40清水カウンターから同点。町田はCB池田が負傷のためピッチ外に出ていて1人少ない状態。4-4-1で守って自陣からのクリアをエリキが単独でカウンター発動。これをフォローするため翁長がサイドを、中盤2枚がゴール前に上がっていきました。

・エリキのパスが白崎に当たり、中山が拾って乾にパス。翁長が前にいて、本来スライドしてカバーすべきボランチも1枚しか残っていません。乾が町田の守備を引き付け前のスペースに飛び出した中山にパス。中山のシュートが決まって同点です。町田としては人数不足の中、もう少しリスク管理をしたいところでした。

・それにしても乾のパスのタイミング、そして中山のスペースに出る動き、次のプレーを考えたコントロール、シュートの技術。いずれも素晴らしかったです。

後半

・後半頭から清水は中山→北爪。右SBの岸本が右SHに北爪がSBに入ります。

・ここまで町田の守備を崩しきれずにいた清水。しかし以下の2つの場面ではチャンスを作れていました。

・一つはトランジションで相手が整う前に速く攻め切る形。

・もう一つはボランチがカバーで動いたスペースを使う形です。

48:25CBとSBの間に白崎がランニングすると、ボランチ下田が降りてカバー。これは町田の守備のセオリー通り。下田が動いたスペースにホナウドが入る。ホナウドには藤原が、ニアに動くセフンにはチャンが対応します。これで乾の前が空いて、ホナウドがクロス。乾のヘディングシュートは決まりませんでしたが、相手の守備の特徴からくるスペースを利用した攻撃でした。

・この他にも町田の守備のやり方的に、清水のSBがワイドの高い位置を取れば町田のSHとボランチの間を引き離せる。このような「こう動けば相手はこうなる」の仕組みをもっと利用しても良かったような気がします。

 

・清水は59分岸本→宮本、オセフン→サンタナ。町田は65分に沼田→荒木。

・町田は荒木がそのまま左SHに入る同ポジションの交代。清水は宮本がボランチに、ボランチの白崎が右SHに回りました。

・清水はボールを持つと白崎が内側に入って、右SB北爪を高い位置に上げます。北爪の前のスペースに入っていく能力は非常に高く、シンプルに彼のサイドでの推進力を生かす意図かと思われます。

・清水は81分、カルリーニョス、白崎→北川、神谷の交代。

・町田は82分、エリキ、デューク→髙橋、藤尾の交代。

・町田はこの直前のカウンターでデュークが前に出ていけていません。かなり体力が消耗していたのでしょう。エリキの交代も同様の理由だと思います。

・清水はやや前が中央寄りの4-3-3(4-3-2-1)にシステム変更です。

・町田は後ろから、または髙橋大悟の左足を使って、サイドの裏へボールを出していきます。そして押し下げたスペースに後方から入ってシュートを狙う形を作ります。

・また町田はサイド奥に出したボールをクリアされたら徹底的にロングスロー。町田はやや距離があってもロングスローを使っていて、82分の交代後、町田のロングスローの回数が増えていきます。

・ロングスローに対して清水はサンタナも下がって守備をセット。ロングスローでサンタナを自陣に張り付けられると、ボールを奪っても前で起点になる選手がいなくなります。

・→ボールを収める選手がいないのでセカンドボールを回収できなくなる。

 →単独で前進して奪われる。

 →奪われてプレスをかけようにも前の選手はロングスローの流れで後ろにいる。

 →整理されないまま中盤の選手がプレスに出ていって守備陣形が崩れる。

 →守備陣形が崩れているから容易に前進される。

交代後からアディショナルタイムに向けてこんなサイクルに陥っています。

・お互いオープンにゴールに迫る状況のようで、町田はある程度コントロールできている、清水は陣形が崩れている状態だったと思います。

・町田の決勝点のきっかけは終了間際の94:44。やはり町田のスローインからです。

・ロングスローは一度クリアして清水の左サイドでプレーが進みます。ここに町田がプレスをかけて稲葉がカット。稲葉→下田→藤尾で藤尾はバイタル辺りでターン。ここは本来、位置的にアンカーが対応すべきエリアですが、実際いたのはFWの北川という状態です。

・藤尾のシュートを鈴木が防ぎましたが、こぼれ球が上がっていたチャンミンギュンへ。チャンの振り向きざまのシュートは素晴らしかったのですが、対応した吉田の外側を髙橋大悟が上がってきています。ここは完全な1vs2を作られていました。チャンが撃たずに大悟に出しても決定的だったと思います。

最後に

・球際や走り抜くことなど強度は勝つためには絶対必要な要素です。しかし、それが同じレベルのチームに勝つためには何が必要かを突きつけられた試合だと感じました。

・始めにも書きましたが、おそらく監督はそれが何かわかっているはず。ではそれがどう構築されていくのでしょうか。以降の試合に注目していきたいと思います。

 

 

 

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第13節 清水エスパルスvs徳島ヴォルティス】

メンバーと基本フォーメーション

 徳島は352(非保持5-3-2)。前節から変更はルイズミケサダ→西野。西野が右WBで西谷が左WBに回った。

 清水は442。前節から7人のスタメン変更。

徳島保持、清水非保持の局面

 徳島の3バック+アンカー白井に対し、清水は2トップの1枚がアンカー、もう1枚がCBへが基本形。ただし前から行く時は2トップともCB(もしくはGK)まで出ていく。

 左右のHVにはSHが出て、WBへはSBが早めの縦スライド。降りるIHにはボランチが付いていた。中盤の背後を空けても前から出し所を消しにいくプレスだ。

 徳島は前節に比べ、相手を引きつけるように低い位置で動かしている。WBはあまり高い位置を取らず、GKスアレスもビルドアップに参加していた。

 徳島のHVはボールを持つと2トップ脇から持ち運ぶ。そしてフリーのWBだけでなくインサイドの裏表を使ってIH、さらに奥の前線へのパスも出している。

 清水が2トップとも前に出して積極的にプレスをかけると中盤は3対2で清水の数的不利。しかしヘナト、ホナウドの守備範囲が広く、寄せも速いため徳島の中盤を自由にさせていない。

 徳島の中盤、またはWBも清水のプレスが来れば無理に前には出さない。キープから後ろに戻してさらに清水のプレスを引きつける。そしてスペースのできた清水の2列目の裏、またはSB裏にボールを入れていた。

 前半10分。GK含めてかなり低い位置で左右に動かし、安部が岸本の背後にボールを入れる。ボールはタッチを割ったが柿谷と森海渡が同時にナイスボールのジェスチャー。引き付けて背後のスペースがチームの共通理解だとわかる。

 スペースにボールを入れたらライン間を柿谷、またはIHの1枚がドリブルで運んで、森海渡へのスルーパス、または中央に寄せて上がってくるWBに展開する。

 清水非保持は前線から押し込めるようなプレスと越えられたらCBの追撃で対応。

 徳島保持はプレスを引き付けて2列目の裏。そこからドリブルでディフェンスラインにギャップを作り、上がってきた選手が狙っていく。

 両者の攻防はそんな構図になっていたと思う。

徳島非保持、清水保持の局面

 徳島の非保持は5-3-2。または自陣に構える時は柿谷が中盤の前に下がって5-3-1-1(5◇1)のような形。

 徳島の2トップに対して、清水は2CB+1枚(ボランチを脇に降ろすか、SBを残すか)。2トップ裏に1枚。3センターの脇にSH、もしくはSBが顔を出して、両サイドに1枚ずつ置く形。

 SHとSBはお互いの位置を見て中外を使い分け。神谷は低い位置まで降りてきてボールを引き受ける動きを頻繁に見せていた。

 ただしこの配置はそこまで厳密でなく、ボールを受けるため複数が中に寄ってきたり、ヘナトとホナウドが2トップ裏に並んだりと、各選手の判断の度合いが大きいようだ。

 徳島のファーストデェフェンスはCBにはそれほど強くいかない。前は軽い限定にとどめて、1列目を越えようかという位置でプレスが発動する。

 2トップ脇への侵入にFWが寄せ、SBへボールが出たらWBが早めに前に出てきて縦を塞ぐ。同時に中盤がボールサイドにスライドしてスペースを消す。WBが縦スライドした時は、DFラインがボールサイドにスライドして4バックを形成していた。

 徳島は清水が2列目を越えようと差し込むボールを奪い所にしているようだ。  

 清水は2トップ脇から前をうかがうが、3センター+柿谷で対応されるため、2列目を越えるのにかなり苦労している。

 パスコースを作れないため前線(FW、SH)がライン間で後ろ向きで受け手になろうとする。そしてビルドアップ隊も内側に寄ってくる。プレスの網にかかりやすいし、ボールが通っても裏を狙う選手が少ない。

 清水は相手陣内にボールを前進させるとボランチの1枚が前に上がってくるのも特徴の1つ。清水はボール周辺に人を集めて崩そうとするが、徳島も中央3枚(+柿谷)と後ろ5枚で対応できている。

 清水が前半作ったチャンスはサイドのプレスを神谷が外して切り込むなど、サイドを個人で剥がせた場合に限られている。

徳島ポジトラ、清水ネガトラ

 清水は徳島の2列目ラインを上手く越えられないため、トランジションもここで発生しやすい。

 徳島のIHや柿谷はキープの技術が高く清水のファーストプレスを受けても簡単に奪われないため、2列目の辺りでポジトラが発生すれば高い確率で相手陣内までボールを運べている。徳島は清水のボランチのプレスを外してその背後(2列目と3列目の間)のスペースをドリブルで運ぶ。同時にWBがサイドを上がっていく形を作っていた。

徳島ネガトラ、清水ポジトラ

 徳島のネガトラ発生時には基本3センター、3バックが中央にいる。そのため清水のポジトラ局面でダイレクトに中央を運ぶ場面は少ない。そこでサイドを経由するが徳島の撤退は速く、そのまま非保持でのブロック形成に移行。清水ネガトラ局面からは決定的なカウンターでのチャンスは生まれていない。

後半について

 清水はオセフン、北川、ヘナトから、サンタナ、乾、宮本の3枚交代。

 後半は保持時にボランチが降りずに後ろはCB2枚でスタート。宮本が相手2トップの背後、ホナウドが少し上がりめの配置をとっている。ボランチが降りなくなったため、2列目ブレイクに関わる人数が1枚増えた。

 徳島の方は後半、後ろからダイレクトに前に出す回数が増えた。リードしたため少しリスクを避けたのだろうか。

 後半の清水は相手守備ブロックにボールを差し込んだり、裏を取ってチャンスを作れるようになっていった。その中でも監督が強調していたポケットに侵入して作ったチャンスに注目する。

51:25

 直前の配置が下の図。これが後半保持の典型的な配置。ここから降りてきた神谷、ワイドの吉田、そしてサンタナとボールが渡る。

 この時、サンタナには森、吉田には西野が対応。サンタナはプレスを受けながらも身体で森を抑えながらターン。サンタナが前を向いたので西野はサンタナに対応しようと反応する。これで吉田のマークが一瞬外れ、裏を取りポケットまで侵入してクロスを上げた。

54:15

 右サイドに流れたディサロからハーフスペースの乾にパス。乾には左HV安部が対応したが、乾はターンで安部を外してゴール方向にドリブル。安部が動いたスペースにホナウドが侵入してポケットからクロスを上げた。

60:12

 左サイドの高い位置に入った乾からノールックワンタッチで吉田にパス。これで西野の対応が遅れて吉田がポケット侵入。

 

 以上、ポケットに侵入して作ったチャンスにはほぼ交代出場の乾、サンタナが関わっているのがわかる。67分の神谷の決定機も、右に流れたサンタナに安部が対応して背後に生まれたスペースに神谷が飛び出したものだ。

 前半との違いは、ボランチを1枚上げたことで中盤に関わる人数が増えたことが1つ。そしてブロック内で相手のプレスを受けることでスペースを作り、独力で相手を剥がして前を向きそのスペースにボールを送れる選手の存在と言えそうだ。

 

 

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第12節 ジュビロ磐田vs徳島ヴォルティス】

主に徳島の攻守の振る舞いに注目する。

メンバーとフォーメーション

 徳島の基本システムは3-5-2。非保持では5-3-2になる。徳島は前節から3バックシステムを採用。それまでは433や中盤ダイヤの442を採用していた。

 磐田の基本システムは442。もしくは山田がトップ下の4231。

保持局面

 徳島の保持は3バック+アンカー(白井)でビルドアップスタート。

 対する磐田の非保持は442。ファーストディフェンスは2トップの1枚がアンカーを抑えて、もう1枚がプレスに出てくる。左右のCBへはSHが出てくることが多かった。

 磐田のプレスに対して徳島は左右のCBから内側のIHとワイドのWBへのルートを作っている。しかし主なルートはワイドで空いているWBへ。徳島の起点の多くはWBとなっていた。

 徳島のWBに磐田はSBを当ててくる。しかし距離があるため徳島のWBは時間と空間を得られていた。この時間と空間を使いWBは前を向く。そこからWBが1対1を仕掛けることもあるが、起点になってスペースへボールを送ることの方が多かった。例えばSBの裏にIHやFWが流れてそこに出す。


 または内側に入ってくるIHや柿谷を使っていく。

 磐田のSBのプレスが速くWBが前を向けない時は、SB裏にFWを走らせる。または中央の森海渡に直接当てていた。磐田のSBが前に出てくると前線は1対1の関係になっている。

 狙いとしては、両ワイドのWBを起点とすることで相手の守備を広げる。そしてSBの裏やミドルゾーンに広がったスペースを使っていくことではないだろうか。

 徳島の中盤3枚には磐田がマンツー気味に噛み合っているため、中央からの崩しはあまりなかった。中盤の選手はキープやターンが上手く、プレスを交わして前を向けることもあるが、奪われてネガトラ移行されることも何度かあった。

 ただ徳島2点目は低い位置で動かし磐田を前に引き出して、降りてきた杉本が受けたところからスタート。そこから疑似カウンター気味に中央のスペースに走り込んだ玄、左のワイドに開いていった柿谷とボールが渡り、技巧的なカットインからゴール。中央スペースを中盤の選手が使って決めたゴールだった。

 この形も一つの狙いではあるだろうが、この試合では崩しの局面はサイドからハーフスペースの辺りから行うことが多かった。

 WB、IH、柿谷などが絡んで、ハーフスペースの裏を取ったり、カットインしてきたり。また左WBのルイズミケサダはクロスの質が高く、左ハーフスペースに寄せて、空いたサイドからケサダのクロスも何度も見せた崩しの形だ。

非保持局面

 磐田の保持は2CBとアンカー上原のような形でスタート。SBははじめはそこまで高く上がらずCBからのボールを受けられる位置。ボランチの遠藤はボールを引き出すように割と自由に移動している。

 対する徳島の非保持は5-3-2、もしくは柿谷が中盤をフォローするように下がって5-3-1-1。CBにはそこまで強く行かずにまず中央をふさぐ。ボールがSBに入ったら早い段階でWBが出ていきプレスをかけていた。

 これでサイドの前を塞ぐと、中盤3枚がボールサイドに強くスライドしてきて出しどころを消す。この時、柿谷は中盤のラインの前辺りまで引いて、空いたスペースを埋めるようなポジションを取っていた。

 

 ↓ プレッシングをかけていく時。

↓ セットした時

 WBが前に行けない時は、5-3-1-1のような並びでセットして、SBへはIHがスライドしていく。

 磐田はサイドから間に顔を出すボランチやSHに入れようとしていたが、徳島はその内側に入れたボールを奪い所に設定しているようだった。

 最終ラインの挙動を見ると、藤川や山田が引いて受けると追撃傾向はあるが、それで出来たスペースへのスライドはあまり行わない。CBはゴール前からあまり動かしたくないようで、動いてできたスペースは基本中盤がカバーする約束事のように見えた。

 そのため、左右に振られて中盤のスライドが間に合わないと、CBとWBの間が空き気味の時がある。リアルタイムで見ていて、特に後半DFラインのギャップを簡単に使われているなと感じたが、おそらくここが原因なのではないだろうか。中盤のスライドが間に合わない場合、CBが晒され気味なのは少し気になった。

ポジトラ局面

 徳島は下図の青丸のような奪い方を狙っていたように見えたが、その時に森海渡は中央の前に、柿谷は3センターの前にいるのですかさず前に出ていける。

 磐田が前進を狙う時にボールより前に人を送りこむ傾向もあったためか、同サイドで囲んで奪う、そして中央またはSB裏を使ってカウンターの形は再現性があるように見えた。

 徳島の3点目は、サイドバックにプレスをかけると同時に渡がセンターバックを、杉本が上原へのコースを消している。これで完全にパスコースがなくなり、松原はパスミス。それを柿谷が拾ってゴールを決めた。同サイドで窒息させるプレスと真ん中で浮いているFW。再三見せていた形からのゴールだった。

ネガトラ局面

 基本はWBを起点にしていたのと、後ろと中盤に3枚‐3枚をそろえているので、ネガトラで致命的な穴は感じられなかった。

 後半の入りで、後ろから簡単に縦に入れて奪われ、ひっくり返されるようにカウンターを食らった場面があった。

 全体的にフィジカルが強い選手が多くないようなので、奪われところをサイドにするか、すぐに囲めるよう陣形を整えながら押し上げるように前進を図った方がいいような気がする。

CK

2失点はいずれもCKからだった。

CK守備はニアゾーンに1枚(柿谷)、中央のゾーンに1枚(森)。後はマンツー。

1失点目は外山がマークを外している。2失点目は桜井が松本昌也を見ていたようだが、捕まえきれずほぼフリーでシュートを打たれた。詳しくはわからないがバイタル辺りにいる相手へのマークが少し甘いような気がする。

 

 

 

 

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第8節 清水エスパルスvs東京ヴェルディ】

 ようやく今シーズン初勝利を挙げることができました。そしてこの試合が秋葉監督の初陣となったわけですが、見えた特徴と試合の感想を前半中心にまとめてみます。

 まずは両チームのメンバーと基本フォーメーションです。

 清水エスパルスは4-4-2(もしくは4-4-1-1)。東京ヴェルディは攻撃の時は4-3-3、守備の時は4-4-2のような並びです。

清水の攻撃の形

 自由さと強度が強調される秋葉監督のサッカーですが、攻撃時に一定のパターンは見て取れました。

 まず清水はボールを持つと、おおむね下の図のような配置を取っています。

 サイドハーフは絞って1人はストライカーの位置。もう1人はトップ下の乾と共に相手ボランチ脇にポジション。この配置自体はゼリカルド監督がやっていたのとほぼ同じですね。
 ただしボールの動かし方は秋葉流で、あまり後ろで左右に振らずに前が見えたらズバっと縦に入れていきます。

 縦パスは近くに相手がいてもパスを当てていて、受けた選手はターンやドリブルなど個人技で剥がしたり、レイオフ(前向きの味方にパスを落とす)して前を向く。その時、同時に真ん中2~3人とワイドがスペースに向かって上がっていきます。

 狭い場所でのプレーを苦にしない乾が受け手の中心になっていて、プレスにくる相手を無理にでもテクニックで外して、前に飛び出す味方にボールを配球していました。

 また中に出しどころがなければ、躊躇なくサンタナやサイド深くに長いボールを出していきます。

 前に出したら後は自由に崩してくれみたいな感じですが、おそらくボールを持った時のおおまかな基準は整理していたように見えました。

開始直後の失点を検証する

 ズバッとボールを差し込むプレーは前への推進力に繋がりますが、反面リスキーなプレーでもありました。相手の守備をあまり動かさないため、差し込むパスをカットされてカウンターも浴びています。

 下は開始早々5分。コーナーキック前の阪野のシュートに繋がる場面。

 鈴木からボールを受けた中山がプレスを受けロスト。転がったボールを梶川が拾い、齋藤にパスを通します。

 試合を通して東京Vは清水のサイドバックの裏を再三狙っていて、この時も自然な動きで阪野はすうっと北爪の裏に移動。齋藤がターンした時点で阪野は完全にフリーで、パスを受けて少し中に持ち込みシュートです。このシュートは権田が弾きましたが、コーナーキックのこぼれ球から失点を喫しました。

 この直前にも、ホナウドからカルリーニョスへのパスを同じように奪われていて、縦に入れるパスは何回もリスキーな失い方をしています。ここの失点は偶然ではなく、この試合の構図を象徴するような失点だったと思います。

清水の1点目を振り返る

 次に清水の同点弾、47分のゴールを見てみましょう。

 

 まずカルリーニョスが中央から、ライン間の乾に縦パス。同時に中央の中山、サンタナ、そしてサイドの北爪が前向きにアクションを起こしています。ここは先に書いた通りの動き。

 乾は中山にスルーパスセンターバックの裏を取られたので東京Vは左サイトバックの深澤が絞ってすかさずカバー。しかしこれで右サイドバックの北爪が完全にフリー。北爪は走りこんでゴールにズドンです。

 右サイドの中山は基本、中に絞るので東京Vのサイドバックもそれに応じて内側よりのポジションになります。また東京Vはゴール前のスペースを消す意識が強いようで、センターバックが動くと誰かが必ずそのカバーに入ります。

 そうしたお互いの動きから、このゴールのような形は起こりやすくなっています。例えば17:40の北爪のクロスも動きの理屈としては同じだったと思います。

清水の守備の形

 清水の守備も見てみます。東京Vは林がアンカーに入る4-3-3で保持。清水は始めは2トップの背中でアンカーを消して、センタバックにボールが出たらフォワードがプレスにGo!。

 その時、アンカーへは白崎が出て、逆サイドのサイドハーフが中に絞ってくる。後は対面の選手を掴んでいく。そんな感じの守備でした。

 東京Vはカウンターの時と同じく、サイドの裏を阪野やインサイドハーフの選手が狙っていましたが、できれば後ろから繋いでいきたいよう。

 後ろから中盤にボールを付けようとしてますが、あまり相手を動かすような組織的な動きは見えません(この試合を見る限りはですよ)。

 基本はインサイドハーフのターンなどで相手を外していきたそう(上手いんですけど)でしたが、清水のプレスを食らって後ろからの保持は上手くいっていません。

 そこでサイドに流れる前線に長いボールを入れて、こぼれたところにプレスをかけるようなプレーが多く見られます。しかし清水のセンターバックボランチホナウドも対人は強いのでピンチになる場面は少なかったように思います。

ざっくり後半と雑感

 後半から東京Vはサイドの選手を交代。

 前半途中で梶川が負傷交代したところの修正か、サイドをてこ入れしようとしたのか、ちょっとわかりませんが。

 後半になると前半よりも清水の保持が安定して、それにともないショートカウンターを食らう機会も減ってきます。ここもなぜかはよくわかりません(笑)

 ちょっと清水は守備を変えたようで、アンカーを白崎でなく、乾が見ることが多くなったようでした。おそらくボランチが前に出た時にできる真ん中のスペースが気になったのだと思います。

 こんな感じで清水が押しても点が入らないまま時間が進み、清水は61分にカルリーニョス→北川の交代。そして67分、78分と5枚のカードをすべて使っていきます。これらは全て同ポジションの交代で、少なくともこの試合に限っては戦術的に複雑なことはしていません。

 シンプルに選手の特徴を生かして、決勝点もコーナーからオセフンの高さでゴールを奪います。

 とにかく強度と勢いのようなふりをしながら、強度をどう出すか最低限の基準は整理しているように見えました。

 リカルド前監督の配置をそのまま利用しているように、使えるところは使って選手がやりやすくなるような工夫も感じられました。

 ただこの日の東京Vがそれほどこちらを困らせるようなことをせず、お互い正面衝突のような形だったのも上手くいった要因かなとも思います。

 まずは勝利を喜びますが、この後もすべて強度で解決できるほど、くせ者の多いJ2は甘くありません。そういった対戦相手に新チームがどう応じるか楽しみに追っていきたいと思います。