マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第33節 清水エスパルスvs徳島ヴォルティス】

 前々節、町田との天王山を劇的な勝利を飾った清水。続く秋田戦は痛恨のドローでしたが、この徳島戦で勝点3を得れば自動昇格圏内に浮上です。

 かたや一時は降格圏に沈み、苦しい戦いが続く徳島。前々節の山口戦後にラバイン監督との契約解除を決断し、吉田達磨監督が就任しました。そして前節の金沢戦は1-0で勝利。この勢いのまま勝利を重ね降格の足音を消し去りたいところでしょう。

 お互い立ち位置は違いますが、この一戦が重要な試合となることは間違いありません。今回も事象に沿って観察してみたいと思います。

メンバーとフォーメーション

 フォーメーションは両チームとも4-2-3-1。

前半

徳島のボール保持と清水のプレス

 開始直後、清水が勢いよく前に出てチャンスを作りますが、徐々に徳島が保持からペースを握り始めます。

 徳島は2CBと白井(ときおり永木)の3枚でビルドアップスタート。対する清水はこの3枚を2トップで見る形です。しかし清水の2トップがここを上手く監視できません。清水の前線は前からはめ込む意思は見せますが、徳島の引き付ける動きとフリーになるポジショニングで容易に前進を許してしまいます。

 徳島がフリーで前進するとそこを起点に今度は中盤ラインの前で数的優位に。この数的優位を使ってまたボールを前進させます。

 例えば持ち運ぶ森昴大に白崎が出れば柿谷が空き、中山が出ていけばケサダが空きます。
 徳島はこうして順に清水の守備をずらして前進。そこから一度ワイドに振って、右は浜下のカットイン、左はケサダのクロスや内側に入った西谷が絡みゴールを狙います。

 しかし清水陣内では清水DF陣の強さもあって決定機までは至りません。徳島がボール保持で支配するも最後は決め手を欠く。前半しばらくはそんな流れになっていました。

清水の保持と徳島の非保持

 前半の開始から徳島が保持で主導権を握りましたが、清水も保持する時間は作っています(前半30分までの保持率は約46%)。

 清水の保持は2CBとボランチ、さらにトップ下の神谷がボランチの高さに降りて5枚でビルドアップスタート。

 対する徳島は2トップがプレスを抑えて真ん中を埋めつつ、ミドルゾーンに4-4-2のブロックを形成。徳島の中央を消しながらのコンパクトな4-4-2のブロックの前に清水はボールを差し込むスペースを見つけられません。

 するといつものパターンで清水の選手はボールを欲しがり段々と低い位置に降りてきます。

 相手の1列目のラインより低い位置に4、5人いる状態が常になり、後ろでボールを動かせても相手の守備ラインは越えられません。

 中盤が後ろに下がるので前後が分断。無理やり縦パスを通しても相手の守備に対応されます。この状態が飲水タイム前まで続きます。

前半飲水タイムからの修正

 清水非保持の問題は、2トップで相手のビルドアップ3枚を監視できないことが始まりです。

 飲水タイム後の清水は前線のプレスに右SHの中山を参加させ、CBが空いたら中山を前に出し嚙み合わせる形に変えてきました。また2トップの裏で徳島のボランチがフリーになった時は、清水もボランチを素早く出して塞いでいます。

 これで徳島のビルドアップに制限がかかります。徳島はSBの位置を下げたりプレスの変化に対応しているようでしたが、詰まった時は無理せず前に長めのボールを出しています。

 清水が前に出ていくので後ろは同数になりがちですがロングボールの競り合いは清水が優位。清水はボールを回収すると徳島が守備をセットする前に素早く相手ゴールへ向かいます。これで少しオープンな状況になって清水も徳島陣内に攻め込む時間を作ります。清水が展開を五分五分に戻したところで前半が終了しました。

後半の流れ

後半の入り

(後半開始後すぐにカルリーニョスが負傷によりコロリと交代)

 清水は前半飲水タイム後の流れを受けて、より前への圧力を強めてきたように見えました。

 例えば徳島保持の48分。ビルドアップのサポートに永木が少し降りるとすかさずホナウドがプレス。そして中盤に降りてきた柿谷には鈴木義宜が高い位置まで出てきて追撃。徳島のビルドアップを詰まらせています。

 徳島も右SBの石尾を前に出して長いボールのターゲットにしたり、保持から前進の姿勢も見せますがゴール前までは迫り切れず。

 清水はセカンドボールの回収から速攻、またコロリと山原を中心に左サイドを崩すプレーで攻め入る場面を作ります。

 特に55分は清水最大のチャンスでした。コロリのSB-CB間へのランでCB内田を動かすと、内田が動いたスペースを山原が突いてゴール前まで侵入します。決定機と思われましたが山原の折り返しをGKスアレスがキャッチ。ここは清水が完全に崩したように見えますが、徳島も的確なカバーリングでゴール前にはしっかり人を確保していました。

 この時間帯は清水が攻勢を強めましたが、徳島も守備組織を崩しません。前半の飲水タイム後から均衡状態が続きます。

徳島の選手交代とシステム変更

 流れを変えたのは61分の徳島選手交代から。浜下、柿谷代えて西野、杉本がピッチに入ります。同時にシステムを3-4-2-1に変更。このシステム変更によって清水のプレス基準があいまいになって、再び徳島が保持できるようになっていきます。

 徳島が保持時間を伸ばすとオープンな状況が消えて清水はボールを持っても前進できなくなります。相手のワントップに対してボランチや神谷も降りてきてしまうので、後ろ荷重とそれによる前線不足が顕著に。

 61分、ホナウドの不用意なターンをカットされ背後を突かれたように、無理やりに前を狙ってカウンターを受ける場面が散見し始めます。

 そこで清水も64分に選手交代。山原と中山に代えて吉田と北爪。システムを3-4-2-1にしてミラーゲームの形にしました。

 システムを嚙み合わせて前からはめ込みたい清水ですが、逆にこの交代で流れはさらに徳島へと傾きます。

 清水保持では、3バックに加えてそれまでと変わらず中盤が降りてくるので前線はさらに薄くなります。65分清水のビルドアップでは、ボールサイドではめ込まれ左サイドの吉田が前に出したボールを簡単にカットされました。 

 また清水非保持の局面では、前線3枚がCBにいくもボランチが相手のシャドーを気にするため1列目と2列目の間が乖離。そのスペースを移動する徳島の中盤に清水のボランチが動かされてたびたび中央にスペースを作ってしまいます

 流れを掴んだ徳島は75分飲水タイム後に再び選手交代。森海渡とケサダに代えて、トップにフィジカルで対抗できる渡、シャドーにライン間からゴールへ向える棚橋を投入します。
 清水もサンタナに代えて北川航也、神谷に代えて宮本。ここはフレッシュな選手に代えて攻守の強度を上げつつ、ワンチャンスを狙います。

 おそらく秋葉監督も非保持での前線と中盤の乖離は気になったはず。交代後には前線の裏のスペースに早めにボランチが出てくるようになっています。
 しかし清水のボランチが前に出ることでシャドーの棚橋がたびたびフリーになります。さらに右CB石尾のサイドに開く動きや、白井の降りてくる動きで前線のプレスもぼやけ気味に。棚橋への縦パスが入りやすくなり、間から運ばれ決定的なシュート放たれます。
 徳島の決定機をなんとか防いだ清水も右サイドの北爪から強引に仕掛けますが、ボールを運ばれると徳島は5-4-1でセット。ゴール前を塞いで清水の猛攻をしのぎます。 結局、お互いに最後はしのいでそのままスコアレスでタイムアップ。
 多少組織を崩してもオープンにして個の力の差を生かしたい清水。粘り強く組織を維持して対応した徳島。スコアは動きませんでしたが、お互いの攻防は見応えのある試合だったと思います。