試合結果
【得点】
浦和 0-1 清水
【得点者】
90+3’ 中村(清水)
両チームのメンバーとフォーメーション
(浦和)
フォーメーション:1-4-2-3-1(1-4-3-3?)
選手交代:46’小泉(田中)、71’汰木(大久保)、78’西(山中)、86’興梠(平野)
(清水)
フォーメーション:1-4-4-2
選手交代:18’ヴァウド(井林)、46’中山(後藤)、78’中村(西澤)、90+3’ディサロ(サンタナ)、90+3’山原(鈴木唯)
試合の概要
第36節終了時点で16位の清水。降格ラインの17位徳島との勝点差は3。最低でも引き分け、敗戦は絶対に避けたい状況である。
この試合で平岡監督就任から3試合目となる。前の2試合はかなり積極的なプレスをかけていく守備を見せていた清水。しかしこの浦和戦ではプレスを抑え構えて守る時間が多かった。
前後半通して浦和がボールを保持し、清水が粘り強い守備からカウンターを狙う構図が続く。浦和はポジションチェンジを交えて清水の守備を揺さぶるが、清水も落ち着いた対応で決定的な場面は作らせない。
後半に入ってもじりじりした展開が試合終盤まで続く。しかしお互い勝点1を分け合うかと思われた試合終了直前、途中出場で入った2人が試合を動かす。山原が仕掛けて出したパスを中村慶太が受け右足を一閃。埼スタの時間が一瞬止まり、ボールは美しい軌道を描きゴールに吸い込まれていった。試合終了ぎりぎりで勝ち越した清水。そのままわずかな残り時間も守りきり1-0で勝利。
徳島も勝利したため残留決定はおあずけとなったが、最終戦に向けての有利な条件を自らの手で引き寄せた。
清水の非保持(浦和の保持)
基本的な両者の振る舞い
序盤の浦和はCH平野がCB間に降りて後ろ3枚でビルドアップスタートしていた。また江坂と関根も中盤に下がってボールを受ける。システム表記すると下図のような3‐5‐2の配置になっていた。
浦和はレーンに均等に人を配置し、相手の守備を揺さぶりながらスペースを作りボールを前進させていく。
対する清水の守備組織は4-4-2。前線からのプレスは抑え、2トップはCBからの縦パスを塞ぐように中央レーンを埋めて左右に大きく動かない。
SHは少し内側に絞った立ち位置を取りつつ相手のSBを気にしている。ただしバックパスに対しては全体で押し上げるようにプレスに出て行く。清水の守備は、できれば前に出てプレスしたいがまずはスペースを空けないことを優先しているようだ。
2トップ脇を起点に攻める浦和
清水の2トップに対して浦和は3バックでのビルドアップ。そして清水のSHは浦和のSBを気にしてプレスに出てこない。なので浦和の左右のCBは比較的ボールを持てている。
また浦和のSBが高い位置を取ると清水のSHが下がり気味になる。そのため清水の2トップ脇ではフリーの選手ができやすい状態になっていた。
清水の守備の基準では2トップ脇はCHの松岡、竹内が前に出ていく役割のようだ。開始しばらくは浦和の前進を抑えていたが、後ろで左右にボールを動かされるとスライドを強いられCHが前に出て行けない。そのため徐々に2トップの脇で伊藤がフリーになる場面を作られ始める。
また左のCBショルツはボールの持ち運びが非常に上手い。運ぶことで西澤を動かし、逆を獲るようにハーフスペースや大外にボールを振っている。
清水の守備は内側を締める意識やボールへ寄せる意識が強い。そのため2トップ脇にボールが入ると、大外のSBがフリーになりやすくなる。そしてフリーのSBが2列目ラインを越えるとハーフレーンに絞ったWGはチャンネルを抜けて裏を狙う。これでDFライン下げて開いたライン間に横パスを入れてゴールに迫っていく。
しかし清水もプレスバックが早く浦和は決定的な場面を作るまでは崩しきれない。浦和は江坂や関根が中盤に下がってビルドアップするので、フィニッシュの局面でゴール前がやや薄く少し迫力不足になっていたようにも感じる。
このような流れが続く前半途中までだった。しかし飲水タイムを契機にお互いの振る舞いが変化し、試合の流れもまた変化する。
飲水タイム後の変化
前半飲水タイム後、浦和は平野を後ろに降ろさず2CB+右SB酒井でビルドアップスタートするようになった。清水が前からこないので平野を1列前に上げて配球させたかったのかもしれない。
一方、清水は飲水タイム後、明らかに積極的なプレスをかけ始めた。これはプレスに行こうと決めていたのか、相手の配置の変化を見てか。どちらかはわからない。いずれにせよ酒井に対して左SHの後藤を前に出せば、そのまま相手の保持の形に噛み合うため清水はプレスをかけやすくなっていた。後藤が酒井にいくのをスイッチに全体が連動してプレスする。飲水タイムが明けてしばらくは清水が浦和の前進を阻害してショートカウンターの形を何度も見せるようになる。
保持する浦和とそれを阻害する清水の駆け引き
飲水タイム後しばらく高いエリアからプレスをかけることで清水がペースを握り返した。対する浦和は長いボールでプレスを回避しつつ、また配置を変化させる。
清水が前からきたので再び平野を降ろして後ろ3枚に。そしてSBを内側に絞らせてWGを大外に張らせるようになった。
平野がDFラインに下がり後ろでのボール保持に余裕が出た。またSBのポジションが変化し清水の守備基準がずれる。そのためか浦和がプレスをかわしてボールを持てるようになってきた。
プレスがかからないのでスペースを消すため清水は再びセットして守るようになっていく。
浦和はWGの突破とサイドチェンジを多用して清水の守備のコンパクトさを崩そうとしているようだった。左右にスライドさせることでレーンが広がりスペースを使える場面が何度か見られる。
このように浦和は清水の守備を見ながら揺さぶるように変化を見せる。清水もそれに合わせてプレスをかけたりスペースを消したりしている。この駆け引きは後半も続いていく。試合を通して浦和がボールを保持する時間が多かったが、清水も粘り強く対応できていたと思う。
清水の保持について
SBをフリーにする仕組みとその後の攻撃
清水が保持した時は使えそうなスペースを速めに狙うのが基本的な志向のようだ。
浦和の守備組織は1-4-4-2。ファーストディフェンスはCBに積極的にプレスするよりCHを消す意識が強いように感じる。1列目でサイドを限定して2列目ラインをうかがわれた時に強く寄せて奪おうとする守備のようだ。
その浦和の守備に対して清水はSBをフリーにして起点にする仕組みを作っている。清水はCBがやや広がり後ろではボール保持の意思を見せる。そしてCH松岡は相手2トップの間、竹内は関根と田中の間、つまり相手2トップの右脇にポジションを取っていた。
清水のCHが相手2人を意識させるポジションを取った状態でCBが持ち運ぶと浦和の右サイドがずれて片山がフリーになる。
またここから右にサイドチェンジすると右SBの原がフリーでボールを持てる。
SBが持つとSHが相手のSB裏に走り、そこにダイレクトにボールを入れる、もしくは中のコースが空けば前に張るサンタナへの斜めのパス。清水はSBを起点にするこの形までは作れていた。
問題はその先だ。こちらが速めにスペースを狙えば相手も速めにスペースを閉じる。それを崩すにはこちらがより速くプレーする、もしくはボール周辺に人が寄せて数的優位での選択を増やすかだ。
速くプレーするのは限界があるので、ボール周辺に人を集めたい。しかし人を動かしすぎると攻守のバランスが崩れる。失点は絶対避けたい清水は守備でリスクを犯したくないはずだ。そこで鈴木唯人をピッチ各所に動かしてボール循環の中継地点にさせる。他の選手はバランスを崩さない。 やや強引な攻めにも見えた清水だが平岡監督の意図はこのようなところだと推測する。
チャンスはポジティブトランジションから
上に書いたように唯人が広範囲に動いてボールを受けていた。しかし全体としてスペースメイクの仕組みが少ないため保持からボールをアタッキングエリアまで運べることは少なかった。
とは言え清水がボールを運べている場面もある。清水がチャンスを作るのはほとんどがポジトラからだ。ポジトラが起きた瞬間は相手の守備組織にスペースが生まれている。そのスペースを唯人が運んでいくことでゴール前までボールを運ぶことができていた。
ボールを奪った瞬間に唯人を見るのは意識つけられているよう。そして唯人もボールを受けたら躊躇なくゴールに向かい運んでいく。
出来ることが限られている中で割り切って他の局面をやり過ごし、ポジトラ時に唯人の強みを使って勝負することが一番利益と損失のバランスがよいと判断したのだと思う。
後半と得点場面について
選手交代について
後半の頭から両チーム選手交代を行う。清水は後藤→中山。右SH西澤が左に回り、中山が右SHに入った。清水の前半の主な前進ルートはSBから裏狙いのSHへ出すボール。しかし浦和が裏にスペースを空けず後藤の飛び出しが生きなかったので打開力のある中山に代えたのではないか。 中山がボールを持って、SBの原が内外とスペースに飛び出すことで少し右サイドが活性化した。
浦和は田中に代えて小泉。小泉がトップ下(右シャドーと言った方がいいか)に入り、関根が右WGに回る。 浦和は小泉がトップ下に入り役割が整理されたように感じる。江坂が0トップ気味に動くのは変わらないが小泉が真ん中で受けて前にボールを出せるので、江坂が前線にいる場面が増えている。 また伊藤敦樹がアタッキングエリアまで上がるようになり清水はこれを捕まえづらそうだった。 後半も浦和が保持し、清水が粘り強く守る構図が続いていく。
清水の勝ち越し場面について
清水は78分に西澤に代わり中村慶太。そしてアディショナルタイムにサンタナ、鈴木唯人に変わりディサロと山原が入った。
権田のゴールキックから攻撃が始まる。その時の各選手の位置関係は下の図の通り。
浦和の中盤には小泉1人。もう1枚のCH伊藤はDFラインのカバーに入っている。残り時間わずかであったため、清水が直接ゴール前に入れてくると考えDFラインの守備を厚くしたのかもしれない(これ以前のゴールキックでは普通に中盤2枚になっていた)。
さらに前4枚が少し前寄り。結果的に縦に間延びして中盤にスペースが広がっている。 そのスペースにディサロが降りて受けるとほぼフリー。ディサロが中山に渡して前に走ると伊藤はそのままついていきDFラインを埋める。これでDFラインの前がまたフリースペースになり中山、中村慶太、山原とボールが繋がった。
山原が左サイドで仕掛けそれに小泉が対応。これで中村のマークが外れて中村がシュートを決めた。
このゴールに絡んだのは全員交代で入った選手。失点は絶対に回避しつつワンチャンスを狙った平岡采配が見事に決まった試合だった。