2020年東京オリンピック 男子サッカー決勝 スペインvsブラジル レビュー ”どの局面で強みを発揮するのか”

試合結果

【得点】

ブラジル 2-1 スペイン

【得点者】

45+2’ クーニャ(ブラジル)

61’ オヤサバル(スペイン)

108’ マルコム(ブラジル)

両チームのメンバーとフォーメーション

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(ブラジル)

フォーメーション:1-4-4-2

交代選手:112’ メニーノ(アントニー)、106’ ヘイニエル(クラウジーニョ)、91’ マルコム(クーニャ)、114’ パウリーニョ(リシャルリソン)

(スペイン)

フォーメーション:1-4-3-3

交代選手:46’ソレール(メリノ)、46’ブライアン・ヒル(アセンシオ)、91’バジェホ(オスカル・ヒル)、91’ミランダ(ククレジャ)、112’モンカヨラ(スビメンディ)、104’ラファ・ミル(オヤルサバル)

試合の概要

 東京五輪男子サッカー決勝はブラジルとスペイン。甲乙つけ難い実力者同士の対戦となりました。

 開始後しばらくは一進一退の攻防でしたが、徐々にブラジルが中盤の切り替えで優位に立ちペースを握りはじめました。36分にはPK(これは枠を外して得点ならず)を得るなどブラジルが攻勢を強めます。そして前半のアディショナルタイムにクーニャのゴールでブラジルが先制。ブラジル1点リードで前半が終了しました。

 後半に入るとスペインは最前線からプレスの圧を強めます。相手に蹴らせてロングボールを回収。そこからスペインは保持の時間を延ばしていきます。

 61分、スペインが右サイドからファーへクロスを入れると走り込んだオヤサバルが左足でダイレクトボレー。これが決まりスペインが1-1の同点に追いつきました。

 ここから両者ともに勝ち越しを狙い前がかりな展開になりますが、90分では決着がつかず延長戦に突入します。

 延長後半までスコアは動かずでしたが、均衡が破れたのは108分。スペインが得たコーナーキックをブラジルが大きくクリア。これをブラジルが拾いカウンターからゴールを決め、ついにブラジルが勝ち越します。

 その後、スペインも反撃しましたがゴールを割ることができずタイムアップ。

 120分にわたる熱い戦いは、ブラジルが2-1でスペインを振り切り、リオ大会に続き2度目の金メダル獲得しました。

 それでは以下、お互いの好守の振る舞いをもう少し掘り下げます。

保持をしたいスペインとその特徴を消すブラジルの守備対応

 お互いの望む展開を想像すれば保持からスペースを作り前進したいスペインと、局面にこだわらず前線の打開力を生かしたいブラジルといったところでしょうか。

 ブラジルはどの局面になっても高レベルで対応可能なチーム。そこでまずはスペインのやりたいこと、つまり保持を阻害することから始まります。

 スペイン4-3-3での保持に対してブラジルの守備組織は4-4-2。

 中央の守備は、スぺインの中盤経由の前進を防ぐためアンカーとインサイドハーフへ入るボールを強く消しています。

 スペインのセンターバックが持ち運べばフォワードが寄せてサイドを限定。そしてアンカーをもう1枚のフォワードとボランチでマークを受け渡しながら消しています。

 ブラジルのサイドハーフはやや内側に絞ったポジション取り。ボランチと挟んでライン間へのパスコースを切っています。

 サイドの守備は、スペインのサイドバックにボールが出たらサイドハーフがスライド。サイドバックが上がればそのままついていきマンマーク気味の対応。特に右サイドハーフアントニーはディフェンスラインの高さまで下がっていたためブラジルの非保持は多くの時間で5-3-2の形になっていました。

 スペインからすればサイドはマンマークで消され、中はコースを切られています。さらに5バック気味のブラジルの守備はディフェンスラインにギャップができづらい。そのためスペインがライン間で受けてもディフェンスラインから躊躇なく前に出て追撃することができます。

 序盤はゴールに迫る場面も作っていたスペインですが、ブラジルが前から限定を強めていくと前進に苦労し始めます。

 スペースが無いためスペインはインサイドハーフのぺドリ、メリノが降りてきてブラジルの中盤を引きつけ動かそうとします。しかし逆にブラジルのサイドハーフボランチで挟み込む対応で強く寄せられ、そこでカットされる場面が増えていきます。

 このインサイドハーフへ入れるボールに対するブラジルの寄せはかなり激しく、ここで奪取しての素早いカウンターがブラジルの大きな狙いとなっていたようでした。

 前半の半ば以降はブラジルのボランチを中心とした守備の強度がスペインの保持を上回りブラジルがペースを握る要因になっていたように感じました。

相手を惑わす可変システム(ブラジルの保持局面)

 自分達が保持すれば相手の保持時間は減る。ということでブラジルも持てる時は後ろからしっかり保持をします。しかしスペインほどスペースメイクにこだわらず、前線の選手が良い状態で仕掛けることを意図しているように見えました。

 ブラジルの保持時は下のような配置。

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 左サイドのクラウジーニョは中に入って間で受けて保持に絡み、右のアントニー(左利き)はワイドに張って仕掛け役。

 左サイドバックのアラーナはサイドを上下動。右のダニアウベスはインサイドのレーンを上がっていきます。

 この配置から後ろで動かしてミドルゾーンまで進んだら個の打開力を生かしてダイレクトに前に出ていきます。

 右はサイドバックサイドハーフの関係に10番リシャルジソンが絡みます。サイドでキープしたらサイドの裏やハーフスペースを抜けてマイナスクロス。サイドのレーンを中心にした攻撃です。

 左は内側に入ってくるサイドハーフのクラウジーニョが浮いてポイントになります。

 スペインはペドリを前に出した4-4-2のような守備組織で、ブラジルの右サイドバックが上がると右のアセンシオはそれに連れてやや下がり気味になっています。

 アセンシオが下がるので脇でボールを受けるボランチギマランイス)にはインサイドハーフのメリノが対応。しかし保持するギマランイスのプレス耐性が高いため、前に出てくるメリノのプレスをかわすと裏のスペースでクラウジーニョやリヒャルリソンが浮いています。

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 スペインはこの右のハーフスペースで浮くクラウジーニョと大外のアラーナ、さらにハーフスペースを裏に抜けるリシャルリソンの動きをどう捕まえるかあいまいでサイドで数的不利を作られることが増えていきます。

 前半の失点も同様な右サイドの関係で数回守備を動かされてブラジルにフリーキックを与えます。ゴール前でのクリアが中途半端になり高く上がったボールをクーニャに拾われシュートを決められました。

後半以降の流れ(トランジションを巡る攻防)

  後半はスペインはより高い位置からプレスをかけています。2度ほどプレスを回避されてピンチを招きましたが、それでもさらに圧を強めた結果、ブラジルのセンターバックに不確実な長いボールを蹴り出させての回収に成功します。

 スペインがボールを持った時に起点になったのは左インサイドハーフのペドリ。スペインは左サイドバックのククレジャを高い位置に上げてブラジル守備を完全に5-3-2状態にすると、ペドリがククレジャがいた左サイドに降りてきてボールを受けています。

 そしてブラジルの中盤3枚を動かすように左から右へとサイドチェンジで揺さぶります。ブラジルのボランチを前に引き寄せ、さらに左右に大きく振るとブラジルの中盤のスライドはあいまいに。

 ブラジルは後ろで持ったら長いボールを蹴らされ、非保持では中盤が動かされたことでトランジションで強みになっていたボランチが上手くボールに関われなくなってきます。また、開いたライン間でボールを受けると割と早いタイミングで追撃傾向の強いブラジルのディフェンスラインの裏を狙っていきます。

 トランジションを避けられないならそれを受け入れて、起こる状態をこちらでコントロールしよう。スペインからはそんな意図もうかがわれます。これで後半のペースはややスペインへと傾きます。

 61分の同点ゴールは、左センターバックのエリックガルシアから。3枚になったブラジル中盤の左脇を抜くようにワイドの高めのブライアンヒルへ展開。そこにブラジルのサイドバックが出てくるとすかさずソレールがその裏に飛び出しファーのオヤサバルにクロス。これもおおむね後半のスペインの狙い通りのゴールです。

 同点後はお互いにより前がかりな早い展開に。オープンな攻撃になったことで最終ラインでの1対1も何度が発生しています。特にブラジルの左サイド、アラーナの突破とそれを抑えるオスカルヒルの1対1は勝負所になっていて、90分の終わりまでオスカルヒルの守備の頑張りがブラジルの速攻を食い止めていたと言えます。

まとめの感想

 延長戦もお互いにチャンスを作る差し合いのような展開になりましたが、最終的には個人での打開力で上回るブラジルが押し切りました。

 ここまでの試合を見てもどちらかというとスローな展開を望むスペインでしたが、ブラジルに対してダイレクトな展開でも負けずにガチンコを挑む姿に彼らの対応力を見せつけられました。

 やはりここまで登り詰めるチームは4局面すべてにおいて高いレベルにあると感じます。

 その中でも、勝負のあやとなったのはトランジション勝負と個人での打開力。実力差はほぼ互角であったと思います。その中で強引にでも自分の得意な局面に持ち込んだブラジルが最後のゴールをつかんだ形になったのではないかと思います。