ゾーンディフェンスの歴史のお話~読書メモです。

戦術の教科書 サッカー進化を読み解く思想史 著:ジョナサン・ウィルソン、田辺雅之
 
面白い本を読んでもすぐ内容を忘れてしまうので、メモしてみます。この本は副題に(サッカーの進化を読み解く思想史)とあるように戦術の思想史(というと難しそうですが、そんなに難しくないです。様々な戦術の過去からの繋がりとか関わりみたいなお話。)について書かかれています。
 
ゲーゲンプレスやゼロトップなど注目されるいくつかのトピックに分かれているので読みやすいと思います。興味があるところ拾って読んでも良いし、全て読めば現在注目される戦術が過去からお互い繋がりを持って発展しているのがわかります。これを全部メモると大変なのでとりあえず僕が興味を持ったゾーンディフェンスについて書かれたところを中心に拾い、その他ちょっとお勉強したことをつけ加えて書いてみます。
 
その前にサッカーの歴史に興味を持つきっかけになったかつーさんのブログをリンクしておきます。
 
 
要はその3の続きのようなお話になります。
 
1866年に3人制オフサイドのルールができたことによって前にパスすることが可能になり、スペースという概念、パスを使って攻撃するという方法ができました。そして徐々にシステムは整理されていき1870年後半に、複数のパスコースを作りながらスペースをカバーすることができるシステム、2-3-5が主流になってきます。ここまでがかつーさんのブログに書かれています。
 
当時の守備は基本的にマンツーマンで行われていて、2枚のバックの選手はそれぞれピッチを右と左に分けて担当。相手が来たら広いピッチをボールを持った相手を追い掛け回して奪うような守備をしていたそうです。2-3-5なので相手FWの5人を2人でマークする形ですね。これはかなり困難です。
 
ここで新しい守備のコンセプトを生み出したのがイングランドノーサンプトン・タウンの監督をしていたハーバード・チャップマン。
彼はDFの2人はボールを持った敵を追いかけ回すのではなく、低い位置に構えて自分が受け持つエリアに入って来た時だけ対処すればいいという守備方法を考えました。チャップマンがこれを考え出したのが1900年代初頭。約120年前にゾーンで守るという発想の始まりがあったのです。
 
しかしその頃、3人制オフサイドルールを逆手に取った守備戦術が流行し始めました。オフサイドトラップです。3人制オフサイドルールだと
 
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後ろに1人DFを残したローリスクの状態で、簡単にオフサイドトラップを仕掛けられます。このオフサイドトラップが流行するとサッカーは得点が生まれづらいスポーツになっていきました。
 
そこで1925年に現在と同じルール「2人制オフサイドルール」が採用されます。これにより以後、現在に通じる戦術の大きな変化が生まれていきます。
 
2人制オフサイドルールが採用されると、今度は攻撃側が優勢になり得点が大量に生まれました。2-3-5のシステム同士試合をすれば、2バックに対して5人でパスを回して攻められますからね。
 
そこで1920年代後半、チャップマン(当時はアーセナルの監督)がまたアイデアを生み出します。それが有名な「WMシステム」です。
 
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だぶついている前線の人数を中盤と後ろに回し3-2-2-3の配置。これにより数的なアンバランスが解消された上に中盤と前線を攻守に連動させるという考えが生まれました。この戦術が効果的だと知られると当然他のチームも追従します。するとお互いのチームが3枚の前線に3枚の守備陣。4枚の中盤に4枚の中盤という状態で試合が行われることになります。

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つまり、このようにマッチアップという考えができてサッカーの戦術が一気にシステマティックになりました。ただこのようにシステムが噛み合う状態はマンマークが有効でまだゾーンディフェンスが主流になることはありませんでした。
 
さらに時間を進めましょう。このWMシステムはイングランドからヨーロッパ大陸へ、そしてさらに他の地域へと伝播していきます。南米大陸ブラジルにこのWMシステムを拡げたのはハンガリー人監督ドリ・クルシュナーだと言われています。 ドリ・クルシュナーはハンガリー代表としてプレーした選手で、引退後はスイス代表やスイスのクラブを監督として指揮しました。
しかし当時ヨーロッパに吹き荒れた反ユダヤ主義から逃れるため1937年にブラジルに渡ります。ブラジルではフラメンコ、ボタフォゴなどを指導。これによりブラジルにWMシステムが拡がりました。
 
ルシュナーに影響を受けたブラジル人指導者の1人が1950年のワールドカップでブラジルを率いたフラビオ・コスタです。彼はWMシステムを独自に進化させることに着手します。中盤の前2枚のハーフに守備をサポートする役割を、前の2枚インサイドフォワードに攻守を繋ぐ役割を与えます。結果、中盤2-2の選手が1枚ずつ前後にずれて4-2-4のシステムを生まれます。
 
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これが4バックの時代が始まりです。フラビオ・コスタは4バックシステムを用いて1950年のワールドカップブラジル大会でブラジル代表の決勝まで進みます。しかし決勝という大舞台でブラジルはウルグアイに敗れてしまいました。世にいう「マラカナンの悲劇」です。
 
ちなみに、優勝したウルグアイのシステムにもユダヤ系のハンガリー人が関わっています。ウルグアイは3人のDFの後ろにスイーパーを置く4-3-3のシステムでしたが、これは元々はスイスのクラブで監督をしていたオーストリア人カール・ラパンが考え出したものでした。このスイーパーを置くシステムは欧州では弱者の立場のスイスが強国に対抗するために生み出され「スイスボルト」「ヴェルウ・ディフェンス」などと呼ばれていました。このシステムはイタリアのカテナチオの思想的バックボーンとなっています。
 
何故このウルグアイがこのシステムを採用したのでしょうか。実はウルグアイのキャプテンのバレラの所属していたチーム、ペニャロールの監督がハンガリー人のエメリコ・ヒルシェル。ウルグアイの4-3-3のスイーパーシステムはバレラの提案で採用されたと言われています。
 
その他にも、1950年代のハンガリー代表が現在でいう偽9番の戦術で「マジックマジャール」と呼ばれて当時のサッカー界に非常に強いインパクトを残したのは有名です。この頃の中央ヨーロッパは、戦術的に非常に先進的な地域だったようです。中欧、東欧の指導者が南米のフットボールに大きな影響を与えていたといえます。
 
話をブラジルの4-2-4に戻しましょう。マラカナンの悲劇を受けてブラジル代表は戦術の見直しが始まりました。ブラジルが「スイスボルト」のシステムを採用したウルグアイに敗れたのはディフェンスのマークの差に原因があったのではないかという批判が起きました。
そこでフラビオ・コスタの後を受けて代表監督の座に就いたゼゼ・モレイラはマンツーマンで守備をするよりゾーンで守った方が組織的な守備を展開しやすいと考えました。さらにマークの受け渡しや攻守で選手が連動していくという発想を生み出します。今日採用されている組織的な戦術の発想の元が形作られたのはこの時期だと言ってもいいでしょう。
 
4バックのゾーンディフェンスを採用したセレソンは1958年のワールドカップスウェーデン大会でついに世界の頂点に立つことになりました。第2次世界大戦後の復興が進んだヨーロッパ大陸で行われたこの大会はこれまで以上に多くのジャーナリストやサッカー関係者が集まり世界的に大きく注目される大会でした。その中で優勝したブラジル代表の戦術がサッカー界に与えたインパクトは大きいものでした。ここで世界的に守備の戦術思想がマンツーマンからゾーンディフェンスへと移行していくことになります。
 
ここで一旦休憩。続きはまた後ほど。

明治安田生命J1リーグ第14節 清水エスパルスvs湘南ベルマーレ~エリアを支配する


"前半にPKから2点を連取するという幸運な形でリードを得た清水。決して盤石といえる守備ではないものの、相手の最終局面における精度の低さに助けられて無失点で試合を折り返す。ホームチームは後半の立ち上がりにも一瞬の隙を突いて2点を積み重ね、大勢を決した。ただ、その後は守備の不安定さから湘南に一方的に攻め込まれる展開に。六反の獅子奮迅の活躍でどうにか逃げ切ったが、反省点の多い内容となった。一方の湘南は前節に続いて相手に二度のPKを与えてしまい、自滅。失点の仕方が悪いだけに、速やかな改善が必要だろう。"

上はFootball LABの選評である。清水の得点は”幸運”と相手の”隙”によってもたらされたと書かれている。またDAZNの配信でこの試合を解説していた興津氏も清水は内容が悪いが点は取れているというニュアンスの解説をしていた。

データを見てみよう。

・支配率  ⇒ 清水39.7%  : 湘南60.3%
・シュート数⇒ 清水8    : 湘南16

このようにデータも湘南がボールを支配してゴールに迫っていたことを示している。

では何故、清水は4点を奪うことが出来たのか。本当に運が良かっただけなのか。

視点を変えてみよう。

ボールではなく、場所の支配という視点だ。両チームのスタメンは下の通り。

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清水の攻撃と湘南の守備の局面を考える。湘南は守備では高い位置からプレスに来ていた。かみ合わせは下の通り。

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便宜上、場所を①、②、③と分ける。①の場所は各々のチームの選手が同数でかみ合っている。②の場所は湘南の前線3枚の内の1枚が下がって中盤のカバーをするので湘南の数的優位。つまり湘南は、①のエリアで清水の攻撃を限定して、②のエリアで守備の強度を上げて奪い取るという戦略を立てていると考えることが出来る。

そして③のエリア。清水は攻撃の時にサイドハーフを絞らせて前線が4枚になることから清水の数的優位になっている。ここは清水の優位なエリアだ。

試合開始直後、清水は湘南のプレスによって落ち着いてボールを持つことが出来ず、ディフェンスラインから近くの②のエリアにボールを入れる場面が多く見られた。湘南は狙い通りこれを奪い攻撃に繋げる。しかし何度かピンチを凌いで15分くらい過ぎると攻撃に変化が出始める。

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清水はまずゴールキーパーの六反がビルドアップに加わる。これで①のエリアは清水の数的優位に変化する。それにより後方での保持に余裕が生まれる。余裕はフィードの精度に繋がる。清水は相手の守備の密度が濃い②のエリアを飛び越えて、自分達が優位な③のエリア、特にクリスランへ精度の高いボールが直接入るようになる。

クリスランはポストプレーヤーというタイプではないが、フィジカルが強く競り合いではかなり高い確率で勝利することが出来る。そして他の前線の選手(北川、石毛、金子)は機動力がある選手だ。クリスランが競り勝ったボールを拾う、相手が押し上げたところを裏を狙っていくという方法で優位な③のエリアを攻略していく。

2点目は正にその形から。クリスランに入ったボールを北川に渡し、再びクリスランが受けて前進したところから生まれている。1点目も竹内がマッチアップしている相手ボランチから奪い③のエリアに侵入したことで生まれた得点だ。

では湘南が前からのプレスを抑えて5バックにしたらどうだろう。

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湘南は3-2-5のシステムになり前線は同数、後ろは数的優位だ。これで③のエリアは清水優勢でなくなる。しかしこの配置になると、

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今度はボランチ脇から、サイドのエリアがフリーになる。3点目はこのサイドを飯田が切り裂きクロス。クリスランが落として北川がゴール。エリアの攻略と質的優位を使ったゴールだ。4点目はクリスランからボランチ脇で受けた竹内、そのボールに対応して前線の選手が前向きにスペース目掛けて走ることで③のエリアを攻略している。
相手が人数をかけて守っても、サイドからのクロスやDFラインを背走させることにより、そのメリットを削ることが出来る。

確かに清水はボールを保持されて決定機を作られたように試合全体を支配していたわけではない。湘南の攻撃も機能していたし、清水の守備にも課題があるだろう。しかし清水が奪った得点は運や相手のミスではない。自分達の優位なエリアを制圧することで主体的に奪った得点と言えるだろう。

...なんてね。もっともらしく結果を組み合わせた言葉遊びでした。

ユベントスの4-2-3-1システムとアレッグリのコーチング哲学

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上のリンクの記事の翻訳です。翻訳と言っても僕は英語力がほぼ皆無なのでgoogle先生の翻訳にほぼお任せですが...。意味が繋がらない部分は適当な想像で繋げてしまいました。全く違う箇所があるかも知れません。お許しを。それでは、以下本文となります。

 マッシリミーノ・アレグリは彼の指揮するユべントスにおいてここ最近は4231システムを採用している。
 批評家やメディアは、彼のこの戦術的な調整を賞賛した。多くのユべントスファンはこの変化を喜び、他の人達はむしろもっと早くこのシステムを作るべきだったと評している。
 ここでは、私はこの4-2-3-1の構成と戦術の機能を分析する。比較対象としてジョゼ・モウリーニョインテルでの”Treble-winning team(2009-2010年のCL、セリエA、イタリア杯の3冠達成チーム)” を使用する。そして、ここ数ヶ月にユベントスが使用したいくつかの戦術と、今シーズンの全体的な戦術についても議論する予定だ。うまくいけば、これらの考察が、”アレグリの指導哲学とは何であるか?”という質問に答える手助けになるだろう。

4-2-3-1フォーメーション

 4-2-3-1は、インテルが2009-10シーズンにトレブル(3冠)を獲得したモウリーニョのチームが最も有名になっている。アレグリの戦術を理解するためにはモウリーニョの戦術をまず理解する必要がある。まずモウリーニョの4-2-3-1フォーメーションについて簡単に説明しよう。

 ディフェンスはGKのジュリオセザールから始まる。ゴールの前はルシオとサミュエルの2人のセンターバックで守られている。マイコンとキブは右と左のフルバック、Jサネッティは左右どちらのフルバック(またはフルバック以外のポジションでも)でもプレーすることができる。 ダブルピボーテは、カンビアッソチアゴ・モッタで構成されている。ウェズリー・スナイデルは古典的な10番だった。2人のウィンガー、ゴーラン・パンデフサミュエル・エトーがトップのディエゴ・ミリートをサポートしていた。

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 モウリーニョの4-2-3-1はいくつかの重要な戦術的要素を持っていた(インテルに限らず、彼が指導したほとんどすべてのチームでも)。

1.中盤のダブルピボーテ2人のミッドフィールダーはポジションは同じだが、各々独特の性質を持っている。 1人の守備的ミッドフィールダーはゲームのテンポを支配するために優れた長短のパスを駆使できる能力を持っていなければならない。この役目は通常はティアゴ・モッタであった。一方、もう1人のピポーテ、カンビアッソ初期の攻撃フェイズにおいてセンターバックフルバックがビルドアップするのを助け、ボールの前進を促進する任務を与えられていた。またフルバックが攻撃参加した際の後方の守備のカバーの役割も与えられていた。これらのタスクは、戦術的インテリジェンスを持つプレイヤーが請け負う必要がある。カンビアッソは当時、この能力を持つ数少ないプレイヤーの1人だった。 現在では、ユリアン・バイグルがトーマス・トゥヘルが指揮するドルトムントの4-2-3-1システムにおいてこれと同様の機能を持っている。

2.中盤のダブルピポーテが対戦相手を彼らの方に引き寄せることにより、インテルディフェンダーがボールを前方に持ち上がる機会を作り出す。そのためモウリーニョはいつもボール扱いに優れたセンターバックを好んで起用する。インテルでは、ルシオがそのような役割を担っていた。

3. ウイングは、少なくとも1人は逆足ウィンガー(時には2人)を起用することが特徴だった。 エトーインテルでこの役割を完全にこなしていた。彼とパンデフはしばしば中央に切り込んでシュートを撃っていた。

4.モウリーニョのチームはいつもクラシックな10番を起用することを特徴としていた。インテルでは当時キャリアのピークを迎えていたスナイデルを10番として獲得した。

 上記の特徴が、4-2-3-1を優れたシステムに作り上げている。そしてその狙いは相手のエラーを利用し、自分達のミスを最小限に抑えることだ。「優勝するチームとはミスが最も少ないチームだ」というモウリーニョの信念は有名である。彼は相手にポゼッションを与えることで、自分達のチームのミスを少なくしようとする。彼の4-2-3-1フォーメーションは、1つの目的のために作られている。相手のエラーを最速で攻撃することである。まずゴール前にバスを並べる4-5-1のフォーメーションで深い位置に構えることからスタートするこれは自チームがエラーを起こす可能性を最小限に抑えつつ、相手のチームがエラーを起こすのを待つためである。彼らが相手のエラーを感知すると、彼のチームはすぐに4-2-3-1に変わり、次に4-3-3に変化する。逆足のウイングがモウリーニョのチームにとって重要ななのは、両方のウイングからのカットインがシュートやアシストの機会を作り出すからだ。このポジションにエトーを置くというモウリーニョの選択は、彼の信念ートリックのような技巧など必要ない、得点を奪うことこそ全てだーを良く表している。もし攻撃中にボールが失われた場合、4-3-3フォーメーションによって即座にプレスに移行することができ、相手に強制的にエラーを引き起こさせることができる。このフォーメーションの切り替えと切り替えを達成するのピードがモウリーニョの4-2-3-1の鍵となっている。

ユベントスの4-2-3-1:守備のフェーズ

 ユベントスの4-2-3-1は古典的な4-2-3-1と基本的な部分はよく似ている。


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 ラインナップは以下の通りだ。ユベントスでは上手くパスを通せるレオナルド・ボヌッチとボールを前方に運べるジョルジョ・キエッリーニというセンターバックを特徴としている。

 攻撃的なダブルピポーテのミレラム・ピアニッチサミ・ケディラは、それぞれチアゴ・モッタカンビアッソと同様の質を持っている。

 しかし、ピアニッチケディラインテルの2人に比べると守備は堅実ではない。

 ユベントスにはクラシカルなタイプの10番はいないが、パウロ・ディバラはそのポジションでプレイするためのより高い質を持っている。

 アレグリはこのシステムで伝統的なウィンガー(ファン・クアドラード)と一見それとは特徴が反対と思われるウィンガー(マリオ・マンジュキッチ)もプレイさせている。

 しかし、アレグリのよって行われる潜在的な戦術コンセプトはモウリーニョのそれとは違っている。

 先ほど述べた通り、モウリーニョのチームは、4-3-3、4-2-3-1、そして最後に4-5-1とシームレスに移行していく。4-3-3は初期の防御フェイズ中に相手にプレッシングをかけるために用いられる。もし相手が最初のプレスに対抗することが出来れば、モウリーニョのチームは素早くミッドフィールドを2層にした4-2-3-1にセットする。4-2-3-1の中盤の配置よって加えられるプレスの圧力は非常に高い。もしそれでもボールを奪取することが出来ない場合は、ゴール前にバスを並べる深い防御の4-5-1へ移行する。

 一方、ユベントスモウリーニョのチームと同じやり方では守備をしていない。4-3-3または4-5-1への迅速なトランジションによってアドバンテージを得るというのはユベントスには当てはまらない。なぜなら、シーズン初めの数試合は別としてユベントスは殆んどの試合を4-4-2で守っていたからである。ユベントスが中盤4人の4-3-1-2でもアタッカー4人の4-2-3-1でも、ユベントスは常に守備の局面では最も基本的な3ラインの4-4-2を形成して守備をしていた。

 4-4-2は最も基本的な編成であり、実装するのが最も容易で簡単な形状である。防御するための3つのラインがあり、どのポジションでもすぐ後ろまたは正面に1人のプレーヤーがポジションしている。全てのプレーヤーが守備時に連携を保つための基準点が確保されている。4-4-2は防御的な形を失うわないためには最も良い方法ということができる。

 4-2-3-1でプレイするために、アレグリは3-5-2や4-3-1-2または4-3-3でプレーする時に比べて彼らの守備戦術を調整する必要が出てくる。

 ケディラピアニッチのダブルピボットは、十分な身体的能力と守備力を持っていない。したがって、ユベントスは主に2つの戦略を使用してケディラピアニッチの守備的な負担を減らしている。まず攻撃の局面中に対戦相手の陣内でボールを失った場合、ユベントスの攻撃プレーヤーは相手に対し迅速にカウンタープレスをかけてボールを回収し相手の攻撃局面への移行を遅らせる。それらについては以前記事にしたので、ここでは詳細を省かせてもらう。もし彼らがボールを奪い返せない場合、彼らはすぐに4-4-2の守備的な形になる(ディバラがイグアインの後ろにポジションすることが多いので4-4-1-1とも呼ぶことが出来る)。この形を取る時は、クアドラードマンジュキッチが両サイドのポジションに入る。モウリーニョのチームとは異なる点は、チームが中盤で強烈なプレッシャーをかける守備段階がないということだ。 ユベントスの守備は非常に高いプレスと時折のカウンタープレス、それ以外は非常に深い位置での4-4-2で行っている。

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 彼らの4-4-2はライン間が狭くコンパクトだ。 マンジュキッチクアドラード、ディバラ、イグアインは守備のフェイズ中にピアニッチとディバラをサポートしなければならない。ゆえにこの狭さとコンパクトさが必要になってくる。

 この形はディエゴ・シメオネアトレティコ・マドリードと似ている。しかし一番の違いは、アトレティコ・マドリードは相手のボールを自分達の奪いたい場所に押しむ非常に積極的な守備をしているという点だ。それとは対照的にユベントスの4-4-2は受動的だ。その理由はユベントスの前の6人(中盤と前線)がいずれも1対1で強い守備が出来る選手ではないからだ。彼らが積極的に相手を追いかけ過ぎると、(奪い切れずに)味方がカバーしなくてはならないスペースを相手に与えてしまう。対戦相手はユベントスの最初のプレスさえ交わせば、ユベントスの守備をオープンにする機会を増やすことが出来るだろう。

 ユべントスは4試合で4-2-3-1を使用しており、それはかなり安定していた。守備に局面でも大きな亀裂は見られない。しかし彼らには幾つかの潜在的な弱点が存在している。この選手構成では中盤の抵抗力を欠いており、彼らはピッチの半分辺りまで深く下がって守らなくてはならない。対戦相手としてはピッチの半分深くまではボールを保持して前進することが出来る。それは対戦相手により危険な位置でボールを持たれる可能性が高いことを意味している。下の統計には次のようなデータが示されている。

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 異なるエリアで対戦相手のパス数の平均パーセンテージを計算すると、ユベントスのディフェンシブアサードに入るパス数は6%増えている(4231と4312を比較した場合かな?)。6%と言ってもあまり多いと感じないかも知れない。しかしセリエAの平均パス数が約440である。つまり6%とは約27回のパスを意味している。したがってユベントスは他の構成の時と比べて3分30秒に1度の割合でディフェンシブサードで相手のパスを受け止めていると言える。レアルマドリーなどヨーロッパのトップクラスと対戦するときはこれが大きな問題となってくる。

 もう一つの問題は、攻撃的なプレーヤーが彼らの労力を守備的ミッドフィーダーを補助するために費やさなければならないため、試合が進むにつれて攻撃の鋭さが落ちてきてしまうということである。これは(多くの理由の内の1つかも知れないが)ユベントスが前半に得点が多く、後半に試合を締めることが出来ないという現象の理由にも繋がっていると考えられる。あなたが疲れている時に冷静になれないのと同じ理由だ。

 最後に、非常にブロックを狭く、コンパクトにする形状は相手に対して守備の圧力を高めることが出来るが、ブロックの側面にボールを広げられると非常に苦しむことになる。例としては2016年チャンピオンズリーグ決勝だ。レアルマドリーはピッチを横切るようなパスを方向を変えながら何度も使い、アトレチコマドリーのコンパクトな4‐4‐2のブロックを広げていた。

 モウリーニョの4-2-3-1のように守備局面で異なる形に切り替わる方法では厳格な規律が必要となってくるが、それと比較するとアレグリの4-2-3-1における守備局面での振る舞いはよりシンプルだ。それはただの4-4-2だからだ。チームに植え付けるのは簡単だ。コンパクトさ、圧縮で待ち構えて、中盤の2枚のピポーテのフィジカル的な弱点をカバーするのだ。

ユベントスの4-2-3-1:攻撃の局面

 ほとんどの人々が最も技術的に優れ、最も才能のある選手が配置されているユベントスの新しい4-2-3-1にとても好意を持っている。私は新しい攻撃の配置、すなわち「逆足ウィンガー」とダブルピポーテが非常に効率良く機能する理由を2つの戦術的側面から議論していく。

逆足ウィンガー

 この逆足ウィンガーはモウリーニョの戦術において特徴的なポジションだ。彼がインテルで行った一つの天才的な功績は、エトーにそのポジションでプレーすることを納得させたことである。エトーはそのポジションでプレーをすに非常にすぐれた才能を持っていた。彼のスピード、フィジカル、そしてテクニックはカットイン、シュート、そしてアシストすることを可能にした。彼のストライカーの本能は、決して不必要なトリックを駆使したせずゴールすることだけを求めていた。

 ユベントスの4-2-3-1フォーメーションではアレグリはマンジュキッチを左の「逆足ウィンガー」として起用している。しかしマンジュキッチは普通の逆足ウィンガーが通常やるようなプレーをすることはない。マンジュキッチはカットインしてシュートやパスをする能力は持っていない。私の意見を言えば、”逆足ウィンガー”という言葉ではユベントスのシステムの中で彼がどのようなプレーをしているかを説明出来ない。より適切な言葉を使うなら、「ウィンガーのスーツを着たストライカー」といったところだろう。

 この4-2-3-1システムの中でマンジュキッチは、彼の得意なプレーをやっている。つまり、フィジカルを生かし、背中で相手を背負うセンターフォワードのストライカーとしてのプレーだ。違いと言えば、これまでとは違うエリアで、違うマーカーに対してプレーしているという点だ。通常は彼は最前線のプレーヤーだ。しかしユベントスでは守備で左ウィングというポジションを担っているため、守備から攻撃へのトランジションの時には、彼は左サイドのエリアにいることになる。したがってマッチアップとしてはマンジュキッチは相手の右のフルバックによってマークされることになる。相手のセンターバックは自分のマークがあるため右のフルバックをすぐにフォローすることは難しい状態だ。マンジュキッチの新たなポジションは今や対戦相手に多くの問題を与えている。一般的にセンターバックの選手はマンジュキッチと同レベルのフィジカルを有している。しかし、フルバックの選手は一般的にはそれほどフィジカルに恵まれてはいない。彼らはオーバラップをするために機動力と軽快さが重要視されるため、一般的にサイズが小さい。したがって彼らはしばしばマンジュキッチを封じ込めることが出来なくなっている。

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(原文は動画)ここではラツィオのパトリックはボックス前でマンジュキッチに押し下げられている。彼はマンジュキッチにとマッチアップするにはサイズが小さすぎる。マンジュキッチはディバラをのプレーを助けるため時間、空間、自由すべてを作り出していた。

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(原文は動画)ここではサッスオーロの右サイドバックのルカ・アンティがマンジュキッチを中盤近くの左サイドのエリアでマークについた。マンジュキッチはアレックス・サンドロのオーバーラップを助けるためボールを遮った。アンティはパオロ・カンナバーロが復帰するまでセンターバックでプレーしていたように、マンジュキッチにも対抗できるフィジカルを持っている。しかし彼は通常、それほどゴールから遠く離れたエリアではプレーしない。そして普通のセンターバックに比べてマンジュキッチがボールを離した後に元のポジションに戻ってカバーをするスピードを持っていない。

 新たなポジション、左ウィングでのマンジュキッチのフィジカル的な強さは非常に危険であった。インテルとの試合では監督のステファーノピオーリはスタメンを変更して3バックで守備を行いマンジキッチに対応するためにジェイソン・ムリージョを右サイドで起用しなけれがならなかった。

 多くの人は彼の惜しみないハードワークを賞賛する。その反面、彼はフィニッシュの場面で落ち着きを欠いているとの批判も多い。私は彼の決定力の低さは、他の仕事であまりに多くのエネルギーを費やしているからだと思っているが、それらの批判は概ね真実だと思う。しかしマンジュキッチは現在彼が得ているより多くの信頼を受けるべきだと思っている。彼はユベントスがこのシステムを機能させるためのキーマンの一人です。彼はよりゴールに近づける最前線のポジションを諦めて、左ウィングのポジションでプレーしている。彼は不平を言うことはなく、それを完全に受け入れています。ほとんどのストライカーは得点を挙げることの出来ないポジションを与えられたら不満を抱くだろう。マンジュキッチは真のプロフェッショナルなのだ。

ダブルピポーテ

 4-2-3-1の2人の中央のミッドフィルダーはボールを前進させる、相手の攻撃を防ぎカバーをするなど非常に重要な役割を担っている。この考え方はモウーリニョのインテルまたはトゥヘルのドルトムントにとっては真実だ。モウリーニョインテルでは、カンビアッソはチームメイトのポジションを調整する任務が与えられた。 フルバック(通常マイコン)やルシオが前に出れば、カンビアッソはそのポジションをカバーするために戻った。ヴァイグルはドルトムントで同じ役割を果たしている。彼の動きはドルトムントディフェンダーが攻撃参加していくことを可能にしている。

 ユベントスの4-2-3-1では、通常ケディラがそれらの役割を果たしている。彼はカンビアッソやヴァイグルのように守備が出来て、戦術的インテリジェンスが優れている。 我々はマルキージオも将来的にはこの仕事をすることができるのではないかとイメージしている。

 ユベントスのダブルピポーテは、モウリーニョインテルのダブルピポーテに似ている。 しかし生じる結果にはいくつかの違いが出てくる。我々は先にアレグリが守備局面では狭くコンパクトな4-4-2によってダブルピボーテを保護する方法について述べた攻撃の局面では両方のミッドフィルダー、特にピアニッチは優れたパスを通す能力を持っている。相手チームは早めにプレッシャーをかけてボールを放棄するよう仕向けなければならない。これはむしろ興味深い結果をもたらすことになる。

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 ここでラツィオの選手は、ケディラピアニッチの両方をマークしている。ラツィオ(そして大部分のセリエAのチーム)は3人のセントラルミッドフィールダーを配置したシステムなので、2人がケディラピアニッチをマークするとより深い守備位置のミッドフィールダーがディバラをマークする必要がある。2つのウィングはユベントスフルバックをマークしなければならない。したがって、ユベントスの2枚のセンターバックに対してマークする前線の選手はストライカーの選手(ここは動かせない)1人だけとなる。この状況は対戦相手に2つの問題を引き起こさせる。イグアインが中盤に降りると、相手のセンターバックは中盤までは動きたくないため、彼を追跡する選手がいなくなる。対戦相手は3人のミッドフィールダーとストライカーがすべてマークを持っているので中盤には多くのスペースがあり、多くの異なるパスレーンを容易に作り出す。

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(原文では動画)
 ラツィオとの試合の2ゴールはこの形から生まれている。キエッリーニはノーマークで妨げられることなくパスを出している。イグアインマンジュキッチラツィオの中盤後方でプレッシャーの少ない状態で縦パスをコントロールすることができた。 そして彼らはボールを右に振って最終的に2つのゴールを奪うことができた。

 対戦相手にとってのもう一つの問題は、上記のシナリオではユベントスセンターバック、特にキエッリーニがフリーで前進できることである。

 キエッリーニの前に出る機動力というのはしばしば見逃されている。このキエッリーニの走りというのは対戦相手にとって非常に危険な物だ。理由はそのスピードそしてユベントスのシステムだ。対戦相手のフォワードとミッドフィルダーはほとんどマッチアップで食い止められている。そのため、フリーのキエッリーニの走りで相手のディフェンスを切り裂くように開かせることが出来るのだ。

 キエッリーニはボールを保持するのが好きで、チャンスがあれば前に出ようと強く望むタイプの選手だ。これはおそらく彼がセンターバックとして固定される前は左サイドバックとして選手のキャリアをスタートした選手だからだろう。(ファンへの興味深い事実、キエッリーニフィオレンティーナにレンタルされた時にブレークした選手だ。彼はフィオレンティーナでは左サイドでの強力な攻め上がりを見せていた。彼は始めはユベントスに戻ることを希望しなかった。彼はその後カッペロのチームでプレイし、さらにセリエBでもプレイした。クラウディオ・ラニエリがローマ戦センターバックに起用するまで彼は左サイドバックでプレイしていた。それが彼がセリエAセンターバックとしてプレイする初めての機会だった。理由は彼が我々のチームのセンターバックとしてはまだ良い選手でなかったというのが事実だ。実際に、その時センターバックをプレーすることになっていたのはドメニコ・クリシトだったが、その時には経験が足りずあまりにも脆弱だった。彼らのポジションが今、完全に入れ替わっているのは非常に面白い。)

将来的にはいくつか問題が生じる可能性があるだろう。これらのメリットを得るには、キエッリーニまたはボヌッチがプレーしなければならない。バルザーリ、ルガーニ、ベナティアもそのようにボールを運ぶことが出来ない。ボヌッチでさえキエッリーニのようなプレーはしない。そしてボヌッチは怪我をしていらいトップコンディションを維持していない。

この問題に対処するため、あるチームはピアニッチケディラへのパスコースを消すようにカバーシャドウのポジションを取りながらプレスをかけてくる。それにより味方のポジションがずれスペースを作るのを防ぐ。ラツィオは試合の後半このやり方でかなり上手くやっていた。

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(原文では動画)
 このケースではピアニッチケディラセンターバックのためにパスコースを作るように、より注意深く賢くプレーする必要があります。

この先、このラインアップで注目していくこと

 このシステムと選手構成での課題は何だろうか?ユベントスはこの形でまだ4試合しか試合を行ってない。それは深刻な問題ではないが、今後発生すると思われる潜在的な課題を推測しそれについて検討していく。

 彼らがさらによくなるために出来ることがいくつか考えられる。まず最初がディバラだ。私は彼のプレーが良くないとは思わない。むしろ良くやっている。しかし皆の彼に対する期待はとても高い。何故なら多くの人達が彼は絶対的な世界クラスのプレーヤーになれるはずと信じているからだ。私はディバラはまだ自分の役割を完全に解釈していないのではないかと感じている。彼はもっと得点を奪いたいと思っているだろう。そして時にはシュートをフリーで撃つために余分なドリブルや走りをしてしまう。しかし、それでは相手は彼の動きを簡単に読んでしまうだろう。このシステムではディバラはスナイデルのようにプレーすべきだ。スナイデルは常にライン間のスペースを出入りしてパスコースを探し、ドリブルやシュートの前に相手の守備を崩そうと試みる。私はディバラはとても良いプレーヤーだと思う。しかし彼の動きが相手に予測できないようになれば、このシステムは爆発的になってくるだろう。

 2つ目の課題は、もしアレグリが起用する前線の大駒にくらべるとると、ベンチメンバーが少し軽いことである。次に攻撃的なメンバーとして考えられるのはマルコ・ピアツァとプリメーラティーンエイジャー、モイーズケンだ。アレグリはピアツァの育成を急ぐ必要がある。私はアレグリを批判してはいない。ピアツァは長い間試合に出ていなかった。彼はまだ未熟で、ユベントスはピアツァが試合感を取り戻すまでいくつかのポジションを試している。しかし今。ピアツァをフィットさせるためにリスクを冒す必要がある。またケンにもっとプレーさせる必要があるかもしれない。マンジュキッチイグアインが試合に出れないか、負傷しているか、または主要メンバーが疲れている間に、彼らがプレーする試合を追いかけることになるかもしれない。

 3番目の問題は、チャンピオンズリーグに復帰して試合が週に2回になった時、今のままプレーし続けるのが不可能になるいうことだ。アレグリは4-3-2-1を使わなければならない。また4-2-3-1でプレーする前にサブの選手を起用するかもしれない。私の意見としてはストゥラーロをもっと起用すべきである。多くの人が彼をあまり好ましくないと思っている。彼の技術の低さとパス能力の欠如は明らかだ。しかし彼は他のミッドフィルダーにない利点を一つ持っている。彼はフィジカル的に守備が強く、優れた戦術的センスを持っている。この例を考えてみよう。

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 守備局面で彼が4-4-2のウィングのポジションをとる時、相手へプレスをかけるように任されている。しかし彼はボールホルダーに対していつでもプレスをかけるだけではない。彼は味方がしっかりと周囲のスペースを消している時だけプレスをかけに行くのだ。チームメイトが理想的なポジションに入ると(パスコースをふさぐことができている時)、彼はプレスを開始する。彼は常にボールを保持できる選手ではないが、ボールホルダーに対して十分なプレスをかけて、味方がボールホルダーから奪取することを容易にするという仕事をする事ができる。

 この種の戦術的能力を持つ選手はなかなかいない。戦術的な意味をまだ身につけていないレミナとポジショニングを比較すれば明確だ。また、ストゥラーロはしばしばボックス内でフリーになれる場所を見つけ出すートリノ戦、またはローマ戦でのいくつかのチャンス、ボローニャ戦でのPKなどのように。彼はそれらのチャンスをどれも決めてはいない。しかし、私はそれは信頼と経験の欠如からきていると考える。それは彼がそのような状況で常にボールを強く打ちすぎるという事実が示している。 彼は技術的に悪くはない。しかし経験と自信が必要なのだ。

 しかし、彼が攻撃面がより良くなるかは大きな問題ではない。アレグリは彼をもっと使うべきだ。そうすればユベントスは守備の時に全選手を自陣の深い位置まで下げて守る必要がなくなる。彼とマルキージオケディラピアニッチと一緒にプレーさせれば中盤の抵抗力を高め、4バックへの負担を緩和することが出来る。イグアインマンジュキッチ、ディバラの守備負担も減少する。 トマス・リンコンもいるが私達は彼のプレーをほとんどまだ見ていない。

これまでのアレグリのパフォーマンス

 4-2-3-1フォーメーションの採用はアレグリに多くの賞賛を与えることとなった。しかし批判もある。我々の多くは彼はもっと早く3-5-2フォーメーションを放棄するべきだったと思っていたが、彼はあまりにも保守的でチームも上手く行ってなかった。
 
 リーグでの4つの敗戦はすべて3-5-2でプレーした時のものだ。私は彼らが異なるシステムでプレーした時に認められたゴール数を比較する。

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 事実、3-5-2でプレーしている時が1試合あたりのゴール数が一番低くなっている。したがって、ユベントスは3-5-2の時が一番結果が悪いという意見と一致している。しかし、我々が注目しなければならないことの1つは、リーグでの4つの敗戦はみっどウィークでの試合であったということだ。彼らが2つの試合(インテル戦とジェノバ戦)を落としたのはチャンピオンズリーグでセビージャと試合をした後であるということだ。さらに彼らは10人でリヨンと戦って勝った後の試合でミランに敗れた。彼らはアタランタとミッドウィークにコッパ・イタリアの試合をした後、フィオレティーナに負けた。

 ユベントスは6年間ほぼ3-5-2でプレーしている。セリエAのチームは全てこのフォーメーションの長所、短所を知っている。特に意外な要素はない。したがってユベントスはこのフォーメーションで試合をする時は完璧に近いパフォーマンスをする必要がある。そしてそのような集中力でミッドウィークの試合を行った後、次の試合まで選手達が100%のフィジカルとメンタル状態を維持できるとは限らなかった。それを想定していなかったのはアレグリの責任だ。

 しかし全体的にユベントスのパフォーマンスは悪くない。ここで今年のユベントスと過去9年間のセリエA優勝チームの得点、失点、勝点を比較してみる。

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 もしこれらのパターンが成立するならばユベントスの勝点は94ポイントに近づくことになる。アントニオ・コンテ監督の最終年である3年目の全てを成し遂げた偉大なチームを除けば、最も多くの得点と勝点を得ることが出来る計算になる。しかし一方、モウリーニョインテル以外のチームの中では一番ゴールを許している。したがって今年のパフォーマンスはこれまでのユベントスと比べて悪いわけではない。アレグリの戦術が悪いとは言えない。でなければ彼らはより多くの得点や勝点を得ることが出来ないだろう。唯一の反論としては、ユベントス保有している選手であれば、もっと多くの得点と勝点を挙げられるのではないかおいう点だ。しかしこれを検証するのは不可能だ。いずれにせよ、過去10年で2番目に高い数字を残そうとしているチームを批判するのは少し難しいと思う。

 彼の4-2-3-1は賞賛に値するだろうか?私は賞賛に値すると思うが、それはただシステムや選手構成を変えたという理由だけでない。重要なのは、彼が今シーズンにした仕事だ。チームの進歩を振り返ってみよう。まず標準的な3-5-2システムがある。その後、彼はゆっくりと新しい選手を組み込んでいき、さまざまな戦術(ディバラをライン間でプレイさせる、4-4-2の守備体制、カウンタープレッシング)を導入する。その後4バックに変更してより多くの戦術を導入(ビルドアップのスタート時の3バック併用、イグアインをトップで起用しマンジュキッチをサイドに開かせる...など)する。それらについて考えると、彼が行ってきた全てが現在のチームのやり方を可能にすることに繋がっており、私はこれらの仕事は賞賛する価値のある物だと信じている。

アレグリのコーチング哲学

 アレグリのようなコーチを時折特徴付けることがある。彼のコーチング哲学を説明する最も簡単な方法は他のコーチと比較することだ。私達の最愛のコンテは、モウリーニョ、ファビオ・カッペロ、またはペップ・グアルディオラのようなタイプに属している。これらのコーチはやっているサッカーのタイプは異なっている。カッペロのチームは強制的にトランジションを起こすためにプレッシングを行う。モウリーニョのチームは対戦相手のエラーを利用するために非常に迅速なトランジションサッカーを行う。グアルディオラはポジショナルを用い、ゲームを支配するために11人での攻撃的サッカーを行う。だが、彼らは規律を要求するコーチだという点では共通している。規律はプレーヤーが様々な段階で非常に複雑なタスクを実行するために必要なものだ。コンテのフットボールもこれと同じだー試合中に繰り返されるあらかじめ決められた動きがみられる。

 アレグリは、マルチェロ・リッピカルロ・アンチェロッティのようなコーチに近いタイプだ。彼らは守備の規律を要求するがーまあ、守備の時に守らないことなどないだろうが)ー彼らの攻撃は、より多くの読みと反応が必要となる。したがってこれらのコーチにとって攻撃の局面中はシンプルさが必要とされるだろう。リッピとアンチェロッティのチームはシーズン毎に違うフォーメーション、違う戦術でプレイする。選手の事前に決められた動きは限られている。彼らは常に最も創造的な選手に魔法のプレーを発揮させる。攻撃の局面で唯一事前に決定されている戦術は、ファンタジスタがどこで相手にダメージを与えることができるかを見つけ出すことである。

 アレグリがリッピがユベントスで成し遂げたことを達成できるよう、みんなで望むこととしよう。


 

エスパルスvsレイソル エスパルスのコーナーキックからの得点

エスパルス1点目のコーナーキックについて。


レイソルはゾーンの守備。

並びは以下の通り。

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大谷をニアに置いて北川を監視。ジョンス、江坂、ポギョン、クリスティアーノの4人が柏では競り合いに強いメンバーだと思われる。その4人がニアにボックス型を作っていると見ることも出来る。いずれにせよニアの方から強い選手を並べているのだろう。

中川、小池がショートコーナー対策とカウンター要因。

清水の配置は以下の通り。

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キッカーは金子。右利きなのでアウトスイングのキックになる。セオリーとしてはニアで合わせる場合とファーからの折り返しはインスイング。正面から叩くように合わせる時はアウトスイングが有効と言われている。

ボックス内には6人。北川をニアに、残りの5人はファー側に弧を描くようにセットしている。

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金子のキックは北川に向かって越えるようなボールが蹴られる。北川がニアで合わせるように前に出ると大谷、江坂が北川をマーク。パクジョンス、クリスティアーノの間にスペースができる。

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そのジョンスの前のスペースに向かいフレイレが入って行く。パクジョンスはフレイレと競り合う。これでニアの4人の内3人が消える。

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パクジョンスがいたスペースにテセがクリスティアーノの死角から入ってヘディングシュート。ニアよりだが正面から叩きつけるセオリー通りの形。

このコーナーのポイントはパクジョンスという相手の一番強いところをフレイレで潰して、テセというこちらの一番強いところをフリーにしたこと。北川とフレイレのスペースを作りだす動き、金子のキックの精度、テセのヘディング。

見事なデザインから、ゾーンの守備の弱点を攻略した完ぺきなコーナーキックからのゴールだった。

明治安田生命J1リーグ第11節 清水エスパルスvs柏レイソル レビュー

・柏の攻撃と清水の守備から見てみましょう。

柏がボールを握り攻撃の局面を作り出す、清水がセットして守るという時間が多い前半でした。

 柏はCBとボランチの4枚で清水のファーストディフェンスを剥がし、2トップ裏または左右の2トップ脇をビルドアップの出口として狙っていました。

 それに対するのは清水のファーストディフェンス。清水の守備は442。テセ、北川の2トップは相手のCBをマンツーで見るのではなく、2トップ裏の相手ボランチへのコースを切るといういつも通りの守備を見せます。もし2トップ裏に通されればボランチの河井か竹内が前に出て潰しにきます。これは清水がチームとしてまず中央のコースを消す守備をしているということを表しています。そしてサイドハーフの初期設定は中盤の位置で44ブロックを形成。

 ということで柏は2トップの裏でなく主に2トップ脇を出口としてボールを前進させていきます。

 数の論理はピッチの真理とは別ですが、観戦の理解の補助には役立ちます。柏のビルドアップ隊が4人。その内3人で清水のファーストディフェンダー2人を数的優位ではずして、1人がビルドアップの出口でボールをもらう、というように見ることもできます。

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 例えば中山、パクジョンスと大谷で2トップを左側に寄せて、2トップ脇の右側に移動したキムポギョンに出すみたいな形。その他には大谷が降りてCBが左右に広がる、中山が2トップ脇に運ぶというのも1つの形です。ファーストディフェンスの外し方が上手いのが柏のビルドアップの特徴でした。

 キムポギョンが左の2トップ脇を取った時を例に考えてみましょう。
 
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 2トップ脇の相手に対して清水はサイドハーフの白崎が斜め前に出て対応します。サイドにいた白崎が内側にくるのでサイドの入り口が空くことになります。

 サイドが空いて前進しているSBの小池にパスが出ます。SBには二見が出て対応。二見がサイド側に出るのでフレイレとの間、ハーフゾーンが広がります。柏の大きな狙いとしてはこのハーフゾーンを広げて利用するということだったと思われます。そして最終的にはハーフゾーンを狙うことで中央の守備をずらして江坂と中川の動きでスペースを作りシュートに結び付けていきます。

 右であれば伊東が突破力を活かしてクロスやカットイン、また伊東がサイドに張って中を小池がアンダーラップで入ってきり、中を締めたら大外のサイドをドリブル突破などの方法が考えられます。しかし清水は左のSBに守備力の高い二見を起用しており伊東は上手く押さえることが出来ていました。


 左のクリスティアーノは自ら突破というより、強さを活かしてポイントになり亀川を衛星的に使ったり中央の江坂、中川にパスというプレー。自分はやや下がり気味の位置でミドルを狙うようなポジションを取っていました。


 清水はサイドハーフのプレスがややずれる時がありましたが、SBとCBのギャップをボランチがカバーなどスライドとカバーの動きで44ブロックの中は埋めることができていました。
 
 しかし柏は清水の44ブロックの手前にボランチとクリスをミドル要因として用意します。完全に崩してのシュートは多くありませんでしたが、際どいミドルシュートで何回か清水のゴールを脅かしました。


 下はクリスティアーノの得点場面の少し前。


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 竹内がディフェンスラインの中央を埋め、ハーフゾーンに抜けようとした江坂を金子が一瞬カバーに向かったところ。亀川がオーバーラップするとクリスは少し引いた位置取りをしています。清水の中盤が後ろのカバーにいくことで出来たスペースでミドルシュート

 清水の失点は事故のようで、事故でない、柏の計画に織り込まれていた形からのシュートだったのではないかと僕は考えています。

・清水の攻撃と柏の守備を見てみましょう。

後ろから繋いでいく柏の攻撃でしたが、清水は逆に長いボールを直接テセに入れていきます。テセへのロングボールをフリックして航也がディフェンスラインの裏を狙うというのがファーストプランのようでした。

 
 柏はフリックで裏を狙われるということでテセにはCBでなく中盤の選手が対応します。柏の左サイドでは体の強いクリスティアーノが下がってこれに対応しますが、クリスが勝っても柏の左の前方には選手がいなくカウンターに移行できないという状態でした。柏の後方にはあまりフィジカル勝負の得意な選手がいないということもありロングボール勝負では清水が優勢でした。

 清水のもう1つの攻め手は相手の攻撃をカットしてからの攻撃。後方での保持と同様、ここでもカットしてからの第一選択肢はテセ。テセに当てることで中盤を押し下げてその落としをフリーでボランチがもらいます。ゲームメイクできる竹内、河井を中央でフリーにさせるのはターゲットの当てる攻撃と並んで、清水の攻撃の特徴の1つになっています。サイドハーフが絞って受けて相手のブロックを真ん中に寄せてサイドを空ける→サイドバックのクロスのようにポジショニングとボールの動かし方でスペースを作って使っていきます。


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 柏とは目に見える形は違えど、スペースを作って使っていくという原理は同じです。

 上手くファーストディフェンスをずらして攻撃の機会を作り出していたのは柏でしたが、先制したのは清水。コーナーをゾーンで守る相手の守備を利用しフレイレで釣って、死角から入って頭で合わせたテセのゴールでした。

 すぐ追いつかれるも、スローインからテセがフリック、航也がディフェンダーを振り切ってゴール。スローインからでしたがこちらは再三狙っていた形からの得点でした。
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 ちなみに、これはfootballlabのプレー分布図です。柏は2トップ脇からサイドと清水の442ブロックを囲むようにプレーの頻度が高いのが読み取れます。

 一方清水は最後尾と中盤よりやや相手陣内のサイド側が濃い色になっています、おそらく後方からのボールをテセがサイド寄りの低めで競り合ったためとサイドバックの攻撃によりこのような分布になったと思われます。

・後半の流れを振り返ります。

 お互いの主な狙いは上に述べたので後半は流れを振り返ります。

1.清水の保持が増えた理由。

 前半は柏が保持する時間が長く続いていましたが、後半になると清水も攻撃の局面を増やしてきます。理由の1つがリードされた柏が急所に入れようとするボールが増やしたこと。前半は江坂にボールが入る機会がほぼありませんでしたが、引いて受けに来たり、直接後ろからと江坂を狙う攻撃が見えてきます。この中央を狙う攻撃を清水がカットして攻撃に繋げます。

 もう1つの理由として考えられるのは清水の守備がはまってきたことです。清水の守備は人につけていく守備ではないので前と後ろとのプレスのタイミングが合っていることが重要です。ここが合ってきたため、後半は柏が2トップ脇から簡単にサイドへ侵入できなくなっています。中盤で奪うとリードしている清水は急ぐことなくボランチ中心に相手の空いている場所を使い攻撃を仕掛けていきます。

 基本的な攻撃の狙いは前半と変わらずですが、相手からボールを奪いマイボールにする機会が増加したことが後半清水が攻め込むことができた理由だと思われます。

2.後半の交代カード。

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 柏は63分にハモンロペスを投入。前線の火力を増やしていきます。さらに大谷に変えて手塚、江坂に代えて小泉。ボランチ2枚をバランス型から攻撃的にしてキムポギョンをトップ下に上げます。攻撃にかかるとボランチの1枚もボックスの中に侵入させ、サイド-ハーフゾーンだけでなく中央からもねじ込みにきました。

 対して清水は北川→デューク、金子→石毛、二見→松原。どちらかというと疲労を考慮した交代。しかし85分に松原が入るとシステムを4141に変更。

 前線はテセの必死のファーストディフェンス。中央に人数と火力を増やした柏に対抗してブロック中央に竹内をアンカーとして置き、マークがずれて中央でフリーを作らせないためシステムをマッチアップ状態にします。
 
 アディショナルタイム含めて残り9分でしたが、清水がこのまま守りきり、2-1で待ちに待ったホームでの勝利を収めました。

・雑感

正直言うと現地観戦では、柏が押し込んでいたが運よくリードできた前半、後半は逆に柏が焦って清水が落ち着いて保持できたというように見えていました。しかし見直すとお互いに描いた設計図に沿って試合は進んでいたという印象です。


 柏のプレスと清水の後ろでの保持力、また柏の守備と清水の前線の特徴。この辺りを考えてのヨンソン監督のプランだったのではないかと思います。両チームのやり合いは互角の展開でしたが、結果的には清水のプランが実を結んだ試合でした。


 少ない時間ではありましたが4141システムを実戦でつかえたり、後半プレスのタイミングがあってきて柏に前半ほどポゼッションを許さなかったりと前向きな動きも見られ、結果だけでなく今後に向けて明るい兆候はあったと思います。

 
 長い連戦になりますが、この良い兆候を形にするためにもできるだけ多くの勝ち点を積み重ねていきたいですね。

ハリルホジッチ解任

日本代表のハリルホジッチ監督が解任されました。

かなりの衝撃を受けました。非常に残念で悲しいです。

この解任は完全にどうかしているのでツイッターでもっと悪態をつきたかったのですが、詳しい人がさんざん言っているので止めときます。黒幕のつるし上げみたいになってきてるのも好きじゃないですし。

選手、協会の黒幕や陰謀論が事実だとしてもそこはどうでもいい(よかないけど)。僕は今回の件で日本サッカーの未熟さが一番気になってしまいます。

必ず湧いてくる「俺たちのサッカー」なのですが、まだそこをぐるぐるしてるんかと。世界のサッカーは(この言い方もどうかと思いますが許してくれ)すでに日本のサッカー界とは違う文脈でサッカーを解釈し始めてるんじゃないかと思います。

俺たちのサッカーという物は理解できるし、それはそれでいいんです。でもあくまでそれは見える形の1つであって、そこに至るにどうサッカーを解釈するか、どうやってそれを実現するかを掘り下げているのかと。

僕はしょせんネット戦術君、しかも低レベルな人ですがちょっと心配になってしまう。世界に差を離されているどころか、すでに違うパラレルワールドを必死にグルグル回っているのではないかと。

噂される一部の選手はおそらく監督を解任したいとか主導権を握りたいと考えているわけではないのでしょう。真っ直ぐに自分達の正義を貫いているだけだと思います。ワールドカップで結果を出すために真剣なんでしょう。また協会の人も全員が自己の利益のためというわけではないはず。それなのに毎回繰り返してしまう、残念さ、悲しさ、不安。

そもそも会長が解任理由のひとつに選手の意見をあげるなんて、組織の体としてもサッカーの解釈としてもイカれてるとしか思えないわけです。

もう、代表という一番の上澄みにだけ期待を丸投げするのは無理。これじゃあ、たぶん誰が監督になっても見た目は変わっても出てくる結果はたいして変わらないはず。

結局は日常の日本サッカーが謙虚に地道にレベルを上げていくしかないのではないかと。視野を広げて行くしかないのではないかと。それは育成であり、日本のアマチームであり、プロチームであるJリーグであり、メディアであり、ファンであったり。

ということで今回の代表の最悪のへっぽこさを見て、より一層サッカーを見て、考えていこうと思いました。

僕が何かを変えようというわけじゃないんですけど。ただファンとして色んな見方や楽しさをみんなと共有していきたいなと。見方が広がれば楽しさも変わってくると思うので。もうちょっと見たものを上手く表現できたらいいんですけどね。そこは努力していきたいと思います。