2019年明治安田生命J1リーグ第28節浦和レッズvs清水エスパルス

 

0.スタメンと基本システムf:id:hirota-i:20191009110545p:plain

1.前半【保持する浦和、守ってカウンターの清水】

  浦和はまずボランチの青木をDFラインに降ろして槙野と岩波をSBの位置に開かせる。4バックみたいな形にしてビルドアップのスタート。サイドの槙野と岩波で金子と西澤を開かせてシャドウへのパスコースを作りたかったのではないかと思う。

 この浦和の狙いに清水は上手く対応できていた。下の図がその清水の守備の狙い。

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 ドグと河井は横並びになって442の守備。FWの2人はいつもに比べて前から行かずに下がって真ん中のスペースを消す。清水はFWとSHとボランチの距離を縮めることで中を締め浦和のシャドウへパスを入れさせない守り方をしていた。

 そしてSHの金子と西澤は浦和のCBが持った時は中に絞り、縦パスを出されそうになったら前に出てプレスをかけてボールをサイドに誘導している。
 中を消された浦和がWB(関根、橋岡)にパスを出すと清水のSHはサイドにスライド。SBと協力してはさみ込む。

 清水のSBがサイドに出て行くと浦和はシャドウがSB-CB間を狙う。ここにはCBがついて行きボランチが空いた中央スペースを埋める。そしてサイドからボールを運ばれるとブロック全体が撤退。河井も下がってブロックのスペースを埋めていた。
 中を消すことでサイドに誘導。サイド側のガードを強くしながら撤退して後ろのスペースを埋めてボールを奪うというのが清水の守備全体での狙い。

 守備で強いて気になるところを言うならときおり西澤が前に出てスペースを空けてしまうことくらい。でもそこを使われても上手くサイドに追い出せていたので僕の気にしすぎ、もしくはチームの想定内のプレーだったのかもしれない。

 流れとしては浦和が保持して清水が撤退するので浦和の選手は清水陣内に多く入っていて、自陣には3バックが残っているのみ。さらに清水がボールを奪った時にドウグラスが前を狙って浦和のDFを後ろに引っ張るのでポジトラ時には浦和中盤にスペースができていた。

 今の清水の特徴の1つが攻めに転じた時の思い切りの良さ。ポジトラ時にできたスペースで河井がボールを運んで両SHが一気に前に出てドウグラスと共にゴールを狙う。またはスペースを使ってコンビーネーションで相手をかわしたり。

 一方、清水がボールを持った時は基本ドウグラスへのロングボール。競って落としたセカンドボールを拾ってという攻撃だった。シンプルな攻撃だったので配置が崩れてカウンターでピンチという場面はあまり無かった。

 こんな感じで守ってカウンターという狙いが上手く機能していた前半だったと思う。そして悪くないけど決めきれないなぁという流れの中、二見のスローインからドグが決めて先制。まさに清水にとっては願ったり叶ったりの展開になっていった。

  しかし前半アディショナルタイム、相手陣内でのパスミスからカウンターで失点。この時、橋岡のクロスの前に竹内が金子に対して橋岡を見るよう指示をしている。しかし金子は上がってきた岩波が気になってサイドに出ていくことができなかったように見える。金子が岩波を気にしたのは不意のロストが原因で河井もドグも戻り切れていないからだろう。残り時間を考えればリスクのあるプレーは避けるべきだったと思う。

 

2.後半【変化を出したことが裏目に】

 後半も前半同様に442でセットして守る清水。しかし少し守備局面で前に出て奪いに行ったり、ボールを持った時も後ろで繋いでいこうというプレーが見え始めた。やっぱり勝ち点3が欲しいという考えはあったのだろう。

 かたや浦和の攻撃を見ると前半の途中から少しずつライン間にパスが入るようになっていた。シャドウがブロック内から下がってきたり、サイドのレーンに開いたりと清水の守備が届かない場所へ動き出し始めたのが理由だと思う。さらに興梠もひんぱんに降りて受けようとし始める。清水からしたら「シャドウを消していたら前にいた興梠が隣にいる!」みたいな感じでマークに付きづらかったはずだ。

 そんな感じで前半と同じ形ではあるけどちょっと動きが出てきたよ、というのがが後半の始めの方の流れだった。そして62分に体調不十分だったドウグラスに代えてドゥトラがピッチに入る。それと同時にシステムを4141に変更。

 交代とシステム変更後、明らかに前にプレスしていくようになった清水の守備。

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 プレスの意識が強くなるとマッチアップのずれが明確に浮かび上がってくる。まず左右のCBにはIH(六平、金子)が出ていくという動きははっきりしていた。しかしそうなると後ろのスペースにいる相手のボランチやシャドウが浮いてしまう。例えば六平が岩波にプレスしたら竹内や西澤がスライドして見るのが約束のようだが、竹内は中央のスペース、西澤は橋岡へのパスコースが気になるようでプレスが後追いになってしまっていた。

 その後の監督のコメントを読むと守りを意識しながらもギアを上げて点を狙って欲しいようだった。しかしこれまで4141への変更では「スペース気にせずとにかくガンガン」みたいな動きで点を取ってきたので監督の希望は少し難しいのではと思ったのは個人的な感想。

 そんなこんなでボールを運ばれ始めてしまう清水の守備。75分にはセットプレーの流れから橋岡に逆転ゴールを決められてしまう。4141への変更後は守備の基準がぼやけていたのは事実。セットプレー後にポジションがごちゃごちゃしていた中でのマークはさらに難しくなっていたのだろう。

 逆転された清水は金子、河井に代えて川本とテセ。ここは意図がはっきりしている。もう点を取るしかないので試合をコントロールするよりオープンにしての殴り合い。そのために前をより馬力のある選手に代えたのではないかと思われる。

 ドゥトラのシュートや川本の仕掛けなど前でチャンスを作ろうとするもそのままスコアは動かず1-2での敗戦となった。

 

3.最後に【打つ手の少なさゆえに...】

 前半は最後に失点したものの全体的には狙いを遂行できていた。そして後半62分の選手交代とシステム変更が分岐点になった。ここは多くの人が感じるポイントだと思う。僕も同じ。ではなぜあのような采配になったのか。その推測をまとめにしたいと思う。

 まず後半しばらくして何らかの対策をする必要があったのは理解できる。文中に書いたように前半途中から後半にかけて442での守備を浦和にかいくぐられる場面が何回か出てきたからだ。そのままだとじりじりと攻略されてしまう可能性があった。

 しかしその時選択できる手が4141しかないというのが悩ましいところ。しかもこれまでの成功例を考えると、4141はハイプレスと前線の馬力で押し切る代りにこっちの守備にできる穴も受容するという安定感とは程遠い手段。

 理想を言えば守備の意識はそのままで変化をつける手段があれば良かったのだろうがその手は持ち合わせていない。結局、そのまま何とか耐えるか、思い切って4141に変更するか以外に方法はなかったのだろう。

 そうであればどちらでもかまわないのでもっと明確なメッセージを送って欲しかったなというのが一番の感想だ。できることは多くなくても迷いなくチームを信じてプレーするのが今のエスパルスの強みだと思っている。もし結果的にミスであってもその時の意図や判断を明確に信じて欲しいし、監督にはそういうメッセージを送るような采配をして欲しいと思う。

 

 

2019-2020プレミアリーグ第6節 マンチェスターシティvsワトフォード

スターティングメンバーとチームオーガニゼーション

 

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 マンCは1-4-3-3。中盤はアンカーにロドリ、IHにデ・ブライネとダビドシルバの逆三角形。

 ワトフォードは1-4-4-1-1。

 

 ワトフォードの1列目の守備はトップの7番がCBを、トップ下の8番がアンカーのロドリを見て縦並びになる形。

 マンCはその1列目の守備の脇にIHのデブライネ、Dシルバが降りて受けることが多かった。

 マンCの保持に対して積極的にプレスをかけていくワトフォード。例えばデブライネが降りればCHドゥクレが前に出ていく。

 マンCはこの守備を利用してスペースを作る。先制点の場面の直前。第2レイヤーに降りたデブライネに対してCHドゥクレが前に出ていく。サイドを上がるウォーカーへはSHのヒューズ。ドゥクレとヒューズの間でマフレズがフリーで受ける。ドゥクレは戻ってマフレズを見るが完全にデブライネとの2択状態。デブライネがフリーになって高速クロス。DFラインの裏を抜けたDシルバが合わせてシュートを決めた。

 

 試合を通してマンCのシュートを狙う形の多くがローポストからの速いクロス。徹底してこれを狙っている。

 ローポストの位置を取るために相手のDFラインにスペースを作る。 そのためにワイドに開いてSBを引き出したり、CBを引き出すためにハーフスペースを取ったり。そしてハーフスペースを取るためにIHが降りたりSHを開かせたり。 スペースを作ったら視野外からローポストに向かってランニング。スルーパスが出てクロスみたいな。

 ワトフォードはSHが最終ラインの大外を埋めたり、CHがCB-SH間を埋めたりと2列目が最終ラインに吸収されることが多かった。これはマンCのローポストからのクロスを防ぎたいという意図があったのでは。一方、攻撃の形としては前で引っ掛けてショートカウンターを狙いたいので保持に対しては前からいきたい。実際カウンターでゴールに迫る場面も何度かあった。しかし結果的には2列目にスペースを作りまくるというデメリットの方が大きく表れてしまったのかなと思う。

 

  マンCはこういう狙いでゴールに迫りたいというものがまずあって、そのためにこのスペースを使っていきたい、だから選手がこういう動きをするというのが明確。IH降ろしや偽SBという動き自体を語るだけはたぶんそんなに意味は無くて自分達が使いたいスペースを作るために結果的にそういう動きになっている(たぶん)。

 試合中には1列目の脇をIH降ろしでなくSBを絞らせたり、大外はSBを上げたりWGを張らせたりみたいにそのスペースを使う選手が変化していく。全体のポジショニングは変わらないけど入っていく選手が変わる。同じ動きでスペース取っていると対応しやすいから選手の動きで変化を付けてるのかな。これはただの思い付き。

 

 ワトフォードはDFラインのスペースを埋めたい意図はわかるけど、視野外から飛び込まれたり入って行く選手について行けなかったりと翻弄されてしまった。これなら始めから後ろ5枚にして前向きに守備した方が~というのは解説の戸田さんに同意。でもこの試合だけのためだけ対応して自分達の形から離れすぎてしまうのは長いリーグ戦を考えるとデメリットもあるのではというのもやっぱり同意。

 

 以上、こんな感じで。軽くメモ程度。

 

 

 

 

 

2019年明治安田生命J1リーグ第24節 川崎フロンターレvs清水エスパルス

スタメンと基本システム

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 基本システムは両チームともに4-2-3-1。非保持時には4-4-2でセットするので噛み合わせ上はお互いにSBとトップ下がフリーになりやすいと言える。

 噛み合わせをずらすことでフリーを作りボールを前進させようとする川崎、かたやフリーになりやすいSBを起点に質で優位性のあるドウグラスへボールを届けようとする清水。両者の保持時の狙いの違いにも注目したい。

 スタメンを見ると清水はGK大久保とSH中村の起用が前節との変更点。前節の札幌戦が0-8と大敗だったためテコ入れの意味合いもあったのだろう。

 川崎は前節出場停止だったCBジェジエウと谷口がスタメン復帰。その他にもFWレアンドロダミアン、SH斎藤、CH守田と計5人のスタメン変更。

 1対1で質を発揮できる選手を多く起用してきたが、これは清水への対策を強く意図しているのだろうか。

 

 1.清水の非保持時の狙い「中央を閉じる」

 川崎のビルドアップはCHが1枚降りて3バック化、SBを高い位置に上げる、SHが内側に絞る。そして中盤の選手が2トップ脇に降りてきて後ろからのボールを引き出し前進していく。

 これに対する清水の守備は下のような形。

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①2トップのドク、河井が背後のCHを警戒しつつ川崎の後ろ3枚にプレスをかける。

②相手CBがサイドまで開いたらSH中村、西澤が縦パスを切るようにプレス。SBに出されたらSHがそのまま付いていく。

③ハーフレーンを降りてくる相手SHにはCHのヘナト、竹内が付いていく。

④CHが相手のSHに付いて前に出たら、もう1枚のCHがスライド。例えばヘナトが前に出たら竹内がスライドして中央へのコースを消す。

 

 つまりはプレスする相手を明確にしつつ背後のスペースを消すのが狙い。篠田監督も試合前に「バラバラに行かないこと、中央をしっかり閉じて」とコメントしている。

 川崎のSBに清水SHが付いていくのは、4バックが開きギャップを作ってしまうのを防ぐためだと思われる。しかし自陣まで運ばれた時はSBが出て行き、その際に開いたCB- SB間はCHが下がって埋めるのが約束事だったよう。

 これらの動きで、少なくとも試合の序盤は後ろからクリーンにボールがライン間に入る場面は無かったと思う。

 中を締めている清水の守備に対して川崎はサイドを活用して前進する。一度サイドの高い位置に上がったSBにボールを入れて清水のSBを引き出す。そしてSHがCB-SBの間を狙う。

 川崎の先制点も同様にサイド経由からのCB-SB間狙い。再三見せていた形が得点に結びついた。

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  マギーニョに入れることで松原をサイドに引っ張り、開いたSB-CB間を斎藤が突破してクロス。

 この時、清水の守備も約束通りに対応している。西澤が中を切って、サイドのマギーニョへは松原、開いたCB-SB間を抜ける斎藤には竹内が付いている。しかし斎藤の突破と二見を押さえて決めたレアンドロダミアンのシュート。共に個の打開力で川崎が上回った形だった。

 

2.清水の守備を押し込む川崎の保持

 試合開始後しばらくは高い位置で規制できていた清水の守備だが徐々に川崎に押し込まれていく。

 前半途中から中村憲剛が低い位置に下がってボールを受けるようになっていた。ボールを受ける位置は清水の2トップとSHの間。2トップが行くのか、SHが行くのか迷う位置。

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 中村憲剛やCHの守田、下田が2トップ脇でボールを出し入れしながらサイドで数的優位を作りながらボールを保持する川崎。

 ドウグラスと河井が背後が気になり高い位置にプレスに行けなくなるとそのまま自陣に押し込まれる状態になっていった。清水の守備は前向きにプレスを掛けているいる時は後ろのスペースを意識できるが、戻って守る時はスペースの管理を個々の判断に依存する傾向がある。

 右SH中村は相手のSBが気になりサイドに開いた状態になり、左の西澤は対面のジェジエウが気になるようだった。また川崎がサイドでボールを回すとヘナトもサイドに流れてくるので2列目の守備は横に間延び。開いたスペースを埋めるため河井とドウグラスが中盤まで下がってくるとより押し込まれる状態に。後ろに人数をかけてなんとか耐えるというのが前半終わりから、後半の途中までの流れだった。

 

3.清水の保持について。いくつか気になったこと

(1)立田で詰まる理由

 清水はCB2枚でのビルドアップスタート。CBが左右に広がりフリーになりやすいSBにボールを入れてそこを起点に組み立てていく。この試合では特に右サイドの立田に入れて攻撃を始めることが多かった。

 立田はボールを受けると中に絞るSHやトップ下の河井に斜めのボールを入れるのが第一選択肢だったよう。これまでの清水の攻撃戦術を見てもサイドから中にボールを動かして相手のサイドバックの裏を狙うのが1つの形になっている。

 川崎の非保持のシステムは4-4-2。トップ下の中村がスイッチになりサイドを限定。立田にボールが入ったら積極的にSHが前に出て中村と挟み込むようにプレスをかけていた。

 川崎がSBを狙い目としてプレスを掛けていた。にもかかわらずお決まりのようにSBにボールを入れて独力で打開させていたのが立田で詰まる理由だったと言える。

 札幌戦でも同様なボールの動かし方をしていて結果はあの通り。ここは個人に原因を求めるよりチームとしてのボールの動かし方を考える必要があるのではないだろうか(エウソンなら独力で行けるから関係ないけど)。

(2)攻撃ルートを変えていく竹内

 何度か右サイドで詰まって奪われると竹内がDFラインの降りて後ろ3枚でビルドアップをスタートするようになっていった。

 竹内は一度右サイドの立田にボールを預けて相手の守備を右に寄せると貰いなおして直接中央のドウグラスにくさびを入れるプレーを多く見せていた。

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 上は清水の1点目のきっかけとなるドウグラスへくさびのパスが入った時の配置図。右サイドで動かし守田を右サイドに寄せてCH間を開かせる。開いたCH間に竹内からドウグラスへの縦パス。

 ドウグラスはこの前にも何度か同じようにCHの間(守田、下田の間)でくさびを受けていた。これは狙ったプレーであったのだろう。

 ここで受けたファールによるフリーキックドウグラス本人が直接ゴール。「はいはい、しょせんドウグラスですよね」と言いたくなるところだが、それ以前にビルドアップの経路を変えたことがこのゴールを生み出したとも言える。

(3)メリットとデメリットのバランス

 中央のドウグラスに直接ボールを届けることで同点に追いついた清水。しかし直接ドウグラスにボールを届けることのデメリットも。上の図をもう一度見て欲しい。もしドウグラスが奪われ攻守が入れ替わった場合に斎藤の周囲に清水の選手がいない。そして川崎は非保持時に斎藤をやや高い位置に置いていため、彼をフリーにしてカウンターを浴びる場面が増えてしまった。

 ただし前半の終わり頃には中央への縦パスから左サイドの松原を使いクロスという攻撃が増えてきた。さらに言えば後半に入るとドウグラスの足元でなく頭に合わせて後ろにフリックを狙い前向きに奪われることを避けようという意図も見られた。ドウグラスへ直接入れるボールはカウンターを受けやすいというデメリットに対する意識はあったのだろう。

 

4.後半の選手交代についての考察

(1)清水の2点目に繋がる金子の守備

 後半に入っても川崎が保持して自陣に押し込まれるという流れは続く。むしろSHが2列目を閉じられない、中盤を埋めるため1列目が下がってしまうという傾向がより強まっていた。

 清水は61分に中村に代えて金子を投入。金子は2トップと同じ高さまで出て行き川崎の後ろ3枚での保持に対して同数でプレス。ボールをサイドに動かされても中へのコースを切りながらSBに付いていく。金子のボールの位置に合わせたポジショニングにより中のスペースが消え、再び高い位置からのプレスがはまり出した。

 65分にはカウンターからヘナトのゴール。ヘナトがボールを奪取する前、金子はサイドと内側の両方を見られるポジションを取りながらCBを牽制している。これによりパスコースが限定されヘナトの奪取に繋がっている。

 ヘナトのプレーが賞賛されるのは当然として、金子の守備もこの得点に大きく寄与していたのは間違いない。

(2)3バックにした効果

 77分に河井に代えて鎌田。同時にシステムを4-2-3-1から3-4-3に変更。守備時には5-4-1にセットして守る。5バックにして相手のSBにWBを当て、ギャップを狙ってくるSHには左右のCBが対応する形。これで川崎の攻撃の狙いに対して明確に人を当てた守備をすることができる。

 一方、1列目が1枚になりその脇からボールを運ばれるため守備ブロックの位置は低くなる。

 高い位置からプレスをかけてゴールに近づけないか、運ばれてしまうのを前提に後ろのスペースを消すか。結果論になってしまうのでどちらが良かったかは言えない。

 ちなみに小林に決められた同点ゴールはコーナーキックを弾いてからの流れなので交代策の影響だけとは言い切れないような気がする(少し弱気な考察)。

 

5.最後に一言

 一度は逆転からリードを奪っただけに、守りきれず引き分けになってしまったのは残念だった。

 しかし失点は直接的には1対1での個人の力の差。得点もドウグラス、ヘナトの個の力によるとこが大きいがそれを生かす背景はチームで作っている。内容も上位相手に引き分けという結果も、どちらもそれほど悪いものではない。

 このチームに関して、大量失点しても極端に悲観することはないし、連勝してもこれで上向きだと安心することもないというのが個人的な見解。見えている特徴は監督交代して初戦の大分戦から変わっていないので、この先もこの戦い方に大きな変化はないだろう。

 戦術のセオリー的な面から考えると組織として多少いびつなところはあるのは否めない。しかし、そこを整えるより「前向きにプレスを掛け続ける時間をできるだけ維持して、かわされたら個々が素早く相手を捕まえる状態を作る」という今のサッカーをどうやりきるかを追及した方が結果に繋がるのではないかと思っている(ギリギリかもしれないけど)。

 その視点で見れば今のチームができることは発揮してくれた試合だったと評価していいのではないかと思っている。

 

2019年明治安田生命J1リーグ第22節 名古屋グランパスvs川崎フロンターレ

はじめに

 結果は3対0で名古屋の勝利。内容も名古屋が押しており、ここまでの大差になるのは驚きだった。

 果たして川崎は何が上手くいかなかったのだろうか。清水サポの私としては24日に行われる清水vs川崎の予習も兼ねてそこに注目してみたい。

 まずスターティングメンバーと基本システムは下図の通り。

 

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1.川崎Fの保持:名古屋の非保持

 川崎の保持は後ろで数的優位を作り前進していく。そして相手のファーストディフェンスを外したらまず中盤とDFラインの間、ハーフスペースに位置する選手にボールを入れることを狙っているようだ。

 川崎が保持した時の動きのイメージは下図。

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 スタートはCHがCBの間に降りて3バック化し相手2トップに対して数的優位を作る。

 そしてSHが1枚の降りて2トップ周辺に2人(さらにもう1人降りる時もある)。1人が相手2トップの後ろで注意を引き付け、もう1人が脇でフリーでボールを受けようとする。

 そこからハーフスペースの中村やSHに縦パスというのが第一選択肢のよう。SBをサイドの高い位置に上げているがそちらは中が使えない時の選択肢。一番はまず中を狙うよというボールの動かし方だった。

 ライン間に入ったらそのパスがスイッチになり中央を前線のコンビネーションで動かしてDFラインのギャップやサイドの裏を崩していくのがゴールを狙う形のようだ。

 一方、名古屋の守備は強く前から奪いには行かずにミドルゾーンに縦にコンパクトな442のブロックを構えていた。

 特徴的だったのが左SHの和泉が頻繁にDFラインまで下がり532のような形になっていたことで、これにより川崎の右SB車屋が使いたいスペースが消えていた。

 当然中盤の脇が空くことになるのだがCHシミッチの守備範囲の広さと、2トップのシャビエルやジョーが中盤をフォローするように下がることでそのスペースをカバーしていた。逆に左SHの前田はそこまで下がらずどちらかというと前を見るような守備をしていた。

 川崎としてはこの構造から中盤の両脇から攻めれば良さそうだとは感じたが、川崎はまず内側にボールを入れるのを狙っているようでサイドから相手をずらすような仕組みは見られなかった。

 川崎の特徴はボール周辺に人を近づけてショートパスによるコンビネーション。名古屋は中盤サイドを空けても和泉を下げてDFラインのギャップを無くして、サイドに逃げようとしても5バック状態でサイドのスペースを消している。おそらく意図的にこのような状態を作っていたのではないだろうか。

 

2.名古屋の保持:川崎Fの非保持

 キックオフにはそのチームの特徴が表れるという。前半開始のキックオフは名古屋。FWがCHネットに戻すとネットは相手のDFをドリブルで剥がしFWのジョーに縦パスを入れた。対面の相手を1枚剥す。ジョーのポストを使うという2つのプレー。これが名古屋の攻撃の特徴と言えそうだ。

 名古屋はジョーが降りてきてポスト。ジョーが動くことでできるスペースをシャビエルやSHが使う。

 また左サイドを和泉、シミッチ、吉田の三角形で崩して吉田を相手SBの裏に送りこむパターンも多い。

 ポジトラでは右SHの前田がやや前残り気味でそこが出口になっていた。

 川崎の守備はセットして待ち受けるよりボールホルダーに早めにプレスをかけていく。しかしマンツーマンではなくプレスに出たらその周囲の選手がカバーする約束のよう。しかし基本プレスに行く意識が強いのかカバーの約束事が曖昧になる時がある。例えば9分。名古屋左サイドで脇坂が吉田のマークについていたが和泉にボールが渡ると脇坂は吉田のマークを外し和泉にプレス。SBの車屋も和泉を見ていたためマークがかぶり吉田のマークが外れてフリーで裏を取られた。

 また川崎の2失点目は名古屋DF中谷が運んで中村憲剛を剥がし後方が次々と局面的に(川崎1人:名古屋2人)の状態になってゴール前までボールの前進を妨害できなかった。前から行ってはまらないと後ろの守備は薄くなりそうだ。

 

3.後半選手交代による川崎の変化

 川崎は後半開始と共に脇坂に代えて齋藤、59分に山村に代えてレアンドロダミアン、71分に中村に代えて家長を投入。

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 システム表記だと433のような。実際は齋藤と阿部はサイド寄りの前に出て、登里がやや内側に絞って後ろからのビルドアップに関わる形。

 この配置ならダミアンで深さも取れるし齋藤でサイドも使えるとバランスはいい。

 バランスをもあるがそれ以上に川崎はいかに相手陣内に人とボールを入れていけるかか重要そう。登里が後ろの繋ぎに参加することで前から人をが降りる必要がなくなった。前目に人数を掛けて家長が前線で自由っぽく動きボールの循環をスムーズにしていく。この形で上手くいきそうに見えていただけに79分に谷口が退場してしまったのは残念だったなと思う。

 

4.最後に

 3-0の結果はチーム力の差より相性とゲームプランもあったのかなと思う。前から奪いに行きたい川崎と対面の相手を1枚剥がしてからボールを進めるような名古屋。ベクトルが逆になりずれると2点目、3点目のように1枚剥がされて後ろが芋づる式に守備側が不利になって奪われしまうみたいな。

 その点、名古屋の方がまずミドルゾーンにブロックを構えたり、和泉を低い位置に下げたりと守備面で相手への対策を意識していたようだ。

 逆に川崎は相手の弱みを突くより自分達の強みを出していこうとしていたように見えた。それが名古屋の守備にもあった隙を上手く突けなかった理由かもしれない。

 川崎の強みはボールに関わる人数を多くして選択肢を増やし相手の守備の逆を取ることだと思う。その強みは相手ゴール前で出された方がより恐い。そう考えると後半家長が出てきてからの川崎の攻撃の方が本来の彼らの強みに近いようだ。

 清水との対戦では、前回は0-4と散々なものだった。しかしこの試合の前半のように中盤が列を降りて強引にライン間にパスを出させる展開に持っていければ勝機があるかも知れない。

2019年明治安田生命 J1リーグ第20節 清水エスパルスvsFC東京

1.スターティングメンバーと基本システム

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 清水のシステムは変わらずの4-2-3-1(4-4-1-1)。CBは出場停止明けのファンソッコの復帰も考えられたが立田が前節に引き続きスタメン。

 FC東京のシステムは4-4-2。前節はSHでスタメンだったナサンホ(味スタでの同点弾はトラウマ 泣)がベンチ外。今節は代わって大森が起用され右のSHへ、そして東が左SHに入っている。

  システムの噛み合わせを見れば中盤と後ろは4-4でマッチアップに大きなずれはない。前線のドウグラスと北川が縦並びになっているのが唯一ずれる場所。

 清水の攻撃時には北川がスペースで受けられるか。守備時には北川は前に出て噛み合わせていくのか、縦並びのままCHを見るのか。システムからの注目点はそんなところだろうか。

 

2.機能しなかったエウシーニョシステム(清水の攻撃)

 引く時はしっかり引いて裏のスペースを消す。縦幅は中盤と最終ラインの間をコンパクトにする、横はスライドやプレスバックでスペースを与えないというFC東京の守備を攻略できなかった。多少戦術は違えどサガン鳥栖との対戦時と同じだ。

 そんな時に頼りになるのがドウグラスエウシーニョの個人での打開力。この試合でもお互い長いボールを蹴り合いスペースがあった開始直後は、エウシーニョのチャンスメイクやドウグラスを経由したカウンターなどでフィニッシュを狙えていた。しかしその攻撃も次第にその強みが消されていく。その理由を考える。

 まずFC東京の守備は、2トップはCBに強くプレスをかけながらもボールがサイドに動いていくと必ずもう1枚はプレスバックしてCHを見るような立ち位置を取る(特に永井はめっちゃ追いかける。守備しすぎで反則にすべし!)。

 中央を消しながらサイドに誘導してエウシ-ニョにボールが入ると左SHの東が即チェック。さらに中盤と最終ラインはボールサイドにスライドしてブロックを圧縮していた。

 前が詰まるとエウシーニョは得意の内側へドリブルで相手の中盤を剥がしたいのだが、ボールを運ばれるとFC東京の2トップがプレスバックして中盤の前を埋めているためそのスペースが無い。特に先制後のFC東京は2トップが清水のCHのラインまで引いて守りを固めていた。

 そこでエウシーニョが強引にブロック間へパスを出し相手の守備に引っかかることが多くなる。ボールを奪ったらすかさずエウソン裏にディエゴオリベイラを走らせカウンターに繋げるのがFC東京のポジトラの形になっていた。

 保持しても詰まることが多くなると清水の中盤は列を下げてボールを受けようとしたり、サイドに人を集めて数的優位を作ろうとする。しかし相手のブロックを動かせなければそれらの動きのデメリットが目立つ。

 例えばの1失点目は北川が列を下げてブロックの外でボールを受け強引にミドルシュートを撃ちそれを弾かれたのがきっかけ。

 またサイドで数的優位を作る時はトップ下の北川がボールサイドに寄っていくが、北川が組み立てに参加すると崩してもゴール前にドウグラスと逆サイドのSHしかいない。昨年と違い得点者がドウグラスに偏っているのはこの仕組みが理由だと思われる。

 DAZN配信で紹介されたデータによると前半清水は左サイドからの攻撃が53%、右が29%となっている。この数値はエウシーニョが止められていた前半の状況をよく表しているのではないだろうか。

 

 3.サイドを崩して中央を使う(FC東京の攻撃)

 開始しばらくは様子を見るためかボールを持つと長いボールを早めに前線に入れてきたFC東京。しかし先制点を挙げたあたりからFC東京が保持して清水が守るという展開になっていく。

 

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 上の図がFC東京の攻撃のイメージ図。

 FC東京はサイドでSB、CH、SHの三角形を作っての前進。サイドから前進して詰まれば無理をせず戻してサイドチェンジ。逆サイドでも同様に三角形を作り頂点を循環させながら崩していくという形。

 清水の守備はかなり人への意識が強くサイドからサイドに振られると両サイドに中盤が寄って中央に人がいない状態になっていた。そこにサイドからの崩しだけでなく中央のスペースに高萩が入ってくる。

 清水は通常はトップ下の北川が相手のCHの1枚を消すのだがこの日はドウグラスと北川が横並びになることが多く、相手のCHに中盤ラインの前でボールを持たれていた。これも高萩や橋本に中央でボールを持たれてしまった要因だろう。

 さらに相手のパスを弾いてもサイドに守備者が寄って中央に人がいないためセカンドボールを相手に拾われカウンターに移行できない。逆にFC東京はしっかりボールを保持して全体を押し上げ、ネガトラ時のスペースを消していく。

 清水がカウンターに移行できても、守備時に相手のポジションチェンジにそのまま人がついて配置が崩れていることで前線に人を送り込むことができない(上の図のように中盤の選手がDFラインにDFラインの選手が中盤にいることが多々あった)。

 決してマンマークが悪いというわけではないのだが、もう少しスペースを意識したり、ボールが離れたら配置を整える意識があった方が良いような気はする。

 

4.清水のシステム変更の流れ

 前半に2失点を喫した清水は35分頃に4-1-4-1にシステムを変更。これまでの試合と比べて早めのシステム変更だった。前半早々の2点ビハインド。流れも完全に相手ペース。変化を出して早めに1点でも追いついておきたいという監督の意図だろう。

 1トップとIHを1枚前に出して相手のCBにハイプレスをかける清水。しかしFC東京はGKが早めに前に蹴り出すことでプレスを回避する。

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 GKが前に蹴ったボールはディエゴオリベイラが競ってヘナトの脇に絞ったSHが拾う。1列目の猛プレスを回避されるとヘナト周りが空いてしまうのは篠田4-1-4-1の泣き所だ。

 もし清水側が競り勝ちボールを奪えばそれまで同様2トップが制限しながらしっかりブロックを作って守るFC東京

 相手に蹴らせる、後ろでは保持できるので保持率は取り戻す清水だが(15-30分には29.7%だった保持率が31-45分には41.7%~Football LABのデータ参照)狙い通りの展開を作れていたかというとそうとも言えない4-1-4-1へのシステム変更だった。

 FC東京は67分にディエゴオリベイラに代えて三田。東がトップ下の4-2-3-1。2列目の3人は中央に寄ってプレーしていたように見えたのでヘナト周りのスペースを使おうとしていたのかなと思う。

 守備ではちょうど東がヘナトを見る位置なので逃げ切りを考えて守備強化の意味合いもあったかもしれない。

 清水は80分に河井に代えて滝を入れ3-4-3と2度目のシステム変更(配置は下図参照)。

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 この図で何が言いたいかというとFC東京の守備は立田に大森、エウシーニョに小川を当ててきたので滝がサイドに流れると相手のSB裏を取れる。

 しかし実際はブロックの中で受けようというプレーが多くそれはどうだったのかなということ。

 松原とエウシーニョをWBにした3-4-3なのでサイド攻撃が狙いかなと思ったがそこまで徹底したものではなかった。

 

5.最後に。

 早めに2失点してしまったのが試合を難しくした一番の要因だと思う。恐らく1点差なら4-1-4-1への変更は後半からだっただろう。

 篠田監督のシステム変更は相手のシステムとの噛み合わせや配置で優位性を狙うというより、変化で相手を混乱させるという意味合いの方が強いのではないだろうか。

 相手のシステムに関係なくスタートは4-2-3-1。そして必ず4-1-4-1から3-4-3の順番でシステム変更していくというのがその理由だ。

 FC東京の守備の固さを考えれば早めに1点を返しておきたかったが、まだ体力も頭もフレッシュな相手に落ちついて対応されてしまったのは苦しい状況だっただろう。

 それでも4-1-4-1を引っ張って残り10分でシステム変更を機に逆転を狙うなど、できる範囲で手は打っていたと言える。

 しかし、4-1-4-1のプレス回避や守備時にできるスペースなど相手にとって狙い目となる場所は見え始めている。そこは早めに対応する必要があるだろう。

2019年明治安田生命J1リーグ第17節 サガン鳥栖vs清水エスパルス

1.始めに

 篠田監督就任して初の敗戦。前半こそ先制されても追い上げる勢いを見せた清水だったが、期待された後半は1点も加えることが出来ずに試合終了。なぜ清水はこれまでのような勢いのある攻撃ができなかったのだろうか。

 今回はまず鳥栖の守備の狙いに注目してみたい。そして清水はそれにどのように対応していたのか、お互いにどんなやり取りが行われていたかについて書いていきたいと思う。

 

2.スターティングメンバーと基本システム

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 清水のシステムは4-2-3-1(もしくは4-4-1-1)。システム、スタメン共に前節同様。左SHの西澤はこれで2試合連続のスタメン。監督からの評価が高まっていることが窺われる。

 鳥栖のシステムは4-4-2。システムはこれまでと変わりがないが、スタメンはトーレス、クエンカ、原と前節から3人が変更されている。ここ3試合は勝ち星から遠ざかってはいるが、監督交代してからは上位からも勝ち星を奪い、個々の能力も高いチーム。順位こそまだ下位だが決して油断のならない相手であるのは間違いないだろう。

 

3.消された清水の強み(鳥栖の守備を見る)

 清水の攻撃での特徴は何か。僕は相手SBを動かしそこをシンプルに狙うというのが篠田監督が就任してからの清水の攻撃の特徴だと考えている。さらにその攻撃の起点となるのがCHの竹内。しかしこの試合では鳥栖の守備によってこれら清水の強みとなる部分は消されてしまっていた。

 鳥栖の2トップは清水のCBが後ろで持つと、竹内とヘナトへのコース上に立ち中央へのパスコースを塞ぐポジションを取っていた。

 そこから、まず鳥栖の右サイドの守備を見る。

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 中へのパスコースを遮断されると二見はサイドに開いて2トップ脇にボールを運んでいく。そこへ金崎が中を消しながらプレス。そして上の図のように中盤以降の選手が中央とハーフスペースで受けようとする清水の選手へのパスコースを遮断するようにスライドしていく。

 これで前へ長いボールを蹴らせて回収。また二見からサイドの松原へ出せば、

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SHの安がサイドへスライド。その際、SB小林はDFラインから動かない。

 松原から竹内へ中へのパスはトーレスが塞ぎ、サイドからのクロスには中に人数を固めて跳ね返す。またSBが動かないので西澤が使いたいスペースも開かない。

 次に右サイド。

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クエンカがエウシーニョへ、原が金子へと早めに人を捕まえるような守備。開いたSB-SH間はCHがカバー。

 こちらは中外と動いて決定的な仕事をするエウシーニョをフリーにしたくない、またクエンカを後ろに下げたくないという意図からはっきりと人をマークしていたのではないかと推測する。

 鳥栖はこのように中央で竹内にボールを持たせず、また左右で動き方は違うが清水が攻撃で使いたい場所、つまりSBのいるスペースを使わせなかった。

 前半20分頃まではやや左サイドの守備がやや不安定だったが(少し人に噛みつき過ぎだったか?)、それ以降は上手く清水の攻撃を押さえていたと思う。

 

4.クロス対応

 鳥栖の攻撃と清水の守備についても軽く見ていく。

 鳥栖の前進は主には左から行われているようだった。クエンカがハーフスペース、サイドの大外の同じ高さまでSB原を上げ、その下にCHの原川。この左サイドの三角形でサイドを崩していた。

 ボールを前進させると鳥栖は左サイドの原から、また左から右へサイドチェンジして外に張っている安がDFラインの横から速いクロスを何度も上げていた。

 清水はこの試合4失点しているが、その内の2点は右からのクロス(もう2点はフリーキックから)。

 おそらく清水DF陣のクロス対応の弱さを狙っていたものだと思われる。

 

5.試合を締める鳥栖 vs システム変更での打開を狙う清水

 後半開始早々に清水は金子に代えて中村。ここではシステムの変更はなし。

 次の選手交代は鳥栖。53分に右SH安に代えて高橋。高橋がCHに入り、福田をSHに回す。CHができる選手を並べることで右サイドの守備のスライドが一層スムーズになった。守備面を考えての交代だと思う。

 清水は66分に竹内に代えて六平。同時にシステムを4-1-4-1に変更する。後半途中での4-1-4-1への変更からハイプレスをかけてやや停滞気味の試合をオープンにすること、起点となる竹内が抑えられていたので中央の位置からボールを前に運べる六平の投入の意図か。

 しかしこれまで何度も奇跡的な逆転劇のきっかけとなった4-1-4-1もこの試合では上手く噛み合わない。

 というのも鳥栖は前が詰まれば躊躇なく豊田に向かってロングボール。またボールを持つとピッチいっぱいに選手が広がるためプレスに行く距離が長くなり結果的に清水の守備も大きく広がってしまう。

 

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 この状態だと清水の守備の短所が目立ってくる。数的不利でも前にプレスに行き、IHが出たスペースからアンカーのヘナト脇を使われる。

 攻撃でも鳥栖が低い位置にコンパクトなブロックを作るためシステムのずれを利用できなかった。

 システム変更は空回りかと思われたが、篠田監督の判断は早かった。4-1-4-1がはまらないと見るや74分に北川に代えて滝。システムをヘナトを3バックの中央に入れた3-4-3に。中央を塞がれるなら松原、エウシーニョをWBとして外からボールを動かし、3トップで相手のDFラインに襲い掛かる。

 しかし、滝の惜しいシュートなどチャンスも作ったがスコアは動かず試合は終了。2-4で悔しい敗戦となった。

 

6.最後に
 鳥栖がこれまで見せてきた清水エスパルスの特徴を上手く押さえた試合と言って良いだろう。明確な特徴がある以上必ず対応される。まさに新たな課題を突き付けられた形だ。

 しかし、この試合中でも采配によってその課題をクリアしようとする姿を見ることができた。敗戦という残念な結果ではあったが、相手がこちらの強みを消す、それにこちらも対応して上回ろうとする。チーム同士のやり取りは楽しい試合だった。

 チーム成長していく過程では必ず課題を乗り越えなければならない。僕は、壁に当たったことを悲観するよりも課題をどう乗り越えていくかを楽しみにチームを追っていきたいと思う。

 

 

 

 

2019年 明治安田生命J1リーグ第14節 松本山雅FC vs 清水エスパルス

noteに書いた記事に加筆、修正したものです。元記事はこちら。

note.mu

1.始めに

 システムというと難しく感じる方もいるかもしれません。システムとは要は選手の配置の目安。なので複雑に考えずファンにとっては試合を見る時の目安、ガイドにみたいに考えてもいいかもしれません。

 もちろん、サッカーの試合は色んな要素が複雑に絡みあっているのでシステムの理屈通りにはなりません。でも何となくでも試合の目安みたいなものが見えていた方が理解しやすくなるのではないでしょうか。

 というわけで今回は両チームのシステムに注目して松本戦をザクッと振り返ってみたいと思います。

試合の局面を、「自分達がボールを持っている局面」と「相手がボールを持っている局面」の2つの分けてそれぞれの局面でお互いがどういう振る舞いをしているか見ていきます。

 

2.清水がボールを保持している局面

 両チームの基本システムは、清水が4-2-3-1、松本が3-4-2-1。このシステムの噛み合わせで図にしてみます。清水が上から下へ攻めていくと考えてください。

 当然、試合中に選手は動くのでこの通りにはなりません。でもどこを見るかの基準があればいいので、とりあえずこの噛み合わせからフリーになりそうな選手や場所を探します。

 まず①の清水のゴール前。清水のディフェンスラインが4人で松本の前線は3人。松本が前からプレスに行っても清水の選手が1人フリー。そこからボールを運ばれそうです。

 次に②のサイド。1vs1だけど位置がずれています。このままだと金子選手や中村選手がフリーになって3バックの脇を突かれそうです。また北川選手が中央で浮いているのでそこも注意が必要になりそうです。

 こんな感じでフリーになりそうな場所のめどをつけました。そうしたら次は試合中に、その場所でどう振る舞っているかを見ていきます。

 松本はどう振る舞っていたかというと、シャドウの杉本、前田両選手を中盤サイドに回して下の図のように5-4-1という配置に変化をしていました。

 これで中盤と後ろは数的優位。しかもサイドは誰が誰を見るか守備の基準点が明確になっています。システムの噛み合わせ的には、清水は攻めあぐねる形です。そこで今度は清水が少し形を変えていきます。

 清水はセンターバックソッコ選手や二見選手が左右に開いたり、ボランチの六平選手がサイドに出て、松本のシャドウの前に立つような位置取りをするようになりました。

 松本は明確になっていた守備の基準が再びあいまいになってしまいました。さらに清水はボールサイド側の3人がサイド、ハーフスペースにポジションして三角形を作る、または北川選手を加えて菱形を作ってボールを動かしているようにも見えました。

 対する松本は、サイドに出てくる選手(図で言うと二見、六平)にはシャドウが対応。エウソン選手、松原選手にはウイングバックがという守備基準を取ることが多くなります。

 ウイングバックが前に出てしまうと金子選手や中村選手を見る選手がいなくなり、彼らが相手の3バックの脇を突きやすくなっていきます。

 また清水は北川選手が3バックの脇に流れてHVを開かせる、入れかわるように金子選手が内のレーンに入っていくなど、ポジションを交差しながら相手を動かしスペースを突いていきます。

 76分にはドウグラス選手がペナルティエリア内で倒されPKを獲得。この場面も仕組みは同じです。

 二見選手がサイドに動くことで本来(前田-松原)、(田中-中村)だったサイドの守備基準がずれて前田選手が二見選手を見る形になりました。松原選手をウイングバックの田中選手が見るので、中村選手がフリー。それはまずいと3バックの右の今井選手が中村選手について行き今井選手がいた場所がフリースペースになりました。

 そこにドウグラス選手が入っていったことでキーパーと1対1になる。という構図でした。

 5-4-1で中央を塞ぎ、サイドの守備を明確にした守る松本。それに対してサイドからずれを生じさせた清水。そして最終的にはディフェンスラインに出来た穴を突く。これが清水が保持した時の流れになっていました。

 

3.松本が保持している局面

 松本が保持する局面でも同様に基本システムを噛み合わせて、フリーになりそうな選手や場所を予想してみます。

 まず①の松本のゴール前。3バックの左右がフリーになりボールを運べそうです。

 ②のサイドや③の清水ゴール前。人数はいるけど位置がずれています。なので誰が誰をマークするか曖昧になりそうです。

 ではそれに対して清水はどう振る舞っていたのか。清水は松本とは逆に前から数的不利の場所を埋めていきました。

こんな感じです。

 清水はサイドにボールを誘導してその周囲のパスコースを全て塞いでいきます。さらに北川選手とサイドハーフの選手が後ろへのパスコースを消しながら(カバーシャドウの動き)ボールを持った選手にプレッシャーをかけます。そしてこのサイドの網の中で奪ったり、相手が苦し紛れに蹴ったボールを回収するという形です。

 松本の方はというと、清水の前プレを飛び越えてしまえとレアンドロペレイラ選手へのロングボール。そして、その裏を前田選手が狙います。清水はレアンドロペレイラ選手を二見選手がマーク。その裏はソッコ選手がカバー。後ろから直接蹴られる分には人数が揃っているので問題なし。

 問題となったのは前のプレスがずれた時。特に北川選手の守備がずれると、前ではめこみたい清水はボランチの選手が前に出てきてプレスをかけにいきます。すると中盤にボランチが一人しかいない状態になり縦パスをスパンと通されてしまいます。基本的に清水は前へのプレスを回避されたら後ろは自分の前方へ根性のマンツーマンでついていきます(下の図)。

 マンツーマンでついていくとシステムの噛み合わせ上、清水ゴール前で松本のシャドウが一人浮いている形になり、そこからピンチになりやすいという構図です。

 42分に六平選手が杉本選手を倒してイエローカードをもらったのはこの構図通りのプレーでした。

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 松本はこの場面以外でも右シャドウの前田選手が左側にが流れることが多くそこにソッコ選手が噛みつくと二見選手との間が大きく開きます。その間に2列目から入って行くとフリーになりやすくなっていました。

 また64分にPKを与えた場面。きっかけはボールを奪われたところからでしたが、強いマンツーマンの意識でセンターバックが引っ張られる、間のスペースが開いてそこをボランチが後追いで追いかけるのでファールになりやすいという仕組みが原因になっていました。

4.最後に

 以上、システムの噛み合わせに沿って試合の流れを追ってみました。始めにも書いたようにシステムの理屈通りに試合が進むわけではありません。しかし、サッカーは11人と11人で行われるスポーツ。誰がどこでどういうプレーをするかは間違いなく試合に影響を及ぼします。試合の開始前に注目ポイントを考えたり、試合後に振り返る時、システムの噛み合わせに注目してみるのも楽しいのではないかと思います。