2020年明治安田生命J1リーグ第11節 清水エスパルスvs横浜Fマリノス レビュー【ガチンコのぶつかり合い】】

 

1.はじめに

 昨年のJ1リーグ王者横浜Fマリノスとの対戦。お互いが目指すサッカーの共通性からどうしても特別な感情を抱いてしまうチームです。おそらく多くのエスパルスサポーターにとっても楽しみな試合だったと思います。

 試合内容もそれを裏切らない素晴らしいものでした。両チームのゴールを奪う意志のぶつかり合い。結果は3-4の敗戦でしたが心に熱いものが残る試合でした。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3

 週2試合の鬼の連戦真っ只中。複数人のスタメン入れ替えも予想されましたが、ふたを開ければ変更は右サイドバックの奥井のみ。今、最も安定感のあるメンバーとシステムでガチンコ勝負に出た模様。おなじみの構成なのでそのほかは特に言うこと無しです。

横浜FMのシステムは1-4-2-1-3

 システムは清水と全く同じ。しかし単独でも打開できる両ウイングの選手などポジションごとの特徴は少し清水と異なっています。

 メンバーは新加入のジュニオールサントスはじめ、前節から6人が変更されています。それでも昨年リーグMVPの仲川など出てきたメンバーはいずれも強力です。

3.清水の保持局面について

 ハイプレス、ハイラインの横浜FM守備。相手陣内の狭いエリアに押し込んで積極的なプレスをかけてボールを奪いにきます。

 清水側はこれをどう押し返してプレーエリアを広げるか。そしてどこのスペースを使うのか。やり取りとしてはこの構図になります。

 その辺りを書きたいのですが、上手く文章がまとまりません。なので横浜FMの守備の特徴と清水の対応を箇条書きに羅列します。

・ハイライン

 横浜FMはDFラインをかなり高く上げてきます。清水はそこを突くためいつも以上にラインの裏を狙う動きを見せていました。特に金子がこの動きを繰り返しています。裏のスペースを使って直接ゴールを狙う、同時に相手に裏を警戒させてラインを押し下げる役目も担っていました。

・ハイプレス

 清水の後ろでの保持に対して前線が積極的に前に出て奪いにきます。当然ウイングの選手も前に出てくるため、サイドバックとの間の距離が開いて中盤(特にボランチ脇)にスペースができやすいように見えました。

 脇のスペースの使い方は、右は金子がワイドに張れば奥井がインナーラップで侵入。相手が奥井にも対応したらヘナトが3人目の動きで絡んでいきます。左は西澤の引いて受ける動き。それにソッコ、竹内、後藤を加えた菱形を作りボールを動かしていきます。

 どちらかと言えば右サイドの方がチャンスに繋がっていた気がします。それは金子の裏狙いでよりスペースが広がりやすかったのが原因ではないかと思われます。

・後藤の動きにボランチがついていく。

 トップ下の後藤は後ろに引いたりサイドに移動したりとかなり大きく動いていました。ここにはボランチの喜田か和田がついていきます。この空いたスペースに竹内やヘナトが入る動きを見せていました。竹内はこれまでの試合で見せていた裏への飛び出しより間のスペースに入ってラストパスを出すプレーすることが多いように見えました。

・ディフェンスラインは全体がボールサイドにスライドする。

 サイドにボールが入った時はセンターバックの選手もスライドしてボールに寄せてきます。そのためサイドチェンジをすると逆サイドの清水のウイングが浮きやすくなっていました。

 見えたのはざっとこんなところです。

 これを頭に入れて清水の1点目と2点目を掘り下げます。

(1点目)

スローインの流れからなので典型例としては挙づらい場面ですが、上に書いた特徴は表れています。

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(清水から見て)右サイドからのスローイン。DFラインは右にスライドするのでこの時点で西澤が左ワイドで浮いています。後藤がDFライン上に動き、そこに和田がついています。なので中央のスペースを見るのは喜田のみ。喜田の横でカルリーニョスが受けると竹内はフリー。ここから西澤にラストパスが出て西澤のシュートが決まります。

 ほぼマリノスの守備の特徴からできやすいスペースを経由して生まれたゴールといっていいと思います。

(2点目)

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 後ろでの保持で(清水から見て)左サイドから動かしてきたことで右サイドの金子が浮いています。金子にフィードが通ると奥井が内側へ。これでより金子はフリーに。金子からセンターバックの裏へ低くて速いクロスが入りチアゴオウンゴールを誘発しました。こちらも上に書いた特徴が重なると思います。

4.清水の非保持局面について

 スタッツを見ると横浜FMは左右、中央とまんべんなくエリアを使えていますが、その中でも右サイド(清水から見て)の攻防に注目しました。そこにクラモフスキー監督の強い意志が表れていたように感じたからです。正直言えばそこしか見てないからというのもあるのですが...。

 まず清水のファーストディフェンスがこれまでの試合と比較して少し変化しているようでした。その変化とは金子のプレスが高い位置、しかも内寄りに行われていたことです。

 ちなみにこれまでは下の図のような形。

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 センターフォワードがサイドを限定。トップ下がアンカーの位置の選手をマーク。ウイングはサイドへのパスコースを消します。

 相手のパスコースを塞いだら内側に誘導しジリジリ圧力をかけて挟み込む。またはパスコースを限定し間に出される縦パスをカット。内側高めでボールを奪いカウンターに転じる。これが基本形です。

 しかし横浜FMは選手のポジション取りや移動で清水が一番塞ぎたい中央にスペースを作ってきます。(下図)

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 和田の動きで後藤を動かすのがスタート。それに応じたセンターバックの動きで清水の1列目を外します。 パスの受け手となる選手は中盤でポジションをローテーションしてフリーに。中央を塞いでいた後藤の守備が外れているので左右、中央と複数方向へのパスコースができてしまいます。たぶんこんな仕組みです。

 これを踏まえて考えます。まず大切なのは形ではなく目的です。清水の守備の目的はなるべく内側の高い位置で奪ってカウンターに移行すること。

 その目的に沿えば後藤が動かされやすい時、金子がサイドでなく内側に向かってプレスをかけるのが自然です。

 また横浜FMは組み立てで広い視野を得るため中央にワンクッション入れてきます。そこを狙い打ちする意図もあったのでしょう(ちなみにヘナトも前への圧力がいつもより強い気がする)。まあこれは完全な想像ですが。

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 とはいえ金子の守備がはまっていたかと言えば微妙でした。そして金子のところでかわされると右サイドの高い位置で1対2の数的不利を作られてしまいます。

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 この数的不利にはヘナトがスライドしてフォロー。しかしマリノスはさらにマルコスがサイドに出てきてサイドを3人の関係性で崩してきます。

 相手が3人でくるならここで金子も下がって同数にと言いたくなる場面ですが、金子は積極的に下がってきません。ちょっとこれはリスキーです。たとえ下がった時でも金子は常に前に出られるポジションを取り直しています。どんな意図があったのか。

 おそらく清水はこの数的不利をある程度受け入れているというのが僕の推測です。その理由はヘナトとヴァウドがいる右サイドは清水の守備のストロングポイントであること。もうひとつは中央の後藤がヘナトが空けたスペースを埋めるため下がってくる動きを見せているからです。

 要は最低限後ろで食い止める仕組みを作って常にカウンターの槍を相手に突き付けていたのだと思います。相手のラインの裏を突いてゴールを狙うのは保持した局面だけではありません。どの局面、どのエリアでもゴールに繋がるプレーをする。ここにピータークラモフスキーの信念が表れていた、というのが僕の妄想も加えた解釈です。

5.最後に

 奪われても奪い返し、昨年の王者と80分過ぎまで互角に渡り合った清水。しかし83分、85分と点を奪われてしまいます。最後に1点返しましたが結局押し切られてしまいました。

 戦術的な意図も含まれますが(特に初手のCF後藤、カルリーニョス右WGは理解できる)、主には負荷が掛かってフィジカルの低下したポジション順に交代を行った清水。片や交代選手がギアを上げる役割を果たした横浜FM。残念ですがスタメン以降の差は大きかったなと感じました。

 志向の似ている両チームですがエスパルスの方がよりグループでの意識が強いように感じました。その意味でも交代出場の選手は個での打開だけでなくグループでの共通理解がより必要になってくるのでしょう。

 それでもマリノスに対してエスパルスのサッカーを表現してガチンコで80分以上を渡り合ったのはポジティブです。とはいえやっぱり負けるのは悔しいですね。次こそはもっとアグレッシブなサッカーで圧倒して勝ちたい気持ちです。マリノスのホームで「ピーターの率いるエスパルスは凄いぞ」と思わせるサッカーを見せつけて勝利したい。そんな願いを持って次の対戦を楽しみにしたいと思います。