2020年明治安田生命J1リーグ第25節 柏レイソルvs清水エスパルス レビュー【ラストゲーム】

1.はじめに

 試合結果は1-1の引き分け。勝ち点は1でしたが内容面は久々に”らしさ”が見られ、立て直しへの期待を抱かせてくれました。

 しかしその翌日、ピータークラモフスキー監督解任のニュースが発表されます。残念ながら試合後に膨らんだ期待は実ることなくこの柏戦がクラモフスキー監督のラストゲームとなってしまいました。

2.スターティングメンバーと配置

f:id:hirota-i:20201108093614p:plain

・清水のシステムは1-4-2-1-3

 長らく3バックシステムを採用していましたが第16節鹿島戦以来の4バックシステム。ダブルボランチの一角に5試合ぶりスタメンの中村慶太。右ウイングには金子。各ポジションとも原点回帰とも言えそうなスタメン選考です。

・柏のシステムは1-4-2-3-1

 前回の対戦では3-4-2-1から守備時には4-4-2になる変則的な形でしたが、今回はオーソドックスな4-2-3-1。メンバーを見ても前回対戦時とは大幅に選手が入れ替わっています。

3.清水の攻撃局面について

(1)ひとつ飛ばしてライン間へ

 前半、狙いを遂行できていたのは清水だったと言っていいでしょう。

 清水はキーパーの梅田も加えてビルドアップを開始。さらにボランチの中村も少し低めでボールを受けることで後ろでの保持を安定させます。

 これで柏の守備を前に引き付けたら無理に繋がずに柏の前線をひとつ飛ばしてライン間にボールを入れていました。

 柏の守備の基準はわりと明確で下の図のようになっています

f:id:hirota-i:20201108114348p:plain

 ヘナトを江坂、中村を三原、後藤を大谷が気にする形。特に中村を見るボランチ三原が前に出るためその後ろにスペースが生まれます。そのスペースに西澤や金井が入り使うことで相手陣内での起点となっていました。

(2)裏抜けするカルリーニョスの動き

 前半の攻撃ではカルリーニョスがサイドの裏を狙って飛び出す場面が多く見られます。

 フリーになりやすい西澤や金井にサイドバックの川口やセンターバックの大南がそれぞれ対応するためその裏のスペースが空いてしまうのが要因だと思われます。

f:id:hirota-i:20201108172744p:plain

 上の図はそれを表したものです。清水の前線を見るとボールと逆サイドのウイング(主に金子)はゴール前に絞ってカルリーニョスと2トップ気味のポジショニングを取っています。この金子がサイドの裏に流れたカルリーニョスのクロスに合わせる役目。

 しかしその他の選手が相手を引き付ける役回りのためクロスを上げてもゴール前に金子のみという場面が多くなっていました。ここがチャンスを作っても崩しきれない理由のひとつになっています。

 前半途中からヘナトが前に絡むことでゴールの可能性が見えてきました。そのような動きをうながすためにもセンターバックが相手のファーストディフェンスを動かしてボールを前進させる必要があったと思います。この課題はここまでの試合と変わらずの印象でした。

4.清水の守備局面について

 柏の保持に対してウイングを少し内側に絞らせて中へのパスコースを消すように構える清水の守備。

 柏も無理に中央を狙わずにサイドからのボールの前進でした。柏の左サイドはトップ下の江坂とサイドハーフの仲間がポジションを変えながら清水の守備に揺さぶりをかけます。

 右サイドではクリスティアーノが基本ワイドに。サイドバックの川口の追い越す動きを組み合わせて崩しにきます。

 清水はサイドバックがサイドに出たらウイングはハーフスペースに、サイドバックが絞ったらウイングがサイドレーンを埋めて内側を空けないことを意識しているようでした。そして江坂の流れる動きはヘナトを監視役にしてケアします。

 前半に関しては柏の攻撃がシンプルだったこともあってそれなりに安定していた守備局面だったといえるでしょう。

5.後半の流れ

 後半開始から柏は3人の選手交代。さらにシステムを1-4-1-4-1に変更します。

f:id:hirota-i:20201109183223p:plain

 狙いの変化としては清水の後ろには持たせるかわりに、ライン間のスペースは狭めて自由をあたえないような動きが見て取れました。

 システム的には三原をアンカーの位置に置くことで後藤を監視しながら前半使われたボランチが出ていった後ろのスペースも埋めることができます。

 前半に使えたスペースが無くなり、前にボールを入れても回収されてしまった清水。思うようなボール保持ができなくなる後半の攻撃局面でした。

 柏は保持したに時も少し変化を出しています。

f:id:hirota-i:20201109185017p:plain

 右サイドバックの川口を前に上げて後ろは3枚、そこに三原やインサイドハーフの小林も絡んで古賀の配球を中心に後ろからのビルドアップをしてきます。

 古賀や小林がハーフスペースで浮くような形になるのが捕まえづらくボール前進を許してしまっているようでした。

 しかし、かみ合わせの変化に戸惑いながらも最後を踏ん張り失点ゼロに抑えたのは評価していい部分だと思います。

6.さいごに

 前節から2週間の猶予があったためか試合を安定させる準備は整えられていました。チームのスタイルに沿いながらも無理せず今できることを仕込んだといったところ。ここまではできるけどこれ以上はできないよという試合だった。それが私の感想です。

 それでも今できる範囲でスタイルを維持しての修正を施してくれました。ピータークラモフスキーはチームの現実を把握しながら自分の信じるサッカーをピッチに表現できる監督だと示してくれたのはせめてもの救いです。

 本当ならばこのさらに上へピータークラモフスキー監督と歩んでいきたかったのですがその夢はかないませんでした。

 それでも清水エスパルスの目指すところは変わらないはずです。ピーターと共に戦った1年弱の日々がこの先のエスパルスにとって大切な財産になっていることを信じたいと思います。