2020年明治安田生命J1リーグ第31節 清水エスパルスvs川崎フロンターレ レビュー【やるべきことに集中する強さ】

1.はじめに

 今シーズンの優勝を決めた川崎フロンターレとの対戦。アウェイでは手も足も出ないといった敗戦でしたが今回はホーム。チャンピオンチームに敬意を表しながらも清水の選手達の心中は燃えるものがあったことでしょう。

 試合が始まれば、力強いプレスと奪って鋭いカウンター。まさにその気持ちがピッチに表れたような内容でした。

 結果は終始リードを奪いながらも最後に追いつかれ2-2の引き分け。悔しい気持ちは残りますが、川崎相手に一歩も引かない戦いぶりは心に響くものがありました。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-4-2

 現状のベストと言える布陣。サイドハーフの金子と西澤のポジションが左右入れ替わっているのがちょっとした変更点です。

・川崎のシステムは1-4-3-3

 すでに優勝を決めた川崎ですがほぼ主力といえるメンバー構成で挑んできました。なお前半の早い時間に左サイドバックの登里が負傷により旗手と交代しています。

3.中盤に網を張ってのカウンターの狙い

 清水の先制点は前半の11分。川崎が中央に入れた縦パスをヘナトが奪ってカウンター。竹内がヒールで落としたボールをカルリーニョスがゴールにねじ込みます。

 この中央で奪ってカウンターはまさに清水が狙っていた形だったと思われます。

 清水の守備を図示するとおおむね下のようになっています。

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 川崎のセンターバックにはある程度持たせた上で、

 

・2トップ(カル、後藤)はアンカーへのコースを消す。

サイドハーフ(金子、西澤)は身体を内側に向けながらもサイドへのパスコースを切るポジションを取っている。

・2トップの脇に降りてくる選手へはボランチが前に出てプレスをかける。

 

 つまりちょっと引き込んで中盤の高めの位置(図で丸く囲った辺り)に網を張る。こぼれたボールはヘナトが回収です。

  さらにボランチの選手が前に出た時は2トップの1枚が中盤に下がって中のスペースを埋めています。この動きからも中のスペースを消すことはかなり意識されていたよう思えます。

 これでボールを奪えばひっくり返して相手のセンタバックの脇と中央を使ってカウンターを撃てる状態になっています(下の図)。

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 川崎の保持は田中が下がってきたり、家長もふらっとスペースを求めて動いてきたりと割とポジションを動かしてボールを引き出す傾向がありました。しかもビルドアップが詰まるとその傾向はより強くなるようでした。

 先制の場面では家長が降りきて守田が少し前に上がっていたためボールを奪われた時に中央のガードが上手く効いていません。 

 少し中で強引に繋ごうとする川崎とそこを上手く消している清水の守備。それが清水にとっては上手く噛み合って守備で主導権を握れている。そんな前半の流れでした。

4.サイドを攻められるとちょっと弱い

 守備の局面では中央を上手く塞げていた清水。しかしサイドを起点に攻められると少し弱さを見せていました。サイドを攻められるとサイドハーフの守備の位置が下がって、それにつれてブロック全体も自陣に押し込まれてしまいます。

 またサイドバックをサイドに引き出され出た時にできるセンターバックとの間のスペース。ここに走り込まれてしまうとあまり上手く守れていません。

 下は川崎の1点目の直前を図にしたもの。

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 サイドで持った田中にエウシーニョが対応。エウシーニョが開いてできたスペースに三笘が入ってきて、それをヘナトがカバーしています。

 そしてヘナトが動いたスペース(図の丸く囲った場所)を使って守田→田中→ダミアン→田中とほぼワンタッチで繋いで田中のゴール。

 この得点のようにサイドを起点にしてサイドバックセンターバックの間のスペースを使う攻撃はこれまでの試合でもやられている形です。

 この試合でもサイドを重点的に攻められていたらもしかしたらもう少し苦戦していたかもしれません。

5.後半の選手交代について

 後半に入ると川崎はサイドからの攻撃を増やしてきました。そのため清水のサイドハーフは高い位置をキープできずブロック全体もやや下がりがちになっていきます。

 清水の交代はまず金子に代えて鈴木唯人。サイドの運動量を取り戻すこと、前への推進力を強めるための納得の交代。

 66分には負傷のカルリーニョスに代わってティーラシン。

 そして83分に竹内、ヘナトに代えて西村と宮本。この試合での清水のボランチは最前線へのプレスからディフェンスラインのギャップ埋めまで上下にかなりの運動量を求められていました。そして中で奪ってカウンター狙いの清水にとってボランチの守備強度の低下は命とりです。それでも絶対的といっていい竹内、ヘナト。そこを代えるのはかなりの勝負手でした。

 89分に川崎山根に決められ2-2の同点。リードを守り切れず失点してしまいましたがあくまでそれは結果論。中盤の強度維持を若手二人に託した平岡監督の交代策はしびれるものがありました。

6.最後に

 少し冷静に見れば、中央の守備は固いがサイドを攻められるとやや不安定。そして主な攻め手はカウンターとこれまで通りの特徴が見られた試合です。

 優勝を決めた川崎は相手に合わせるよりも中盤の構成力を生かした自分達のやり方を通したかったはず。それが功を奏したと言えるかもしれません。

 それでもここまでのリーグ戦において絶対的な強さを誇った川崎をぎりぎりまで追い詰めるのは簡単なことではないでしょう。

 できることに集中してそれをやり切る強度。それが自分達の強みとして確実に身に付いてきている証だろうと思います。