今期からクラモフスキー新監督を迎え新しいスタイルに取り組む我らが清水エスパルス。このルヴァンカップが初お披露目の試合となります。結果は1-5の敗戦でしたが、私の観測範囲では敗戦のショックよりこれから完成していく新しいエスパルスのサッカーへの期待感を抱いているサポーターが多いように感じられます。
そこで今回のレビューでは、試合の流れや両チームのやりとりよりも、新生エスパルスの攻守の形を中心に見ていきます。
初の公式戦ながら新しいエスパルスの特徴ははっきり見てとれました。それを局面ごとに注目し書き進めてみます。
1.スターティングメンバーと基本システム
清水エスパルスのシステムは4-2-1-3。CHにU-21枠の西村が起用された以外はおおむねプレシーズンに主力組だったメンバーで構成されました。
川崎フロンターレのシステムは4-3-3。右のWGにU-21の宮代。体制にこそ大きな変化はないもの川崎も4-3-3システムをメインシステムとして採用し、新しいスタイルにチャレンジしていくことになりそうです。
2.ボール保持の局面
(1)サイドバック=インサイドハーフ?
エスパルスがボールを持った時は明確に決まった配置を取っていました。それが下の図です。
ヴァウド、立田の間に竹内が降りて3枚でビルドアップスタート。そしてサイドバックが前に上がって中盤に4枚の形です。
そしてワントップは深さを取るため最前線に、ウイングは幅を取るためサイドラインいっぱいに張っていました。最前線3枚は流動性は少なくほぼポジション固定です。
最も特徴的なのがご存知の通りサイドバックの位置。ボランチの横でなくほぼインサイドハーフといっていい位置まで上がっていました。
いわゆる偽サイドバック、つまりサイドバックが内側に入るポジショニングはいまや珍しい動きではありません。しかし常にサイドバックにここまで高い位置を取らせるのはあまりない動きだと思います。
得点場面で見られたようにインサイドハーフポジションとウイングポジションの連携(中村がWG、西村がIHのポジションになっていた)がエスパルスの武器のひとつになりそうです。
(2)自分達の型にこだわり過ぎて...
前線に人数をかける攻撃的なクラモフスキー戦術ですが、前半はその攻撃が上手くいったとは言えません。
中に絞ったサイドバックを使う意識が強いせいかボール回しが中央ばかりになっていたのが理由のひとつだと思われます。川崎のシステムは433で中央には人数が揃っています。さらに川崎の3トップは全員が前にプレスをかけるのではなくボールと逆側のウイングは少し下がり気味で中盤のフォローにいけるポジションを取っていました。
果敢にボールを回そうとするも川崎の守備に捕まりカウンターを浴びることが多い前半のエスパルスでした。
ただこの裏を返せば高い位置に入ったサイドバックを使う意識を全員が共有していると考えることもできます。クラモフスキー戦術においてボールを引き出し直接ゴールに結び付けていくキープレーヤーはサイドバックで、その共通認識は植えつけられていると言えるのではないでしょうか。
(3)ポジションはあるけどポジションレス
前半に比べて後半はボールが動くようになります。前半は固定気味だった選手のポジションが後半になるとスペースに合わせて動き始めます。特に中盤のサイド、川崎の3センターの脇を使い始めた影響が大きかったと思います。
さらにサイドにドゥトラが降りてきたり、石毛が低い位置で配球役に回ったりと前にいた選手が下がってきたり、前にスペースが空けば今度は後ろの選手が上がっていきます。
どの選手もスペースがあればポジションに関係なく躊躇なくそのスペースに入っていきますが、それによって空いたスペースは他の選手が入って埋めています。結果的に個々の動きは流動的でも、チームとしては決められたポジションに選手が配置されている状態です。これがクラモフスキー戦術の大きな特徴ではないかと思います。
3.ボールを保持していない局面
噂通りかなり積極的なプレスでした。形としてはセンターフォワードの後藤とウイングの片方が前に出て相手のセンターバックにプレス。トップ下のドゥトラが相手のアンカーを消して中央のコースを埋めます。
ボールがサイドに出たら一番近い選手が即座にプレスをかけ、次に近い選手がその内側に戻りスペースを消すのが基本的な動きのようです。
何度も川崎にボールを運ばれてしまったのは球際の強度不足もありますが、プレスの方向とカバーのポジションがずれていたのが一因だと思われます。
後半はサイドに出された時にウイングが単独で張り付くのではなく、カバー役のボランチの選手との距離が離れないよう修正してたような気がします(ここは気がするだけ。要観察)。
4.切り替えの局面
(1)サイドバックの裏問題
一番気になるのはやはり奪われた時にサイドバック裏をどう守るかだと思います。当然奪われた瞬間にプレスをかけて相手の前進を食い止めるのが第一です。しかし、必ずそこで食い止められるとは限りません。もし裏に出されてしまった時の対応を観察したのが下の図です。
・サイドの裏は基本はCBが出ていく。しかし完全には食いつかずにぺナ幅辺りに壁を作るような対応。
・サイドバックは中盤ボールサイド辺りのスペースを埋める。
・中を抑え遅らせている間にボールサイドのウイングは全力帰陣。
少し内側に壁を作り相手を遅らせてその間に中のスペースを埋めていく感じに見えました(あっているかは自信無し、ここも今後要観察)。
5.まとめ
攻守いずれの局面でも前にスペースがあれば迷わず出ていき(攻撃ではスペースを使い、守備ではスペースを消すため)、周囲の選手が次の可能性を考えて同じく素早くポジションを取れるかがカギになりそうです。
唯一の得点場面ではウイングの位置にトップ下の中村、インサイドハーフの位置にボランチの西村がいて、シュートポジションには中央、ファー、マイナスと個々のポジションでは流動的ですが、チームとしてはしっかりバランスの取れた配置になっていました。判断とチャレンジ。この日見えたチーム最大の特徴を出しての得点は非常なポジティブだと言えるでしょう。
スタートしたばかりのチームなのでまだ完成度が低いのはしかたありません。後はどれだけ早く最低限ほかのチームに対抗できる完成度にもっていけるか、選手の成長と監督の手腕に期待したいと思います。