・両チームの近況
(山形)序盤の成績不振を受け、シーズン途中の監督交代に踏み切ったモンティディオ山形。石丸体制の後を引き継ぎ監督に就任したのは昨年清水エスパルスの監督を務めたピーター・クラモフスキー氏。クラモフスキー監督が正式にベンチ入りして以降の戦績は22節時点で8勝1分けと負けなし。順位も序盤の降格圏から6位までに押し上げこのまま昇格争いに顔を出す勢いだ。
(磐田)開幕2試合は黒星スタート。しかしその後は地力を発揮。順調に勝点を積み上げ22節消化時点で首位に立っている。11節以降負けなしだが前節の山口戦は2-2の引き分け、その前の新潟戦は勝利ながら3-2と複数失点。直近2試合はややきわどい結果だ。
2位の京都との勝点差は3。悲願のJ1昇格を果たすために勢いのある山形をホームで叩き首位の座を盤石にしておきたいところだろう。
・両チームのメンバー
山形のシステムは1-4-2-1-3。ウイングがワイドいっぱいに張る3トップは清水サポにはお馴染みのシステム。もう一つお馴染みはCHで起用される藤田息吹。クラモフスキー氏の指揮するチームで元清水の選手を見られるのは嬉しみを感じる。
磐田のシステムは1-4-2-3-1。スタメンはほぼJ1の試合でも出場していた高い個の力を持ったメンバーだ。
・山形の保持局面を見る
山形が保持した時は下の図のようだった。
山形の両ワイドは高い位置のワイドいっぱいに、CFの林は中央の前に張っている。この前線3枚で磐田の5バックを押し下げている。
トップ下の山田康太は中盤でボールを引き出しフィニッシュまでつなげる役割を負っているよう。中盤に降りたりサイドに移動したりと広範囲に動いていた。
CHの藤田は山田康太が動いたトップ下ポジションに入っていくことが多く、もう1枚のCH國分はアンカーポジション。そしてSBはやや内側の立ち位置。
後ろはCB2枚でビルドアップスタート。中盤の中継地点としてアンカー。前の3枚で深さと幅を取って広げる。中盤とSBはポジションをローテーションしながらハーフスペースを活用し前進。そしてフィニッシュに繋げるのが原則のようだ。
次に磐田の守備を見る。
磐田は高い位置から積極的に制限をかけてきた。CFルキアンとシャドウの1枚が前に出て相手の2CBにプレスする。もう1枚のシャドウは中盤の脇を埋めるポジション取り。
さらにアンカーポジションの國分にもCH1枚(主に遠藤)を積極的に出していくので、残ったCHの脇にスペースができがちだ。
磐田の前線は積極的に前にくるが、後ろは山形のCFと両ワイドのよって押し下げられる。よって守備ブロックは前後が引き伸ばされ、2列目が薄い状態になっていた。
山形はCBがボールを動かせる上に、GKもプレスを越えるパスを出してくる。磐田のファーストプレスを回避するとCHの脇に広大なスペースが生じている。
下は山形の2点目の起点となった場面。現象としては上に書いた通り。
遠藤が國分にプレスするので山本康の脇で藤田は完全にフリー。ここから山田康太(左内側)、國分(中央)、中原(右大外)、半田(右内側)とレーン移動しながら前進。中央前の林へのくさび、そしてワイドからDFラインをブレイクした中原にパスが渡りカットインからゴールが決まった。
山形のフィニッシュの特徴はハーフスペース侵入で磐田のDFを前に引き付け、裏にスペースを作りそこに飛び出す。そしてマイナスの速いクロスを入れてシュート。DFラインの表と裏の2択を高速で迫るイメージだ。
序盤の磐田DFラインは中盤の脇に広がるスペースに後追いで対応するので上手く限定できない。CH脇に入る相手に対して役割が整理されないまま反応し裏を何度も取られていた。山形の1点目、2点目ともに仕組みとしては似た形だ。
また山形は遅攻で押し込んだ時はサイドの高い位置でWG-SB-トップ下(または上がってくるCH)で三角形を作りボールを動かしてDFラインの裏を取りにいく。これは昨年のクラモフスキー体制時の清水でもよく見られた崩しだ。
磐田も前半の途中から両シャドウがCH脇を埋める立ち位置をとるなど中盤のスペースを気にするそぶりをしている。そして後半になると中盤脇にCBやWBがスライドし中盤で浮く選手を消しにきている。また相手に持たれた時は逆に541で引いている。これではっきり中盤が空くことはなくなった。
後半は山形がプレスを回避して中盤まではボールを入れるもフリーになる機会が減る。そして磐田に回収されることが多くなった。磐田が保持の時間を増やし山形は自陣でのプレーが増えていった。
・山形の守備局面をみる。
山形の非保持時システムはトップ下の山田康太が前に出ての4-4-2。高い位置にブロックを設定するが2トップは奪うよりまず相手のCHへのコースを消すのが目的のようだ。そしてサイドに誘導する。
サイドに誘導したら内側へのコースを塞ぐ。例えば下の図ように斜めの壁を作り内側へのコースを消す動きを何度も見せている。
内側を塞いだらサイドに押し出すようにプレスをかけていく。
磐田は相手の1列目の脇から運んでCHの遠藤、山本康に入れてそこから組み立てを狙っているよう。山形は内側に入れたボールに対しては3人で囲い込んでいた(下図)。
ボールを奪ったら後ろに戻すパスを切っている選手(図の例では山田)がそのまま起点になる。そしてショートカウンターに移行する。
磐田は内側で受けられないのでほぼサイドからの攻撃に。サイドチェンジを交えながらWBとシャドウの1枚がサイドで絡みクロスを入れることが多かった。
後半の磐田はCHが降りたり脇に出たりと相手のブロックの外で起点を作る。WBとシャドウ、加えて左右のCBも上がってサイドから侵入。サイドに人数をかけて前進。そこから全体を押し上げていった。そしてWBとシャドウのポジションチェンジでハーフスペース攻略を見せる。そこからサイドの奥を取ってクロスを上げてシュートに繋げる。
山形の失点は磐田の左からのクロスが流れて再び右からクロスを上げられルキアンのゴール。外誘導する山形に対してサイドに人数をかけて押し込みクロス爆撃は磐田の狙いであったと思われる。クロスは上げられるので中を山田→小川航基でフィニッシュの強度を上げる磐田。後半は押し込まれ気味だったがなんとか守り切り山形が2-1で勝利した。
・感想
クラモフスキー監督のゲームモデルは清水時代とほぼ変わっていないように見える。清水時代に見られた動きがこの試合でも何度も再現されていた。
しかし結果を出している山形のプレーを見るとやはり違いはある。
その中の1つが裏への意識だ。裏と言っても後ろから長いボールを裏に蹴るのではない。後ろでの保持からスペースを作ってボールを運ぶのは同じ。そこから前線の選手が最終ラインの裏を常に狙っている。ワイドの選手も1対1を仕掛けるより、ワイドの裏を狙うまたは対面を引き付けて味方のために裏のスペースを作っている。
清水ではウイングの突破力不足がたびたび指摘されたが、クラモフスキー監督の求めるプレーは山形のものに近いのではないだろうか。ただしそこは自チーム、対戦相手チームの個々の能力にもよるのだろうが。
2つ目は後ろで持ったボールの逃がし方だ。前からプレスこられた時、GKが浮かして越えるボールを使い回避していた。またCBもボールを運べる(めちゃ上手いかはわからんが少なくともそういうプレーを見せる)。
ファーストディフェンスを外して山田康太に入れば多少のプレスは何とかしてくれる。相手の前線からの強いプレスをかわす手段と逃げ場所があるのはかなり大きいように思える。
最後に。磐田はサイドから攻略してクロスを多用していたが、これは対山形では有効に思える。組織で内側のスペースを消すように守るのでサイドをゴリ押しされると押し込まれやすいかもしれない。奪った後に陣地回復させるカウンターマシンのような選手がいないのも押し返せない要因だろうか。
その他、そろそろ各チームとも山形対策を講じてくるだろう。そこでクラモフスキーがどんな対応をするのか個人的な注目点だ。