マッチレポート【2022年明治安田生命J1リーグ第17節 清水エスパルスvsアビスパ福岡】

スタメンと配置

 まずスタメンから。

 清水はゼリカルド新監督就任後の初試合。保持の局面では中盤が逆三角形の4-3-3、非保持の局面は神谷選手を前に出して4-4-2。攻守でポジション取りを変える形を取ってきました。

 福岡は通常通りの4-4-2。攻守とも組織の統制が取れたチームという印象です。

清水のボール保持とそこへの対応にてこずる福岡の守備

 前半開始後しばらくは、清水がボールを保持して福岡を押し込みます。

 清水のビルドアップは、サイドバックをあまり前に上げず4バックがフラットに並ぶ位置取りが特徴的でした。

 福岡はサイドハーフも前に出して同数で噛み合わすように高い位置からプレスをかけていきます。しかし清水のゴールキーパーや2トップ裏のアンカー宮本選手がビルドアップに参加すると福岡の同数プレスにずれがでてきてしまいます。

 横に広がる清水のセンターバックにはサイドハーフの選手を当てることが多いのですが、サイドバックが低い位置にいるため、北島選手が立田選手と片山選手を一人で見る数的不利の状況が発生します。

 ここで北島選手は片山選手へのパスコースを切るように斜め横方向からプレスにいくので、サイドバックを意識させてから縦に切り返すとプレスが外れやすい。プレスを外した立田選手はそのまま前のスペースへコンドゥクシオン(持ち運びのドリブル)。そうしてまた中盤以降にずれを作っていきます。

 中盤より前は、インサイドハーフの神谷選手、白崎選手が福岡のボランチの後ろ脇辺りの中間ポジション、ウイングの後藤選手と西澤選手は基本ワイドに張っています。

 福岡はインサイドハーフへの縦パスをボランチで消したいのですが、センターバックのコンドゥクシオンや、アンカーの宮本選手に動かされてここもずれが生じてしまいます。

 これで福岡のボランチ周りにスペースができて神谷選手や白崎選手がそのスペースを使っていきます。

 崩しのフェーズでは右サイドと左サイドで特徴的な動きが見られます。左は後藤選手が降り、それと入れ替わるように神谷選手が裏を狙い、右サイドは西澤選手がワイドに張って白崎選手がライン間のスペースを使っています。

 清水の2点目はこうした仕組みの典型例です。まずサイドの後ろで北島選手と立田、片山選手の1対2。これを立田選手が外して前に運ぶと、福岡のボランチ中村選手は立田選手と白崎選手の二人を見ている状態です。この二人のパス交換で立田選手がまたフリーになって、斜めの動きで裏を取った神谷選手にパスが出ます。

 これで福岡の守備は大きく動かされ、サイドにセンターバックのグローリ選手、ゴール前にサイドバックの志知選手と本来のポジションと違う場所を守っています。神谷選手からパスを受けた西澤選手は中央にクロス。これをサンタナ選手が志知選手に競り勝ちヘディングでゴールにねじ込みました。

 こうしたポジショニングでボールとスペースを前に運ぶ構造と、それを利用するための選手のプレー選択は整理されている印象を受けました。

守備ブロックのコンパクトさと残る課題について

 ボール非保持の清水は、高い位置からのプレスを抑えてミドルゾーンにコンパクトなブロックを構えていました。

 さらに引いて受ける相手の前線にはセンターバックが前に出てつぶすプレーも頻繁に見られ、清水の先制点はセンターバック鈴木選手の前への追撃がきっかけに生まれています。

 前半しばらくは攻守ともに問題なく試合を進めていた清水ですが、30分が見えた辺りから徐々に雲行きが怪しくなります。

 福岡がサイドにボールを入れてから、無理に前に出さずに戻して逆サイドに大きく振ると、清水の守備はスライドやカバーの動きが乱れ始め、間に縦パスが入り始めます。

 ボールを回収できないと当然、上手くいっていた保持局面にも移行できず、30分過ぎからは福岡ペースで試合が進みました。

 しかし、流れが福岡に傾いたと思われた41分、前述したようにチームで狙っていた形から2点目のゴールが決まります。形としても素晴らしいゴールでしたが、試合の流れを考慮しても大きな価値のゴールだったと思います。

福岡の修正と後半の流れ

 福岡は前半のプレーから「ボールを握って左右に振ると、清水の守備は怪しいぞ」と感触を掴んだのでしょう。後半には守備面の修正と、攻撃面でも立ち位置を変えて前半以上にボールを握る修正を行ってきました。

 まず守備面ではアンカーの宮本選手にボランチの選手を前に出して当てています。これでボールの出口を塞がれ、前半に比べて上手くボールを運べなくなってしまいました。

 攻撃面では右サイドバックの前嶋選手を後ろに残して3バックでビルドアップスタート。左右のセンターバック(前島、宮)が2トップ脇からのぞくことで清水のサイドハーフを前に引き付けます。これでワイドのクルークス選手、志知選手をフリーにして左右に大きく振っていきます。左のセンターバックに左利きの宮選手が入ったことで、後ろでのボール循環もスムーズになりました。

 清水は進路の限定やカバーの動き、ポジションの取り直しを正確にやり続けることが相変わらず苦手のようで、左右に動かされるとパスコースを開けてしまいます。中盤で間に顔を出す中村、北島、前選手らを掴めずに割と簡単にパスを通されていました。

 74分には福岡の選手交代。クルークス、志知選手に代えて、金森、田中選手。交代で入った二人をウイングバックにしてはっきり3バックにシステム変更してきました。

 福岡のサイド攻撃は単純な縦突破からのクロスは少なく、中盤の選手の裏へのランニングを入れてボランチを動かし、カットインや横パスの可能性を作ってクロスをゴール前に入れてきます。

 清水は押し込まれるとゴール前でバタバタするこれまでの悪癖も見えて、後半も苦しい時間が続きました。68分に疲れから守備がかなり甘くなった神谷選手に代えてディサロ選手を投入(同時に片山選手→原選手も)。77分には宮本、西澤選手に代えて竹内、コロリ選手とフレッシュな選手を入れてなんとか耐えていましたが、ついに80分山岸選手にゴールを決められ1点差に詰め寄られます。 

 しかしその5分後、原選手のクリアかフィードかはわかりませんが、前に出したボールをサンタナ選手が収めて前を向き、コロリ選手にスルーパス。コロリ選手がこれを決めて3点目を奪いました。結果的に守備をフレッシュにしつつ、前線にパワーを出した交代が功を奏したのかもしれません。

 3点目を奪った後は、ディサロ選手を中盤に入れて4-5-1の守備組織。中盤に人を増やして間を埋めます。これで残り時間をゼロに抑えることに成功。3-1で清水が勝利しました。

所感

 監督交代後、短い時間でしたが攻守に明確な形を作り結果を出したのは非常にポジティブでした。

 一方、流れとしては福岡の時間が長く、特にボールを握られた場合は現状だと苦戦することが予想されます。

 この試合に関しては、相手がこちらのやり方の変化に戸惑ったこと、流れ上タイミングよく点を奪えたことなど、この試合限定の要因が勝敗に影響したように思えます。

 この後、向上していけるか、そうでないかはここからです。とはいえ、そのスタートラインには間違いなく立てたと確認できた試合だったと思います。