マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第17節 FC町田ゼルビアvs清水エスパルス】

試合の感想

 強度の高い緊迫感あふれる試合でした。惜しくもエスパルスは負けてしまいましたが選手は精一杯のプレーをしてくれたと思います。

 この両チーム、監督が求めているものは共通したものを感じます。「やるべきプレーを妥協せずにやり抜く」ような意味合いです。ですが強いて言えば“どうやり抜くか"の部分に関しては少し差があったような気がします。

 私が感じたどうやり抜くかの”どう”とは、つまりチームのプレー原則です。サッカーでは選手個々の判断やアイデアが大切ですが、その判断の元になるのはチームとしての原則だと思います。

 町田はこの状況ではこうプレーするという原則が具体的かつ明確で、試合を通してそれがぶれずに実行されていました。

 おそらくですが秋葉監督もそれは認識したのでしょう。だからこそ試合後に責任は全て自分にあるという意味合いのコメントが出てきたのだろうと思います。

 リアルタイムではこのコメントに少し疑問を感じましたが、再び試合を見直せば監督は試合内容を客観的に分析し受け止めていたんだなと思うことができました。

 以上、感想はこのあたりで。それでは試合を具体的に振り返ってみたいと思います。

メンバーと基本フォーメーション

前半序盤の流れ

・清水がボールを持ち、町田が堅守で応戦する構図でした。両者の特徴を考えれば想定された流れといっていいでしょう。

・清水の保持は4-4-1+フリーマンの乾のようなシステム。やや内側に人を寄せて、まず中にボールを差し込む。そして町田の守備ブロックが収縮したら外にできたスペースを使っていきます。

・清水はセンターバックからDFラインの背後に直接ボールを入れたり、中山がハーフスペースから裏を狙っていきます。おそらく町田のDFラインを押し下げ守備ブロックを縦に広げたかったのだと思います。

・町田は時折ライン間のスペースが開く時があって、清水のボランチが2トップ裏でボールを持って前を向ける時があります。

・清水のボランチが2トップ裏で持つと町田はボランチが前に出てきます。ボランチが動くとブロック内にスペースが生まれます。清水はわずかのスペースがあればボールを差し込み個人技でチャンスを作っていきます。

・町田はボランチが前に出たら必ず左右の選手が絞ってカバー。ブロック内にボールを通されても対応できる状態を作ります。ボールにいく選手とその周囲の選手のポジショニング。この原則が忠実に実行されています。

4:05町田が中央セフンへのボールに絞って対応。それで生まれたサイドのスペースに流れた乾がフリー。乾からボックス内のスペースに入ってきた白崎へ。白崎のシュートは外れましたがこの試合最初の決定機でした。町田としては白崎と競って倒れた稲葉のスペースを使われた形で組織で崩されたわけではありません。しかし中からスペースのあるサイドへ。そして前のスペースに人が入ってゴールに向かう清水の狙いが表れた場面だったと思います。

・町田の守備は4-4-2。縦横ともコンパクトなブロックを形成しています。

・2トップは1枚がCBへ、もう1枚はボランチを抑えます。内側を消してサイドへ誘導する。そしてサイドで奪うのが目的だと思います。サイドに誘導するとデュークも中盤サイドまでプレスバックする動きを見せていました。

・サイドへのボールへは割と早いタイミングでSHが出てきて全体をボールサイドにスライドさせます。その際、ボールに出ていったSHの隣のボランチ選手は必ず斜め後ろのポジションを取っています。

・またSBがスライドして開いてもCBはそこまでスライドしていきません。CBはまずゴール前を固めて、SBとの間はボランチの選手が降りてカバーに入るのが約束事のようでした。

・先ほど書いたように清水は時折ブロック内にボールを差し込みますが、町田の忠実なスライドとカバーで明確なチャンスはそれほど作れていません。

・清水としては「思うように前進できないな」という感覚だったのでしょう。徐々に乾がボランチの位置まで下がったり、ボランチがDFラインまで下がったりと降りてボールをもらおうとしています。

・後ろに降りると前の人数は減ります。前の人数が少ないとボールが入ってもコンビネーションを使えずに町田の守備に捕まります。前半20分過ぎ辺りからはボールを持っても攻撃は停滞しているなと感じました。

・逆に町田は守備でぺースを握り始めます。清水にサイドを使われれば普通はサイドが気になりそうですが、必ず中央に絞って最後はやらせません。ここは原則が徹底されていると感じた部分です。

前半の中盤から前半終了まで

・清水の前進が上手くいかなくなると町田がボールを回収する機会を増やします。ボールを回収すれば保持する機会が増えてくる。これはサッカーの原理です。

・清水は基本は対面の相手を強く捕まえる守備をしています。

・町田は清水の2トップに対して後ろ3枚で数的優位の関係を作り、そこから清水のSHやSBをずらす。そしてずれてできたDFラインのギャップを狙っているように見えます。

22:55のシーンが典型的な形。後ろは翁長が残って3対2の数的優位。清水は中山がSBの翁長へ、岸本がSHへプレスに出ていきます。この状態でエリキが岸本の裏を突くと高橋と1対1になる。このエリキの打開力と清水CBの守備力は五分五分の勝負。この形が町田の狙っていた形だったと思います。

30分の得点シーンも左SB翁長が2トップ脇でフリー。この時、清水のDFラインと町田の前線は同数です。吉田と高橋は対面の相手を捕まえに出ているので鈴木はエリキと1対1。

・それを見た翁長は逆サイドのCB鈴木の脇へロングフィードを出しています。鈴木がエリキに抜け出されそうになり、左SB吉田はマークを外しカバーへ向かう。マークが外れた平河がこぼれ球を拾ってゴールを決めます。この後ろからずらし、最後1対1になる仕組みは22分とほぼ同じです。

41:40清水カウンターから同点。町田はCB池田が負傷のためピッチ外に出ていて1人少ない状態。4-4-1で守って自陣からのクリアをエリキが単独でカウンター発動。これをフォローするため翁長がサイドを、中盤2枚がゴール前に上がっていきました。

・エリキのパスが白崎に当たり、中山が拾って乾にパス。翁長が前にいて、本来スライドしてカバーすべきボランチも1枚しか残っていません。乾が町田の守備を引き付け前のスペースに飛び出した中山にパス。中山のシュートが決まって同点です。町田としては人数不足の中、もう少しリスク管理をしたいところでした。

・それにしても乾のパスのタイミング、そして中山のスペースに出る動き、次のプレーを考えたコントロール、シュートの技術。いずれも素晴らしかったです。

後半

・後半頭から清水は中山→北爪。右SBの岸本が右SHに北爪がSBに入ります。

・ここまで町田の守備を崩しきれずにいた清水。しかし以下の2つの場面ではチャンスを作れていました。

・一つはトランジションで相手が整う前に速く攻め切る形。

・もう一つはボランチがカバーで動いたスペースを使う形です。

48:25CBとSBの間に白崎がランニングすると、ボランチ下田が降りてカバー。これは町田の守備のセオリー通り。下田が動いたスペースにホナウドが入る。ホナウドには藤原が、ニアに動くセフンにはチャンが対応します。これで乾の前が空いて、ホナウドがクロス。乾のヘディングシュートは決まりませんでしたが、相手の守備の特徴からくるスペースを利用した攻撃でした。

・この他にも町田の守備のやり方的に、清水のSBがワイドの高い位置を取れば町田のSHとボランチの間を引き離せる。このような「こう動けば相手はこうなる」の仕組みをもっと利用しても良かったような気がします。

 

・清水は59分岸本→宮本、オセフン→サンタナ。町田は65分に沼田→荒木。

・町田は荒木がそのまま左SHに入る同ポジションの交代。清水は宮本がボランチに、ボランチの白崎が右SHに回りました。

・清水はボールを持つと白崎が内側に入って、右SB北爪を高い位置に上げます。北爪の前のスペースに入っていく能力は非常に高く、シンプルに彼のサイドでの推進力を生かす意図かと思われます。

・清水は81分、カルリーニョス、白崎→北川、神谷の交代。

・町田は82分、エリキ、デューク→髙橋、藤尾の交代。

・町田はこの直前のカウンターでデュークが前に出ていけていません。かなり体力が消耗していたのでしょう。エリキの交代も同様の理由だと思います。

・清水はやや前が中央寄りの4-3-3(4-3-2-1)にシステム変更です。

・町田は後ろから、または髙橋大悟の左足を使って、サイドの裏へボールを出していきます。そして押し下げたスペースに後方から入ってシュートを狙う形を作ります。

・また町田はサイド奥に出したボールをクリアされたら徹底的にロングスロー。町田はやや距離があってもロングスローを使っていて、82分の交代後、町田のロングスローの回数が増えていきます。

・ロングスローに対して清水はサンタナも下がって守備をセット。ロングスローでサンタナを自陣に張り付けられると、ボールを奪っても前で起点になる選手がいなくなります。

・→ボールを収める選手がいないのでセカンドボールを回収できなくなる。

 →単独で前進して奪われる。

 →奪われてプレスをかけようにも前の選手はロングスローの流れで後ろにいる。

 →整理されないまま中盤の選手がプレスに出ていって守備陣形が崩れる。

 →守備陣形が崩れているから容易に前進される。

交代後からアディショナルタイムに向けてこんなサイクルに陥っています。

・お互いオープンにゴールに迫る状況のようで、町田はある程度コントロールできている、清水は陣形が崩れている状態だったと思います。

・町田の決勝点のきっかけは終了間際の94:44。やはり町田のスローインからです。

・ロングスローは一度クリアして清水の左サイドでプレーが進みます。ここに町田がプレスをかけて稲葉がカット。稲葉→下田→藤尾で藤尾はバイタル辺りでターン。ここは本来、位置的にアンカーが対応すべきエリアですが、実際いたのはFWの北川という状態です。

・藤尾のシュートを鈴木が防ぎましたが、こぼれ球が上がっていたチャンミンギュンへ。チャンの振り向きざまのシュートは素晴らしかったのですが、対応した吉田の外側を髙橋大悟が上がってきています。ここは完全な1vs2を作られていました。チャンが撃たずに大悟に出しても決定的だったと思います。

最後に

・球際や走り抜くことなど強度は勝つためには絶対必要な要素です。しかし、それが同じレベルのチームに勝つためには何が必要かを突きつけられた試合だと感じました。

・始めにも書きましたが、おそらく監督はそれが何かわかっているはず。ではそれがどう構築されていくのでしょうか。以降の試合に注目していきたいと思います。