明治安田生命J2リーグ20節 レノファ山口vs清水エスパルス レビュー

【得点者】
20分 白崎(清水)
38分 石毛(清水)
85分 北川(清水)
88分 村田(清水)
 
J2昇格初年度ながらここまで上位をキープしているレノファ山口レノファ山口といえばパス本数、支配率が共にJ2で1位という数値が示すように特徴的なパスサッカーを展開するチーム。敵陣内でテンポ良くショートパスを繋ぐ攻撃戦術は注目され話題にもなっています。一方、ここのところようやく守備が安定してきたエスパルス。そのレノファの攻撃を抑えられるか非常に興味深く楽しみな一戦でした。
 
試合開始時の配置です。

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エスパルスは4-4-2。レノファは4-2-3-1。お互いここまでの試合と同じフォーメーション。エスパルスは金子に代わり石毛が2トップの一角に、レノファは左サイドバックの廣木、ボランチの平林が久々の先発になっているようです。(アウェイの清水がホームカラーなのは清水サポのわがまま。お許しを。)
 
・レノファの攻撃を復習。
ざっくり図で動きを表すと以下のよう。
 
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トップが楔を受けにブロックの間に、近くのサイドハーフ(以後SH)が斜めに下がってサポートする位置。そしてトップ下、逆側のSH、サイドバック(以後SB)が裏を狙います。場面により選手の入り方は違ってきますが、庄司からブロックの間の選手に縦パスが入り、前向きで落としを受けたフォローの選手が裏を狙う選手にラストパスを出すという動きです。
 
実際の場面で見てみましょう。
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庄司が下がる。ここはプレスが掛かり直接縦パスを狙えなかったので右SBに渡す。

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SB小池からトップの岸田に縦パス。トップ下の福満、右SH鳥養がポストからの落としを受ける位置。左SH島屋がエスパルスの守備ブロックの間、ボランチ(以後CH)の平林が右サイドに。くさびが入ると同時に左SHの島屋は裏を狙ってスタートを切っている。
 
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福満に落として、もう一度岸田。そのまま福満、島屋さらにポストのレシーバーとして下がっていた鳥養も裏へ向けて走る。この動きによりラストパスを出す岸田は複数のラストパスコースを得ています。
レノファは庄司の縦パスから裏へ抜ける選手へのラストパスまで一連の動きが「型」として仕込まれているようです。そのためボールを受けてからパスコースを考えるというタイムロスがほぼありません。この攻撃の型がレノファの相手陣内でのテンポの速いショートパスによる崩しに繋がっています。
 
・レノファの「型」 対 エスパルスの組織的な守備。

レノファのこの攻撃をエスパルスの守備がどう止めるかが注目でしたが前半は相手シュート1本、しかも枠内は0とレノファの攻撃をほぼ完璧に押さえ込みます。さらに攻撃では相手を圧倒しシュート5本で2得点。お互いのチーム戦術、どのような噛み合わせが見られたのでしょうか。
 
レノファは庄司が楔の縦パスを入れることで攻撃のスイッチが入ります。そして楔が入ったと同時にサポート、裏抜けと一連の動きがスタートします。エスパルスの守備はレノファの攻撃における2つのポイント、庄司の縦パスと楔をほぼ封じこめていました。
もともとエスパルスの守備は中央を封鎖するようなゾーンディフェンスが特徴ですが、徳島戦、ヴェルディ戦辺りで守備の弱点をつかれていたので微調整を施しました。相手のボランチとゾーンの間(特にCBとSBの間に入る相手)に対する対応です。シーズン前半は2トップは中へのコースを切るような守備をしていましたが、群馬戦からは1列目と2列目の間に入る相手にFWが1枚はプレスバックして人についてプレッシャーをかけるようになりました。またややラインが下がっても2列目と3列目の間をコンパクトにすることを重視。さらに左SBに守備力とスピードのある松原を起用しCBとSBの間の相手をフリーにしないような対応をしています。
 
このエスパルスのここ数試合の守備の特徴が庄司からポストへの楔というレノファの攻撃のポイントを封じることになります。

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前半、庄司からの有効な縦パスがほぼ入らないため攻撃はサイドからの展開に。レノファはエスパルスの1列目の守備を剥がしてなるべく高い位置から縦パスを入れたいのですが、後方でのパス回しにプレッシャーをかけられエスパルスのファーストディフェンスを剥がせません。そのためSBを下げそこをから縦パスを狙います。そうなると庄司の正確な楔のパスという武器を使えない上、サイドの低い位置からブロック内に不確実な縦パスを入れる形になります。またそれをカットされると前後が離れているので間のスペースを利用されカウンターを受けるという流れになっていました。
 
しかし、前半30分くらい経ったあたりからレノファは攻撃でらしさを見せ始めます。中央を閉められているので攻撃のスタートはサイドから。サイドからブロックの間に楔を入れダイレクトのパス交換から裏を狙います。何度か連続して同様の攻撃を繰り出しペースを握りかけましたが今のエスパルスのブロックは固く決定的な場面までは至りませんでした。

・スペースを作り出し利用するエスパルスの攻撃。

エスパルスは上手くいっていない相手の攻撃を遮断してのカウンターのみならず後方からのビルドアップでもレノファの守備の動きを利用した再現性のある攻撃で決定機を生み出します。レノファの守備はマンマーク。攻撃側の動きによって守備の形が動かされます。エスパルスはそれによって生じるスペースを利用します。特に空きやすいのが2つ。1つがCHの周辺、中盤の真ん中。もう1つがSBの裏です。中盤の真ん中はCBの脇に下がってボールを引き出す六平にCHの平林が付いていくため。SB裏はその空いた中盤のスペースをSBが見ていたためと内側に入ってくるエスパルスのSH枝村、白崎にSBが釣られるため。エスパルスは中盤のスペースに枝村が入ったり、石毛が引いたり、SB裏にテセが流れたり白崎が侵入したりと余裕を持ってボールを運びます。
 
先制点の場面を見てみましょう。
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六平が2トップ脇でボールを持つとCHの平林が付いていく。庄司の横にスペース。そこに白崎が降りてくる。付いてくるのはSBの小池。

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枝村がその裏のスペースに入り込む。左SB小池は白崎に付いて前に引き出されDFラインにギャップが出来ている。テセがこけてDFを完全に引き付けられなかったが、

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枝村はワンタッチでギャップに抜ける石毛にパス。ここは引っかかったが再び白崎が拾って

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先制のゴール。相手のミスも絡みましたが相手を動かしそのスペースを使った攻撃からのゴールでした。2点目はカウンターから。テセが受けて中に入った枝村、白崎と動かしサイド奥の空いたスペースに河井が飛び出してクロス。やはりドフリーのスペースを突いての得点です。テセが攻守に渡り完全に競り合いを制したり、他の攻撃陣もプレスを交わしボールを運んだりと個の力の差はありました。ただ相手を動かし個の力を発揮するためのフリーな場面を作り出しのはエスパルスの組織的な攻撃でした。

エスパルスは攻守ともに安定し危なげ無し、レノファは攻撃ではらしさを見せるも守備の問題点を修正できず2失点という内容で前半は終了します。

・後半レノファ山口の修正。

後半、レノファは修正を図ります。全員攻撃全員守備。ハーフタイムコメントで上野監督が言ったように攻守ともレノファらしい動きを見せて互角までペースを握り返します。
 
レノファは後半開始と共に左SHの鳥養に代えて三幸を投入。三幸はボランチでの出場もあるように中央でもプレーできる選手のようです。三幸はブロックの間で受けるだけでなく福満と共に中盤に下がって庄司からのボールを引き出すなど幅広く動いてボールに絡み後ろと前を繋ぐ働きをします。また、レノファは前半とボールを運ぶルートを変えて攻撃を仕掛けていました。
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前半は2枚のCBの間に降りることが多かった庄司ですが後半になるとエスパルスの2トップの脇サイドに降りてボールを受けます。そこから前に上げたSBとのパスでエスパルスのDFをサイドにスライドさせ、FWの岸田がSBの裏に流れボールを引き出します。または同サイドでパスを繋いでエスパルスのブロックをサイドに寄せて空いている逆サイドへ。レノファはエスパルスの中央ルートからの攻撃が厳しいとみてサイドからサイドの攻めに切り替えます。

SB裏に流れる動き。
 
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SB小池からエスパルスのSB松原の裏に流れる福満へ。
 
次は逆サイドのスペースを突いた攻撃。
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こちらは庄司、小池と繋いでブロックを右に寄せて庄司から逆サイドのスペースを上がる廣木へ。庄司の素晴らしいサイドへのロングフィード
 
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廣木がドリブルで持ち上がる。ブロックの左の間で島屋、右に三幸。サイドから平林、中央から岸田が裏狙い。福満がブロックの外でフォローの位置。
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三幸に出たが囲んで止められる。しかし、サイドからバイタルエリアまでワンタッチで繋いだレノファらしい攻撃。そして攻撃から守備への切り替え局面。攻撃で押し上げられているので前後のスペースは狭められていて
 
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攻撃での距離の近さが守備の密度に繋がりボールを回収。また通常の守備でも

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サイドに寄せるように囲い込むように密集を作って追い込みます。
 
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中央に下げてもそのまま押し上げていく。
 
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そこから逆サイドに持って行っても囲い込みます。レノファはポジションを均等に配置するよりプレスをかけ続ける守備を選択します。中盤のスペースが空くことは少なくなりましたが、このプレスを交わせば大外や裏は空いているのでエスパルスもそこを使って攻め返します。ただ前半に比べればエスパルスのビルドアップを制限し好きにスペースを使われることはなくなりました。
 
レノファは攻撃、奪われてもすかさず回収、また攻撃の循環で、50分から60分過ぎまでサイドからバイタルまで持っていく攻撃を繰り返します。エスパルスのブロックが固くここでも決定機には至りませんでしたが流れはレノファに傾いた時間帯でした。
 
エスパルスの選手交代から試合終了まで。
 
小林監督はサイドから押し込まれ流れがレノファに傾くと村田を準備。65分に枝村に代えてピッチに送り出します。これで高い位置に侵入してくる相手SBを牽制。さらに79分に石毛を北川と交代。相手が出てきたところにカウンター要因を、運動量の多いポジションの選手と交代させるという妥当と言えば妥当な交代ですが、状況を見れば絶妙なタイミング。いつも見直して気づきますが小林監督はピッチ内の状況の変化にとても敏感です。
 
レノファは高い位置で密集を作ることでエスパルスの反撃を防いでいましたが、間違いなく存在するのはその裏の広大なスペース。エスパルスはそこを突いて追加点を獲得することに成功します。
 
85分。8人をエスパルス陣内まで進入させてのレノファの攻撃。弦太が弾いて村田が大きく前に出します。ボールを受けた北川には相手CBが対応していましたが北川はスピードを生かして振り切ります。そこからテセ、テセからの折り返しをヘッドでねじ込みます。
 
そして88分。やや密集が薄くなり中盤とDFラインの間が広くなったところに入った村田が北川の折り返しをゴール。いずれも交代で入った選手のゴールで試合を決定づけます。試合はそのまま終了し4-0。前半、後半で2点ずつの複数得点、さらに守備は無失点と完璧なスコアでの完勝です。
 
・雑感
 
スコアだけを見ると前半早々に失点したレノファの心が折れたところを叩いたワンサイドゲームのように見えますが決してそうではありませんでした。レノファは「型」のある攻撃を仕掛けることに特徴があるチーム。型というと機械的という意味で捉えられてしまうかもしれませんが型とはあくまでそのチームの武器です。レノファは通り一辺倒の攻撃でなくその武器を使って様々な変化を見せた攻撃を仕掛けてエスパルスを押し込む時間帯もありました。レノファの武器はこの試合でも発揮できていたと思います。それでもワンサイドに見えたのはエスパルスの固い守備があったからこそ。レノファのダイレクトを使った速い攻撃に揺さぶられなかった守備陣には安定感を感じることが出来ました。シーズン前半はチームの成長に不安を抱くこともありましたが、ようやく軌道に乗ってきたようです。まだ「強いチーム」と言い切るのは早いかもしれませんがここまで取り組んできたことはチームの力として着実に積み上げられているのは間違いないと思います。

レノファの特色のある戦術も同様に着実に積み上げた結果実を結んだものでしょう。試合開始から終了までお互いの特徴を見ることが出来た非常に面白い試合でした。