2016年明治安田生命J2リーグ第29節 清水エスパルスvsレノファ山口 レビュー

 
【得点者】
  8分 鄭大世(清水)
26分 島屋八徳(山口)
47分 鄭大世(清水)
78分 庄司悦大(山口)
 
・試合開始時のシステムと狙い
 
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今期2度目の対戦。山口は前回、慎重な立ち上がりだったにも関わらず早々に2点のビハインド。後半は前に圧力をかけることで一時ペースを取り戻したものの、結局、0-4の完敗。今回はそれを踏まえてか前半からリスクを取って自分達の得意な形を前面に出してきました。
CHに三幸を起用し清水の1列目、2列目の間でボールを引き出し前への配給をスムーズに。また前回対戦ではSBの上がりを抑えていましたが、今回は始めから高い位置を取らせ清水のブロックの左右外側に張らせていました。
 
清水はいつもの2トップの片方をトップ下タイプにした4-4-1-1気味のシステムではなく北川航也を起用して2トップが横並びの4-4-2システムを採用。狙いは攻撃の時に後ろが薄くなる山口の守備の弱点を突きカウンター。その作戦の実行のためにスピードと得点力を持つ航也の起用です。
 
・「レノファ山口の覚悟」~山口の前回対戦からの修正
 
清水はカウンターに移行した時のため2トップを高い位置に置いておきたかったようです。しかし、これが守備では逆効果を生み出します。2トップは後ろのコースを切るような守備をしていましたが、2トップ裏での三幸の巧みなポジショニングやトップ下から引いてくる福満によってコースを上手く切れません。DFラインに降りてビルドアップする庄司は左右にボールを動かしながら2トップをずらすと真ん中を割るようにパスを通し清水のファーストディフェンスを無効化します。清水の守備ブロックの前までボールを運べば後は山口得意の高速パスの連続で清水の守備ブロックを翻弄します。
山口のこの相手守備ブロック内でのパス回しはすでに多くの人に説明されているように守備ブロック内、そのサイド、そして戻しのパスを受けるためブロックの前に人を配置して一定の約束事に基づいてボールを動かしていきます。前回対戦時も今回もその基本的なやり方は変わっていません。ただ山口は前回よりも今回の方がよりリスクを負った攻撃を仕掛けていました。
 
前回は清水のサイド攻撃を警戒したためかSBの上がりを抑え目にして、その変わりCHに起用された平林にサイドに飛び出す役目を与えていました。そのためボールを引き出す役目はトップ下から引いてくる福満1枚。またCHがサイドに回るため、ブロック内でパスを回す選手か落としを受ける選手どちらかが1枚不足することになります。しかし今回は相手を押し込んだら両サイドバックを上げ、さらに庄司も崩しのラストパスを出すためブロック前に。ほぼ2バック状態で攻め込むというかなり守備のリスクを犯した攻撃。山口はブロック内での回しだけでなく、サイドから回り込むように飛び出す裏狙いも加えます。開始早々に庄司から裏狙いのパスで決定機を作られましたが、楔を潰すと裏、後ろを警戒すると楔とボールが入るので、ボールに対するプレッシャーが前回より曖昧になっていたように感じます。
さらに山口はセットした守備でも前回から修正を施していました。前回の対戦ではDFラインに降りる竹内をCHの1枚が前に出て捕まえていたために空く中盤のスペースを使われ清水に簡単に前線まで運ばれていました。今回はDFラインに降りる竹内はFWの中山とトップ下福満にある程度任せて、2枚のCHは中盤の固めます。後ろでは少し自由に回されますが、中盤で中継役になる河井とその周辺のスペースは自由にしない守備の形です。サイドは前回同様マンマーク気味の守備。清水はSHの白崎や枝村がサイドから中へと動いてそのスペースに北川が流れるなど工夫は凝らしますが、潤滑油役の河井が不自由だったことで思うようなビルドアップは出来ないという状況でした。

前半26分。まさに山口の狙いが詰まったゴールが生まれます。庄司が竹内を引っ張りながら(何故引っ張られたかは後述の清水の狙いを参照)左サイドの(山口から見て)外へ。戻してのボックス内へ楔、楔を出した福満は清水DFの視野から外れたのでそのまま裏へ。清水の右側にブロックが歪んで中央がガラ空きになったとこに三幸が入り裏の福満に出し、折り返しを逆から飛び出した島谷が決めます。確かに清水のDFでの対応に問題無いとは言えません。しかし、これだけ明確なセオリーを的確な判断でゴールまで一切の迷い無く繋がれたら相手を褒めるべきだなというのが正直な感想です。

山口がこれだけ見事な攻撃が出来た裏には守備が薄くなるというリスクも存在したのは見逃せません。しかしそれは承知の上だったはずです。僕はそこに清水エスパルスに勝つにはこれしかないという彼らの覚悟を感じました。
清水エスパルスのカウンターの狙い
清水も押されながらも、無抵抗だったわけではありません。むしろ最大の武器を使うために策を仕込みその機会を窺っていました。

清水がボールを奪う狙い所は2つ。ビルドアップからブロック内に入れてくる楔の縦パスと間で受けた選手をブロック前でフォローする選手。
 
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清水1点目の時に近い配置。ブロック前で山口は上のような配置を取っています。ブロック前でフォローする位置にいる選手(ここだと三幸、福満)は攻撃では方向性を決めたりラストパスをだす役目。と同時にブロック内でボールを奪われた時には第一守備者、つまりカウンターへの防波堤の役目になっています。清水はここをボール奪取の狙い所に設定。ここで奪えればその時点で防波堤を突破したことになり最終ラインまでノーフィルターで攻め込むことが出来るわけです。
 
先制点の場面は奪いところ、ボールの動かし方、共にまさに狙い通りでして、
FWが追い込みサイドから不確実なボールを前に出させて、
 
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白崎がこの位置(三幸の横)でカット。すると守備の防波堤を突破された山口は2列目、3列目の間が無人状態。
 
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白崎は中央に向かってドリブル。中盤に守備者がいなくなるので中に運ばれると白崎を見る選手がいなくDFラインが中に絞ることに。するとサイドが空くので当然そこに航也が流れてクロス。テセのシュートで先制点。これらは偶発的とか個人能力だけでなく明らかにチームとして狙った形で奪った得点でした。

得点の説明は時系列として前後してしまいましたが、前半は1-1で終了。守備のリスクを覚悟して攻め込む山口とカウンターという斬れ味鋭い刀を忍ばせ常に斬りかかるチャンスを窺う清水。非常にスリリングな内容の前半でした。

・後半、清水の修正。

清水はファーストディフェンスがはまらず、さすがにボールを持たれ過ぎたのでそこに修正を施します。2トップ裏でボールを引き出すCH(主に三幸)をテセが、トップ下から引いてくる福満を河井がマーク。ライン間でボールを受ける相手へのマークを明確にします。さらにSHも前半より前目にプレスをかけるようになったような気もします。ただテセが三幸に押し下げられるため、奪った瞬間、前線は航也のみ。単独か上がりを待つ時間が必要となり、前半よりカウンターの威力が低下するというデメリットも同時に発生することになりました。
 
しかし、これで山口は後方からのビルドアップに制限がかかり前半ほど自由にボールを運べなくなります。ファーストディフェンスさえ外してボールを運べば、相変わらずの見事なシュートパスによる崩しを披露しますが、その回数は明らかに減りました。清水の守備の修正によって試合はやや落ち着いたものになっていきました。

しかし勝ち越し点を奪ったのは清水。後半開始直後、狙い通りの福満の位置で竹内がボールを奪います。右サイドに流れる北川に出しましたが今度はテセが中央にいないため竹内はそのまま中央の高い位置目掛けてランニング。北川の折り返しを受ける竹内に山口のDFが寄ったとこで竹内はスルー。空いた左サイドにテセが上がり勝ち越しゴールです。カウンター時の人数不足を補った見事な竹内のプレーでした。

・お互いの選手交代から試合終了まで。
 
試合の動きがスローダウンしたところで、山口が先に選手交代。60分、島屋に代えて高さとボールを運べる岡本を投入。個の特徴の部分に変化を加えたのでしょうか。清水はすぐ後63分に航也に代えて村田、68分に枝村に代えて長谷川。カウンターの方法を少し変えます。SBを村田でサイドの方に引き剥がし、中央を薄くして中の2枚で勝負します。個の力を前面に出す方向ですが勝ち目がある時はそこで勝負しやすい形を作るのもチーム戦術。
 
すかさず山口も中山に代えて加藤。岡本をトップに入れ加藤がSHなので、形としてはこれまでと変化無しだったと思います。フレッシュな選手を入れて動きを上げたということでしょう。
 
お互い2枚ずつ入れ替えましたが、得点を奪ったのは山口。左サイドで村田、ボムヨンに囲まれても間を通して加藤。SB-CBのギャップを埋めにカバーに入った河井の腕に加藤のクロスが当りハンドの判定。PKを庄司が決めて山口が同点に追いつきます。河井のカバーの動きは正しいし、腕に当ったのは不運。また村田、ボムヨンの間を割られたのも先制点の星から福満と同じでおそらく山口の約束事からくるパス。ここも対応に問題なくはないのですが山口が清水の守備を上回ったということでしょう。清水に勢いを抑えられた山口でしたが力ずくで奪い返した同点弾でした。
 
その後、清水は河井に代えて六平、山口は福満に代えてルシアーノを投入して勝ち越しを狙います。両チームとも決定的なチャンスを作りましたが2-2で試合は終了します。
 
・雑感
 
山口のチームとして練られた見事な攻撃とその戦術を分析し相手チームの骨格を叩くような清水の攻撃のぶつかり合いは非常に見応えがありました。ただ結果を考えると勝ち点1に止まってしまったのはとても痛かったと思います。航也のスタメン起用は攻撃のメリットと守備でのデメリットをもたらしましたが監督もそれは折り込み済みだったはずです。その上で今のチームを見て守るより攻撃側に寄せた方が勝つ確率が高いという判断だったのでしょう。それだけに2失点は仕方ないとしても、3点目を奪えなかったのは残念でした。それでも終わってしまったことは仕方ありません。残り試合もチームを信じて応援することにしましょう。

(今回のレビューは山口の攻撃があまりに見事でそこばかり見ていたら遅くなってしまいました。しかもそこには大して触れてないという...。まあその内に。)