2020年明治安田生命J1リーグ第23節 清水エスパルスvsサガン鳥栖【理想と現実のギャップをどう埋めていくのか】

 

1.はじめに

 1-1の引き分け。勝ち点1は得たもののボール保持でもシュートチャンスでも鳥栖に上まわれ内容的には圧倒された試合となってしまいました。

 この内容が我々が作ろうとしてきたものなのかどうか。そこへの意見は多々あることでしょう。しかしここではひとまずそれは置いておいてまず試合で起きていたことを眺めていきたいと思います。

 その上で最後に少し私の感想をつけ加えてみます。

2.スタメンと配置

f:id:hirota-i:20201022180543p:plain

・清水のシステムは1-3-5-2(1-5-3-2)

 怪我で離脱していたファンソッコがスタメンに復帰。ソッコをサイドバックに置いての4バックも予想されましたが3バックシステムを継続。

 スタメンは2トップのドゥトラカルリーニョスはほぼ固定されていますが、それ以外のポジションはなかなか固定できていません。負傷者が多い影響もありますが苦しいメンバー選考が続いています。

鳥栖のシステムは1-4-4-2 

 前節のスタメンから5人変更。それ以前の試合を見るとシステムは1-4-4-2と同じですがメンバーの方は割と入れ替わっている印象です。

3.ファーストディフェンスの空転とプレスを迷わせる鳥栖のポジショニング(清水の守備局面)

(1)空転する清水のファーストディフェンス

 序盤のそぶりを見ると前からプレスにいきたい雰囲気の清水の守備でした。しかしそのプレスがはまらず容易にゴール前にボールを運ばれてしまいます。

 盤面をあえて単純化してみます。鳥栖の後ろでの保持と清水のファーストディフェンスは(5人)vs(5人)+(サイドのフリーマン2人)の関係です。

f:id:hirota-i:20201025100800p:plain

 鳥栖はピッチ中央エリアでは同数の関係をサイドでフリーのサイドバックを使って前進。フリーのサイドバックへはソッコや西澤が出ていけば理屈上は同数ですが、鳥栖サイドハーフが内側のポジションを取り前線4人で清水5バックをピン止め。しかも鳥栖サイドバックは清水のシャドーと同じくらいの高さを取っているのでウイングバックの選手としては前に出づらい距離感です。

 清水の2トップの守備は縦並び。ドゥトラセンターバックに、カルリーニョスボランチを抑えています。中央を消すことでサイドへの誘導を狙いますが、上の構図を作られるとシャドーの後藤、鈴木に過度の負担が掛かってしまいます。実際に頻発していたのが下図の状態。

f:id:hirota-i:20201022184712p:plain

 2トップの限定が緩いため鳥栖ゴールキーパー含めて後ろで左右に動かすとボランチのどちらかががフリーになってしまいます。すると清水のシャドーは一人で中とサイドの両方を見なくてはならず鈴木と後藤は常に二択を迫られ守備をしていました。

  シャドーのラインを突破されれば残る中盤はアンカーの西村のみ。鳥栖のポジショニングは全体でも清水の守備者が各所でどちらに行くのか迷わせる状態を作っています。そのため前が崩れるとその後は芋づる式にスペースを使われてしまいました。

(2)ディフェンスラインを動かす裏へのランニング

 ゴール近くまでボールを運ぶと鳥栖は必ずヴァウドや立田の脇からディフェンスラインの裏へのランニングを仕掛けています。

 鳥栖の裏抜けに対してはそのままセンターバック(立田、ヴァウド)が流れてカバー。するとゴール前は下の図のような(ヘナト+センターバック1人)vs(鳥栖の前線3人)の形を作られます。

 

f:id:hirota-i:20201022185546p:plain

 しかも本来中盤の選手であるヘナトが中央。ゴール前でのマンマークが緩くなった状態でゴールを狙われます。前進の仕組みとゴール前のガードを剥がす仕組み。これらで決定機を量産された清水の守備局面でした。

(3)裏のスペースをカバーするために...

 前半の飲水タイム後あたりから清水はウイングバックがあまり開かないようになっています。裏抜けする鳥栖サイドハーフに対してはセンターバックではなくウイングバックがついていき、サイドのレーンはシャドーが上下動して対応。

 これで3バックがゴール前から動く必要がなくなり相手にフリーを作られづらくなりました。その代わり中盤の守備の負担を背負っていたシャドーがサイドの低い位置に下がり中盤がノープレッシャー状態になってしまいます。

 盤面全体で守備が上手く回らなかったので、せめてゴール前を修正しようという判断だったと思われます。これをどう評価するかは別として修正の効果はあったと言えます。

 ちなみにデータにも飲水タイム後の変化は表れていて、31分から45分のボール保持率は清水30%、鳥栖70%となっています。(Football LABのデータより

 30分前は低くても50%台であることから考えると修正による変化が顕著に表れています。

4.アタッキングフットボールボトルネック(清水の攻撃の局面)

 鳥栖のプレスはがむしゃらに前からというほどではありませんでした。しかしサイドハーフを前に出して3バックからの縦パスコースを抑える、そしていつでも襲い掛かるぞの準備は整えています。

 特に強く消しているのはアンカーの西村と両ウイングバック。西村へはフォワードのチョドンゴンがマンマーク気味。ウイングバックにボールが出たらサイドバックを前に出しつつ全体をスライドしてサイドで窒息させるように挟みこんできます。

f:id:hirota-i:20201025124155p:plain

 清水の3バックがボールを持っても守備を動かされることはないので近場の受け手を重点的に潰していく狙いだと思われます。

  アンカーとウイングバックを抑えられた清水はシャドーやカルリーニョスが降りてボールを受けようとしますが、鳥栖の守備はがむしゃら前プレスでないので4‐4ブロックはコンパクトなまま。ブロック内で後ろ向きで受ける清水の選手に即プレスでボールを奪取します。

 清水のボールの動きではサイドやハーフスペースに相手の守備を集結させて逆のオープンスペースに展開しようとするプレーが何度も見られます。これは意図的に狙っていたプレーだと思われます。

 しかし相手のプレッシャーを受けた状態でのパスだったからかミドルレンジのパスがずれる場面が多々見られました。またパスが通ってもシャドーが降りてきているため前が人数不足。

 清水の攻撃を見れば配置は取っています。そして空いているスペースにボールを動かす意図は見られます。しかしボールが渡った時には相手に対応されて窮屈な状態です。

 これはビルドアップのスタートに起因していると思われます。ディフェンスラインから中盤にボールが渡る時の目詰まりがその先に順送りさせています。

 ここが改善しなければシステムが4バックだろうと3バックだろうと前進の窮屈さは変わらないだろなと思っています。

5.後半の流れを少し。

 後半頭から右ウイングバックをソッコから奥井に変更。戦術的理由かソッコのコンディションの理由か。おそらく両方の理由かと思います。

 サイドに関してはそこまで高さが問題にならないし、かなり押し込まれていたので奪って前にいく機動力は欲しかったのではないでしょうか。

 清水の守備を見ると5-3-2のシステムはそのまま。中盤をフラット気味にしてボールサイドにスライドする守り方になったように見えます。

 シャドーがサイドに出た時は西村か逆サイドのシャドーが中央のボランチを見るので前半に比べて簡単に同サイドを崩さないようにはなりました。

 それでも5バックで後ろを埋めているのはそのままなのでボール保持は基本的に鳥栖が優勢。

 清水の保持ではサイドで持った際に、他の選手がサイドその裏を意識的に狙い始めたように感じます。

 清水の先制点はコーナーキックから。試合の文脈とは直接繋がっていないゴールでしたが前半からの修正は間違いなくありホームの神様からのご褒美だったかもしれません。

 鳥栖の同点ゴールは84分。こちらは一貫した鳥栖の攻撃の流れから。清水の中盤が右サイドにスライドしたため空いた左側の中盤脇を経由してのクロス。ごちゃついてこぼれたボールをチアゴと交代で入った林がゴールに蹴り込みました。

 この時、清水はゴール前に人数は足りていました。しかし繰り返しゴール前まで侵入を許していればどこかで決壊する場面がでるのは仕方のないことかと思います。

6.さいごに~ごく個人的な感想

 この日の清水の守備が後ろ荷重になっていたのは意図的だったと私は解釈しています。

 何が何でも勝ち点が欲しい。その結果として勝ち点1を得られたのは最低限の結果として認めたいと思います。

 しかしこれまでの取り組みを踏まえた時にこの戦い方で良いのか。そんな疑問は残ります。

 理想のスタイルを貫いて勝ち点を失うか、それを捨てても勝ち点を獲るのか。本来この問の対立は間違いです。なぜなら勝ちを狙うため監督が考える最善手がそのチームのスタイルだからです。

 しかし現実には様々な障害があり理想通りにはいきません。そして清水が目指しているサッカーを進めていけば例えどんな監督を招聘しても今と近い問題を抱えることになるだろうと思います。だからこそ現実と理想の差、それが離れすぎないようにしながら落としどころを作るのが監督の手腕です。

 その意味では現在清水の現実と理想の差は離れすぎであり、そこに監督の責任は大いにありと思っています。スタイルを妥協するにも人海戦術でゴール前を固める前にもう少しやりようがあるのではないか。それが正直な気持ちです。

 しかしピータークラモフスキー監督がこの判断をするに至る過程については私には知りようがありません。だから私はただクラブの判断を尊重して試合を見てそこで起きていることを観察し続けようと思います。

 観察して想像したことが合っているのか違っているのか。それはたぶん時間がもっと過ぎてからわかるのでしょう。今の私にはその想像が良い方向で合っていることを信じることしかできません。そしてこれからもそのスタンスは変わらないと思います。