ゾーンディフェンスの歴史の話...の続き

 
ようやく4バックのゾーンディフェンスまでやってきました。この本のゾーンプレスの章では、ここからミランでのサッキの戦術に続くのですが、その前に他の章にも注目します。この頃に各地で起きた重要な2つの戦術について触れてみましょう。
 
ヴィクトル・マスロフのプレッシング戦術
 
 
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1つ目の戦術の舞台は共産圏旧ソ連のチーム、ディナモキエフキエフで1964年から監督を務めたのがヴィクトル・マスロフです。マスロフは、選手全員を連動させ一気に守備の網をかけ相手からボールを奪うプレッシング戦術を生み出しました。
 
プレッシング戦術の誕生は、サッカーを11人と11人の個が戦うスポーツから、11人の選手が構成する組織と組織が戦うスポーツへ変換させた戦術思想史上の大きな出来事と言えます。
 
さらにマスロフの後、ヴァレリー・ロバノフスキーがサッカーに科学的なアプローチを持ち込むこむことでプレッシング戦術を進化させます。ロバノフスキー率いるソ連代表は、強烈なプレッシングとオートマティックな連動性を持った攻撃を武器に1988年ユーロで大躍進を果たします。決勝でオランダに敗れるもそのサッカーは西側諸国に大きな衝撃を与えました。
 
マスロフ、ロバノフスキーが作り出した戦術は共産主義という政治体制と一脈通じるアプローチであったのは間違いありません。そして共産主義体制の崩壊と共に、旧共産圏のサッカーもその力を失っていきました。
しかし彼らの戦術思想はその後の戦術家に確実に引き継がれていきます。後にドイツにおける新世代の戦術家として登場するラルフ・ラングニックはその代表的な一人と言えるでしょう。
 
 
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2つ目の戦術はオランダの地に生まれた「トータルフットボール」です。(トータルフットボールという言葉はミケルス本人でなく、メディアが名づけたそうですが。)
そもそもオランダ、アヤックスには古くから技巧的で攻撃的なサッカーを好む土壌がありました。
 
パスによるポゼッションサッカーの源流は、イングランドのキックアンドラッシュに対抗したスコットランドのクインズパークというクラブチームのサッカーだと言われています。1959年にその流れを汲むヴィック・バッキンガムが就任しアヤックスポゼッションサッカーを植え付けました。ヨハン・クライフはユース年代にこのバッキンガムの元で指導を受けています。
 
1965年、バッキンガムの後を受け就任したのがリヌス・ミケルス。ミケルスは中盤に厚みを持たせた4-3-3システムを採用。ヨハン・クライフを中心選手として、ポジションチェンジによる流動性とパスワークによる攻撃、高い位置からのプレスとラインの押し上げという現代サッカーにつながる要素を含んだサッカーを作り上げます。
この戦術の重要なポイントは、フォワード、ミッドフィルダーディフェンダーといったポジション毎に相手を上回ろうと勝負するのでなく、11人でピッチ上のスペースを支配しようという考え方です。
 
攻撃的で美しく、なおかつ強いトータルフットボールは世界中のサッカーファンを魅了しました。しかしこのサッカーを実現するためにはトータルフットボールをやるためにカスタマイズされた高い技術と戦術理解を持った選手を必要としました。そのためミケルスもクライフもユース年代からの育成の重要性を強く説いています。
結局、ミケルスのアヤックス、オランダ代表、クライフの「ドリームチーム」バルセロナ以降、トータルフットボールをピッチに表現するチームは長らく現れることはありませんでした。
 
ミケルスとマスロフ、彼らの思想は後のフットボールに大きな影響を与えることになります。
個と個の戦いから、組織と組織の戦いへ。ポジションからスペースの支配へ。この2つの大きな戦術思想の変化を理解して、ようやくゾーンディフェンスの歴史の舞台をイタリアの地に移すことにしましょう。 

(1988年欧州選手権ソ連vsオランダ)
(↑縦横がおかしくなっていますが、非常に興味深い動画ですね。)
 
 
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マンツーマンからゾーンディフェンスへと守備戦術が移っていく中、イタリアはその流れと一線を置く例外的な国でした。
 
 
カールラパンの「スイスボルト」は、インテルを率いたエレニオ・エレーラによって「カテナチオ」と呼ばれる守備戦術に整備されます。自陣に引いてのマンツーマン守備から少人数でロングカウンターというカテナチオ。この戦術は、1950年代から1960年代に全盛期を向かえます。以後、イタリア国内の戦術は1対1で勝つことが全てという発想が主流となりイタリアの伝統になっていきます。
そこに登場したのがアリゴ・サッキです。1980年代後半、サッキはACミランに就任すると、マンマーク思想がはびこるセリエAにゾーンディフェンスをベースにしたプレッシング戦術を採用。このサッキの生み出した戦術は現代サッカーにもいまだ大きな影響を与える革新的なものでした。 
 
(ナポリvsACミラン 1990/91年セリエA
 
ただしこのサッキの戦術革命は、一人のイタリア人戦術家が突如生み出したアイデアではありません。
個をベースにした守備から組織をベースにした守備。マンツーマンからゾーンをケアする発想。引いて守ってカウンターではなくプレッシングからショートカウンター。サッキの取ったアプローチは脈々と続く戦術史の流れ(ゾーンディフェンス、マスロフのプレッシング、ミケルスのトータルフットボールなど)を汲み、それをイタリアという土壌と融合させようという試みに他ならないのです。
 
リベロシステムからの脱却と新世代のドイツ人戦術家達
 
イタリア同様にマンツーマンへ独特のこだわりを見せていたのがドイツです。ドイツは1974年ワールドカップ西ドイツ大会で優勝しましたが、その時のシステムが皇帝フランツ・ベッケンバウアーリベロに配した4-3-3のリベロシステムでした。確かに1960年代後半から1970年代においてはリベロは最も先進的な戦術思想でした。しかしサッキのゾーンプレス以降、 他の国が次々とゾーンディフェンスを採用していく中、ドイツでは1990年代に入ってもリベロシステムが踏襲し続けられていたのです。
1990年代に入るとフォルカー・フィンケラルフ・ラングニックといった新世代の戦術家が頭角を現し、ようやくドイツでもゾーンディフェンスが注目されていくことになります。特にラングニックはロバノフスキーの影響を強く受けており、ドイツに根付き始めたゾーンディフェンスの土壌にプレッシングのエッセンスが加えられていきます。さらに彼の思想を引き継いだ、クロップ、トゥヘル、ナーゲルスマンなど現在活躍する優秀なドイツ人指導者がぞくぞくと出現し、今やドイツは戦術大国と言っても過言ではない地位を確立しています。
 
続いていく思考実験
 
これでようやく現代までやってきました。ここまで見てきて守備戦術の歴史とは人からスペースへという戦術思想の移り変わりだというのがわかると思います。その思想の変換を戦術としてピッチ上に具体的な形に表したのがサッキのゾーンプレス戦術です。
そして、スペースをいかに支配するかという攻防は現在も続いています。だからこそサッキの戦術は今でも戦術家達に研究され、様々な戦術のベースになっているのでしょう。

いかにスペースを支配するかという思想が進んでいくとプレッシングの重要度はますます高まっていきます。現在の守備戦術ではプレッシングはもはや欠かせない要素となっています。

プレッシングと言えばマルセロ・ビエルサが教祖的存在として有名ですが、彼はマンマークという一見時代に逆行する守備戦術を採用しています。しかし、彼がスペースを徹底的に支配するためにプレッシングを極め、そのために必要な手法としてマンマークを採用していると考えれば、ビエルサの戦術も現代の戦術思想に沿ったものだと理解できるでしょう。
 
この章で最後に触れられているチームは2004年ユーロで優勝したギリシャ代表。ギリシャを率いたドイツ人のオットー・レーハーゲルは1988年、1993年にブレーメンをドイツブンデスリーガ優勝に導いた監督でした。レーハーゲルはすでに過去のものとなり誰もが対策を忘れてしまったマンツーマンディフェンスを採用しギリシャを優勝に導いたのです。
 
次から次へと戦術のアイデアが提示され、アイデアが提示されるたびに何か対策を見出そうとする戦術家達が出てきます。戦術の歴史とは100年を超える正に思考実験の歴史です。
 
今回はゾーンディフェンスという軸に沿ってその歴史を辿ってきました。本では他にも様々な戦術の思想史について書かれています。それぞれの戦術がその時代の様々な戦術思想と網のように絡まり、影響し合い新たな戦術が生み出されていきました。
これらの戦術思想史の積み重ねの上に、僕達が今見ているフットボールは成り立っています。
 
思想のない戦術は中身の無い空き箱です。システムや選手の動きという目に見える戦術だけでなくその思想史に思いをめぐらせることで、より深くフットボールを理解できるようになるのではないかと思います。
 
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ワールドカップが終わってだらだらと、その2。日本人に合ったサッカー。

大雑把にというか単純に考えます。

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CBがボールを持った時、相手がプレスに来ます。さあ、どうしよう。

~考え方。その1。~

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ボールを持っているCBに、味方が近づいてパスコースを作ってあげる。近くの味方にパスが出たら、そこに合わせてまた動いてパスコースを作ってあげる。そのように次々と動いてパスコースを作りながらゴールに近づいていく。

キーワードとして挙げられるのは、

・近い距離感
・数的優位
・ショートパス
・流動的な動き

日本のスタイルはこちらに近いですね。ボールに直接多くの人数が絡むので、このスタイルを「組織的」といって好む人も多いような。

~考え方。その2。~

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相手がいないスペースにボールを出してしまう。

そしてそのスペースを起点にして攻撃を組み立てていく考え方です。

そのため必要なことは、

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・あらかじめフリーになりやすいスペースに人を配置しておく。
・前方のスペースに一発でボールを通せるCB。
・前線の選手を引かせずに前目にポジションさせておく。

離れた場所に人を配置しておくこと、長いボールを使うこと、ボールホルダに人を寄せないこと。これは組織的でないと嫌われることも多いですね。ハリルホジッチのサッカーを好まない人が多かったのもわかるような気がします。

日本人選手の特徴としては、ボール扱いが上手い、アジリティが高い、フィジカルが弱い、というのが挙げられます。世界のチームと戦うには、これらを考慮してチームを作ることが必要というのには異論がありません。

そしてそのアプローチは様々な方法が考えられると思います。

・低い位置から繋いでいくということは、自陣寄りで相手のデュエルを受けては交わすを何度も繰り返すということ。
・直接高い位置のフリースペースにボールを付ければフィジカル勝負を避けることが出来る。
・相手のゴールに近い位置で、高い技術や瞬間的なスピードなど優位性を発揮する。

ハリルホジッチの考えていたサッカーは日本人の特徴を生かすために理にかなったやり方だと思ってたのですけどね。ワールドカップで見たかったけど、残念でした。それは仕方ないとして「あのサッカーは日本には合わない」と考え方丸ごと否定されるのは今後を考えると勿体ないですよね。

とは言え、日本人の好むサッカーというのも大切なのも事実です。それが日本人の特徴を生かしたサッカーと一致しない場合もあるというのが難しいところですが。

今はどういうのが良いのか、よくわからんので、また色んなサッカーの試合を見て考えていけたらと思います。

何かイマイチぼんやりしたオチですみません😢⤵⤵

ワールドカップが終わってだらだらと

夢のような約一ヶ月間がついに終わってしまいました。これまでにないくらい試合を見まくりましたよ(それでもまだ見てない試合がHDの中に残ってたりして)。

さて、では感想。開幕前には、クラブチームのように整備された戦術を駆使してくるチームが多いのではなんて声が聞かれたりもしました。戦術クラスタ界隈では戦術理論の一般化、認知トレーニングなんてワードも話題になりました。

しかし、いざ開幕して見るとやっぱり選抜チームの大会だなという印象でした。基本的には4-4-2のゾーンで守って、相手の急所を狙ってシンプルに攻めるというゲームモデルのチームが多いかったですね。

4バックのゾーンで守って固い守備組織が作れていたのは、それが彼らにとって一番わかりやすい守備の共通言語だったからでしょう。つまり理解度が高く実行しやすいゲームモデル、そのチームのやり方を徹底できていたチーム、相手の組織の隙をぶん殴れる個がいるチームが勝っていた印象です。

日本代表に目を向ければ想像以上の良い結果を残してくれました。ただ上の条件に当てはまるかなと考えると「?」になってしまいます。

そもそも何故ゲームモデルが必要かというと、それがチームのプレーの基準になるからだと僕は理解しています。基準があればチームのプレーが一つになりやすい。チームスポーツなのでチームが一つになれば強いですよね。

日本はゲームモデルに関しては「?」なのですが、「基準」と考えれば明確なものがあったと思います。たぶんそれはいわゆる「俺達のサッカー」。「俺達のサッカー」は我がままなサッカーという否定的な意味で使われることが多かったのですが、今大会ではチームの一番わかりやすい共通言語としてゲームモデルの役割を果たしていたのではないかと思います。

ハリルホさんが解任されてから大会中、そして大会後。聞こえてくる話から推測すると日本代表は選抜チームではなかったような気がします。南アフリカ大会から続いている一つのチーム。南アフリカ大会で中心となった選手達は今後日本代表が強くなるために必死に努力してプレーを磨き、思考し続けてきたのでしょう。それが積み重なりチームのプレーの基準になっていたのだと思います。

そう考えれば主力選手が4年前にはザックさんの、今回ハリルホさんの戦術に異議を唱えたのは一貫して理由があったなと理解できました。それが良いか悪いかは言いませんが、少なくとも彼らにとっては自分の我がままを通そうとした行動ではなく、日本サッカーのために起こした行動だったのでしょうね。

西野監督が代表経験の多い選手、それらの選手と波長のあう選手を中心に選考したのも正解だったと思います。それにより基準が統一されるからです。プレーの基準といっても選手の内側から出てくるもので言語化出来るほど明確なものでないならば、監督が戦術を考えて与えるのでなく、選手側からの発信をまとめる形を取った方が良かったのでしょう。

海外のユース年代指導者が日本の選手は味方に気を使ったプレーをする、それによる即興性のあるプレーには驚かされると言っていたのをどこかで読んだことがあります。
今回の編成によってそういったものが日本の優位性として発揮された形なのかななんて思ったりしました。

戦術はあくまでチームのフレームを構成する一部分であって、中身を伴わなければ意味がありません。選手が一体となって全てを出し切れるものがあれば、多少あいまいなフレームでもそちらの方が勝利に近づける場合もあるということを学べたのは収穫でした。

仮にも今回それなりの結果が出たので(結果とは何を指すのかという議論もありそうですが)ちゃんと分析して良いところを抽出して今後に生かして欲しいと思います。しかし理論立てて考えるのが苦手な我が国のサッカー界(サッカー界だけじゃないけど)なので、経験と身内の自己肯定感でこれからの進路が決まっていきそうですね。自分達に合わないと思いこんで慣れないものを否定するのはもったいないような気もしますが。

まあ、肩ひじ張ってサッカーを考えても疲れるので、あるがままでサッカーを見ていきたいと思います。ムキにならず、かといって流され過ぎずに。twitterでは大人しくしてましたが、大会中めちゃ盛り上がって楽しんでましたしね。Jリーグも始まったことだしサッカーは基本的に楽しめる方向で行きますよ。



2018年W杯 日本代表 vs コロンビア代表 レビューを読み漁っての感想

ワールドカップ、何だかんだありましたが思いっきり楽しんでおります。代表の試合で有り難いのは、エスパルスの試合と違って詳しい人が何人も分析記事を書いてくれることでして。試合後も満喫しています。

日本対コロンビアの試合も幾つか解説されています。ほんとは自分で見直したいのですが結局よくわからん。なので、それらの分析を読んで最大公約数みたいのを拾ってまとめてみたいと思います。

開始早々にコロンビアの退場とPKによる日本の先制。結果に一番影響を与えたポイントがここというのはどのレビューでも同じ見解。ただ完全に偶然だったのかというとそうでもなさそう。試合の入りが緩かったコロンビアとしっかり集中して前への意識を持っていた日本。準備のしっかり出来ていた日本が「運」を引き寄せたというのが事実に近いような気がします。

1人少なくなったコロンビアはトップ下のキンテーロをボランチに下げてファルカオ1トップの4-4-1の守備陣形。そして守備力の一番低いクアドラードをはずしてボランチバリオスを投入。キンテーロをサイドに回します。クアドラードを残した方が良かったのではないかという論もありましたが、バリオスボランチに入れたのを評価したのは全員一致。ぺケルマンの頭の中を想像すれば、より守備を重視しながらワンチャンスを狙う采配。後は攻め返す時にどういう絵を描いているかで残す選手を決めたと。前半に関してはコロンビアの方が実際に上手く行っていたので、ぺケルマンの采配は成功だったと考えて良さそうです。

早々に1点リードした日本ですが、相手が1トップなのにも関わらず必要以上に後ろに人数をかけてボールを繋ぎ、そして相手ブロックの中に突っ込むように攻撃を仕掛けてしまいます。

コロンビアは待ち構えて、日本が突っ込んできたら奪ってカウンター。

日本側の状況としてはまずこちらが1点リードしている、そして相手は1人少なくなって、ブロックを固めて前に来なくなっています。。考えられる方法としては数的優位を生かしてゆっくり後ろで回して相手が前に出てきたら裏にボールを出しても良し、また相手の人数の足りないところにボールを動かしてじっくりボールを前進させても良し。どちらにしてもリスクをかけずにプレーしたいところでした。

1点リードした後のポイントとしては、日本が状況の変化に対応できず無駄にリスクをかけたプレーをしてしまったという点のようです。

ただ縦パスを奪われてカウンターを食らっても、相手の攻撃人数も足りないので日本はハードワークでなんとかピンチをしのぎます。

人数の多い日本がバタバタしながら前半は進んでいましたが、結局キンテーロにフリーキックを決められ同点でハーフタイムを向かえることになってしまいました。キンテーロを残したペケルマン采配が適中した形でした。

後半に入ると日本が修正を見せます。サイドバックの位置取りを上げて、香川をビルドアップに参加させずに相手ブロック内に留まらせます。これにより相手のブロックを押し下げて、柴崎、長谷部の両ボランチが高い位置で前向きにボールを持ちことが出来るようになりました。

特にブロック内で間受けのできる香川をバリオスが見るため日本のボランチがフリー状態。日本は優勢に試合を進められるようになります。

ここでこの試合もう1つの注目ポイント。ハメスロドリゲスの投入。その後にFWのバッカを投入していることからも、グループリーグの戦略として日本からは勝ち点3を取るというペケルマン監督の考えだったのでしょう。前半は守備を固めカウンターという狙いでしたが、後半守備の強度を下げても得点を狙って勝負にきました。その意図は理解できますが、結果としては守備力の低下というデメリットの方が大きかったようです。

日本は香川に代えて本田。ここで本田へは評価はわかれています。守備での貢献が低いこと、ボールを失う場面があったことなどがデメリット。相手を押し込んでいたのでミドルシュートやセットプレー、トランジションよりポゼッションで仕事が出来るというのがメリット。そしてハメスの守備が緩くコロンビアのブロック内にはスペースがあったので本田の特徴を生かすための条件は揃っていました。結果的に追加点に直接関わったことを考えれば彼を投入したメリットがデメリットを上回ったと言えます。またメリットはあるがデメリットも大きい選手を先発から外し、途中出場で仕事をさせた西野監督の采配は非常に理にかったものだったと言っていいでしょう。

で、やっと最後に感想です。

分析記事をいくつか読ませてもらいましたが、この試合に対しての評価は様々でした。しかしそれらの違いは書いている方のスタンスや注目点の違いであって試合で起こっている現象については概ね同じように理解がなされているような気がします。

開始早々に相手が退場したのは幸運でしたが、その他は内容に沿った結果が出ていたと言えそうです。

僕は日本代表を過小評価していて、戦術的にも個の能力(戦術理解、フィジカル含む)にしても世界との差は大きく、特にここ数年はどんどん世界は進み続けていると思っていました。

しかし、日本代表は思っていた以上にポテンシャルがありました。日本の選手は現時点でも状況さえ整えば世界の強豪チームとも技術的でもフィジカルでも、ちゃんと勝負ができていて、その差はわずかかほぼ無いとされ思えます。また戦術厨からは評価が低い西野監督も采配は的確だったと言えます。分析スタッフの力もあったかもしれませんがベンチは試合はちゃんと見えていました。

ただ前半を見るように、この力を発揮する条件が相手が状況を与えてくれた時、または偶発的に状況が出来た時に限られているのではないかという疑問も残ります。他の国の試合を見ているとまず自分達が狙った状況を作り出すという勝負をしているようです。例えばメキシコがドイツにマンマークをつけて使いたい場所にスペースを作ってカウンターを仕掛けたような。親善試合でもウクライナは日本の守備を見てビルドアップを変えていったし、ガーナも早々に日本の守備を見破ってきました。

実は日本と世界との距離自体はそれほど離れているわけではないのかも知れません。少しのずれを言うなら世界のサッカーが今どこで勝負しているか、そこに注目できるか。差はそこのなのではないでしょうか。

そう考えると、ボール周辺でどうプレーしようかという日本のサッカーと、勝負するための構図を作り出すことに強みがあるハリルのサッカー。今の日本のサッカーでは理解し合えなかったのかなという気もします。

まあ、あまり深くは考えていない直観的な感想ですが、果たしてどうなのかこの後の日本の姿を見ていきたいと思います。






ゾーンディフェンスの歴史のお話~読書メモです。

戦術の教科書 サッカー進化を読み解く思想史 著:ジョナサン・ウィルソン、田辺雅之
 
面白い本を読んでもすぐ内容を忘れてしまうので、メモしてみます。この本は副題に(サッカーの進化を読み解く思想史)とあるように戦術の思想史(というと難しそうですが、そんなに難しくないです。様々な戦術の過去からの繋がりとか関わりみたいなお話。)について書かかれています。
 
ゲーゲンプレスやゼロトップなど注目されるいくつかのトピックに分かれているので読みやすいと思います。興味があるところ拾って読んでも良いし、全て読めば現在注目される戦術が過去からお互い繋がりを持って発展しているのがわかります。これを全部メモると大変なのでとりあえず僕が興味を持ったゾーンディフェンスについて書かれたところを中心に拾い、その他ちょっとお勉強したことをつけ加えて書いてみます。
 
その前にサッカーの歴史に興味を持つきっかけになったかつーさんのブログをリンクしておきます。
 
 
要はその3の続きのようなお話になります。
 
1866年に3人制オフサイドのルールができたことによって前にパスすることが可能になり、スペースという概念、パスを使って攻撃するという方法ができました。そして徐々にシステムは整理されていき1870年後半に、複数のパスコースを作りながらスペースをカバーすることができるシステム、2-3-5が主流になってきます。ここまでがかつーさんのブログに書かれています。
 
当時の守備は基本的にマンツーマンで行われていて、2枚のバックの選手はそれぞれピッチを右と左に分けて担当。相手が来たら広いピッチをボールを持った相手を追い掛け回して奪うような守備をしていたそうです。2-3-5なので相手FWの5人を2人でマークする形ですね。これはかなり困難です。
 
ここで新しい守備のコンセプトを生み出したのがイングランドノーサンプトン・タウンの監督をしていたハーバード・チャップマン。
彼はDFの2人はボールを持った敵を追いかけ回すのではなく、低い位置に構えて自分が受け持つエリアに入って来た時だけ対処すればいいという守備方法を考えました。チャップマンがこれを考え出したのが1900年代初頭。約120年前にゾーンで守るという発想の始まりがあったのです。
 
しかしその頃、3人制オフサイドルールを逆手に取った守備戦術が流行し始めました。オフサイドトラップです。3人制オフサイドルールだと
 
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後ろに1人DFを残したローリスクの状態で、簡単にオフサイドトラップを仕掛けられます。このオフサイドトラップが流行するとサッカーは得点が生まれづらいスポーツになっていきました。
 
そこで1925年に現在と同じルール「2人制オフサイドルール」が採用されます。これにより以後、現在に通じる戦術の大きな変化が生まれていきます。
 
2人制オフサイドルールが採用されると、今度は攻撃側が優勢になり得点が大量に生まれました。2-3-5のシステム同士試合をすれば、2バックに対して5人でパスを回して攻められますからね。
 
そこで1920年代後半、チャップマン(当時はアーセナルの監督)がまたアイデアを生み出します。それが有名な「WMシステム」です。
 
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だぶついている前線の人数を中盤と後ろに回し3-2-2-3の配置。これにより数的なアンバランスが解消された上に中盤と前線を攻守に連動させるという考えが生まれました。この戦術が効果的だと知られると当然他のチームも追従します。するとお互いのチームが3枚の前線に3枚の守備陣。4枚の中盤に4枚の中盤という状態で試合が行われることになります。

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つまり、このようにマッチアップという考えができてサッカーの戦術が一気にシステマティックになりました。ただこのようにシステムが噛み合う状態はマンマークが有効でまだゾーンディフェンスが主流になることはありませんでした。
 
さらに時間を進めましょう。このWMシステムはイングランドからヨーロッパ大陸へ、そしてさらに他の地域へと伝播していきます。南米大陸ブラジルにこのWMシステムを拡げたのはハンガリー人監督ドリ・クルシュナーだと言われています。 ドリ・クルシュナーはハンガリー代表としてプレーした選手で、引退後はスイス代表やスイスのクラブを監督として指揮しました。
しかし当時ヨーロッパに吹き荒れた反ユダヤ主義から逃れるため1937年にブラジルに渡ります。ブラジルではフラメンコ、ボタフォゴなどを指導。これによりブラジルにWMシステムが拡がりました。
 
ルシュナーに影響を受けたブラジル人指導者の1人が1950年のワールドカップでブラジルを率いたフラビオ・コスタです。彼はWMシステムを独自に進化させることに着手します。中盤の前2枚のハーフに守備をサポートする役割を、前の2枚インサイドフォワードに攻守を繋ぐ役割を与えます。結果、中盤2-2の選手が1枚ずつ前後にずれて4-2-4のシステムを生まれます。
 
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これが4バックの時代が始まりです。フラビオ・コスタは4バックシステムを用いて1950年のワールドカップブラジル大会でブラジル代表の決勝まで進みます。しかし決勝という大舞台でブラジルはウルグアイに敗れてしまいました。世にいう「マラカナンの悲劇」です。
 
ちなみに、優勝したウルグアイのシステムにもユダヤ系のハンガリー人が関わっています。ウルグアイは3人のDFの後ろにスイーパーを置く4-3-3のシステムでしたが、これは元々はスイスのクラブで監督をしていたオーストリア人カール・ラパンが考え出したものでした。このスイーパーを置くシステムは欧州では弱者の立場のスイスが強国に対抗するために生み出され「スイスボルト」「ヴェルウ・ディフェンス」などと呼ばれていました。このシステムはイタリアのカテナチオの思想的バックボーンとなっています。
 
何故このウルグアイがこのシステムを採用したのでしょうか。実はウルグアイのキャプテンのバレラの所属していたチーム、ペニャロールの監督がハンガリー人のエメリコ・ヒルシェル。ウルグアイの4-3-3のスイーパーシステムはバレラの提案で採用されたと言われています。
 
その他にも、1950年代のハンガリー代表が現在でいう偽9番の戦術で「マジックマジャール」と呼ばれて当時のサッカー界に非常に強いインパクトを残したのは有名です。この頃の中央ヨーロッパは、戦術的に非常に先進的な地域だったようです。中欧、東欧の指導者が南米のフットボールに大きな影響を与えていたといえます。
 
話をブラジルの4-2-4に戻しましょう。マラカナンの悲劇を受けてブラジル代表は戦術の見直しが始まりました。ブラジルが「スイスボルト」のシステムを採用したウルグアイに敗れたのはディフェンスのマークの差に原因があったのではないかという批判が起きました。
そこでフラビオ・コスタの後を受けて代表監督の座に就いたゼゼ・モレイラはマンツーマンで守備をするよりゾーンで守った方が組織的な守備を展開しやすいと考えました。さらにマークの受け渡しや攻守で選手が連動していくという発想を生み出します。今日採用されている組織的な戦術の発想の元が形作られたのはこの時期だと言ってもいいでしょう。
 
4バックのゾーンディフェンスを採用したセレソンは1958年のワールドカップスウェーデン大会でついに世界の頂点に立つことになりました。第2次世界大戦後の復興が進んだヨーロッパ大陸で行われたこの大会はこれまで以上に多くのジャーナリストやサッカー関係者が集まり世界的に大きく注目される大会でした。その中で優勝したブラジル代表の戦術がサッカー界に与えたインパクトは大きいものでした。ここで世界的に守備の戦術思想がマンツーマンからゾーンディフェンスへと移行していくことになります。
 
ここで一旦休憩。続きはまた後ほど。

明治安田生命J1リーグ第14節 清水エスパルスvs湘南ベルマーレ~エリアを支配する


"前半にPKから2点を連取するという幸運な形でリードを得た清水。決して盤石といえる守備ではないものの、相手の最終局面における精度の低さに助けられて無失点で試合を折り返す。ホームチームは後半の立ち上がりにも一瞬の隙を突いて2点を積み重ね、大勢を決した。ただ、その後は守備の不安定さから湘南に一方的に攻め込まれる展開に。六反の獅子奮迅の活躍でどうにか逃げ切ったが、反省点の多い内容となった。一方の湘南は前節に続いて相手に二度のPKを与えてしまい、自滅。失点の仕方が悪いだけに、速やかな改善が必要だろう。"

上はFootball LABの選評である。清水の得点は”幸運”と相手の”隙”によってもたらされたと書かれている。またDAZNの配信でこの試合を解説していた興津氏も清水は内容が悪いが点は取れているというニュアンスの解説をしていた。

データを見てみよう。

・支配率  ⇒ 清水39.7%  : 湘南60.3%
・シュート数⇒ 清水8    : 湘南16

このようにデータも湘南がボールを支配してゴールに迫っていたことを示している。

では何故、清水は4点を奪うことが出来たのか。本当に運が良かっただけなのか。

視点を変えてみよう。

ボールではなく、場所の支配という視点だ。両チームのスタメンは下の通り。

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清水の攻撃と湘南の守備の局面を考える。湘南は守備では高い位置からプレスに来ていた。かみ合わせは下の通り。

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便宜上、場所を①、②、③と分ける。①の場所は各々のチームの選手が同数でかみ合っている。②の場所は湘南の前線3枚の内の1枚が下がって中盤のカバーをするので湘南の数的優位。つまり湘南は、①のエリアで清水の攻撃を限定して、②のエリアで守備の強度を上げて奪い取るという戦略を立てていると考えることが出来る。

そして③のエリア。清水は攻撃の時にサイドハーフを絞らせて前線が4枚になることから清水の数的優位になっている。ここは清水の優位なエリアだ。

試合開始直後、清水は湘南のプレスによって落ち着いてボールを持つことが出来ず、ディフェンスラインから近くの②のエリアにボールを入れる場面が多く見られた。湘南は狙い通りこれを奪い攻撃に繋げる。しかし何度かピンチを凌いで15分くらい過ぎると攻撃に変化が出始める。

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清水はまずゴールキーパーの六反がビルドアップに加わる。これで①のエリアは清水の数的優位に変化する。それにより後方での保持に余裕が生まれる。余裕はフィードの精度に繋がる。清水は相手の守備の密度が濃い②のエリアを飛び越えて、自分達が優位な③のエリア、特にクリスランへ精度の高いボールが直接入るようになる。

クリスランはポストプレーヤーというタイプではないが、フィジカルが強く競り合いではかなり高い確率で勝利することが出来る。そして他の前線の選手(北川、石毛、金子)は機動力がある選手だ。クリスランが競り勝ったボールを拾う、相手が押し上げたところを裏を狙っていくという方法で優位な③のエリアを攻略していく。

2点目は正にその形から。クリスランに入ったボールを北川に渡し、再びクリスランが受けて前進したところから生まれている。1点目も竹内がマッチアップしている相手ボランチから奪い③のエリアに侵入したことで生まれた得点だ。

では湘南が前からのプレスを抑えて5バックにしたらどうだろう。

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湘南は3-2-5のシステムになり前線は同数、後ろは数的優位だ。これで③のエリアは清水優勢でなくなる。しかしこの配置になると、

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今度はボランチ脇から、サイドのエリアがフリーになる。3点目はこのサイドを飯田が切り裂きクロス。クリスランが落として北川がゴール。エリアの攻略と質的優位を使ったゴールだ。4点目はクリスランからボランチ脇で受けた竹内、そのボールに対応して前線の選手が前向きにスペース目掛けて走ることで③のエリアを攻略している。
相手が人数をかけて守っても、サイドからのクロスやDFラインを背走させることにより、そのメリットを削ることが出来る。

確かに清水はボールを保持されて決定機を作られたように試合全体を支配していたわけではない。湘南の攻撃も機能していたし、清水の守備にも課題があるだろう。しかし清水が奪った得点は運や相手のミスではない。自分達の優位なエリアを制圧することで主体的に奪った得点と言えるだろう。

...なんてね。もっともらしく結果を組み合わせた言葉遊びでした。

ユベントスの4-2-3-1システムとアレッグリのコーチング哲学

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上のリンクの記事の翻訳です。翻訳と言っても僕は英語力がほぼ皆無なのでgoogle先生の翻訳にほぼお任せですが...。意味が繋がらない部分は適当な想像で繋げてしまいました。全く違う箇所があるかも知れません。お許しを。それでは、以下本文となります。

 マッシリミーノ・アレグリは彼の指揮するユべントスにおいてここ最近は4231システムを採用している。
 批評家やメディアは、彼のこの戦術的な調整を賞賛した。多くのユべントスファンはこの変化を喜び、他の人達はむしろもっと早くこのシステムを作るべきだったと評している。
 ここでは、私はこの4-2-3-1の構成と戦術の機能を分析する。比較対象としてジョゼ・モウリーニョインテルでの”Treble-winning team(2009-2010年のCL、セリエA、イタリア杯の3冠達成チーム)” を使用する。そして、ここ数ヶ月にユベントスが使用したいくつかの戦術と、今シーズンの全体的な戦術についても議論する予定だ。うまくいけば、これらの考察が、”アレグリの指導哲学とは何であるか?”という質問に答える手助けになるだろう。

4-2-3-1フォーメーション

 4-2-3-1は、インテルが2009-10シーズンにトレブル(3冠)を獲得したモウリーニョのチームが最も有名になっている。アレグリの戦術を理解するためにはモウリーニョの戦術をまず理解する必要がある。まずモウリーニョの4-2-3-1フォーメーションについて簡単に説明しよう。

 ディフェンスはGKのジュリオセザールから始まる。ゴールの前はルシオとサミュエルの2人のセンターバックで守られている。マイコンとキブは右と左のフルバック、Jサネッティは左右どちらのフルバック(またはフルバック以外のポジションでも)でもプレーすることができる。 ダブルピボーテは、カンビアッソチアゴ・モッタで構成されている。ウェズリー・スナイデルは古典的な10番だった。2人のウィンガー、ゴーラン・パンデフサミュエル・エトーがトップのディエゴ・ミリートをサポートしていた。

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 モウリーニョの4-2-3-1はいくつかの重要な戦術的要素を持っていた(インテルに限らず、彼が指導したほとんどすべてのチームでも)。

1.中盤のダブルピボーテ2人のミッドフィールダーはポジションは同じだが、各々独特の性質を持っている。 1人の守備的ミッドフィールダーはゲームのテンポを支配するために優れた長短のパスを駆使できる能力を持っていなければならない。この役目は通常はティアゴ・モッタであった。一方、もう1人のピポーテ、カンビアッソ初期の攻撃フェイズにおいてセンターバックフルバックがビルドアップするのを助け、ボールの前進を促進する任務を与えられていた。またフルバックが攻撃参加した際の後方の守備のカバーの役割も与えられていた。これらのタスクは、戦術的インテリジェンスを持つプレイヤーが請け負う必要がある。カンビアッソは当時、この能力を持つ数少ないプレイヤーの1人だった。 現在では、ユリアン・バイグルがトーマス・トゥヘルが指揮するドルトムントの4-2-3-1システムにおいてこれと同様の機能を持っている。

2.中盤のダブルピポーテが対戦相手を彼らの方に引き寄せることにより、インテルディフェンダーがボールを前方に持ち上がる機会を作り出す。そのためモウリーニョはいつもボール扱いに優れたセンターバックを好んで起用する。インテルでは、ルシオがそのような役割を担っていた。

3. ウイングは、少なくとも1人は逆足ウィンガー(時には2人)を起用することが特徴だった。 エトーインテルでこの役割を完全にこなしていた。彼とパンデフはしばしば中央に切り込んでシュートを撃っていた。

4.モウリーニョのチームはいつもクラシックな10番を起用することを特徴としていた。インテルでは当時キャリアのピークを迎えていたスナイデルを10番として獲得した。

 上記の特徴が、4-2-3-1を優れたシステムに作り上げている。そしてその狙いは相手のエラーを利用し、自分達のミスを最小限に抑えることだ。「優勝するチームとはミスが最も少ないチームだ」というモウリーニョの信念は有名である。彼は相手にポゼッションを与えることで、自分達のチームのミスを少なくしようとする。彼の4-2-3-1フォーメーションは、1つの目的のために作られている。相手のエラーを最速で攻撃することである。まずゴール前にバスを並べる4-5-1のフォーメーションで深い位置に構えることからスタートするこれは自チームがエラーを起こす可能性を最小限に抑えつつ、相手のチームがエラーを起こすのを待つためである。彼らが相手のエラーを感知すると、彼のチームはすぐに4-2-3-1に変わり、次に4-3-3に変化する。逆足のウイングがモウリーニョのチームにとって重要ななのは、両方のウイングからのカットインがシュートやアシストの機会を作り出すからだ。このポジションにエトーを置くというモウリーニョの選択は、彼の信念ートリックのような技巧など必要ない、得点を奪うことこそ全てだーを良く表している。もし攻撃中にボールが失われた場合、4-3-3フォーメーションによって即座にプレスに移行することができ、相手に強制的にエラーを引き起こさせることができる。このフォーメーションの切り替えと切り替えを達成するのピードがモウリーニョの4-2-3-1の鍵となっている。

ユベントスの4-2-3-1:守備のフェーズ

 ユベントスの4-2-3-1は古典的な4-2-3-1と基本的な部分はよく似ている。


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 ラインナップは以下の通りだ。ユベントスでは上手くパスを通せるレオナルド・ボヌッチとボールを前方に運べるジョルジョ・キエッリーニというセンターバックを特徴としている。

 攻撃的なダブルピポーテのミレラム・ピアニッチサミ・ケディラは、それぞれチアゴ・モッタカンビアッソと同様の質を持っている。

 しかし、ピアニッチケディラインテルの2人に比べると守備は堅実ではない。

 ユベントスにはクラシカルなタイプの10番はいないが、パウロ・ディバラはそのポジションでプレイするためのより高い質を持っている。

 アレグリはこのシステムで伝統的なウィンガー(ファン・クアドラード)と一見それとは特徴が反対と思われるウィンガー(マリオ・マンジュキッチ)もプレイさせている。

 しかし、アレグリのよって行われる潜在的な戦術コンセプトはモウリーニョのそれとは違っている。

 先ほど述べた通り、モウリーニョのチームは、4-3-3、4-2-3-1、そして最後に4-5-1とシームレスに移行していく。4-3-3は初期の防御フェイズ中に相手にプレッシングをかけるために用いられる。もし相手が最初のプレスに対抗することが出来れば、モウリーニョのチームは素早くミッドフィールドを2層にした4-2-3-1にセットする。4-2-3-1の中盤の配置よって加えられるプレスの圧力は非常に高い。もしそれでもボールを奪取することが出来ない場合は、ゴール前にバスを並べる深い防御の4-5-1へ移行する。

 一方、ユベントスモウリーニョのチームと同じやり方では守備をしていない。4-3-3または4-5-1への迅速なトランジションによってアドバンテージを得るというのはユベントスには当てはまらない。なぜなら、シーズン初めの数試合は別としてユベントスは殆んどの試合を4-4-2で守っていたからである。ユベントスが中盤4人の4-3-1-2でもアタッカー4人の4-2-3-1でも、ユベントスは常に守備の局面では最も基本的な3ラインの4-4-2を形成して守備をしていた。

 4-4-2は最も基本的な編成であり、実装するのが最も容易で簡単な形状である。防御するための3つのラインがあり、どのポジションでもすぐ後ろまたは正面に1人のプレーヤーがポジションしている。全てのプレーヤーが守備時に連携を保つための基準点が確保されている。4-4-2は防御的な形を失うわないためには最も良い方法ということができる。

 4-2-3-1でプレイするために、アレグリは3-5-2や4-3-1-2または4-3-3でプレーする時に比べて彼らの守備戦術を調整する必要が出てくる。

 ケディラピアニッチのダブルピボットは、十分な身体的能力と守備力を持っていない。したがって、ユベントスは主に2つの戦略を使用してケディラピアニッチの守備的な負担を減らしている。まず攻撃の局面中に対戦相手の陣内でボールを失った場合、ユベントスの攻撃プレーヤーは相手に対し迅速にカウンタープレスをかけてボールを回収し相手の攻撃局面への移行を遅らせる。それらについては以前記事にしたので、ここでは詳細を省かせてもらう。もし彼らがボールを奪い返せない場合、彼らはすぐに4-4-2の守備的な形になる(ディバラがイグアインの後ろにポジションすることが多いので4-4-1-1とも呼ぶことが出来る)。この形を取る時は、クアドラードマンジュキッチが両サイドのポジションに入る。モウリーニョのチームとは異なる点は、チームが中盤で強烈なプレッシャーをかける守備段階がないということだ。 ユベントスの守備は非常に高いプレスと時折のカウンタープレス、それ以外は非常に深い位置での4-4-2で行っている。

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 彼らの4-4-2はライン間が狭くコンパクトだ。 マンジュキッチクアドラード、ディバラ、イグアインは守備のフェイズ中にピアニッチとディバラをサポートしなければならない。ゆえにこの狭さとコンパクトさが必要になってくる。

 この形はディエゴ・シメオネアトレティコ・マドリードと似ている。しかし一番の違いは、アトレティコ・マドリードは相手のボールを自分達の奪いたい場所に押しむ非常に積極的な守備をしているという点だ。それとは対照的にユベントスの4-4-2は受動的だ。その理由はユベントスの前の6人(中盤と前線)がいずれも1対1で強い守備が出来る選手ではないからだ。彼らが積極的に相手を追いかけ過ぎると、(奪い切れずに)味方がカバーしなくてはならないスペースを相手に与えてしまう。対戦相手はユベントスの最初のプレスさえ交わせば、ユベントスの守備をオープンにする機会を増やすことが出来るだろう。

 ユべントスは4試合で4-2-3-1を使用しており、それはかなり安定していた。守備に局面でも大きな亀裂は見られない。しかし彼らには幾つかの潜在的な弱点が存在している。この選手構成では中盤の抵抗力を欠いており、彼らはピッチの半分辺りまで深く下がって守らなくてはならない。対戦相手としてはピッチの半分深くまではボールを保持して前進することが出来る。それは対戦相手により危険な位置でボールを持たれる可能性が高いことを意味している。下の統計には次のようなデータが示されている。

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 異なるエリアで対戦相手のパス数の平均パーセンテージを計算すると、ユベントスのディフェンシブアサードに入るパス数は6%増えている(4231と4312を比較した場合かな?)。6%と言ってもあまり多いと感じないかも知れない。しかしセリエAの平均パス数が約440である。つまり6%とは約27回のパスを意味している。したがってユベントスは他の構成の時と比べて3分30秒に1度の割合でディフェンシブサードで相手のパスを受け止めていると言える。レアルマドリーなどヨーロッパのトップクラスと対戦するときはこれが大きな問題となってくる。

 もう一つの問題は、攻撃的なプレーヤーが彼らの労力を守備的ミッドフィーダーを補助するために費やさなければならないため、試合が進むにつれて攻撃の鋭さが落ちてきてしまうということである。これは(多くの理由の内の1つかも知れないが)ユベントスが前半に得点が多く、後半に試合を締めることが出来ないという現象の理由にも繋がっていると考えられる。あなたが疲れている時に冷静になれないのと同じ理由だ。

 最後に、非常にブロックを狭く、コンパクトにする形状は相手に対して守備の圧力を高めることが出来るが、ブロックの側面にボールを広げられると非常に苦しむことになる。例としては2016年チャンピオンズリーグ決勝だ。レアルマドリーはピッチを横切るようなパスを方向を変えながら何度も使い、アトレチコマドリーのコンパクトな4‐4‐2のブロックを広げていた。

 モウリーニョの4-2-3-1のように守備局面で異なる形に切り替わる方法では厳格な規律が必要となってくるが、それと比較するとアレグリの4-2-3-1における守備局面での振る舞いはよりシンプルだ。それはただの4-4-2だからだ。チームに植え付けるのは簡単だ。コンパクトさ、圧縮で待ち構えて、中盤の2枚のピポーテのフィジカル的な弱点をカバーするのだ。

ユベントスの4-2-3-1:攻撃の局面

 ほとんどの人々が最も技術的に優れ、最も才能のある選手が配置されているユベントスの新しい4-2-3-1にとても好意を持っている。私は新しい攻撃の配置、すなわち「逆足ウィンガー」とダブルピポーテが非常に効率良く機能する理由を2つの戦術的側面から議論していく。

逆足ウィンガー

 この逆足ウィンガーはモウリーニョの戦術において特徴的なポジションだ。彼がインテルで行った一つの天才的な功績は、エトーにそのポジションでプレーすることを納得させたことである。エトーはそのポジションでプレーをすに非常にすぐれた才能を持っていた。彼のスピード、フィジカル、そしてテクニックはカットイン、シュート、そしてアシストすることを可能にした。彼のストライカーの本能は、決して不必要なトリックを駆使したせずゴールすることだけを求めていた。

 ユベントスの4-2-3-1フォーメーションではアレグリはマンジュキッチを左の「逆足ウィンガー」として起用している。しかしマンジュキッチは普通の逆足ウィンガーが通常やるようなプレーをすることはない。マンジュキッチはカットインしてシュートやパスをする能力は持っていない。私の意見を言えば、”逆足ウィンガー”という言葉ではユベントスのシステムの中で彼がどのようなプレーをしているかを説明出来ない。より適切な言葉を使うなら、「ウィンガーのスーツを着たストライカー」といったところだろう。

 この4-2-3-1システムの中でマンジュキッチは、彼の得意なプレーをやっている。つまり、フィジカルを生かし、背中で相手を背負うセンターフォワードのストライカーとしてのプレーだ。違いと言えば、これまでとは違うエリアで、違うマーカーに対してプレーしているという点だ。通常は彼は最前線のプレーヤーだ。しかしユベントスでは守備で左ウィングというポジションを担っているため、守備から攻撃へのトランジションの時には、彼は左サイドのエリアにいることになる。したがってマッチアップとしてはマンジュキッチは相手の右のフルバックによってマークされることになる。相手のセンターバックは自分のマークがあるため右のフルバックをすぐにフォローすることは難しい状態だ。マンジュキッチの新たなポジションは今や対戦相手に多くの問題を与えている。一般的にセンターバックの選手はマンジュキッチと同レベルのフィジカルを有している。しかし、フルバックの選手は一般的にはそれほどフィジカルに恵まれてはいない。彼らはオーバラップをするために機動力と軽快さが重要視されるため、一般的にサイズが小さい。したがって彼らはしばしばマンジュキッチを封じ込めることが出来なくなっている。

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(原文は動画)ここではラツィオのパトリックはボックス前でマンジュキッチに押し下げられている。彼はマンジュキッチにとマッチアップするにはサイズが小さすぎる。マンジュキッチはディバラをのプレーを助けるため時間、空間、自由すべてを作り出していた。

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(原文は動画)ここではサッスオーロの右サイドバックのルカ・アンティがマンジュキッチを中盤近くの左サイドのエリアでマークについた。マンジュキッチはアレックス・サンドロのオーバーラップを助けるためボールを遮った。アンティはパオロ・カンナバーロが復帰するまでセンターバックでプレーしていたように、マンジュキッチにも対抗できるフィジカルを持っている。しかし彼は通常、それほどゴールから遠く離れたエリアではプレーしない。そして普通のセンターバックに比べてマンジュキッチがボールを離した後に元のポジションに戻ってカバーをするスピードを持っていない。

 新たなポジション、左ウィングでのマンジュキッチのフィジカル的な強さは非常に危険であった。インテルとの試合では監督のステファーノピオーリはスタメンを変更して3バックで守備を行いマンジキッチに対応するためにジェイソン・ムリージョを右サイドで起用しなけれがならなかった。

 多くの人は彼の惜しみないハードワークを賞賛する。その反面、彼はフィニッシュの場面で落ち着きを欠いているとの批判も多い。私は彼の決定力の低さは、他の仕事であまりに多くのエネルギーを費やしているからだと思っているが、それらの批判は概ね真実だと思う。しかしマンジュキッチは現在彼が得ているより多くの信頼を受けるべきだと思っている。彼はユベントスがこのシステムを機能させるためのキーマンの一人です。彼はよりゴールに近づける最前線のポジションを諦めて、左ウィングのポジションでプレーしている。彼は不平を言うことはなく、それを完全に受け入れています。ほとんどのストライカーは得点を挙げることの出来ないポジションを与えられたら不満を抱くだろう。マンジュキッチは真のプロフェッショナルなのだ。

ダブルピポーテ

 4-2-3-1の2人の中央のミッドフィルダーはボールを前進させる、相手の攻撃を防ぎカバーをするなど非常に重要な役割を担っている。この考え方はモウーリニョのインテルまたはトゥヘルのドルトムントにとっては真実だ。モウリーニョインテルでは、カンビアッソはチームメイトのポジションを調整する任務が与えられた。 フルバック(通常マイコン)やルシオが前に出れば、カンビアッソはそのポジションをカバーするために戻った。ヴァイグルはドルトムントで同じ役割を果たしている。彼の動きはドルトムントディフェンダーが攻撃参加していくことを可能にしている。

 ユベントスの4-2-3-1では、通常ケディラがそれらの役割を果たしている。彼はカンビアッソやヴァイグルのように守備が出来て、戦術的インテリジェンスが優れている。 我々はマルキージオも将来的にはこの仕事をすることができるのではないかとイメージしている。

 ユベントスのダブルピポーテは、モウリーニョインテルのダブルピポーテに似ている。 しかし生じる結果にはいくつかの違いが出てくる。我々は先にアレグリが守備局面では狭くコンパクトな4-4-2によってダブルピボーテを保護する方法について述べた攻撃の局面では両方のミッドフィルダー、特にピアニッチは優れたパスを通す能力を持っている。相手チームは早めにプレッシャーをかけてボールを放棄するよう仕向けなければならない。これはむしろ興味深い結果をもたらすことになる。

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 ここでラツィオの選手は、ケディラピアニッチの両方をマークしている。ラツィオ(そして大部分のセリエAのチーム)は3人のセントラルミッドフィールダーを配置したシステムなので、2人がケディラピアニッチをマークするとより深い守備位置のミッドフィールダーがディバラをマークする必要がある。2つのウィングはユベントスフルバックをマークしなければならない。したがって、ユベントスの2枚のセンターバックに対してマークする前線の選手はストライカーの選手(ここは動かせない)1人だけとなる。この状況は対戦相手に2つの問題を引き起こさせる。イグアインが中盤に降りると、相手のセンターバックは中盤までは動きたくないため、彼を追跡する選手がいなくなる。対戦相手は3人のミッドフィールダーとストライカーがすべてマークを持っているので中盤には多くのスペースがあり、多くの異なるパスレーンを容易に作り出す。

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 ラツィオとの試合の2ゴールはこの形から生まれている。キエッリーニはノーマークで妨げられることなくパスを出している。イグアインマンジュキッチラツィオの中盤後方でプレッシャーの少ない状態で縦パスをコントロールすることができた。 そして彼らはボールを右に振って最終的に2つのゴールを奪うことができた。

 対戦相手にとってのもう一つの問題は、上記のシナリオではユベントスセンターバック、特にキエッリーニがフリーで前進できることである。

 キエッリーニの前に出る機動力というのはしばしば見逃されている。このキエッリーニの走りというのは対戦相手にとって非常に危険な物だ。理由はそのスピードそしてユベントスのシステムだ。対戦相手のフォワードとミッドフィルダーはほとんどマッチアップで食い止められている。そのため、フリーのキエッリーニの走りで相手のディフェンスを切り裂くように開かせることが出来るのだ。

 キエッリーニはボールを保持するのが好きで、チャンスがあれば前に出ようと強く望むタイプの選手だ。これはおそらく彼がセンターバックとして固定される前は左サイドバックとして選手のキャリアをスタートした選手だからだろう。(ファンへの興味深い事実、キエッリーニフィオレンティーナにレンタルされた時にブレークした選手だ。彼はフィオレンティーナでは左サイドでの強力な攻め上がりを見せていた。彼は始めはユベントスに戻ることを希望しなかった。彼はその後カッペロのチームでプレイし、さらにセリエBでもプレイした。クラウディオ・ラニエリがローマ戦センターバックに起用するまで彼は左サイドバックでプレイしていた。それが彼がセリエAセンターバックとしてプレイする初めての機会だった。理由は彼が我々のチームのセンターバックとしてはまだ良い選手でなかったというのが事実だ。実際に、その時センターバックをプレーすることになっていたのはドメニコ・クリシトだったが、その時には経験が足りずあまりにも脆弱だった。彼らのポジションが今、完全に入れ替わっているのは非常に面白い。)

将来的にはいくつか問題が生じる可能性があるだろう。これらのメリットを得るには、キエッリーニまたはボヌッチがプレーしなければならない。バルザーリ、ルガーニ、ベナティアもそのようにボールを運ぶことが出来ない。ボヌッチでさえキエッリーニのようなプレーはしない。そしてボヌッチは怪我をしていらいトップコンディションを維持していない。

この問題に対処するため、あるチームはピアニッチケディラへのパスコースを消すようにカバーシャドウのポジションを取りながらプレスをかけてくる。それにより味方のポジションがずれスペースを作るのを防ぐ。ラツィオは試合の後半このやり方でかなり上手くやっていた。

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 このケースではピアニッチケディラセンターバックのためにパスコースを作るように、より注意深く賢くプレーする必要があります。

この先、このラインアップで注目していくこと

 このシステムと選手構成での課題は何だろうか?ユベントスはこの形でまだ4試合しか試合を行ってない。それは深刻な問題ではないが、今後発生すると思われる潜在的な課題を推測しそれについて検討していく。

 彼らがさらによくなるために出来ることがいくつか考えられる。まず最初がディバラだ。私は彼のプレーが良くないとは思わない。むしろ良くやっている。しかし皆の彼に対する期待はとても高い。何故なら多くの人達が彼は絶対的な世界クラスのプレーヤーになれるはずと信じているからだ。私はディバラはまだ自分の役割を完全に解釈していないのではないかと感じている。彼はもっと得点を奪いたいと思っているだろう。そして時にはシュートをフリーで撃つために余分なドリブルや走りをしてしまう。しかし、それでは相手は彼の動きを簡単に読んでしまうだろう。このシステムではディバラはスナイデルのようにプレーすべきだ。スナイデルは常にライン間のスペースを出入りしてパスコースを探し、ドリブルやシュートの前に相手の守備を崩そうと試みる。私はディバラはとても良いプレーヤーだと思う。しかし彼の動きが相手に予測できないようになれば、このシステムは爆発的になってくるだろう。

 2つ目の課題は、もしアレグリが起用する前線の大駒にくらべるとると、ベンチメンバーが少し軽いことである。次に攻撃的なメンバーとして考えられるのはマルコ・ピアツァとプリメーラティーンエイジャー、モイーズケンだ。アレグリはピアツァの育成を急ぐ必要がある。私はアレグリを批判してはいない。ピアツァは長い間試合に出ていなかった。彼はまだ未熟で、ユベントスはピアツァが試合感を取り戻すまでいくつかのポジションを試している。しかし今。ピアツァをフィットさせるためにリスクを冒す必要がある。またケンにもっとプレーさせる必要があるかもしれない。マンジュキッチイグアインが試合に出れないか、負傷しているか、または主要メンバーが疲れている間に、彼らがプレーする試合を追いかけることになるかもしれない。

 3番目の問題は、チャンピオンズリーグに復帰して試合が週に2回になった時、今のままプレーし続けるのが不可能になるいうことだ。アレグリは4-3-2-1を使わなければならない。また4-2-3-1でプレーする前にサブの選手を起用するかもしれない。私の意見としてはストゥラーロをもっと起用すべきである。多くの人が彼をあまり好ましくないと思っている。彼の技術の低さとパス能力の欠如は明らかだ。しかし彼は他のミッドフィルダーにない利点を一つ持っている。彼はフィジカル的に守備が強く、優れた戦術的センスを持っている。この例を考えてみよう。

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 守備局面で彼が4-4-2のウィングのポジションをとる時、相手へプレスをかけるように任されている。しかし彼はボールホルダーに対していつでもプレスをかけるだけではない。彼は味方がしっかりと周囲のスペースを消している時だけプレスをかけに行くのだ。チームメイトが理想的なポジションに入ると(パスコースをふさぐことができている時)、彼はプレスを開始する。彼は常にボールを保持できる選手ではないが、ボールホルダーに対して十分なプレスをかけて、味方がボールホルダーから奪取することを容易にするという仕事をする事ができる。

 この種の戦術的能力を持つ選手はなかなかいない。戦術的な意味をまだ身につけていないレミナとポジショニングを比較すれば明確だ。また、ストゥラーロはしばしばボックス内でフリーになれる場所を見つけ出すートリノ戦、またはローマ戦でのいくつかのチャンス、ボローニャ戦でのPKなどのように。彼はそれらのチャンスをどれも決めてはいない。しかし、私はそれは信頼と経験の欠如からきていると考える。それは彼がそのような状況で常にボールを強く打ちすぎるという事実が示している。 彼は技術的に悪くはない。しかし経験と自信が必要なのだ。

 しかし、彼が攻撃面がより良くなるかは大きな問題ではない。アレグリは彼をもっと使うべきだ。そうすればユベントスは守備の時に全選手を自陣の深い位置まで下げて守る必要がなくなる。彼とマルキージオケディラピアニッチと一緒にプレーさせれば中盤の抵抗力を高め、4バックへの負担を緩和することが出来る。イグアインマンジュキッチ、ディバラの守備負担も減少する。 トマス・リンコンもいるが私達は彼のプレーをほとんどまだ見ていない。

これまでのアレグリのパフォーマンス

 4-2-3-1フォーメーションの採用はアレグリに多くの賞賛を与えることとなった。しかし批判もある。我々の多くは彼はもっと早く3-5-2フォーメーションを放棄するべきだったと思っていたが、彼はあまりにも保守的でチームも上手く行ってなかった。
 
 リーグでの4つの敗戦はすべて3-5-2でプレーした時のものだ。私は彼らが異なるシステムでプレーした時に認められたゴール数を比較する。

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 事実、3-5-2でプレーしている時が1試合あたりのゴール数が一番低くなっている。したがって、ユベントスは3-5-2の時が一番結果が悪いという意見と一致している。しかし、我々が注目しなければならないことの1つは、リーグでの4つの敗戦はみっどウィークでの試合であったということだ。彼らが2つの試合(インテル戦とジェノバ戦)を落としたのはチャンピオンズリーグでセビージャと試合をした後であるということだ。さらに彼らは10人でリヨンと戦って勝った後の試合でミランに敗れた。彼らはアタランタとミッドウィークにコッパ・イタリアの試合をした後、フィオレティーナに負けた。

 ユベントスは6年間ほぼ3-5-2でプレーしている。セリエAのチームは全てこのフォーメーションの長所、短所を知っている。特に意外な要素はない。したがってユベントスはこのフォーメーションで試合をする時は完璧に近いパフォーマンスをする必要がある。そしてそのような集中力でミッドウィークの試合を行った後、次の試合まで選手達が100%のフィジカルとメンタル状態を維持できるとは限らなかった。それを想定していなかったのはアレグリの責任だ。

 しかし全体的にユベントスのパフォーマンスは悪くない。ここで今年のユベントスと過去9年間のセリエA優勝チームの得点、失点、勝点を比較してみる。

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 もしこれらのパターンが成立するならばユベントスの勝点は94ポイントに近づくことになる。アントニオ・コンテ監督の最終年である3年目の全てを成し遂げた偉大なチームを除けば、最も多くの得点と勝点を得ることが出来る計算になる。しかし一方、モウリーニョインテル以外のチームの中では一番ゴールを許している。したがって今年のパフォーマンスはこれまでのユベントスと比べて悪いわけではない。アレグリの戦術が悪いとは言えない。でなければ彼らはより多くの得点や勝点を得ることが出来ないだろう。唯一の反論としては、ユベントス保有している選手であれば、もっと多くの得点と勝点を挙げられるのではないかおいう点だ。しかしこれを検証するのは不可能だ。いずれにせよ、過去10年で2番目に高い数字を残そうとしているチームを批判するのは少し難しいと思う。

 彼の4-2-3-1は賞賛に値するだろうか?私は賞賛に値すると思うが、それはただシステムや選手構成を変えたという理由だけでない。重要なのは、彼が今シーズンにした仕事だ。チームの進歩を振り返ってみよう。まず標準的な3-5-2システムがある。その後、彼はゆっくりと新しい選手を組み込んでいき、さまざまな戦術(ディバラをライン間でプレイさせる、4-4-2の守備体制、カウンタープレッシング)を導入する。その後4バックに変更してより多くの戦術を導入(ビルドアップのスタート時の3バック併用、イグアインをトップで起用しマンジュキッチをサイドに開かせる...など)する。それらについて考えると、彼が行ってきた全てが現在のチームのやり方を可能にすることに繋がっており、私はこれらの仕事は賞賛する価値のある物だと信じている。

アレグリのコーチング哲学

 アレグリのようなコーチを時折特徴付けることがある。彼のコーチング哲学を説明する最も簡単な方法は他のコーチと比較することだ。私達の最愛のコンテは、モウリーニョ、ファビオ・カッペロ、またはペップ・グアルディオラのようなタイプに属している。これらのコーチはやっているサッカーのタイプは異なっている。カッペロのチームは強制的にトランジションを起こすためにプレッシングを行う。モウリーニョのチームは対戦相手のエラーを利用するために非常に迅速なトランジションサッカーを行う。グアルディオラはポジショナルを用い、ゲームを支配するために11人での攻撃的サッカーを行う。だが、彼らは規律を要求するコーチだという点では共通している。規律はプレーヤーが様々な段階で非常に複雑なタスクを実行するために必要なものだ。コンテのフットボールもこれと同じだー試合中に繰り返されるあらかじめ決められた動きがみられる。

 アレグリは、マルチェロ・リッピカルロ・アンチェロッティのようなコーチに近いタイプだ。彼らは守備の規律を要求するがーまあ、守備の時に守らないことなどないだろうが)ー彼らの攻撃は、より多くの読みと反応が必要となる。したがってこれらのコーチにとって攻撃の局面中はシンプルさが必要とされるだろう。リッピとアンチェロッティのチームはシーズン毎に違うフォーメーション、違う戦術でプレイする。選手の事前に決められた動きは限られている。彼らは常に最も創造的な選手に魔法のプレーを発揮させる。攻撃の局面で唯一事前に決定されている戦術は、ファンタジスタがどこで相手にダメージを与えることができるかを見つけ出すことである。

 アレグリがリッピがユベントスで成し遂げたことを達成できるよう、みんなで望むこととしよう。