2020年明治安田生命J1リーグ第12節 清水エスパルスvs横浜FC レビュー【横浜FCのビルドアップに対する清水エスパルスの守備】】

 中2日の厳しい日程。フィジカルコンディション低下の影響が表れたような試合内容でした。特に守備に関してはプレスがかからず簡単に前進を許し3失点してしまいます。実際に疲労の影響は間違いなくあったでしょう。しかしこの試合内容を運動量の不足だけに押し付けるのは少し単純過ぎに感じます。

 ではこの試合での意図や狙いは何なのか。それは今の自分の考察力ではわかりかねます。なので今回はあまり考察を入れず守備について現象面だけを見ていきたいと思います。

 サッカーは複雑なので書いたものが全てではありません。それはわかった上で単純化して一部だけ浮き出したものと考えてください。

 それではまず両チームのスタメン紹介。

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【すこし前置き】

 まず本題に入る前に4-4-2ブロックを組んだ時にスペースのできやすいところを確認しておきます。下図の赤くマークしたエリア。

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 各選手の間はどうしてもスペースができやすくなります。中でも始めに使われやすいのが2トップの脇。ビルドアップのスタート地点になることの多い場所です。442の配置のままだとフォワードの横はピッチの横幅を2人でカバーしなければなりません。それは物理上不可能なので、守備側がここへのプレスをどうするかは注目すべきポイントです。

【前半開始から40分ころまで】

 さて本題。横浜FCの保持に対してやや引いて4-4-2のブロックをセットする清水。一方、横浜FCは4-4-2の配置から下の図のように変化してビルドアップを開始します。

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 これは4-4-2のチームが保持する時の定番の可変です。

 これを清水の4-4-2ブロックとかみ合わせると横浜FCの各選手が清水の4‐4-2ブロックのちょうど間。先に書いた4-4-2のスペースができやすい場所に横浜FCの選手がポジションしている状態です。簡単に言えば清水は横浜FCにこの配置通りにボールを運ばれてシュートに結びつけられていました。

 横浜FCは2トップ脇にボランチの佐藤が動いてボールを持つのがスタート。清水はそこに対して竹内が前に出てプレスをかけていました。

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 しかしボランチの位置から2トップ脇へは距離がある、加えて周囲の選手の連動がないためこのプレスが上手くかかりません。逆に竹内が動いてできたスペースにボールを通され楽に相手に前進を許していました。

 この現象は前半ずっと全く同じ仕組みで何度も繰り返されています。

 ただ選手はこれはまずいなと感じていたはずで、竹内をステイさせて西澤が前に出たり、どうしたらいいかを探り探りしている様子が見てとれます。しかし西澤が出てもサイドが空いてサイドバックにパスを通されます。後は同様なボールの運ばれ方です。

 25分に飲水タイムがあったので何か修正があるだろうと思っていましたが、再開後はまた竹内の単独プレスに戻っていました。そして当然同じように竹内が出た後ろのスペースを使われます。

 これが前半40分手前まで続きます。フィジカル的に動けなかったにしてもカルリーニョスも後藤も守備をさぼる選手ではありません。動かないのは何らか理由があったのだろうと思います。ちょっとそれがわからず疑問に思う時間帯でした。

【40分手前から前半終了まで】

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 40分手前辺りの時間になると、清水は最前線からのプレスを敢行するようになりました。私の確認では38分のプレスから変化したように感じます。

 ゴールキーパーが持ったところからプレスに行き、後ろも連動して全てのパスコースを塞ぐように前に出てきます。

 金子のゴールもこのプレスの形から生まれています。ゴールキーパーカルリーニョスがプレスに行くと上に図示したように周囲のパスコースを全て塞ぐように連動して前に出てきます。プレスを受けた南から松浦へパスが出て、それをヘナトがカット。右サイドで相手のマークを外した金子へ展開して金子がゴールを決めます。狙いを持ったプレッシングからのゴールでした。

 ちなみにこの時の金子の動きに注目します。ヨンアピンにぴったり付かずにマーカーを監視しながら裏も狙える位置。ヨンアピンから少しずれたポジションを取っています。彼は守備をしながらも相手から浮くようなポジションを取るのが非常に上手く味方がボールを奪ったら即座にカウンターに移行することができます。この能力はチーム随一です。本題とはずれましたが、ここまで金子の評価がいまいちのようなのでちょっとした宣伝です(笑)。

【後半から終了まで】

 ちぐはぐだった前半から修正されプレッシングとセットした守備を使い分けるようになりました。

 セットした際の一番の変化はカルリーニョスと後藤が相手のディフェンダーに対して制限を入れるようになったことです。

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  図のように周囲が相手をマークしたり背中でパスコースを消すことで、竹内が前に出て行っても容易にパスで逃げられることがなくなります。これで前半のようにスルスルとボールを運ばれることはなくなりました。本来の清水の守備に戻った形です。

 これでもやはり動ききれずにプレスをかわされてしまうことがありました。しかしこの形を作った上なら「体力が持たずにプレスがかからなかった」も納得はいきます。

【最後に】

 納得はいきます、と書きましたが前半の守備が悪いと言うつもりはありません。とにかく走らなければ駄目だとも言えません。

 あくまで良し悪しでなく、こちらの守備のやり方と相手の保持からの前進について「こうなっていたよ」という観察記録を自分の見える範囲で書いてみました。もし見直しをする奇特な方がいらしゃればちょっとした道しるべにしていただければ幸いです。

 

 

2020年明治安田生命J1リーグ第11節 清水エスパルスvs横浜Fマリノス レビュー【ガチンコのぶつかり合い】】

 

1.はじめに

 昨年のJ1リーグ王者横浜Fマリノスとの対戦。お互いが目指すサッカーの共通性からどうしても特別な感情を抱いてしまうチームです。おそらく多くのエスパルスサポーターにとっても楽しみな試合だったと思います。

 試合内容もそれを裏切らない素晴らしいものでした。両チームのゴールを奪う意志のぶつかり合い。結果は3-4の敗戦でしたが心に熱いものが残る試合でした。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3

 週2試合の鬼の連戦真っ只中。複数人のスタメン入れ替えも予想されましたが、ふたを開ければ変更は右サイドバックの奥井のみ。今、最も安定感のあるメンバーとシステムでガチンコ勝負に出た模様。おなじみの構成なのでそのほかは特に言うこと無しです。

横浜FMのシステムは1-4-2-1-3

 システムは清水と全く同じ。しかし単独でも打開できる両ウイングの選手などポジションごとの特徴は少し清水と異なっています。

 メンバーは新加入のジュニオールサントスはじめ、前節から6人が変更されています。それでも昨年リーグMVPの仲川など出てきたメンバーはいずれも強力です。

3.清水の保持局面について

 ハイプレス、ハイラインの横浜FM守備。相手陣内の狭いエリアに押し込んで積極的なプレスをかけてボールを奪いにきます。

 清水側はこれをどう押し返してプレーエリアを広げるか。そしてどこのスペースを使うのか。やり取りとしてはこの構図になります。

 その辺りを書きたいのですが、上手く文章がまとまりません。なので横浜FMの守備の特徴と清水の対応を箇条書きに羅列します。

・ハイライン

 横浜FMはDFラインをかなり高く上げてきます。清水はそこを突くためいつも以上にラインの裏を狙う動きを見せていました。特に金子がこの動きを繰り返しています。裏のスペースを使って直接ゴールを狙う、同時に相手に裏を警戒させてラインを押し下げる役目も担っていました。

・ハイプレス

 清水の後ろでの保持に対して前線が積極的に前に出て奪いにきます。当然ウイングの選手も前に出てくるため、サイドバックとの間の距離が開いて中盤(特にボランチ脇)にスペースができやすいように見えました。

 脇のスペースの使い方は、右は金子がワイドに張れば奥井がインナーラップで侵入。相手が奥井にも対応したらヘナトが3人目の動きで絡んでいきます。左は西澤の引いて受ける動き。それにソッコ、竹内、後藤を加えた菱形を作りボールを動かしていきます。

 どちらかと言えば右サイドの方がチャンスに繋がっていた気がします。それは金子の裏狙いでよりスペースが広がりやすかったのが原因ではないかと思われます。

・後藤の動きにボランチがついていく。

 トップ下の後藤は後ろに引いたりサイドに移動したりとかなり大きく動いていました。ここにはボランチの喜田か和田がついていきます。この空いたスペースに竹内やヘナトが入る動きを見せていました。竹内はこれまでの試合で見せていた裏への飛び出しより間のスペースに入ってラストパスを出すプレーすることが多いように見えました。

・ディフェンスラインは全体がボールサイドにスライドする。

 サイドにボールが入った時はセンターバックの選手もスライドしてボールに寄せてきます。そのためサイドチェンジをすると逆サイドの清水のウイングが浮きやすくなっていました。

 見えたのはざっとこんなところです。

 これを頭に入れて清水の1点目と2点目を掘り下げます。

(1点目)

スローインの流れからなので典型例としては挙づらい場面ですが、上に書いた特徴は表れています。

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(清水から見て)右サイドからのスローイン。DFラインは右にスライドするのでこの時点で西澤が左ワイドで浮いています。後藤がDFライン上に動き、そこに和田がついています。なので中央のスペースを見るのは喜田のみ。喜田の横でカルリーニョスが受けると竹内はフリー。ここから西澤にラストパスが出て西澤のシュートが決まります。

 ほぼマリノスの守備の特徴からできやすいスペースを経由して生まれたゴールといっていいと思います。

(2点目)

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 後ろでの保持で(清水から見て)左サイドから動かしてきたことで右サイドの金子が浮いています。金子にフィードが通ると奥井が内側へ。これでより金子はフリーに。金子からセンターバックの裏へ低くて速いクロスが入りチアゴオウンゴールを誘発しました。こちらも上に書いた特徴が重なると思います。

4.清水の非保持局面について

 スタッツを見ると横浜FMは左右、中央とまんべんなくエリアを使えていますが、その中でも右サイド(清水から見て)の攻防に注目しました。そこにクラモフスキー監督の強い意志が表れていたように感じたからです。正直言えばそこしか見てないからというのもあるのですが...。

 まず清水のファーストディフェンスがこれまでの試合と比較して少し変化しているようでした。その変化とは金子のプレスが高い位置、しかも内寄りに行われていたことです。

 ちなみにこれまでは下の図のような形。

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 センターフォワードがサイドを限定。トップ下がアンカーの位置の選手をマーク。ウイングはサイドへのパスコースを消します。

 相手のパスコースを塞いだら内側に誘導しジリジリ圧力をかけて挟み込む。またはパスコースを限定し間に出される縦パスをカット。内側高めでボールを奪いカウンターに転じる。これが基本形です。

 しかし横浜FMは選手のポジション取りや移動で清水が一番塞ぎたい中央にスペースを作ってきます。(下図)

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 和田の動きで後藤を動かすのがスタート。それに応じたセンターバックの動きで清水の1列目を外します。 パスの受け手となる選手は中盤でポジションをローテーションしてフリーに。中央を塞いでいた後藤の守備が外れているので左右、中央と複数方向へのパスコースができてしまいます。たぶんこんな仕組みです。

 これを踏まえて考えます。まず大切なのは形ではなく目的です。清水の守備の目的はなるべく内側の高い位置で奪ってカウンターに移行すること。

 その目的に沿えば後藤が動かされやすい時、金子がサイドでなく内側に向かってプレスをかけるのが自然です。

 また横浜FMは組み立てで広い視野を得るため中央にワンクッション入れてきます。そこを狙い打ちする意図もあったのでしょう(ちなみにヘナトも前への圧力がいつもより強い気がする)。まあこれは完全な想像ですが。

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 とはいえ金子の守備がはまっていたかと言えば微妙でした。そして金子のところでかわされると右サイドの高い位置で1対2の数的不利を作られてしまいます。

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 この数的不利にはヘナトがスライドしてフォロー。しかしマリノスはさらにマルコスがサイドに出てきてサイドを3人の関係性で崩してきます。

 相手が3人でくるならここで金子も下がって同数にと言いたくなる場面ですが、金子は積極的に下がってきません。ちょっとこれはリスキーです。たとえ下がった時でも金子は常に前に出られるポジションを取り直しています。どんな意図があったのか。

 おそらく清水はこの数的不利をある程度受け入れているというのが僕の推測です。その理由はヘナトとヴァウドがいる右サイドは清水の守備のストロングポイントであること。もうひとつは中央の後藤がヘナトが空けたスペースを埋めるため下がってくる動きを見せているからです。

 要は最低限後ろで食い止める仕組みを作って常にカウンターの槍を相手に突き付けていたのだと思います。相手のラインの裏を突いてゴールを狙うのは保持した局面だけではありません。どの局面、どのエリアでもゴールに繋がるプレーをする。ここにピータークラモフスキーの信念が表れていた、というのが僕の妄想も加えた解釈です。

5.最後に

 奪われても奪い返し、昨年の王者と80分過ぎまで互角に渡り合った清水。しかし83分、85分と点を奪われてしまいます。最後に1点返しましたが結局押し切られてしまいました。

 戦術的な意図も含まれますが(特に初手のCF後藤、カルリーニョス右WGは理解できる)、主には負荷が掛かってフィジカルの低下したポジション順に交代を行った清水。片や交代選手がギアを上げる役割を果たした横浜FM。残念ですがスタメン以降の差は大きかったなと感じました。

 志向の似ている両チームですがエスパルスの方がよりグループでの意識が強いように感じました。その意味でも交代出場の選手は個での打開だけでなくグループでの共通理解がより必要になってくるのでしょう。

 それでもマリノスに対してエスパルスのサッカーを表現してガチンコで80分以上を渡り合ったのはポジティブです。とはいえやっぱり負けるのは悔しいですね。次こそはもっとアグレッシブなサッカーで圧倒して勝ちたい気持ちです。マリノスのホームで「ピーターの率いるエスパルスは凄いぞ」と思わせるサッカーを見せつけて勝利したい。そんな願いを持って次の対戦を楽しみにしたいと思います。

2020年明治安田生命J1リーグ第10節 ベガルタ仙台vs清水エスパルス レビュー【現実と理想のバランス】

 

1.はじめに

 仙台とのアウェイでの対戦。0-0の引き分けでした。アウェイで勝ち点1は悪い結果ではありません。しかしチャンスは作れていたのでやっぱり決めて勝ちたかったですね。

 そんなことを思いながら試合を見直していると、何となくですがボールを運べた理由や決めきれない理由がうっすら浮かんできました。

 今回、時間もないので(過密日程!)そこについてだけさらっと書いていきます。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3

 明確な理由はわかりませんがエウシーニョが欠場(負傷っぽい)。代わって右SBに金井が入りました。それ以外は前節と同じスタメンです。

・仙台のシステムは1-4-2-3-1

 メンバーは前節と同じ。開幕から7節まではアンカーを置いた433システムを採用していたようですが、ここ3試合はダブルボランチの4231システムを採用しているようです。

3.狙いはサイドハーフの後ろのスペース

 試合後インタビューで立田が「金井選手が入ってあそこがフリーになると言われてて...」とコメントしていました。

 前半、立田から金井へスーパーフィードが出た右サイド中盤あたりのスペースです。まずはこの金井がいた場所がフリーになりやすかった理由に注目します。

 

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 仙台のファーストディフェンスから。まずトップの長沢と関口は中央へのパスコースを塞ぎます。そしてサイドハーフはサイドへ出すパスコースを切りながら内側に誘導するようにプレスをかけています。上の図の丸く囲んだ場所に囲い込むようなイメージです。仙台はこの丸のエリアにボールが入ったらボランチも前に出て強くプレスをかけてきています。

 具体例としては、5:10のプレー。

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 ウイングの位置から下がってきた西澤がボールを受け、入れ替わるように前に向かった竹内にパスを出そうとした場面。

 西澤がプレスの内側で受けたので仙台の選手は強く寄せてきます。そして竹内に出そうとしたパスを浜崎がカット。そのまま金井の裏にいる西村へパスを出します。この場面のように内側で奪って直線的にカウンターに移行するのが仙台の狙いの一つのようでした。

 ここでポイントになるのが仙台のサイドハーフの動きです。仙台のサイドハーフは斜めに前に出てプレスに出てくる。そして清水のウイングが前で張っているのでサイドバックの蜂須賀は前に出てこれない。そうなると必然的にサイドハーフの後ろにはスペースができやすくなります。これが金井がフリーになる理由です。

 ただ問題はそのスペースにどうやってボールを送るか。相手はサイドへのパスを切りながらプレスにくるのでそのまま出してもカットされてしまいます。

 立田が出したようなセンターバックから対角線に送るフィードは一つの方法です。隣にいるサイドバックへのコースを切られているなら逆サイドのサイドバックに出してしまえばいい。

 金井にボールが入れば仙台のサイドバック蜂須賀に対して金井と金子で2対1の数的優位。蜂須賀が前に出て金井にプレスすれば金子が裏を狙い、金子をケアすれば金井はフリー。この試合の金子はいつも以上に裏を狙う動きを見せていました。この一連の動きはおそらく事前に仕込まれていたプレーだったと思われます。

 もう一つ清水が見せていたのが内側に相手を引き付けてからサイドに出すパス。例えばヴァウドが持ち運んてパスを前に入れたり、また前線から降りた選手に一度入れてワンタッチでサイドに出すのも同様です。こちらは上に書いた西澤のプレーように時々仙台に捕まってしまっていましたが...。

 いずれにせよ仙台のプレスしたい場所の外側にボールを持っていくのが清水の狙いだったと思われます。ある程度その狙いは遂行できていたといっていいでしょう。ある程度ですけど。

4.仙台のゴール前の守り方

 それなりにボールは運べていた清水。しかしそこから先、ゴール前では仙台に止められてゴールが決まりません。次はこのゴール前で上手くシュートに持ってい行けなかった理由を考えてみましょう。

 ファーストディフェンスを外されボールを中盤に運ばれると自陣に撤退してブロックを作るのも仙台の守備の特徴です。

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 その際4バックは横に広がらないようにゴール前に並び、大外はサイドハーフが下がって対応。空いた中盤のラインにはトップ下の関口が入って埋めます。これが撤退したときの形です。この仙台の守り方が清水にとってはちょっと相性が悪いのです。

 なぜなら清水がシュートに持っていく時の形のほとんどがサイドからハーフスペースの周辺にスペースを作ってそこから速いクロス。ハーフスペースに突撃しようにも相手のサイドバックに埋められています。それではとサイドからクロスを上げてもニアサイドはやっぱりサイドバックに埋められて、そしてゴール前やマイナスの位置もしっかり対応されている状態です。

 今の清水の攻撃だとこれを崩す手段は個人のパワーが爆発するしかありません(ヘナトのスーパーミドルとか)。ゴール前を埋められた時にはもうひと工夫動きがないと厳しそうです。

5.最後に

 まず仙台について。ここでは守備についてだけ書きましたが保持した時も前からはめようとする清水のプレスを外して綺麗に中央で椎橋や関口をフリーにしています。その詳しい仕組みまでは読み取れませんでしたが攻守、切り替え共いずれの局面も整理されていて好チームだと思いました。

 そして清水です。ここ4試合負けなしが続いています。安定感は出てきました。しかしそれと引き換えに崩し切るために必要なアクションは減っているようにも見えます。おそらく監督は今の状態を見ながら現実と理想のバランスを取っているのだろうというのが僕の推測です。

 メンバーも今は固定されていますがこれが完成形ではないでしょう。ここからプラスを加えるためにどんなアクションを取るのか、またメンバーがどう変わるのか。そんなところにも個人的には注目してこの後の試合を追っていきたいと思います。

 

2020年明治安田生命J1リーグ第9節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌 レビュー

 

1.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3
 3試合連続で同じスタメンでした。適正を探る期間は終わり現状のベストセットでチームを作り上げていく段階に移行しているようです。

・札幌のシステムは1-3-4-2-1

 システムが読み取りづらかったのですがスタートの基本システムは一応この表記にしておきます。守備の局面では清水のシステムに合わせて1-3-1-4-2のようになっていました。

2.清水の攻撃の局面について

 下が札幌の守備局面時の配置。

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 札幌はマンツーマンの守備で配置も清水のシステムに噛み合わせています。特に後ろにいくほどマンマーク色が強く、カルリーニョスには宮澤が、後藤には深井とはっきりしたマークがついていました。一方、前線の選手は後ろまでついていくことはせず、相手がある程度移動した場合は後ろの選手にマークを受け渡しています。

 ボールと逆側のWBは対面の相手に付かないで、マークが浮いている中盤の選手を捕まえたりDFラインを埋める動きをしていました。なので清水が同サイドでボールを動かしている時は逆サイドのSBが浮いている状態になっています。

 清水のビルドアップはCB2人にGKを加えた3人でスタート。これまでの試合ではボランチの選手がDFラインに降りることが多かったので、ここはちょっとした変化でした。

 GK入れての数的優位で少し余裕をもらったCBが相手の2トップ脇に運ぶプレーが起点。相手がマンツーマン守備なので完全なフリーはできませんが、CBの運びで引きつけることで中盤に多少の余裕は作れます。

 この余裕を使って少ないタッチでボールを動かしていきます。そして前線がマーカーを引き連れて中盤に引いてくる動きと、札幌のマークの受け渡しがぼやけるタイミングが重なったら、ボランチやSBの選手が裏のスペースに飛び出してライン際からマイナスのクロスを上げています。

 またトップ下の後藤が動いて受けることで中央にスペースができます。ここにボランチの選手が入っていくのも何度か見られた動きでした。これもマンツマーマンと受け渡しの守備の特徴を利用した攻撃です。

 先に書いたビルドアップのスタートでボランチを降ろさないのも、ボランチにDFラインの裏やゴール前への飛び出しをさせるためとも考えられます。

 これらの動きは左サイドで行われることが多かったのですが、右サイドでも基本は同じです。ただ右サイドのSBがエウシーニョなのでマークを外して縦より、内側を使う攻撃が目立ちました。

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 例えばサイドチェンジが行われた上のような場面では、エウシーニョに対してはチャナティップが戻るか高嶺が前に出ていきます。しかし両方とも距離が離れている状態です。このプレスの遅れを利用してエウシーニョが中のスペースに入っていきます。

 この試合ではエウシーニョが最多のシュートを撃っていますが、このように彼にプレスがかかりづらかったことも理由ではないかと思います。

 何度かチャンスを作ってもシュートが決まらないかった清水。それは札幌のDFがゴール前ではカルリーニョスと後藤を必ずマークして捕まえていたからだと思われます。札幌はゴール前ではしっかりマークしてシュートを食い止める。そこからロングカウンターに持っていく狙いがあったのだろうと思われます。奪った後にボールを運んでいける選手は揃っています。

 前半終了間際に金子が撃ったシュートが札幌DFの手に当たりPK獲得。金子が決めて先制します。PKに繋がる金子のシュートは右のライン際からソッコが挙げたクロスをマークを外した金子が中央のスペースで撃ったものです。ボールが逆サイドにある時にマークを外してシュートを撃つスペースに入っていくプレー。これが金子が右のWGで主力として起用されている理由の1つだと思います。

3.清水の守備局面について

 札幌が保持した時は深井がCBの位置に下がって後ろは4バックになります。WBのルーカス、菅は前に上がるのでシステム表記すると1-4-1-5のようになります。

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  後ろで深井、宮澤。荒野がポジションをローテーションするように動いてファーストディフェンスを動かします。そしてカルリーニョスと後藤の脇から侵入。そこから運んだ選手が前に出て行く動きと後ろに降りてくる動きなど周囲の選手の入れ替わりを組み合わせながらボールを前進させていきます(上図)。

 清水に中のスペースを消された時は、中盤を飛ばした前進。

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 鈴木がポストに降りてきて駒井がハーフスペースから裏へ。駒井のハーフスペース突撃を警戒してソッコが中に絞れば大外のルーカスフェルナンデスを使ってワイドから仕掛けてきます。前半は特にこのルーカスフェルナンデスのワイドからの攻撃が目立っていました。

 ハーフタイムのペトロビッチ監督のコメントを読むと前半の攻撃には満足していなかったようです。その不満とは、もう少し中、外と多彩に仕掛けたかったのがワイド一本になってしまっていたところかなと推測します。

 清水はワイドからの攻撃に対してもルーカスフェルナンデスにはソッコが対応しつつ、西澤も戻って内側のスペースを埋めて上手く対応できていたのではないかと思います。

4.後半の流れ

(1)後半開始から田中の退場まで

 札幌は後半の頭から進藤と深井に代えてドウグラスオリヴェイラと田中への選手交代。鈴木とドウグラスオリベイラが2トップ、チャナティップがトップ下、駒井が3バックの右。1-3-4-1-2に並びが変わります。

 2トップにしたのはサイドからクロスは上げられていたのでゴール前で高さを1枚増やすためと、ダイレクトなボールに対して裏抜けだけになっていたので前でボールを収める選手が欲しかったからではないかと推測します。また前半はチャナティップがヘナトに消されていたからかあまり目立ちませんでした。ここをもう少し自由にしたかったのも理由かもしれません。

 さらにもう一つ注目の変化が駒井が右のCBに入ったことです。駒井はサイドに開かずに少し内側からボールを持ち運ぶプレーを見せていました。

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ドウグラスオリヴェイラ選手の背番号は33の間違いです)

 この運びで駒井が西澤を引き付ければルーカスへのコースがより開きやすくなるし、ルーカスと駒井が右サイドで動かせばその内側を荒野が上がっていきます。この後半の駒井の持ち運びは清水にとって面倒くさい動きだと感じました。
 中、外と少し良さげな動きが見えて、FKから同点ゴールも決めた札幌。しかし後半早い時間に入ったばかりの田中が2枚目のイエローカードを貰い退場となってしまいました。

 この退場の場面を表したのが下図です。

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 駒井とルーカスのコンビで左サイドを上がってクロスを上げたところから。クロスをエウシーニョが拾ってカルリーニョスに縦パス。カルリーニョスがターンしようとしたところを田中が倒してしまいました。

 図を見てわかるようにカルリーニョスがターンに成功したらGKと1vs1になる状態です。周囲の状況を見ても札幌DF3人に対して清水は4人。もし荒野を入れても4vs4の同数です。これは1-4-1-5の札幌がさらに4から1枚前に上げる攻めと、WGをなるべく下げないで守る清水の守備の噛み合わせにより起きる現象です。札幌の戦術上、切り替え時に同数か数的不利になってしまうので4-1-5のアンカー位置に入ることの多かった田中に負担が大きくかかっていたとも言えます。

(2)退場後から終了まで

 田中の退場後、ルーカスに代えて白井、高嶺に代えてキムミンテが入ります。田中の退場後はマンツーマンを止めて(一人少ないから当たり前なんだけど)ボールを失ったら撤退し4-4-1の守備ブロックを敷いて守ります。

 札幌が撤退4-4-1になったことで清水の後ろでの保持に余裕が出てきます。その代わりにマンツーを利用してのスペース作りができなくなってやや攻めあぐねる時間が続く清水でした。

 清水の勝ち越し点は85分。4‐4‐1ブロックを組んでも人への意識が強いのが札幌守備の傾向。

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 上図は2点目の少し前。右サイドから中央の中村にボールが渡った場面。札幌の並びはDFラインが右から白井、キムミンテ、宮澤、菅。中盤は右から鈴木、荒野、駒井、チャナティップ(この場面では駒井とチャナが入れ替わっている)。

 清水はここから中村がソッコのパスを出すと同時に西澤が左サイド奥にランニング。西澤がフリーだったので、後藤をマークしていたキムミンテがマークを離して後藤に付いていきます。

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 キムミンテが西澤についたので後藤は完全にフリー。そして荒野はヘナトを見ています。後藤をドフリーにするのはまずいので、自陣前に戻ろうとしていたチャナティップがその流れで後藤についていきます。

 西澤がワイドにキムミンテを引き付けたことでDFラインにギャップができて後藤がお約束のハーフスペースから裏狙いのラン。チャナティップが後藤についていくので中央にスペース。そこを埋めるために荒野が下がってきます。ヘナトがシュートを撃ったのはその荒野の左脇のスペース。本来そこを埋める駒井ですが、彼はカルリーニョスに引っ張られてDFラインまで下がっています。

 屁理屈うんぬんの前にヘナトのゴラッソなんですが、状況としてはこんな感じです。4-4-1撤退で自陣のスペース埋めていた札幌ですが、左サイドの組み立てに対して人につく守備、そこから右へのサイドチェンジで中盤脇のスペースが空いたこの形は前半と同じと解釈もできます。

5.最後に

 試合終了間際にはカルリーニョスのダメ押しゴールが決まり、3-1で清水の勝利でした。 

 初勝利の大分戦以降、後半になっても崩れることなく試合を通して安定を見せているのはよい傾向です。

 開幕からしばらくは自分達の形を表現するだけで手一杯感がありました。しかしここ数試合は相手の特徴にもしっかり対応しながらのプレーできています。さらにカルリーニョスやヘナトなど個々の強みも出せるようになってきました。ようやくJ1で勝てるチームまでレベルが上がってきたように感じました。直近3試合負け無しはその証明だと思います。

2020年明治安田生命J1リーグ第8節 浦和レッズvs清水エスパルス レビュー 【作ったチャンスのその先は】

 

1.はじめに

 先制されたものの追いついて1-1のドローでした。後半に崩れて逆転負けが多かったこれまでのエスパルス。強敵浦和に対してアウェイで粘って勝ち点1ゲット。僕は悪くない結果だと思っています。

 内容を見ても特に前半は相手のゴール前まで迫りシュートのチャンスを作ることができていました。ただ作ったチャンスを決めきれず、後半には相手にペースを握られてしまいます。ここが清水サポータの間でも試合の評価が分かれてしまっている原因になっているのでしょう。

 チャンスを作って勝ち点1を得たことを評価するのか、チャンスを決めきれず勝ち点3を逃したと解釈するのか中々難しい所です。評価は人それぞれでこれだとは言い切れるものではありません。それでも今回はそんなところにもふんわりと少し触れてみました。よろしければお読みくださいませ。

2.スターティングメンバーと配置

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 ・清水のシステムは1-4-2-1-3

 前節と全く同じスタメン。勝ったチームはいじるなと言われますが、それでも疲労の考慮や選手層の底上げのため多少の入れ替えはあると思っていました。変更なしは少し意外なスタメンでした。

・浦和のシステムは1-4-4-2

 すっかりおなじみの大槻組...監督ですが、開幕から指揮を執るのは初めてのシーズン。大槻監督独自の色を加えながら浦和も新たなチャレンジに取り組んでいるようです。これ以上はよくわかりません(笑)

3.清水がチャンスを作った形(前半)

 浦和は442で中央ガードを意識して中のスペースを消す。ならばと清水はサイドからハーフスペースの辺りで動かして相手の守備のずれを作っていく。これが前半の大雑把な構図だろうと思います。

 具体的に見ていきましょう。 

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 積極的なプレスは行わず442のブロックをミドルゾーンに構える浦和。相手の2トップが前に出てこないのでセンターバック(立田、ヴァウド)は比較的楽にボールを持てる状態です。さらに清水は浦和の2トップの周辺に一人置くことで(図ではヘナト)2トップを絞らせ脇の辺りにスペースを作っていました。

 2トップ脇には竹内やセンターバックが持ち運んで入っていきます。そしてそこを起点にワイドにいる選手やハーフスペースにいる選手との連動でアタッキングサードを攻略していきます。

 特にこの試合で多く見られたのがサイドバックの裏を取る攻撃でした。それも2トップ脇が起点になっています。

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 2トップ脇でボールを持つことで浦和のサイドハーフが引き出されるので、ワイドに張っている清水の選手にはサイドバックが出ていきます。さらに浦和のセンターバックはあまりサイドにスライドしない特徴があるので必然的にサイドバック裏にスペースができてしまいます。

 ただこの浦和のセンターバックがスライドしないのは清水にとって良し悪しで、サイドバック裏でチャンスを作れどゴールが決まらない原因にもなっていました。センターバックがゴール前から動かないので清水が折り返してもゴール前でフリーになるスペースが抑えられているからです。

 前半の浦和のプレーは、ゴール前のスペースは必ず埋めてスコアラーのカルリーニョスを抑える。そして奪えば2トップにサイドハーフを加えたカウンター。ボールを支配していたのは清水の方でしたが、浦和としても最低限の狙いは遂行できた前半だったのかもしれません。

4.後半の浦和の修正

 最低限の狙いといっても浦和としては決して満足のいく前半ではなかったでしょう。なんらかの修正が行われたはずです。実際、後半に入ると浦和がペースを握り始めます。そこで浦和の修正はどんなものだったか探してみましょう。

(1)守備局面での修正

 後半に入ると浦和は積極的にプレスをかけるようになっています。特にフォワードの杉本は前に出るだけでなくプレスバックして脇で持つ選手にもしっかりついていくようになりました。

 フォワードが2トップ脇を見るようになったことでサイドの選手が無理に前に出てくる必要がなくなります。これで浦和のサイドバック裏のスペースがぽっかり空くことはなくなりました。この辺りが後半になってアタッキングサードを崩しきれなくなった要因の一つだと思われます。

(2)攻撃局面での修正

  前半の清水の守備は前から制限をかけながらトップ下とウイングの間に入るパスを狙いどころにしていました。

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  前半はそのエリアを窮屈にしてパスカットができていましたが、後半になると上手くはまらなくなってきます。

 前半との変化はどこかなと見ていくと、センターバックのトーマスデンがこの間のスペースに盛んにボールを持ち運ぶプレーが目につきました。この持ち運びで清水の中盤を引きつけてスペースを作ったり、スペースを埋められたら長いボールを出して前線に勝負させています。このような方法でボールの奪いどころをはずされたのが後半清水のプレスがかからなくなった原因ではないかと思われます。

5.最後に

 冒頭の繰り返しになりますが、見直しても前後半ともにそれほど悪くないというのが僕の感想です。ただ課題としてはチャンスは作れど決められない問題が続いています。

 それへの回答例がここ2試合のカルリーニョスセンターフォワード起用なのでしょう。前節はその解答がドンピシャでしたが、それじゃあ今度は強いセンターバックをゴール前に固定されたらどうするの?とまた課題を突き付けられたのがこの試合だったような気がします。

 もう一人スコアラーがいればそれも解決しそうな雰囲気はありますが、今いるメンバーの決定力が急に上がるわけではありません。となるとカルリーニョスを最前線に置いて相手のセンターバックとガチンコさせるのか、最前線には囮を置いてカルリーニョスにはスペースに飛び込ませるのか。対戦相手によってしばし探り探りが続くのかもしれません。

 それでも作ったチャンスをセットプレーを使って点に結びつけることができるようになってきました。これはこれで大きな武器だと思います。後は探り探りの先にどんな形を見せてくれるか、それを楽しみにしながら今後の試合を追っていきたいと思います。

 

2020年明治安田生命J1リーグ第7節 清水エスパルスvs大分トリニータ レビュー 【相手を見た戦い方】

 

1.はじめに

 大荒れの天候の中、見事4-2で快勝。ようやく勝ち点3を手にすることができました。得点は全てセットプレーですがセットプレー以外でも概ね試合をコントロールできていたと思います。それでは以下、攻守で自分に見えたことをざっと書いていきます。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3

 多少の入れ替えはありますが、おおむね主力と思われるグループで編成されたスタメンです。

 しかしこれまでウイングで起用されていたカルリーニョスセンターフォワードに、センターバックで起用されていたファンソッコがサイドバックと起用ポジションに変化が加えられました。

・大分のシステムは1-3-4-2-1

 前節から6人の入れ替え。ここまでの試合でも多めに入れ替えを行っていたようです。各メンバーについては詳しくないのでこんなところで。

3.大分のシャドウを消す(清水の守備局面)

 大分の攻撃は後ろで回しながら相手の守備を引き付け後ろにスペースを作り、そのスペースを使ってプレスをひっくり返すように一気に前に出ていくことを特徴としています。その攻撃において中継地点となるのがシャドウの選手(小塚、田中)。シャドウにボールが入るとウイングバックの選手との連携でゴール前まで侵入してフィニッシュまで持っていきます。

 この試合での清水の守備を見ると、大分の戦術のキーとなるシャドウの選手を消す意識が強いように感じました。

 シャドウを消すことで繋ぎを遮断して大分にロングボールを出させる。ロングボールに対しては高さを並べた4バックで跳ね返す。そんな狙いがあったのではないでしょうか。

 具体的に見ていきましょう。大分はボランチの島川選手が1枚降りてビルドアップすることが多く、4バック1アンカーのようになっています。それに対する清水の守備は下図のようでした。

 

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 トップのカルリーニョスがサイドを限定して、後藤がアンカーを管理。ウイングがサイドへのコースを切る形です(ここはいつも通り)。その時、ボランチのヘナトや竹内は相手のシャドウを強く見ていて、前線が高い位置からプレスに行っても中継地点のシャドウにパスが入らないよう監視をしていました。さらに清水のボランチがシャドウを見れない時はセンターバックが必ず前に出て追撃。ここからもシャドウへのパスを消したい意図を感じます。

 後ろからの出口を塞がれた大分は上手く繋げず前線へのロングボールが増えてきます。しかしソッコがサイドバックに入ったことで後ろのマッチアップはすべて高さで勝っています。そのためロングボールはほぼ回収できるという流れでした。

 大分は後半開始と同時に左シャドウを小塚から渡に代えています。おそらくシャドウの小塚が消されていたためそこを改善したかったのだと思います。

 試合では清水はボールの保持での良さが目立ちましたが、守備で上手く相手からボールを奪えたことも試合をコントロールできた大きな要因になっていたと思います。

4.西澤が引いた裏のスペース

 前半の大分はあまり高い位置から行かず5-4-1でブロックを組みゴール前のスペースを消してきました。大分としては5-4-1のブロックを組めば崩されない算段だったのでしょう。しかし前から来ないことで竹内が楽な状態でボールを持てたのは大きなポイントだったと思います。これまでの試合でも竹内が持てればある程度チャンスを作れていたので。

 相手の2列目の前までボールを持っていければ、引いた相手に対しても崩してチャンスを作れることを改めて確認できたのは良かったと思います。

 これ以上特に目新しいトピックもないので終わり..、でもいいのですがもの足りないのでもう少し。

 ソッコと西澤の位置関係を見てみましょう。通常ウイングがワイドに張って、サイドバックが内側に入ることが多いのですが、この試合ではほとんどソッコが外、西澤がハーフスペースの関係性でした。

 

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 この位置関係から西澤がハーフスペースで引いてくさびを受けるプレーを多く見せていて、その時できるスペースを使うプレーは狙っている感じでした。上の図で言うと、右センターバックの岩田が前にくればその裏のスペース(これは何度か綺麗に使えていた)、またサイドバックサイドハーフが寄せてくればソッコがサイドのスペースを使ったりです。

 左右のセンターバックを動かすのは5バック攻略の定番です。クラモフスキー監督の西澤へのリクエストは相手を引き付けてディフェンスラインを動かせだったと思います。引いて受けて相手のプレッシャーにもボールを失わず味方にスペースを使わせる。リクエストに見事に答えた西澤のプレーは素晴らしいものでした。

5.最後に

 大分の攻守の特徴にしっかり対応しての勝利でした。起用する選手のポジションや動き方に変化を加えても試合は主導権を持ってコントロールできており、とてもポジティブだと思います。自分達のサッカーと言っても相手を見ていなければただのひとり芝居です。あくまでサッカーは勝利を目的とした対戦ゲーム。曲者の大分に対して相手とのやり取りで上回れるぞということを証明してくれたのは今後の安心材料です。

 

 

2020年明治安田生命J1リーグ第6節 サガン鳥栖vs清水エスパルス レビュー【定番のエスパルス対策】

 

1.はじめに

 勝ち点1獲得しました。とりあえず第一歩。

2.スターティンメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3。

 システムはこれまでと同じ。メンバーは前節から3人の入れ替え。スタメンは固定せずローテーションで起用していく方針のようです。しかしここまで起用されたメンバーから主力とされるグループは見えてきた感があります。

鳥栖のシステムは1-4-4-2。

 1-4-3-3をメインに採用していた鳥栖ですがこの試合は1-4-4-2でした。(FW金森は10分に負傷交代)

3.フリーになる鳥栖サイドバック

 試合を見ていて、「プレスがかからないなあ」と思われた方が多いのではないでしょうか。僕も同じ感想でした。特に鳥栖サイドバックがフリーになるのが気になったのでそこに注目します。

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 鳥栖のシステムは4-4-2でしたが、保持した時はサイドハーフが2トップと同じ高さまで上がり4トップのようになっていました。清水は4バックなので相手と同数。そのため清水のDFはゴール前から動けないよ、という状態でした。

 次に鳥栖のビルドアップのスタートを見ると鳥栖はGKの高丘がCBの間に入って保持するので後ろは3人。ここに清水の3トップがプレスに行くと鳥栖サイドバックを見る人がいなくなるよ、というのを表したのが上の図です。

 ことはこんなに単純ではないでしょうが、鳥栖サイドバックがフリーになるのはこのあたりも関係していたと思います。

 さらに鳥栖は清水のウイングが前にプレスにいくとその空けたスペースにボランチの松岡がふっと降りたり、4トップの内の1人が清水のボランチ脇に下がってきたりと清水の守備を迷わすような動きを見せます。これでサイドバックだけでなく全体的にプレスがあいまいになったというのも付け加えておきます。

4.サイドバックセンターバックの間のスペース

 

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 鳥栖サイドバックが高い位置でフリーになったら放置するわけにはいきません。

 当然清水はサイドバックが対応に行くのですが、そうするとサイドバックセンターバックの間が開いてしまいます。鳥栖はその開いたスペースにランニング。その選手に清水のセンターバックがついていくと、今度は一番危険な中央が空いてしまいます(上図)。

 この形のピンチは何回か見られました。これを防ぐ方法の一つがボランチがカバーに入るです。しかし超人ヘナトならかなりの範囲をカバーできますが、守備は常人の中村にそこまで求めるのはちょっと難しい。なので中村サイドの方が攻められる回数が多いように見えました。たまにボランチが左右入れ替わっていたのはその理由もあったのかなと思いました。

5.清水のビルドアップと鳥栖のプレス

 清水がボールを持つと、鳥栖サイドハーフも前に出して高い位置からかなり厳しいプレスをかけてきました。

 清水のセンターバックと補助に降りてくるボランチにもプレスをかけられると清水の出しところはサイドに張っているウイングへのコースのみ(下図)。

 

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 そしてウイングへボールが出たらサイドバックの徹底マークでつぶします。特に右センターバックのヴァウドは割りと素直にウイングへパスを出すので右サイドの攻撃が繋がらりづらいようでした。

 このようにビルドアップを封じられた清水はパスワークで崩す場面はあまり見られませんんでした。チャンスになるのは強引にプレスを外した時か、カウンターの時ぐらいでした。

6.後半の流れを軽く

 鳥栖にサイドを攻められていた清水は守備の時にウイングの位置を下げてコンパクトなブロックを作るようになりました。これでサイドを無防備に殴られることはなくなりました。代わりに高い位置からのプレスをやめたので鳥栖にボールを握られることになります。(Football LABのデータを参照)

 鳥栖は69分に左サイドハーフにアンヨンウ、フォワードに豊田を投入。持ち場をお留守にしがちなエウシーニョ周辺を打開してクロス、中央で豊田に合わせる狙いでしょう。実際にアンヨンウはエウソンへガンガン1対1を仕掛けて、豊田めがけてクロスを上げています。

 ちょっとピンチが増えたところで今度は清水。その4分後にエウシーニョに代えて岡崎、カルリーニョスに代えて金子を入れます。あらかじめ用意した交代ではありましたが、右サイドのケアは間違いなく意識されていたと僕は思います。

 相変わらず右サイドから1対1は仕掛けられますが岡崎投入で不要にスペースを空けることはなくなりました。この交代前に竹内、鈴木唯人が入っていたこともあり前半に比べてボール保持もスムーズになってきます(若干危なっかしい場面はありましたが)。

 そんな感じでそこから終了までは互角に試合を進めましたが1-1のまま試合は終了。勝つことはできませんでしたが勝ち点1はゲットしました。

7.最後に

 鳥栖は、清水がボールを持ったら前から激しくプレス、ウイングへ出たところを激しく潰す。攻撃ではサイドバックのところを攻めてDFラインにギャップを作ることを徹底してきました。このような作戦は再開後に対戦したどのチームも行ってきました。攻守における清水対策は明確になっているようです。

 それでも後半の選手交代で流れを互角まで持っていけました。そして交代で入った選手はこれまでの出場時間が長い選手達です。このことはクラモフスキー監督のサッカーの理解へが進んでいる選手を起用すれば対策の中でも形は作れることの証明です。

 ということで対策への対策は、対処療法や特定の個人に頼るものではないというのが僕の考えです。クラモフスキー監督のサッカーの理解をチーム全体で深めること。それを目指すことが対策への一番の対策になるのではないでしょうか。