2020年明治安田生命J1リーグ第9節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌 レビュー

 

1.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-2-1-3
 3試合連続で同じスタメンでした。適正を探る期間は終わり現状のベストセットでチームを作り上げていく段階に移行しているようです。

・札幌のシステムは1-3-4-2-1

 システムが読み取りづらかったのですがスタートの基本システムは一応この表記にしておきます。守備の局面では清水のシステムに合わせて1-3-1-4-2のようになっていました。

2.清水の攻撃の局面について

 下が札幌の守備局面時の配置。

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 札幌はマンツーマンの守備で配置も清水のシステムに噛み合わせています。特に後ろにいくほどマンマーク色が強く、カルリーニョスには宮澤が、後藤には深井とはっきりしたマークがついていました。一方、前線の選手は後ろまでついていくことはせず、相手がある程度移動した場合は後ろの選手にマークを受け渡しています。

 ボールと逆側のWBは対面の相手に付かないで、マークが浮いている中盤の選手を捕まえたりDFラインを埋める動きをしていました。なので清水が同サイドでボールを動かしている時は逆サイドのSBが浮いている状態になっています。

 清水のビルドアップはCB2人にGKを加えた3人でスタート。これまでの試合ではボランチの選手がDFラインに降りることが多かったので、ここはちょっとした変化でした。

 GK入れての数的優位で少し余裕をもらったCBが相手の2トップ脇に運ぶプレーが起点。相手がマンツーマン守備なので完全なフリーはできませんが、CBの運びで引きつけることで中盤に多少の余裕は作れます。

 この余裕を使って少ないタッチでボールを動かしていきます。そして前線がマーカーを引き連れて中盤に引いてくる動きと、札幌のマークの受け渡しがぼやけるタイミングが重なったら、ボランチやSBの選手が裏のスペースに飛び出してライン際からマイナスのクロスを上げています。

 またトップ下の後藤が動いて受けることで中央にスペースができます。ここにボランチの選手が入っていくのも何度か見られた動きでした。これもマンツマーマンと受け渡しの守備の特徴を利用した攻撃です。

 先に書いたビルドアップのスタートでボランチを降ろさないのも、ボランチにDFラインの裏やゴール前への飛び出しをさせるためとも考えられます。

 これらの動きは左サイドで行われることが多かったのですが、右サイドでも基本は同じです。ただ右サイドのSBがエウシーニョなのでマークを外して縦より、内側を使う攻撃が目立ちました。

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 例えばサイドチェンジが行われた上のような場面では、エウシーニョに対してはチャナティップが戻るか高嶺が前に出ていきます。しかし両方とも距離が離れている状態です。このプレスの遅れを利用してエウシーニョが中のスペースに入っていきます。

 この試合ではエウシーニョが最多のシュートを撃っていますが、このように彼にプレスがかかりづらかったことも理由ではないかと思います。

 何度かチャンスを作ってもシュートが決まらないかった清水。それは札幌のDFがゴール前ではカルリーニョスと後藤を必ずマークして捕まえていたからだと思われます。札幌はゴール前ではしっかりマークしてシュートを食い止める。そこからロングカウンターに持っていく狙いがあったのだろうと思われます。奪った後にボールを運んでいける選手は揃っています。

 前半終了間際に金子が撃ったシュートが札幌DFの手に当たりPK獲得。金子が決めて先制します。PKに繋がる金子のシュートは右のライン際からソッコが挙げたクロスをマークを外した金子が中央のスペースで撃ったものです。ボールが逆サイドにある時にマークを外してシュートを撃つスペースに入っていくプレー。これが金子が右のWGで主力として起用されている理由の1つだと思います。

3.清水の守備局面について

 札幌が保持した時は深井がCBの位置に下がって後ろは4バックになります。WBのルーカス、菅は前に上がるのでシステム表記すると1-4-1-5のようになります。

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  後ろで深井、宮澤。荒野がポジションをローテーションするように動いてファーストディフェンスを動かします。そしてカルリーニョスと後藤の脇から侵入。そこから運んだ選手が前に出て行く動きと後ろに降りてくる動きなど周囲の選手の入れ替わりを組み合わせながらボールを前進させていきます(上図)。

 清水に中のスペースを消された時は、中盤を飛ばした前進。

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 鈴木がポストに降りてきて駒井がハーフスペースから裏へ。駒井のハーフスペース突撃を警戒してソッコが中に絞れば大外のルーカスフェルナンデスを使ってワイドから仕掛けてきます。前半は特にこのルーカスフェルナンデスのワイドからの攻撃が目立っていました。

 ハーフタイムのペトロビッチ監督のコメントを読むと前半の攻撃には満足していなかったようです。その不満とは、もう少し中、外と多彩に仕掛けたかったのがワイド一本になってしまっていたところかなと推測します。

 清水はワイドからの攻撃に対してもルーカスフェルナンデスにはソッコが対応しつつ、西澤も戻って内側のスペースを埋めて上手く対応できていたのではないかと思います。

4.後半の流れ

(1)後半開始から田中の退場まで

 札幌は後半の頭から進藤と深井に代えてドウグラスオリヴェイラと田中への選手交代。鈴木とドウグラスオリベイラが2トップ、チャナティップがトップ下、駒井が3バックの右。1-3-4-1-2に並びが変わります。

 2トップにしたのはサイドからクロスは上げられていたのでゴール前で高さを1枚増やすためと、ダイレクトなボールに対して裏抜けだけになっていたので前でボールを収める選手が欲しかったからではないかと推測します。また前半はチャナティップがヘナトに消されていたからかあまり目立ちませんでした。ここをもう少し自由にしたかったのも理由かもしれません。

 さらにもう一つ注目の変化が駒井が右のCBに入ったことです。駒井はサイドに開かずに少し内側からボールを持ち運ぶプレーを見せていました。

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ドウグラスオリヴェイラ選手の背番号は33の間違いです)

 この運びで駒井が西澤を引き付ければルーカスへのコースがより開きやすくなるし、ルーカスと駒井が右サイドで動かせばその内側を荒野が上がっていきます。この後半の駒井の持ち運びは清水にとって面倒くさい動きだと感じました。
 中、外と少し良さげな動きが見えて、FKから同点ゴールも決めた札幌。しかし後半早い時間に入ったばかりの田中が2枚目のイエローカードを貰い退場となってしまいました。

 この退場の場面を表したのが下図です。

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 駒井とルーカスのコンビで左サイドを上がってクロスを上げたところから。クロスをエウシーニョが拾ってカルリーニョスに縦パス。カルリーニョスがターンしようとしたところを田中が倒してしまいました。

 図を見てわかるようにカルリーニョスがターンに成功したらGKと1vs1になる状態です。周囲の状況を見ても札幌DF3人に対して清水は4人。もし荒野を入れても4vs4の同数です。これは1-4-1-5の札幌がさらに4から1枚前に上げる攻めと、WGをなるべく下げないで守る清水の守備の噛み合わせにより起きる現象です。札幌の戦術上、切り替え時に同数か数的不利になってしまうので4-1-5のアンカー位置に入ることの多かった田中に負担が大きくかかっていたとも言えます。

(2)退場後から終了まで

 田中の退場後、ルーカスに代えて白井、高嶺に代えてキムミンテが入ります。田中の退場後はマンツーマンを止めて(一人少ないから当たり前なんだけど)ボールを失ったら撤退し4-4-1の守備ブロックを敷いて守ります。

 札幌が撤退4-4-1になったことで清水の後ろでの保持に余裕が出てきます。その代わりにマンツーを利用してのスペース作りができなくなってやや攻めあぐねる時間が続く清水でした。

 清水の勝ち越し点は85分。4‐4‐1ブロックを組んでも人への意識が強いのが札幌守備の傾向。

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 上図は2点目の少し前。右サイドから中央の中村にボールが渡った場面。札幌の並びはDFラインが右から白井、キムミンテ、宮澤、菅。中盤は右から鈴木、荒野、駒井、チャナティップ(この場面では駒井とチャナが入れ替わっている)。

 清水はここから中村がソッコのパスを出すと同時に西澤が左サイド奥にランニング。西澤がフリーだったので、後藤をマークしていたキムミンテがマークを離して後藤に付いていきます。

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 キムミンテが西澤についたので後藤は完全にフリー。そして荒野はヘナトを見ています。後藤をドフリーにするのはまずいので、自陣前に戻ろうとしていたチャナティップがその流れで後藤についていきます。

 西澤がワイドにキムミンテを引き付けたことでDFラインにギャップができて後藤がお約束のハーフスペースから裏狙いのラン。チャナティップが後藤についていくので中央にスペース。そこを埋めるために荒野が下がってきます。ヘナトがシュートを撃ったのはその荒野の左脇のスペース。本来そこを埋める駒井ですが、彼はカルリーニョスに引っ張られてDFラインまで下がっています。

 屁理屈うんぬんの前にヘナトのゴラッソなんですが、状況としてはこんな感じです。4-4-1撤退で自陣のスペース埋めていた札幌ですが、左サイドの組み立てに対して人につく守備、そこから右へのサイドチェンジで中盤脇のスペースが空いたこの形は前半と同じと解釈もできます。

5.最後に

 試合終了間際にはカルリーニョスのダメ押しゴールが決まり、3-1で清水の勝利でした。 

 初勝利の大分戦以降、後半になっても崩れることなく試合を通して安定を見せているのはよい傾向です。

 開幕からしばらくは自分達の形を表現するだけで手一杯感がありました。しかしここ数試合は相手の特徴にもしっかり対応しながらのプレーできています。さらにカルリーニョスやヘナトなど個々の強みも出せるようになってきました。ようやくJ1で勝てるチームまでレベルが上がってきたように感じました。直近3試合負け無しはその証明だと思います。