2020年東京オリンピック 男子サッカー準々決勝 スペインvsコートジボワール レビュー ”確実性と結果の関係は”

試合結果

【得点】

スペイン 5-2 コートジボワール

【得点者】

10’ エリック・バイリー(コートジボワール

30’ ダニ・オルモ(スペイン)

90+1’ マックス・グラデル(コートジボワール
90+3’ ラファ・ミル(スペイン)
98’ ミケル・オヤルサバル(スペイン)
117’ ラファ・ミル(スペイン)
120+1’ ラファ・ミル(スペイン)

両チームのメンバーとフォーメーション

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(スペイン)

フォーメーション:1-4-3-3

交代選手:10’ヘスス・バリェホ(オスカル・ミンゲサ)、67’ブライアン・ヒル(マルコ・アセンシオ)、90+2’ラファ・ミル(ミケル・メリノ)、102’カルロス・ソレル(ペドリ・ゴンサレス)、105’マルク・ククレリャ(フアン・ミランダ)、105’ホン・モンカヨラ(マルティン・スビメンディ)


コートジボワール

フォーメーション:1-4-4-2

交代選手:62’アマド・ディアロ(シェイック・ティミテ)、90’アブドゥル・ケイタ(クリスチャン・コウアメ)、114’コッフィ・クアオ(エブエ・クアシ)

試合の概要

 東京オリンピック男子サッカー準々決勝。予選Cグループ1位(1勝2分)のスペインとDグループ2位(1勝2分)コートジボワールの対戦です。

 ボールを保持してスペースを作り相手陣内に攻め入りたいスペインとボールを持ったら素早くゴールに迫りたいコートジボワール。両者の思惑は噛み合う構図となり試合を通じてスペインがボールを保持する流れとなりました。

 相手陣内に迫る機会もスペインが多く作ります。しかし90分の中で常に先手を取ったのはコートジボワールでした。試合開始早々、前半10分にコーナーキックから先制ゴール。その後、追いつかれるも後半の45分過ぎに勝ち越しゴールを奪います。このまま試合終了と思われましたが、その2分後、タイムアップ直前にスペインが意地の同点ゴール。勝負の行方は延長戦に持ち込まれました。

  延長戦に入ってもお互いの構図は変わらずでしたが試合を動かしたのはスペイン。延長前半にハンドによるPKを決めて勝ち越します。その後も粘り強く試合を進めるコートジボアール。しかし延長後半に入り時計の針が進むにつれ、いよいよ前に出ざるを得ない状況になってきます。するとスペインはそれをいなし、相手守備組織のすきを着実に突いて2得点。5-2でスペインが勝利し準決勝に駒を進めました。

相手をよく見て淡々とくり返す(スペインの保持局面について)

 4-3-3の配置を大きく変えずにビルドアップをスタートするスペイン。ウィングはサイドに張り、中盤はコートジボアールの4-4のブロックのちょうど間にポジションする形です。

 対するコートジボアールの守備はサイドハーフをやや絞り気味にした4-4-2(4-4-1-1)。まずは縦パスを入れられるのを警戒しているようで、奪いにいくよりスペースを消して構える守備でした。センターバックの保持にも前からいかず持ち運ばれたら2トップの1枚が制限、もう1枚がアンカーを抑えます。

 コートジボアールのファーストディフェンスが縦並びになるのでスペインのセンターバック1枚はフリーになりやすくなります。そこで相手2トップ脇からボールを持ち運びコートジボアールの中盤をけん制するのがスペインのビルドアップスタートになっていました。

 コートジボワールの守備の特徴の一つは、ボランチの選手がスペインのインサイドハーフを強く意識していたことです。ここからも内側でパスを繋がれるのを嫌っているのがわかります。しかしこれは逆にボランチがスペインのインサイドハーフに動かされることに繋がります。

 序盤はサイドから前進を狙っていたスペインでしたが、少し時間が進むとインサイドハーフが降りたり開いたりと相手のボランチを動かし縦パスのコースを作り始めます。

 ただしくさびのパスに対しては後ろからタイトにマークがついてくるので中央から直接崩す場面はあまりありませんでした。

 そこでスペインはくさびを入れてブロックを収縮させると、戻して(レイオフ)サイドに展開。横に揺さぶってから大外やハーフスペースを深く侵入して低く速いクロスが多くのチャンスシーンになっていました。

 例えば右サイドバックミランダが内側に入っていき大外のダニオルモをフリーにする。そしてミランダはSB-CB間へランニング。ダニ・オルモが内向きでボールを受け、裏に抜けるミランダにパス。ミランダがハーフスペースを深くえぐってクロス。ウイングとサイドバックの関係が逆になる時もありましたが、このパターンはよく見られた攻撃です。

 またスペインの前線で主に深さをとるのはセンターフォワードでなくウイングでした。場面により内側に入りボールを引き出す動きも見せますが、まずはワイドに張って相手のディフェンスラインの裏を狙う動きを見せています。

 ただし右ウイングのアセンシオ、左ウイングのダニオルモともに逆足のウイングなのでボールを受けると縦でなく、内側を向いてインスイングでファー側へのクロス、または内にいる味方との連携でゴールに向かっていきます。

 スペインの1点目は右サイドから。大外でアセンシオがボールを持つと、内側でサポートしていたメリノへパス。同時に逆サイドのダニオルモが相手サイドバックの裏を取り、ファー側のぺナ角に向かって入ってきます。メリノはそこへインスイングのクロス。コートジボアールサイドバック、シンゴがこれを処理しようとしましたがこぼれてそれをダニオルモが押し込みました。

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 中、外とボールを動かす。ハーフスペースをえぐって速いクロス、もしくは少し内側に持ち出してファーにインスイングのクロス。そして前線は誰かが引いて同時に他の選手が裏を狙う。スペインはある意味、ボールの前進からこの攻撃を淡々と繰り返していて、その内の一つがようやく得点として結びついた形でした。

サイドからの素早い攻撃で前線の力を生かす(コートジボアールの保持局面)

 コートジボワールは長いボールをダイレクトに前へ、また後ろで保持した時はサイドからが主な前進のルートでした。

 前進のルートで多かったのは左サイド。センターバックボランチを経由して左サイドへ。サイドをサイドハーフが運んで大外をサイドバックが上がっていきます。さらにその内側、ハーフスペースをボランチのケシエが上がってサポート。このようにサイドを3人で崩すのが一つの形でした。

 スペインの守備組織は4-5-1。しかしセットすることはほぼなく、ボールサイドの2列目も前に出てかなり積極的に高い位置からプレスをかけています。まずは1列目が中を切って外側へ押し出すようなプレス。そのままサイドにボールを押し出したら高い位置から奪いにいきます。

 サイドにスライドしながら強くボールに寄せていくため、サイドバックが突破されるとそのままアタッキングサードまで運ばれやすい傾向はありました。サイド深く運ばれたらセンターバックはスライドしないでギャップはインサイドハーフが下がって埋めています。中央のゴール前はセンターバック2枚とアンカーの3枚を確保して対応しているようでした。

 コートジボワールはサイドを運ぶとシンプルにクロス。クロスに対しては2トップと逆サイドのサイドハーフの3枚が入っていきます。

 アタッキングサードに運んだら基本的にはあまり手数はかけず、クロスやペナ角辺りからのシュートを狙うのがコートジボワールのフィニッシュパターンでした。

 コートジボワールの1点目はコーナーキックから。スペインのコーナー守備はニアポストに人を置かない配置で、そのためかコートジボアールのニアへのおとりのランにキーパーが若干振られ気味だったのが気になりました。

 2点目はスローインの流れから。一度スペインが拾ってエリク・ガルシアが出したパスをカットしてのショートカウンターボランチの選手(たぶん⑫クアシ・エブエ)がカットして左サイドのグラデルへ。グラデルがペナ角辺りから思い切って打ったシュートが決まりました。奪って素早く前へ、そして崩しきる前にミドルレンジのシュートはコートジボアールが何度も狙っていた形でした。

終盤の展開とまとめの感想

 最終スコアは5-2と差がつきましたが、コートジボアールはおおむね彼らが想定したように試合を進めていたと思います。もしアディショナルタイムがもう少し短かったら結果は逆に転がったかもしれません。

 一方、スペインもボールを保持して、試合を安定させる彼らの展開を作ることができていました。しかし、こと得点を奪うことに関しては作るチャンスの数に比べて少しパワー不足の感があります。そこが苦戦の要因となっていたようにも思います。

 スペインは67分にブライアンヒル、90+2分にラファミルへ交代で左利き左ウイング+高さと強さのあるストライカーで前への推進力を出して同点から逆転に繋げます。

 そして延長に入り勝ち越したスペインはその後にさらなる選手交代。システムも4-2-3-1に変更します。これで守備を安定させると前にきたコートジボワールの守備のすきを突き2点を加え試合を終わらせました。

 少しオープンにしてよりゴールに向かうか、それともクローズ気味にして安定させるか。流れの中でこの匙加減はスペインの勝敗の鍵を握りそうだと感じました。

 この試合は、ある側面から見ればギリギリで追いつきなんとか勝ち越したスペインが薄氷の勝利。別の側面から見れば、開始早々の失点にもテンポを大きく変えず論理的ともいえるプレーを正確に選択、実行し続けたスペインが確率論通りに結果を収れんさせたともいえそうです。

2021年明治安田生命J1リーグ第30節 清水エスパルスvsヴィッセル神戸 ”主に清水の前半の守備とその修正について”

・スターティングメンバーとシステム

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 清水のシステムは1-4-4-2。前節からの変更は藤本→コロリのみ。神戸からレンタル加入の藤本は契約上の規約で出場できず。代わりに鈴木唯人が2トップの一角に回り、前節メンバー外だったコロリが左SHに入った。仙台戦で9試合ぶりの勝利を収めた清水。今季初の連勝を目指す。

 神戸のシステムは1-4-2-3-1。中盤の主力だった山口蛍が負傷のため欠場中。前節の札幌戦では中盤には大崎が起用され1-0の勝利。今節もその札幌戦と同様のスタメンを組んできた。夏に大迫、武藤と大型補強を行った神戸。順位は29節消化時点で4位とその補強に見合った実力を見せている。

・前半飲水タイム辺りまでの清水の守備を見る。

 前半開始からしばらく神戸がボールを保持し、清水陣内に攻め込む流れが続く。

 神戸の保持は大崎がCBの左側に降りて後ろ3枚でスタートすることが多かった。サンペールは2トップの裏でアンカーのように振る舞い、イニエスタは左内側のやや低い位置に下がりボールを引き出す。CFの大迫は左右に流れたり、引いてきたりと大きく動きプレス回避のターゲットになる。神戸の基本的な配置を図にすると下のようだ。

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 イニエスタがプラス1となり、大崎、初瀬(ときおり中坂も)で行う神戸の左サイドのビルドアップに清水は苦戦する。

 清水の守備は2トップの1枚がアンカーのポジションにいるサンペールを消し、もう1枚がCBに出ていく。 

 SHはまず縦パスを消すようやや絞ったポジショニングからサイドに出たらそのままスライド。

 清水は内側を消してサイドに誘導したいが上手くプレスがかからない。フェルマーレンの左脇に降りてくる大崎がオープンになり縦やサイドに蹴り分けるパス、またスペースへの運ぶドリブルで前進されていた。

 この大崎のポジション取りを見ると、清水の2トップがCBに行く動きを見ながら位置取りを決めているようだ。例えば唯人の視界から離れるようにポジションを移動しボールが来たら西澤を引き付けてパスを出す。大崎がオープンになると唯人、西澤もそれを気にし始めたがどちらがいくのかあいまいになり後追いのプレスになっていた。

 さらに大崎はパスを出したら前に出ていき三角形の頂点を移動させるようにポジションチェンジする。

 清水は中への縦パスを塞ぎたいが、縦を切っても一度サイドの初瀬に出してから内側へ入れられる。この横パスで中のイニエスタがフリーになる。そしてイニエスタが引き付けてフリーを作ったり、前を塞がれれば逆サイドへのサイドチェンジ。このサイドチェンジから武藤と酒井に打開されるのを警戒しコロリと片山は絞り切れず清水の守備ブロックはかなり左右に引き伸ばされていた。

 ブロックが横に伸ばされると塞ぎたい中央もサイド経由で攻略される。清水は開始から25分の飲水タイム辺りまでこの悪循環を修正できずペースを神戸に握られ続ける。

・神戸の先制点を見る

 この流れを頭に入れ神戸の先制点を見る。

 大崎が2トップの脇を運んでいき、清水のブロックを内側に寄せる。これで左サイドに引いてきていたイニエスタ、さらに大外の初瀬がフリー。

 大崎からイニエスタにパスが出て西澤がプレスにいくが間に合わずサイドの初瀬にパスが出る。

 西澤がサイドに動いたことで再び中の大崎の周辺にスペース。初瀬から大崎に横パスが出るがこれを切れずにフリーで大崎がボールを受ける。大崎から内向きに侵入してきた初瀬にワンツーでパスが出て、初瀬は松岡に正対してドリブル。これで松岡がピン止め。松岡がピン止めされるとSB-CB間のカバーにいけず、そこに流れていた大迫がフリーになった。

 大迫にパスが出て、大迫は中へ速いクロス。逆サイドからヴァウドと井林の間に入ってきた武藤がヘディングでゴールを決めた。

 また失点の決定要因ではないがこの時、清水の中盤ラインはやはりかなり間延びしている。本来ならボールサイドにスライドして横をコンパクトにしたいがホナウドは中央付近にポジション。左サイドのコロリがサイドに開いたままなのでホナウドは中央を空けるわけにはいかなかったのだろう。これも神戸のサイドチェンジと武藤や酒井への警戒が影響した可能性は十分考えられる。

 この失点は大崎に2トップ脇を運ばれたことから始まっている。ファーストディフェンスがはまらず相手を限定できない。限定が緩く選択肢を持たれるため、こちらの動きをコントロールされる。そしてポジション移動する相手に動かされスペースを作られ攻略された。以上のようにこの失点は前半に見られた典型的な流れから生まれたものだったと言える。

・清水の修正について考える

 飲水タイム明け、まず唯人がCBにいく際も常に首を振り必ず大崎をチェックする動きが見られる。そして大崎の運ぶドリブルや自分の裏で浮いている選手にプレスバックでプレッシャーをかけるようになった。

 またそれまである程度持たせていた菊池流帆にもコロリが出ていくようになる。そして中央のフェルマーレンにも強く限定をかける。そこから左にボールが出ても限定が明確なので西澤も前に出ていきやすい。

 DFラインにフリースペースができにくくなったためか、この辺りから大崎がDFラインに降りなくなった。大崎が降りなくなると初瀬が下がってCBの横でサポート。しかし大崎に比べれば初瀬の方がプレスはかけやすい。

 こうしてファーストディフェンスがプレスを強めて限定を明確にすると神戸もクリーンに前進できなくなる。この辺りから清水が中盤でボールを奪う場面が見られるようになってきた。

・清水の保持局面と簡単に試合の流れを

 清水の保持局面を見る。

 清水はCHが1枚降りて後ろ3枚。SBを上げてSHはやや内側。そしてFWの唯人が中盤の中央に引いて受ける。これが基本的なポジション取りとなることが多かった。

 神戸の守備はCHのサンペールをイニエスタと同じ高さまで出して、1-4-3-3に近い布陣で守備を行なってきた。

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 後ろ3-1でビルドアップする清水に対し、神戸の守備基準は大迫が中央のCB、アンカーの松岡をイニエスタ、ヴァウドに中坂、脇に降りるホナウドへは武藤が出てくる。そして井林やホナウドからハーフレーンへ出される縦パスのコースをサンペールが埋める立ち位置だ。

 神戸は前からかなり積極的にプレスをかけてくる。そのため中盤(大崎周辺)やSBの裏に広いスペースができやすい。 

 しかし清水がそのスペースにボールを入れると神戸は持ち場を捨てても激しく追撃。原の仕掛けから幾度か初瀬の裏を取るがそれ以外はあまり上手くボールを運べていない(原の仕掛けは相手の守備を考えるとチームとしての指示だったかのかなとか)。

 前半の30分辺りから神戸のプレスの勢いがやや下がってくる。この理由は明確にはわからないが、そこから清水がボールを持てるようになってきた

 特に井林とホナウドでボールを落ち着かせられるようになったのが大きいそうだ。武藤を引き付けて片山をサイドでフリーにしたり、大迫や前に出てくる中坂を動かして内側への縦パスを入れる場面が見えてきた。

 神戸はボールサイドに寄る傾向が強いため、一度内側に入れるとサイドのレーンがフリーになりやすい。特に右サイドの中坂、初瀬のラインが顕著でSB原とSH西澤が内外を使い分けながら大外にスペースを作りクロスでチャンスを作っていった。

 後半に入っても前半途中から修正した流れは変わらず。

 神戸は84分に選手交代と共にシステムを3バックに変更。非保持時には1-5-4-1にし逃げ切り体制に入った。

 神戸はサイドバックを動かされてスペースを利用されていたので後ろ5枚にしてそこを消す。理にかなった采配だ。

 これでやることが明確になった神戸。86分に清水が前から奪いに行ったところを後ろで動かし前線の大迫へ。大迫からサイドに開いて折り返しを前に出てきた大崎がシュート。不運にもシュートが松岡に当たったため不規則な軌道になりゴールが決まってしまった。

 その後、清水は埋められたサイドを打開するため西澤に代えて滝。得点を狙っていくもスコアはそのまま動かず。2-0で試合は終了した。

・感想

 受け手がフリースペースに入ってそこにボールホルダーがパスを出す。ボールホルダーが相手を引きつけ意図した場所にフリースペースを作り受け手に使わせる。意識としてはそれが相互に行われるとスムーズにボールが前進していきそうだ。

 神戸にはそれを理解し個人で実行できる選手が揃っていると感じた。フェルマーレン、大崎、サンペール、イニエスタなど。ボールを持てば常に相手を牽制し、持っていない時も相手の動きを見ながら味方と繋がるようにポジションを修正している。

 清水の選手もそういったプレーへの意識は感じられるがまだ強いプレッシャーの中ではそれを発揮できない場面が見受けられる。

 相手のプレッシャーを受けているのか、相手を引きつけてスペースを広げているのか。そこを自然と意識できた時、よりチームの足取りは進んでいくのではないだろうか。

 

試合結果

清水エスパルス0-2ヴィッセル神戸

IAIスタジアム日本平/晴れ/気温24℃)

得点

9'武藤嘉紀

38'大崎玲央 

2021年明治安田生命J1リーグ第26節 清水エスパルスvs鹿島アントラーズ 感想

 なかなかの大敗でございました。振り返るのもしんどくなりそうな試合だったにもかかわらず当ブログをのぞいていただき感謝します。私も試合終了後にはかなり悔しい気持ちでしたが、見直しに関しては勝ち負けそんなに気にならないのが私の特性です。いくつか思うところありましたので以下に感想を垂れ流してみたいと思います。

 まずは両チームのメンバーから確認しましょう。

 清水のシステムは4-4-2。GK権田。DFが左から片山、井林、ヴァウド、原の4バック。ボランチホナウドと松岡。サイドハーフは左に鈴木唯人、右に西澤。2トップがコロリ、サンタナです。

 前節から中3日ということでターンオーバーも考えられましたが、メンバー変更はボランチホナウドのみ。ベンチの藤本含めて夏の新加入選手が全員メンバー入りしていることから新戦力の連携を高めつつ周囲は主要メンバーで固めたかったのかもしれません。

 鹿島の方はシステム4-4-2もしくは4-2-3-1。GK沖。DFが左から永戸、町田、林、安西。ボランチに三竿とピトゥカ。サイドハーフが左にカイキ、右に遠藤。トップ下に荒木、CFに上田です。

 天皇杯も絡み清水以上にきつい日程の鹿島。こちらは前節から5人メンバー変更してきました。結果論ですが両チームのコンディションの差も試合結果に大きな影響を与えたのかもしれません。

 さて、試合内容を見ていきましょう。まずは清水の守備から確認します。

  試合開始しばらく、清水はわりと高い位置からプレスにいっていました。おそらく鹿島に長いボールを蹴らせて回収する狙いがあったかと思います。しかしプレスにいったところを2トップの間を割られてライン間まで運ばれることが何度か起きていて、これはかなり問題になっていました。

 なんで2トップの間を割られるパスが通るのかなと見てみると、鹿島のトップ下の荒木がボランチの位置まで下がってくるのが一つの要因となっていたようです。荒木が下がると同時にボランチの三竿が脇にずれたりピトゥカが前に出たりと3人で位置を入れ替えてきます。なので清水の2トップが相手のボランチを意識すると降りてくる荒木が空いてしまう状態になっていました。

 結果、荒木にパスが入ると慌てて松岡が前に出てきます。しかしそれも後追いで間に合わない。鹿島は清水のライン間に4人(上田、遠藤、カイキ、前に出るピトゥカ)確保しているため松岡が空けた中央のパスコースからパスを通され崩される。そんなパターンになっています。

 このように鹿島が2トップ裏で受ける工夫をしてきたのは確かですが、サンタナとコロリが不用意に横並びでプレスにいくなど2トップの限定自体あいまいです。もう少しポジションを細かく取り直したり、プレスバックをして欲しかったところです。

 前半の中頃を過ぎるとさすがにまずいとなったのか、2トップは前にいくのを抑えて鹿島のボランチを抑えるポジション取りを取り始めます。これでそこまで真ん中をフリーにすることはなくなりましたが、それでも若干の緩さは感じました。

 私の敬愛するレビューワー、たけち先生のチェックによればサンタナは中盤に対して前にきてくれとジェスチャーしていたようですが、たいがいフォワードは前残りしたいので後ろに前にこいと要求しがちなところがあります。コンディション面が落ちていると余計にそのような傾向になるのかもしれません。

 その他、サイドの唯人が前にプレスに出た時ににサイドバックの安西がフリーになることもありましたが、その際は後ろがスライドしてブロックを組みなおすことができていて致命的な問題にはなってはいないように思えました。

 次に清水の攻撃を見ていきます。

 清水は後ろからボールを保持する意思を見せていました。これまであまり見せなかったボランチの松岡を降ろして後ろ3枚でのビルドアップスタート

 中盤はホナウドをアンカーの位置、唯人と西澤がインサイドハーフのようなポジションを取っています。後ろの枚数が変わっても中盤は逆三角形のポジションを取るのはこれまで通り。松岡を後ろに降ろしてさばかせるプランだったので相方には2トップ裏でアンカーの役ができるホナウド(サブが竹内でなく河井だったのも同様)を起用したのでしょう。

 積極的にくる鹿島のプレスの前に詰まることも多かったのですが、相手の守備の構造を見ながらボールを動かす狙いは見えました。

 例えば、松岡が鹿島のフォワードのプレスを引き付け、左センターバックの井林がその脇を持ち運ぶ。そこに遠藤が出てくると左サイドライン際で片山がフリー。これは再現性のある形でした。

 ただそこから先がやや詰まり気味。片山にはサイドバックの安西が出てくるのでその裏に誰かフリーランして欲しいところですがあまりその動きは見られませんでした。

 保持した時に一番可能性があったのはサイドチェンジや対角線のフィードなど逆サイドにボールを運んだ時。鹿島は相馬監督のチームらしくボールサイドに人を寄せて強くプレスをかけてくるので構造的に逆サイドが空きがちです。

 特に左の片山に一度持っていってから直接、または戻して右サイドへの展開でほぼ大外フリーを作ることができていました。もう少しこの形を徹底しても良かったかもしれません。

 ここまで書いたようにある程度狙いは見せていましたが、全体的には上手くいった面とそうでない面が半々でした。

 上手くいかなかった例としては1失点目のプレー。清水が保持した時の問題点が表れていると思います。

 ヴァウドがサンタナに縦パスを通したところを奪われてカウンターから上田にミドルを決められた場面ですが、配置を見ると松岡を後ろに降ろしているので奪われた時点で中盤はホナウドひとり。配置上、中盤でスペースを使われやすい状態でした。保持する前提であるなら不用意に失うのは致命傷です。

 多くの方が指摘しているようにヴァウドがパスを出す前に松岡は後ろに戻すよう指示を出しています。私はボールを保持することを考えた場合、松岡の指示が正しいと思います。

 チーム全体でボールを運ぶためには、ボールを動かして相手のプレスを分散させる、次の受け手のためにスペースを与える、周囲の味方がポジションを整える時間を作るといった作業が必要となるからです。

 まだ清水の選手はパスコースが見えたらすぐに出してしまい結果的にボールが進むほど窮屈になってしまうことが見受けられます。ここは技術や戦術以前に意識の変化が求められるところなのではないでしょうか。

 最後に後半の様子を見ていきましょう。

 前半2失点してしまったわけですが、後半の入りは悪くありませんでした。

 そこから後半早めに選手交代を進めていくわけですが、まずはじめは西澤に代わり滝が入ります。西澤が交代の1枚目ではありましたが彼のプレー自体は悪くありませんでした。西澤は前半通して味方の位置を見ながら的確なプレー選択を行っており、右サイドでのボール前進に大きく貢献していました。チャンスの手前まではいけていたわけで最後の一押しとして間で前を向いて打開できる滝の起用だったのだと思います。

 そして同時に唯人とコロリの位置を入れ替え、左から前進した時のプレーおよびファーストディフェンスの修正します。

 続いて足りなかった裏とフィニッシュのために藤本、疲労を考慮してサンタナから指宿、そして中村、河井と攻撃的なカードを切っていきます。

 狙いは遂行できている、後はフィニッシュだよというメッセージにも感じますが、得点は奪えず逆に3、4点目を失い終戦でした。

 4失点に言い訳は効きませんが、いずれもなんとももったいない失点と感じます。戦術理解が進めば〜という声もありますが、私は選手は戦術を理解しているし、それを遂行もしていると思います。ただ戦術を遂行することに一杯になってないかというところは少し気になります。結局、戦術は勝つための道具みたいなもので一番大切なのは全てを勝ちに繋げることだと思います。そこがあいまいになっていなければいいなと感じます。

 例えば勝ちへの執着心はどうでしょう。気持ちのことを言うのもなんですが、失点した時に真っ先に仲間に声をかけるのが20歳の新加入選手というのは寂しいです。

 当然、気持ちのない選手などいなく、勝ちたい気持ちがあまりにも大きいからこそ失点した時のショックが大きいのでしょう。それでも松岡に"ここから勝ちにいくぞ"と逆に声かけするような選手達であって欲しいという個人的な思いがあります。

 最後は私のわがままのようなものになってしまいましたが、これで感想文の結びにしたいと思います。

 

 

2021年明治安田生命J2リーグ第23節 ジュビロ磐田vsモンティディオ山形 【山形に注目したマッチレポート】

・両チームの近況

 (山形)序盤の成績不振を受け、シーズン途中の監督交代に踏み切ったモンティディオ山形。石丸体制の後を引き継ぎ監督に就任したのは昨年清水エスパルスの監督を務めたピーター・クラモフスキー氏。クラモフスキー監督が正式にベンチ入りして以降の戦績は22節時点で8勝1分けと負けなし。順位も序盤の降格圏から6位までに押し上げこのまま昇格争いに顔を出す勢いだ。

(磐田)開幕2試合は黒星スタート。しかしその後は地力を発揮。順調に勝点を積み上げ22節消化時点で首位に立っている。11節以降負けなしだが前節の山口戦は2-2の引き分け、その前の新潟戦は勝利ながら3-2と複数失点。直近2試合はややきわどい結果だ。

 2位の京都との勝点差は3。悲願のJ1昇格を果たすために勢いのある山形をホームで叩き首位の座を盤石にしておきたいところだろう。

・両チームのメンバー

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 山形のシステムは1-4-2-1-3。ウイングがワイドいっぱいに張る3トップは清水サポにはお馴染みのシステム。もう一つお馴染みはCHで起用される藤田息吹。クラモフスキー氏の指揮するチームで元清水の選手を見られるのは嬉しみを感じる。

 磐田のシステムは1-4-2-3-1。スタメンはほぼJ1の試合でも出場していた高い個の力を持ったメンバーだ。

・山形の保持局面を見る

 山形が保持した時は下の図のようだった。

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 山形の両ワイドは高い位置のワイドいっぱいに、CFの林は中央の前に張っている。この前線3枚で磐田の5バックを押し下げている。

 トップ下の山田康太は中盤でボールを引き出しフィニッシュまでつなげる役割を負っているよう。中盤に降りたりサイドに移動したりと広範囲に動いていた。

 CHの藤田は山田康太が動いたトップ下ポジションに入っていくことが多く、もう1枚のCH國分はアンカーポジション。そしてSBはやや内側の立ち位置。 

 後ろはCB2枚でビルドアップスタート。中盤の中継地点としてアンカー。前の3枚で深さと幅を取って広げる。中盤とSBはポジションをローテーションしながらハーフスペースを活用し前進。そしてフィニッシュに繋げるのが原則のようだ。

 次に磐田の守備を見る。

 磐田は高い位置から積極的に制限をかけてきた。CFルキアンとシャドウの1枚が前に出て相手の2CBにプレスする。もう1枚のシャドウは中盤の脇を埋めるポジション取り。

 さらにアンカーポジションの國分にもCH1枚(主に遠藤)を積極的に出していくので、残ったCHの脇にスペースができがちだ。

 磐田の前線は積極的に前にくるが、後ろは山形のCFと両ワイドのよって押し下げられる。よって守備ブロックは前後が引き伸ばされ、2列目が薄い状態になっていた。

 山形はCBがボールを動かせる上に、GKもプレスを越えるパスを出してくる。磐田のファーストプレスを回避するとCHの脇に広大なスペースが生じている。

 下は山形の2点目の起点となった場面。現象としては上に書いた通り。

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 遠藤が國分にプレスするので山本康の脇で藤田は完全にフリー。ここから山田康太(左内側)、國分(中央)、中原(右大外)、半田(右内側)とレーン移動しながら前進。中央前の林へのくさび、そしてワイドからDFラインをブレイクした中原にパスが渡りカットインからゴールが決まった。
 山形のフィニッシュの特徴はハーフスペース侵入で磐田のDFを前に引き付け、裏にスペースを作りそこに飛び出す。そしてマイナスの速いクロスを入れてシュート。DFラインの表と裏の2択を高速で迫るイメージだ。

 序盤の磐田DFラインは中盤の脇に広がるスペースに後追いで対応するので上手く限定できない。CH脇に入る相手に対して役割が整理されないまま反応し裏を何度も取られていた。山形の1点目、2点目ともに仕組みとしては似た形だ。

 また山形は遅攻で押し込んだ時はサイドの高い位置でWG-SB-トップ下(または上がってくるCH)で三角形を作りボールを動かしてDFラインの裏を取りにいく。これは昨年のクラモフスキー体制時の清水でもよく見られた崩しだ。

 磐田も前半の途中から両シャドウがCH脇を埋める立ち位置をとるなど中盤のスペースを気にするそぶりをしている。そして後半になると中盤脇にCBやWBがスライドし中盤で浮く選手を消しにきている。また相手に持たれた時は逆に541で引いている。これではっきり中盤が空くことはなくなった。

 後半は山形がプレスを回避して中盤まではボールを入れるもフリーになる機会が減る。そして磐田に回収されることが多くなった。磐田が保持の時間を増やし山形は自陣でのプレーが増えていった。

・山形の守備局面をみる。

 山形の非保持時システムはトップ下の山田康太が前に出ての4-4-2。高い位置にブロックを設定するが2トップは奪うよりまず相手のCHへのコースを消すのが目的のようだ。そしてサイドに誘導する。

  サイドに誘導したら内側へのコースを塞ぐ。例えば下の図ように斜めの壁を作り内側へのコースを消す動きを何度も見せている。

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 内側を塞いだらサイドに押し出すようにプレスをかけていく。

 磐田は相手の1列目の脇から運んでCHの遠藤、山本康に入れてそこから組み立てを狙っているよう。山形は内側に入れたボールに対しては3人で囲い込んでいた(下図)。

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 ボールを奪ったら後ろに戻すパスを切っている選手(図の例では山田)がそのまま起点になる。そしてショートカウンターに移行する。

 磐田は内側で受けられないのでほぼサイドからの攻撃に。サイドチェンジを交えながらWBとシャドウの1枚がサイドで絡みクロスを入れることが多かった。

 後半の磐田はCHが降りたり脇に出たりと相手のブロックの外で起点を作る。WBとシャドウ、加えて左右のCBも上がってサイドから侵入。サイドに人数をかけて前進。そこから全体を押し上げていった。そしてWBとシャドウのポジションチェンジでハーフスペース攻略を見せる。そこからサイドの奥を取ってクロスを上げてシュートに繋げる。

 山形の失点は磐田の左からのクロスが流れて再び右からクロスを上げられルキアンのゴール。外誘導する山形に対してサイドに人数をかけて押し込みクロス爆撃は磐田の狙いであったと思われる。クロスは上げられるので中を山田→小川航基でフィニッシュの強度を上げる磐田。後半は押し込まれ気味だったがなんとか守り切り山形が2-1で勝利した。

・感想

 クラモフスキー監督のゲームモデルは清水時代とほぼ変わっていないように見える。清水時代に見られた動きがこの試合でも何度も再現されていた。

 しかし結果を出している山形のプレーを見るとやはり違いはある。

 その中の1つが裏への意識だ。裏と言っても後ろから長いボールを裏に蹴るのではない。後ろでの保持からスペースを作ってボールを運ぶのは同じ。そこから前線の選手が最終ラインの裏を常に狙っている。ワイドの選手も1対1を仕掛けるより、ワイドの裏を狙うまたは対面を引き付けて味方のために裏のスペースを作っている。

 清水ではウイングの突破力不足がたびたび指摘されたが、クラモフスキー監督の求めるプレーは山形のものに近いのではないだろうか。ただしそこは自チーム、対戦相手チームの個々の能力にもよるのだろうが。

 2つ目は後ろで持ったボールの逃がし方だ。前からプレスこられた時、GKが浮かして越えるボールを使い回避していた。またCBもボールを運べる(めちゃ上手いかはわからんが少なくともそういうプレーを見せる)。

 ファーストディフェンスを外して山田康太に入れば多少のプレスは何とかしてくれる。相手の前線からの強いプレスをかわす手段と逃げ場所があるのはかなり大きいように思える。

 最後に。磐田はサイドから攻略してクロスを多用していたが、これは対山形では有効に思える。組織で内側のスペースを消すように守るのでサイドをゴリ押しされると押し込まれやすいかもしれない。奪った後に陣地回復させるカウンターマシンのような選手がいないのも押し返せない要因だろうか。

 その他、そろそろ各チームとも山形対策を講じてくるだろう。そこでクラモフスキーがどんな対応をするのか個人的な注目点だ。

2021年明治安田生命J1リーグ第22節 徳島ヴォルティスvs清水エスパルス 【プレビュー】

・前回対戦の振り返りと徳島の近況

 ホームでの前回対戦(第7節)は0-3での敗戦。清水は積極的なプレスを仕掛けたが徳島の巧みなビルドアップでそれを完全に空転させられた。さらに攻撃も無得点に抑えられスコア、内容とも完敗と言わざるを得ない結果であった。

 今期新たにポヤトス監督が就任した徳島。しかし入国制限により合流が遅れ、シーズン序盤は甲本監督代行が指揮を執っていた。第10節から正式にポヤトス体制となったがそれ以降の戦績は1勝8敗2分。なかなか勝ち星がついてこない苦しい状況だ。

・直近の試合から見る徳島ヴォルティスの特徴

 システムはどの試合も4-2-3-1。下図は札幌戦でのスタメンだ。

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 配置をしっかりとりながらポゼッションをしていく志向はこれまでと変わらないよう。しかし以前ほど最後尾からショートパスを繋いで相手守備をはがしていくことにはこだわっていない。平たく言うと流動的な動きが減り、より固めのチームになった印象だ。

 前回対戦時には後ろで保持した際、ボランチが降りて数的優位を作ったり、ポジションをローテーションしてこちらのプレスを外す動きが見られた。しかしポヤトス監督の元ではあまりそういった動きは見られない。基本は中盤が降りることはなくDFラインとGKのみでビルドアップスタートしている。

 そのため上手くフリーを作れずプレスに詰まることがあるが、その時は長いボールを早めに前へフィードする。ターゲットのなるのは前線中央にポジションを取るCFの垣田。よって相手のCBと垣田の空中戦は頻繁に発生していた。

 ボールポゼッション時には下図の配置を取ることが多い。

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 右SB岸本を少し上げて後ろ3枚。右SHのパトッキオが中央に入ってくる。パトッキオのいたスペースには岸本やボランチの鈴木徳真が上がっていた。基本これをあまり崩さない。

 後ろから繋ぐときは、DFラインから中盤の岩尾、パトッキオを経由してスペースに入る前線にボールが配球される。

 ロングボールは垣田に当てたボールをセカンドトップの位置に入る渡井やパトッキオが拾う。渡井が仕掛けたりパトッキオが配球する仕組みだ。ただ渡井はパトッキオとプレーエリアがかぶり少し窮屈そうだ。どちらかというとパトッキオがパスを散らすパターンが主となっている。またセカンドボールを周囲が上手くフォローできずひたすら垣田が頑張る切ない場面も多々見られた。

 アタッキングエリアに入った時は以前のような間で受けた選手が仕掛けてワイドから斜めにゴールに向かう選手にスルーパス、のような明確な形は見られない。そして単純なクロスもほぼない。強いて言うならアタッキングエリアでもスペースを作ってパスワークで崩すことを狙う傾向だろうか。パスワークからDFラインの裏のスペースを突いてマイナスの速いクロスの形は何度か狙っているようだった。

 

 次に守備の動きについて。プレスを強くかけてくるが最前線から嚙み合わせてくるマンツー気味のプレスではない。2トップは高い位置からサイドを限定。中盤とDFラインはコンパクトな4-4を形成するゾーンの要素が強い守備だ。中盤のラインまで誘導したらボールサイドに閉じ込めるように強いスライドを行ないプレスをかけていた。

 奥井のタイミングのいい上りや原のクロスなどサイド攻撃の形が見え始めた清水だがこのコンパクトな4-4でスライドしてくるプレスにはまったらかなり苦労するだろう。

 清水としては長いボールを基調に攻めるのか、DFラインで動かしてスライドを逆手にとってスペースを作るのかロティーナ監督のプランが注目されるところだ。

清水エスパルスはどんなプランで挑むのか

 ここからは余興程度に予想を交えてみる。

 まず清水のシステムは4-4-2、スタメンは大分戦同様と予想する。徳島は長いボールも使うものの基本はボールを保持したいはずだ。しかし今はまだどんなプレスも外すほどビルドアップが整備されてはいない。また守備局面では引いて守ることは好んでいなく保持して押し込んでDFラインを高く保とうとするはずだ。となれば4-4-2でプレスをかけ保持を阻害した方が相手のやりたい展開を消すことができそうだ。

 相手が垣田へのフィードからセカンド狙いを多用するので、こちらのCBとボランチは固くいつものメンバー。

 ロングボールで押し込む手段を考えて片山は右SH起用が良さそうだ。片山が引き付けて原がサイドを上がってクロスの得意パターンも有効そうだ。

 ただし徳島の左SBジエゴは馬力と高さはあるが地上戦は苦手のよう。相性的には中山のようなタイプに苦労しそうだ。それを見越して相手は田向を起用する可能性もある。ここは両監督がどんな選手起用をするか、駆け引きも見どころの一つだろう。

 徳島のスタメンは私の知識では予想する意味がないので最近の試合で主に起用されている選手の紹介にとどめる。黄色で表したのはこれまでほぼスタメン起用されている選手だ。

 2列目の選手はパトッキオをトップ下に右小西、左宮代も十分考えられる組み合わせだろう。

 ということで以下予想スタメン図。

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 最後に。自分達のプレースタイルを前面に押し出してくるリカルドロドリゲス前監督に比べてポヤトス監督はより90分の駆け引きと相手への対応を重視している節が感じられる。我らがロティーナ監督に近いタイプとも言える。スタメンと前半の優勢、劣勢だけでなく90分どんなやり取りが行われるかを観察するのもこの試合の楽しみの一つではないだろうか。

 

2021年J1リーグ明治安田生命第20節 横浜FCvs清水エスパルス 前半のマッチレポート

・両チームのメンバー

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 試合開始しばらくは清水がボールを保持する。

 横浜FCの守備は523。横浜FCは前3枚で清水の3バックを見る。こちらのCHにはボールサイドのCHが1枚前に出て塞ぐ。そしてサイドへはWBが積極的に前に出てプレスにくる。これが基本の動き。

 対する清水が保持した時のポジショニングはおおむね下図のようになっている。

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  右HV原がサイドに開く。竹内、宮本は横浜FCの3トップを結ぶライン上。シャドーのディサロは相手CH脇のスペースに降り、WB中山はサイドの高い位置。

 竹内、宮本のポジショニングで横浜FCの前3枚がけん制されて、サイドの原がスペースを得ている。

 ディサロ、中山はときおり三角形の頂点を入れ替えるようにポジションを移動。このポジショニングから原を起点にサイドを前進していく。そしてそこから3バック脇のスペースへの侵入がよく見られた。

 清水はダイレクトな前進でも3バック脇にボールを入れており、そこを狙いどころとしていたようだ。

 序盤が過ぎると(開始10分過ぎくらい)横浜FCはサイドの原にジャーメインがスライドして対応。サイドを埋められると清水のビルドアップは詰まり気味になっていった。

 ビルドアップが詰まると竹内が降りて受けるようになるが、竹内がライン上から降りると横浜FCの3トップへのけん制が弱まりスライドがしやすくなる(ただ降りる動きに関してはある程度許容されているように感じる)。それもあったか横浜FCのプレスがはまり出し、前半中盤以降は竹内や立田がフィードを出すもボールを回収される場面が目立っていった。

 一方、左サイドを見るとダイレクトな前進を試みることが多い。片山をターゲットに当てたボールを起点にしたり、3バック脇に流れるサンタナに出したり、間に顔を出す鈴木唯人に縦パスだったり。ただ左からのビルドアップの回数は多くなく、前が詰まったらあまり無理をせず戻す傾向が見られた。

 

 次に横浜FCのビルドアップを見る。

 清水の守備も5-2-3。清水の3トップはあまり前からプレスにいかない。3枚でまず中央へのパスを塞ぐ動きを見せている。そこから横浜FCがボールを動かそうとしたらサイドに誘導するようにプレス。サイドに出たらWBとCHで縦、斜めを消して奪うのが狙いのようだ。

 清水のWBの挙動を見ると、例えばサイドで2対1になりそうな時は早めに前の選手を離して後ろのスペースを消すように下がっている。このことからサイドの深い位置をえぐられてクロスへの警戒がうかがわれる(WBに侵入させない)。

 前半15分ほど進むと横浜FCは清水の守備の動きを利用した前進を見せ始める。

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 清水の3トップがまず中央を埋めるので横浜FCの3バックは幅を取ってその脇から前進を図っている。その際、GKが加わったりCHが1枚降りて清水の3トップをけん制する。

 清水はまずCHへのコースを消したいのでCHに降りられると、そこにいくのかそれともCBのいくのかがあいまいになっていた。

 またWBを高い位置に上げると清水はそれを警戒しているのでこちらのWBがピン止めされる。横浜FCは、清水のWBを押し下げると左右のCBが持ち上がったり、シャドウが降りてその手前のスペースを利用してクロスや中央への侵入を狙っていた。

 清水としては第一に深くえぐられてクロスを防げば、ややアーリー気味に浅い角度から上げられる分にはOKだと判断したのかもしれない。相手の前線とこちらのDFを比較すれば前向きに対応している限り高さに関しては有利と考えられるだからだ。

 しかし明らかに狙いを持ってフリーを作られたら対応するべきだ。失点場面はスローインからだが逆サイドに振られた際に後ろを埋める意識が強く3人の選手をほぼフリーにさせている(そもそもスローインなんだから始めに人を掴んどけという話だが)。

 清水は後半に入ると4-4-2にシステム変更。これでサイドの数的不利がなくなりCH脇のスペースも埋めやすくなった。横浜FCのビルドアップを阻害できペースを握り返した。 

 

 結果的にシステム変更が功を奏した。では前半は戦術ミスがあったのか、始めから4-4-2でいけば良かったかといえばそうは言い切れない。やり取りの末、相手が中盤脇のスペース狙う流れがあったからこそ4-4-2にして有利に持ち込めたのだと思う。

大切なのは90分常に相手とやりとりをして有利な状況に持ち込むことだ。その点少なくとも前半見る限りでは横浜FCの方がこちらの守備の原則を見ながら上手くやっていたように見える。

 個人的に注目したいのは用意したチーム戦術を正確に実行することでなく、それをベースに90分間常に相手とやりする姿だ。

 

【試合結果】

横浜FC 1-1 清水エスパルス

【得点】

45' 渡邊千真(横浜FC) 

81' ヴァウド(清水) 

2021年J1リーグ明治安田生命第17節 横浜Fマリノスvs清水エスパルス レビュー”両者の意思のぶつかり合いという面から試合の流れを考察する”

 

 マリノス戦における両チームのやりとりを振り返りたいと思います。細かい動きではなく大枠の狙いだけを書いていきます。

 僕がこの試合で注目したのは、

・守備における前向きの意識

・攻守の切り替えをどのエリアで行うか。

 この2つ。以下それをもう少し掘り下げていきます。まずはスタメンと並びから確認しましょう。

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 マリノスは直近ルヴァンカップで対戦した時と同じ4-2-1-3のシステム。

 一方、清水は3-5-2。守備をするときは両サイドのエウソンと奥井が引いて5-3-2のような形になります。ルヴァンでの4バックから3バック(守備時5バック)への変更はこの試合を観る上での大きなポイントです。

マリノスの特徴を確認しましょう。

 話の前提としてマリノスのやり方を簡単に確認しましょう。 というのもこの試合はルヴァンカップでの敗戦を踏まえて考えた方が良さそうだからです。ルヴァンでどんな形でやられたかを振り返ります。

1)攻撃の時

 攻撃時にはウイングが両サイドいっぱいに張ります。これで相手の守備を広げます。そして広げた守備ブロックの間、間に選手が入って崩してきます。

 例えばルヴァンカップの時のように清水が4バックだった場合、

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上図のような状態を作られます。こうなるとディフェンスラインが開いてしまうので清水の中盤の選手はそこに入っていく相手が気になって低い位置に下がってしまう。そうしてどんどん意識が後ろになり相手に押し込まれてしまった。ルヴァンカップでの大雑把な流れはそんな感じだったと思います

2)攻撃から守備に切り替わった時

 ボールを奪われたら即、切り替えて奪いにきます。

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 彼らは攻撃時に均等に間、間にポジション取りしています。なのでそのままの位置から近くの相手をすぐ掴むことができるのです。

 ・3バックによる前への追撃

 それではこの試合について考えていきましょう。

 さきほど説明したようにマリノス相手に後ろを埋める意識で守ると逆に攻め込まれます。たとえブロックの位置は低目でも中盤の守備ラインは一定の位置をキープしなければなりません。加えて幅取り役とライン間に入ってくる選手にも対応する必要があります。そこで清水が何をしたか。それが3バックでの迎撃です。

 まず相手のウイングにこちらのウイングバック奥井とエウソンを当てて監視。さらにセンターバックを2枚でなく3枚に増やす。そして間に入ってボールを受ける選手へはセンターバックが積極的に前に出て追撃します。センターバックが1枚出ても、まだ2枚後ろにいるので持ち場を捨てても安心して前に出られる寸法です。

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  図で言うと中村慶太は後ろを気にするのではなく前の岩田にプレス。間で受ける小池へは福森が前に出て対応します。

 この対戦、言ってみれば前に出ていくことで清水を潰そうとするマリノスと、防衛ラインをキープして跳ね返す清水の戦いです。清水は後ろから前に押し出すことでマリノスの攻撃に対抗していたと考えられます。

・攻守の切り替えをどのエリアで行うか。

 言い換えるとどこでボールを奪うのか。どこでボールを奪われるかです。

1)どこでボールを奪うのか。

 清水がボールを奪取を狙っていたのは相手ボランチの周辺だと思われます。

 清水の守備を見ているとサンタナカルリーニョスはピッチ中央やや低め。マリノスが2トップ横に運んできたら左右の中盤(片山、中村)が前にスライド。これらから相手を少し引き込みながらも中央は塞ぎたい意図が読み取れます。

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 図に沿って清水の意図を説明します。マリノスはボールをじっくり保持するとサイドバックも上がって間、間に侵入してきます。そしてマリノスが間の選手にボールを差し込んだところを後ろから追撃。

 ここでボールを奪われるとマリノスは彼らの特徴から近くのボランチが1枚はボールにアタックしてきます。

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 ボランチが前にきたら、その裏の2トップやボランチの逆側で浮いている中盤(図では中村慶太)にパス。こうしてボランチを外したらマリノスセンターバックを背走させた状態で2トップ+中盤(主に片山)が相手ゴール前に迫ります。 

 マリノスの選手をこちらの守備ブロック内に侵入させる。奪ったら中盤のフィルターを外して相手のセンターバックを背走させ前の馬力でゴールを狙う。清水のボールの奪うエリアからはそんな狙いが読み取れます。

2)どこでボールを奪われるのか。

 清水がボールを奪われ場所として設定していたのは相手陣内のサイド際です。何故そう言えるのかを見ていきます。こちらは簡単です。

 清水はボールを持つと相手陣内の右サイドに片山を上げて執拗にロングボールを配球しています。マリノスの左サイドバックティーラトンとのミスマッチを狙った攻撃です。またティーラトンと片山を競らせる際にはエウシーニョを同じ高さに上げています。片山が競り勝ったボールやこぼれ球を片山、エウシーニョが拾いティーラトンの裏を使ってゴールに迫るのは明確に見せていた狙いでした。清水の得点はまさにその形から生まれています。

 この攻撃の意図は1つは得点を狙うため。もう1つは同時に相手の攻撃のスタートをこちらのゴールから遠ざけることです。

 マリノスは自陣で攻撃をスタートすることになるのでまたじっくり保持して清水の陣内に選手を送り込んで押し込みにきます。そうなれば清水もまたじっくり構える。間にボールを差し込まれたら後ろから追撃。そして中央を割ってカウンターに繋げる。ボールを奪われるエリアの設定にはそんな狙いが読み取れます。

 この攻守の循環が清水側から見た大枠の狙いだと思われます。そしてこの清水の狙いは試合の多くの時間、上手く遂行できていたのではないでしょうか。

・選手の交代と失点について〜まとめにかえて

 ロティーナ監督のコメントから清水の選手交代はフィジカル的に厳しい選手から行われたようです。これは仕方のないことです。

 その中でも一番試合に影響したのは2トップの交代でしょう。なぜカルリーニョスサンタナに代えて鈴木唯人と中山だったのか。

 これは清水の狙いが奪ったら相手を背走させるようにゴールに迫ること。そう考えれば納得できる交代です。監督はこの2人がそれを一番期待できると考えたのでしょう。

 試合は終盤。そして1-1の同点。お互い切るべきカードを切りました。こうなればもうどちらが1点奪うかの勝負です。そして決めたのは横浜Fマリノス。試合はそのまま1-2で終了しました。

 最後の失点は局面を切り取り細かいことを言えば問題はあるでしょう。しかしそれは試合の大枠とはまた別のところです。例えばもしかしたら宮本は畠中のところまで出ない方が良かったかもしれません。でも2トップの脇に運ばれたら中盤がスライドして中央付近は塞ぐ、相手を引き込んだら前向きに奪うチームの狙いを遂行した結果です。

 またマリノスの得点は清水が塞ぎたかった中央を縦パスで割り、天野、仲川と間で繋いでワイドへの展開からクロス。マリノスも最後まで狙いをやり通しました。

 敗戦という結果は悔しいものでした。しかしその中身を掘り下げれば両者の意思がぶつかり合う濃密で熱い試合だったと思います。