マッチレポート【2021年明治安田生命J1リーグ第38節 清水エスパルスvsセレッソ大阪】

試合結果

【得点】

清水 2-1 C大阪

【得点者】

35' オウンゴールC大阪

45+2' 鈴木義宜(清水)

51’ 西澤健太(清水)

両チームのメンバーとフォーメーション

f:id:hirota-i:20220118104404p:plain

(清水)フォーメーション:1-4-4-2

選手交代:71’山原(後藤)、80’中山(西澤)、80’ディサロ(鈴木唯)、87’立田(チアゴサンタナ)87’宮本(松岡)


C大阪)フォーメーション:1-4-4-2

選手交代:71’中島(藤田)、71’豊川(加藤)、87’松田力(大久保)

試合の概要

 2021年シーズンもついに最終戦。未だ残留の決まらぬ清水だが、引き分け以上で自力残留、敗戦でも得失点差次第で残留可能とライバルチームの中ではかなり有利な状況だ。とはいえ敗戦の場合、その得失点差は安全圏とは言えない。ゲームプランとしてはまずはいかに失点しないかが重要になるだろう。

 清水は前節浦和戦と同様、高い位置でのプレスは抑えミドルゾーンで構える守備から入っていった。ボールの保持はC大阪に譲ったが、中盤でボールを奪えば積極的に前へ飛び出しショートカウンターからゴールに迫っていく。

 試合開始から狙いを遂行できていた清水だが、先制したのはC大阪コーナーキックから大久保が撃ったシュートが清水の選手に当たりオウンゴールになってしまう。引き分け以上は死守したい清水にとって痛い失点となった。

 しかし、それでもペースを乱すことなくプレーを続ける清水。先制後にC大阪がやや引いたこともありボール保持からもチャンスを作っていった。そして前半アディショナルタイム、西澤のフリーキックを鈴木義宜が決めて同点に追いつく。

 さらに後半に入り6分。西澤がカットインから左足でコントロールショットを撃つと、これが決まり逆転に成功。

 その後はC大阪も攻勢を強め、一進一退の攻防が続いたが清水も粘り強く戦い2-1のまま試合は終了。

 これで清水の残留が決定。苦しいシーズンだったが最後は3連勝。来シーズンJ1で戦う権利を自らの手で掴み取った。

 清水の非保持時の振る舞い(C大阪の保持)

 C大阪の保持局面は、後ろでは巧みにボールを運べているが、中盤から前線にかけては少し苦労していた印象だ。試合を通して保持率は高かったが、決定機はそれほど多くない。

 保持時の配置はかなり意識されているようで、配置とそれぞれの役割はおおむね下の図のようになっていたと思う。

f:id:hirota-i:20220125191838p:plain

 ここから例えば清武が自陣まで下がると奧埜がライン間に上がったり、松田が後ろに下がれば坂元が幅を取って奥埜が前に上がったりと人は動いても全体のバランスはほぼ崩さないのが特徴だ。

 後方の保持では無理にボールを前に出すことはなく、相手のプレスの動きを見ながらポジションを取ってボールを動かしている。前が詰まれば後ろに戻して何度もやり直し、まずは相手の2トップを越える。そしてそこにフリーの選手を作ってボールを入れていた。

 そこから左のハーフスペースに降りてくる清武が受け、サイドに展開してクロスという攻撃パターンが多い。

 対する清水の守備組織は1-4-4-2。最前線からのプレスは抑えているが完全にリトリートはせずミドルゾーンにコンパクトなブロックを構えている。まずは内側のスペースを埋めて2列目にボールが入ったら強く奪いにいく動きだった。

 特にCHの松岡、竹内の2人で連動してアタックする意識が強くここでボールを遮断できている。

 C大阪に崩される場面は少なかったが、序盤に少し気になったのが右SH西澤とCH松岡の間。松岡と竹内が強く連動する反面、SHとの結びつきが弱い場面が見られる。

 そのため前半途中までは下図のように右のハーフスペースから斜めに左のハーフスペースに動かされることで清武がフリーになる場面が散見していた。

f:id:hirota-i:20220118104304p:plain

 清水が明確に内側を消していたので、そこからの展開をサイドに限定できていたが、やはり清武をフリーにするとボールを前に運ばれる。

 時間が進むと共に松岡が清武を見るようにしっかりスライドするようになっていた。

 C大阪の後ろから前線へボールを届ける役を担っているのは、おそらく中盤に降りてくる清武や大久保。そのため中盤のスペースを消されると彼らがより低い位置に下がりボールを受けるようになっている。

 しかしC大阪は元々後ろでの保持には問題がないので、清武や大久保がブロックの外でボールを持つだけではビルドアップに大きな変化が起きない。33分に降りた清武を飛ばして奧埜に入れたプレーが見られたが、このように強く寄せてくる清水の中盤の特徴を利用する仕組みを作れれば良かったかもしれない(ここから奧埜、清武、加藤と繋がりCKのきっかけとなったシュートを撃たれている)。

 前半を通して清水は後ろでは持たれるものの、ミドルゾーン以降の前進は食い止めることができていた。そしてボールの回収からカウンターに移行し相手ゴール前に迫る場面を作っていた。

清水のポジティブトランジション局面の振る舞い(C大阪のネガトラ対応)

 清水のチャンスの多くは中盤で奪ってカウンターから生まれていた。

 C大阪はボールを奪われた後、即時奪回よりゴール前を固めることを優先しているようだった。ボールを奪われるとC大阪のDFラインはまずゴール前を固めるように撤退している。

 対する清水のカウンターの形は以下のように行われることが多い。

 まず前線のサンタナに当てたり、唯人のドリブルなどで中央高い位置にボールを運び、相手のDFラインをリトリート&中央収縮させる。それによりサイドにスペースができるのでそこにSHやSBが飛び出してボールを展開する。

 C大阪はサイドのスペースへはSBがスライドして対応するが、残りのDF陣とCHの1枚は中央にステイする。

 この動きより清水はサイドからのクロスまではもっていけている。しかしゴール前は相手に固められている状態。ただしDFラインが中央に絞り気味なのでファーにクロスを上げて逆サイドのSHが外から中に飛び込み合わせればシュートに繋がる可能性が高い

 おそらく清水は事前にこれを狙っていたと思われる。似たような展開からクロスをファーに上げ逆サイドのSHがシュートを狙うことが多かった。

清水の保持局面の振る舞い

まず狙うはダイレクトにサイドの奥

 C大阪も清水と同様に積極的なプレスはかけず1-4-4-2の守備組織で構えて守っていた。そのため清水もある程度は後ろでボールを持てる。しかし清水はあまりボールの保持にはこだわっていないようだった。

f:id:hirota-i:20220124101802p:plain

 上に後ろでボールを持った時のざっくりとした動きを表した。まずCBとCH1枚が後方でボールを左右に動かす。そして相手がスライドでずれると同時にダイレクトにサイド奥のスペースを狙うのがよく見られる攻撃だった。

 内側にポジションを取る選手はいるが間を使うことにもこだわっていないよう。CBが持つとSHはまずハーフスペースから裏を狙って飛び出す動きを見せる。

 これが通ればチャンスになるし、回収されてもサイドの奥なので直接カウンターを受けることはない。やや確実性の低い攻撃ではあるが、回収されてもセットして守備をやり直せばいいと割り切っているようにも感じた。

狙い目となるスペース

 C大阪が先制した後、ややラインを下げたこともあり、清水もボールを持つ時間を作り始めていた(31-45分の清水の保持率は50.6%)。

 CHも中央でボールを持てていたが、持っている場所はやはり守備ブロックの外側。そのCHを経由してサイドを変えて大外のレーンに運ぶルートをよく見せていた。

 C大阪はサイドからの攻撃に対しては、カウンターからクロスを上げられた時と同じ対応だ。必ずCBとCH1枚はゴール前に確保した上でサイドの選手がスライドしていく。そうなると中央と大外の間にギャップが広がるがそこはもう1枚のCHがカバーする。

f:id:hirota-i:20220124104719p:plain

 ただしカバーに入るCHが1枚なのでやはりハーフスペースに広がるギャップは狙い目だったと思う。

 例えば前半45分、内側レーンでボールを持った原がギャップから裏に抜けた唯人にパスを出した場面。原が内側レーンで持つことでカバー役のCHが引きつけられるので裏へ抜ける唯人がフリーになりCBがスライドして対応せざるを得なくなる。

 試合全般で唯人はボールを受けるためハーフスペースの低い位置に降りてくることが多かったが、C大阪が構えてスペースを消していたので間で受けても効果的なプレーはできていない。C大阪の守備構造から考えれば、低い位置でなく前目にポジション取りをしてCB-SB間への攻撃に関与した方が良かったのではないかと思える。

後半について

逆転ゴールの場面

 後半の入り、C大阪は割と早めに長いボールを入れてきた。守備でもややボールを追いかけがちで、この時間帯は少しだけオープンな展開になっていたと思う。オープンになればスペースが生まれる。そのスペースを唯人に使わせるのは清水が望む状況だ。

 逆転の場面だが、まず左から右への大きな展開でC大阪の守備組織が広がった。そのため右サイドの西澤からのパスを唯人が中間ポジションで受けた時に周囲にフリースペースが生じている。

 唯人はサンタナとパス交換して仕掛け、裏に抜けたサンタナにスルーパス。これが通ってサンタナが速いクロスを入れた。この場面、唯人は前目で受けてCB-SB間のギャップに仕掛けた。やはりこの位置でプレーに関与した方がチャンスになりやすいと思った。

 サンタナのクロスを相手DFが弾き、そのボールを右のぺナ角あたりで西澤が拾う。下がその時の両者の並びだ。

f:id:hirota-i:20220124201714p:plain

 西澤がボールを拾った後のC大阪の守備対応を見ると、やはりサイドの清武と丸橋は西澤の方に寄っているが、CH2枚プラス他のDF陣はゴール前を固め、スライドしてこない。そのため清武を外すと内側にスペースができている。

 西澤の駆け引きとシュート自体はスーパーだったが、C大阪の守備組織の特徴によって西澤が清武との1対1を制すればシュートに持っていける状態であったと思う。

試合終了まで

 清水がリードするとゲームプランは明確になった。失点のリスクを抑えるため清水のプレスラインはやや下がり、C大阪がまたボールを保持する流れになっていった。

 71分にC大阪は藤田に代わり中島が入る。清水の中盤はボールに強くいける反面、複数人でボールにスライドし過ぎる、さらに若干矢印の逆を取られやすい傾向がある。

 清武が2列目ラインの手前でさばき相手を引きつけると、それによって空いたライン間にパス交換しながら中島が侵入している。この役割が整理されC大阪が清水のライン間でボールを動かせるようになっていた。

 さらに坂元がサイドで受けて仕掛ける場面も増えていく。 70分以降はC大阪が攻勢を強めている。

 清水の選手交代は71分に後藤から山原。さらに80分に西澤→中山、鈴木唯人→ディサロ。清水の守備はいかにプレスバックやスライドを献身的にこなせるかが重要そうだ。それゆえ特に運動量の多いSHと唯人を順番に交代するのは納得だ。

  残り時間はわずか。後はとにかく守りきるのがミッションだ。87分にはサンタナを下げて立田を投入。前にかかるC大阪の攻撃を受けてFWを削って3バックで対抗。さらに松岡→宮本で中央を固める。

 最後までC大阪の追加点を許さず2-1で清水が勝利した。

 

マッチレポート【2021年明治安田生命J1リーグ第37節 浦和レッズvs清水エスパルス】

試合結果

【得点】

浦和 0-1 清水

【得点者】

90+3’ 中村(清水)

両チームのメンバーとフォーメーション

f:id:hirota-i:20211216191155p:plain

(浦和)

フォーメーション:1-4-2-3-1(1-4-3-3?)

選手交代:46’小泉(田中)、71’汰木(大久保)、78’西(山中)、86’興梠(平野)

(清水)

フォーメーション:1-4-4-2

選手交代:18’ヴァウド(井林)、46’中山(後藤)、78’中村(西澤)、90+3’ディサロ(サンタナ)、90+3’山原(鈴木唯)

 

試合の概要

 第36節終了時点で16位の清水。降格ラインの17位徳島との勝点差は3。最低でも引き分け、敗戦は絶対に避けたい状況である。

 この試合で平岡監督就任から3試合目となる。前の2試合はかなり積極的なプレスをかけていく守備を見せていた清水。しかしこの浦和戦ではプレスを抑え構えて守る時間が多かった。

 前後半通して浦和がボールを保持し、清水が粘り強い守備からカウンターを狙う構図が続く。浦和はポジションチェンジを交えて清水の守備を揺さぶるが、清水も落ち着いた対応で決定的な場面は作らせない。

 後半に入ってもじりじりした展開が試合終盤まで続く。しかしお互い勝点1を分け合うかと思われた試合終了直前、途中出場で入った2人が試合を動かす。山原が仕掛けて出したパスを中村慶太が受け右足を一閃。埼スタの時間が一瞬止まり、ボールは美しい軌道を描きゴールに吸い込まれていった。試合終了ぎりぎりで勝ち越した清水。そのままわずかな残り時間も守りきり1-0で勝利。

 徳島も勝利したため残留決定はおあずけとなったが、最終戦に向けての有利な条件を自らの手で引き寄せた。

清水の非保持(浦和の保持)

基本的な両者の振る舞い

 序盤の浦和はCH平野がCB間に降りて後ろ3枚でビルドアップスタートしていた。また江坂と関根も中盤に下がってボールを受ける。システム表記すると下図のような3‐5‐2の配置になっていた。

f:id:hirota-i:20211216192910p:plain

 浦和はレーンに均等に人を配置し、相手の守備を揺さぶりながらスペースを作りボールを前進させていく。

 対する清水の守備組織は4-4-2。前線からのプレスは抑え、2トップはCBからの縦パスを塞ぐように中央レーンを埋めて左右に大きく動かない。

 SHは少し内側に絞った立ち位置を取りつつ相手のSBを気にしている。ただしバックパスに対しては全体で押し上げるようにプレスに出て行く。清水の守備は、できれば前に出てプレスしたいがまずはスペースを空けないことを優先しているようだ。

2トップ脇を起点に攻める浦和

 清水の2トップに対して浦和は3バックでのビルドアップ。そして清水のSHは浦和のSBを気にしてプレスに出てこない。なので浦和の左右のCBは比較的ボールを持てている。

 また浦和のSBが高い位置を取ると清水のSHが下がり気味になる。そのため清水の2トップ脇ではフリーの選手ができやすい状態になっていた。

 清水の守備の基準では2トップ脇はCHの松岡、竹内が前に出ていく役割のようだ。開始しばらくは浦和の前進を抑えていたが、後ろで左右にボールを動かされるとスライドを強いられCHが前に出て行けない。そのため徐々に2トップの脇で伊藤がフリーになる場面を作られ始める。

 また左のCBショルツはボールの持ち運びが非常に上手い。運ぶことで西澤を動かし、逆を獲るようにハーフスペースや大外にボールを振っている。

f:id:hirota-i:20211220192248p:plain

 清水の守備は内側を締める意識やボールへ寄せる意識が強い。そのため2トップ脇にボールが入ると、大外のSBがフリーになりやすくなる。そしてフリーのSBが2列目ラインを越えるとハーフレーンに絞ったWGはチャンネルを抜けて裏を狙う。これでDFライン下げて開いたライン間に横パスを入れてゴールに迫っていく。

 しかし清水もプレスバックが早く浦和は決定的な場面を作るまでは崩しきれない。浦和は江坂や関根が中盤に下がってビルドアップするので、フィニッシュの局面でゴール前がやや薄く少し迫力不足になっていたようにも感じる。

 このような流れが続く前半途中までだった。しかし飲水タイムを契機にお互いの振る舞いが変化し、試合の流れもまた変化する。

飲水タイム後の変化

 前半飲水タイム後、浦和は平野を後ろに降ろさず2CB+右SB酒井でビルドアップスタートするようになった。清水が前からこないので平野を1列前に上げて配球させたかったのかもしれない。

 一方、清水は飲水タイム後、明らかに積極的なプレスをかけ始めた。これはプレスに行こうと決めていたのか、相手の配置の変化を見てか。どちらかはわからない。いずれにせよ酒井に対して左SHの後藤を前に出せば、そのまま相手の保持の形に噛み合うため清水はプレスをかけやすくなっていた。後藤が酒井にいくのをスイッチに全体が連動してプレスする。飲水タイムが明けてしばらくは清水が浦和の前進を阻害してショートカウンターの形を何度も見せるようになる。

保持する浦和とそれを阻害する清水の駆け引き

 飲水タイム後しばらく高いエリアからプレスをかけることで清水がペースを握り返した。対する浦和は長いボールでプレスを回避しつつ、また配置を変化させる。

f:id:hirota-i:20211222102137p:plain

 清水が前からきたので再び平野を降ろして後ろ3枚に。そしてSBを内側に絞らせてWGを大外に張らせるようになった。

 平野がDFラインに下がり後ろでのボール保持に余裕が出た。またSBのポジションが変化し清水の守備基準がずれる。そのためか浦和がプレスをかわしてボールを持てるようになってきた。

 プレスがかからないのでスペースを消すため清水は再びセットして守るようになっていく。

 浦和はWGの突破とサイドチェンジを多用して清水の守備のコンパクトさを崩そうとしているようだった。左右にスライドさせることでレーンが広がりスペースを使える場面が何度か見られる。

 このように浦和は清水の守備を見ながら揺さぶるように変化を見せる。清水もそれに合わせてプレスをかけたりスペースを消したりしている。この駆け引きは後半も続いていく。試合を通して浦和がボールを保持する時間が多かったが、清水も粘り強く対応できていたと思う。

清水の保持について

SBをフリーにする仕組みとその後の攻撃

 清水が保持した時は使えそうなスペースを速めに狙うのが基本的な志向のようだ。

 浦和の守備組織は1-4-4-2。ファーストディフェンスはCBに積極的にプレスするよりCHを消す意識が強いように感じる。1列目でサイドを限定して2列目ラインをうかがわれた時に強く寄せて奪おうとする守備のようだ。

  その浦和の守備に対して清水はSBをフリーにして起点にする仕組みを作っている。清水はCBがやや広がり後ろではボール保持の意思を見せる。そしてCH松岡は相手2トップの間、竹内は関根と田中の間、つまり相手2トップの右脇にポジションを取っていた。

 清水のCHが相手2人を意識させるポジションを取った状態でCBが持ち運ぶと浦和の右サイドがずれて片山がフリーになる。

f:id:hirota-i:20211226100632p:plain

 またここから右にサイドチェンジすると右SBの原がフリーでボールを持てる。

 SBが持つとSHが相手のSB裏に走り、そこにダイレクトにボールを入れる、もしくは中のコースが空けば前に張るサンタナへの斜めのパス。清水はSBを起点にするこの形までは作れていた。

 問題はその先だ。こちらが速めにスペースを狙えば相手も速めにスペースを閉じる。それを崩すにはこちらがより速くプレーする、もしくはボール周辺に人が寄せて数的優位での選択を増やすかだ。

 速くプレーするのは限界があるので、ボール周辺に人を集めたい。しかし人を動かしすぎると攻守のバランスが崩れる。失点は絶対避けたい清水は守備でリスクを犯したくないはずだ。そこで鈴木唯人をピッチ各所に動かしてボール循環の中継地点にさせる。他の選手はバランスを崩さない。 やや強引な攻めにも見えた清水だが平岡監督の意図はこのようなところだと推測する。

チャンスはポジティブトランジションから

 上に書いたように唯人が広範囲に動いてボールを受けていた。しかし全体としてスペースメイクの仕組みが少ないため保持からボールをアタッキングエリアまで運べることは少なかった。

 とは言え清水がボールを運べている場面もある。清水がチャンスを作るのはほとんどがポジトラからだ。ポジトラが起きた瞬間は相手の守備組織にスペースが生まれている。そのスペースを唯人が運んでいくことでゴール前までボールを運ぶことができていた。

  ボールを奪った瞬間に唯人を見るのは意識つけられているよう。そして唯人もボールを受けたら躊躇なくゴールに向かい運んでいく。

 出来ることが限られている中で割り切って他の局面をやり過ごし、ポジトラ時に唯人の強みを使って勝負することが一番利益と損失のバランスがよいと判断したのだと思う。

後半と得点場面について

選手交代について

 後半の頭から両チーム選手交代を行う。清水は後藤→中山。右SH西澤が左に回り、中山が右SHに入った。清水の前半の主な前進ルートはSBから裏狙いのSHへ出すボール。しかし浦和が裏にスペースを空けず後藤の飛び出しが生きなかったので打開力のある中山に代えたのではないか。 中山がボールを持って、SBの原が内外とスペースに飛び出すことで少し右サイドが活性化した。

 浦和は田中に代えて小泉。小泉がトップ下(右シャドーと言った方がいいか)に入り、関根が右WGに回る。 浦和は小泉がトップ下に入り役割が整理されたように感じる。江坂が0トップ気味に動くのは変わらないが小泉が真ん中で受けて前にボールを出せるので、江坂が前線にいる場面が増えている。 また伊藤敦樹がアタッキングエリアまで上がるようになり清水はこれを捕まえづらそうだった。 後半も浦和が保持し、清水が粘り強く守る構図が続いていく。

清水の勝ち越し場面について

 清水は78分に西澤に代わり中村慶太。そしてアディショナルタイムサンタナ、鈴木唯人に変わりディサロと山原が入った。

 権田のゴールキックから攻撃が始まる。その時の各選手の位置関係は下の図の通り。

f:id:hirota-i:20211227141957p:plain

 浦和の中盤には小泉1人。もう1枚のCH伊藤はDFラインのカバーに入っている。残り時間わずかであったため、清水が直接ゴール前に入れてくると考えDFラインの守備を厚くしたのかもしれない(これ以前のゴールキックでは普通に中盤2枚になっていた)。

 さらに前4枚が少し前寄り。結果的に縦に間延びして中盤にスペースが広がっている。 そのスペースにディサロが降りて受けるとほぼフリー。ディサロが中山に渡して前に走ると伊藤はそのままついていきDFラインを埋める。これでDFラインの前がまたフリースペースになり中山、中村慶太、山原とボールが繋がった。

 山原が左サイドで仕掛けそれに小泉が対応。これで中村のマークが外れて中村がシュートを決めた。

 このゴールに絡んだのは全員交代で入った選手。失点は絶対に回避しつつワンチャンスを狙った平岡采配が見事に決まった試合だった。

 

 

2020年東京オリンピック 男子サッカー決勝 スペインvsブラジル レビュー ”どの局面で強みを発揮するのか”

試合結果

【得点】

ブラジル 2-1 スペイン

【得点者】

45+2’ クーニャ(ブラジル)

61’ オヤサバル(スペイン)

108’ マルコム(ブラジル)

両チームのメンバーとフォーメーション

f:id:hirota-i:20211101174945p:plain

(ブラジル)

フォーメーション:1-4-4-2

交代選手:112’ メニーノ(アントニー)、106’ ヘイニエル(クラウジーニョ)、91’ マルコム(クーニャ)、114’ パウリーニョ(リシャルリソン)

(スペイン)

フォーメーション:1-4-3-3

交代選手:46’ソレール(メリノ)、46’ブライアン・ヒル(アセンシオ)、91’バジェホ(オスカル・ヒル)、91’ミランダ(ククレジャ)、112’モンカヨラ(スビメンディ)、104’ラファ・ミル(オヤルサバル)

試合の概要

 東京五輪男子サッカー決勝はブラジルとスペイン。甲乙つけ難い実力者同士の対戦となりました。

 開始後しばらくは一進一退の攻防でしたが、徐々にブラジルが中盤の切り替えで優位に立ちペースを握りはじめました。36分にはPK(これは枠を外して得点ならず)を得るなどブラジルが攻勢を強めます。そして前半のアディショナルタイムにクーニャのゴールでブラジルが先制。ブラジル1点リードで前半が終了しました。

 後半に入るとスペインは最前線からプレスの圧を強めます。相手に蹴らせてロングボールを回収。そこからスペインは保持の時間を延ばしていきます。

 61分、スペインが右サイドからファーへクロスを入れると走り込んだオヤサバルが左足でダイレクトボレー。これが決まりスペインが1-1の同点に追いつきました。

 ここから両者ともに勝ち越しを狙い前がかりな展開になりますが、90分では決着がつかず延長戦に突入します。

 延長後半までスコアは動かずでしたが、均衡が破れたのは108分。スペインが得たコーナーキックをブラジルが大きくクリア。これをブラジルが拾いカウンターからゴールを決め、ついにブラジルが勝ち越します。

 その後、スペインも反撃しましたがゴールを割ることができずタイムアップ。

 120分にわたる熱い戦いは、ブラジルが2-1でスペインを振り切り、リオ大会に続き2度目の金メダル獲得しました。

 それでは以下、お互いの好守の振る舞いをもう少し掘り下げます。

保持をしたいスペインとその特徴を消すブラジルの守備対応

 お互いの望む展開を想像すれば保持からスペースを作り前進したいスペインと、局面にこだわらず前線の打開力を生かしたいブラジルといったところでしょうか。

 ブラジルはどの局面になっても高レベルで対応可能なチーム。そこでまずはスペインのやりたいこと、つまり保持を阻害することから始まります。

 スペイン4-3-3での保持に対してブラジルの守備組織は4-4-2。

 中央の守備は、スぺインの中盤経由の前進を防ぐためアンカーとインサイドハーフへ入るボールを強く消しています。

 スペインのセンターバックが持ち運べばフォワードが寄せてサイドを限定。そしてアンカーをもう1枚のフォワードとボランチでマークを受け渡しながら消しています。

 ブラジルのサイドハーフはやや内側に絞ったポジション取り。ボランチと挟んでライン間へのパスコースを切っています。

 サイドの守備は、スペインのサイドバックにボールが出たらサイドハーフがスライド。サイドバックが上がればそのままついていきマンマーク気味の対応。特に右サイドハーフアントニーはディフェンスラインの高さまで下がっていたためブラジルの非保持は多くの時間で5-3-2の形になっていました。

 スペインからすればサイドはマンマークで消され、中はコースを切られています。さらに5バック気味のブラジルの守備はディフェンスラインにギャップができづらい。そのためスペインがライン間で受けてもディフェンスラインから躊躇なく前に出て追撃することができます。

 序盤はゴールに迫る場面も作っていたスペインですが、ブラジルが前から限定を強めていくと前進に苦労し始めます。

 スペースが無いためスペインはインサイドハーフのぺドリ、メリノが降りてきてブラジルの中盤を引きつけ動かそうとします。しかし逆にブラジルのサイドハーフボランチで挟み込む対応で強く寄せられ、そこでカットされる場面が増えていきます。

 このインサイドハーフへ入れるボールに対するブラジルの寄せはかなり激しく、ここで奪取しての素早いカウンターがブラジルの大きな狙いとなっていたようでした。

 前半の半ば以降はブラジルのボランチを中心とした守備の強度がスペインの保持を上回りブラジルがペースを握る要因になっていたように感じました。

相手を惑わす可変システム(ブラジルの保持局面)

 自分達が保持すれば相手の保持時間は減る。ということでブラジルも持てる時は後ろからしっかり保持をします。しかしスペインほどスペースメイクにこだわらず、前線の選手が良い状態で仕掛けることを意図しているように見えました。

 ブラジルの保持時は下のような配置。

f:id:hirota-i:20211105204916p:plain

 左サイドのクラウジーニョは中に入って間で受けて保持に絡み、右のアントニー(左利き)はワイドに張って仕掛け役。

 左サイドバックのアラーナはサイドを上下動。右のダニアウベスはインサイドのレーンを上がっていきます。

 この配置から後ろで動かしてミドルゾーンまで進んだら個の打開力を生かしてダイレクトに前に出ていきます。

 右はサイドバックサイドハーフの関係に10番リシャルジソンが絡みます。サイドでキープしたらサイドの裏やハーフスペースを抜けてマイナスクロス。サイドのレーンを中心にした攻撃です。

 左は内側に入ってくるサイドハーフのクラウジーニョが浮いてポイントになります。

 スペインはペドリを前に出した4-4-2のような守備組織で、ブラジルの右サイドバックが上がると右のアセンシオはそれに連れてやや下がり気味になっています。

 アセンシオが下がるので脇でボールを受けるボランチギマランイス)にはインサイドハーフのメリノが対応。しかし保持するギマランイスのプレス耐性が高いため、前に出てくるメリノのプレスをかわすと裏のスペースでクラウジーニョやリヒャルリソンが浮いています。

f:id:hirota-i:20211219072315p:plain

 スペインはこの右のハーフスペースで浮くクラウジーニョと大外のアラーナ、さらにハーフスペースを裏に抜けるリシャルリソンの動きをどう捕まえるかあいまいでサイドで数的不利を作られることが増えていきます。

 前半の失点も同様な右サイドの関係で数回守備を動かされてブラジルにフリーキックを与えます。ゴール前でのクリアが中途半端になり高く上がったボールをクーニャに拾われシュートを決められました。

後半以降の流れ(トランジションを巡る攻防)

  後半はスペインはより高い位置からプレスをかけています。2度ほどプレスを回避されてピンチを招きましたが、それでもさらに圧を強めた結果、ブラジルのセンターバックに不確実な長いボールを蹴り出させての回収に成功します。

 スペインがボールを持った時に起点になったのは左インサイドハーフのペドリ。スペインは左サイドバックのククレジャを高い位置に上げてブラジル守備を完全に5-3-2状態にすると、ペドリがククレジャがいた左サイドに降りてきてボールを受けています。

 そしてブラジルの中盤3枚を動かすように左から右へとサイドチェンジで揺さぶります。ブラジルのボランチを前に引き寄せ、さらに左右に大きく振るとブラジルの中盤のスライドはあいまいに。

 ブラジルは後ろで持ったら長いボールを蹴らされ、非保持では中盤が動かされたことでトランジションで強みになっていたボランチが上手くボールに関われなくなってきます。また、開いたライン間でボールを受けると割と早いタイミングで追撃傾向の強いブラジルのディフェンスラインの裏を狙っていきます。

 トランジションを避けられないならそれを受け入れて、起こる状態をこちらでコントロールしよう。スペインからはそんな意図もうかがわれます。これで後半のペースはややスペインへと傾きます。

 61分の同点ゴールは、左センターバックのエリックガルシアから。3枚になったブラジル中盤の左脇を抜くようにワイドの高めのブライアンヒルへ展開。そこにブラジルのサイドバックが出てくるとすかさずソレールがその裏に飛び出しファーのオヤサバルにクロス。これもおおむね後半のスペインの狙い通りのゴールです。

 同点後はお互いにより前がかりな早い展開に。オープンな攻撃になったことで最終ラインでの1対1も何度が発生しています。特にブラジルの左サイド、アラーナの突破とそれを抑えるオスカルヒルの1対1は勝負所になっていて、90分の終わりまでオスカルヒルの守備の頑張りがブラジルの速攻を食い止めていたと言えます。

まとめの感想

 延長戦もお互いにチャンスを作る差し合いのような展開になりましたが、最終的には個人での打開力で上回るブラジルが押し切りました。

 ここまでの試合を見てもどちらかというとスローな展開を望むスペインでしたが、ブラジルに対してダイレクトな展開でも負けずにガチンコを挑む姿に彼らの対応力を見せつけられました。

 やはりここまで登り詰めるチームは4局面すべてにおいて高いレベルにあると感じます。

 その中でも、勝負のあやとなったのはトランジション勝負と個人での打開力。実力差はほぼ互角であったと思います。その中で強引にでも自分の得意な局面に持ち込んだブラジルが最後のゴールをつかんだ形になったのではないかと思います。

2020年東京オリンピック 男子サッカー準々決勝 スペインvsコートジボワール レビュー ”確実性と結果の関係は”

試合結果

【得点】

スペイン 5-2 コートジボワール

【得点者】

10’ エリック・バイリー(コートジボワール

30’ ダニ・オルモ(スペイン)

90+1’ マックス・グラデル(コートジボワール
90+3’ ラファ・ミル(スペイン)
98’ ミケル・オヤルサバル(スペイン)
117’ ラファ・ミル(スペイン)
120+1’ ラファ・ミル(スペイン)

両チームのメンバーとフォーメーション

f:id:hirota-i:20211007185050p:plain

(スペイン)

フォーメーション:1-4-3-3

交代選手:10’ヘスス・バリェホ(オスカル・ミンゲサ)、67’ブライアン・ヒル(マルコ・アセンシオ)、90+2’ラファ・ミル(ミケル・メリノ)、102’カルロス・ソレル(ペドリ・ゴンサレス)、105’マルク・ククレリャ(フアン・ミランダ)、105’ホン・モンカヨラ(マルティン・スビメンディ)


コートジボワール

フォーメーション:1-4-4-2

交代選手:62’アマド・ディアロ(シェイック・ティミテ)、90’アブドゥル・ケイタ(クリスチャン・コウアメ)、114’コッフィ・クアオ(エブエ・クアシ)

試合の概要

 東京オリンピック男子サッカー準々決勝。予選Cグループ1位(1勝2分)のスペインとDグループ2位(1勝2分)コートジボワールの対戦です。

 ボールを保持してスペースを作り相手陣内に攻め入りたいスペインとボールを持ったら素早くゴールに迫りたいコートジボワール。両者の思惑は噛み合う構図となり試合を通じてスペインがボールを保持する流れとなりました。

 相手陣内に迫る機会もスペインが多く作ります。しかし90分の中で常に先手を取ったのはコートジボワールでした。試合開始早々、前半10分にコーナーキックから先制ゴール。その後、追いつかれるも後半の45分過ぎに勝ち越しゴールを奪います。このまま試合終了と思われましたが、その2分後、タイムアップ直前にスペインが意地の同点ゴール。勝負の行方は延長戦に持ち込まれました。

  延長戦に入ってもお互いの構図は変わらずでしたが試合を動かしたのはスペイン。延長前半にハンドによるPKを決めて勝ち越します。その後も粘り強く試合を進めるコートジボアール。しかし延長後半に入り時計の針が進むにつれ、いよいよ前に出ざるを得ない状況になってきます。するとスペインはそれをいなし、相手守備組織のすきを着実に突いて2得点。5-2でスペインが勝利し準決勝に駒を進めました。

相手をよく見て淡々とくり返す(スペインの保持局面について)

 4-3-3の配置を大きく変えずにビルドアップをスタートするスペイン。ウィングはサイドに張り、中盤はコートジボアールの4-4のブロックのちょうど間にポジションする形です。

 対するコートジボアールの守備はサイドハーフをやや絞り気味にした4-4-2(4-4-1-1)。まずは縦パスを入れられるのを警戒しているようで、奪いにいくよりスペースを消して構える守備でした。センターバックの保持にも前からいかず持ち運ばれたら2トップの1枚が制限、もう1枚がアンカーを抑えます。

 コートジボアールのファーストディフェンスが縦並びになるのでスペインのセンターバック1枚はフリーになりやすくなります。そこで相手2トップ脇からボールを持ち運びコートジボアールの中盤をけん制するのがスペインのビルドアップスタートになっていました。

 コートジボワールの守備の特徴の一つは、ボランチの選手がスペインのインサイドハーフを強く意識していたことです。ここからも内側でパスを繋がれるのを嫌っているのがわかります。しかしこれは逆にボランチがスペインのインサイドハーフに動かされることに繋がります。

 序盤はサイドから前進を狙っていたスペインでしたが、少し時間が進むとインサイドハーフが降りたり開いたりと相手のボランチを動かし縦パスのコースを作り始めます。

 ただしくさびのパスに対しては後ろからタイトにマークがついてくるので中央から直接崩す場面はあまりありませんでした。

 そこでスペインはくさびを入れてブロックを収縮させると、戻して(レイオフ)サイドに展開。横に揺さぶってから大外やハーフスペースを深く侵入して低く速いクロスが多くのチャンスシーンになっていました。

 例えば右サイドバックミランダが内側に入っていき大外のダニオルモをフリーにする。そしてミランダはSB-CB間へランニング。ダニ・オルモが内向きでボールを受け、裏に抜けるミランダにパス。ミランダがハーフスペースを深くえぐってクロス。ウイングとサイドバックの関係が逆になる時もありましたが、このパターンはよく見られた攻撃です。

 またスペインの前線で主に深さをとるのはセンターフォワードでなくウイングでした。場面により内側に入りボールを引き出す動きも見せますが、まずはワイドに張って相手のディフェンスラインの裏を狙う動きを見せています。

 ただし右ウイングのアセンシオ、左ウイングのダニオルモともに逆足のウイングなのでボールを受けると縦でなく、内側を向いてインスイングでファー側へのクロス、または内にいる味方との連携でゴールに向かっていきます。

 スペインの1点目は右サイドから。大外でアセンシオがボールを持つと、内側でサポートしていたメリノへパス。同時に逆サイドのダニオルモが相手サイドバックの裏を取り、ファー側のぺナ角に向かって入ってきます。メリノはそこへインスイングのクロス。コートジボアールサイドバック、シンゴがこれを処理しようとしましたがこぼれてそれをダニオルモが押し込みました。

f:id:hirota-i:20211013173200p:plain

 中、外とボールを動かす。ハーフスペースをえぐって速いクロス、もしくは少し内側に持ち出してファーにインスイングのクロス。そして前線は誰かが引いて同時に他の選手が裏を狙う。スペインはある意味、ボールの前進からこの攻撃を淡々と繰り返していて、その内の一つがようやく得点として結びついた形でした。

サイドからの素早い攻撃で前線の力を生かす(コートジボアールの保持局面)

 コートジボワールは長いボールをダイレクトに前へ、また後ろで保持した時はサイドからが主な前進のルートでした。

 前進のルートで多かったのは左サイド。センターバックボランチを経由して左サイドへ。サイドをサイドハーフが運んで大外をサイドバックが上がっていきます。さらにその内側、ハーフスペースをボランチのケシエが上がってサポート。このようにサイドを3人で崩すのが一つの形でした。

 スペインの守備組織は4-5-1。しかしセットすることはほぼなく、ボールサイドの2列目も前に出てかなり積極的に高い位置からプレスをかけています。まずは1列目が中を切って外側へ押し出すようなプレス。そのままサイドにボールを押し出したら高い位置から奪いにいきます。

 サイドにスライドしながら強くボールに寄せていくため、サイドバックが突破されるとそのままアタッキングサードまで運ばれやすい傾向はありました。サイド深く運ばれたらセンターバックはスライドしないでギャップはインサイドハーフが下がって埋めています。中央のゴール前はセンターバック2枚とアンカーの3枚を確保して対応しているようでした。

 コートジボワールはサイドを運ぶとシンプルにクロス。クロスに対しては2トップと逆サイドのサイドハーフの3枚が入っていきます。

 アタッキングサードに運んだら基本的にはあまり手数はかけず、クロスやペナ角辺りからのシュートを狙うのがコートジボワールのフィニッシュパターンでした。

 コートジボワールの1点目はコーナーキックから。スペインのコーナー守備はニアポストに人を置かない配置で、そのためかコートジボアールのニアへのおとりのランにキーパーが若干振られ気味だったのが気になりました。

 2点目はスローインの流れから。一度スペインが拾ってエリク・ガルシアが出したパスをカットしてのショートカウンターボランチの選手(たぶん⑫クアシ・エブエ)がカットして左サイドのグラデルへ。グラデルがペナ角辺りから思い切って打ったシュートが決まりました。奪って素早く前へ、そして崩しきる前にミドルレンジのシュートはコートジボアールが何度も狙っていた形でした。

終盤の展開とまとめの感想

 最終スコアは5-2と差がつきましたが、コートジボアールはおおむね彼らが想定したように試合を進めていたと思います。もしアディショナルタイムがもう少し短かったら結果は逆に転がったかもしれません。

 一方、スペインもボールを保持して、試合を安定させる彼らの展開を作ることができていました。しかし、こと得点を奪うことに関しては作るチャンスの数に比べて少しパワー不足の感があります。そこが苦戦の要因となっていたようにも思います。

 スペインは67分にブライアンヒル、90+2分にラファミルへ交代で左利き左ウイング+高さと強さのあるストライカーで前への推進力を出して同点から逆転に繋げます。

 そして延長に入り勝ち越したスペインはその後にさらなる選手交代。システムも4-2-3-1に変更します。これで守備を安定させると前にきたコートジボワールの守備のすきを突き2点を加え試合を終わらせました。

 少しオープンにしてよりゴールに向かうか、それともクローズ気味にして安定させるか。流れの中でこの匙加減はスペインの勝敗の鍵を握りそうだと感じました。

 この試合は、ある側面から見ればギリギリで追いつきなんとか勝ち越したスペインが薄氷の勝利。別の側面から見れば、開始早々の失点にもテンポを大きく変えず論理的ともいえるプレーを正確に選択、実行し続けたスペインが確率論通りに結果を収れんさせたともいえそうです。

2021年明治安田生命J1リーグ第30節 清水エスパルスvsヴィッセル神戸 ”主に清水の前半の守備とその修正について”

・スターティングメンバーとシステム

f:id:hirota-i:20210927192341p:plain

 清水のシステムは1-4-4-2。前節からの変更は藤本→コロリのみ。神戸からレンタル加入の藤本は契約上の規約で出場できず。代わりに鈴木唯人が2トップの一角に回り、前節メンバー外だったコロリが左SHに入った。仙台戦で9試合ぶりの勝利を収めた清水。今季初の連勝を目指す。

 神戸のシステムは1-4-2-3-1。中盤の主力だった山口蛍が負傷のため欠場中。前節の札幌戦では中盤には大崎が起用され1-0の勝利。今節もその札幌戦と同様のスタメンを組んできた。夏に大迫、武藤と大型補強を行った神戸。順位は29節消化時点で4位とその補強に見合った実力を見せている。

・前半飲水タイム辺りまでの清水の守備を見る。

 前半開始からしばらく神戸がボールを保持し、清水陣内に攻め込む流れが続く。

 神戸の保持は大崎がCBの左側に降りて後ろ3枚でスタートすることが多かった。サンペールは2トップの裏でアンカーのように振る舞い、イニエスタは左内側のやや低い位置に下がりボールを引き出す。CFの大迫は左右に流れたり、引いてきたりと大きく動きプレス回避のターゲットになる。神戸の基本的な配置を図にすると下のようだ。

f:id:hirota-i:20210930205557p:plain

 イニエスタがプラス1となり、大崎、初瀬(ときおり中坂も)で行う神戸の左サイドのビルドアップに清水は苦戦する。

 清水の守備は2トップの1枚がアンカーのポジションにいるサンペールを消し、もう1枚がCBに出ていく。 

 SHはまず縦パスを消すようやや絞ったポジショニングからサイドに出たらそのままスライド。

 清水は内側を消してサイドに誘導したいが上手くプレスがかからない。フェルマーレンの左脇に降りてくる大崎がオープンになり縦やサイドに蹴り分けるパス、またスペースへの運ぶドリブルで前進されていた。

 この大崎のポジション取りを見ると、清水の2トップがCBに行く動きを見ながら位置取りを決めているようだ。例えば唯人の視界から離れるようにポジションを移動しボールが来たら西澤を引き付けてパスを出す。大崎がオープンになると唯人、西澤もそれを気にし始めたがどちらがいくのかあいまいになり後追いのプレスになっていた。

 さらに大崎はパスを出したら前に出ていき三角形の頂点を移動させるようにポジションチェンジする。

 清水は中への縦パスを塞ぎたいが、縦を切っても一度サイドの初瀬に出してから内側へ入れられる。この横パスで中のイニエスタがフリーになる。そしてイニエスタが引き付けてフリーを作ったり、前を塞がれれば逆サイドへのサイドチェンジ。このサイドチェンジから武藤と酒井に打開されるのを警戒しコロリと片山は絞り切れず清水の守備ブロックはかなり左右に引き伸ばされていた。

 ブロックが横に伸ばされると塞ぎたい中央もサイド経由で攻略される。清水は開始から25分の飲水タイム辺りまでこの悪循環を修正できずペースを神戸に握られ続ける。

・神戸の先制点を見る

 この流れを頭に入れ神戸の先制点を見る。

 大崎が2トップの脇を運んでいき、清水のブロックを内側に寄せる。これで左サイドに引いてきていたイニエスタ、さらに大外の初瀬がフリー。

 大崎からイニエスタにパスが出て西澤がプレスにいくが間に合わずサイドの初瀬にパスが出る。

 西澤がサイドに動いたことで再び中の大崎の周辺にスペース。初瀬から大崎に横パスが出るがこれを切れずにフリーで大崎がボールを受ける。大崎から内向きに侵入してきた初瀬にワンツーでパスが出て、初瀬は松岡に正対してドリブル。これで松岡がピン止め。松岡がピン止めされるとSB-CB間のカバーにいけず、そこに流れていた大迫がフリーになった。

 大迫にパスが出て、大迫は中へ速いクロス。逆サイドからヴァウドと井林の間に入ってきた武藤がヘディングでゴールを決めた。

 また失点の決定要因ではないがこの時、清水の中盤ラインはやはりかなり間延びしている。本来ならボールサイドにスライドして横をコンパクトにしたいがホナウドは中央付近にポジション。左サイドのコロリがサイドに開いたままなのでホナウドは中央を空けるわけにはいかなかったのだろう。これも神戸のサイドチェンジと武藤や酒井への警戒が影響した可能性は十分考えられる。

 この失点は大崎に2トップ脇を運ばれたことから始まっている。ファーストディフェンスがはまらず相手を限定できない。限定が緩く選択肢を持たれるため、こちらの動きをコントロールされる。そしてポジション移動する相手に動かされスペースを作られ攻略された。以上のようにこの失点は前半に見られた典型的な流れから生まれたものだったと言える。

・清水の修正について考える

 飲水タイム明け、まず唯人がCBにいく際も常に首を振り必ず大崎をチェックする動きが見られる。そして大崎の運ぶドリブルや自分の裏で浮いている選手にプレスバックでプレッシャーをかけるようになった。

 またそれまである程度持たせていた菊池流帆にもコロリが出ていくようになる。そして中央のフェルマーレンにも強く限定をかける。そこから左にボールが出ても限定が明確なので西澤も前に出ていきやすい。

 DFラインにフリースペースができにくくなったためか、この辺りから大崎がDFラインに降りなくなった。大崎が降りなくなると初瀬が下がってCBの横でサポート。しかし大崎に比べれば初瀬の方がプレスはかけやすい。

 こうしてファーストディフェンスがプレスを強めて限定を明確にすると神戸もクリーンに前進できなくなる。この辺りから清水が中盤でボールを奪う場面が見られるようになってきた。

・清水の保持局面と簡単に試合の流れを

 清水の保持局面を見る。

 清水はCHが1枚降りて後ろ3枚。SBを上げてSHはやや内側。そしてFWの唯人が中盤の中央に引いて受ける。これが基本的なポジション取りとなることが多かった。

 神戸の守備はCHのサンペールをイニエスタと同じ高さまで出して、1-4-3-3に近い布陣で守備を行なってきた。

f:id:hirota-i:20211001172658p:plain

 後ろ3-1でビルドアップする清水に対し、神戸の守備基準は大迫が中央のCB、アンカーの松岡をイニエスタ、ヴァウドに中坂、脇に降りるホナウドへは武藤が出てくる。そして井林やホナウドからハーフレーンへ出される縦パスのコースをサンペールが埋める立ち位置だ。

 神戸は前からかなり積極的にプレスをかけてくる。そのため中盤(大崎周辺)やSBの裏に広いスペースができやすい。 

 しかし清水がそのスペースにボールを入れると神戸は持ち場を捨てても激しく追撃。原の仕掛けから幾度か初瀬の裏を取るがそれ以外はあまり上手くボールを運べていない(原の仕掛けは相手の守備を考えるとチームとしての指示だったかのかなとか)。

 前半の30分辺りから神戸のプレスの勢いがやや下がってくる。この理由は明確にはわからないが、そこから清水がボールを持てるようになってきた

 特に井林とホナウドでボールを落ち着かせられるようになったのが大きいそうだ。武藤を引き付けて片山をサイドでフリーにしたり、大迫や前に出てくる中坂を動かして内側への縦パスを入れる場面が見えてきた。

 神戸はボールサイドに寄る傾向が強いため、一度内側に入れるとサイドのレーンがフリーになりやすい。特に右サイドの中坂、初瀬のラインが顕著でSB原とSH西澤が内外を使い分けながら大外にスペースを作りクロスでチャンスを作っていった。

 後半に入っても前半途中から修正した流れは変わらず。

 神戸は84分に選手交代と共にシステムを3バックに変更。非保持時には1-5-4-1にし逃げ切り体制に入った。

 神戸はサイドバックを動かされてスペースを利用されていたので後ろ5枚にしてそこを消す。理にかなった采配だ。

 これでやることが明確になった神戸。86分に清水が前から奪いに行ったところを後ろで動かし前線の大迫へ。大迫からサイドに開いて折り返しを前に出てきた大崎がシュート。不運にもシュートが松岡に当たったため不規則な軌道になりゴールが決まってしまった。

 その後、清水は埋められたサイドを打開するため西澤に代えて滝。得点を狙っていくもスコアはそのまま動かず。2-0で試合は終了した。

・感想

 受け手がフリースペースに入ってそこにボールホルダーがパスを出す。ボールホルダーが相手を引きつけ意図した場所にフリースペースを作り受け手に使わせる。意識としてはそれが相互に行われるとスムーズにボールが前進していきそうだ。

 神戸にはそれを理解し個人で実行できる選手が揃っていると感じた。フェルマーレン、大崎、サンペール、イニエスタなど。ボールを持てば常に相手を牽制し、持っていない時も相手の動きを見ながら味方と繋がるようにポジションを修正している。

 清水の選手もそういったプレーへの意識は感じられるがまだ強いプレッシャーの中ではそれを発揮できない場面が見受けられる。

 相手のプレッシャーを受けているのか、相手を引きつけてスペースを広げているのか。そこを自然と意識できた時、よりチームの足取りは進んでいくのではないだろうか。

 

試合結果

清水エスパルス0-2ヴィッセル神戸

IAIスタジアム日本平/晴れ/気温24℃)

得点

9'武藤嘉紀

38'大崎玲央 

2021年明治安田生命J1リーグ第26節 清水エスパルスvs鹿島アントラーズ 感想

 なかなかの大敗でございました。振り返るのもしんどくなりそうな試合だったにもかかわらず当ブログをのぞいていただき感謝します。私も試合終了後にはかなり悔しい気持ちでしたが、見直しに関しては勝ち負けそんなに気にならないのが私の特性です。いくつか思うところありましたので以下に感想を垂れ流してみたいと思います。

 まずは両チームのメンバーから確認しましょう。

 清水のシステムは4-4-2。GK権田。DFが左から片山、井林、ヴァウド、原の4バック。ボランチホナウドと松岡。サイドハーフは左に鈴木唯人、右に西澤。2トップがコロリ、サンタナです。

 前節から中3日ということでターンオーバーも考えられましたが、メンバー変更はボランチホナウドのみ。ベンチの藤本含めて夏の新加入選手が全員メンバー入りしていることから新戦力の連携を高めつつ周囲は主要メンバーで固めたかったのかもしれません。

 鹿島の方はシステム4-4-2もしくは4-2-3-1。GK沖。DFが左から永戸、町田、林、安西。ボランチに三竿とピトゥカ。サイドハーフが左にカイキ、右に遠藤。トップ下に荒木、CFに上田です。

 天皇杯も絡み清水以上にきつい日程の鹿島。こちらは前節から5人メンバー変更してきました。結果論ですが両チームのコンディションの差も試合結果に大きな影響を与えたのかもしれません。

 さて、試合内容を見ていきましょう。まずは清水の守備から確認します。

  試合開始しばらく、清水はわりと高い位置からプレスにいっていました。おそらく鹿島に長いボールを蹴らせて回収する狙いがあったかと思います。しかしプレスにいったところを2トップの間を割られてライン間まで運ばれることが何度か起きていて、これはかなり問題になっていました。

 なんで2トップの間を割られるパスが通るのかなと見てみると、鹿島のトップ下の荒木がボランチの位置まで下がってくるのが一つの要因となっていたようです。荒木が下がると同時にボランチの三竿が脇にずれたりピトゥカが前に出たりと3人で位置を入れ替えてきます。なので清水の2トップが相手のボランチを意識すると降りてくる荒木が空いてしまう状態になっていました。

 結果、荒木にパスが入ると慌てて松岡が前に出てきます。しかしそれも後追いで間に合わない。鹿島は清水のライン間に4人(上田、遠藤、カイキ、前に出るピトゥカ)確保しているため松岡が空けた中央のパスコースからパスを通され崩される。そんなパターンになっています。

 このように鹿島が2トップ裏で受ける工夫をしてきたのは確かですが、サンタナとコロリが不用意に横並びでプレスにいくなど2トップの限定自体あいまいです。もう少しポジションを細かく取り直したり、プレスバックをして欲しかったところです。

 前半の中頃を過ぎるとさすがにまずいとなったのか、2トップは前にいくのを抑えて鹿島のボランチを抑えるポジション取りを取り始めます。これでそこまで真ん中をフリーにすることはなくなりましたが、それでも若干の緩さは感じました。

 私の敬愛するレビューワー、たけち先生のチェックによればサンタナは中盤に対して前にきてくれとジェスチャーしていたようですが、たいがいフォワードは前残りしたいので後ろに前にこいと要求しがちなところがあります。コンディション面が落ちていると余計にそのような傾向になるのかもしれません。

 その他、サイドの唯人が前にプレスに出た時ににサイドバックの安西がフリーになることもありましたが、その際は後ろがスライドしてブロックを組みなおすことができていて致命的な問題にはなってはいないように思えました。

 次に清水の攻撃を見ていきます。

 清水は後ろからボールを保持する意思を見せていました。これまであまり見せなかったボランチの松岡を降ろして後ろ3枚でのビルドアップスタート

 中盤はホナウドをアンカーの位置、唯人と西澤がインサイドハーフのようなポジションを取っています。後ろの枚数が変わっても中盤は逆三角形のポジションを取るのはこれまで通り。松岡を後ろに降ろしてさばかせるプランだったので相方には2トップ裏でアンカーの役ができるホナウド(サブが竹内でなく河井だったのも同様)を起用したのでしょう。

 積極的にくる鹿島のプレスの前に詰まることも多かったのですが、相手の守備の構造を見ながらボールを動かす狙いは見えました。

 例えば、松岡が鹿島のフォワードのプレスを引き付け、左センターバックの井林がその脇を持ち運ぶ。そこに遠藤が出てくると左サイドライン際で片山がフリー。これは再現性のある形でした。

 ただそこから先がやや詰まり気味。片山にはサイドバックの安西が出てくるのでその裏に誰かフリーランして欲しいところですがあまりその動きは見られませんでした。

 保持した時に一番可能性があったのはサイドチェンジや対角線のフィードなど逆サイドにボールを運んだ時。鹿島は相馬監督のチームらしくボールサイドに人を寄せて強くプレスをかけてくるので構造的に逆サイドが空きがちです。

 特に左の片山に一度持っていってから直接、または戻して右サイドへの展開でほぼ大外フリーを作ることができていました。もう少しこの形を徹底しても良かったかもしれません。

 ここまで書いたようにある程度狙いは見せていましたが、全体的には上手くいった面とそうでない面が半々でした。

 上手くいかなかった例としては1失点目のプレー。清水が保持した時の問題点が表れていると思います。

 ヴァウドがサンタナに縦パスを通したところを奪われてカウンターから上田にミドルを決められた場面ですが、配置を見ると松岡を後ろに降ろしているので奪われた時点で中盤はホナウドひとり。配置上、中盤でスペースを使われやすい状態でした。保持する前提であるなら不用意に失うのは致命傷です。

 多くの方が指摘しているようにヴァウドがパスを出す前に松岡は後ろに戻すよう指示を出しています。私はボールを保持することを考えた場合、松岡の指示が正しいと思います。

 チーム全体でボールを運ぶためには、ボールを動かして相手のプレスを分散させる、次の受け手のためにスペースを与える、周囲の味方がポジションを整える時間を作るといった作業が必要となるからです。

 まだ清水の選手はパスコースが見えたらすぐに出してしまい結果的にボールが進むほど窮屈になってしまうことが見受けられます。ここは技術や戦術以前に意識の変化が求められるところなのではないでしょうか。

 最後に後半の様子を見ていきましょう。

 前半2失点してしまったわけですが、後半の入りは悪くありませんでした。

 そこから後半早めに選手交代を進めていくわけですが、まずはじめは西澤に代わり滝が入ります。西澤が交代の1枚目ではありましたが彼のプレー自体は悪くありませんでした。西澤は前半通して味方の位置を見ながら的確なプレー選択を行っており、右サイドでのボール前進に大きく貢献していました。チャンスの手前まではいけていたわけで最後の一押しとして間で前を向いて打開できる滝の起用だったのだと思います。

 そして同時に唯人とコロリの位置を入れ替え、左から前進した時のプレーおよびファーストディフェンスの修正します。

 続いて足りなかった裏とフィニッシュのために藤本、疲労を考慮してサンタナから指宿、そして中村、河井と攻撃的なカードを切っていきます。

 狙いは遂行できている、後はフィニッシュだよというメッセージにも感じますが、得点は奪えず逆に3、4点目を失い終戦でした。

 4失点に言い訳は効きませんが、いずれもなんとももったいない失点と感じます。戦術理解が進めば〜という声もありますが、私は選手は戦術を理解しているし、それを遂行もしていると思います。ただ戦術を遂行することに一杯になってないかというところは少し気になります。結局、戦術は勝つための道具みたいなもので一番大切なのは全てを勝ちに繋げることだと思います。そこがあいまいになっていなければいいなと感じます。

 例えば勝ちへの執着心はどうでしょう。気持ちのことを言うのもなんですが、失点した時に真っ先に仲間に声をかけるのが20歳の新加入選手というのは寂しいです。

 当然、気持ちのない選手などいなく、勝ちたい気持ちがあまりにも大きいからこそ失点した時のショックが大きいのでしょう。それでも松岡に"ここから勝ちにいくぞ"と逆に声かけするような選手達であって欲しいという個人的な思いがあります。

 最後は私のわがままのようなものになってしまいましたが、これで感想文の結びにしたいと思います。

 

 

2021年明治安田生命J2リーグ第23節 ジュビロ磐田vsモンティディオ山形 【山形に注目したマッチレポート】

・両チームの近況

 (山形)序盤の成績不振を受け、シーズン途中の監督交代に踏み切ったモンティディオ山形。石丸体制の後を引き継ぎ監督に就任したのは昨年清水エスパルスの監督を務めたピーター・クラモフスキー氏。クラモフスキー監督が正式にベンチ入りして以降の戦績は22節時点で8勝1分けと負けなし。順位も序盤の降格圏から6位までに押し上げこのまま昇格争いに顔を出す勢いだ。

(磐田)開幕2試合は黒星スタート。しかしその後は地力を発揮。順調に勝点を積み上げ22節消化時点で首位に立っている。11節以降負けなしだが前節の山口戦は2-2の引き分け、その前の新潟戦は勝利ながら3-2と複数失点。直近2試合はややきわどい結果だ。

 2位の京都との勝点差は3。悲願のJ1昇格を果たすために勢いのある山形をホームで叩き首位の座を盤石にしておきたいところだろう。

・両チームのメンバー

f:id:hirota-i:20210723123942p:plain

 山形のシステムは1-4-2-1-3。ウイングがワイドいっぱいに張る3トップは清水サポにはお馴染みのシステム。もう一つお馴染みはCHで起用される藤田息吹。クラモフスキー氏の指揮するチームで元清水の選手を見られるのは嬉しみを感じる。

 磐田のシステムは1-4-2-3-1。スタメンはほぼJ1の試合でも出場していた高い個の力を持ったメンバーだ。

・山形の保持局面を見る

 山形が保持した時は下の図のようだった。

f:id:hirota-i:20210723114747p:plain

 山形の両ワイドは高い位置のワイドいっぱいに、CFの林は中央の前に張っている。この前線3枚で磐田の5バックを押し下げている。

 トップ下の山田康太は中盤でボールを引き出しフィニッシュまでつなげる役割を負っているよう。中盤に降りたりサイドに移動したりと広範囲に動いていた。

 CHの藤田は山田康太が動いたトップ下ポジションに入っていくことが多く、もう1枚のCH國分はアンカーポジション。そしてSBはやや内側の立ち位置。 

 後ろはCB2枚でビルドアップスタート。中盤の中継地点としてアンカー。前の3枚で深さと幅を取って広げる。中盤とSBはポジションをローテーションしながらハーフスペースを活用し前進。そしてフィニッシュに繋げるのが原則のようだ。

 次に磐田の守備を見る。

 磐田は高い位置から積極的に制限をかけてきた。CFルキアンとシャドウの1枚が前に出て相手の2CBにプレスする。もう1枚のシャドウは中盤の脇を埋めるポジション取り。

 さらにアンカーポジションの國分にもCH1枚(主に遠藤)を積極的に出していくので、残ったCHの脇にスペースができがちだ。

 磐田の前線は積極的に前にくるが、後ろは山形のCFと両ワイドのよって押し下げられる。よって守備ブロックは前後が引き伸ばされ、2列目が薄い状態になっていた。

 山形はCBがボールを動かせる上に、GKもプレスを越えるパスを出してくる。磐田のファーストプレスを回避するとCHの脇に広大なスペースが生じている。

 下は山形の2点目の起点となった場面。現象としては上に書いた通り。

f:id:hirota-i:20210723194602p:plain

 遠藤が國分にプレスするので山本康の脇で藤田は完全にフリー。ここから山田康太(左内側)、國分(中央)、中原(右大外)、半田(右内側)とレーン移動しながら前進。中央前の林へのくさび、そしてワイドからDFラインをブレイクした中原にパスが渡りカットインからゴールが決まった。
 山形のフィニッシュの特徴はハーフスペース侵入で磐田のDFを前に引き付け、裏にスペースを作りそこに飛び出す。そしてマイナスの速いクロスを入れてシュート。DFラインの表と裏の2択を高速で迫るイメージだ。

 序盤の磐田DFラインは中盤の脇に広がるスペースに後追いで対応するので上手く限定できない。CH脇に入る相手に対して役割が整理されないまま反応し裏を何度も取られていた。山形の1点目、2点目ともに仕組みとしては似た形だ。

 また山形は遅攻で押し込んだ時はサイドの高い位置でWG-SB-トップ下(または上がってくるCH)で三角形を作りボールを動かしてDFラインの裏を取りにいく。これは昨年のクラモフスキー体制時の清水でもよく見られた崩しだ。

 磐田も前半の途中から両シャドウがCH脇を埋める立ち位置をとるなど中盤のスペースを気にするそぶりをしている。そして後半になると中盤脇にCBやWBがスライドし中盤で浮く選手を消しにきている。また相手に持たれた時は逆に541で引いている。これではっきり中盤が空くことはなくなった。

 後半は山形がプレスを回避して中盤まではボールを入れるもフリーになる機会が減る。そして磐田に回収されることが多くなった。磐田が保持の時間を増やし山形は自陣でのプレーが増えていった。

・山形の守備局面をみる。

 山形の非保持時システムはトップ下の山田康太が前に出ての4-4-2。高い位置にブロックを設定するが2トップは奪うよりまず相手のCHへのコースを消すのが目的のようだ。そしてサイドに誘導する。

  サイドに誘導したら内側へのコースを塞ぐ。例えば下の図ように斜めの壁を作り内側へのコースを消す動きを何度も見せている。

f:id:hirota-i:20210726183659p:plain

 内側を塞いだらサイドに押し出すようにプレスをかけていく。

 磐田は相手の1列目の脇から運んでCHの遠藤、山本康に入れてそこから組み立てを狙っているよう。山形は内側に入れたボールに対しては3人で囲い込んでいた(下図)。

f:id:hirota-i:20210726183740p:plain   

 ボールを奪ったら後ろに戻すパスを切っている選手(図の例では山田)がそのまま起点になる。そしてショートカウンターに移行する。

 磐田は内側で受けられないのでほぼサイドからの攻撃に。サイドチェンジを交えながらWBとシャドウの1枚がサイドで絡みクロスを入れることが多かった。

 後半の磐田はCHが降りたり脇に出たりと相手のブロックの外で起点を作る。WBとシャドウ、加えて左右のCBも上がってサイドから侵入。サイドに人数をかけて前進。そこから全体を押し上げていった。そしてWBとシャドウのポジションチェンジでハーフスペース攻略を見せる。そこからサイドの奥を取ってクロスを上げてシュートに繋げる。

 山形の失点は磐田の左からのクロスが流れて再び右からクロスを上げられルキアンのゴール。外誘導する山形に対してサイドに人数をかけて押し込みクロス爆撃は磐田の狙いであったと思われる。クロスは上げられるので中を山田→小川航基でフィニッシュの強度を上げる磐田。後半は押し込まれ気味だったがなんとか守り切り山形が2-1で勝利した。

・感想

 クラモフスキー監督のゲームモデルは清水時代とほぼ変わっていないように見える。清水時代に見られた動きがこの試合でも何度も再現されていた。

 しかし結果を出している山形のプレーを見るとやはり違いはある。

 その中の1つが裏への意識だ。裏と言っても後ろから長いボールを裏に蹴るのではない。後ろでの保持からスペースを作ってボールを運ぶのは同じ。そこから前線の選手が最終ラインの裏を常に狙っている。ワイドの選手も1対1を仕掛けるより、ワイドの裏を狙うまたは対面を引き付けて味方のために裏のスペースを作っている。

 清水ではウイングの突破力不足がたびたび指摘されたが、クラモフスキー監督の求めるプレーは山形のものに近いのではないだろうか。ただしそこは自チーム、対戦相手チームの個々の能力にもよるのだろうが。

 2つ目は後ろで持ったボールの逃がし方だ。前からプレスこられた時、GKが浮かして越えるボールを使い回避していた。またCBもボールを運べる(めちゃ上手いかはわからんが少なくともそういうプレーを見せる)。

 ファーストディフェンスを外して山田康太に入れば多少のプレスは何とかしてくれる。相手の前線からの強いプレスをかわす手段と逃げ場所があるのはかなり大きいように思える。

 最後に。磐田はサイドから攻略してクロスを多用していたが、これは対山形では有効に思える。組織で内側のスペースを消すように守るのでサイドをゴリ押しされると押し込まれやすいかもしれない。奪った後に陣地回復させるカウンターマシンのような選手がいないのも押し返せない要因だろうか。

 その他、そろそろ各チームとも山形対策を講じてくるだろう。そこでクラモフスキーがどんな対応をするのか個人的な注目点だ。