マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第17節 FC町田ゼルビアvs清水エスパルス】

試合の感想

 強度の高い緊迫感あふれる試合でした。惜しくもエスパルスは負けてしまいましたが選手は精一杯のプレーをしてくれたと思います。

 この両チーム、監督が求めているものは共通したものを感じます。「やるべきプレーを妥協せずにやり抜く」ような意味合いです。ですが強いて言えば“どうやり抜くか"の部分に関しては少し差があったような気がします。

 私が感じたどうやり抜くかの”どう”とは、つまりチームのプレー原則です。サッカーでは選手個々の判断やアイデアが大切ですが、その判断の元になるのはチームとしての原則だと思います。

 町田はこの状況ではこうプレーするという原則が具体的かつ明確で、試合を通してそれがぶれずに実行されていました。

 おそらくですが秋葉監督もそれは認識したのでしょう。だからこそ試合後に責任は全て自分にあるという意味合いのコメントが出てきたのだろうと思います。

 リアルタイムではこのコメントに少し疑問を感じましたが、再び試合を見直せば監督は試合内容を客観的に分析し受け止めていたんだなと思うことができました。

 以上、感想はこのあたりで。それでは試合を具体的に振り返ってみたいと思います。

メンバーと基本フォーメーション

前半序盤の流れ

・清水がボールを持ち、町田が堅守で応戦する構図でした。両者の特徴を考えれば想定された流れといっていいでしょう。

・清水の保持は4-4-1+フリーマンの乾のようなシステム。やや内側に人を寄せて、まず中にボールを差し込む。そして町田の守備ブロックが収縮したら外にできたスペースを使っていきます。

・清水はセンターバックからDFラインの背後に直接ボールを入れたり、中山がハーフスペースから裏を狙っていきます。おそらく町田のDFラインを押し下げ守備ブロックを縦に広げたかったのだと思います。

・町田は時折ライン間のスペースが開く時があって、清水のボランチが2トップ裏でボールを持って前を向ける時があります。

・清水のボランチが2トップ裏で持つと町田はボランチが前に出てきます。ボランチが動くとブロック内にスペースが生まれます。清水はわずかのスペースがあればボールを差し込み個人技でチャンスを作っていきます。

・町田はボランチが前に出たら必ず左右の選手が絞ってカバー。ブロック内にボールを通されても対応できる状態を作ります。ボールにいく選手とその周囲の選手のポジショニング。この原則が忠実に実行されています。

4:05町田が中央セフンへのボールに絞って対応。それで生まれたサイドのスペースに流れた乾がフリー。乾からボックス内のスペースに入ってきた白崎へ。白崎のシュートは外れましたがこの試合最初の決定機でした。町田としては白崎と競って倒れた稲葉のスペースを使われた形で組織で崩されたわけではありません。しかし中からスペースのあるサイドへ。そして前のスペースに人が入ってゴールに向かう清水の狙いが表れた場面だったと思います。

・町田の守備は4-4-2。縦横ともコンパクトなブロックを形成しています。

・2トップは1枚がCBへ、もう1枚はボランチを抑えます。内側を消してサイドへ誘導する。そしてサイドで奪うのが目的だと思います。サイドに誘導するとデュークも中盤サイドまでプレスバックする動きを見せていました。

・サイドへのボールへは割と早いタイミングでSHが出てきて全体をボールサイドにスライドさせます。その際、ボールに出ていったSHの隣のボランチ選手は必ず斜め後ろのポジションを取っています。

・またSBがスライドして開いてもCBはそこまでスライドしていきません。CBはまずゴール前を固めて、SBとの間はボランチの選手が降りてカバーに入るのが約束事のようでした。

・先ほど書いたように清水は時折ブロック内にボールを差し込みますが、町田の忠実なスライドとカバーで明確なチャンスはそれほど作れていません。

・清水としては「思うように前進できないな」という感覚だったのでしょう。徐々に乾がボランチの位置まで下がったり、ボランチがDFラインまで下がったりと降りてボールをもらおうとしています。

・後ろに降りると前の人数は減ります。前の人数が少ないとボールが入ってもコンビネーションを使えずに町田の守備に捕まります。前半20分過ぎ辺りからはボールを持っても攻撃は停滞しているなと感じました。

・逆に町田は守備でぺースを握り始めます。清水にサイドを使われれば普通はサイドが気になりそうですが、必ず中央に絞って最後はやらせません。ここは原則が徹底されていると感じた部分です。

前半の中盤から前半終了まで

・清水の前進が上手くいかなくなると町田がボールを回収する機会を増やします。ボールを回収すれば保持する機会が増えてくる。これはサッカーの原理です。

・清水は基本は対面の相手を強く捕まえる守備をしています。

・町田は清水の2トップに対して後ろ3枚で数的優位の関係を作り、そこから清水のSHやSBをずらす。そしてずれてできたDFラインのギャップを狙っているように見えます。

22:55のシーンが典型的な形。後ろは翁長が残って3対2の数的優位。清水は中山がSBの翁長へ、岸本がSHへプレスに出ていきます。この状態でエリキが岸本の裏を突くと高橋と1対1になる。このエリキの打開力と清水CBの守備力は五分五分の勝負。この形が町田の狙っていた形だったと思います。

30分の得点シーンも左SB翁長が2トップ脇でフリー。この時、清水のDFラインと町田の前線は同数です。吉田と高橋は対面の相手を捕まえに出ているので鈴木はエリキと1対1。

・それを見た翁長は逆サイドのCB鈴木の脇へロングフィードを出しています。鈴木がエリキに抜け出されそうになり、左SB吉田はマークを外しカバーへ向かう。マークが外れた平河がこぼれ球を拾ってゴールを決めます。この後ろからずらし、最後1対1になる仕組みは22分とほぼ同じです。

41:40清水カウンターから同点。町田はCB池田が負傷のためピッチ外に出ていて1人少ない状態。4-4-1で守って自陣からのクリアをエリキが単独でカウンター発動。これをフォローするため翁長がサイドを、中盤2枚がゴール前に上がっていきました。

・エリキのパスが白崎に当たり、中山が拾って乾にパス。翁長が前にいて、本来スライドしてカバーすべきボランチも1枚しか残っていません。乾が町田の守備を引き付け前のスペースに飛び出した中山にパス。中山のシュートが決まって同点です。町田としては人数不足の中、もう少しリスク管理をしたいところでした。

・それにしても乾のパスのタイミング、そして中山のスペースに出る動き、次のプレーを考えたコントロール、シュートの技術。いずれも素晴らしかったです。

後半

・後半頭から清水は中山→北爪。右SBの岸本が右SHに北爪がSBに入ります。

・ここまで町田の守備を崩しきれずにいた清水。しかし以下の2つの場面ではチャンスを作れていました。

・一つはトランジションで相手が整う前に速く攻め切る形。

・もう一つはボランチがカバーで動いたスペースを使う形です。

48:25CBとSBの間に白崎がランニングすると、ボランチ下田が降りてカバー。これは町田の守備のセオリー通り。下田が動いたスペースにホナウドが入る。ホナウドには藤原が、ニアに動くセフンにはチャンが対応します。これで乾の前が空いて、ホナウドがクロス。乾のヘディングシュートは決まりませんでしたが、相手の守備の特徴からくるスペースを利用した攻撃でした。

・この他にも町田の守備のやり方的に、清水のSBがワイドの高い位置を取れば町田のSHとボランチの間を引き離せる。このような「こう動けば相手はこうなる」の仕組みをもっと利用しても良かったような気がします。

 

・清水は59分岸本→宮本、オセフン→サンタナ。町田は65分に沼田→荒木。

・町田は荒木がそのまま左SHに入る同ポジションの交代。清水は宮本がボランチに、ボランチの白崎が右SHに回りました。

・清水はボールを持つと白崎が内側に入って、右SB北爪を高い位置に上げます。北爪の前のスペースに入っていく能力は非常に高く、シンプルに彼のサイドでの推進力を生かす意図かと思われます。

・清水は81分、カルリーニョス、白崎→北川、神谷の交代。

・町田は82分、エリキ、デューク→髙橋、藤尾の交代。

・町田はこの直前のカウンターでデュークが前に出ていけていません。かなり体力が消耗していたのでしょう。エリキの交代も同様の理由だと思います。

・清水はやや前が中央寄りの4-3-3(4-3-2-1)にシステム変更です。

・町田は後ろから、または髙橋大悟の左足を使って、サイドの裏へボールを出していきます。そして押し下げたスペースに後方から入ってシュートを狙う形を作ります。

・また町田はサイド奥に出したボールをクリアされたら徹底的にロングスロー。町田はやや距離があってもロングスローを使っていて、82分の交代後、町田のロングスローの回数が増えていきます。

・ロングスローに対して清水はサンタナも下がって守備をセット。ロングスローでサンタナを自陣に張り付けられると、ボールを奪っても前で起点になる選手がいなくなります。

・→ボールを収める選手がいないのでセカンドボールを回収できなくなる。

 →単独で前進して奪われる。

 →奪われてプレスをかけようにも前の選手はロングスローの流れで後ろにいる。

 →整理されないまま中盤の選手がプレスに出ていって守備陣形が崩れる。

 →守備陣形が崩れているから容易に前進される。

交代後からアディショナルタイムに向けてこんなサイクルに陥っています。

・お互いオープンにゴールに迫る状況のようで、町田はある程度コントロールできている、清水は陣形が崩れている状態だったと思います。

・町田の決勝点のきっかけは終了間際の94:44。やはり町田のスローインからです。

・ロングスローは一度クリアして清水の左サイドでプレーが進みます。ここに町田がプレスをかけて稲葉がカット。稲葉→下田→藤尾で藤尾はバイタル辺りでターン。ここは本来、位置的にアンカーが対応すべきエリアですが、実際いたのはFWの北川という状態です。

・藤尾のシュートを鈴木が防ぎましたが、こぼれ球が上がっていたチャンミンギュンへ。チャンの振り向きざまのシュートは素晴らしかったのですが、対応した吉田の外側を髙橋大悟が上がってきています。ここは完全な1vs2を作られていました。チャンが撃たずに大悟に出しても決定的だったと思います。

最後に

・球際や走り抜くことなど強度は勝つためには絶対必要な要素です。しかし、それが同じレベルのチームに勝つためには何が必要かを突きつけられた試合だと感じました。

・始めにも書きましたが、おそらく監督はそれが何かわかっているはず。ではそれがどう構築されていくのでしょうか。以降の試合に注目していきたいと思います。

 

 

 

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第13節 清水エスパルスvs徳島ヴォルティス】

メンバーと基本フォーメーション

 徳島は352(非保持5-3-2)。前節から変更はルイズミケサダ→西野。西野が右WBで西谷が左WBに回った。

 清水は442。前節から7人のスタメン変更。

徳島保持、清水非保持の局面

 徳島の3バック+アンカー白井に対し、清水は2トップの1枚がアンカー、もう1枚がCBへが基本形。ただし前から行く時は2トップともCB(もしくはGK)まで出ていく。

 左右のHVにはSHが出て、WBへはSBが早めの縦スライド。降りるIHにはボランチが付いていた。中盤の背後を空けても前から出し所を消しにいくプレスだ。

 徳島は前節に比べ、相手を引きつけるように低い位置で動かしている。WBはあまり高い位置を取らず、GKスアレスもビルドアップに参加していた。

 徳島のHVはボールを持つと2トップ脇から持ち運ぶ。そしてフリーのWBだけでなくインサイドの裏表を使ってIH、さらに奥の前線へのパスも出している。

 清水が2トップとも前に出して積極的にプレスをかけると中盤は3対2で清水の数的不利。しかしヘナト、ホナウドの守備範囲が広く、寄せも速いため徳島の中盤を自由にさせていない。

 徳島の中盤、またはWBも清水のプレスが来れば無理に前には出さない。キープから後ろに戻してさらに清水のプレスを引きつける。そしてスペースのできた清水の2列目の裏、またはSB裏にボールを入れていた。

 前半10分。GK含めてかなり低い位置で左右に動かし、安部が岸本の背後にボールを入れる。ボールはタッチを割ったが柿谷と森海渡が同時にナイスボールのジェスチャー。引き付けて背後のスペースがチームの共通理解だとわかる。

 スペースにボールを入れたらライン間を柿谷、またはIHの1枚がドリブルで運んで、森海渡へのスルーパス、または中央に寄せて上がってくるWBに展開する。

 清水非保持は前線から押し込めるようなプレスと越えられたらCBの追撃で対応。

 徳島保持はプレスを引き付けて2列目の裏。そこからドリブルでディフェンスラインにギャップを作り、上がってきた選手が狙っていく。

 両者の攻防はそんな構図になっていたと思う。

徳島非保持、清水保持の局面

 徳島の非保持は5-3-2。または自陣に構える時は柿谷が中盤の前に下がって5-3-1-1(5◇1)のような形。

 徳島の2トップに対して、清水は2CB+1枚(ボランチを脇に降ろすか、SBを残すか)。2トップ裏に1枚。3センターの脇にSH、もしくはSBが顔を出して、両サイドに1枚ずつ置く形。

 SHとSBはお互いの位置を見て中外を使い分け。神谷は低い位置まで降りてきてボールを引き受ける動きを頻繁に見せていた。

 ただしこの配置はそこまで厳密でなく、ボールを受けるため複数が中に寄ってきたり、ヘナトとホナウドが2トップ裏に並んだりと、各選手の判断の度合いが大きいようだ。

 徳島のファーストデェフェンスはCBにはそれほど強くいかない。前は軽い限定にとどめて、1列目を越えようかという位置でプレスが発動する。

 2トップ脇への侵入にFWが寄せ、SBへボールが出たらWBが早めに前に出てきて縦を塞ぐ。同時に中盤がボールサイドにスライドしてスペースを消す。WBが縦スライドした時は、DFラインがボールサイドにスライドして4バックを形成していた。

 徳島は清水が2列目を越えようと差し込むボールを奪い所にしているようだ。  

 清水は2トップ脇から前をうかがうが、3センター+柿谷で対応されるため、2列目を越えるのにかなり苦労している。

 パスコースを作れないため前線(FW、SH)がライン間で後ろ向きで受け手になろうとする。そしてビルドアップ隊も内側に寄ってくる。プレスの網にかかりやすいし、ボールが通っても裏を狙う選手が少ない。

 清水は相手陣内にボールを前進させるとボランチの1枚が前に上がってくるのも特徴の1つ。清水はボール周辺に人を集めて崩そうとするが、徳島も中央3枚(+柿谷)と後ろ5枚で対応できている。

 清水が前半作ったチャンスはサイドのプレスを神谷が外して切り込むなど、サイドを個人で剥がせた場合に限られている。

徳島ポジトラ、清水ネガトラ

 清水は徳島の2列目ラインを上手く越えられないため、トランジションもここで発生しやすい。

 徳島のIHや柿谷はキープの技術が高く清水のファーストプレスを受けても簡単に奪われないため、2列目の辺りでポジトラが発生すれば高い確率で相手陣内までボールを運べている。徳島は清水のボランチのプレスを外してその背後(2列目と3列目の間)のスペースをドリブルで運ぶ。同時にWBがサイドを上がっていく形を作っていた。

徳島ネガトラ、清水ポジトラ

 徳島のネガトラ発生時には基本3センター、3バックが中央にいる。そのため清水のポジトラ局面でダイレクトに中央を運ぶ場面は少ない。そこでサイドを経由するが徳島の撤退は速く、そのまま非保持でのブロック形成に移行。清水ネガトラ局面からは決定的なカウンターでのチャンスは生まれていない。

後半について

 清水はオセフン、北川、ヘナトから、サンタナ、乾、宮本の3枚交代。

 後半は保持時にボランチが降りずに後ろはCB2枚でスタート。宮本が相手2トップの背後、ホナウドが少し上がりめの配置をとっている。ボランチが降りなくなったため、2列目ブレイクに関わる人数が1枚増えた。

 徳島の方は後半、後ろからダイレクトに前に出す回数が増えた。リードしたため少しリスクを避けたのだろうか。

 後半の清水は相手守備ブロックにボールを差し込んだり、裏を取ってチャンスを作れるようになっていった。その中でも監督が強調していたポケットに侵入して作ったチャンスに注目する。

51:25

 直前の配置が下の図。これが後半保持の典型的な配置。ここから降りてきた神谷、ワイドの吉田、そしてサンタナとボールが渡る。

 この時、サンタナには森、吉田には西野が対応。サンタナはプレスを受けながらも身体で森を抑えながらターン。サンタナが前を向いたので西野はサンタナに対応しようと反応する。これで吉田のマークが一瞬外れ、裏を取りポケットまで侵入してクロスを上げた。

54:15

 右サイドに流れたディサロからハーフスペースの乾にパス。乾には左HV安部が対応したが、乾はターンで安部を外してゴール方向にドリブル。安部が動いたスペースにホナウドが侵入してポケットからクロスを上げた。

60:12

 左サイドの高い位置に入った乾からノールックワンタッチで吉田にパス。これで西野の対応が遅れて吉田がポケット侵入。

 

 以上、ポケットに侵入して作ったチャンスにはほぼ交代出場の乾、サンタナが関わっているのがわかる。67分の神谷の決定機も、右に流れたサンタナに安部が対応して背後に生まれたスペースに神谷が飛び出したものだ。

 前半との違いは、ボランチを1枚上げたことで中盤に関わる人数が増えたことが1つ。そしてブロック内で相手のプレスを受けることでスペースを作り、独力で相手を剥がして前を向きそのスペースにボールを送れる選手の存在と言えそうだ。

 

 

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第12節 ジュビロ磐田vs徳島ヴォルティス】

主に徳島の攻守の振る舞いに注目する。

メンバーとフォーメーション

 徳島の基本システムは3-5-2。非保持では5-3-2になる。徳島は前節から3バックシステムを採用。それまでは433や中盤ダイヤの442を採用していた。

 磐田の基本システムは442。もしくは山田がトップ下の4231。

保持局面

 徳島の保持は3バック+アンカー(白井)でビルドアップスタート。

 対する磐田の非保持は442。ファーストディフェンスは2トップの1枚がアンカーを抑えて、もう1枚がプレスに出てくる。左右のCBへはSHが出てくることが多かった。

 磐田のプレスに対して徳島は左右のCBから内側のIHとワイドのWBへのルートを作っている。しかし主なルートはワイドで空いているWBへ。徳島の起点の多くはWBとなっていた。

 徳島のWBに磐田はSBを当ててくる。しかし距離があるため徳島のWBは時間と空間を得られていた。この時間と空間を使いWBは前を向く。そこからWBが1対1を仕掛けることもあるが、起点になってスペースへボールを送ることの方が多かった。例えばSBの裏にIHやFWが流れてそこに出す。


 または内側に入ってくるIHや柿谷を使っていく。

 磐田のSBのプレスが速くWBが前を向けない時は、SB裏にFWを走らせる。または中央の森海渡に直接当てていた。磐田のSBが前に出てくると前線は1対1の関係になっている。

 狙いとしては、両ワイドのWBを起点とすることで相手の守備を広げる。そしてSBの裏やミドルゾーンに広がったスペースを使っていくことではないだろうか。

 徳島の中盤3枚には磐田がマンツー気味に噛み合っているため、中央からの崩しはあまりなかった。中盤の選手はキープやターンが上手く、プレスを交わして前を向けることもあるが、奪われてネガトラ移行されることも何度かあった。

 ただ徳島2点目は低い位置で動かし磐田を前に引き出して、降りてきた杉本が受けたところからスタート。そこから疑似カウンター気味に中央のスペースに走り込んだ玄、左のワイドに開いていった柿谷とボールが渡り、技巧的なカットインからゴール。中央スペースを中盤の選手が使って決めたゴールだった。

 この形も一つの狙いではあるだろうが、この試合では崩しの局面はサイドからハーフスペースの辺りから行うことが多かった。

 WB、IH、柿谷などが絡んで、ハーフスペースの裏を取ったり、カットインしてきたり。また左WBのルイズミケサダはクロスの質が高く、左ハーフスペースに寄せて、空いたサイドからケサダのクロスも何度も見せた崩しの形だ。

非保持局面

 磐田の保持は2CBとアンカー上原のような形でスタート。SBははじめはそこまで高く上がらずCBからのボールを受けられる位置。ボランチの遠藤はボールを引き出すように割と自由に移動している。

 対する徳島の非保持は5-3-2、もしくは柿谷が中盤をフォローするように下がって5-3-1-1。CBにはそこまで強く行かずにまず中央をふさぐ。ボールがSBに入ったら早い段階でWBが出ていきプレスをかけていた。

 これでサイドの前を塞ぐと、中盤3枚がボールサイドに強くスライドしてきて出しどころを消す。この時、柿谷は中盤のラインの前辺りまで引いて、空いたスペースを埋めるようなポジションを取っていた。

 

 ↓ プレッシングをかけていく時。

↓ セットした時

 WBが前に行けない時は、5-3-1-1のような並びでセットして、SBへはIHがスライドしていく。

 磐田はサイドから間に顔を出すボランチやSHに入れようとしていたが、徳島はその内側に入れたボールを奪い所に設定しているようだった。

 最終ラインの挙動を見ると、藤川や山田が引いて受けると追撃傾向はあるが、それで出来たスペースへのスライドはあまり行わない。CBはゴール前からあまり動かしたくないようで、動いてできたスペースは基本中盤がカバーする約束事のように見えた。

 そのため、左右に振られて中盤のスライドが間に合わないと、CBとWBの間が空き気味の時がある。リアルタイムで見ていて、特に後半DFラインのギャップを簡単に使われているなと感じたが、おそらくここが原因なのではないだろうか。中盤のスライドが間に合わない場合、CBが晒され気味なのは少し気になった。

ポジトラ局面

 徳島は下図の青丸のような奪い方を狙っていたように見えたが、その時に森海渡は中央の前に、柿谷は3センターの前にいるのですかさず前に出ていける。

 磐田が前進を狙う時にボールより前に人を送りこむ傾向もあったためか、同サイドで囲んで奪う、そして中央またはSB裏を使ってカウンターの形は再現性があるように見えた。

 徳島の3点目は、サイドバックにプレスをかけると同時に渡がセンターバックを、杉本が上原へのコースを消している。これで完全にパスコースがなくなり、松原はパスミス。それを柿谷が拾ってゴールを決めた。同サイドで窒息させるプレスと真ん中で浮いているFW。再三見せていた形からのゴールだった。

ネガトラ局面

 基本はWBを起点にしていたのと、後ろと中盤に3枚‐3枚をそろえているので、ネガトラで致命的な穴は感じられなかった。

 後半の入りで、後ろから簡単に縦に入れて奪われ、ひっくり返されるようにカウンターを食らった場面があった。

 全体的にフィジカルが強い選手が多くないようなので、奪われところをサイドにするか、すぐに囲めるよう陣形を整えながら押し上げるように前進を図った方がいいような気がする。

CK

2失点はいずれもCKからだった。

CK守備はニアゾーンに1枚(柿谷)、中央のゾーンに1枚(森)。後はマンツー。

1失点目は外山がマークを外している。2失点目は桜井が松本昌也を見ていたようだが、捕まえきれずほぼフリーでシュートを打たれた。詳しくはわからないがバイタル辺りにいる相手へのマークが少し甘いような気がする。

 

 

 

 

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第8節 清水エスパルスvs東京ヴェルディ】

 ようやく今シーズン初勝利を挙げることができました。そしてこの試合が秋葉監督の初陣となったわけですが、見えた特徴と試合の感想を前半中心にまとめてみます。

 まずは両チームのメンバーと基本フォーメーションです。

 清水エスパルスは4-4-2(もしくは4-4-1-1)。東京ヴェルディは攻撃の時は4-3-3、守備の時は4-4-2のような並びです。

清水の攻撃の形

 自由さと強度が強調される秋葉監督のサッカーですが、攻撃時に一定のパターンは見て取れました。

 まず清水はボールを持つと、おおむね下の図のような配置を取っています。

 サイドハーフは絞って1人はストライカーの位置。もう1人はトップ下の乾と共に相手ボランチ脇にポジション。この配置自体はゼリカルド監督がやっていたのとほぼ同じですね。
 ただしボールの動かし方は秋葉流で、あまり後ろで左右に振らずに前が見えたらズバっと縦に入れていきます。

 縦パスは近くに相手がいてもパスを当てていて、受けた選手はターンやドリブルなど個人技で剥がしたり、レイオフ(前向きの味方にパスを落とす)して前を向く。その時、同時に真ん中2~3人とワイドがスペースに向かって上がっていきます。

 狭い場所でのプレーを苦にしない乾が受け手の中心になっていて、プレスにくる相手を無理にでもテクニックで外して、前に飛び出す味方にボールを配球していました。

 また中に出しどころがなければ、躊躇なくサンタナやサイド深くに長いボールを出していきます。

 前に出したら後は自由に崩してくれみたいな感じですが、おそらくボールを持った時のおおまかな基準は整理していたように見えました。

開始直後の失点を検証する

 ズバッとボールを差し込むプレーは前への推進力に繋がりますが、反面リスキーなプレーでもありました。相手の守備をあまり動かさないため、差し込むパスをカットされてカウンターも浴びています。

 下は開始早々5分。コーナーキック前の阪野のシュートに繋がる場面。

 鈴木からボールを受けた中山がプレスを受けロスト。転がったボールを梶川が拾い、齋藤にパスを通します。

 試合を通して東京Vは清水のサイドバックの裏を再三狙っていて、この時も自然な動きで阪野はすうっと北爪の裏に移動。齋藤がターンした時点で阪野は完全にフリーで、パスを受けて少し中に持ち込みシュートです。このシュートは権田が弾きましたが、コーナーキックのこぼれ球から失点を喫しました。

 この直前にも、ホナウドからカルリーニョスへのパスを同じように奪われていて、縦に入れるパスは何回もリスキーな失い方をしています。ここの失点は偶然ではなく、この試合の構図を象徴するような失点だったと思います。

清水の1点目を振り返る

 次に清水の同点弾、47分のゴールを見てみましょう。

 

 まずカルリーニョスが中央から、ライン間の乾に縦パス。同時に中央の中山、サンタナ、そしてサイドの北爪が前向きにアクションを起こしています。ここは先に書いた通りの動き。

 乾は中山にスルーパスセンターバックの裏を取られたので東京Vは左サイトバックの深澤が絞ってすかさずカバー。しかしこれで右サイドバックの北爪が完全にフリー。北爪は走りこんでゴールにズドンです。

 右サイドの中山は基本、中に絞るので東京Vのサイドバックもそれに応じて内側よりのポジションになります。また東京Vはゴール前のスペースを消す意識が強いようで、センターバックが動くと誰かが必ずそのカバーに入ります。

 そうしたお互いの動きから、このゴールのような形は起こりやすくなっています。例えば17:40の北爪のクロスも動きの理屈としては同じだったと思います。

清水の守備の形

 清水の守備も見てみます。東京Vは林がアンカーに入る4-3-3で保持。清水は始めは2トップの背中でアンカーを消して、センタバックにボールが出たらフォワードがプレスにGo!。

 その時、アンカーへは白崎が出て、逆サイドのサイドハーフが中に絞ってくる。後は対面の選手を掴んでいく。そんな感じの守備でした。

 東京Vはカウンターの時と同じく、サイドの裏を阪野やインサイドハーフの選手が狙っていましたが、できれば後ろから繋いでいきたいよう。

 後ろから中盤にボールを付けようとしてますが、あまり相手を動かすような組織的な動きは見えません(この試合を見る限りはですよ)。

 基本はインサイドハーフのターンなどで相手を外していきたそう(上手いんですけど)でしたが、清水のプレスを食らって後ろからの保持は上手くいっていません。

 そこでサイドに流れる前線に長いボールを入れて、こぼれたところにプレスをかけるようなプレーが多く見られます。しかし清水のセンターバックボランチホナウドも対人は強いのでピンチになる場面は少なかったように思います。

ざっくり後半と雑感

 後半から東京Vはサイドの選手を交代。

 前半途中で梶川が負傷交代したところの修正か、サイドをてこ入れしようとしたのか、ちょっとわかりませんが。

 後半になると前半よりも清水の保持が安定して、それにともないショートカウンターを食らう機会も減ってきます。ここもなぜかはよくわかりません(笑)

 ちょっと清水は守備を変えたようで、アンカーを白崎でなく、乾が見ることが多くなったようでした。おそらくボランチが前に出た時にできる真ん中のスペースが気になったのだと思います。

 こんな感じで清水が押しても点が入らないまま時間が進み、清水は61分にカルリーニョス→北川の交代。そして67分、78分と5枚のカードをすべて使っていきます。これらは全て同ポジションの交代で、少なくともこの試合に限っては戦術的に複雑なことはしていません。

 シンプルに選手の特徴を生かして、決勝点もコーナーからオセフンの高さでゴールを奪います。

 とにかく強度と勢いのようなふりをしながら、強度をどう出すか最低限の基準は整理しているように見えました。

 リカルド前監督の配置をそのまま利用しているように、使えるところは使って選手がやりやすくなるような工夫も感じられました。

 ただこの日の東京Vがそれほどこちらを困らせるようなことをせず、お互い正面衝突のような形だったのも上手くいった要因かなとも思います。

 まずは勝利を喜びますが、この後もすべて強度で解決できるほど、くせ者の多いJ2は甘くありません。そういった対戦相手に新チームがどう応じるか楽しみに追っていきたいと思います。

マッチレポート【2023年明治安田生命J2リーグ第5節 ジュビロ磐田vs清水エスパルス】

両チームのメンバーと基本フォーメーション

清水のビルドアップと磐田の守備

清水がボールを持つと明確な配置を取り前進を狙っていた。

 白崎が降りて相手2トップに対して後ろ3枚。ディサロと西澤は相手のボランチの脇に絞り、大外に両サイドバックが上がる。

 ディサロはスペースを見ながら前に出たり、時折左のハーフスペースへも入っていた。その時はサイドハーフがディサロとポジションを入れ替え全体の配置は維持されている。
 後ろで持ったら磐田の2トップの脇から鈴木や白崎がボールを運ぶ。そして配置で作った複数のパスコースから前をうかがう。特に相手を引き付け、味方にボールを渡せる白崎のサイドからの前進を多く見せている。

 対して磐田は最前線からはプレスにいかない。清水が運んだら内側を消しボールサイドにスライドして前進コースを塞ぐ。これで清水はボールは持てどパスの出しどころがない状態。内側にフリーの選手がおらず、サイドバックへのコースも磐田のサイドハーフに消されている。

 そこで清水は後ろで左右に振りながら磐田の守備ブロックを揺さぶる。ずれて中のコースが見えたら縦パスを入れる。縦パスを入れたら素早く動かしてゴールに向かう。無理ならサイドに展開という形を狙っていたようだ。

 しかし磐田が構えてしっかりとスライドを行うため、後ろで持てる割にはクリーンに前進できない。内側に無理に入れたボールを磐田の守備にパスカットされてしまうことも多かった。

磐田の狙いと先制点

 磐田の振る舞いは明確だった。ある程度清水に持たせて、ボールを奪ったらシンプルに前線の選手が清水のCBの脇から裏を狙っている。磐田は清水のCBに正面から勝負することは少なく、特に清水の右CB(高橋)脇から裏を狙うことが多かった。

 開始直後に磐田が先制点を奪う。清水がゴール前に入れたボールを跳ね返すと、間延びした中盤のスペースでジャーメインが拾う。そして高橋の脇から裏を狙う後藤へボールが出る。後藤はそのまま高橋を振り切りゴールを決めた。

 このプレーのスタートは清水の自陣ビルドアップから。白崎が右CBのポジションから持ち運ぶため、ここでネガトラが発生するとどうしても右の後方(右CB高橋の右側)の守備が弱くなる。試合後の監督コメントを読むと磐田は意図的にそこを狙っていたようだ。

清水の同点弾について

 開始早々に磐田が先制。これで磐田が構え、清水が保持する構図が鮮明になっていった。

 懸命にスライドを行い内側を消す磐田に対して、前半の清水は中央への意識が強くなかなか崩しきれない。しかし41分に清水の同点ゴールが生まれる。

 右サイドから高橋を経由して、左に降りてきた受けたディサロにボールが渡る。左利きのディサロはオープンな態勢を作りながら左足でボールをコントロール。右SHジャーメインに対して外、中の二択を作るとジャーメインと針谷との間を割るように縦パスを入れる。配置通りにライン間にいた西澤が受けてターン。そしてワンタッチでサンタナにラストパス。これをサンタナが決めて清水が同点に追いついた。

 右から左に大きく振り磐田にスライドを強いる。ずれた隙を正確な技術でゴールまで繋いだ。清水はこのボール循環を前半何回か見せている。こちらもまさに意図した形のゴールと言えそうだ。

後半の両チームの修正

清水の修正

 清水が追いつき前半は終了。後半に入ると両者、前半の内容を受けて修正をかけたようだ。

 前半、中へ刺し込むパスに固執気味だった清水は、長いボールを裏に蹴ったり、サイドを縦に行く攻め筋も見せ始めた。

 また保持スタートで白崎がオートで降りなくなった。始めは相手2トップの裏にいて、相手のプレスを見ながら脇に降りてきている。始めから降りるとはめられてしまうため、降りるタイミングの指示が出たのではないだろうか。

磐田の修正

 磐田は後半の入り、明らかに高い位置からプレスをかけてきた。しかし清水も裏やサイドへとボールを散らし的を絞らせない。すると磐田は再び構えて守るようになっていく。

 またボール保持でも変化が見られる。その説明の前にまず清水のプレスを確認しよう。

 清水のプレスは磐田の4バックに、そのまま2トップとサイドハーフの4枚を当て、アンカーのような位置取りになる針谷には白崎が出ていく。前半は概ねこのプレスがはまって高い位置で詰まらせて回収、そして保持のサイクルを上手く回すことができていた。

 しかしこのプレスには課題も見える。プレス時に白崎が前に出ていくと真ん中にはホナウドが1枚。これで例えばホナウドが遠藤を捕まえにいくとディフェンスラインの前に人がいなくなる。前からのプレスがはまれば良いが、そこを外されるとホナウド周辺のスペースを使われあっさりと自陣深くまでボールを運ばれるのは気になった。

 後半、磐田はボール保持時の動きを少し変えている。

 まず遠藤が低めのサイドに開くようなポジション取りをしている。そして遠藤が下がった分、サイドハーフの1枚を中に絞らせて金子と共にホナウド周辺のスペースを使わせる。

 遠藤はフリーでボールを持つと、このホナウド周辺のスペースにボールを入れようとしている。後半の磐田は遠藤を後ろに回しプレス回避の場所、そして出し手に回して清水の守備の薄い場所を突く意図が感じられた。

 65分、磐田の勝ち越しゴールが決まる。ここも後ろでフリーになった遠藤が出し手となる。前半から再三狙っていたセンターバック脇をジャーメインが狙う。そこに遠藤からフィードが出る。ジャーメインは止められたが、クリア(権田は山原にパスしたが、意図が合わなず)を拾った鈴木雄斗がファーにクロスを入れ、ファーに詰めた松本がヘッドでゴールを決めた。

終盤の交代策と清水再びの同点ゴール

 清水は76分にディサロに代えオセフンを投入。相手を背負うプレーを厭わないオセフンは最前線でボールを受け磐田のセンターバックを押し下げる。清水はシンプルに前に出したり、サイドからクロスとオセフンをターゲットにボールを集めている。

 またこの時間帯は、後ろで繋ぐ必要がなくなり白崎は前に出てオセフンに当てたボールのフォローに入っていく。山原に代えて吉田を入れたのも、後ろから剥がすよりも高い位置に出てクロス、ネガトラが発生したら即座に帰陣して守備の動きを求めたからだろう。

 磐田は85分に遠藤→鹿沼含めて3人の交代。このまま逃げ切るための守備時の強度と運動量を補填する。

 しかしアディショナルタイムに入った87分、髙橋が後ろから直接前に放り込む。これをサンタナ、オセフンとヘッドで2度競り勝ち、こぼれたボールをサンタナが拾いゴールにねじ込んだ。

 磐田はプラン通りの得点から逃げ切り寸前だったが、最後はゴール前の質の差でごり押しされてしまった。清水は多くの時間で自らのゲームモデルを表現していたがまだまだ攻守に設計の甘さが見られる。配置で作ったルートをどう前進していくのか。非保持ではプレスをくぐられた後にどう食い止めるのか。この試合ではその足りない部分を2トップの質で無理やり帳尻を合わせた形となった。

マッチレポート【FIFAワールドカップカタール2022 グループE スペインvsコスタリカ】

はじめに

 皆さまこんにちは。hirotaです。普段は清水エスパルスのマッチレビューを書いています。
 さて今回のマッチレビューは、windtosh(@Windtosh)さん企画によるカタールワールドカップ・アーカイブ化計画の一環です。担当する試合は、グループリーグ・グループEのスペイン対コスタリカ
 以前、清水エスパルスの監督がスペイン人のロティーナ氏だった繋がりでスペイン五輪代表の記事を書かせてもらいました。それ以来、スペインでのサッカーの捉え方に興味を持ち、今回またスペインの試合を指名しました。(中でも他の参加者とかぶらなそうな試合を指名したのにまさかの4人かぶり。しかも歴戦の勇者の中で私が当たりを引いてびびってしまったのは内緒)
 では、前置きはこんなところで。試合のレビューに入りたいと思います。

両チームのメンバーとフォーメーション

(スペイン)

フォーメーション:1-4-3-3
フォーメーション:1-4-4-2(試合途中から1-5-2-3)

ざっくりした試合の構図

 スペインの保持は、基本1-4-3-3の陣形を維持。移動や持ち運びのドリブルで相手を引き付ける、また身体の向きを合わせてパスコースを作りボールを前進させていきます。
 コスタリカ非保持時の組織はミドルゾーンにセットした1-4-4-2。ファーストディフェンスは2トップが相手のアンカーを受け渡しながら1枚がセンターバックにプレスに出ていく形です。さらにコスタリカは左サイドハーフを積極的に前に出してプレスをかけていました。
 お互いの狙いとしては、ボールを保持して試合をコントロールしたいスペインと高めの位置からそれを阻害してカウンターを狙いたいコスタリカの構図だったと思います。

前半から31分まで

 高い位置から限定したいコスタリカ。しかしスペインのプレス回避は巧みでそれがはまりません。スペインは一度サイドバックを経由したり、センターバック同士のパス交換でコスタリカ2トップの受け渡しをずらして、アンカーのブスケツをフリーにします。
 ボールを受けたブスケツは、相手のプレスの逆を取るように守備の重心を動かして、左右、前方へとフリーのスペースへボールを展開していきました。
 スペインのミドルゾーンでは、ワントップのアセンシオがコスタリカボランチの間に降りてきて、中央に3(ペドリ、アセンシオ、ガビ)対2(テヘダ、ホルヘス)の数的優位。
 またインサイドハーフのペドリが2列目手前に降りてきていて、ブスケツとともにビルドアップの出口になっています。
 左のワイドには基本はウイングのダニオルモが張っていますが、ペドリが降りると、ジョルディアルバが上がって、ダニオルモが内側に入るようなローテーションも見せています。
 中央のアセンシオへの縦パスでコスタリカ守備を収縮させる、また左のローテーションも使って相手を動かし、ボールをワイドに張っているウイングに届けます。
 スペインの深さを取る役は主にウイング。ダニオルモやフェラントーレスは、常にワイドいっぱいの位置からDFラインの裏を狙っています。
 彼らは独力での無慈悲な突破はありませんが、キープ力に優れ、相手が付いても巧みにボールを運べます。そのためコスタリカサイドバックが引っ張られて、センターバックとの間が開いてしまいます。そのギャップにペドリやガビ、またアセンシオが流れて裏を狙うのはよく見られる動きでした。
 コスタリカはギャップをカバーするためボランチがDFラインまで下がってきます。そうなると中央が人数不足。さらにギャップから裏へのランでDFラインが押し下げられてサイドから中央への横パスのコースができてしまいます。そしてそのコースにアセンシオ、または逆サイドのウイングが入ってきてシュート。スペインの1、2点目はまさにこの仕組みから生また形です。
 1点目は、アセンシオがSB-CB間へラン。これにコスタリカの右ボランチボルヘスが付いていっています。そして左サイドのジョルディアルバからライン間を横切るようなパスが入って、最後は裏に抜けたダニオルモが浮き球のラストパスをゴールしました。
 2点目もフリーになったブスケツの美しいコントロールから右ワイドのジョルディアルバへ展開。ここでもダニオルモがSB-CB間を突き、相手ボランチをDFラインに引っ張ります。これで空いた中央のスペースにアセンシオが引いてくる。そこにジョルディアルバから横パスが通ってシュートです。
 プレスのかからないコスタリカは、前からのプレスを抑えてセットし始めます。しかしスペインは相手が前に来なければセンターバックが盛んに持ち運んで相手の中盤守備を動かします。
 前にいってもセットしても前進されてしまうコスタリカは、ややとまどいがあったか、守備があいまいになっていきます。
 31分には中央に侵入したジョルディアルバが倒されてPKの判定。これをフェラントーレスが決めてスペインが3点目を奪いました。

31分から前半終了まで

 コスタリカにとっての問題は、一つはアンカーのブスケツが空いて展開されてしまうこと。もう一つはウイングにサイドバックが引っ張られてできるギャップのカバーでボランチを下げられてしまうことだったと思います。
 そこでコスタリカは3点目取られた後に5-4-1にシステム変更。ウイングをウイングバックが見て、中は3枚で埋める形です。これでスペインがギャップを狙っても、左右のセンターバックが対応するので、ボランチがDFラインに下がる必要がなくなりました。
 またブスケツへはボランチが前に出てマーク。フォワードが背中で見るより、ボランチが前向きに捕まえる方が見やすくなります。これで守備基準がはっきりして、コスタリカがボールを回収して、攻めに転じる場面も作れるようになりました。
 コスタリカはサイドを起点にしたり、前線のキャンベルが動いて受けて、右ベネットが前に出ていく形を作りたいようでした。
 しかしスペインのプレス、帰陣しての4-5-1セットも素早いため、決定機までは作れません。それでも守備から流れを少しフラットに戻し、前半を折り返せたのは的確な修正だったと思います。

後半の流れ

 後半のコスタリカは、マルティネスに代えてワトソンの選手交代。5バックシステムはそのままですが、ワトソンを中央に置いてより前へプレスに出ていく姿勢を見せました。

 特に左インサイドハーフのペドリには、右センターバックのデュアルテがはっきりついていて、ペドリが下がると高い位置まで追いかけていきます。ここ以外でも守備基準をはっきりさせていて全体的にマンツーマン色を強めたように見えました。

 後ろにセットしてもスペインに対抗しきれないこと、また強力なカウンターを持たないコスタリカとしては、起点を前に置くプランは変えたくなかったのでしょう。
 少しやり方の変わったコスタリカに対して、スペインはペドリが引いてデュアルテを引っ張り出したり、ガビも2列目手前に下がったりといった動きを見せ始めます。
 またコスタリカがワントップになったことで、センターバックがワントップ脇から持ち運び、コスタリカの中盤に対応を迫っていきます。
 コスタリカの守備がマンツー気味になったことで、一枚ずらすとスペースができ、ディフェンスラインは追撃するので後ろで段差もできやすくなっています。
 スペインの後半の8分のゴールは、ラポルテの運びがスタート。コスタリカの中盤を動かして左サイドを前進します。その時、コスタリカのディフェンスラインは、中央のワトソンが降りたアセンシオに付いて前へ、そして右センターバックのカルボがその裏をカバー。ディフェンスの並びが完全に崩れています。
 そこから右のフェラントーレスにボールが渡り、裏を狙ったガビにパス。そして中に入ったフェラントーレスに再びが回り、ゴール前で粘ってシュートが決まります。
 後半28分のガビのゴールも、スタートはラポルテの持ち運び。ラポルテがコスタリカの右サイドハーフを引き付けたことで、左サイドバックがフリーでドリブル。左サイドを切り裂いて弾かれたボールを拾っての折り返し。そこにガビが入ってエクセレントなダイレクトシュートです。
 前に出ていくと動いたスペースを使われる。セットしたら持ち運ばれて選択を迫られる。コスタリカは徐々になすすべがなくなって再び防戦一方に。
 スペインは90分にソレール、92分にモラタのゴール。最後まで手を緩めず試合を締めて、スペインが7-0と勝利を収めました。

最後に雑感

 スペインの圧倒的な保持と大量得点による圧勝でした。しかしコスタリカも試合途中で何度も問題点の修正を図り、スペインに食い下がろうとしていた様は読み取れます。
 そうしたやり取りの中で、すかさず相手に対応して、コスタリカの修正を上回ったスペインの問題解決能力は見事でした。
 スペインの個々の技術やチームでのパスワークに目を奪われがちですが、スペインの凄さはそうしたチームでの問題解決能力だと感じます。
 さて、なんとか12月2日の日本対スペインの試合の前にこのレビューを書き上げることができました(現在、11月30日!)。
 日本代表がこのスペイン代表にどう立ち向かうか。そしてスペイン代表はその日本代表とどんなやり取りをするのか。お互い変わりゆく試合展開に対してどんな問題解決能力を見せてくれるのか。そんなところに注目して大一番の試合を楽しみたいと思います。
 
試合結果
スペイン 7-0 コスタリカ
【得点者】

11’ ダニ・オルモ(スペイン)

21’ マルコ・アセンシオ(スペイン)

31’ フェラン・トーレス(スペイン)
54’ フェラン・トーレス(スペイン)

74’ ガビ(スペイン)

90’ カルロス・ソレール(スペイン)

90+2’ アルバロ・モラタ(スペイン)

 
 
 
 
 

 

プレビュー【2022年明治安田生命J1リーグ第31節 清水エスパルスvsジュビロ磐田】  

 台風15号の影響により延期された静岡ダービーが10月22日に行われる。傷跡はまだ完全に癒えないが、まずは無事試合が開催されることを喜びたい。

 さて現在17位のエスパルスと18位のジュビロ。お互い厳しい順位での対戦となる。降格か残留か。この試合の結果が両チームの未来に大きな影響を与える。かつてないほど緊迫感漂うダービーと言えよう。

両チームのここまで 

(ホーム)清水エスパルス 

17位/勝点32/7勝11分13敗/得点40/失点48

直近試合の戦績(1勝1分3敗)

〇京都(1-0)、●広島(0-2)、△湘南(1-1)、●福岡(2-3)●川崎(2-3)

 

 ゼリカルド監督就任以降、上昇気流に乗ったかと思われたエスパルス。しかしここ4試合は勝ちがない。リードを奪っても追いつかれるなど詰めの甘さが目立つ。一時は中位も狙える位置にいたが現在は17位に順位を落としている。

 

(アウェイ)ジュビロ磐田

18位/勝点28/6勝15分け11敗/得点31/失点54

直近5試合の戦績(1勝3分1敗)

△柏(2-2)、●札幌(0-4)、△C大阪(2-2)、△鹿島(3-3)、〇横浜FM(1-0)

 ジュビロもシーズン残り9試合での監督交代に踏み切った。現在最下位ではあるが、直近5試合の勝点はエスパルスを上回る。札幌戦は大敗したが、横浜FMにはウノゼロで勝利。チーム状態は決して悪くない。

ジュビロ磐田についての予習

 直近5試合では複数得失点での引き分けが多い。この数字からは得点力はあるが守備が弱い大味なチームの印象を受ける。しかし実際は組織的に攻守を行うまとまったチームだ。

守備面の確認

 ジュビロの守備は高い位置からのプレスは抑えめ。5-4-1の守備組織でスライドとカバーを献身的に行う。

 中央を塞ぎ、サイドに誘導。誘導したらしっかりスライドとカバーを行いサイドで奪取を狙う。ハーフスペースに縦パスを差し込まれる場面はあるが、ボールサイドに人を寄せて相手に自由を与えない。

 横浜FM戦を見ても、割り切って守られたらボールは持てても崩し切るのは難しそうだ。

 反面、前にプレスに出ていくと守備組織がばらけてスペースを空けてしまったり、スライドがずれたところを突かれる場面も散見する。

 おそらくこれは守備で無理の利く選手が少ないことに起因しているのではないだろうか。 

 そこで個人がさらされないようにできるだけコンパクトなブロックを作り組織的な守備を行いたいはずだ。

 しかしラインが下がり過ぎると長い距離をカウンターで刺せる馬力のある選手が少ないため得点の可能性が低くなる。かといって前に行き過ぎるとスペースを空けてしまうジレンマだ。

 つまり攻守のバランスを解決するための選手層の薄さに悩みを抱えているように映った。金子が重宝されているのは守備の強度と前に出ていく力を評価されているのだろう。

攻撃面の確認

 後ろで繋ぐ意思は見せるが、無理には繋いでこない。後ろで持った時は少し動かし、右ウイングバックの鈴木雄斗やワントップの杉本に入れていく。

 杉本のポストプレーで時間を作り、シャドーの山田やボランチが絡みながらサイドに展開する。そしてワイドからクロスを上げて中で合わせるのが主なチャンス構築パターンだ。

 クロスに対しては、逆サイドのウイングバックやシャドー、また頻繁に後ろからセンターバックも1枚上げてくる。なのでクロス対応のみならずこぼれ球に対しても警戒が必要だ。

 また、ウイングバックは単独で突破するタイプではなく、内側の選手との連携でサイドの高い位置を取っていく。

 この関係を作るため最前線の杉本は上下左右広範囲に動いてボールを受けるのも特徴だ。杉本のポストとシャドーやボランチとのコンビネーションにしっかりプレスをかけて自由にさせないことが重要になるだろう。

予想スタメン

エスパルス

 川崎戦では前への推進力を重視したスタメン構成だったが、この試合は従来のスタメンで挑むと予想する。ただし権田のコンディションによってはキーパーが大久保に代わるかもしれない。

 ジュビロの守備はそこまで激しくはプレスにこないので、こちらはボール保持はできるはず。しっかりボールを握れるメンバーでジュビロの守備組織を動かして崩していきたい。

ジュビロ

 ジュビロのスタメン予想はあまり当てにしないで欲しい(笑)

 ミドルゾーンで構えてしっかりプレスにいくと考えると、横浜FM戦のメンバーは安定したバランスを見せているように見えた。

 チアゴサンタナ対策でセンターバックに対人の強い大井、また前半で途中交代した山田のコンディションに問題があればジャーメイン良など人選の変更は大いにあり得る。

 いずれにしても流れを見ながら早めに交代策を取ってくると思われる。得点を奪うには前線にパンチのある選手が必要で、エスパルス以上に90分でどう戦うかのプランが重要になるだろう。

最後に個人的な注目ポイントを

 まずボールを握るのはエスパルスだと思う。しかし後ろで保持しても前に中々付けられない流れはあり得る。

 持てるからと言って無理に間に縦パスを差し込むだけでは対応されてしまう。

 それでも焦らず、サイドチェンジを交えたり、ボールを縦横に動かしてスライドを何度も繰り返させてずれを作ることが必要だ。実際、ずれを作られ逆サイドや後方から飛び込まれる形はここ数試合でも何回か見られた。

 また前の馬力ではエスパルスが上だ。マッチアップ次第ではどんどんサンタナに入れて押し下げるのもありかもしれないし、サンタナカルリーニョスでのカウンターは最大の得点チャンスだろう。

 守備では、杉本へ入るボールをボランチセンターバックで挟み込む、相手中盤にプレッシャーをかけて杉本との連携を遮断できるかどうか。特に松岡の活躍に期待したい。

 またジュビロの右ウイングバック鈴木雄斗とエスパルスの山原のマッチアップも注目だ。高さでは完全にミスマッチ。ジュビロはロングボールのターゲットとして狙ってくる可能性が高い。鈴木雄斗は高さだけでなく、クロスの供給、中外とポジションを取っての繋ぎ、逆サイドからのクロスに対してゴール前に入るなどジュビロのキーマンの1人だ。ここを山原が抑え込めば優位に試合を進められるはずだ。

 直近ジュビロの試合を見れば後半、スコアが動く可能性が高い。ジュビロは選手交代でよくも悪くも組織のバランスが大きく変化するからだと思われる。いずれにしても試合は最後まで予断を許さないだろう。

 

 だらだら長くなったが以上で終わり。勝手な予想をしてきたが、こんなことを書きたくなったのもダービーが特別な試合だからだ。絶対負けたくないライバルとの特別な試合。この特別な試合を熱い気持ちを持ちながらも思い切り楽しみたいと思う。