はじめに
皆さまこんにちは。hirotaです。普段は清水エスパルスのマッチレビューを書いています。
以前、清水エスパルスの監督がスペイン人のロティーナ氏だった繋がりでスペイン五輪代表の記事を書かせてもらいました。それ以来、スペインでのサッカーの捉え方に興味を持ち、今回またスペインの試合を指名しました。(中でも他の参加者とかぶらなそうな試合を指名したのにまさかの4人かぶり。しかも歴戦の勇者の中で私が当たりを引いてびびってしまったのは内緒)
では、前置きはこんなところで。試合のレビューに入りたいと思います。
両チームのメンバーとフォーメーション
(スペイン)
フォーメーション:1-4-3-3
(コスタリカ)
フォーメーション:1-4-4-2(試合途中から1-5-2-3)
ざっくりした試合の構図
スペインの保持は、基本1-4-3-3の陣形を維持。移動や持ち運びのドリブルで相手を引き付ける、また身体の向きを合わせてパスコースを作りボールを前進させていきます。
コスタリカ非保持時の組織はミドルゾーンにセットした1-4-4-2。ファーストディフェンスは2トップが相手のアンカーを受け渡しながら1枚がセンターバックにプレスに出ていく形です。さらにコスタリカは左サイドハーフを積極的に前に出してプレスをかけていました。
前半から31分まで
高い位置から限定したいコスタリカ。しかしスペインのプレス回避は巧みでそれがはまりません。スペインは一度サイドバックを経由したり、センターバック同士のパス交換でコスタリカ2トップの受け渡しをずらして、アンカーのブスケツをフリーにします。
ボールを受けたブスケツは、相手のプレスの逆を取るように守備の重心を動かして、左右、前方へとフリーのスペースへボールを展開していきました。
左のワイドには基本はウイングのダニオルモが張っていますが、ペドリが降りると、ジョルディアルバが上がって、ダニオルモが内側に入るようなローテーションも見せています。
中央のアセンシオへの縦パスでコスタリカ守備を収縮させる、また左のローテーションも使って相手を動かし、ボールをワイドに張っているウイングに届けます。
スペインの深さを取る役は主にウイング。ダニオルモやフェラントーレスは、常にワイドいっぱいの位置からDFラインの裏を狙っています。
彼らは独力での無慈悲な突破はありませんが、キープ力に優れ、相手が付いても巧みにボールを運べます。そのためコスタリカのサイドバックが引っ張られて、センターバックとの間が開いてしまいます。そのギャップにペドリやガビ、またアセンシオが流れて裏を狙うのはよく見られる動きでした。
コスタリカはギャップをカバーするためボランチがDFラインまで下がってきます。そうなると中央が人数不足。さらにギャップから裏へのランでDFラインが押し下げられてサイドから中央への横パスのコースができてしまいます。そしてそのコースにアセンシオ、または逆サイドのウイングが入ってきてシュート。スペインの1、2点目はまさにこの仕組みから生また形です。
1点目は、アセンシオがSB-CB間へラン。これにコスタリカの右ボランチのボルヘスが付いていっています。そして左サイドのジョルディアルバからライン間を横切るようなパスが入って、最後は裏に抜けたダニオルモが浮き球のラストパスをゴールしました。
2点目もフリーになったブスケツの美しいコントロールから右ワイドのジョルディアルバへ展開。ここでもダニオルモがSB-CB間を突き、相手ボランチをDFラインに引っ張ります。これで空いた中央のスペースにアセンシオが引いてくる。そこにジョルディアルバから横パスが通ってシュートです。
前にいってもセットしても前進されてしまうコスタリカは、ややとまどいがあったか、守備があいまいになっていきます。
31分には中央に侵入したジョルディアルバが倒されてPKの判定。これをフェラントーレスが決めてスペインが3点目を奪いました。
31分から前半終了まで
コスタリカにとっての問題は、一つはアンカーのブスケツが空いて展開されてしまうこと。もう一つはウイングにサイドバックが引っ張られてできるギャップのカバーでボランチを下げられてしまうことだったと思います。
そこでコスタリカは3点目取られた後に5-4-1にシステム変更。ウイングをウイングバックが見て、中は3枚で埋める形です。これでスペインがギャップを狙っても、左右のセンターバックが対応するので、ボランチがDFラインに下がる必要がなくなりました。
またブスケツへはボランチが前に出てマーク。フォワードが背中で見るより、ボランチが前向きに捕まえる方が見やすくなります。これで守備基準がはっきりして、コスタリカがボールを回収して、攻めに転じる場面も作れるようになりました。
コスタリカはサイドを起点にしたり、前線のキャンベルが動いて受けて、右ベネットが前に出ていく形を作りたいようでした。
しかしスペインのプレス、帰陣しての4-5-1セットも素早いため、決定機までは作れません。それでも守備から流れを少しフラットに戻し、前半を折り返せたのは的確な修正だったと思います。
後半の流れ
後半のコスタリカは、マルティネスに代えてワトソンの選手交代。5バックシステムはそのままですが、ワトソンを中央に置いてより前へプレスに出ていく姿勢を見せました。
特に左インサイドハーフのペドリには、右センターバックのデュアルテがはっきりついていて、ペドリが下がると高い位置まで追いかけていきます。ここ以外でも守備基準をはっきりさせていて全体的にマンツーマン色を強めたように見えました。
後ろにセットしてもスペインに対抗しきれないこと、また強力なカウンターを持たないコスタリカとしては、起点を前に置くプランは変えたくなかったのでしょう。
少しやり方の変わったコスタリカに対して、スペインはペドリが引いてデュアルテを引っ張り出したり、ガビも2列目手前に下がったりといった動きを見せ始めます。
コスタリカの守備がマンツー気味になったことで、一枚ずらすとスペースができ、ディフェンスラインは追撃するので後ろで段差もできやすくなっています。
スペインの後半の8分のゴールは、ラポルテの運びがスタート。コスタリカの中盤を動かして左サイドを前進します。その時、コスタリカのディフェンスラインは、中央のワトソンが降りたアセンシオに付いて前へ、そして右センターバックのカルボがその裏をカバー。ディフェンスの並びが完全に崩れています。
後半28分のガビのゴールも、スタートはラポルテの持ち運び。ラポルテがコスタリカの右サイドハーフを引き付けたことで、左サイドバックがフリーでドリブル。左サイドを切り裂いて弾かれたボールを拾っての折り返し。そこにガビが入ってエクセレントなダイレクトシュートです。
前に出ていくと動いたスペースを使われる。セットしたら持ち運ばれて選択を迫られる。コスタリカは徐々になすすべがなくなって再び防戦一方に。
スペインは90分にソレール、92分にモラタのゴール。最後まで手を緩めず試合を締めて、スペインが7-0と勝利を収めました。
最後に雑感
スペインの圧倒的な保持と大量得点による圧勝でした。しかしコスタリカも試合途中で何度も問題点の修正を図り、スペインに食い下がろうとしていた様は読み取れます。
そうしたやり取りの中で、すかさず相手に対応して、コスタリカの修正を上回ったスペインの問題解決能力は見事でした。
スペインの個々の技術やチームでのパスワークに目を奪われがちですが、スペインの凄さはそうしたチームでの問題解決能力だと感じます。
さて、なんとか12月2日の日本対スペインの試合の前にこのレビューを書き上げることができました(現在、11月30日!)。
日本代表がこのスペイン代表にどう立ち向かうか。そしてスペイン代表はその日本代表とどんなやり取りをするのか。お互い変わりゆく試合展開に対してどんな問題解決能力を見せてくれるのか。そんなところに注目して大一番の試合を楽しみたいと思います。
試合結果
スペイン 7-0 コスタリカ
【得点者】