明治安田生命J1リーグ第4節 ヴィッセル神戸vs清水エスパルス

1. スターティングメンバーと配置

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 清水エスパルスは保持時、非保持時ともに1-4-4-2のシステム。エウシーニョ、チョンテセはベンチスタート。2トップの一角に2年目の若手滝を起用と機動力重視のメンバー構成だ。
 ヴィッセル神戸の保持時は1-4-2-1-3、または左のポドルスキーが中盤に降りる変則的な1-4-2-2-2のシステム。非保持時は1-4-2-3-1のような形。

2.  神戸の中盤を遮断する清水のハイプレス

 清水のFWは神戸のCBがボールを持つと高い位置からすかさず前に出てチェック。そして、そのままサイドに追いやるようなプレスのかけ方をしていた。それに連動するサイドハーフボランチの選手もマーカーをサイド側に押し込むようなプレスをしている。

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 プレスを外された時は無理に追いかけず後ろのスペースを優先して埋める。中盤の選手が前に出て後ろで受け手がフリーになる時はFWが下がってカバー。サイドの高い位置に網を張り、そこからボールを逃がさないという明確な意図がうかがわれる。

 ミドルゾーンに運ばれ時は、コンパクトな4-4-2のブロックを形成。イニエスタが列を下げてボールを受けた時もボランチの河井や竹内が内側を切ってサイドに押し出すように常に強いプレスをかけていた。
 正面を向かせないないようプレスかけていけばイニエスタも外向きにしかパスを出すことができない。神戸はサイドを中心に攻めることになるが、もしサイドを運ばれてクロスを上げられても、神戸の前線に対しては立田とソッコの方が競り合いでは有利だ。

 ポドルスキーは、サイドに押し込んでくる清水のプレスに対して右から左へのサイドチェンジを多く見せていた。空いている逆サイドをアイソレーションで使うこと、守備ブロックを横に伸ばして中央を使うのが狙いか。しかし、この攻撃にも右サイドバックの飯田がスピードを生かして上手く対応できていた。

 また、神戸は後ろで詰まるとサイドから中央に戻してやり直すが、プレスを受けている上に選手間の距離が広がっているためパスがズレることが多かった。清水がそこに狙いを定めてインターセプトからショートカウンターという場面も何度も見られた。

 清水はこのようにボールと相手選手を中央のレーンから追い出し、相手にサイドのゾーンでのプレーを強いていた。清水のプレスは、高い位置で奪うというだけでなく、相手の強みを発揮するエリアを実質消してしまうという戦略上の目的があったのではないかと思われる。

3. ポジショニングでボールを前進させる清水の攻撃。

 神戸の守備は1-4-4-1-1のような1-4-2-3-1のような。中盤の守備位置はポドルスキーと古橋がやや高め。スペシャルな能力を持つ前線が低い位置にいたら彼らのいる意味が無くなってしまうからだろう。その代わり前線にコースだけは切らせて、中央に奪取力のある山口を置いて回収役にしている。しかし実際は中盤センターの山口、三田に守備の負担がかかってしまっていたのは否めないだろう。

 その神戸の守備に対して清水は図のような配置を取っていた。

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 イニエスタの脇に河井、竹内。山口、三田のボランチの脇に金子と中村。そして飯田と松原を高い位置に上げる。
 神戸の守備組織の間に配置して位置的優位を取っているとも見ることができるし、中盤の2センターと2CBの周囲にそれぞれ4枚で数的優位を作っているとも見ることができる。清水の前線の選手は流動的にポジションが入れ変わるが、ポジションは変わっても全体の配置は変わらない。例えば河井が前に出てくれば、金子がサイドに張って飯田が低めの位置に留まっている。

 ここからバイタルエリア周辺で2トップと両サイドハーフの4枚でのコンビネーション。このコンビネーションパターンは昨年もよく見られた形。

 また飯田が神戸のサイドバック初瀬を引き付けてそのセンターバックとのギャップに金子が抜ける形。金子に三田が付いていくとセンターハーフが1枚消えるので中央にスペース。付いていかなければローポストからクロスという形だ。

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 清水はポゼッション率は相手に譲ったが、カウンターだけでなくポジショナルな攻撃からシュートに結びつけることができていた。

4. 後半の神戸は変化したのか。

 神戸は前半に比べるとサイドでの前進を狙っているように見えた。サイドに誘導されるなら、そのままサイドを崩す方法を考えましょうと言うことだろうか。

 48分の神戸の得点は、ビジャが左の大外、古橋がハーフスペース侵入がスタートの形。そこから初瀬、イニエスタが絡み左サイドからハーフスペースでぐるっとポジションを回して清水の守備を動かしている。最後はエンドラインまでイニエスタが切り崩して右から入ってきたポドルスキーのゴール。

 守備に関しては、先制後からはしっかりセットするようになったかなという気もするが、はっきりとはわからない。同じく先制後に古橋とポドルスキーを左右入れ換えていたのは、松原を牽制するためだろうか。右サイドに入った古橋はサイドライン沿いでのプレーすることが多かった。

5. 90分の試合をどう組み立てるか。

 神戸は80分に古橋に代えてサンペール。サンペールが入ると神戸は下の図のような配置を取りボールを循環させる。

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 複数の菱形を作り清水の選手を囲うような配置だ。サンペールが中央でプレスを回避してボールを循環させることで清水はプレスがかからずボールを奪えない。リードしている神戸はボールを保持して試合落ち着かせて、そのままをクローズさせようとする。しかし神戸のクリアミスもあり、エウシーニョのアシストからテセがゴール。1-1の同点で試合は終了した。

 試合開始から常にプレスをかけ続けて神戸に自由を与えないというのは清水のプランの柱の1つだったと言えるだろう。スタメンもこのプランをより遂行できる選手で構成したのだと推測される。
 そして得点の必要な場面では、両チームの体力ゲージが下がった時に、フレッシュな状態の大駒を投入する。エウシーニョとチョンテセだ。おそらく試合の状況に合わせて他のプランも用意していたのだろう。同点ゴールは神戸のクリアミスもあったがヤンヨンソン監督のプランによってもたらせらたと言ってもいいだろう。

6. 最後に

 神戸は、昨年対戦時よりかなり整理されてきている。しかし「神戸はこういう戦術ですよ」と一言で言い表すのは難しい。強いて言えば形ではなく彼らの考え方に基づいて状況に合わせたプレーをしようとしているというところか。

 清水は4-4-2で高い位置からにプレスとショートカウンターという昨年のサッカーをベースに戦っていた。さらにボールを保持した時のプレーは昨年よりも向上しており、後ろからゴール前までノッキングすることなくシュートに結び付けられていた。清水が今期最も良い内容を魅せることが出来たのは神戸のサッカーに対する相性の良さがあったのも理由の1つだろう。
 ここは僕の想像だが形は違えど清水も神戸と目指す考え方は近いものがあるのではないかと思う。形ではなく自分達の考えるサッカーに基づいて相手を見てどういう戦い方をするのか、ということだ。3バックといったシステムは形の1つだ。開幕からここまでの試合は繋がっている。この試合で自分達の考えるサッカーを確認できたはずだ。ここからさらにこれまでは相性の悪い、自分達のやり方だけでははまらない相手に対しても対応する姿を見せてくれることを期待したい。