2019明治安田生命J1リーグ第30節清水エスパルスvsジュビロ磐田

~はじめに~

 思いもよらぬ展開となった今期最後の静岡ダービーでした。開始早々の退場により試合が壊れてもおかしくない状況でしたが、一進一退の見どころ十分な試合となりました。

 不利に立たされたエスパルスはどのように勝つための道筋を探り、そして遂行していたのでしょうか。

 またフペロ新監督によって整備されたジュビロ磐田の攻守の狙いにも軽く触れておきます。

 それでは以下、この熱い戦いをマッチレビューの形で記録していきます。 

 


1.スターティングメンバーとシステム

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 清水エスパルスのシステムは4-4-2。怪我人続出の清水エスパルスだが、直近に行われた天皇杯で起用されたメンバーを中心にスタメンを組んできた。注目は怪我から復帰した右サイドバックエウシーニョ。右サイドからの独力でのチャンスメイク、そしてゴール前での得点力はエスパルスにとって非常に頼りになる存在だ。

 ジュビロ磐田のシステムは4-4-2。2トップの一角にこれまで途中出場が続いていてたアダイウトンを起用。CHは山本、上原のコンビ。そして左サイドバックには宮崎が起用されている。残留のためには何が何でも勝ち点3が欲しいジュビロ磐田。ボールを保持した局面で優位に立ちたい意図がうかがわれる。 


2.序盤に見えたお互いの狙い

  試合の序盤、お互いに持ち味を生かしてチャンスを作り出した。
 エスパルスドウグラスを中心としたカウンター。下の図は0:30の場面。

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 ドウグラスに当てることで相手のDFラインを押し下げライン間を広げてトップ下のドゥトラがパスを受ける。同時にSHが飛び出し裏を狙ったり、ライン間でコンビネーションで崩すパターンだ。

 一方、ジュビロが狙っていたのはエウシーニョの裏への斜めのランニングとそれによって開いたライン間。

 下は1:30の場面。

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 SHの藤川がサイドで受けることでエウシーニョを前に引っ張り、その裏にアダイウトンが中央から斜めに流れていく。そして藤川は開いたライン間やゴール前に入る。ジュビロはSB-CB間を狙った上で、SB裏とチャンネル突撃によって開いたライン間も狙う2択を突き付ける前進をベースに攻撃を仕掛けていた。

 

3.プレスをかけて相手の選択肢を削る(ジュビロの非保持時)

 ジュビロエスパルスが保持すると高い位置からプレスをかけてきた。これまでの試合を見てもファーストディフェンダーのプレスに連動して次々と周囲のパスコースを消し、相手の選択肢を削りボールを奪う守備を志向している。

 例えば、12:50のプレスからのカウンター。ルキアンが松原の縦を切るプレスをきっかけに戻しのパスのコースを消しながら周囲が二見、竹内にプレッシャーをかけていく。竹内から立田へのパスが少しアバウトになりトラップが乱れたところにルキアン、と藤川が襲い掛かりカウンターに転じた。

 自陣近くにボールを運ばれた時も同様。陣形を整えるより早めに相手の選択肢を消しボールを奪いにいく。その際、これまでの試合ではスペースの管理ができずただの噛みつき守備になっていたがこの試合では多少の修正が見られた。

 例えば2:50からの場面。左から中央ゴール前に入ってフリーでシュートを撃ちかけた西澤に左SHの藤川がアタック。このように逆サイドの選手がスペースをケアする動きが見られた。

 しかし戻りながらの守備ではスぺースを大きく開けてしまうことが良く見られる。エスパルスの作るチャンスはカウンターからの場面がほとんどだった。


4.ソッコ退場後のゲームプラン

(1)守備を落ち着かせるための4-4-1

 ソッコの退場後、まずトップ下のドゥトラに代えてCBの立田を入れて4-4-1のシステムに。

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 4バックはなるべく横に開かないよう締め、開いてしまうサイドライン際は金子が上下動してケアする。エウシーニョが開かなければアダイウトンのSB-CB間突撃を消すことができる。
 またこれで金子が相手SBを、立田がアダイウトンを見るというように守備の基準が明確になった。開いてしまう中盤のラインはCHがカバー。このCH周りを徹底して狙われたらきつかったかもしれないが、一人多くなってもジュビロは基本的には攻め手は変わらずサイドからずらしての裏狙いだった。それでも脅威なアダイウトンの動きだが守備の基準が明確になったこともあり立田がよく対応できていた。

 ジュビロにほとんどの時間を保持されながらもなんとか守っていたエスパルスだが39分にクロスのこぼれ球を藤川に決められてしまう。

 前半の内に追いつきたいエスパルスは40分辺りから前にプレスをかけてショートカウンターを狙っていくが得点は入らず0-1で前半が終了した。

(2)4-3-1-1で前に圧力をかける。

 エスパルスは後半の頭からシステムを4-3-1-1に変更。
 前半のエスパルスの問題点のひとつがボールを奪った後にドウグラスに当ててもトップ下がいないため落としたボールを拾う選手がいなかったことだ。SHが懸命に前に出ていくが距離があるためどうしてもドウグラスが孤立してしまう。4-3-1-1にして西澤をトップ下の位置に置けばこの問題は解消する。

 またジュビロは保持時にCHを1枚落として3バック、1アンカーの形になる。奪って河井、金子のIHが前に出ればそのまま相手のアンカー脇を突くことができる。
 そして非保持時には下の図のようなかみ合わせになる。

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 IHが前に行くことでジュビロの3バックに圧力をかけて守備のゾーンを押し上げる。中盤が3枚になってスペースができるというデメリットには、まず最初のポジショニングで真ん中を塞ぐ。ジュビロにU字型のビルドアップをさせ、ハーフスペースとサイドはIHの根性のスライドでケアしようという狙いだったと思われる。

 前半に比べて高い位置で相手の前進を食い止めカウンターに転じる機会が増えたエスパルス。そしてついに50分、二見のロングスローから同点に追いつく。 

(3)ジュビロの勝ち越し弾について。想像による考察。

 エスパルスの4-3-1-1を攻めあぐねていたジュビロだが徐々に攻略の兆しを見せてきた。3センターの脇から脇へボールを動かしてIHのスライドが追いつかない状態を作って間のスペースを使っていく。

 ジュビロは69分に藤川に代えて大久保。ライン間にボールが入るようになったのでそこで受けてゴールを狙える選手を入れる。

 エスパルスは78分河井に代えて川本。負担の大きかったSHを代えて運動量を上げるともに同点ではなく逆転を狙うという意図が感じられる。

 ジュビロは82分には小川に代えて荒木。右SHに荒木が入ってドリブルで突破することでエスパルスのIHがサイドに引っ張られてより3センターの間にスペースができるようになっていった。

 中盤の脇を使われ3センターのスライドが追いつかない上に、 中とサイドに個で打開できる選手が入りスペースをカバーできなくなったエスパルス。85分に西澤に代えて水谷を入れてシステムを441に戻す。しかしその1分後にアダイウトンの勝ち越しゴールが決まる。

 結果的には4-4-1に戻してすぐ失点してしまったことになる。しかし中盤を3人でカバーできなくなりブロックの間にパスを通されていたのでシステムを441にして中盤を4人にする判断は全くもって理にかなっている。篠田監督はシステムではなく、局面の対応に問題があったと考えているようだ。ではこの時、監督の頭の中ではどう守ろうと考えていたのかを想像する。

これまでの流れから考えられるのは以下。

ルキアンはポイントゲッターというより最前線のハブ役。

アダイウトンがスペースに抜けてシュートが一番恐い形。

ジュビロはSB-CB間を開かせてそのスペースを突くことを狙っているのでエスパルスは4バックを閉じてそれを防いでいる。

エスパルスは守備の基準を明確にしている。ポイントゲッターのアダイウトンは立田がマーク。

 

これらを頭に入れて失点場面を考える。

 まず中盤に引いたアダイウトンからライン間ハーフスペースのルキアンに縦パスが入りそこに立田がアタックに行く。

 上の考えに沿うと立田はルキアンに一発でアタックにべきでないと言った監督の考えが理解できるような気がする。何故なら理由は3つ。

・立田がルキアンに行くことでDFラインに穴が空いてしまう。

・得点の脅威で言えばルキアンでなくアダイウトン。ハブ役のルキアンは自らターンしてシュートよりアダイウトンに落とすことが予想される。

・ライン間からミドルシュートよりDFラインにできたスペースを抜けられてシュートを撃たれる方が危険度が高い。

 監督としては最後はアダイウトンがDFラインのスペースに入ってシュートを撃つのでそれを警戒していた、そして立田にはそれを防いでほしかったのではないかと推測する。

 ただこれは頭を振り絞って監督の意図に沿って考えた答え。立田のプレーも決して間違いではなかったはずだ。

 

5.最後に

 一人少ない状況で監督の判断は的確だった。そして選手の戦術理解と献身的な実行は素晴らしかった。試合後は彼らはここまでできるのかと正直言って感動すら覚えた。

 ダービーは結果が全て。それに異論はない。どんなに頑張っても勝ち点は0。そして公式に残される結果は得点、失点、敗戦という記録だ。

 では負けた試合に何の意味もないのかと言えばそれは違うと思う。このチームはできることはそれほど多くないができることを信じて実行しきる力があるんだというのを再確認した。残りのリーグ戦でこの試合で見せてくれたことを生かしてくれると信じている。

 そし応援する僕らにとって意味があるかないかは自分次第。この試合で選手や監督が勝つために力を尽くしていた姿を各々が心に刻めば、それこそが大切な意味となるはずだ。

 しかしダービーに負けて悔しい想いは変わらない。それを晴らすには近いうちにジュビロに対してリベンジする。それしかない。それが静岡ダービーだ。