2020年明治安田生命J1リーグ第29節 横浜FCvs清水エスパルス レビュー【見えてきた形と相手の変化にどう対応するかの課題】

 大敗の札幌戦から中3日の日程。コンディション、メンタル面の影響も心配されたがスコアは3-1。完勝と言っていい結果となった。

 両チームのスタメンは下の図の通り。

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 清水のシステムはこれまで同様の1-4-4-2。しかしスタメンは連戦を考慮してか大幅に変更されている。

 横浜FCのシステムは保持時には図のような1-4-3-3。非保持時にはIHの武田がCHの位置に下がり、斉藤が前に出る1-4-4-2になっていた。

 

 開始早々、清水が立て続けのゴールで2点のリードを奪う。これらの得点には清水の狙いが上手く表れていたように思える。

  清水が後ろで保持した時はGKがCBの間に入る、またはCHが1枚下がって後ろを3枚にして横に広がる。そして横浜FCの2トップ脇にCHが1枚。またSBはあまり受けに下がらず横浜FCのSHをピン止めするようなポジションを取っている。

 FWの後藤とSHの金子、鈴木は前目で相手の間にポジション取り(DAZNの中継の音声では"間で駆け引きしろ"という平岡監督の声を拾っていた)。

 横浜FCは清水のビルドアップを前から制限したいようだったがこれが上手くはまらない。清水が上の配置を取るため横浜FCのFW2人で清水の3枚を見る形になっている。さらに2トップに中盤が連動できずプレスが外されやすい状態になっていた。

  2トップは前に出るが中盤の選手は近くの相手を気にするので横浜FCの守備は間延びする。先制点は横浜FCのプレスを外して出したGK大久保のパスを2トップ裏で竹内が受ける。そこから中央レーンの間に降りた後藤にパスが通る。後藤から左サイドの鈴木に渡り、鈴木の突破からのクロスを逆サイドから入ってきた金子がゴール前で合わせた。

 後ろでプレスを外したら間にできたスペースを使いスピーディにゴールに向かう形。少し擬似カウンターっぽさも感じる。これが平岡監督の攻撃の特徴だろうと思われる。

 

 2点目はその直後の6分。高い位置で奪ったボールをドゥトラが決めて2点目。この得点からは守備の狙いがうかがわれる。

 横浜FCの保持時は安永レオをアンカーにした1-4-3-3。清水の2トップはこのアンカーを消すようなそぶりを見せている。得点もアンカーへのプレスから奪取。ショートカウンターだ。

 アンカーを消された横浜FCは中盤の起点を作れずビルドアップが詰まり気味。そこに横浜FCの4バックに対して清水の2トップ+SHの同数をかみ合わせプレス。この形でボールを奪えていた。

 ここまで平岡監督になってからの試合を見ると守備ではおおむねSHを絞り気味の高めに配置している。そして中を消しながら前にプレスに出ていく傾向がある。また横浜FCはこれまでと違う形にチャレンジしていたらしい。なので横浜FCへの対策が上手くいっていた可能性もあるが、チャレンジがまだぎこちない横浜FCに対して清水の元々のやり方が上手くはまった可能性も考えられる。まあ上手くいったのでどちらでもいいのだけど。

 飲水タイム後、横浜FCはビルドアップを修正。IHの武田が清水の2トップ脇に降りてきてビルドアップの出口になる。武田がワンクッションになることでアンカーの安永もフリーになってボールを受ける機会を作れるようになってきた。そこからワイドに振って清水のDFラインを横に伸ばしてハーフスペースを広げてその裏を狙っていく。

 横浜FCがビルドアップの修正を行った後の清水はなかなかプレスではめ込むことができなくなっていった。

 しかし一方横浜FCの守備も前からいくとプレスがはまらないのはあまり変わっていなかった。

 38分。清水が後ろでボール回すとそれに対して前に出てプレスをかける横浜FCの守備。それを立田が外してボールを前に運ぶと、後は横浜FCが前に出てきたことで生まれているスペースを流れるように使っていき最後は竹内がシュートを決めた。やはり擬似カウンターっぽい。そしてとても美しいゴールだった。

 相手が流れを掴みかけた時間帯で追加点を奪い、前半はそのまま3-0と清水がリードして折り返すことになった。

  

 後半の開始から横浜FCは3枚替え。それと共にポジションも少し動かす。並びは下の図。 

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 ボールを保持した時は安永がCBの間に降りて瀬古がアンカーの1-3-1-4(SH+SB)-2のような形になる(図の矢印の動き)。

 清水は選手交代はなかったが鈴木と後藤のポジションを入れ替えたようだ。

 3-1-4-2の配置は4-4-2で守る清水に対してちょうど間にポジションを取っている状態になる。守備の基準をはっきりさせて球際激しくいく傾向の清水は基準がずれプレスがはまらなくなっていく。

 特に左右のCBとWB化したSBによってこちらのSHの守備があいまいになるのは4-4-2vs3バックではあるあるの現象だ。横浜FCがSBの選手を代えたのは、保持時に3バック化した時によりWBぽい仕事を求めたからだと推測する。

 55分。横浜FCの得点。3バックで清水のファーストディフェンスをかわしてワイドのマギーニョを経由してハーフスペースを裏に抜けた中山へ。ここまでの動きは配置のずれ通りにボールを動かされてブロックがべた下がりしてしまっている。大外から内側へと上がってきたマギーニョが受けて折り返したボールのこぼれを瀬古がゴールへと蹴り込み横浜FCが1点を返した。

 その後もプレスがはまらない清水。66分に後藤とドゥトラに代えて西澤と西村がイン。西澤がSH、西村は2トップの一角に入った。

 西村をFWに入れたのはわかりやすく前線からのプレスを強化するのが目的の1つだろう。全体的に噛み合わせのずれを守備の運動量でカバーするようにプレスが激しめになっている。

 さらにもう1つの目的として保持時にも求める役割があったのではないかと思う。今の清水の攻撃は上記したように後ろで相手を外した後はスピーディーにスペースを使ってゴールに向かう傾向がある。そのため前目の選手は間で受ける能力とある程度個人で運んでいける能力を持つ選手が求められそうだ。

 おそらく西村は平岡監督の中では後藤に近い役割をこなしながら加えてボールを運べる選手として認識されているような気がする。

 それは私のただの想像として、試合の方は清水のプレス強度がやや高まったもののやはり横浜FCやや優勢で進んでいく。それでもその後はゴールを許さずにそのまま3-1で試合を終了させた。

 少しやり方を変えた横浜FCのプレーが不安定だった時間帯にゴールを決めきり、途中からはやや劣勢になりながらも1失点で乗り切り勝利を収めてくれた。

 これで平岡監督就任してから4試合。当然シーズン途中の引継ぎなのでできていないことは多々あるだろう。しかしぼんやりとは新監督の志向するサッカーの傾向が見えてきたような気がする。

 今シーズン残り試合も少なくなってきたが、まだ様々なタイプのチームとの対戦が残っている。自分の興味としては相手がブロックを固めてきた時にどう攻略の糸口を見つけるのか、また相手がワイドを上手く使ってこちらの442をずらしにきた時どう対応するのかあたりに注目して見ていきたい。