2020年明治安田生命J1リーグ第34節 ガンバ大阪vs清水エスパルス レビュー【未来に繋げる勝利に】

 

1.はじめに

 一時は全日程の開催も危ぶまれた今年のリーグ戦もついにラスト。大変だった1年もここまできたかと感慨深いものがあります。

 さて最終戦の相手はガンバ大阪。33節消化時点で2位につける強敵です。

 かたや前節最下位に転落してしまった清水。しかし他チームの結果次第ではまだ順位を上げる可能性が残されています。今シーズンは降格無しとはいえ一つでも順位を上げて終えたいのは当然のところです。

 そんな気持ちがあらわれたように試合開始から激しいプレスとスピーディーな攻撃で互角の戦いを繰り広げる清水。

 前半をスコアレスで折り返すと後半セットプレーの流れから先制。そして追加点を奪いそのままG大阪の反撃を抑えて2-0でタイムアップ。2020年のラストゲームは平岡体制初のクリーンシートで見事勝利。苦しかったシーズンでしたが最後を有終の美で飾ることができました。

2.スターティングメンバーと配置

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・清水のシステムは1-4-4-2

 エウシーニョ以外の外国人枠選手がベンチ外。先日引退表明した吉本がセンターバック、ルーキーの川本が2トップの一角に入りました。そして清水の誇る天才河井陽介ボランチのポジションで起用されています。

G大阪のシステムは1-4-4-2

 清水と同システムでマッチアップする形。前節のスタメンから変更したのは塚本、福田、キムヨングォンの3人。ベンチ含めてホームで対戦した時と比べ全体的に若いメンバーになっているのが印象的です。

3.相手に持たせてのカウンター

 前回対戦では清水がボールを持って攻め込むも決めきれず、逆にG大阪の決定力に沈み1-2の敗戦。

 しかし今回はG大阪がボールを持って清水が守る前回とは逆の試合展開となりました。

 G大阪はパトリックへのロングボールをあまり使わず後ろから繋いできましたが、そこがこの試合のポイントの一つだったと思われます。

 対して清水は守備から入ってカウンターに勝機を見出すプランだったよう。

 その清水の守備を見ると中央を消しながら高い位置からプレス。これがこの日のG大阪にはかなり効果を発揮していました。というのもG大阪の強みは両ゴール前。相手ゴール前では脈絡がなくてもゴールを決めてしまうしセットして守れば攻められているように見えても守り切ってしまう強度があります。

 なので守る時はなるべく自分達のゴールから遠ざける、点を獲るためにはなるべくG大阪にセットさせないことは対策として考えられる手段です。

 清水のやり方を具体的に見ていきましょう。G大阪は中盤でボールを受けるボランチが攻撃の起点。清水の守備はまずここを抑えることを意識していたようです。

 G大阪がボールを持つと、後藤がG大阪ボランチを抑えた上で川本を馬車馬のように走らせてセンターバックのプレーを制限。これでセンターバックからボランチへの中央ルートを遮断しつつ、センターバックから逆サイドへの展開を防ぎます。

 G大阪ボランチは中央でボールを受けることができないと、少し脇にずれてボールを受けようとします。清水はそこにも中のコースを消しながらプレスをかけサイドに誘導。結果、G大阪の前進は下図の赤矢印のようなボランチサイドバックサイドハーフのコースに限定されていくことになります。

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 おそらく相手をサイドの狭いエリアに誘導してサイドハーフに入ったところを囲い込むのが清水の守備の狙い。

 奪った後は切り替えの意識を強く素早いカウンターです。ボールを奪うと川本か後藤がセンターバック脇のスペースに流れ、逆サイドのサイドハーフがゴール前に入ってくる形を見せます。

 試合のスタッツを見れば支配率、シュート数、ゴール前への侵入回数などG大阪が上回っていますが、内容はそこまでG大阪が支配したわけではなかったと思います。

 理由はまずそもそもプランとして清水は相手にある程度持たせることを意識していたこと。そしてG大阪の攻撃は清水の守備に限定されやや強引で清水は対応可能のものが多かったように感じます。

 枠内シュートは清水が上回っているのを見ても相手にとって危険なプレーでは清水も引けを取っていなかったと思います。

4.動いてスペースを作っての速い攻撃

 次に清水が保持した場面も見ていきましょう。システムが同じなのでマッチアップする相手はお互いはっきりしています。そこを上手く剥がせるかが保持した時のポイントとなっていたような気がします。

 まず後ろでボールを持った時は清水の方がボールを左右に動かせていたように見えます。また2トップが引いたりサイドのスペースへ流れて、2トップが空けた中央のスペースにサイドハーフが入ってくるポジションの移動でマッチアップをずらします。

 ボールを左右に動かし相手の守備を広げることと、ポジションの移動でマークをぼやかすこと。これでスペースができたら素早く使って前にボールを運ぶ。基本はこんな攻め手である程度ボールを相手陣内まで運べていたと思います。また中央でボランチの河井がクッションになれたのもサイドハーフの負担を減らす意味で大きい効果があったと思われます。

 ただG大阪は撤退してからの守備が強く中々最後を崩せません。それでもサイドの奥までボールを運べたことはショートカウンターのリスクを減らす効果はありました。準備されていない状態でカウンターを受ける機会はそれほどなく、最後は立田と吉本が対応できる状態を作れていたと思います。

5.後半強度を維持して逃げ切る

 激しいプレスと動いてスペースを作っての速い攻め。フィジカルの消耗が激しそうな試合展開。加えてG大阪の個の強さを考えても各ポジションの強度の低下は命とりとなりそうです。

 後半の入って49分、コーナーキックの流れから川本が決めて先制すると61分に河井に代えて六平。その後64分に金子のゴールを決めると71分に吉本に代えて西村(吉本は急遽の出場にも関わらず本当に素晴らしいプレーを見せてくれました。感動)。リードを奪うと選手交代で強度の低下を防ぎ逃げ切りを図っていきます。

 G大阪も矢島、渡邉千真の交代から5人の交代枠をフルに使って反撃を試みますが、清水は強度と集中力を保ちゴールを割らせません。そして清水がそのまま逃げ切り2-0で試合は終了しました。

6.最後に

 後ろから組み立てて前進する意思の強かったG大阪。それに清水の得意な中央を消しながらのプレスが上手くはまった試合でした。

 しかしただプランがはまっただけではG大阪に勝利することはできなかったでしょう。急遽出場が決まった吉本、川本を筆頭に他の選手も皆、局面での勝負に負けず自分達のプランをチーム一丸となってやり切ってくれました。

 これは平岡監督就任以来変わらない見解ですが、やっていることはシンプル。しかしそれを上手く相手に嚙み合わせ、さらに選手にやり切らせること。そこが平岡監督の強みだと思います。

 コロナ禍の影響で全てのチームが苦しんだ今年のリーグ戦。その中で新しいスタイルの構築を目指した清水エスパルスにとってはさらに苦しいシーズンとなりました。

 だからこそ最終戦、まさに今持てるものを全て発揮して勝利してくれたことを大変嬉しく思います。

   この1年に意味はあったのか。この勝利がエスパルスの未来に繋がるのか。それを決めるのはこれから次第。私はそれは必ずなされるはずだと信じています。