点が取れない元紀について

 元紀はほとんどの試合で右SHで起用されている。SHは表記上MFだが本来FWの元紀は433の右ウイングつまりFWであるという見方が一般的だろう。FWにもかかわらずここ数試合ゴールを奪えずにいる元紀に対して不調を嘆く声も多く聞かれる。
しかし僕はゴールという結果だけで彼の好不調を判断するのには疑問がある。それは元紀の果たしている役割が必ずしもスターティングポジション通りWGもしくはFW的な役割だけではないと考えるからである。

実際試合を見ていると元紀が自らボールを持って右サイドの高い位置を攻略する場面、いわゆるウイング的なプレーを見せることはあまり無い。
ではどうやってサイドの高い位置を攻略するのか。よく見られる方法が元紀が高い位置から引いて空けたスペースを中央の六平が利用するという方法だ。大榎監督のサッカーで多用するのがポジションチェンジと近距離でのパス回しによる同サイド攻撃。さらにここにサイドバックも絡む。言い換えると右サイドの高いポジションはSH(元紀)のための場所でなく、元紀と六平など複数の選手が均等に利用している場所なのだ。そこはポジションレスなのである。スターティングポジションは元紀が右前なので相手をずらすには元紀が引いて他の選手が前に出るのが有効だ。そのため中盤やサイドバックが高い位置に、前目の元紀が中盤でフォローという形になることが多い。六平は前のスペースに飛び出す動きや、動きながらボールを扱う技術が高い。元紀が引いて六平がサイドに出る形は2人の特徴を考えると噛み合う形なのだ。六平が高い位置まで積極的にドリブルやスペースへの走り込みで打開する場面が目立つのはそのためだ。元紀の仕事はいわば相手を引き付ける仮のウイングと言うことも出来るのではないか。
 今のチームは単純にサイドをえぐってクロスというより、サイドを起点にパスを繋ぎながらボールを運ぶ事が多い。そのため元紀がシュートをするためには一度サイドでチャンスメイクしてからゴール前に入ることなる。元紀が必ずその役割をしなければならない訳ではないが彼の色んな事が出来る能力によってそうなってしまうと言った方が的確かもしれない。
またゴール前でも元紀がフォローに回る場面が見られる。大榎監督になってから前監督の時に比べてゴール前に人数をかけるようになっている。サイドは張っていろでなく中央に入り、また中盤の選手もゴール前まで上がってくる。まずノヴァがターゲットになり、続いて後ろから上がった中盤の選手がフリーになりやすいためそちらにラストパスが入る場面が多くなる。元紀にもシュートチャンスが無い訳ではないがまずストライカーとしての元紀のために周りが動いてくれるのに比べれば回ってきた少ないチャンスで確実に点を獲らなければならずそれは容易ではないと想像できる。
決してチーム戦術として元紀がフォローし他の選手が前に出ろという決まりになっている訳ではないのだと思う。元紀が前にガンガン出るのもありだろう。
今のチームはマイナス面を抑えるため約束事で縛るよりも多少リスクを負っても各選手のプラス面を出させるようなチーム作りをしているように見える。そのため今まで迷いがあった選手が吹っ切れ輝き始めている。それは大変良い事だ。一方それは言い換えるとわがままなプレーも容認されているとも言えるだろう。わがままと言うと言いすぎだが、各々がのびのび得意なプレーをするにはそれをフォローする選手が必要だろう。チームでは経験値が高く、また視野が広くピッチ内を見ることが出来る元紀にはチームの穴が攻守に見えてしまうはず。守備でも即座に後ろのスペースを埋めに戻るのは元紀と河井くらいだ。従ってそれを埋めたり周りを繋いだりする仕事をするのが自然と元紀になってしまうのだと思う。
 ゴールやアシストは少なくとも彼がいなければチームは上手く回らないだろう。調子が上がらないと他の選手に変えろというのはナンセンス。他の選手が調子が良いのは元紀がいるからと言っても過言ではないと思う。
元紀は色々背負わずもっとゴールに集中しろという声も聞こえるが僕はそれより周りの選手がもっと元紀がゴールに集中出来るようなプレーをしなければならないと思う。
そうすればもっと元紀がゴールを奪うチャンスが増え、それと共に周りの選手も成長するだろう。それが大榎監督の目指すサッカーを高いレベルで表現する事、エスパルスを強いチームにする事に繋がるのではないかと思う。